不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計   作:何処にでもある

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 その頃のリーロ
リーロ「はーっサブクエやってたら呼び出されたで。ダンテ先生何の用や?」
ダンテ「なんで先生達が生き返ってるのか一緒に調べてくれよ」
リーロ(終わりの時計塔のノイン(9席)のリプレイって奴の仕業っすね)
リーロ「はい!一緒に調べますよ!ニコニコ」




換・薔・二九

 

 

「そっちの方はどうなのだ?」

「ダメだな。見た感じ例の不審者って奴は居なさそうだ」

「幸い転移先は判明していますし、そこで待ち構えてみては?」

「ダメなのだ。サーシャが重要なら効くだろうけど、そうじゃなきゃ罠をかけられてお仕舞いなのだ。帰り道もあるし、先に危険を排するのが確実なのだ」

「危険を排するなら、この傷も治さなければなりませんね」

「…うおっいつの間にこんな怪我してたんだ?」

「さっきの魔物との戦闘でヘマしたんじゃないのだ?」

「かなぁ…?」

 

 灼けるほどの日差しが一面に広がる砂漠の深淵で、この場には不相応な格好の集団がいた。

 王都では一般的なジャージみたいな服、船旅に出た人夫のような服、シスター服。

 砂漠を舐め切った服装と戦闘跡ではあったが、もし魔法使いならその魔力量と練度から指摘はしないだろう。

 王都魔法学園教師。王国以外の国であってもこの肩書を聞けば丁重に持て成すだろう。

 世界中の魔法使いが憧れる学園の教師陣は、その噂だけでもやれ山脈を作った、大渓谷に成程地面を叩き割った、灼熱の地獄を兆現させたなどど、その実力を表す話に枚挙に暇がない。

 それほどの人物達が徒党を組んで対応にあたるとなれば、それだけで伝説が一つ出来上がる事を予感させるのに十分だった。

 

「全く…面倒だな。どうして学園から隔離した場所に持って行ったんだか」

「学園が危険だからに決まってるのだ…お前もMRCを盗もうとしたのなら答えは出てる筈なのだ」

「歴史に絶対に乗る一品なら早く触れてみたいに決まってるだろ?」

「あれは大変でしたね…みなさんが使ってみようとてんやわんやで…」

「ベアトリーチェ先生はお疲れ様なのだ!」

 

 サーシャの件は異例だ。

 入学一月で魔法界隈の最高傑作と名高い魔杖(MM)を次のステージに引き上げた。

 莫大な魔力を生産し、不可能だと思われていた魂を生前の状態に戻す蘇生に近い現象を起こし、自由に共鳴反応を引き出せる。

 それをたった鉄50kgと魔法陣だけで創り上げたのだ。元から過剰技術(オーバーテクノロジー)だと言われていたものを更に洗練させるもの。

 リーロに準じた例えをするなら、平安にスマホがあるとして、そのスマホから食べ物や電気を幾らでも取り出せる機能を追加出来るようにした…と評すべきだろう。

 それくらい、突拍子のない偉業なのだ。

 

「まぁ…分からんでもないのだ。だからこそ、あのままじゃサーシャが死にかねないと判断したし、隠れ場所としてこの深淵を選んだのだ」

「その結果が自分で昏闇層に飛ばして、自分は忘れましたってか。良いご身分だな、サーシャは今頃枷のせいで飲まず食わずだろうな」

「それに、水属性は儚い方が多いとも聞きます。普通なら一月はそれでも問題ないですが、水属性は3日も経たずに死ぬと…」

「あーあー分かった分ーかったのーだー!一刻を争うから急げって言いたいんだな!?ちょっとリスキーだけどさっさと転移しに行くのだ!」

 

 ジャージのジャッジがそう言うと、2人を両脇に抱えて、それから勢い良く飛躍した。

 風魔法による『大跳躍』、どれ程離れた場所にあろうとも、1時間も経たずに到着する魔法だ。

 その弱点は派手な跳躍で位置がバレる事。

 そして、着地時に罠があっても回避出来ないことだ。

 

(あ、やっぱあ)

 

 ドドドドドドド!!‭─‬‭─‬

 

 着地と同時に、無数の爆雷が衝撃で爆発する。

 

(あ、や祈

 

「祈りぃぃい!!」

「やってます!」

 

 10秒、20秒、1分、1()0()()…爆発は止まらない。

 まるで、ずっと爆発する時間が繰り返しているように、この光景は繰り返される。

 着地した先生達も、時間が固まったかのように動かない。

 

(あ、や鎮

 

「鎮火あぁ!!」

「ダメだな、発動前に戻る」

 

 20分、50分、3()()()。衝撃に身を晒されていた。

 まるで自分の時間が遅くなっているようだと、3人の先生は辛うじて思考する。

 

(あ、やっぱりあ、やっぱりあ、やっぱりあ………

 

 脱出する方法に辿り着く前に思考が()()

 ずっと同じ思考に囚われる。それが分かっているのに、ずっと繰り返す。

 衝撃自体はそこまでではない。障壁を作る魔法で防御していた。

 しかし、この爆発は異常だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 傷だけが増えて、有利になるものは全て消えていく。

 なんて事のない針の一刺しで、少しずつ削られていた。

 

(あ、やっぱりあ、や『大跳躍』!!!)

