不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計 作:何処にでもある
攻略対象1人目です。
「サーシャ!良くやったな!あんな魔法を隠してたなんてなぁ!」
「疲れただろう?ほら、はちみつミルクだよ。飲みなさい」
「ミールおばさん、その前に治療だよ。サーシャ…喉やられてるじゃないか!通りで静かだと思った!」
「お姉ちゃんすごーい!」「カッコよかった!」
「おぉ…」
(うおー!今までの雑な扱いが嘘の様に!いつもは私が話しててもはいはいで済まされるのに!)
あの後、サーシャは村人に囲まれて治療やらお見舞いやら、てんてこ舞いになっていた。
ゲームならこんなやり取りは書かれずに、王国軍が来る翌日に移ってたんだけど…裏ではこんな事があったのか。
こういう生きてる人の活動がなんだか新鮮だな。こっちに来てからずっと物置小屋に居たせいか、見てるだけで楽しくなってくる。
「………ふぅ、疲れた」
(あー…疲れた。喋り辛いから話すのも一苦労だし…後遺症で今後も喋り辛いのはなー…治癒系の魔法が有れば良いのに…)
サーシャがベッドの近くに俺を立てかけて、横になった。
…うん、常に乙女のプライベートを覗くのは憚れるんだけど…MMの仕様みたいだし、止め方知らんし仕方ない。
回復魔法、この世界には無いんだよな。あるのは神の奇跡、神父やシスター達の物だ。
だからサーシャの喉もシナリオ通りなんだよな。直ぐに奇跡を使わないと治らないし、恋愛ゲームらしい、言葉の少ない事への理由にもなる。
止められるなら止めたかったんだけど…普通に無理。所有者になる前だもん。MMは所有者が居ないと無力なんだ。今日だけですごく実感した。
「…杖、知らなかったな」
(しかしなー…おじいちゃん、とんでもないの隠してたな。…とんでもないって言っても、略奪兵…あのレベルでも持てる程度のものっぽいけどさ)
ちなみに略奪兵は、村人が身包み剥がして森に捨てたそうだ。
隊長だけは捕虜として残ってるけどね。
この森、ゲームでも中盤の能力だと太刀打ち出来ないから、多分全員死んだな。
「…あいつ嫌い」
(水魔法が不遇って…魔法未満の攻撃が出来ないだけじゃん…うぅ…おじいちゃんと同じだから悲しくなんかないやい!……外の魔法を見てみたいなぁ)
いや、普通にMPを使わない通常攻撃が出来ないのは致命的だぞ?
ゲームでも扱い辛かったぞ?
「水球」の生成とその維持だけにしか魔力を使わないのは利点だけどね、手札の揃ってない時期は本当に扱い辛かったの。
「…あ、そうだ」
(あ、寝る前にこれはしなくちゃだよね)
お、なんだ?
サーシャは起き上がると、俺を手に持って見つめる。なんだ?
「ありがとう、助かりました。…これからよろしくね」
(誰かだか分かりませんが、手を貸してくれてありがとうございます。とても辛い思いはしたけど、あなたも頑張ってるのが伝わってきて、励まされました。これからもよろしくお願いします)
───………。
──うん、こちらこそ。
「お?…うん」
(おぉ、喋った。これは心を通わせられたわ!よし、それじゃあ良い気分のままに寝よう)
…前世と合わせても、こんな丁寧に感謝されたのは初めてだな。
物だから寝れないけど、今日の夜は寂しさが隣にいる事はないだろうな。
「ん、良い朝…村長ぉ…」
(おぉ、王国軍が居る。…村長の奴め、そんな直ぐに来ないなら、そう言ってくれれば良いのに)
西洋らしいと言えばいいのか、服を着たまま寝る習慣なので着替えのシーンが無いのはありがたい。
昨日は急な出来事の連続だったから、改めて見る。
青くて長い髪、黄金色の目。背丈は低めで、童顔よりだ。
そこに村娘らしい服に、おじいちゃんのお下がりのロープを羽織った姿である。
今ならそこに秒針の俺が加わって、最低限この世界の魔法使いと呼べる見た目になっていた。
俺の方が大きいからか、余計小さく見える。
でも、手に持っただけで、俺にくっ付いていた鉄錆を取れる水属性のお陰で常に清潔だぞ。
(…お、黒い部分が増えてる。この調子だと満タンまで後2日かな…1日で一つの命かー、本当にすごいな、MMって)
サーシャは俺を持って、そんな事を考えつつ外に出た。
