不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計   作:何処にでもある

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 死んで覚えていきましょう。




奪・忌・三

 

 

「拘束すれば良いでしょ」

「ひっはーーっ!!」

「そこ!」

 

「…っ!」

 

 ギュルルル…!

 

 水球を水の壁に変換して、攻撃から身を守った。

 

(避けるのを基本に盾は最小限に…目的は時間稼ぎだから、節約で…水球を増やし過ぎると維持分で無くなる…!)

 

 地面から生える岩の鎖、炎の槍の雨、風の刃…『拘束の鎖』以外は通常攻撃の範囲だ。

 それらを移動と盾で防いでいく。

 ゲームにおいても、ここの序盤は援軍が来るまでは耐久戦だ。

 余裕を持たせて水球を作り過ぎると、サーシャの多めのMPでも尽きる。

 魔法で物体を常に浮遊させるのだ、そりゃあ維持費もある。

 

「…おいおい、拘束は怯んでからだろ?初手でやっても回避されるだけだぞー!」

「…みたいっすね。すんません、魔法を使うの初めてで」

「あー、いーいー。微兵の農民はそんなもん!隊長俺っち気にしまちぇーん!」

 

(こっちの気も知らないで…!新人教育の題材にするとか…!)

 

 硬質化し鋭くなった木の葉の群れを、『水放射』による放出と、MMで上昇した跳躍を合わせて回避する。サーシャの下を、木の葉が通り過ぎた。

 …なんか、急速に俺の魔法の扱いが良くなってるな。サーシャがメインで動かしてるとしても、俺って手伝える程上手かったか?

 さっきまで水纏の魔法で無駄に水球使ってたレベルなのに?

 くそっこんな事なら前世で設定資料集を買って見ておけば良かった!共鳴反応関係ってことしか分からん!

 

(やっぱり…見た目の多様さで騙されそうになるけど、当たらないのもあるし、全部一直線の単調な攻撃だ!使ってる技術は高度だけど、使い手のレベルは低い…!)

 

「あの、隊長の攻撃見せてくれませんか?あの速さでやれるって思ってたんで」

「お、よーし隊長が見本見せちゃぞー!MM側に意識を合わせて…切るべし!」

 

(…そこ!)

 

 ヒュ、ギュル!、ヒュン…ピチャ…、

 

「おー、これこれ、やっぱ隊長すごいっすわ。自分無理なんで魔力切れの拘束狙います」

「…やっぱ防がれるなァ。水魔法の癖に何処で経験積んだんだ…?」

 

(やっぱり…このMMを持ってから空間が把握出来る。いつもより世界が立体的っていうか…知らない人の目を借りてるみたい。動きもそう。出来るって確信と一緒に…最初に声が聞こえてたけど、中に誰か居る…?)

 

 他よりも弾速のある不可視の攻撃を、事前に軌道の上に水壁を置いて散らせる。今度は3つの水球だけで壁を作り、完全に散らせる事が出来た。

 

(それに、MMに意識を合わせる…やっぱり誰か居るんだ。じゃあ、これはその人の感覚と力…最初以降声は聞こえないけど…間違いなく力は貸してくれてる…今はこれが命綱だ)

 

 サーシャは俺を強く握り、汗を垂らす。状況を把握し始めて、かなりギリギリなのを実感し始めたんだろう。

 それは俺もだ。プレイして数時間の知識と攻略サイトを流し読みした程度の知識では、足りない事が多い。さっきからずっと感じてる。MMとの経験の共有とか知らんし。

 

(取り敢えず、王国軍の到着まで時間を…)

 

 それから、サーシャと俺は必死に攻撃を防いでいった。

 まだゲーム感覚だからか、一斉に攻撃が飛んでこなかった事もありかなりの時間を稼げたと思う。

 だが…

 

(…あっマズ)

 

「‭〜‭〜…イ"ッ」

「お、当たった」

 

 片足に炎の槍が突き刺さる。

 油断はしていない。目では追えていた。

 それなのにこうなったのは、疲労だった。

 魔法を使えるだけの村娘のサーシャは、とっくに魔力も体力も限界に到達していた。

 後は芋蔓に悪い方に進む。片足がやられて動きが鈍くなった。魔法で拘束された。

 捕まって緊張が切れて、水球の維持が出来なくなった。

 

「んーこれはー…手足の首じゃなくて太ももや腕はノーカンとしてー、拘束した奴の勝ち!」

「おー、結構嬉しい」

「魔力切れと拘束の作戦勝ちだねー!俺ちゃん結構見直したぜ?」

「あざっす」

 

(…考えろ。突破口は時間が巻き戻った奴だ。MMはある。再現すればいい。一度きりとか、出来なかった場合は考えない。どの道今は詰んでる。条件はなんだ?魔法に必要な対価は…?)

