不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計 作:何処にでもある
みんなを助けられた報酬と後始末。
『びば!生きた身体!』『今なら…空も飛べそう!』『おお、おお…!』
「お父様、お母様…そっか、ずっと側にいて…!」「そうか、俺は確かに師匠が…」「確かに、覚えがあります…」
「…どうしてこうなったんだろうね?」
『サーシャ、それ本気で言ってるなら笑えないよ』
今のサーシャと俺の前には、大勢の人だかりが出来ていた。
それもただの人だかりじゃない。その半分は宙に浮かんでいて、元気に飛び回っていた。
もう半分は困惑したり、泣いてたり、情緒が完全に破壊されていた。
勿論サーシャが作ったMRCが量産された影響なのだが…良くわかってないサーシャの為にも、ここは一旦過程を振り返ってみよう。こうなったのには……
「浮いてる…」「何あの子…」「多分サーシャの…なんだろ?」
「俺に聞くなよ…」「怖がってるのかわいい…」「椅子に座れないのかな」
『うぅ…』
翌日、教室でぷかぷかと浮いている奴がいた。
俺である。なんだアレって視線が痛いな。
地に足が付かない分、身を縮こまらせて体育座りになっても目立ってしまう。
半透明でもしっかり実態はあるみたいで、触れはするのだが気を抜くと上に浮かぶのだ。
『…ねぇサーシャ、本当に普段はこっちじゃ無いとダメ?』
「ダメ。魔力の生産は自動的だから」
『別に今は増やしてても良くない?』
「深淵の遊泳層では魔力過多で結晶や空中散歩が出来た。適量に越した事はない」
『ごもっともな言葉で腹が立つことってあるんだね』
ガラ。
女の子のフリをするべきか男として素の振る舞いにするか、そんな直ぐには決められない分、注目されるのは場違い感があってなんとも気まずい。
そんな風に気まずいまま浮いていると、ダンテ先生が金銀財宝を土の板で浮かして一緒に入ってきた。
一瞬静寂が、みんなの関心がそっちにいったのを感じた。良かった…。
「ではテストの結果発表をします。前に置かれた物を各自回収して大事に保管してください。」
「うわすごっ!」「宝の山…」「すごい、宝石が幾つも…」
「俺の取り分はこのくらいかー…」「あいつやば…」「…羨ましい」
ダンテ先生が運んできた物を見てみんなのテンションが上がり、目の前に置かれた財宝の山で更にテンションが上がっていた。
一部は他の人の前に置かれた物を見て負の感情を抱いていたが、まあ少数だから良いだろう。
「私のは…おお、山盛りだ」
『成績表はー…あった。ね、先にこれ見ようよ』
「順位とか色々書かれてるね。なになに…?」
Aクラス サーシャ
魔力評価AAA 水属性
神学、魔法学、実技、合同テスト 2位
─命知らずな行動は慎みましょう。
─道具頼りだと無い時に大変ですよ。
─正直100点にしたいけど、その場凌ぎが過ぎるのだ!