 

 ド!!……‬

 

 それでも、魔法の最高峰は伊達ではない。

 魔法への抗魔(レジスト)を見逃さず、もう一度飛び出して回避し…

 

「防御!レジスト上げ!」

「祈りましょう、その魔法の蝕みへの抗いを」

「盾は展開した。まだ記憶の忘却、精神系が残ってる。同士討ちに警戒しろよ」

「こはっ…」

「…おいおい」

 

 エイハブの助言と同時に、風の刃がベアトリーチェに襲いかかった。

 ()()()()()()()()()

 

『勿論!お前らが死ぬと良いのだ!』

「は、的確に主格が取られたか!」

 

 脈略は一切なく、魔法の痕跡も一切ない。

 あったとしても最高峰の魔法使い達すら気付かないのなら、それはもうそういう性質の属性だろう。

 場所は空中、落下しながらの攻防となった。

 

 初手、周囲の空間の圧縮。対抗、空間そのものの燃焼。

 二手、誤認や幻覚による一時退却。対抗、事前に掛けられた抗魔向上による無効化。

 三手、圧縮した空気による砲撃。対抗、肉体の炎化と拡散によるダメージ軽減。

 四手…ベアトリーチェの復活。心臓へ指先を向け…。

 

「祈りましょう、世界の広がりを」

 

 『拡散の祈り』、魔法で生成された物質と魔力を広範囲へ拡散し、効果を薄くし無効化する祈り。

 結果、ジャッジが復活し…。

 

 ヒュッパッゴッ。

 

『祈りましょう、哀悼を込めて』

「条件有りだろうけどくっっそうざったいのだ!」

 

 『切断の祈り』、指先から白い血の刃を作り、切れば相手の構造を()()()()祈り。

 対抗、格闘技術による手元の押さえ込み。カウンターとして膝蹴りを喰らわせる。

 

『………』

「二人同時なのが特に!」

 

 それと同時に背後から迫る不意打ちの火砲を風の壁で防ぎ、風圧の解放で2人を地面に叩き落とした。

 

 ドッ!…すた。

 

 距離が離れた場所に着地し、周囲の空気の揺らぎを()()

 魔力視では無意味なら、実態を確認すれば良いと考えたからだ。

 

「…居ないの‭─‬‭─‬!!」

 

 ゴッ‭─‬‭─‬キィィ…ン‼︎

 

 独り言を呟くと同時に、頭部に衝撃が走り、追撃の凶刃を風を纏った手刀で迎え撃った。

 ギチギチと圧縮された空気と刃が火花を散らし、そこで漸くジャッジは相手の姿を確認出来た。

 

 ジジ…ジ…。

 

「ははっ!それどういう原理なのだっ!?どうやったら()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 其処に有ったのは、V(5)と彫られた仮面を付け大鎌を持ち、真っ黒なローブを羽織る者。

 小柄な黒髪のツインテールの女性…の、()()だった。

 魔力は感じない。実像も存在しない。有ったのは、蜃気楼が見せた脳の錯覚。

 それなのに、()()()()()()()()()()()()()

 

 魔力の無さ、繰り返し、謎の精神操作、幻覚のブレ…こんな出鱈目が出来る基礎属性は存在しない。

 故に結論は時属性による魔法。固有魔法の中でも応用力の高い時間の魔法だ。

 

「そりゃあ見つかる訳ないのだ!幻像を気にかける奴がいる訳ない!過去の光景が今と切り結ぶなんて、倒せる訳もないのだ!!」

 

 大鎌を弾き、後方に下り対峙する。幻覚も大鎌を持ち直し、今まさに其処にいるように振る舞ってはいるものの、実際はとっくの昔に一人で動いた光景の焼き増しに過ぎない。

 だから、映像が途切れて置き換わるなんてことも、不自然ではない。

 

「だいっ…回!転!」

 

 四方を囲った映像の追撃を風の刃で掻き消し…()()()()()()()()()()()()

 

「…かはっ幻像を消しても攻撃が止まらない!〜ッチイ! 面倒なのだっ!!」

 

 そう言うと同時にジャッジの周辺に竜巻が起こり、砂を巻き込んで広がる。

 『嵐の陣』、周囲一帯に攻撃し、一網打尽にする上位の魔法である。

 

「ちまちまっちまちまっ削りやがって!小物臭いのだ!」

 

 ジャッジはそのまま首に掲げていた鍵を手に取ると、錠を開ける動作を行った。

 

 ガチャンッ!

