不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計   作:何処にでもある

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 答え
 五月雨 昭仁(さみだれ あきひと)
 男 享年75歳




氷・依・三六

 

 

「力を貸して欲しい」

 

「…突然やって来た一言目として百点をあげましょう。ですがお花を摘んでいる最中に言ってきたので0点です!!」

 

 バタン!

 

 玄関を開けて横を向いたら見えちゃって怒られるのは理不尽に感じるが、ノックぐらいはすべきだったな。

 サーシャは急いで扉を閉めた。

 

「…ごめん、タイミングが最悪だった」

『トイレの扉を開けっぱでやる方も悪くない?』

「リーロ、此処は相手に合わせる場面だよ」

 

「聞こえてるんですよ…!」

 

『開けずに話せば良かったね』

「リサ、私の研究を手伝って貰えないかな。土魔法と命魔法が使えると見込んで頼みがある」

 

 今日突然リサの部屋に訪問したのは訳がある。

 研究でどうしても命魔法か土魔法が必要になり、そこで都合よく未覚醒が土の覚醒が命のリサに声をかけた次第だ。

 

「……!サーシャの研究ですか。噂には聞いてますよ、何でも戦争が起きれば、サーシャの研究成果を渡した国が勝つと」

 

 ガチャ。

 

 やる事を終わらせたリサが部屋から出てサーシャと俺の前に立つ。パジャマで寝る直前だったのが見て取れた。ごめんねこんな夜にさ。

 

『結構正確な評価だ!』

「私一人の力じゃないけど、割と良い線行ける様に出来る自負はあるよ」

「そうですか。であれば後々参加した事が評価されると見ました。良いですよ、テストはライバルでも前にショートケーキを分けて食べた仲、やぶさかでは有りません」

「本当!ありがとう、それじゃあ早速だけど15分くらい手伝って!今やることに意味があるから!」

「え、ちょちょっ!走りながらで良いので内容を!」

『大丈夫だよ、ちょっと食べて寝るだけだから!』

「研究で食べて寝る!?」

 

 ごたごたと一階に降りてサーシャの地下研究室に来たリサが見たのは、お腹をぷっくり膨らませて寝ている4人の子豚のように太った男女だった。

 

「うーん…もう食べられない…」

「……もっと食べたい」

「…………」

「マジ…ウマ…」

 

 カーリー、ダルク、モモ、リンゴの四名である。

 明日の実技は地獄を見るのが約束された人達だ。

 

「何ですかこの死屍累々ならぬ豚屍累々は。聞くも無惨な寝言と相まってダメ人間さが熟成されてますよ」

「今やってるのは食事で魔法の効果を出す研究。これは料理が美味しくなる魔法の効果で食べすぎた人達」

「それ属性で言うと何処ですか?聞いたことがありませんが」

「術式と魔力のみの"属性に頼らない魔法"を基盤に使ってるから無い」

「先ず其方を研究したらどうですか?絶対こんな事に使うよりも使い道があるでしょう」

「残念ながらそんなに無い。属性という指針が無い分無限に応用できるけど、独自の秩序を作らないと人が扱うには混沌とし過ぎてるから」

「…なるほど、食事という秩序で魔法を成り立たせたと…それ、人の手で属性を創り出したのと同じでは?」

「そういう見方もある。はい、準備完了。召し上がれ」

 

 話しながらサーシャが用意したのは、寝る前という事を配慮して作ったハチミツ入りホットミルクだ。甘い匂いが鼻を擽るのが堪らないな。

 なんせさっきは4人が子豚になって至るほど飲み干してたからな。効果は間違いない。

 一応俺…MRC入りMMも味と効果はあるらしいけど…怖くて飲めてないぞ。

 

「…あの四人みたいにならない様にしましたか?」

「当然。今回は効果を10分の1まで希釈してマージンを取った。ああはならない」

「…女は度胸です!ごぐごく…ぷはぁ…」

「…どう?」

 

 サーシャは心配そうにリサの様子を観察する。見た感じさっきみたいな豹変はしてない様に見えるが…なんか顔が赤く無いか?