歴史、語学、属性学、合同テスト 2位
─超楽しかったしまたやろうぜ。
─ケチを付けやすい事をしてくれたら書くときに困りませんでした。
─態と幻覚を受け入れましたよね?はい、減点にしないといけないんです。
錬金学、教養、 合同テスト 16位
─お前の作った奴全部教えてから行けよ。
─最後、私達が質問する間もなく立ち去ってしまったので…。
贈呈品
・賢者の指輪 ・上級結界石 ・幸運の招き猫
・思考の筆 ・最強ベッド ・勇者の種火
・400万A
一年目成績
・主科目
歴史 Lv.10 語学 Lv.10 神学 Lv.9
属性学Lv.7 魔法学Lv.10 錬金学Lv.9
実技 Lv.10 教養 Lv.9
・副科目
芸術Lv.- 音楽Lv.-
狩猟Lv.- 馬術Lv.-
「めっちゃケチ付けられてる…一位誰なの?」
『サーシャは全体的に評価は良いけど、減点される所も結構有ったんだね』
「厳しい…一位誰?」
『興味深々だねー』
サーシャの周りをくるくる回り、それから座っているサーシャの頭上より高く積まれた、山盛りの金貨の上で座るポーズをしてみた。
ちょっとテンション上がるな、これ。楽しい。
サーシャはそうしてる俺を見て、少しだけ口角を上げてつつ、成績表を見て眉をひそめた。
「……リーロ、このAってなに?」
『魔法学園の通貨の単位だよ。アニマって読むんだ』
「へー、王国のは
『LとAは同じ価値だから、学園内ならどっちも使えるよ。王国全体だとAは使えないけどね』
「因みに他の国は?」
『神国は
「ふーん、今はLAだけ覚えれば良いかな」
いやー…会話してるだけで楽しい。会話のドッチボールって良いよな、無限に話せそうだ。
「自分の分は確認出来ましたか?手元に置きたい物は今の内に取っておくように。残りは学園の「宝物館」に納めますので、必要になったらそこの管理人にお声掛けを。」
「金貨以外は取っておこう。リーロ、運んで」
『はーい』
「うおっ」「急に魔力が…」「うぷ…溺れそう…」
「……やっぱりここは難点だね」
片手を秒針に戻し、サーシャが言った通りに宝を浮かしてサーシャの隣に置く。
本来の姿に戻るほど魔力の生産も増えるからな。作った魔力を集め、魔力過多で浮かせてるのだ。
昨夜にサーシャと一緒に検証して覚えたぞ。魔力が濃くなるのは仕様だから仕方ない。
「でも…うん、めっちゃ便利」
『もっと頼っても良いよ!』
「そこそこにね。あんまり迷惑をかけるのもダメだし」
「時間になりました。宝物館に転移されますよ。」
ヒュッ、
2人で話してる間に取らなかった金貨が消えた。
決められた時間になると転移するよう仕込まれてたんだろう。こういうゲームのシステム処理が実際の物としてやられると、なんだか楽しくなってくる。
「では本日の授業を…する前に、サーシャ。」
「なんですか?」
「そこの子は?部外者は学園内に立ち入れませんよ。」
「私のMMですね。遂に研究が実を結びました」
「ふむ…内容は通信する魔法だった筈では?」
「正確には、誰とでも何処にいても会話できる様にする魔法、です」
「…一先ず教室の隅に荷物と一緒に居てください。MMなのは鉄の棒になった腕を見れば分かりますが、ずっと浮かれるのは後ろの邪魔になります。」
『あ、すみません…端っこに行ってます』
うん、ベッドが浮いてるのは視界の邪魔だから仕方ないな。端に行こう。
教室の入り口にベッドを置き、その上に賞品を置いて腕を人の手にして、俺も座った。
実際は少し浮いてるが…そこは気にしないでいこう。
「…MMになったら周囲が深淵の遊泳層並みの魔力に溢れると……サーシャ、授業が終わったら寮長の部屋へ来なさい。聞かないとならない事があります。」
「はい。丁度私も話したい事が有ったんです」
ダンテ先生はとても悩んだような顔をして、それからサーシャを呼び出すことを決めたみたいだった。
普段が放任主義な分多少のヤンチャが見逃される魔法学園が呼び出したのだ。
結構異例な事だぞこれは。ゲームでこうなったのはカーリーだけだったんだからな。
『うぎゅぎゅ…』
「……で、魔法学の次の錬金学なんだけど…」
「おいサーシャァァ…ちょいツラかせよ…先生の言うこと聞けよ?この奇妙な物体の説明が欲しいからさあ…」
「…フラン先生、放してあげてください。変顔させても何も分かることはないですよ」
『ぷはっサーシャー!』