 

 すると転移する為の空間の捩れが周囲に広がり、鍵を使った時の音と共に周囲一帯の空間が置き換わる。

 砂浜は森に、森から魔物が溢れ、無数の植物の侵食と共に映像を巻き込んで砂漠を緑化していった。

 

 ザァッ!

 

 その森の中を隠密系の魔法を全力にして駆け出していく。

 事前に用意された動作が動いてるだけに過ぎないならば、手段は不明でも未来を確認する手段がある。ならば、全力で発見されるのも困難なものにしてしまえば良い。

 過去に攻撃出来なければ倒せないならば、避けて通るのが真っ当なやり方だった。

 

「新手ぇ…他人を操作する奴もそういや居たのだ」

 

 しかし未来を確認出来るなら、向こうは幾らでも探して用意する時間がある。

 

「一応…聞く。なんでこんなことをするのだ?お前はちゃんと現在に居るのだ?」

 

『さぁ…みんなフィアと居ると自分が分かんなくなっちゃうから』

『出航…用意』

『祈りましょう、その結末を』

『でも一つ教えられるよ。今からあなたは、わたしを深く刻みこむ』

 

「…はぁ」

 

 目の前に居るlV(4)と彫られた仮面を付けた精巧な人形と、その傍に佇むベアトリーチェとエイハブを見て、ジャッジはため息を吐いた。

 金色の髪、全身を隠すローブと、そこから見える真っ黒なロリータファッション。

 王国風の服装ではあったが、チラリと見える肌面積から遊女の着るものだ。

 だから人形だと見破れたが、これを着せた奴は性格が悪いとジャッジは考えた。

 

「よし、もうお前に興味はないのだ。その二人を置いて、大人しく砂漠を彷徨ってるのだ」

 

 ()人間で悪趣味な人形遊びをするなんて、人の尊厳となんだと思っているのか、と。

 

『どうして?もう繰り返しの中に居るのに、どうやってさまよえるの?』

「はっ?…あー…()()()なのだ」

『その質問にはもう3()8()6()()答えたのに、まだ聞くんだね』

 

 ジャッジが一太刀浴びせるように手を振うと、目の前の人形はバラバラに刻まれた。

 そして二人を地面に叩きつけて気絶させ、転移の魔法を発動する。

 

 全てが、ジャッジの意思で行われた行動ではなかった。

 

「…そりゃあ最初も2回目もボロボロになるのだ。終わるまで続くんだから」

 

 転移が発動する。視界が歪む。

 

「そっちの方はどうなのだ?」

「ダメだな。見た感じ例の不審者って奴は居なさそうだ」

「幸い転移先は判明していますし、そこで待ち構えてみては?」

 

 今まで通り、最初からになった。

 傷を治し、戦闘し、遭遇し、また戻る。

 景色の変わることのない深淵で、悟ることなく永遠と。

 

「…何か来ます!」

 

 ドォォ…ン。

 

 だが、388回目は違った。

 もう直ぐ無限に繰り返して爆発する地点で、早期に爆発が発生していた。

 

「あれは転魔法なのだ!全方位、魔力の揺らぎには注意するのだ」

「向こうからのお出ましか?」

「いえ、先程から隠れていた方々がその利を捨てるとも思えません。第三者かと」

「どっちにしろ確認するしかない。跳んで行くから捕まるのだ」

 

 『大跳躍』を行い、遠目に見えていた爆発地点の近くに降り立つ。

 魔法を展開し、いつでも守りも攻撃も出来るようにしてからクレーターを覗き込んだ。

 

「…子供?」

「あの枷は…やっぱり、水属性の魔力が染み付いてますね」

「サーシャが渡したのだ?いや枷だけ渡すってどうなのだ…?」

「俺が近づこう。その為の人選だろう?」

「頼むのだ」

 

 エイハブが近づいて、全裸の少女の顔に垂れた髪を退かす。

 

「おい、おい、生きてるか?」

「んー…」

 

 閉じた目、穏やかな寝息、僅かな魔力…学園だとよく見れる、魔法の使い過ぎによる気絶の症状だった。

 転移の魔法をこの少女が使ったとすれば納得だが、それはないとエイハブは判断した。

 

