不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計 作:何処にでもある
深淵航路を進むサーシャ、人の縁を広げるリーロです。
ジャラ…ジャラ…ジャラ、
「酷い目に遭った…MMが近くに無くても死に戻れる仕様じゃなかったら死んでたし…」
砂に埋まった遺跡にて、足枷を繋ぐ鎖を引き摺りながら歩く青髪の少女がいた。
かつては立派だった制服も今はズタボロになっている。果たして杖もない今の彼女を見て、学園の生徒だと考えるものは何人居るか。
「ちょっと停止した時間へ救助に向かった程度で…先生が来てなきゃ逃げられなかったし…大人しく出来てれば学園に戻れたのに…はぁ…」
少女は手足に付けられた枷を見てため息を吐いた。
その悩みの種は先日の出来事以外にないだろう。二度死んで、ジャッジ先生の協力の下、命からがらに逃げ切った一件だ。
嬉々として魔法の研究をしようとした時にやって来た"終わりの時計塔"の
自身の
その終わりに今更ながらに身震いし、これからについて思考を巡らせた。
「戻るとあの二人が居るだろうし、学園に戻るにはこの深淵は脅威的。確か旧監獄遺跡だっけ…幸いジャッジ先生に安全圏へ転移させてもらったけど…この枷のせいで魔法も奇跡もダメ、ジャッジ先生もノインとか言う奴に記憶を消されただろうし…」
既に丸一日、少女は何も食べていない。無給で一月動ける火属性と違い、水属性は気を遣わないとイケない生身が多いのだ。兎に角食料が必要だった。
「取れる手は二つ、ここを探すか、新しく魔力を使わない魔法を作るか。多分この技術なら枷が有っても水を作れると思うんだよね……歩いて探しつつ、やってみようか」
休息と思考の整理を終えた少女は、再度遺跡を歩き出した。
「大罪人の砂漠牢」の"旧監獄"の遺跡、それは、深淵としては稀なあり方をした物だ。
魔物は産まれず、砂の海に沈み続ける大監獄。滞在者の罪の重さでより早く沈む其処は、神話の時代に訪れた星の旅人の来訪によって、浜辺の層から昏闇の層にまで沈没した経緯を持つ。
その痕跡は今も残っており、旧監獄の中心に開いた吹き抜けが旅人がどの様にして脱出したのかを物語っていた。
「先ずは…詠唱の発展系と指で簡易的な陣を作る試みから」
それは学園内に直産で届けてくれる転移門がある村で…
「最近は畑が不調でな…もういっそ全部消し炭に出来んか?」
『消し炭には出来ないけど…虫除けなら確か…ここら辺のマップだと…これとこれで作った匂い袋を垂らす!雨でダメになるけど効果的だよ!』
「うおおっ蟲どもが飛び去っていく!これならワシらでも出来る。ありがとう」
それはソファで苦しんでいた上級生相手の先生相手に…
「最近腰痛に効く塗り薬が品切れで辛い…いつなっても良いように沢山買って来て欲しい」
『ちょっと待ってて…布と骨で…錬金の設計は確かこうやって…出来た、男性用コルセット!貴族がファッションとして着てるけど、付けてると腰痛にも効くよ!』
「あっなんかラク!そうか、そもそも起こさなければ痛くないのか。助かった、でももしも用に買ってくれ」
『湿布なら作れたからそれで良い?』
それは工房街で悩んでいた女学生に声をかけられて…
「私の猫ちゃんが迷子になったのよ…必要なのよ…探す人が…」
『それなら猫の集会に通訳の魔法で…にゃあ、にゃあにゃー?…みみゃ〜。みゃー!!…じゃなくて、洗濯屋の裏によく居るらしいので其処に行きましょう』
「ねぇその魔法教えてくれない?私めっちゃ猫と話したいし」
『普段の構い方がうざいって直接言われたいんですか?もうちょっと落ち着きましょうよ』
それは先生の一人が研究する現場にて…
「早速だがこの研究の助手として働いてくれ。頭脳に期待はしてないから力…もその見た目だとなー…折角来てくれたし、お茶でも飲むか?」
『少し見せてくれませんか?……実は私は最近経過観察として幽閉されたサーシャのMMなんです。その影響で頭も良くなったんですけど…土の円盤を高速回転させるなら……───』
「………───おっと、いつの間にか話し込んでしまったか。今日は来てくれてありがとう。本人でなくてこれなら、無罪への働きかけをしても良いだろう。これは無駄にしたくない才能だ」
それは工房街を探索していた途中で声をかけられて…
