不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計   作:何処にでもある

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 ここでは本文に載せるまでも無い細やかな日常が3〜4行で語られる。

 日常風景「魔物の倫理観」
「今日からママといっしょにすごせます!」
「シーシャさん、残念ながら教養のテストが-100点となりました。その簡単に人を殺そうとする思考が消えるまで、教養の先生である私、アニーの教助手として常に横に居させます。拒否権はありません」
「なん…だと…?」

 日常風景「後半辺りの薔薇族の実の味だよ」
「よし、MRC用の嗜好品として百通りの味わい(フレーバー)のグミを作った。強化は無いけどまた食事を楽しめるよ」
『アザーぶぉえ…匂いは良いのに何この味』
「罰ゲーム用のはなくそ(薔薇族)味」

 日常風景「迅雷で更新した」
「通信会社が儲かるのはありがたいけど…人手が足りないわ!」
『手伝うよ!』「やっほー、リーロのオマケだよ。あ、画面通話機能作ったから追加したよ」
「不思議ね、人手が増えたのに仕事が増える方が早い。まるで疾風ね」

 日常風景「いつも食べてたから」
「おい、この理論おかしく無いか?」
「どうしたのダルク…ああ、これは研究理論じゃなくて料理手順だよ」
「ああ、だからおかしいんだ。チョコクッキーを作るのに石ころは必要ない」

 日常風景「石ころなら問題なかった」
「……美味いな、このクッキー。知恵が湧き出るような味だ」
「うん、ダルクの協力の下知恵の真髄を小麦粉で再現した。パンにして表面に理論を書けば暗記に使えるパンになる…代わりに下痢になるのが欠点かな」
「……その対価は先に言って欲しかっぐっ!?」

 日常風景「HELLチーム結成、解散」
「うーん、路上ライブが上手く行くことは増えたけど物足りないな。こう、僕を引き立てつつ華になる男子が…あ!あの人は!」
「僕の名前はヘルシング!!へいへいノッテるかーい!!!」ギャーンワーワー!
『やっほー調子は…乗っ取られてる…』

 日常風景「命のポーズらしいです」
「一日50個限定ショートケーキが…目の前で売り切れました…!」
「リーロが予約してくれたショートケーキ…ジュル…美味しそう。お、リサじゃん丁度良いや一緒に食べ…そのポーズって落ち込む時に取るものなの?」
「‭─‬‭パアア─‬…我が家の伝統と聞きました」

 日常風景「調べたら深淵には通じるポーズだった」
「シーシャ、倫理観の勉強頑張ってる?」
「むずかしい…命ってなに?…生きてるってなんでしょう…ぜんぶ魔力にすぎないのに…」
「…よし、それなら形から入ってみよう‭─‬‭パァァ─‬見て、コレが深淵にも伝わる命のポーズだよ」

 日常風景「実は推理力は乏しいんです。」
「ダンテ先生、そう言えばリーロに協力を仰いだ蘇りの件、答え見つかりました?」
「終わりの時計塔だとは思うんですけど…地図にまとめて証拠がないか探してるんです。魔法発動時の待機場、各地トラップ、教師連続ぶっ殺しゾーン……うーん、何処が変なのでしょうね。」
「連続で殺す過程で蘇ってますよね」




往・解・三三

 

 

 サーシャが終わりの時計塔を殴り飛ばしたあの日から()()()、6月が始まる直前の夜に、ダンテが厳かな一室の前に立っていた。

 

 コン コン

 

「失礼します。どのようなご用件でしょうか、学園長…いえ、王様。」

「うむ…楽にせよ、大したことではない。普段より学園が騒がしい理由が知りたいだけだ」

 

 ダンテが扉を開けた部屋にいたのは、長い髭を蓄えた老人。この学園の長を務め、同時に3ヶ国に囲まれた王国を支配する王だった。

 臣下の礼を取り、言葉のままに顔を上げ、王の向かい側のソファに座る。一連の流れは作業のように恙無く進み…普段通りなのだろう。ダンテも慣れた様子で腰掛けていた。

 

「ではこの場では学園長と教師の雑談としましょう。」

「…して、なぜ一年生の教師が全員休養を取ることになった。お主も…相当酷い目に遭ったそうだな」

 

