不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計   作:何処にでもある

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 斜め下方向の脱獄と情報収集です。




踊・白・二七

 

 

『やっぱりスケートしたい!うおぉぉ踊れや踊れ!』

 

 残念だが、滑りたい欲求に勝つ事は困難を極め敗北に伏した。

 むっふっふ、困ってる人を助けるサブクエ攻略は夜が来るまで。それ以降はスケートをする鬼に化けるの。

 

『考えろ…サーシャのように…そうだ、誰が時属性と水属性の互換性がないと決め付けた!サーシャだ!なら無理か…でも時の川は水っぽさ有ったしワンチャン無いかな…』

 

 と言う訳でやって来た学園の湖畔で、時間採取のタンクを片手にどうにか出来ないか弄ってみた。

 あの時は無理だったが、今はMRCと生産される無属性の魔力がある。

 操作こそ受け付けてくれないが、そこにあるだけで意味があるかも知れないんだ。やってみる価値はあるだろう。

 

『うおおお!凍れぇー!』

 

 例えばタンクの蓋を開けて抽出し続ける。

 例えば『貸与(劣)』で冬の湖畔を目指す。

 例えば『推理(劣)』と『貸与(劣)』を合わせて沈むまでの時間を遅くして滑られるように試みる。

 例えば、例えば、例えば………。

 

『出来ない…!6つ考えた所でネタ切れ…!ぶっ無様…圧倒的無様…!』

 

 普段から案を尽きる事なく思いつき、それを実践し続けているサーシャには頭が上がらない。

 錬金で温度を下げるやり方なんて知らないし…俺にはこれが限界だった。

 万策尽きていた。

 

『うおーん…滑りたいよぉ…』

 

『……ええと、何してるの?』

 

『その声は…スター!うわ、久しぶり!へー、スターもMRCを取り入れてたの!』

『…あ、リーロおばあちゃんじゃん!今日も滑るのに悩んでるの?』

『うん、サーシャが居ないから水の上で滑れないんだよ』

『そっかー…見つかってないんでしょ?また一緒に成れると良いね』

『うん。その為にも今は見つかったら役立つものを用意して待ってるんだよ』

『見つかったら…そうだね!僕も応援してるよ!』

 

 ダンテの息子であり、小鳥のゴーレムをMMとする子だ。サーシャが学園に来る時の馬車で会話していたな。

 地味にMMとしての経験も長く、俺やサーシャでも知らない事を知ってるかも知れない相手でもある。スターなら何か滑られる方法も知っているかも知れない。

 

『ねぇスター、どうすればこの池でスケートが出来るようになるかな』

『MMになって触れ合うと行ける空間は?』

『実際に滑る方が景色も有って楽しいから遠慮したい』

『うーん…一つだけ思いついたよ』

『本当!?』

『あわあわあゆ揺らさないでで』

『あ、ごめん』

 

 身を乗り出し、スターの肩を揺さぶって続きを催促したが、これじゃあダメだな。

 ちょっと興奮し過ぎてるかな、落ち着こう。

 

『属性学のコープ先生に頼めば良いんだよ!確か熱属性を持ってたから、それで水を凍らせれば良いんだ!』

『…なるほど、その手があったか!』

『でももう夜だし、パパ達は何処かに行っちゃったから…頼むなら明日の方がいいんじゃないかな?』

『…うー…はあ、仕方ない。そのくらいは我慢しよう』

 

 どうにか頼むとして、どの道今日中にやれそうにないから座って一息付いた。

 諸事情で出来ないってのは良く有ったからな。多少遅れるだけならまだマシだろう。

 月明かりで照らされた湖畔を見つめつつ、いい加減なんでここを訪れたのか尋ねる事にした。

 

『それで…スターはどうしてこんなところに来たの?』

『小鳥の頃から、僕は綺麗な場所を探すのが趣味なんだ!で、ここは僕のお気に入りの一つでね?見に来たくなったんだ』

『…まぁ、動けるならそうするか。寝れないと暇だしね』

 

 湖畔に映った月を見て、納得した。確かにずっと眺めるのも悪くない場所だろう。

 人型に成れる前から動けるなら、暇つぶしにそのくらいやってもおかしくない。

 

