不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計 作:何処にでもある
その頃のリーロ
リーロ「よし、それじゃあ計画を変更して工房街で薬中を探してみよう」
中毒者「なんか悪い気分だなぁ 夢中になれるあのお菓子を食べたいからね」
リーロ「どわーっは、はよう正気に戻らんかい!(静寂の祈り)」
中毒者「感謝するよ小さなシスター、お礼に情報全部ゲロってやる行けー!」
ローン「ボクゥ?情報を漏らした子と聞いた子やね?チョーワタクシと一緒に来いや」
リーロ「おーっ死ぬかと思ったけどサーシャが戻してくれた!よし、計画通り大人しくサブクエやるで!」
「マジかー…」
真っ白な砂が広がる空間で、1人の少女が途方に暮れていた。
「そういえば深淵は空間が捩れてるから、転移の魔法だと辿り着けないんだっけ…だから真っ当に攻略してマーキングもして、少しずつ進める…」
正常な判断が出来ていれば、深淵の中で転移するなんて事が自殺行為だと思い至っただろう。
しかし今のサーシャは正常ではない。腹ペコで兎に角帰りたい思考で支配されていた。
それでもジャッジ先生の魔法の痕跡を追って転移すると考えられてはいたのだが…時属性と同じく、転属性もまた、使い手で仕様が違う事を忘れていた。
シーシャの扱う転魔法は、同伴者がランダムに転移する仕様があると発見出来てなかったのだ。
「……願いが叶うらしいけど、どうすれば良いんだろう。枷は無いし願う…だけじゃ無理だよね…また研究かーぁ…」
サーシャは研究がそこまで好きでは無い。
魔法を使ったり、決闘のような堂々とした戦闘の方が好みだ。
特に3日も食べられてない環境では、兎に角ご飯を食べるのが最優先だった。
「えー…無の力が砂に、物質になってる…それならなんで神様は魔力を介して物質化を…?生き物は無理…という説はシーシャが反例だよね。えー?神様何考えて直接作らなかったの?」
サーシャは掘り出した無の力を弄りつつ、先駆者として参考にしようとした神の行動の意図に疑問を抱いた。普通に生き物や物質を作れるなら、なぜ魔力なんて一手間を加えたのかと。
「……あー、魔力にするのって楽なのか。あ、魂も作れた…なるほど、作った当時は神様もそんなに賢くは…いや偶然の産物が魔力と魂だったってことかな……時属性の魂も出来ちゃった」
サーシャは無の力をかき回して魔力を生成し、手で押し固めて水属性の魂を作るのに成功した。
時属性は『貸与(劣)』などの魔法陣を無の力で包みながら押し固めたら出来た。
かなり雑でも出来る辺り産まれたばかりの神様でも簡単に出来そうだった。
そんな神話で神が全知全能だと記されてないが故に到達した考察を、首を振って思考から振り払う。今は神様の事情を考えるほど暇ではないからだ。
「なるほど、作成した人の属性になり易いね。偶に変なのが出来るけど…見た感じ氷と…何これ、思考、操作、念力…思念?念属性って見た事ないけど…へー、水の帰属性って氷と念なんだね」
帰属性、それは基本となる四属性に其々連なる二つの属性のことを指す。
火なら光と熱、風なら音と雷、土なら木と闇。
水は氷は判明していたが、その数からもう一つの方はこれまで未発見だった。
さらりと実証されてはいるが、もしこの事実が判明すれば水属性はすぐさま危険視されるだろう。
誰かを支配、洗脳できる魔法に目覚める属性の持ち主なんて、居ない方がマシだからだ。
「あーでも覚えはある…通信の魔法で何故か犬猫鳥に命令出来たり、抗魔が高かったり…そっか、鍛えると念力使えるん…だけど今はどうでも良い。ご飯か帰り道」
そんな事実も今のサーシャには関係ない。
自分以外誰も居ない環境で使える操作能力ほど、無意味なものはなかった。
「で、面倒だけど…編み出した肉体言語は…うん、効果あり。水が湧き出した。監獄と同様なら、深淵と無の力は刺激に対する同様の反応性質を持つ」
水分を摂りつつ、思考を続ける。それ以外に活路がない以上、そうするしか無かった。
「…もうシーシャを創れるほど体力は無い。正直くたくた。その上で…手元にあるものを確認してみよう」
サーシャは手元にあるものを確認した。
白くて軽い砂、湧き上がる水源、握って作った時と水と氷と念属性の魂、無の力、そしてサーシャ自身。
出来る事は水魔法、不完全な術式だけの時魔法、其々禁忌級の魔法二つ(内一つは自作)、肉体言語、錬金、
場所は深淵の最終層、深淵の最奥。世界を創り上げる無の力、その先に広がる世界の外。
ただの経過観察の筈が、事故に事故を重ねてとんでもない場所に来てしまったと、思わず笑ってしまう状況だった。
「……はは、出来ることある。でも、辿り着くまでの思考と倫理観の足取りが重い。…だが、やるしか無い」
少しずつ、カサついた唇を動かして進める。
「私はここに居る…しかし魔物は居ない…恐らく、ここにある全ての砂が、微弱な思考伝達の妨害を果たしている。この砂漠の深淵は魔物が少ないと聞いた。恐らく、そのせいだったんだ」