 この呼び出しには原因がある。ダンテは普段、手紙をMMに運ばせて連絡しているのだが、稀にこうして呼び出されて直接話すことがままあった。

 その理由は大抵学園か王国で何かが起きた時。今回はサーシャが発端となった一連の騒動が原因なのは明白だった。

 

「はは…私はしてやられただけですよ。教師の方は問題ありません。後2日もあれば全員が完全復活です。」

「そうか、その身は大事にせよ。見知った知人を見なくなるのは侘しいものだからな」

「ええ。」

 

 そこまで話して、お互いにお茶菓子を手に取る。本題に入る前の補給だった。

 

「今回の原因は、サーシャという生徒が禁忌を研究の参考にしたのが始まりです。何処で覚えたのか禁忌を持ち合わせ、その術式を参考に「MRC」という物を制作。その膨大な価値に教師生徒問わずに目が眩み、それから避難させる為にジャッジ先生が深淵の牢屋に入れる判断をしました。」

「うむ…その魔力炉(MRC)とやらはどんな力を持つ。」

「貴方様なら既にご存知でしょうが…私の所感で良ければ。」

 

 お互いに一息入れ、ダンテは肩に止まっていた小鳥を人になるように言う。

 魔力を生産していた小鳥のゴーレムが変化し、幼い子供に変身した。

 

『お久しぶりですね、王様!僕、人に戻れるようになりました!』

「ご覧の通りです。MMの強化パーツ、合わせることで擬似的な蘇生…いえ、実体化が可能になり、MMの形態では魔力を絶えず湧き出すように変わりました。つまり無限の魔力…正面戦闘に特化させた印象ですね」

「ふむ…では、サーシャという子は何故このような物を作った?その意図はわかるかね」

「それは…これも私個人の意見としてお考えください。」

 

 人型になった我が子を抱きしめつつ、ダンテは意図を考察する。

 先に考えてなかった訳ではない。改めてそれが正しいのかを再確認していたからだ。

 

「結論から言いますと、M()M()()()()()()()()()()でしょう。友のために行うならば、どれも不自然ではありません。人として話せるように、所有者の魔力に依存しないように、そして何かあった際に友の場所へ行けるように。」

「うむ、もう一つ加えるべきだな。魔力を産み出すのは特徴的だ。それこそ、世界の外から見てもはっきりと分かる程だろう。こうなっては隠れることなど出来るはずもない。今の世に蔓延る暗殺合戦に魔力炉(MRC)入りの魔杖(MM)では参加できないだろう」

「つまりその死の経緯への配慮もある…と?」

「考え過ぎか?だが、友人なのだろう?ならばその死に方を知っていれば、自分はやらない意思表示をしたくもなるだろう」

 

 そうして交わされた考えは一国の王と臣下としては甘い考えであり、学園の長と教師としては正しいものだった。

 仮にこれが王国以外の会話であったならば、MRCに絡めて野心の是非や生かせる価値について話し合っていたに違いなかった。

 

「私の所感は以上です。友人の為の発明であり、世界に広めるような意図はないと見られます。」

「よろしい。であれば釈放とし、今後作り教えぬ事を約束させよ。当初の大願を果たしたならば、欲が出ない内に封じてしまおう」

「異論は有りません。他に創り見つけていたものに関しても聞き出し、場合よってはまとめて処置しておきます。」

「うむ…して、残りは?」

「2つですね。倉にあるスクロールはそれだけです。」

「そうか…」

 

 ダンテが貴族として取り立てられているのは、その血筋に宿る証の魔法が由来だ。約束を絶対とし、必ず守らせる魔法が目覚めるからこそ、こうして王様の前に居る。未だ土属性のまま覚醒してないものの、遺産のおかげで貴族の責務も果たせることが出来ていた。

 逆を言えばこの責務が果たせなくなった時までに覚醒していなければ、ダンテは貴族の座を追われることになるが。

 