「あーほら泣かないの。たかが歯と頬を引っ張っただけでしょ」
いーやあれは変顔の領域じゃなかったね。歯がミシミシいってる感じしたもん。
あれは本気で解体しようとする奴の手だった。恐怖を感じたね。
手に入れた賞品を地下室に運んで帰った途端にこの仕打ちは酷いもんだ。
「お前何作った。何したらMMがそんな面白生命体になるんだ。お前今日は俺と個人授業開けよ…魔道具の一つの完成形を更に高めた方法教えろ…!」
「鉄50kg、魂のレプリカ、圧縮記憶した魔法陣、そして集中力があれば出来ますよ」
「おい、この材料にあるレプリカと魔法陣はなんだ。そっちの作り方も教えろ」
「放課後にダンテ先生の場所に行くので、その時居たら教えますよ」
「言ったな?宝物館から対価持ってくるから、一切隠し事するなよ…!」
そうして錬金術の授業も乗り切り、自習の時間になったのだが…。
「なぁサーシャ、その子がリーロって子か?」
「うん。遂に会話させられるようになりました」
「…飛んでないか?研究過程がさ。ちょっと前にコレを作ったばっかりな筈だ」
ダルクが首元の
朝から胡乱な物が目の前にある眼で俺を見ていたが、見てても仕方ないと直接尋ねる事にしたらしい。
「そうだね。でも作れたからには仕方ない。魔力の生産の研究をしてたら繋がっちゃったからね」
「…魔力なんてそこら辺にいっぱいあるじゃないか。集めるだけで良くないか?前にそういうのを余暇に作ってただろ?」
ダルクの指摘は最もな事だ。今は魔力の溢れた時代、複雑な過程が入る生産より、集まる方が手っ取り早いのだ。
事実、サーシャはあの時その道を選んで妥協することもできた。断念したのは、
折角だから気を遣ってみよう。
そういう軽い気持ちで困難な道を選んだのだ。
「大したことじゃないんだけど…それが出来るって分かったからかな。最近出来るかどうかだけは分かる魔法を覚えてね、解法の切り口が違うとそれは無理だって教えてくれるんだよ」
「…例えばどういう風にだ?」
「此処からパン屋に行くとする。その時に歩いて行っても、馬車を作ってから行っても出来ると判定される。だけど、机を作って乗って行く、魔法も無しに飛んで行くとなると、出来ないとなる」
「どれだけ遠回りでも可能かは分かる…ってことか?」
「その通り。だから作ってみた」
『そんな軽いノリで作れる物じゃないけどねー』
話してる2人に割り込み、補足を入れておく事にした。
ダルクとは実験中にサーシャの身体で何回も話したことがあるからな。お互いに知らない仲じゃないからこのくらいはしないとな。
『本来なら1000年先でひいこら言いながら何とかする物だよー魔力の生産って。出来るってだけで作れる物じゃない』
「リーロ、知っているのか?」
『仕組みは知らない。でもなんで作る事になったか、どれだけすごいかは知ってるよ』
「概要だけ頼む」
『生徒を誘拐しようとしてる連中が居て、倒した後にそこからみんなを助ける為の魔法を作る必要があった。その過程で沢山の魔力が必要になった。サーシャは魔力を作る魔道具を作った。それがMRC、魂がある限り魔力を作る炉心だよ』
「ふむ…気付いたらテストが終了間近だったのはそういうことか」
ダルクは少し考え込んで、それから俺とサーシャの頭をワシワシとした。
「わっ」『うおっ』
「大変だったな。二人ともお疲れ様、丁度金もあるし今夜は宴をするぞ」
「ダルク、ちょっと力強いよ。髪型が崩れちゃう」
『魔力の構成が…!この身体崩れちゃうよ!』
二人で協力してダルクの手に対抗するが、二人合わせても向こうの方が強かった。
普段はMM有りで俺たちの方が強いなのに…こんな時だけ頼もしさを見せよってからに…。
「おっと…ははっどっちも素直じゃないな。こういう時は素直に褒められておけ」
「別にそこまでされる程じゃ…」
『助けるにしては寄り道しすぎだしそこまで言われるほどじゃ…』
「良いんだ、人一倍の頑張りものは、人一倍褒められて然るべきだ」
「ダルク、サーシャがどうしたんだ?」「へー、私ら誘拐されてたんだ…」「お嬢様、僕たちも行きましょう」
「助けられたままなのは癪ですね…」「その宴に参加してもいいかな?」「じゃあ準備誰やる〜?」
「…………」
『わぁ、大変な事になっちゃったなって顔だね。同意見だよ』
「いや…」
ダルクに褒められていると周囲に人が集まってきた。
君たち、言っている内容からして聞き耳立ててたな?