 

 俺の方が条件に関わってるかも知れないので、俺も考える。

 幸い、俺はまだサーシャの手の内にある。

 魔力切れだと思われてるからだ。もう杖が有っても無害だと判断されたからだ。

 思い返せ…あの場で一番大きな変化は…

 

(思考…死にたく無いとは今も思ってるから違う。詠唱や魔法を使うキッカケは無かった。時間を戻す対価で、あの時の私に最も釣り合う物は…)

 

 命だ。

(命だ)

 

 サーシャが手首と指先で俺を回し、先端を自分の頭に向ける。

 拘束がお上から抑えつけるタイプで助かったな、サーシャ。

 でもマジでやるのは覚悟決まってるわ。

 

「…あ?おい女、お前何を…バッ…!」

 

 ザシュ…、

 

 

カチッ

 

 

‭─‬‭─‬‭─‬無理なんで魔力切れの拘束狙います」

 

(…予想的中!)

 

 時間が巻き戻り、戦闘が始まってから直ぐの頃に戻った。

 丁度隊長の攻撃から身を守った頃だな。

 …うーん、俺の先の方、白色が広がってるな。もしかして回数制限あるのか?

 

(死んだら戻る、魔力が尽きても問題無し、代わりに武器の白いのが増えて…何度も出来ないって事ね…上等、助けが来ないなら…自力で倒す。動き方は分かってる。それなら避けるのはこっちの方で……出来れば使いたく無かったけど…禁忌術式で突破する!)

 

 サーシャの意思に合わせ、禁忌術式の詠唱と儀式が俺に展開された。

 中は勿論、秒針の外側にはみ出て幾つもの陣が展開された。

 

「あぁん?…あ?…オメェら!ゲームはやめだ!アイツ、俺らを一掃する気だ!」

「え、ざこじゃ無いんすか?」

「ド新人が!今まで遊んでやがってて、今になって本気出したんだろうよ!わけわかんねぇ気狂いの類いだ!」

 

(うっさいな…盾無しであの猛攻を回避するとか無理なの!今は出来そうってだけ!)

 

 兵士達が顔を合わせ、それから隊長の指示に従って剣を構えた。

 やって分かったが、禁忌術式は複雑で手間がかかる。数ヶ月の儀式を俺の内側でやるんだから当たり前だが、これを十数秒で終わらせるのは骨が折れるぞ?

 だが、今までの魔法の使用で勝手は分かった。

 今から……15秒、5ターン頑張ってくれ。

 

「総員攻撃!」

 

 カラフルな攻撃の弾幕、ゲームで言うなら軍団化による攻撃範囲の拡大。

 MMは魔法を効率的に扱えるが、知らない魔法を使える様になるわけじゃ無い。

 後々研究で作れはするが、今は無い。

 普通の農民に与えても、精々が自分の資質に合わせた属性の魔力弾だ。

 

(…見えた!そこの道を…こう!)

 

 炎の槍をくるりと避け、その先にある風刃の一撃を屈んで、その先の木の葉を跳躍して、着地点の土の針山は俺で高跳びする様に使って避ける。

 死ぬまで攻撃されてたのもあってか、癖の分かってる方に進んで、慣れた動きで良ける事が出来ていた。

 

「チィ…!なんだって戦士みてぇに動ける奴が…!魔法が使える奴はそれ使え!」

 

 隊長のお喋りも含めて3ターン、なんだかんだ隙が多いのが助かるやら、練度が低いやら…俺らにとっては助かる話だ。

 

(避ける動線は出来るだけジクザクに、立体的に…!軽く感じてるけど、実際は私より重くて頑丈だから、体重は遠慮なく預けてよし…!)