「キッカケは得たか?」

「…すみません、未だ遠くに。」

「焦るなよ。固有魔法は本人の資質次第。自分を知ればいずれは目覚めるだろう」

「はい…。」

「…ふぅむ、そう言えばだ。教師が蘇った理由は分かったか?」

「それらしきものであれば、今回の騒動を引き起こした終わりの時計塔(Time out)という組織が。対処したサーシャとそのMMの証言によりますと、タイム家の役割を代行し、時間を繰り返すことで擬似的な蘇生すら引き起こしていた…と。」

「Time out…タイム家の失敗(Time out)か。随分とふざけた名前だ。位を返上したとはいえ、彼奴らの死後の尊厳を貶めるとは」

 

 机の上に置かれた茶器がカタカタと揺れる。

 王様は冷静に言ってはいたが、内心怒りを感じたらしい。魔力が漏れ、周囲に異常を与えていた。

 

「王よ、お鎮めください。お体に障ります。」

「…すまないな、最近はどうも感情的になる」

「いえ…なにか、知っておられるのですか?」

 

 ダンテは茶器に入った僅かな切れ目を土魔法で修復しつつ、そう問いかけた。

 産まれてからずっと王様に仕える人生だったが、ダンテの知ってる限り今まで一度もこのようなことは起こさなかった。

 ずっと穏やかに、淡々と物事を進めてきた王が、名前を聞いただけでここまで心を乱された。

 

 タイム家。

 

 ダンテも若き頃に聞いたことはあるが、実際にその家門の人物を見たことはない。

 時魔法はつい最近身をもって体験したものの、知っていることは民衆の認識とそう違いはなかった。

 

「なに…返しきれなかった恩があるだけだ。あの一族は時間が関係してれば千差万別の力を発揮してな。不老は序の口として、飢餓が起きれば食料を急速に増やし、病が流行れば流行る前まで巻き戻して初動を抑え、知りたい過去と未来が有ればこの眼の前に映し出した…ある意味、無の魔法よりもずっと、万能とも言えたな」

「そこまでですか?」

 

 こんな事を言う王様だが、無法さでいえば王様も大概だ。

 あらゆる事を忘却させ、災害を消し去り、擬似的に他の属性の魔法を再現し、無類の強さで全てを薙ぎ払える。

 ダンテには、それが劣っているとは思えなかったのだ。

 

「無の魔法は願ったことしか出来ん。しかし時魔法は想像も付かぬことをするのよ」

「私にはどちらも同じに聞こえますが。」

「知ってることしか出来ぬ者と、新概念を生まれ持つ者の違いは…いずれ分かる時が来よう。言っても分からぬものであるからな」

 

 ぼーぉんっと、部屋に置かれていた大きな古時計が深夜を告げる。夕焼けも落ちた夜、みんなが寝る時間を知らせていた。

 

「精進します。…では、私はそろそろ下がらせて貰います。勅命の方は有りますか?」

 

 ダンテも話を終わらせる事にしたのか席を立つ。学園の仕事も貴族の仕事が待っていた。

 王様はしばらく考え込むと、鋭い眼光でダンテを見つめながら命令を下した。

 

「学園調査の任、大義であった。タイム家由来の魔杖(MM)を持ち、お祖母様(神様)から与えられた()()勅命の代行者を自称するならば…()()()()そう悪いことはしないだろう。代行者…大枠で見れば、王族の命で動いている王国所属の組織だ。以降はコチラが進めよう」

「はっ。では私の今後に関しては…。」

「どうともせよ。明日より三年内のお主が望んだ日を解雇とし領に戻す。()()()()()()()()生徒を連れ出しても構わん」

「…!寛大な処置、感謝いたします。それでは。」

 

 ダンテが部屋から立ち去り、部屋に残ったのは王のみとなった。

 与えた褒賞は、人材の面で見れば破格のもの。忘却してしがらみを忘れた学園生徒を、自由に引き抜きや青田買いしても良いという権利だ。

 それは王国以外の人々も手を出して良いという事で有り、生徒が忘れた過去を王様が自ら対処する事に他ならない。

 仮にこれが俗物であるならば、器量才能良しの容姿端麗を何人も囲んで領に戻り、それによる不都合を王が自ら守ってくれる中で、その生涯を幸福のまま終わらせたに違いない。

 ダンテがやるかは兎も角、王様が与えたのはそういうのも出来る権利だった。

 