『綺麗でしょ?この上を飛んでると、気の良い風が遊んでくれるんだ』

『気の良い風?』

『塩っぽい風だよ。大らかで雄大な風。その風に捕まるとね、何処までも運んでくれるんだ』

『ふーん、そっか』

 

 しばしの静寂。風が一陣通り過ぎて、涼しい気分にはなれた。

 別に触覚が再現されてる訳じゃないし何も感じないが、音や景色から印象を受けるくらいなら出来るし、風景画と同じだ。

 この身体は人の身体に近づきはしたものの、本質は変わらない。それでも、人として感じる心はまだ有った。

 

『…うん、良いね。踊りたくなる風だ』

 

 風…風…ずっと浮いてる…あっ。

 

『でしょ?だからここは僕の秘密の景……どうしたの?』

『ちょっとね、一つ思い付いたから試してみようかなって』

 

 ふと、興が乗ったので立ち上がり、身体の一部を秒針に戻す。

 服の一部、関節に干渉せず服に隠れた部分を鉄に変える。

 浮いた足先が地に付く程度に体重を増やし、水面の上に出た。

 後は…サーシャならこう言うかな。"答えはもうある"って。

 

『元から浮いているなら、水の上に浮かぶ程度に体重を増やすだけで良かったんだ』

 

 感触が無いんだから、滑ってる感じを出すだけで良い。

 見た人が重力を感じられる程度に重さを加えて、後は気の向くままに。

 

『…面白そう!ねぇ、僕も混ぜてよ!』

『良いよ!小鳥として飛び跳ねても、水面を滑っても良い!先ずは楽しもう!』

 

 小さな子供と小鳥が水面に波紋を広げながら戯れる光景は、どっちも偽物だったとしても綺麗に感じるだろう。

 中身が男の秒針とゴーレムの小鳥。我ながら奇妙な組み合わせだが、朝が来るまで楽しめたのなら十分だ。

 

「なぁ、湖畔に出る妖精の話って知ってるか?背の小さい茶髪らしいんだが」

『…知りません…よ?』

「そうか。これ以外にも最近青寮で幽霊を見かけたと言う噂が広がっている!動けるようになって嬉しいのは理解するが、各員慎みを覚えるように!」

 

『『『『はい』』』』

 

 後日噂になったのは…俺だけが悪い訳じゃないから良いだろう。

 うん。一年全員って訳じゃ無いし、そりゃあ他のクラスには噂になっちゃうか。

 

「じゃあ歴史を始める…前に一つ注意事項だ」

 

 なんだろうか。さっきのは違うのか?周りを見てもみんな見覚えのなさそうな顔をしているし…そういえば、生徒の数が少ない気がする。

 

「最近、生徒の失踪や自己破産が相次いでいる。寮に帰らない、身の丈を超えた借金で休日が消える…この学園は住む場所も学ぶ環境も用意するが、工房街や深淵探索、授業以外での出来事まで面倒は見ない。最近金が手に入ったからといって豪勢にやり過ぎるなよ、学園は親でもなんでもないからな。じゃあ今日は「アーリー帝国の歴史」について……‭─‬‭─‬」

 

『…ローンの影響だ』

 

 そういえばあの時倒したのって未来の方だな、生きてる方は今も元気にお菓子を売っているのか…倒す…には過去が破綻する。

 もしあの時ローンの討伐がなければ『貸与(劣)』が手に入らない。

 そうなれば限定的ながら無制限の死に戻りが使えない。

 無限に死ねないと、アンサーとクエストの被害を救出する魔法が作れない。

 

『…あれ?もしかしてコレ、どうやっても被害が出る?』

 

 うーん困ったぞ。ローンをなんとかしないと薬物蔓延は止まらず、何とかすると中間テストの被害か大きくなる。

 しかもローンは8月が云々言っていた。それまで手出しすると過去が変わる。

 …眺める事しかできないな。ものの見事に嵌められたわ。これどっちが被害大きいんだ?