「よし、持って帰るか」

「ぐぇっ……」

 

 少女が時属性の魔力だったからだ。エイハブは少女を肩に背負って二人の下に戻った。

 

「大丈夫なのだ?」

「問題ない。ただ気絶してだけだ。それに時属性だ。保護した方が良いだろう」

「まあ、タイム家の方ですか!もう全員死んでいるものかと…」

「起きたらそれ言うの絶対やめるのだ。貴族の位を返した以上、タイム家はもう何処にも存在しないのだ」

「そういやサーシャのMMは固有魔法が未来視とか何とか聞いたな。そして時属性の子供…なあ、関係あるとは思わないか?」

「まさか不審者がタイム家の方々のMMを使っていると?だとしたら面倒極まりないですね」

 

 3人が留まって会話を繰り広げる。条件を踏んでいないのか、襲撃や精神攻撃はなかった。

 

「……いや、あり得るのだ。時属性なら魔力の反応がないのも説明が付くし、襲撃にも納得出来るのだ」

「サーシャのMMを回収したい人々が居る…そういうことですか?」

「…どっから情報が漏れたのか知らないが、今回の件はそれで説明が付くな」

 

 先生達が同じもの思い出す。彼らにとって、それは苦い思い出だった。

 数年前に王国で横行していた貴族狩り。それによる貴族の位の返上。

 隠れ潜んだ貴族達をMMにして、その力を我が物にせんと起きた夜の暗闘。

 ここに居る先生達は、その元貴族を守る側として戦った人達だった。

 

「元タイム家の姉妹が最後だったか。あれ以降、パタリと貴族狩りがなくなったんだよな」

「確かあの時は…エイハブ先生の護衛でしたか」

「失敗したがな。王都にあるが学園は王国所属ではない。だが…関係ないとはいえ、近くでそんな話は胸糞が悪かっただけだ」

「それなら尚更警戒するべきなのだ。相手は時属性の固有魔法持ち…既に術中に嵌ってると考えるべきなのだ」

 

 その警戒が正しいかどうかは、大鎌の一振りで解答された。

 

 


 

 

「…出来た」

 

 真っ白な砂漠にいる中、サーシャは目の前にある大樹を見てそう言った。

 

「勇者の文献にある、魂を果実として実らせる大樹を参考に作った果樹…正確には薔薇だけど…リンゴが生るようにしたから後は待つだけ…時間を用意しなきゃ」

 

 眠ったまま死ぬのを4回繰り返し、悪夢を見た事で辛うじて起床し水を飲んで生存。

 その後偶然見つけた服にくっ付いていた薔薇の種と無の力を加工し、果樹を創り上げる所まで進めたのが現状だった。

 

「時間…時間…もう死ぬ事は出来ない…毎日のように死んでたから残弾の5回フルで使い終わった…後が無い…錬金」

 

 こうなるとなりふり構える余裕は消える。

 無の力と魔力と魂を混ぜ合わせ、時間を物質化していく。

 幸いシープ達を治す為に苦労して時間を研究していたお陰で、時間の構造は把握出来ている。

 後はサーシャの残り少ない体力に依存しない、自動的に時間を生成する魔道具を作るだけだ。

 

「変換効率の良い物…時属性と無の力から純粋な時間。感情と個体の時間。魂から魂の時間。足りないのは個体と魂。時間抽出機と大樹と私.人体を参考に…生物を構築すれば…」

 

 必要なのは時間そのものを生み出す時属性の魂と、その作られた時間を適切に再分配する機能だ。

 足りない要素は、感情を持つ生き物と分配機能。混ざり切った時間が自然と溶け込むのを待つと餓死する以上、時間を自動で分配する装置は必須だ。

 生物の方も、果樹という生き物の時間として必須となる。

 

「肉と骨…血を川に…死なないように…苦しまないよう思考を存在させず…だけど感情は必要…根っこで繋げて…死んだ時に時間を…二種類作ろうか…」

 

 そこでサーシャが考えたのは生き物によるネットワークだ。

 普通に無の力でサーシャの生身を再現しても食い扶持が増えるだけ。

 なので身体のパーツを分解して、それを実らせる植物にした。

 そして感情を感じても、それを苦しいと感じないよう調整した。

 魂が無くても生態として感情を発露させ、その時間を採取出来るようにした。

 

 アハハ!!

 

 アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!