「やらぬだろうな。この手に持てる頃より見てきた。あやつは生涯を1人の為に費やす誠実さがある」

 

 眼を閉じる王様の瞳の裏には過去が映っていた。

 産まれたばかりのダンテを、その両親から渡されて持った日。

 偶に会う度に大きくなり、好むものを必死に王に伝えようとする姿。

 許嫁と共に玉座の前に来て、子供が出来たことをに話していた顔。

 「貴族狩り」で妻と子を亡くした時の慟哭と涙。

 

 昨日のことのように思い出せる。歴史には一文だけしか載らないだろう悪夢の日々、表立ってないだけの「戦争」で家族を亡くした、あの哀れな青年の姿を。

 玉座でも学園でも全員が消えた。あの日々から、王国は王族とダンテと民しか居ない国になった。

 後ろに付き従う頼り甲斐のある者たちが1人となった。

 

 それなのに、悪い夢のように死人が授業をしている。

 終わった筈の夢想が、誰かの手によって継続されている。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「水魔法のサーシャ、賢くタイム家と因縁がある。しかし本質は知恵と好奇心、それも選り好みの激しい者。これで学園に収まる程度の才能で有れば生涯を歴史にも残らぬ研究に費やしただろう」

 

 それらを思考の傍にどかして支配するのは、望外な結果を出した学生だ。

 この終わった筈の学園が最後の集大成とばかりに引き連れた野生の天才…いや、もう既に偉人の領域に辿り着いた者。

 大霊書庫、この学園にある、世界中の知恵を集める場所。

 知恵と知識を格付けし、驚嘆すべき素晴らしい物程奥の本棚に置く世界の脳。

 王様が確認した段階で、サーシャが今まで研究した資料やレポート、日記用の手帳やメモ書きすらも最奥の本棚に仕舞われていた。

 

 それが意味することは、世界にとってサーシャが遺すだろう全ての情報が、この世界全ての知恵と知識を上回っている事を意味していた。

 

「魔力炉、ホムンクルス、時魔法の劣化再現、シーシャや呪符による固有魔法の陳腐化、深淵へ奉ずる祈り、薔薇族、宝石による魂の再現、共鳴の技術化、並行世界の観測、神に至る魔法、人体錬成、複合魔法、科学技術、通信魔法……挙げればキリがなく、完成した物だけでこれか…理論だけならばもっと多いな」

 

 王様はその最奥から取り出したサーシャの日記やレポートを閲覧し、その叡智を得た。

 そこにあったのは、滑稽極まりない空想のような、仮説と検証資料。

 しかしどれもが"可能"と"不可能"(『難題(劣)』で確かめてメモった)の簡潔な最後で締め括られ、最奥に置かれたことも考えれば否が応でもそれが"本物"であるのを証明している。

 

「…我が祖母(神様)が望んだ隣立つ神。サーシャは、それに成れる者なのだろうな」

 

 思い出すのは、稀に会った時聞かされた神様のお言葉と父から聞いた発言集だ。

 

 「俺の隣に居てくれる神様いい加減出てこいやおらー!俺以外も神に成れるのは分かってんだよー!」

 「神国に処刑にされかけた…嫌われたよー!全国民に神に成るやり方を教えただけなのにどーしてーぇ!」

 「神にならない?じゃあカスでしょ。これからお前が永遠に俺に話し相手兼パシリになるって話をしてるんだけど?……あ、魔王になったあ」

 「もうマジ無理…星の旅人の野郎は俺の男性を奪ってくしさー!どっか行くしさー!アイツ女だったのに性別奪ってまで俺のケツを…うわーん!」

 「でへへ…ムッコ(息子)かわええ…神になれムッコ…永遠に俺と一緒に居てくれ…母胎に戻っても良いんだよ…?あ、母乳居る?」

 「ムッコ…少しでも未練があれば神に成れたのに…俺を置いて逝く事に何の呵責もなく死ぬとか人の心ないんか?」

 「はーっ!ムッコ蘇れ!」

 「マッゴ()お前かわいくないな」

 「はーっ!ムッコ蘇…どわー!?変な化け物産まれたぁ!?あっ蘇生魔法が一発で取られた!封印しろマッゴ!」

 「マッゴってマンゴーと似てね?お前食べたら美味しいかな…冗談だよ、一厘くらい」

 「最近気づいたんよ。今まで神に成る直前の奴には、毎夜夢の中で俺が直接スカウトしていた。勿論昼寝でもしていた!もしかして全員にウザいって思われて拒否られたたんじゃないか?」