 ゲームだと、どっちも大きな被害もなく倒せてたから参考にならないぞ。

 

『…だけど、それが諦める理由にはならない筈』

 

「‭─‬‭─‬‭─‬……っと時間か。まとめるぞ。王国貴族は固有魔法が基準だが、帝国貴族は治める土地と帝都にいる官僚と軍閥の地位が基準だ。土地の価値、広さ、重要性。官僚の地位、動かせる兵士の数、発言権……一月で教え終わった王国の数千倍は複雑な構造の下に成り立っている。元が複数の中小国の集合体だ。今日は概要だけだったが、次回は主要な都市と貴族について行う。以上」

 

『先生!』

「おっどうしたんだ?歩きながらなら聞くぞ」

 

 壇上から降りた先生を追いかけて話しかけた。詳しい事情を聞く必要が有った。

 

『こんな事聞くのって変だと思うんですけど…最初に言ってた失踪や自己破産の原因って知ってますか?』

「そんな事か…詳しくは俺も知らん。失踪に関しては赤と緑の寮でも失踪者が出てるってことと、失踪者は最近工房街に頻繁に出入りしてたこと。自己破産は毎年の事だ。今年は多いが、そうなったら先生達の使いっ走りにするだけだしな」

『そうですか…教えてくれてありがとうございました!』

「おー、世情に敏感なのは歴史的に考えても良い事だ。そうゆう奴の日記とかが、後々の歴史を作り上げるからな」

 

 感謝を伝えつつ、まだ授業があるので神学の方に向かう。

 もしローンによる薬物中毒なら、何か手掛かりがあるかも知れないし丁度良いだろう。

 いつもの瞑想や写本の授業が終わると、早速話しかけてみた。

 

「薬物中毒…ですか?」

『はい、相談に来たーとか、有りますか?』

「うーん…そもそも中毒になるほど依存してると、治そうと考えてくれないんです」

『考えない…ですか?』

「だって欲しい物を接種すれば問題ないでしょう?むしろ幸福にすら成れる。神の祈りではなく、薬物に祈ってるような物ですから。口止めもされてるでしょうしね」

 

 だいぶ酷い例え方したな…神を薬物と同じ扱いしたぞ。流石学園にしか居場所のない破戒僧だ…。

 

「なので特には有りませんね。…もしや、そういう方をお見かけに?」

『いえ…ただ、そうなってる人が居るかもって考えまして…』

「そうですか。もし見かけたのなら引きずってでも私の前へ。敬虔な信者に上書きしてみせましょう」

『あはは…もしそうなったらお願いします…』

 

 力こぶを見せながらそう言う先生から離れ思考を回す。

 ゲーム同様、流石に先生にバレるような杜撰なことはしてないらしい。

 

『…こうなると現地調査か…ゲームでもそうだったけど…サーシャ不在でやるとマズいよな…』

 

 サブクエを攻略するのは問題なくとも、メインは違う。死線を乗り越える必要があるし、戦略性や知能が高くないと正攻法は無理だ。

 ゲームでも絶対勝利のコマンドがあるからとボス戦は遠慮のない高難易度のラッシュだった。

 ちょっと大量の魔力を使えるからといって、数の暴力にはカーリー以外勝てない。

 

『それに…ゲームと違う場面は絶対ある』

 

 例えばアンサーとクエストでは道中の雑魚戦が消えてたし、サブクエは錬金のゴリ押しが割と通った。サーシャも戦力も無く不明瞭な場面に行くのは死にに行くのと同じだろう。

 

『うーん…サーシャが居ないと出来ない事が多い…』

 

 結局やる事は変わらない。昨日と変わらずやって行こう。

 

 


 

 

「ママ、これと同じ事をすれば良いんだよね」

「うん、ジャッジ先生が残してた転属性の魔力の残留、それを模倣してひたすら上に転移しよう」

「ママ」

「…なに?」

「ママの口からわたし以外の名前を出さないで?」

「ダーメ。そしたらママは自分の名前も言えなくなっちゃうから。()()()()も自分の名前が言えないの嫌でしょ?」

「…うん」

「ママも同じだよ。うんうん、他の子にママを取られたく無いんだね。心配しなくても何処にも行かないよ。ほら、その証拠にぎゅーってしてあげる」

「うん!ぎゅー!」

 

(…どうしてこうなった?)