 

「とっても気分が良いですね…あったらいえふ…にぇむ…」

「…アルコールや依存性のある成分は確認出来ず。血圧の上昇、睡魔の訪れ、高揚の効果有り…と」

「ろれもおいひいれふね…ふっひりひへあふ(ずっしりしてます)

 

 リサはサーシャにお代わりをせがむと、続けて二杯目と三杯目を飲み干した。

 10倍希釈したのにまだ美味しく感じるのか…酒でもないのに酒を呑んだみたいだな。

 

「…レシピとカロリー自体は普通のものと変わらない筈…料理に込められた魔力の属性を増やしただけなのにこうなるのか…原理は魔水のちょっとした応用なのに…」

「むふふ…らんらはあおいふあっふぇいあひは」

『楽しくなってきたって辛うじて聞こえるけど…もう寝させた方が良いね。ベッドはこっちだよー!』

「ふわあ〜…」

 

 近くに置いていたリネンのベッドに横たわらせると、程なくしてリサは眠りに入った。

 うーん、魂の属性と同じものを摂取させる単純な実験でこれかー…美味しく感じるって観点は正解みたいだけど、それだけじゃなさそうな気がする。

 

『サーシャ、何か分かった?』

「基本属性から固有魔法へ覚醒する方法が分かった。そして、このレシピは固有魔法に目覚められる下地がないとただ美味しいだけなのも分かった」

『え、本当?』

「うん。…そろそろ効果が出るかな。ほら、リサを見て。属性の質が変わっていってる。その内戻るけど、一過性のバフとしては成功だ」

 

 サーシャに言われた通りに魔力視でリサを見てみると、土属性の魔力が徐々に未知の属性に変化しているのが確認できた。生命力って感じの属性だし、これが命魔法って奴なんだろうな。

 

「固有魔法への目覚めとは、魔力に自身の属性を与える、魂の波動の質を変化させる事。即ち周波数の切り替え。このレシピは過剰に属性を与えてそれを支配させる事で魂を疲労させ、この切り替えの条件に引っ掛らせた」

『分かりやすく例えると?』

「四属性にしてるスイッチがあって、これがオンになってるのが未覚醒。この料理は魂を疲れさせる。疲れると魂の働きが少なくなり、このスイッチが一時的にオフになる」

『へー、覚醒って言われてるけど、実際は機能を止めてるだけなんだね』

「名前のイメージとは逆の現象だけど、固有魔法の切り替わりを覚えるのに向いた魔法だね。欠点は…魂が疲れるからとても眠くなる」

 

 大体フルマラソンをしたくらいの疲労らしい。放っておけば何とかなる辺り、良い具合に有効そうな料理になったな。

 

「分かった所で次に行こう。今のみんなは属性が過剰、つまり状態異常。ここに清浄を再現する形で作った『清浄(仮.1)』がある。上手く行くか試してみよう…タイマーセット」

 

 サーシャは其々に魔法を使ってみたが、多少楽そうになっただけだった。

 まあ魔力を循環させただけだからな。水属性の性質の再現もやってないんだから当然だ。

 

フェーズ1(基本軸剪定)、水属性を与える…拒絶反応だけ。次、魂の波動を水属性の物に一時的に変える…もっと具合が悪くなった。次、『精肉』を応用した異常箇所の置換…創られた生身が燃えたり腐ったり…次‭─‬‭─‬…」

 

 次々に遠慮なく魔法を使い、その様子を頭に叩き込む。

 予測も出来るけど、こういうのは実際に試すのが一番確実だ。

 『難題(劣)』はそこまで細かくは教えてくれないからな。地道にやるしか無い。

 食べさせた物の効果を見る、清浄の力で治す。

 なんだか東洋医学と西洋医学に似てる気がするし、医学は失敗の積み重ねで成り立つ物だ。そこはサーシャでも変わらないのだろう。

 

「…カーリーの死亡確認、自爆機能セット。此処からはリスキーなものから選出する」

 

 サラッと死人が出てるが問題ない。死に戻りすれば生き返れる。

 今日はまだ死んでないからな、一回までなら夜中のチャージ分でお得まである。

 それを利用した段階を踏んだ研究、フェーズ1は方向性を決定し、2で効果的な魔法陣を確定し、3でより効果的な物になるまで繰り返させる。そうやって短い時間で可能な限りの成果を集めるのだ。

 

『後2分だよー』

 

「了解…リサの死亡確認。34〜41の『清浄』はダメだな、50番台を試行してみよう」

 

 まあ俺はどうかなって思ってるけど、結果的に死なないなら…良いのかなあ?