 「ターイム!!思ったより人類が神にならないぞタァーイム!!こうなったらお前ら一族が人類のチャンス期間作れタァァァイィム!!!!長く存続させれば八百万は出来るやろ?たぁいむ…!」

 「なんで2000年経っても神が出てこないの?偉業を満たせば成れるようにしたのになぜ?」

 「待ってー!?神になってよ!死なないでー!最悪不老不死でも良いよ!?ここで死んだらみんな悲し…おいテメェライン超えたな?この野郎俺の寂しさを慰める盆栽にしてやろうか?…あー待って待ってまだ褒美渡してない!この種をあげるからー!?…しゃあっ不老不死の話相手、勇者くんゲット!」

 

 思い出して、ゲンナリした。碌な記憶がなかった。

 これの血を引き継いでいると考えると、自分が少し嫌いになる。

 そう思いたくなくても、王様は思わずそう考えた。産まれてからずっとこのノリで話しかけられて尚、慣れない相手だった。

 

「既に気付いてるやも知れんが…神に成るのだけは辞めておけと言ってこう。ふらりと来ては三日三晩あれの話し相手になるのは…国王と勇者と魔王と教祖だけで良い」

 

 チクタクと振り子の動く音が響く部屋で、王様は溜息を吐いた。

 上を見れば頭にお花畑が広がった相手が居て、横を見れば虎視眈々と王国を喰らおうとする敵国、下を見ればサーシャやタイム家と激動の訪れを予感させる物ばかりだ。

 未だ大きな人類同士の戦争はなかったが、それを予感させるものがそこらじゅうに広がっていた。

 

 激動の世がこの星に訪れるのを、王は感じていた。

 

「…だが、幸いな事もある。20年前、タイム家がまだ貴族の時に老人の儂に嫁いできた変わり者。『回顧』の時魔法で儂との間に産まれた双子だ。…ほほ、まさかこの年で我が子が産まれるとはの。この血は儂の代で途絶えると思っておったが…人生分からないものじゃ」

 

 それは、ダンテにも言った多大な恩の中身だ。

 10に満たない幼い少女に親切をしたらその次の日に嫁ぎに来た。

 自分のどこに惚れたのかは、聞く前に「貴族狩り」で少女が死んで今も分からないが、『回顧』でお互いに適正年齢の肉体になって過ごした三年は輝いていた。

 

 だからこそ、返しきれない恩と抑えきれない憤怒が心の底に沈み溜まっている。

 

 次代の為に、死んだ妻の為に、より良い国を残したい賢王の側面と、妻の死体を弄び、こんな悲劇を創り出した存在に対して復讐したいと願う、暴君の側面が鬩ぎ合うのだ。

 普段は良い。賢く在れる。だが、目の前に手がかりが来た。

 長く生きた自分より未来に溢れ、変わり者だが自分を選んだ妻の死体と魂を弄ぶ者の手がかりが。

 

 何を対価にしても取り戻してみせたくもなる。

 MMを実質蘇生出来る魔力炉も手に入れた。押収されたMRC争奪戦に参加して7つ程拝借した。

 妻の魂と魔杖さえあれば良いならば、共にある賢者との約束を忘れて暴君になっても良いと

 

「だからのう…盗み聞きはいかんぞ?代行者(墓荒らし)

 

 パッ。

 

 直感に従って拡散の奇跡を使い、魔法を無力化する。何もない筈の場所から確かな手応えが返ってきた。時属性の一族と長い時間付き合いがその目を見破らせた。

 

「世情を知らねば未来の詳細を詰めるのは難しく、故に大国の動きを決める場には必ずお主らの眼がある…逆探知されてると気づいておったか?ほっほ、この国の脳は三つしかおらぬからな。他よりも危険だと心得ねばならん」

