不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計 作:何処にでもある
深淵階段から深淵に行ってみましょう。
「おい、さっさと歩け!」
ジャラ…ギィ…、
ガシャンッ!!
「仮囚人は其処で大人しくしておくように」
「はい…」
かつ、かつ、かつ…、
「…はぁ、どうしてこんな事に…あ、いいこと思い付いた」
ジャラ…、
「魔力生産とは別の方法として「出来る」と判別された方法、
「あはぁ、丁度「魔跡封石の手錠」で使えないし、面白い題材だ。…そうだね、差し詰め「呪術」かな。仮の名前はこれで良いとして……じゃ、実験開」
こつ、こつ、こつ、………、
「…困ったな。脱獄をさせられる様な事をした覚えはないんだけど」
ジャララ…バキッ…、
『うおーん…サーシャぁ…』
宴から10日後、先生達に全てを話したサーシャは判決によって深淵階段から深淵へ幽閉されてしまっていた。
ゲーム知識だが、深淵階段とは世界中にある深淵へ繋がる螺旋階段、ファストトラベルだった。
プレイヤーが一度行ったことのある深淵に行ける都合上、サーシャの閉じ込められた深淵に行ったことのない俺が会える事はない。
サーシャは世界のどこかにある深淵に幽閉されてしまったのだ。
『おろろーん…』
全てのフラグがめちゃくちゃになったから忘れていた。
禁忌の研究は学園でも許されない事だと。バレるとバッドエンドか暫くの収容室送りだったと。
まさかあの魔法が禁忌術式を参考にした物だったなんて…ちくしょう、よりによって先生達が集まった時に圧縮した方法を聞かなければ…!
『…いや、悲しんでても仕方ない。どうにかサーシャを手助けしないと!』
幸いと言えばいいのか、大量に余っていたMRCこそは回収されたものの、俺を代表に
"最高峰の奇跡によって治った人間"だと処理され、全員が学園の転入生として迎え入れる事になったのだ。
『お陰でここ、サーシャの部屋はお…わ…お…私の部屋としてあまり調べられずに済んだ。少なくとも地下室はバレてない』
学園の印も刻まれたので大半のMMはその記憶を失ったが、幸い俺は
『何個か食べたお陰でに
こうなった以上、女の子のフリをしなければならない。
幼いリーロの見た目だと、男らしく振る舞うより可愛げのある振る舞いの方が信用されやすいからだ。…出来るかは分からないが。
目指すのは罪人になったサーシャの救出、必要なのは力ではなく人との繋がりの筈、少しでも仲良くなり易いようにするべきだろう。
『とはいえ…生徒としての編入された以上、授業に出ないと社会的信用が無くなる…何より身元保証人の学園に睨まれる訳にはいかない』
タダでさえサーシャのMMだとして要注意対象扱いなんだ。そこは誠実に振る舞おう。
『よし、なら早速授業…この年で学校かー…』
中身の年齢60歳の脳みそに入るかな…。
そして授業が終わった後の感想が以下の通りだ。
『うっは!めっちゃ楽しい!』
授業の終わり、MMが
その最前列で俺はサーシャから引き継いだノート代わりの手帳に授業内容をまとめていた。
『この身体だとスルスル頭に入ってくる!MMだとそうでもなかったのに、不思議ー!』
まるで
全く知らないものである筈なのに、身体が何度もやった事みたいに、脳が一度覚えた事を思い出すように全てが理解できた。
『何というか…サーシャの頭脳を借りてるみたい』
「仮にそうなら割と聞き捨てならない…ってなるからそういうのは止めるのだ」
『うわっジャッジ先生、不意打ちに声をかけるのはやめてください』
授業が終わって廊下を進んでいると、後ろから実技のジャッジ先生が声をかけてきた。
どうやら独り言を聞かれていたらしい。授業じゃないからかいつもダウナーだな。
「む、こんな事で驚いてたらキリがないのだ…が、子供に説くのは違うか…そりゃすまないことをしたのだ。詫びにちょっとした事なら答えても良いのだ」
『それなら…何の用で声をかけたんですか?』
「大したことじゃないのだ。先ずサーシャの頭脳を借りてるとか、そういう発言は控えた方が良いってことと、新しく転入した生徒達用に補修があるって話なのだ」
『はぁ、それはまたどうして?』
「先ず独り言。MMと所有者はその繋がりでお互いに影響し合うもんなのだ。その影響なのは分かるけど、今は先生達もピリピリしてるから変な火種になる事は言わないのが懸命なのだ」
どうやら先生の見解によると、この頭脳の良さはサーシャ由来らしい。
それに納得したしコレからは控えることを意識するけど…ピリピリしてる?