「ファァァッッッッション!!!!イィィィィズ!!!モデル!グロウ!」
『私は3歳で死んだからこれ以上成長しないです…モデルは無理ですね』
「あらまっでもそれならそれでやりようはあるわね。背の小さい人って学園だと結構居るし、その層向けとして扱えるわ。遠慮なくってよ!」
『……このサブクエ受けたの血迷ったかな……頑張ります!』
以上、早速とばかりに今日の内にやったサブクエと実技のクエストの光景である。
学園外なら冒険している内容ばかりなんだけどな。学園内のクエストってお悩み相談所レベルなんだよ。
勿論ゲームだと学園内外どっちも選べたのだが、今の俺はサーシャのMMだ。外に出してくれる訳がなかった。
『それでも結構良いペースじゃない?これならサーシャの罪も軽くなる筈!』
「……それはどうだろうな」
『カーリー…が二人!』
『紛らわしい状況で済まんな!俺はオルガだ!カーリーは俺の師匠らしいぞ!』
「……弟子の身体を乗っ取っておいて、師匠と呼ばせる程恥知らずじゃない。カーリーで良い」
『忘れてしまったので確信持っては言えないが、多分師匠は悪くないぞ!弟子の俺が言うんだから間違いない!』
『同じ見た目なのに中身が違うのが分かりやすいなー』
ゲームで分かってはいたけど、実際に目にすると笑えてくるな。
ベッドの上で意気込んでいた俺に話しかけて来たのは、宴の日が過ぎても未だに地下室に居るカーリー達だった。
あの日の約束は果たされ、カーリー達はここに居る義理は無くなったのだが…今更元の寮に戻るのが気まずいのか、地下室に定住していた。
『なんでまだ地下室に?私は寝ませんし上を使っても良いと思いますが』
「……身体は男だろう。中身こそ元々女だと教えられたが…だからと言って直ぐに女の意識になる訳でもない」
『だから地下室に?』
「……なんだかんだ住み慣れると悪くないものだ。最近は過ごし易くなる小物を作りに嵌ってな、そうして快適にしていくと手放すのが惜しくなってくるんだ」
『師匠なら金稼ぎして買うのが一番早いぞ!』
「バカ弟子が…作る事にこそ意味があるんだ」
『うす!精進します!』
『仲良いね、それで、なんでこのままだとマズいの?』
話を戻しつつ、仲のいい二人を見てホッコリする。
ゲームだと殺し合ってたからな。まだ安心は出来ないが、この時間は消えないってのが未来に希望を持てる。
「……つい最近、腕慣らしに深淵に潜り直してな。其処で食べた知恵で知った事なんだが、どうにもサーシャは行方不明らしい」
『えっなんで?』
「其処までは知らないな。あの深淵の知恵は紙に書かれた事しか知る事が出来ない。私はただ、囚人管理の手帳の知恵を垣間見ただけだ」
『それから師匠はその後大霊書庫でしっかり探してたぞ!その上で分かったのは、無理矢理連れ去られた痕跡があるってことだ』
『そんな…!それなら直ぐ助けに…!』
「……待て」
サーシャは研究は凄くても腕っぷしはザコだ。今直ぐ助けに行かないと…!
そうしてベッドから降りて行こうとした俺をカーリーが止める。
「今行っても、まとめて捕まるだけだ。先生達もこの事は認知している。サーシャの件は大人しく待っていた方が良い」
『でも…!サーシャはすごく弱い!』
「……それは戦闘の話だろう。知恵と言葉を含めれば、サーシャはかなり強い部類だ。それもバカな事をするタイプの」
『…褒めてるの?貶してるの?』
「……どっちもだ。あいつは賢く様々な流れが見えているが、その選り好みが激しい奴だ。ああいう奴は、最後の一瞬も諦めずに拘った上で成し遂げるか、そのままくたばるかだ」
そう言うカーリーはなんだか懐かしんでいたが、同時にサーシャへの少なくない好意もあるみたいだった。
…闇雲に探すのはやめよう。ある意味、俺よりもサーシャを信用しているカーリーの言葉だ。
俺の雑な論理より、凄腕の戦士の勘の方が正しいだろう。ゲームキャラの直感は現実よりもアテになるのは知ってるからな。
『…分かった。今日もサーシャが早く帰ってくれる様に頑張ってみる』
「あぁ、そうしておけ。先生達の手伝いは私がやる。お前は自分のできる事をやると良い。……心配しなくても、見つけて見せるさ」
『本当!?カーリーが手伝ってくれるなんて…!頼もしいな、ありがとう!』
「……そろそろ探索班の集合がある。しばらく留守にする」
『では暫く出かけてくるぞ!じゃあな!』