 

 時計塔の秒針はそりゃあ頑丈だろうな。鉄だもん。

 右、左、体の向きも考えて当たる面積は小さくする様に、宙を飛ぶなら弾道とは平行線に。

 一度死ぬまで避けていたものだ。魔法が増えたとしても、人の目で追える範囲なら、経験を得て疲れてないサーシャには避けられる。

 なにより、俺の前世分の経験も得ているなら、尚更だろう。

 

「…くそっ!なんで全部回避出来んだ!?さっきと今で全然違ぇし、何より…」

 

(…アイツが喋ってる間は攻撃が薄い!なら…)

 

 俺を使った高跳びと、回転と、上がった身体能力の、全てを使っての全力移動。

 突然の急上昇で、攻撃の通ってない宙に舞った。

 戦場全体が見渡せる中、サーシャは俺を略奪隊に構えた。

 

「今だ!落ちるだけの奴に当てろ!」

 

(‭─‬‭─‬その指示と狙いを付ける時間が欲しかった)

 

‭─‬‭─‬15秒経った。いつでも撃てる。

 

(声が…!…うん、一緒に乗り越えよう)

 

 サーシャが言葉を紡ぐ。喉が切られても、不思議とその名前を言うのは出来るらしい。

 

‭─‬‭─‬『禁忌‭─‬水‭─‬』

 

 サーシャの全ての魔力と、俺の中にある殆どの魔力、そして空気中にある魔力が連鎖反応を起こし、水に変換された。

 それはまるで雨粒のような、洪水のような‭─‬‭─‬‭─‬

 

 

 禁忌術式。

 俺が転生したゲームにおいて、都合の良い戦闘スキップ機能だ。

 使えば先ず勝利する事ができ、戦略ゲームが苦手な人用の魔法として扱われていた。

 主人公のサーシャのみが使用する事出来てる、絶対勝利の魔法。

 

 攻略サイトの引用になるが、物語においては、昔の災害を呼び覚ます、呪われた蘇生の魔法。

 自分達だけが確実に蘇らんとその在り方を書き換えられた蘇生の魔法。

 魔力資質の数だけ存在し、その多種多様な災害は、この世界の歴史を物語っている。

 火山噴火の火属性、地震と地割れの土属性、大竜巻の風属性、際限無く樹海が出来る木属性……

 

 実際、ゲームでは使っても問題無かったのだ。ストーリーは使わずに勝利した体で進んだし、攻略サイトでも難しかったら使う事を推奨していた。

 キャラ達も、俺の知ってる範囲では反応が無かった。少なくとも序盤中盤では話題に出されてなかった。

 

 だから知らなかった。

 

 ざーーぁ…、

 

 大雨が、全てを洗い溶かしていた。

 

(そんな、こんな事になるなんて……)

 

 ちゃぷ、ちゃぷ、

 

 サーシャが雨でぬかるんだ道を歩く。略奪隊も、村も、全てが溶けて消えていた。

 

(雨に触れた途端、穴だらけになって…全部溶けて…使った私とMMは無事だけど、みんなも、見渡す限りの木々も、消えて…)

 

 全てが、3秒もかからずに消えていた。

 禁忌とされる理由が、現実となってこの上なく理解出来た。

 ぬかるんだ地面にサーシャの足が沈んでいくのが、地表を削り続けてる証拠だった。

 

(…いや、ぼうっとするな。まだMMは真っ白になってない。私はやり直せる。初めて使って、知らなかったからこうなっちゃったけど…今度は気合いで倒せば良い。少なくとも、これは私が死ぬよりもダメだ)

 

 サーシャが前と同じ様に脳天を俺で貫こうと()()

 

 ガシ、

 

(…え?なにこれ)

 

 貫く直前、誰かに阻止された。

 全方位が見える俺にも気付かれずに、それは突然現れた。

 

 透明な泥の塊みたいな、雨で溶けた人間のような…或いは、化け物の指先のようでもあった。

 サーシャが頭を振りかぶって死のうとすると、額を抑えて阻止される。

 息を止めて地面のぬかるみに溺れようとしても、無理矢理立たせて、透明な触手のようなもので喉を開け、腹を殴られて無理矢理息をさせられた。

 

(…禁忌の魔法で蘇生されたなにかだ。殺さないのは…まさか、MMで巻き戻されない為?ちぃっ何だって把握されてるの…!?)

 

 早く死なないとマズい、戻れなくなる。

 俺の方でサーシャを殺さなきゃいかん。

 どうする…?頼らなくても今の俺で一番役立つのはゲームの知識だ。

 死に戻る方法…なにか、なにかないか?