『なんで先生がピリピリと?サーシャの件ですか?』
「んー関係者だし言っても良いか……違うのだ。そっちはぶっちゃけ研究を馬鹿正直に言ったマヌケが悪いのだ。まぁやった事は人命救助という十分な善性が認められる物だったし、その内出すとは思うからどうでも良いのだ」
『悪意が有ったらアウトなんですね』
「逆に聞くけど、不意打ちなら先生も死ぬ兵器を開発して置いて悪意も有ったらそりゃあもう"脅威"でしかねーのだ」
『じゃあどうしてですか?』
「"昨日押収したMRCが誰かに盗まれたのだ"。…はぁ、封印室が出来るまで総出…4人で見張ってたのに…お陰で先生達は授業に加えて犯人探しで大忙しなのだ」
『えっ』
おっと割と大惨事確定な情報が出てきたぞ?ゲームで作られなかった"発明品"が盗まれた?
『そんな厳重にしてたのに、先生達は気づかなかったんですか?』
「あのなぁ…MMと合わせたら実質誰でも蘇生出来る物だぞ?2年も3年もみんなでカチコミしてきたのだ。何なら私と
『あー…お疲れ様です』
「謝罪はいいのだ。全部忘れても人の欲は消えなかったってだけなのだ」
それを話すジャッジ先生の雰囲気は、徹夜2日目くらいの気だるさを纏っていた。
しかしそうか。ゲームと違って結果を出してるからこういう騒動も出てくるのか…。
聞けたは良いけど、俺が協力してもたかが知れてるな…MMとして武器になる事しか出来ん。
それでも出来ることがあれば手伝うとは言った方がいいかな。
『そういう事なら、私に出来る事はありませんか?サーシャのMMとして盗みは見過ごせないんです』
「え?…お前は生前、サーシャとどんな関係だったのだ?若く死んでるし幼馴染とか?」
『赤の他人です。事故で死んだ後13年くらい誰も来ない倉庫に居ました』
「MMと生前の時間合わせて何歳なのだ?」
『16です!』
「…サーシャが16、そこから13…
『うっ…でもMMとしてなら活躍出来ますよ!』
あ、何だかジャッジ先生が優しい眼になったし頭も撫でられ始めた。
完全に子供扱いされてる…中身60歳なのに…。
「いーかー?MMのままならその通りなのだ。でも、お前はもう口も手も足もある。多少は自分勝手に生きてても良い。サーシャの事も悪い様にはしないから、安心して遊んで来るのだ!」
にししって笑ってる所申し訳ないんだけど、それで能天気になれる程俺はジャッジ先生のこと信用してないからな。
ゲームで割と死んでるパターンが多い人の安心しろ程安心出来ない物はないんだ。
『…それで、補修の方はなんですか?』
「子供が信じてくれないのは堪えるのだ…やっぱりサーシャの影響で頭良くなったからなのだ?」
『将来杖を修理に出してる最中に殺されそうな顔をしてるからです』
「どんな状況なのだ?」
『それよりも、補修の方は?』
俺がそう言うと、先生はちょっと不服そうにしつつも説明を再開してくれた。
「…MMになった奴が魔法使いとは限らないのだ?んで、卒業時に魔法が使えてないと学園の権威が落ちる、落ちたら他国からの襲撃が増えるからそれは回避したいのだ」
『だから補修で魔法を使えるようにする…と?』
「加えて、実績作りな。魔法を覚えつつ、学園に依頼されるクエストや内需を満たして居やすくする。幾ら学園が入りやすい場所でも、正式に入学してないのは"余所者"なのだ。顔を広める良い機会だと思って受けに来ると良いのだ」
成程…学園って記憶の件も含めて内部で完結してる村社会なのか…だから上級生の警戒が解ける様にやらないといけない…と。
丁度経過観察を解除させる為にサーシャの印象を良くしたいと考えてたんだ。
此処で上手くやれば良い方向持っていけるかも知れない。
「ま、そんな訳で個別に声がけしてるけど、参加は任意なのだ。MMでもある以上所有者の意思も大事。全員じゃ無くても全体の印象は良くなるし、無理にやらなくても…『やります!』…まぁここまで会話でそうだろうなって思ってたのだ。期限は明日から今月いっぱい。放課後から寮前集合、休日は朝の7時くらい、覚えておくのだ」
ジャッジ先生はそう言った後、手帳のページを千切って俺に渡した。
内容は今言った事をもう少し詳細に詰めた内容だ。強制じゃないし、コレより優先する事が有ればそっちをやろう。
「それじゃあいつでも来るのだー」
『またねー先生!』
「…ん、また明日なーのだー」
ゲームでもいつも眼に椎茸みたいな菱形みたいな輝きをしてる分、ダウナーなのは新鮮だったな。
それだけ日夜忙しいってことか。大変な先生だ。
そう言えばゲームでもサブクエとしてジャッジ先生のお使いクエで人形とか……あ、今ならサーシャが放置してたサブクエやれる?