『あ…いってらっしゃーい!』
カーリーはそういうと、地下室から出て行った。
ツレない態度ではあるものの、あっちはあっちで動いてくれてるって分かるだけでも救われるものがあるな。
『…久々だな、誰も居ないのは』
一人だけになってしまったが、孤独なのは倉庫や前世の一人暮らしで慣れている。
身体の大きさもあって酷く広く感じるが…それに怖がる程子供ではない。
『…寝れない…散歩しよう』
それはそれとして、MMの眠らない性質が劣化したわけではない。
詳しい原理は知らないが、
どうやってMMと
『ん?…あの人は…』
そうして歩いていると、紫色の長髪をポニーテールにした
格好は王都らしさも中世らしさも感じられる服で、其処まで裕福な暮らしではなかったのか、指先は
『こんな夜更けにどうしたんですか?』
『あら〜…?』
『あ、下です』
『あらまあ、迷子になっちゃったの?』
『ただの散歩です。そっちこそどうしたんですか?』
『わたしはね〜迷子なの〜…』
うん、このおっとりした感じは間違いない。ダルクのお姉さんだ。
細目で緩い顔だし間違いない。
『だったら私が案内しましょう。ダルクの部屋なら知ってますから』
『そうなの?ならお願いしようかしら』
その手を握り、上の階に行く。ダルクは307号室だった筈だし、そう難しくはないだろう。
寧ろ、どうすれば迷子になるのか疑問に思う。ボケッとし過ぎじゃないか?
『それにしても…なんで迷子に?』
『どこも似た様な見た目だし…わたし文字は読めないのよ〜…』
『目印の部屋番が分からない…だったら私が教えましょうか?』
『本当?嬉しいわ。これで迷子にならないわね〜』
『時間は有りますし、簡単な文字も一緒に教えますよ!』
割と仕方ない事情だったから教えることにした。
学園に居ると麻痺して来るけど、この世界はまだ創世神話真っ只中な時代だ。識字率も全体で言うとかなり低い。
世界の基となる物が世界に成り、主神の仕える神々が産まれる辺りだろうか。
別に唯一神って訳ではないからな。
王国の王様は神の子だし、勇者は木属性の神になっている最中だし、商国では深淵の其処に辿り着く誰かが神になるし、神国は悪魔か魔族か天使になる瀬戸際だ。
そもそも猿では無く、魔物が人類の起源なんだ。あり方も精霊や妖精に近いしな。
『なので、この文は「神は世界を見守っています」って書くんですよ』
『あなたってとってもお利口さんなのね〜。こんなに小さいのに、私よりもずっと知ってるわ〜』
『サーシャがすごいだけです。そのおかげで簡単に覚えられましたし』
『あら〜、生きてる頃はどんな関係だったの?』
『無関係ですね』
『あら〜?』
やっぱ中世で学ぶなら聖書が良いよな?という安直な発想により、俺はダルクの姉と共に食堂で教えていた。
そもそも物語が乏しいからな。効率よく学習出来る読み聞かせがしたいなら自然とこうなる。
それでもラノベより薄いけどさ。まだ神話が始まって間もないのが分かり易いぜ。
『MMの時は会話出来ないのに、どうやって仲良くなったのかしら?』
『戦場を共にしたから…かな?』
『そういうものかしら〜?』
『そういう物だと思います。一夜一緒に戦えば仲間でしょうし』
『あら〜…あなたの生きてた場所はきっと優しい場所だったのね』
『………? 続けますね』
そりゃあこの世界と比べれば現代は治安も良いと思うが…引っかかる言い方だな。
…まあ良いだろう。どこから友人かの線引きが人次第なのと似た様なものだろ。
『──では、ここら辺で』
『ちょっと頭が痛いけど〜世界が広がった気がするわ〜』
そこから30分、俺は聖書を基に数字と文字の読み方を教えることに成功した。
『でも〜…もっと面白い話が良かったわ。ねっねっ誰かが恋した話は無いの?』
『聖書でも神様が実は女神で、星を旅する者に襲われた話があったじゃないですか』
ゲームで見た時そう来たかって感じで面白かったぞ。
『そんなの恋バナじゃないわ〜。小さくても女の子でしょ?だったら恋バナの一つや二つや三つや四つや五つや六つや七つや八つや九つは持ってなきゃ〜』
『多いよ。3歳が持ってる訳無いでしょう』
『だったら〜想像でも良いから話してみて?小さなあなたにとって、恋はどんなもの?』
『えぇ〜?恋ねぇ…?』
前世と合わせて60歳独身が恋なんてする訳…スケートとの出会いでも話すか?