そこに俺から追加する情報があるとすれば、深夜に突然ぎゅって増えたから、何時に一つ回復とかの類いだぞ。
それにゲームの方が性能良かったし。
「──では、この男は私が回収致しましょう。お前達、馬車の中に入れておきなさい。」
「は!」「は!」
村長と話してる、モノクルをつけた優男。
黒髪の長髪を一纏めにした赤い眼をしていて、目元には隈ができている。
憂鬱な雰囲気のする苦労人っぽい印象はその通り。
貴族さと先生らしさを合わせた知的な佇まいは、普段は学園の先生をやっているのを察するのは難しくはないだろう。肩に停まってる小鳥タイプのゴーレムがワンポイントだ。
その名前はダンテ・フォン・エンブレム。
攻略キャラにして、戦争で妻と息子に先立たれた男だ。
エッチな未亡人過ぎてTS絵がファンアートで量産されてるぞ。
「引き渡しだ」
(王国軍、初めて見たなぁ。あの人カッコいいなぁ、あの小鳥のゴーレム、多分MMだなぁ、中に居るの誰だろうなぁ……発想が物騒になってる。いけないいけない…)
おぉ…昨日3回死んだからか真っ先にMMに気付いた。
乙女じゃなくて戦士の目線になっちゃってる。
でもMMなのとそうじゃない奴って見れば分かるからな。
所有者なら一発で分かるオーラがあるんだよ。
「おや、その武器は…失礼、少しお話ししても?」
ダンテがこちらに気付くと、こちらに近づいて話しかけてきた。
軍や貴族や傭兵なら兎も角、こんな小さな村の村娘がMM持ちなのは珍しいからな。
親の代が志願兵になって生きて帰らないと持たない物らしいし。
「良いですよ」
「ありがとう。今回の略奪をお一人で?」
「はい。私がやりました」
「それは…天才的ですね。属性は火か風でしょうか。」
「水ですね」
(実際倒したのはどっちも水魔法だし…まぁ片方は化け物で、もう片方はなんか出来ただけなんだけど)
ダンテの眼が驚きで開いて、唖然とした表情になった。
分かるよ。攻撃手段ないもん。
偶然『渦巻』が完成しなきゃあのまま死んでたし…。
「……あ、ごめんなさい。驚きの余り…その、弓や槍が得意とか?」
「水魔法で倒しました」
「なんとまぁ…余程の才能がお有りのようですね。…魔力量を測定させて貰っても?」
「おぉ、喜んで!」
「では少々お待ちを。」
(嬉しいなぁ、私がどれくらいか初めて分かる!旅人さん達はBやAばっかりだったけど、どうかな、Cはあったら良いな)
魔力量。それは属性以上に、魔法使いにとっては絶対の指標となるもの。
田舎者のサーシャも、村にふらってやって来る人の話で、魔力量の概念は知ってるほどだから、マジで大事だ。
ゲームでもレベルアップで変わらない項目だからな。
MMでカバーは出来るとはいえ、あるとないとじゃ扱い易さが違う。
特に水魔法だとこれが無いと話にならない。
ごと、
ダンテが魔法で、砂の満ちた壺を馬車の方から持って来た。
土属性はこうして土砂貴金属を浮かせられるのがチート染みてるんだよな。
側から見たら念力にしか見えんし、実質無機物特効なんだよ。
「用意出来ました。こちらに手を入れてください。」
「はい」
(緊張して来た…はっ!もしや昨日頑張ったご褒美か?ご褒美なのか〜!?)
魔法大好きなサーシャには嬉しい事なんだろうけど、3回死ぬのは釣り合ってないぞ。
サーシャは手を砂の中に入れると、砂をすり抜けた。
「わ、すり抜けた」
「魔力だけを反射する鏡ですよ。壺の内側に貼り付けると、こうして中にある物の魔力を分かりやすくしてくれるんです。」
「じゃあ、さっきの砂はダンテさんの…」
「……?あぁ、はい、土属性ですから。浮かせる時に使った魔力が写ったんです。」
特殊な技法で作られた、魔力だけを可視化させて反射させる鏡。
中に有った砂は、既に水となっている。
中に滞留していたダンテの魔力が、サーシャの魔力に押し出されたからだ。
いっぱいに水が入った壺は、確かにサーシャの魔力量を表していた。
「…ふむ。これはまた随分と大量の魔力だ。貴族の方々と並びますよ。」
「…どんなふうに見るんですか?」
「中にある雑多な魔力が無いほど多いです。自然と漏れ出る分での計測ですから。今回の場合だと…底の方に僅かな砂利…私の魔力が残ってますから…3Aですね。」
「3A?」
「Aランクの3倍、って事です。」
(つまり…旅人さん3人分?)