 

(魔力の暴走…もうすっからかん。制御も呼び覚ますまで、蘇生した奴を自由には出来ない。雨を息をする場所に入れて塞ぐ…?運次第だし、バレたら簡単に防がれる!)

 

 …それだ。まだ俺の中にある魔力で水球を肺に作れば!

 

「……コポ」

 

(…!? 息が…!そっか、MMが魔法使って…!バレずに死なないといけない。声と表情は動かしちゃいけない!)

 

 サーシャは必死に諦めた様な脱力と演技をする。

 水に満ちた肺で苦しいのに、反射的に咳き込むのも抑える。

 

(…まだ?まだ死なないの?…苦しい、くるしいくるしいクルシイクルシイクルシイ!)

 

 素潜りで、4分や15分息をしなくても泳げる人がいる。勿論そういう訓練を積んだのもあるが、人間は元から息をしなくても結構長く生きる事が出来る。

 幸い今回は、サーシャが魔法が使えるだけの村娘で有ったこと、事前の息止め行為で酸素の足りない状態なのが有利に働いた。

 

 1分、それがサーシャが苦しんだ時間だった。

 

 

カチッ

 

 

‭─‬‭─‬‭─‬落ちるだけの奴に当てろ!」

 

「‭─‬‭─っ…‬ハァ!!」

 

(やり遂げたやり遂げたやり遂げたやり遂げ…止まれ止まれ止まれ止まれ!!!)

 

‭─‬‭─‬あれはダメだあれはダメだダメダメ攻撃だった!うおぉっ中断されろ!

 

 3回目の死に戻りと同時に、サーシャと一緒に魔法を中断する為に術式をめちゃくちゃにする。

 既に秒針の殆どは白くなっていて、死ねるのもあと1、2回といった所だろう。

 魔法を中断する方法とか知らないから、兎に角めちゃくちゃにした。

 

 ギュルルルッ!!

 

(うおぉ!?なんか出て来た!?兎に角、これで何とかなれーー!!)

 

 その結果、めちゃくちゃデッカい水纏の壁が出来上がった。

 

 なんだかゲームで見た『渦巻』の魔法に似ている……あ、もしかして今のめちゃくちゃにした行動、ゲームで研究する方法の一つの、「ランダム研究」と同じ事をしたのか?

 確か既存の魔法を適当に弄って良い感じに作るやり方だった筈…元にする魔法のランクが良いほど成功し易いからな。それでも最高14%くらいだけど。

 特にサーシャの「禁忌‭─‬水‭─‬」は最高ランクだから、序盤の魔法研究で有効だった筈…魔法のダメージ倍率とかもランダムになるから当たり外れもデカいけど…今は兎に角ありがたい!

 そして運が良い!何回も死んだだけはあるわ!

 これで違ったら桜の木の下に埋めても良いよ!

 

「ガポポポ……」「助け…」「うわ!…」

「死にたく…」「イテっ石当た…」「持ってかれ…!」

 

(あ、めっちゃ強い!なんかめっちゃ強い!)

 

 『渦巻』、ゲームにおいては、高所から落ちて、かつ多人数に対して使うと有効打になる魔法だ。

 「水球」を全て消費して、消費した「水球」×「ランダム研究なら0.1〜3%、ノーマル研究の場合は1%」×「1.(高低差マス)倍」のダメージを、攻撃地点から2マス先まで届かせる魔法だった。

 中盤の終わり辺りの魔法だから、不遇から脱却したくらいの性能してるのがまた良い。

 …閉所だと使えない制限が有ったけど、それはまぁ良いだろう。

 

 兎に角、

 

「はぁ…、はぁ…」

 

(か……勝った…!)

 

 周囲に転がる瀕死になった30人の兵士と、息を上げながらも俺を杖に立っているサーシャ。

 

 俺達の戦闘チュートリアルは、3回の死の上で乗り越えられた。

 

 






「サーイシャの村」
 サーシャのおじいちゃんの代が開拓した、国境近くの森に作られた村。
 特産品は木材、魔物避けの魔石、帝国軍が来たらその身を犠牲にしてでも伝える役目。
 森の中は危険な魔物がいっぱい居る為、安全な道の関所か危険なこの村を通るかの2択。
 性質上、実力のある旅人、探窟家、軍隊の通り道になり易い。

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