 サーシャぁ、時属性の研究の時から思ってたけど、効率の為に人の心を落としてないか?

 有効活用してくれてるのは嬉しいけど、それでもこの力って日常的に使ってたら心が壊れちゃうと思うんだ。

 

『50秒ー、49、48…』

 

「ダルクに後遺症発生、水属性への不可逆変化…これはこれで役に立ちそう。58は研究余地有り…と。56は上手く行ってるし、次はフェーズ3(品質追求)の600番台と行こう」

 

 普段からやってて慣れちゃったけど、やっぱり良くないよ。

 手慣れた結果がこの死屍累々だもの。ガンガン進んでるけど、犠牲許容の研究だとそりゃあイヤでも進むよな。ゲームでも効率だけなら良かったし。

 

『30、29、28…』

 

「…5-6-9のパターンが一番効果的かな。うん、事前予想と一致するね。ただ、5-8のパターンで興味深い現象が起きたのは想定外だった。不可逆の属性変質…死者の魂が生まれ変わる時と同じ現象か…これで火属性とかに出来れば、或いは水属性の救済も…無理か、『難題(劣)』で出来ないって結果が出た」

 

 数えつつ、サーシャの近くに寄る。そろそろ俺の出番だった。

 

『3、2、1‭─‬‭─‬0』

 

 サーシャが手慣れた動きで俺の手を握ると、MRCで増産している魔力を自分の脳に浸して気絶する。魔力中毒だ。

 それから数瞬、地下室に膨大な熱か広がった。

 

カチッ

 

「…『清浄』…よし、全員安らかに眠ってるね。此処までは『静寂の祈り』と同じだけど、相違点は二つ。祈りと違ってバリアみたいに長く働く点、そして魔法だからMMを使えば修行しなくても直ぐに覚えられる点かな。祈りの廉価版としては悪くないね」

 

 サーシャは覚えている限りの結果をメモに取ると、ベッドの上で寝ているみんなに布団をかけた。

 さっきまでは実験し易いように薄着にさせてたからな。もう終わった以上、風邪をひかないようにするべきなんだろう。

 俺も一緒に布団をかけ、全員の寝息を確認して安堵する。いつやってもこれは不安になるんだよな。

 

『ほっみんな生きてる』

「相変わらずリーロは不安になりがちだね」

『そりゃあなるよ!いつだって殺すのは慣れないよ!』

「…そっか。不本意だけど、私は自分で慣れちゃったかな」

 

 そう言うサーシャは少し寂しそうに見えた。

 不本意ならなんで続けるのだろうか。もう力はあるし、急がなくても良いんじゃないか?

 

『…サーシャはどうしてこんなに急ぐの?みんなで少しずつ進めても良いのになんで?』

「んー…言っても良いか。()()()()()と思ったからかな」

『だれに?』

()()()()()()。それも…予想が正しければ数十人の私に」

『それは死んだ自分に?』

 

 サーシャはゆっくりと首を振った。不正解か。

 周回…じゃないか。あれは記憶が継続するし、ある程度未来が固定化される。

 託す余地もなく、正しい道を歩めば良い結末に辿り着ける。

 

『それなら何処に昔のサーシャがいるの?私もサーシャも記憶は死んでも続いてるのに』

「…そうだね。例えば私は、"リーロが別世界の男性の記憶を持っていると知っている"。そして、"死に戻りだけでも二重構造である事も知っている"」

『っ!?』

 

 どくん、と。ない筈の心臓が跳ねた感覚がした。

 何故だ?憑依はずっと隠してた筈。確かにゲーム知識は惜しげもなく渡したけど、その所在は笑って誤魔化していた。少なくともそこまで特定されることは発言してない筈だ。

 

『…しっ知ってたの?』

「私は別世界を観測する鏡の魔法を、深淵という最も世界の外側で観測した。周囲に光が無いほど夜空が美しく見えるように、深淵は観測に最も適した環境だった」

『…見つけたの?私…いや、()を』

「過去の星の光が夜景を彩るように、他の世界の観測も同様。若い男の子がスケートを滑ってるのが見えたよ」

 

 そう言うとサーシャはくすりと笑い、二つの椅子を持ってきて座った。

 俺もそれに付き従うが、気分は判決を貰う前の容疑者の気分だ。

 