 

「…できた。「笑う薔薇」無の力から魂を実らせ、感情の発露の笑いを花粉の放出時として再現。枯れる瞬間に時間を放出。それによりこの空間に時間を増やす」

 

 それは、この世界にいるどんな魔物よりも魔物らしい存在だった。

 真っ白な砂漠に流れ始めた血の川を啜って咲く赤い薔薇。

 それが急速に実っては枯れるのを繰り返し、この砂漠に枯れた花の大地を広げていく。

 それが何度か繰り返されると真っ白な砂が赤い砂に変わり始め、この空間に時間が作られているのを知らしめていた。

 

 シク…シクシク…。

 

「そして作られた時間を「泣く薔薇」が吸収。果樹に時間を適切に与え、果実を実らせる」

 

 それは、果樹に巻き付いた青い薔薇だった。

 花弁の隙間から黄金の粉として不要な時間を排出しながら、果樹に時間を与えて急速に果実を実らせる。

 予め時間を得ることで寿命が延びるのでは無く、より早く果実を実らせるようにしたのが効いていた。

 そして、いくばもしない内に真っ赤なリンゴに似た果実を実らせた。

 サーシャはそれをもぎ取ってシャクりと齧り、久々の食事に笑顔を綻ばせた。

 

「〜〜〜!!うっま!」

 

 アハハハハハハ!!!

 シクシク…シクシク…。

 

 血の川、発狂したみたいに笑う薔薇、憂鬱気に泣いてる薔薇、赤くなっていく砂漠…。

 ただ人肉を食べるよりも絵面がひどい物になっていたが、4日間水だけ生活だった影響で視界には入ってなかった。

 実の所、悪夢の影響もあって倫理観のタガが少し緩くなっていたのだ。

 

「……ふぅ…うっわ、ヤバ」

 

 正気に戻ったのはリンゴを5つ食べ尽くしてから。

 人類が1日に必要な栄養が一つの果実に詰まり、欠けていたものを補う果実を5日分食べ切ってからだった。

 狂気の産物であることに違いはなかったが、間違いなくサーシャの命を繋ぐ役割は完遂していた。

 

「創っておいてなんだけど酷過ぎる。改善しよう」

 

 血行が良くなり、肉とハリの戻った手で錬金の用意をする。

 最低限の役割を果たす要素だけの状態に手を加え、人類に役立つ範囲で魔物としての役割も与えた。

 

「ふぅ…出来た」

 

 ズルズル。

 

 数時間後、サーシャの目の前には大きな赤い薔薇と大量に伸びた真っ白な茨の魔物が茨をくねらせて徘徊していた。

 隣を歩いても攻撃する様子はなく、寧ろサーシャに小さな果実を渡して来た。

 サーシャはそれを受け取ってたべつつ、座って創った魔物達が徘徊するのを眺める。

 

「笑うの、泣くの、リンゴ。全部合わせた「原始薔薇人間」…時間の足りない場所に向かい、辿り着いたら永住。時間を調整しつつ、次の種を用意する…そして人類には友好的。果実も環境整備の性能も落ちたけど…うん、その分生き物らしくなった」

 

 遺伝子上なら薔薇と人間のハーフだろうか。

 見た目こそ大きな薔薇ではあるものの、血は流れるし魂も脳もある。魔法も使えるし教育すれば喋られるだろう。小さな果実は人でいう爪の延長としてサーシャが調律していた。

 これでも事実が判明すれば正気が削れる類のものだったが、先ほどよりは幾分かマシだった。

 

「…で、食料は解決。脱出は…転属性の魂の作り方、地道に探すかぁ」

 

 ズルズル。

 

「ん?…あーそうだね…折角だから色々教えてあげよう。転属性の薔薇人間だけ賢くても寂しいだろうし、だからといって賢すぎてもなー…神国に有るって聞いた「部族」レベルに調整しようか。後は…転移で帰れたら、足にした薔薇人間はいっぱいお土産を持たせて帰らせよう」

 

 食べ物が有るとなれば余裕が出てくるのが人間だ。

 見た目こそあれだが友好的な人類の一種族、創ったなら責任持って育てる必要があるだろう。

 

「あ、そうだ。いずれこの深淵も消えるだろうし…その対策は必要かな。進化し易くなるように調律しようか」

 

 サーシャはしばらく此処に留まることを決めた。

 

「…a…s…o」

 

 薔薇達は、その様子をジッと観察していた。

 

 






「人類種」
 人の起源は精霊の魔物ですが、その後に人類は4種に別れました。
 論理的な思考になりやすい王国民、攻撃的な帝国民、冒険と金銭で脳がいっぱいの商国民、そして自己改造で特徴的な神国民。
 エルフやドワーフ、そこまで特徴的に別れるのはまだ先でした。
 最近では、薔薇と混ざった新たな人類種が産まれました。

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