 

 見つけ出した場所に向けて束縛の結界を敷き、大霊書庫から手にした『通信』の魔法を応用した『通信遮断』の魔法理論を無の魔法で実現する。これで連絡も出来なくなった。

 王様は部屋から出ると、かつての友人から貰い受けた転魔法の鍵を取り出す。

 

『開錠』

 

 錬金で作った物ではなく、長年特定の道具を触媒に使う事で魔法の力が宿った、原始的な魔道具だ。

 錬金はこの工程を人為的に進める素晴らしい技術では有ったが、だからと言って昔に魔道具が一切無かったわけではない。昔には昔のやり方で力を遺す方法があった。

 

「さっすが王様」

「ふむ、その見た目は…アンテナ…と言ったかの」

「残念ループだよ。怒りでボケちゃった?…で、どうする?私はもう逃げ切ったけど」

「…そのようじゃな」

 

 転移した先に有ったのは王国のどこかにある平原。植生的には神国に近いだろう。

 コインを弾いて暇を潰す、ループの過去を再現する幻覚を見て、王様は踵を返した。既に居ないのなら用は無かった。

 

「それであんたの奥さんだっけ。そのMMの居場所を教えてあげようか?」

 

 だが、その言葉で足は止まった。未来を見る事も出来るループの発言は、嘘の可能性があっても足を止める価値があった。

 

「残念だけど私たちは持ってない。賢者に聞いて知ってるでしょ?貴族狩りの狩人が持った時に暴発して、300年前の過去に行ったって」

 

「先に教える理由を言って欲しいのお」

 

「そっちの方がいい未来になるから。少しでも暴君になると王国が滅ぶ。そうなると各地の災害が防げなくなって人類が終わる。老人だし落ち着き持てよおバカだなぁ」

 

「…して、何処にあると言うんじゃ。まさか王国の宝物庫と言うつもりはあるまいな?」

 

 灯台下暗し。そう回答された場合、王様はこの幻覚のある場所を粉々にするだろう。

 賢者に過去に行ったと知ってから、片っ端から時間があれば探し回っているのだから。

 宝物庫は、一番最初に徹底的に調べた場所だ。

 

「ムーン神国関係。具体的に知りたいなら…やって欲しいことがあるからそれやってから。この盗んできた証属性のスクロールで約束しよう」

 

「ふむ…」

 

 髭を撫で、王様は計算する。従うリスクと、聞かない事による不利益。

 絶対に約束を守らせる証の魔法は、商国の契約書と違って出来ないことは締結されない。

 これが取り出されたなら、それは確実に知っているという証明に他ならなかった。

 

「…分かった。儂が賢王である為の戒めも兼ねよう」

 

 にやり、ループは笑った。

 これが予定通りに進んでいる喜びだと王様に伝わるように、大きく口角を上げた。

 

「ヨシ、『所在証』締結。場所は帝都、形は剣。結構大事に保管されてる。良かったね、昔の勇者は剣を大事にするように言い含めてるよ」

 

「…待て、まさか」

 

 聞いてはならない。

 王様はその先の言葉を理解し、静止する。

 聞けば止められないと悟っているからこそだった。

 

「"勇者の剣"。知らないってことは無いよね?帝国の治世の権威たる勇者の樹に並ぶ、武威の権威、帝国が量産している剣のMMを作る為に─‬‭─‬」

 

 聞いてはいた。他国の武力の根幹だったから。

 知ってもいた。帝国と敵対する時に真っ先に対処すべきものだったから。

 サーシャの首に癒えぬ傷を与え、数多くの人々の血を吸い、今も帝国の為に使われている最優のMMだった。

 

「少しずつ分解されてる、()()だよ」

 

 だが、それが自身の伴侶の魂が分解されて出来た物だとは、夢にも思っていなかった。

 

 






「勇者の剣」
 帝国はある真理に気付きました。
 質が保証されてるなら数を揃えるのが一番良いと。
 なので勇者の剣を分割し、其々を剣の力でかつての力を復元、MMの量産に成功しました。
 中身の自我はすり減りますが…それを気にかけるほど、MMの声を聞ける人は居ませんでした。

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