「私の宴みたいだし、祝祭品を用意しないとなって」
『…なにそれ』
「サイーシャ村の風習だよ。自分の為の祭りが開かれたなら、その返礼を渡すの。村だと果物や手料理が多いけど、今から用意するにはちょっと骨…」
『今度は何を思い付いたの?』
「…錬金なら直ぐだよね。鉄はダンテ先生に…良かった、これで問題ない」
サーシャが楽できたと言わんばかりに安堵の息を吐き、俺はそれに妙な確信を抱いた。
これから大変な事になるだろうなって確信が。
『……で、こうなっちゃったんだけど…残等じゃない?』
「解せない。
『もしかして
「何人参加するか分からないから1000個作って、今967個も余ってるのに?」
『それはただの作り過ぎだと思う』
「村では余ったら旅人への贈り物や後日のご飯にしてた」
『だから食べ物じゃないんだっ……もしかしてコレ、食べられるの?』
「うん。MMなら幾らでも食べて強くなれるよ。味付けはないけど、その身体で食べられる物も欲しかったから」
『…………まじかぁ』
えぇ…思ったよりとんでもないじゃん…ソシャゲの経験値玉とかの役割もあるのぉ?
「最初の一つ目よりは増え方も大人しいから、そこまでじゃないけどね」
『なら目の前の光景を見なよ。カーリーもダルクもシープとヘルシングも、リサだって泣き腫らしてるよ』
「…なんで親族友人をMMにしてるの?」
『やむを得ない…事情…じゃないかな…』
前世関係でサーシャに協力的な俺が例外なだけで、本来なら仲のいい人をMMにするのが推奨されるんだよ。
仲が悪かったり相性が悪いと暴発されるしな。
それでも不可抗力な例が多いけどさ。
『ダルク、私たちには妹達が居て…』「…なにっ?」「酒よこせ酒ー!やってられっかー!」
「そんな…だったら私はどうすれば…」『きゃんキャン!!』『この犬の飼い主は誰ですかー?』
「…まぁ、折角の宴だし細かいことは良いや。この後先生達の下に行くけど、それまでは楽しもう」
『本来なら自習する時間だけど…それもそうだね。うん、楽しもう!』
其処から1時間、サーシャと俺は食堂で開かれた宴を十分に楽しむ事にした。
各所様々なフラグが複雑骨折した感覚があるが…もう今更だな。
どんちゃん騒ぎで面倒ごとは考えない方が楽しめるしな。
「んっんっ…あはぁ、果実水うまーい」
『……あむ…喉越しは良いな』
試しに食べたMRCは、甘くないゼリーみたいだったのは報告しておく。
「魔法陣の圧縮記憶」
どうしたのリーロ…あの時どう魔法を作ったって?容量問題?ああ、それはね。
元々持っていた術式から発展した物、圧縮して記録する方法はそれを参考にした。
数字だけで構築した効率的な魔法言語を作って、それを点滅で表記出来るようにして…どの魔法だって?
あったでしょ?使うと勝手に周囲の魔力を使う、消費魔力以上の効果を出す大魔法が──禁忌術式だよ。