 

 今日の監獄は、昨日よりも沢山の人が居た。

 …いや、それは正確では無い。

 正しくは、サーシャとシーシャという、リーロと同じくらいの背丈のサラサラの白髪と虹色の眼をした童女の二人。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 故に正しくは、二人の人と無数の死んだ人が居た、が正しいだろう。

 

(人工の魔物、これは上手く行った。それにより、少女達が魔物の一種として大量に生成された。想定外はその後。1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 サーシャは同じ自分の返り血で血塗れのシーシャを撫でつつ、顔を見られてない内に思考を回した。

 少しでもこの無償の信頼を裏切らない為だ。今この場に置いて、彼女の機嫌次第で全てが終わる。

 それが理解できるからこそ、繊細な対応が求められていた。自らをシーシャと名乗ったこの童女の扱いを間違えないように。

 

(死ぬ直前の子達を看取って判明したけど、全員性格も魂も違った。自己同一性は無い。多様性にこそ欠けているが種族として成立していた筈。なのに…)

 

「ねえママ」

「どうしたの?そろそろぎゅーっをやめて親離れしたくなった?」

「や、もっと一緒が良い。…今、みんなのこと考えてたでしょ」

「ママは知りたがりだからね。なんでみんなで殺し合ったのか気になって仕方ないんだよ」

「ならもう考えなくて良いよーに教えてあげるね?」

「わぁママ嬉しいなぁ」

 

 サーシャは力強く抱いてくるシーシャの向きを変え、お互いに同じ向きにした。

 これ以上抱きつかれると死ぬという判断だった。

 

「あのね、あのね?魔物は氾濫しないと出れないでしょ?氾濫するには沢山死なないとでしょ?みんなママと一緒が良かったでしょ?だから殺し合ったの!ママの隣を賭けて、ずっと一緒に居たいーって、わたしはそれ勝って、ママの隣に立ってるの!」

「わぁ、そんなに好かれる覚えがない」

「ママはわたし達を誕生させたんだよ?ずっとずっとずっとずーーーっと!!産まれずに腐っていくのを助けてくれたの!!だからみんなママが好きで、この場所がだいっっきらいなの!」

「なるほどぉ…所で死んだみんなはどうなるの?」

「みんなもわたしと一緒に行くよ?独り占めは良くないもん!わたしの中で溶け合って、魂もママへの愛も全部持っていくんだー」

「そっかー…シーシャ、君は底抜けに優しい子かー…」

 

(事情は分かったのにどうしようもないな…脱出するからにはこの無限大の愛を受け止めなきゃイケいけのか…リーロとの鉢合わせが怖い…事前に)

 

「ママ、他の人を考えないで?もっとわたしを見て?」

「ママの思考読めちゃうの?枷とかで塞がれてると思うんだけど」

「んーん。ママの魂は分かり易いからだよ。ママがその人のことを考えてるとね?魂が嬉しそうに波打つから分かるんだー」

「その眼、万能だね…でもリーロは親友で私の杖だからコレばっかりは譲れないかな」

「しんゆーなのに杖なの?」

「人を杖にする魔法があってね…?」

「えっ…なんでそんなにひどいことするの?」

「酷い…そうか、善性があるならそう感じるよね。感覚麻痺してた…」

 

(よし、分かってきた。この愛は重いけど負担が少ない。しっかり育てれば無害だ)

 

 サーシャはシーシャとの交流と会話を重ねて、その性格を概ね理解するのに成功した。

 多少驚かされる部分はあるものの、全体を通せば大した被害は出ない。

 しっかり構ってやれば問題の起きない子だと判断したのだ。その答え合わせは、外に出てからわかるだろう。

 

「因みにさ、この枷って壊せる?」

「壊してママに何ができるの?」

「ちょっと動き易くなる」

「なら転移する時に置いとくね。それじゃあママ、上の方だね?いっくよー!」

「おっと結構急

 

 ヒュン。

 

 最初に浮遊感を感じ、次に落下して空に居ると把握し、最後に手元に枷とシーシャが居ない事を把握した。

 

「枷がないのが幸いかな。で、MMがないから…"巡れ巡れ水の畔よ"」

 

 落ちるまでの数分間、サーシャは久々に普通に魔法を使うことになった。

 寒気に、地上の真っ白な雪景色。

 帝国領土だと予想を立てつつ、魔力を循環させる。

 

「‭─‬‭─‬ッ!」

 

 すると、『渦巻』の詠唱に関係のない魔法が、周囲に『水球』が3つ展開された。

 これまで魔法を使う時、ずっとMM任せにしてた訳じゃない。魔法を研究し、原理を解明し、勤勉に語学と属性学を学んできた。

 そのおかげで、『水球』だけではあるが、MM無しでも他の魔法を詠唱しながら無詠唱で使えるようになっていたのだ。

 

「"渦巻き 波立ち その円陣を拡大せよ 高き天より落ち入る水の その穂先を務めよ"」

 

 水球を3つずつ増やしながら、偶発的に開発したときから洗練させた呪文を詠唱する。

 その日々の積み重ねが、彼女を生きながらえさせた。普段は日の目に入ることのない努力が身を助けた瞬間だった。

 

『渦巻』

 

 ギュルルル!!ドッ!!