『よし…サブクエ開始だ!早速みんなの手伝いをするぞ!』
そうと分かれば話は早い!俺はメインシナリオ以外もしっかりやり込むタイプなんだ。
サーシャの印象も上がるだろうし、これを手掛かりに関わればいい!
今もサーシャとの繋がりである程度の頭の良さが保証される以上、サーシャの研究連打で放置されてたクエストを片付けるチャンス!
覚えてる限りやるぞー!
──割と聞き捨てならない…ってなるからそういうのは止めるのだ」
『うわっ!?…はっ…えっ…え?』
「…そんな驚くと申し訳なく感じてくるのだ」
気付けば、俺はジャッジ先生に話しかけられた場面に戻っていた。
…サーシャ?何で死んでるんだ?え、本当に今大丈夫か?
『ジャッジ先生!今すぐサーシャの場所に
──っちゃ楽し…えっ?連続?』
向こうどうなってるんだ?連続で10分の死に戻しをした?自殺手段なんだ?
普段なら良い感じの所で固定するのに…何か、出会いからやり直すべきものと相対している?
ダメだ、考える材料が少な過ぎる。兎に角MMになるとかなにかして前回と差を付けてみないと…。同じ動きだと同じ結末になるだろうし。
そう考えて各々教室を出ていく中、身体をMMに変えてみた。
「うわ!」「急に魔力が…」「リーロ、どうしたんだ?」
『サーシャが危ない感じがして…』
「上半身だけ戻されるとキモイな…」
周囲がそれを見てギョッとしたり話しかけたりしていたが…一旦これで様子を見て、それで無理ならジャッジ先生に泣きつこう。
5分、10分、15分…。
「…あ、いた。今MMへの補習案内をしてるのだ!先ずは話を…なんでMMになってるのだ?」
『サーシャが死にそうな目に有ってる気がして…つい』
「MMにも固有魔法にもそんな便利なものはねーのだ」
『まだこのままで良いですか?多分向こうで何かやってるんです』
「うーん…それなら確認して来てあげるのだ。無事だったら解除して話を聞くのだ」
『本当ですか!お願いします!』
そう言って出て行った先生が発見されたのは3時間後の事だった。
ボロボロの状態で神学のベアトリーチェ先生に発見され、一命を取り留めたらしい。
其処まで経つと流石に俺もリーロの姿に戻ったのだが、サーシャに何が有ったのかは不明のままだった。
「…あまり覚えてないのだ。サーシャの所に行く為に砂漠の深淵を渡って…真っ赤な変な文字が書かれた包帯に襲われた気がするのだ…あとは口の中にカニの風味が残ってるのだ」
「全く、奇跡が効きづらい傷なんて何処で貰って来たのですか?初めて見ましたよ?」
「分かんない…でも空を飛んでた気がするのだ…」
『ジャッジ先生、はい、あーん、おいしい?』
「シャク…おいひい…なんだか自分の子供に世話をされてる気分になって来たのだ!元気出て来たのだ!」
「はい安静に、寝言は寝てから言いましょう」
起きたジャッジ先生はあまり覚えていなかった。
証言的には魔物に襲われた感じだろうけど、真っ赤な包帯みたいな魔物なんて俺は知らない。
仮に居たとして、それは終盤の魔物だろう。その辺りは俺もプレイしてないから知らないし。
死に戻りの残り回数からして生きてはいるだろうけど…うーん、不安になって来たな…まさか誰かに誘拐されてるとか…積極的に動かないと不味そうだな、本当に。
「調律」
神様が無秩序な力に方向性を与えるとき、その手段として調律を選びました。
世界の基はあらゆる未来に進めましたが、神様は敢えて明確な方向は定めなかったのです。
深淵の内であれば在るが儘に進ませ、出るならば致命的にならない範囲で修正する。
故に調律とは、定まってない法則を修正する力であり、神の力の断片であり──世界を定める偉人が例外なく持ち合わせる素質であるのです。