乾いた指先で、砂を撫で、重さを確認し、軽く上に放り投げた。
投げられた砂は長い時間滞空し、ゆっくりと落ちた。
自分でジャンプしても普通に落ちる。重力は変わらない。重さも普通のと変わらなかった。
「…軽いね。その内上に登って…んー…生成途中だと云うなら、何が欠けている?その欠けているものが、この空間で少ないのか?…砂…砂…あ、コレか」
サーシャは『貸与(劣)』の術式を魔力の糸でで具現化しつつ、砂に押し付ける。
砂の上に魔法陣の窪みは出来たが、特に変化は無かった。
「ここ、
周囲の流れる時間が遅いのは理解した。しかし、サーシャは通常速度で動けている。
個人に宿る時間が足りているから、相対的に周囲の時間より素早く動けるのだ。
「…で?…横道か…寒気も合わせて熱も無さそうかな。今作った魂が使えるか考えよう」
今度は創り出した魂の前に行く。肉眼や魔力視では見えなくとも、魂の波動の研究をしたおかげかそこにあるのは把握できていた。
魂がそこにある感覚、サーシャはそれを掴み始めていたのだ。
「1、砂に押し付ける…変化無し。
2、同属性の魂同士を押し付け合う…崩壊…他の属性も同様の結果が見られた。
3、別属性、氷と水…氷と念…念と水…時と水…時と氷…変化有り。時と念…こっちも変化有り。変化した物は水の帰属性と時属性、どちらも見たことのない属性へと変化した」
水の帰属性と時属性の配合の結果を観察し、更にベースにした固有魔法で変化があるのかを確認しつつ、その挙動を脳内で演算する。
実に10分、積み重なった疲労を考えれば異様な速度でサーシャは秘めた可能性を看破した。
「…固有魔法に変化有り。最初は『貸与(劣)』をベースにしたが、『推理(劣)』『難題(劣)』でも同様の属性だった。魔法陣の中身は関係ないらしい」
無の力を纏った手で二つの魂を掴む。直接魂に触れることは出来ない物の、無の力があれば掴むことが出来ていた。
「氷時は停止、停滞、固着、封印…結界に特化した魂。念時は譲渡、奪取、保管…魔力操作に特化した魂。属性の名前は…そもそも属性が無い…何コレ、魔法の一分野に特化してる魂なんて初めて見た」
判明したものは、基本の属性から大きく外れた論理で成り立つ魂だった。
今まで魂が魔法に与える影響は属性の一点のみだったのが無くなり、代わりに才能や素質とも言うべき物に置き換わっていたのだ。
「…人類とは、世界を広げる為の魔物を起源とするもの。これは人類の魂として扱えるだろうけど、世界を広げる為に必要な属性を持ち合わせていない。……いずれ来る世界が完成した後の時代、新時代の人類だ」
今は例外なく属性を持ち合わせている者しか居ないから、思考の端にも存在しなかった物だ。
属性を持たないが、無属性ではない。自らの意思で魔力を変化させられるが、物質を産み出すには非効率。魔力をそのまま運用するか、近くにある物を動かすか。
この魂が魔法を扱うとすれば、そうする方が効率的な魔法になるだろう。
「…全ての魂其々才能が違うっぽいけど、食べられないならどうでも良い。産まれるのが早過ぎるし後1000年ここで産まれることを待った方が賢明。次行こう、次」
そんな実験成果も今のサーシャにはどうでもいい。創り出した魂達を砂の中に入れ、未来に託す事にした。勿論後で必要になったら掘り出す予定である。
世界最高の結界の魔法の担い手となる魂も、小国でも魔導文明の大国に押し上げうる魔力操作の才能も、その他19の魔法の黄金期を築ける魂も、今日のご飯にならないなら不要だった。
この原初の時間と水の根源を基に作った魂達は、千年後に人間として勝手に産まれている事だろう。
「そして問題児。深淵の意思に肉を出させる案…でも私を基にすると人肉…この際腹に入ればいい…どうしよ、魅力的な案に見えてきた。自分の肉なら最悪良いかなって気分」
ここまで思い悩んでおいて何だが、サーシャは既に確実に食べ物に有り付けるやり方は思い付いていた。
シーシャの時のように自分の生身を参考にさせて肉体を作り、その肉を食べる案だ。
最初から死んだ状態で創れば、自分殺しはしなくても良い。それをしない理由はただ一点、自分を食べるのはダメという倫理観だけだ。
出来る限りこの考えは避けて通りたかった。
「…地味に…本当に地味な事だけど、私は未だに、あまり自分の手で直接殺しをしたことがない。だからこんなに躊躇している」
ここでサーシャの戦歴を振り返ってみよう。
略奪兵は全員火力不足で気絶。その後村人達が魔物の住まう森に放り投げる。
ダルクと一緒に行った雪山のシマ、ダルクが対処。
未来から来たローンはカーリー任せ。歩行していた学園生徒は死に戻りした結果として救出方法無しとして見殺しに。
中間テストの森の深淵、『渦巻』にぶつかりに来た鳥が自滅。
監獄でのシーシャは自分から蠱毒を実行…。
そう、今に至るまでサーシャは、自分から殺しに行って成功した試しがないのである!