 

 周囲を巡る水球が足先に集まり、渦を巻いて広がる。

 それと同時にサーシャの落下速度が緩み、着地した時の衝撃を周囲に分散させた。

 渦に巻き込まれた雪が舞い上がり、渦巻の水と共に雨として降る。高々と舞い上がり、静かで穏やかな景色に"水"という一筆を加えた。

 

「落下した時の衝撃を火力に変える魔法での、落下速度の打ち消し…成長を実感するね」

 

 サーシャは自身の成長を実感しつつ、周囲を確認する。シーシャにはひたすら上に転移することを要望したからには、ここは砂漠の深淵の真上の筈だ。

 しかし周囲にあるのは雪に埋まった、何処までも広がる平原。何処にも深淵への入り口は見当たらない。どうにも雪に埋もれていそうだった。

 

「…どれだけ上の方に来た?帝都は王国よりの土地で、ここは珍しく雪がいっぱいに広がる場所…魔力視しても人だかりは見えないし…まさか、「アンリ雪原」のど真ん中?」

 

 転移門で直ぐに学園に来たから実感は薄いが、実の所サーシャの地元である「サイーシャ村」から王都まで移動すると、馬車を乗り継いでも3ヶ月はかかる距離だ。

 未だ水が少なく陸地が9割以上の世界、4カ国が主に支配してはいるが、その土地はあまりにも多い。雪も雨も、未だ特定地域にしか降らない事の方がザラな世の中で、アンリ雪原は珍しい場所だった。

 

「旅人が言ってた話だと、水が湧く深淵がある草原で、外の寒さも相まって常に雪原だとか…帝国の上側にあり、ここから帝都まで、馬車を乗り継いでも二ヶ月かかるって…」

 

 導き出した答えは、絶望的なもの。この3日間、水しか飲めてない状況が打破出来ないものだった。空を見上げて途方に暮れても、雪のように真っ白な空しか見えない。

 

「…つまり、砂漠の深淵に入って、学園の生徒か先生を見つけるのが得策…でも終わりの時計塔が…シーシャどこ行った?」

 

 改めて見渡しても、シーシャも深淵も何処にも見当たらない。

 深淵は外からでは魔力視を行っても見えないので妥当ではあるが、一緒に転移したはずのシーシャも居ないのは不自然だった。

 じゃり。『渦巻』が雪を払って露出した()()()()()を踏み締めて、サーシャは歩き出す。

 何をするにも、先ずは雪に埋もれた深淵を探さなければならない。初めての魔法でミスをするのは誰もが通る道、シーシャの方はミスをしただけだと一旦結論付けた。

 既に意識も思考も、正常な判断を下すのは難しい状況だ。考えるよりも先に動くのが最善であると、サーシャは結論付けた。

 

「さて、地面を掘って深淵を…なんか出てきた?」

 

 そう考えて着地した場所を手で掘り返してみて…。

 

「これは…透明な力…無の力?」

 

 目に見えないがそこに有り、調律されて我々に近づく力の塊。無属性の魔力にもなってない、無限の可能性を秘めたもの。

 神話の最初に有り、ある程度世界が作られた今は、それがある場所は限られる。

 彼女は急いで周囲の雪や空を改めて確認し始めた。

 

「てことは…ここ、深淵の最奥?」

 

 足先にある白い砂、雪に見えた軽い砂、真っ白な空、透明な力の塊……。

 彼女はシーシャが上下を間違えて転移させたことを、ようやく理解した。

 

 






「深淵の最奥」
 深淵は無の力が世界になる為の通路でした。
 当然その奥には未だ世界になってないものがあり、不完全です。
 しかし最近は無の力も少なくなったからか、底が浮上して完全に消えるものが出てきました。
 世界が完成するほど消える深淵の底に辿り着けば、願いが叶うと言われているそうです。

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