数値にすると500だな。
魔力の容量が多い程覚えられる魔法も増えるから、魔力の多さはそれだけアドなんだ。
貴族の位で言うなら一般的な伯爵と並ぶぞ。
少なくとも普通の村娘が持ってて良い量じゃ無い。
それこそ、仕事で手一杯のダンテでも見つけたら、スカウトしないといけなくなるくらいにはすごい。
「それで…ええと、お名前は?」
「あ…サーシャです。水魔法使いのサーシャ…貴族様は?」
「あぁですよね。自己紹介してませんよね。」
「…?」
「あぁいえ、こんな王国の端の村まで名を轟かせるような名誉は授かってないと、そう考えていたまでですよ。先ほど名前を呼ばれた物ですから。」
(え…あ、本当だ。ダンテさんって言ってた私…え、何で知ってたの?)
へぇ、俺の記憶がそっち行くとこういうこともあるんだな。
昨日の戦闘から経験が流れるのは分かってたけど、こっちもなんだな。
その内俺の方もサーシャの記憶が来そうだな〜。
「では申し遅れまして…私の名前はダンテ。ダンテ・フォン・エンブレム。王都魔法学園の教師をしております。突然ですがサーシャさんは…魔法はお好きですか?」
礼儀正しく会釈と共にダンテは問いかけた。
当然、その質問の返事は決まっていた。
「──当、然!大好きでケホ、コホコホ…」
「だ、大丈夫ですか?痛めてるのに無理は禁物ですよ。」
「大丈夫です…傷が塞がり切ってないだけです」
(うえっほ、げっほ…大声出して喉痛い……)
…ちょっと締まらないが、確かにこの瞬間、サーシャの物語は始まった。
ネタ選択肢の方になったのは…この際置いておこう。武士の情けだ。
「…気を取り直して、それだったら魔法学園に来ませんか?きっと良い出会いに恵まれますよ。」
「ぜひ…!」
ずい、
「魔法を…!」
ずずい、
「教えて…!」
ずずずい、
「ください…!」
「ええと、離れてください…。」
かっ、ずさあぁ…、
「…すみません」
「いえ、そんなに離れなくても…」
(恥ずかしー…でも外見てみてーぇ、新しい水魔法学びてーぇ、でも昨日の今日で離れるのは村のみんなが心配で行くの不安ー…がくえんってなにー…心が二つあるー…)
魔法と学びに反応して、全力でダンテにぶつかりに行き、そして結構な距離をひとっ飛びで離れた。
昨日からサーシャ、外の世界に行きたがってたもんな。
ゲームでもそうだったけど、村の事は嫌いじゃないもんな。
うんうん、やっぱり葛藤しちゃうことだよなこれ。
「…学園って?」
「魔法好きなら一度は夢見るような…大霊書庫、工房街、魔法大会、深淵階段…私の口だけで語るには、三日三晩経っても言葉の尽きることのない場所です。」
「おぉ…!!」
「村のみなさんが心配なら、腕の立つ者を何人かここに向かわせましょう。」
「良いんですか…!?」
「もちろん、サーシャさんには、それだけの価値が有ります。…どうですか?」
「行きまぁす!」
こうして、ダンテの言葉に了承をしたサーシャは、40秒で身支度を終えて、馬車に乗り込んだ。
天涯孤独だからかすっごく身軽だな〜。俺も持っていくみたいなのは安心したぞ。
「元気でなー!」「帰って来いよー!」「またねー!」
「行って来まーす!」
カラカラカラ…、
轍を作りながら、複数の馬車が村から去る。
サーシャはダンテと同じ、乗り心地の良い馬車に乗る事になった。
水属性でも、魔力と実績を見れば才能があるからな。
俺が馬車に入るんだから、本当にデカくて立派な馬車だ。
「ふんふん…!」
「…あの、随分と身軽ですが…ご両親に挨拶とかは?てっきり一晩は待つかと…。」
「ふんふ……もう居ないです」
「あ、それは…失礼な事を。すみません。…友人や隣人は?」
「そこまで普段から、仲のいい相手は居ません」
(親…?おじいちゃんが何処からか拾って来た子供に居る訳無いでしょ。友人と隣人…?あったかい対応されたのは昨日が初だよ。…除け者にはなって無かったし、嫌いじゃ無いけどね!)