「そうそう、一人称は私のままにした方が良いよ。…さて、私が観測した結果を言おうか。"リーロ、貴女は決してその記憶にある男性との繋がりはない"。魂の連続性はなく、記憶の受け渡しや魔力や無の力以外の超常現象も確認出来なかった」

『…うぇ?』

 

 衝撃も前触れもなく、サーシャは無情に告げた。

 理解はした。実感はなく、けれども段々と背中が冷たくなっていく感覚だ。

 それがどういう意味を齎すのか、そこまで思考を回したく無かった。

 

『え…え…』

「つまりリーロ。貴女の時魔法は何かしらの手段を持って"他世界を観測し、そこで得た人格と記憶を自分に上書きする特性がある"。記憶にある男性がプレイした"ゲーム"にそれらしき情報はあるかな。私は残念ながらそこまで詳しく見れる機材が無くて、確認出来なかったんだ。…ある?」

『…えっと…待って。追いついてない。俺…私…俺…私?は…繋がってないの?』

「リーロ、一人称は私にしよう。君は女の子なんだし、男性の記憶があってもそうする方が負担がない」

 

 うぇ…?コレでも死ぬまで…そうだ死んで俺は此処に来た。

 これで生前が生きてたら別だが、死んでたら俺の記憶は正しいんじゃないか?

 

『………男性は…俺の最後は?ゲームをしてる最中に何かに押し潰された筈だ』

「それよりもさ、もっとわかり易い確認方法があるよ。"自分の名前は言える?"」

『今が…リーロで………………前世が…………前世が………』

 

 ………………………………………………待て、ボケてるだけかも知れない。

 俺はスケートで賞状を貰っていた。其処に名前は?

 ………。

 やり方を変えよう。俺は家族に名前を呼ばれた筈だろ?

 …………。

 これもダメだな。俺は会社の同僚になんて呼ばれた?

 ……………。

 

 

 

 ぽたぽたと、涙が流れた。

 じんわりと、自分が、47年の人生が偽りだと。

 心が串刺しになってる気がした。

 

『……私は、リーロ…です』

 

 それしか答えられないのが、途方もなく苦痛だった。

 

 サーシャに頭を撫でられる。それを払い退けるほど、余裕は無かった。

 

「…今日は此処までにしようか。私はリーロの味方で、つまりはその男性の記憶も含めて受け入れる。大丈夫、泣いて良いんだよ。どんな貴女でも、私は肯定する」

 

『‭─‬‭─‬……うわあああ!!あああああー!!!…あ"あ"あ"ぁぁ……!!』

 

 抱えられ、あやされ、頭を撫でられ、何処までも子供扱いなのが悔しいやら、悲しいやら。

 だけど、無力感に満たされていた俺にとって、間違いなくこの時サーシャが居てくれたのは心強かった。

 

「…大丈夫だよ。私がいるからね」

 

 その時にサーシャはどんな顔をしていたのか知らなかったけど…。

 どうあれ俺は、今後サーシャ以外に頼ることは無いだろう。

 

 どんな選択でも一緒に行くと、誓ったのだから。

 

 






*リーロ@55の友好度がMAX(50)になりました。
*好感度が解放されました。
*それに伴い、サーシャの記録したプロフィールが開示されます。

「リーロ/魔杖(MM)《死刻》」
 物知り顔をしてるだけの善良で純粋無垢な女の子。染まり易いが、明るい性格なのは変わらないと思う。
 元タイム家の双子の妹として産まれ、時計塔の秒針の落下事故?で死亡、享年3歳。
 その後おじいちゃんの伝手?によりMM化、『換装』の時魔法の使えるMMとしてサイーシャ村の納屋で13年保管される。
 現在の所有者はサーシャ、関係は良好だが依存傾向あり、好まれ過ぎるのに注意。

+『換装』の効果により55回目に渡り人格を上書きされており、その負担で人格再現に綻びが生まれているようだ。
+1〜54回目の人格の救出は不可能。既に全てこの世から消滅している。0回目の素のリーロは『難題(劣)』で可能なのは確認した。
+現在の人格は"ゲーム"から別の私の未来を見たらしい。他世界にも鏡魔法に似た物でもあるのだろう。
+今の人格は男性だと主張しているが…自然と内股になったり、髪を掻き上げたり、誤魔化す時に指で髪をくるくる回す癖からして…再現率は5割弱…45%だろう。残りは素のリーロのものだと推定される。…私が外に連れ出した以上、最後まで責任持って対応しよう。

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