夢中になる感情は恋に近いって言うし、どうにか置き換えて…商国が近いかな。
『じゃあ…これは商国生まれのある男の話なんだけど…』
話したのは、商国生まれの旅商人が北へ進み、帝国の踊り子に恋をする感じの話だ。
男は女の気を引かせる為に身を破綻させかねない程貢ぎ、後一歩まで行く。
そして告白し、しかし踊り子が選んだのは男ではなかった。
惹かれて貢いだのは自分だけではなかった。大層な軍人が、立派な芸術家が、偉大な魔法使いが、その女の気を引こうとしていたのだ。
かくして男は選ばれず、貢いだ分だけ落ちぶれた。しかしどれほど年月が経っても、夢に見るのは踊り子の女と共にする自分だった。
酒に溺れ、酒の力で女の顔を思い出せなくなっても尚、同じ夢を見た。
『それでそれで、其処からどうなるの?』
『王国で一人の女性と出会ったんだんだよ。誰にでも優しく接して、子供が大好きな女性だった。男はその在り方に興味を抱いた』
興味を抱いた男は、何度も訪れては疑問を投げかけた。女は男よりもずっと聡い人だった。
そして男は答えを得た。
一番を手に入れなくても、好きでいても良い。
伴侶が居なくても、幸福はある。
答えを得た男は女に感謝した。
「俺はもう大丈夫だ。今までありがとう。これはほんのお礼だ」
女はそのまま立ち去ろうとした男を監禁し殺した。
『以上、第一部でした。おしまい』
『…えっ終わり?』
『男視点だと訳わかんないよね。私も分からない。多分第二部の女性の視点が有れば分かるんだろうけど、私は知らないから』
今言った出まかせだから、俺も本当に知らないぞ。スケートとゲームの擬人化がめっちゃむずかったって感想しか無い。途中からは俺の両親の出会い話も混ぜちゃったし、この先は未知数だな。
そしておめでとう、君がこの話の一人目の傾聴者だ。そのまま明日になったら忘れてくれ。
『…もやもやする〜!こうなったら、大霊書庫でその話の続きを見つけよう〜!世界中の本があるなら、その話の続きもあるわ〜!』
『諦めたら?私が家に居ないお父さんの話を聞いたら、母さんが話しただけの話だし』
『 実 話 ! ! ?』
『さぁ?生きてる頃は姉も私も幼くてよく分からなかったから』
『ラ ウ ン ド 2〜!!』
『なにが?』
女は同一人物だったかそうじゃないか、男はクソボケ野郎か女がヤバいか、実はヤンデレの試し行為か、全く分からんしこれ書くと俺の前世が穢れそうだから書きたくない。
『えっえっえ、どうしよ〜思ったよりすごい話出てきちゃった〜!あ〜どうしましょう〜…話を忘れない為に書き記したいのに、文字が書けないわ〜…』
『そんなの一生書かないでよ。一族の恥になっちゃう』
『ねっねっ文字のこともっと教えてくれる?わたしなんで文字が作られたのか分かっちゃったから〜!』
『ねーこれそんなに刺激のある話じゃないでしょ?でもやる気があるのは良し、夜に出会ったらまた教えても良いですよ。それとダルクの部屋は307号室、三階ですよ』
ダルクの姉は暫く続きを催促していたが、俺がもうやる気はないと感じると渋々部屋に戻る事にしたようだ。
『分かったわ〜、また明日ね〜』
『うん、またね』
白紙の手帳と羽ペンを持って立ち去るダルクの姉を見送りつつ、俺も散歩を終わらせる事にした。
ただの道案内の筈が随分と寄り道をしてしまった。なんだか疲れた気がするし、今日はもうMMになって大人しくしていよう。
そしてベッドの上でMMになって転がっている最中の事だ。
『ひえぇぇ…生きててくれ…息災であれ』
一度だけ、サーシャが死に戻った。
しかし行方不明になっている以上、先生に様子を見に行かせることも出来ない。
幸い夜明けまでまた巻き戻る事は無かったが、打つ手無しの現状はどうにかしたい。
…今日も頑張らないとな。
「星の始まり」
神が世界を作って300年経ち、広がり続けた世界は遂に三つの星になりました。
火の玉は太陽に、空島は地球に成長し、神の居た空島は月になりました。
しかし殆どが大地で、未だ川か湖で海は有りません。
そして星の内側も未だ埋まり切らず、深淵の世界が広がっています。