サーシャの返事に少々気まずい沈黙が流れ、ダンテは耐えきれず別の話題を出す事にした。
「えっと…どうして水魔法を覚えに?資質が有っても師が居なければ水魔法は厳しい筈ですが…。」
「おじいちゃんが……もう居ないですけど、私に水魔法を教えてくれたんです」
(楽しかったなぁ、おじいちゃんとの魔法特訓。あのわくわく感は忘れられないよ)
「それは…良かったですね。初めて魔法に触れた時の高揚は、私にも覚えが有りますから。」
サーシャの声が弾んだのを聞いて、ダンテはホッとしたようだ。
話題転換は上手く行ったみたいだな。
ゲームだとこの後は、ダンテが先生である事だったり、水属性以外の属性についての授業が始まったり、ダンテが一晩で学園に入れる準備をする筈だな。
ちちち、
その時、ダンテの肩に停まっていた小鳥のゴーレムが、俺の上に停まった。
…原作にこんな描写あったっけ?
そう疑問に思った時だった。世界が切り替わったような、そんな感覚に襲われたのは。
「ねぇねぇ、君の名前を教えてよ!」
「うわ、え?ここ何処?」
挙句に転ばなかったのを褒めて欲しい。
突然真っ暗な空間で、人の身体に戻ったら驚かない訳がないんだから。
しかも前世じゃ無くてリーロ…秒針に串刺しにされる前の少女の身体だ。
これは魂同士で話し合うとかじゃないな。イメージ空間だわ。
「あれれ、知らないの?MM同士で触れ合って、話したい!って思うとこうなるんだよ!」
「へぇ、初めて知ったー」
「それで名前は?教えてくれたら一緒に遊んでも良いよ!」
そういえばゲームでもMM同士で話し合うような描写が有ったような…本人達にはこう見えてたのか。
目の前の少年を見上げる。赤い目と黒い髪、母親譲りなのだろう天然パーマの姿。
ダンテの面影を感じさせるその見た目は、確かにゲームで言われてたように、ダンテの息子、そのだと理解できた。
名前は…どっちにしよう。この見た目だしリーロでいっか。
いつか本人がひょっこり出て来た時に周りが混乱しないように、そうする事にしよう。
「俺…えっと、私はリーロ。サーシャの杖やってます」
「僕はスター!パパの杖をー!やってーます!」
あらやだすっごい元気だこの子。遊ぶ体力持つかな。
「これで友達!一緒にあそぼ!」
「…MMでこの年の同年代は珍しいのか。分かった!おに…お姉ちゃんが一緒に遊んであげよう!」
「なんだとぉ!杖の大きさで負けてるけど、ここだと僕の方がおっきいじゃん!」
「はっはっは。どうやら姿は死んだ時のままだけど、私はこう見えて60のババアだよ!」
「なにっ」
47+13で、前世と合わせてだけどね。
前世じゃあ40歳超えた独身なんだわ。
趣味でゲームとスケートやってるだけの社会人、若い時に大会に出る程度にはやってた事を、ずっと続けてただけの男だ。
「ふっ…敬えよ若人。年寄りが遊んでやろうじゃないか」
「じゃあリーロおばさんだ!そんなに生きてたらたっくさん遊びを知ってるよね!教えて!」
「じゃんけんって知ってるか?あっち向いてほいと合わせて教えよう」
「なにそれー!」
「ここが…王都魔法学園!」
そんな感じで一晩中遊んでたら、いつの間にかサーシャ達が学園に着いていた。
ゲームでも近くの街の転移門で移動したけど、こうして空気の流れ方が違う場所に来れると驚いちゃうな。
…大人気なく遊びに夢中になってたのは許せ。
本当に久々の運動で楽しくなってたんだ。物理法則とかイメージ通りに動くからさ、摩擦弄って数時間スケートしてたんだよ。めっっっちゃ楽しかった。
「無属性の抽出公式分からん…」「入学式何処でやるの?」「やべぇ遅れる!」
「新入生は是非見学に来てくださーい!」「そっちは入学式見る?」「興味ない。スルーで」
「おわぁ…!」
「世界中の魔法使いが集まる場所へようこそ、サーシャ。我々はあなたを歓迎します。」
沢山の人と、春の香りの漂う4月。
駆け込みで入学したサーシャと、波乱の学園生活が始まった。
「王都魔法学園」
昔の王様と、王の宝物庫の奥で忘れ去られた賢者の杖は考えました。
このままだと人類やべー方向に行くな…と。
1人と1つは出会い、世界中の人々が魔法を正しく学べる学園を作りました。
色々と集まり過ぎて厄ネタの火薬庫に変わりました。