水属性の火力不足、周囲の耐久力、決闘は好きでも殺し合いは避けたい性格。全てが合わさった結果、未だに甘いことを言う初期状態のままなのだ。
「…よし、ちょっと休憩に寝よう。もう3日間も寝れてないし…答えはこれまでの経験に眠っている筈。終わりの時計塔から今に至るまで、振り返ろう」
サーシャは一回眠って休むことを決意すると、真っ白な砂の上で小さく丸まった。
日が当たらず、時が遅く進み、世界の外に最も近い場所。
既に気温は0度を下回ろうとしていた。
幾らサーシャが水魔法の使い手で寒さに耐性があると言っても限度がある。ましてや食べれずにここまで不眠不休で来たとなれば…。
「…はぁ…寒い…」
白い息が立ち上るのを見て、サーシャはゆっくりと瞼を閉じた。
少しでも長く生きられるように、誰も来るはずのない場所で。
「おじいちゃん、サーシャはどこからきたの?」
夢を見ていた。
「みんないってたよ。サーシャはパパとママがいなくてへんだって」
「サーシャ、お前は拾い子だ。川で流れていたのを拾った子供。だからワシは知らないのぅ。さて、捨てた親より魔法を教えよう」
「ふーん。どんなまほーをおしえてくれるの?」
「ほっほ。禁忌と呼ばれるすっげー魔法じゃよ。これを使えば何にでも勝てるぞー?でもいざという時しか使っちゃダメだからの?」
「すごそー!」
幼い夢、何も知らない私が禁忌を手にした時の夢。
「むー…ぜんぜんできない…」
「サーシャ、焦ることはない。魔法は積み重ね、少しずつ学んで行けばよい」
「…うん!がんばる!」
少しずつ、おじいちゃんの言う通りに毎日積み重ねて魔法を手にした日々。
「眼に魔力を集めても良く見えるだけじゃん!ねー本当に魔力視なんてあるの!?」
「焦るなサーシャ。想像力が足りんだけじゃ。魔力の操作は想像力の世界。自分が感じ取れる全てを想像力で眼に映せばよい」
「それが!出来たら!苦労は!しないっ!!見たものを感じてる私はどこに居るかって知らんし!魂ってなに!?もー良いよ出てく!おじいなんか知らない!」
訳がわからないと投げ出して、村の畑に隠れた日も有ったっけ。
「ぐすっ…ちょっと言いすぎちゃった…日が暮れるまで帰りづらいし…」
「おいっサーシャ!ここに居たのか!爺さんが!!」
「え?」
でも、別れが後悔しか無かったのは悲しかったな。
「おじいちゃん!…おじいちゃん?……うわああぁぁ!!」
「ミールの奴が見に来た時にはもう…」
「そんな…そんな…仲直りしてないじゃん!!さっさと起きろよおじい!また魔法魔法って喧しく私に教えろよ!」
魔法を覚えるのが上手く行ったのは、それからだった。
「脳にこそ思考が宿り、眼と脳の繋がりこそが…魔力を込めれば脳に逆流し…」
「今日もか?」
「ああ…親が死んでからはずっとだな」
「やーねぇ…女の仕事してもずっとアレじゃあ不気味で話しかけづらいったら」
のめり込むように魔導書に齧り付いた。魔法陣を必死に脳に叩き込んで暗記した。
「よー。この村にある金と飯と女、全部寄越せ」
「そんな…」「帝国兵だ…」「春だぞ?種籾が奪われちまうと…」
「………今が、私の使い所じゃん…ふぅーー…」
そして、あの日が来た。
「それは受け入れられない!」
「あ?なんだお前…服に枝に帽子…おいおい、こんな所に骨董品が居るよ」
「私サーシャは、お前達に決闘を申し込む!私が勝てば立ち去って貰おう!」
「は?………あーはいはい。オッケーオッケー。水魔法使い様のお立ち合いって訳だ。なら俺ちゃんが勝てば、お前もこの村もぜーんぶ!!…頂いちゃうってことで」
「………」
「…行け!サーシャ!」「ずっと頑張ったんだろ?その時だ!」「ここで奪われればおしまいよ!」
「…良いよ、その条件を飲む」
「そうか…よ!!」
風圧で納屋まで吹き飛ばされ、立ち上がって…出会いを果たした。
世界にとっては些細なものでも、確かにあの時、私の運命は切り替わった。
死んで
死んで
死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで!!!!
「私が私じゃなくなっていくみたいだよね」
いつの間にか、リーロの死体に囲まれていた。
頭部のないリーロが目の前で喋っていた。
「死んで時間を巻き戻してさ、そのおかげで全部上手く行った。略奪兵は倒せたし、お菓子の時間を乗り越えたし、禁忌に並ぶ魔法を作ってみんな助けられた」
例外なく、全ての死体と血の糸で繋がっていた。
全ての血の糸は私の髪先から繋がっていて、今の私に
「そんなにさ、私は凄くないよね。16年かけて禁忌と幾らかの魔法、そして多少の技術だけしか覚えられなかった。そんな人がさ、ポンポンと素晴らしい功績を作れるかな」
よく感じ取れば、どの死体も生きていた。
血は真っ赤なものが流れているし、心臓の音があちこちから聞こえる。
後ろで、誰かが死に切れずに苦しんでいた。
誰が苦しんでいるのか見たくなくて振り向きたく無かった。
「もう分かってるんでしょ?犠牲になってるのは
目の前に立っている頭のないリーロが倒れ、血に沈んだ。
それでも、声が聞こえた。
私の口が喋っていた。
「死に戻るだけの、簡単な魔法じゃない。実際の過程はこうだ」
喋っているのは私だった。
「リーロが死ねば発動する。死亡地点と巻き戻し地点までの時間を
それがただ死んで戻るのとどう違うのか。
一つ、前回より悪くなる事はない。
一つ、次回の死亡地点までの過程が死亡時点で確定する。
一つ、回数制限さえ取っ払えば、理論上可能なあらゆる可能性を取り出せる。
それは、リーロの言っていた銃の仕組みにも似た魔法だった。
事前に
5つの弾が尽きるまでに伸るか反るか、どれだけ
「これなら辻褄が合う。死ねば確実に研究が進んでいたことにも、リーロが不自然なほど情報を持っている事にも」
これが正しいとすれば、それはあまりにも無法な力だろう。
可能性を掴み取れる限り、絶対に負けることのない魔法なんだから。
当然、その対価も相当なものになる。
きっと後ろで苦しんでいる誰かがそれだ。
残念ながらこの空間は夢だろうから、真実ではないだろうが。
「…だけど、もっと怖いことがある。死んだ痛みや苦痛の肩代わりも、長い時間の苦しみも、想定出来るけど、それ以上に」
仮になければ、より恐ろしい事実が待っているのだ。
「…恐るべきは
この魔法の構造上、死亡回数があるのは可笑しいのだ。
だって、無限に出来ればそれだけで無敵だ。
分かりやすく秒針を真っ白にしていく必要もない。
「…人格の交代。より良い時間になるように、より良い選択をする者が私やリーロの席に誰かが座る…証拠なら有る。
そして、私の才能…頭脳も、一月前よりも明らかに良くなっている実感がある。
…何より、証拠がない。
私が『
既に自分で死に戻りを利用した研究は有用だと証明したのだ。
MRCもなく意思疎通が出来ないMMを、おじいちゃんがリーロの人格の交換も気付かずに使い潰した可能性は0にはならない。
「もし…もしそうなら…この可能性に思い至っているなら、私はリーロの親友を名乗るべきではないし、全ての要求を飲み、肉体を開け渡さなくてはいけない。じゃないと釣り合わない」
だから思考から逸らした。可能性から目を逸らした。
「同じだ…『
「大罪人の砂漠牢の捜索記録」
人員:ジャッジ、フラン、ダンテ、コープと希望生徒のカーリーの5名。
結果:転魔法による移動の痕跡を確認。転移先に行こうとした段階で不審者2名と戦闘。
戦闘時の過程を誰も覚えていないと証言。事前に発生したジャッジとの症例と類似。
コメント:記憶操作、或いは消去。精神操作の魔法は誤認までの筈ですが、これは随分と高度ですね。我々の知らない魔法が開発されたと判じ、確実に捉える為選りすぐりのメンバーで向かいましょう。