不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計 作:何処にでもある
他チームの様子と高層農園と初めての決闘。
「良し、予定と違って王様の不老の種対策も考案する事になったけど、両方合わせても10分あれば終わる。二世代なら大したことない!」
「サーシャ、これもう発展は要らないのではないですか?箱から見える景色が、王都でも見たことない物になってるんですよ?」
「まだまだイケる!飛行魔法なら学園の上級生もやってたし、空と地下に線路を航路を拓く程度はセーフ!大事なのは
「私見たことないんですよね。畑が縦に並ぶ建物って。これ以上があるんですか?」
「それは農林1号を作った奴を讃えて特注の魔道具も使った再現性のない物。MRCも錬金工場も呪符も無いならまだまだ甘いよ。こっちはどうやって研究者に自力で発明した様に誘導げふんげふん…」
『追加用紙をお持ちしました。それから…僭越ながら書類の整理もさせて頂きます』
サーシャとリサは、騎士の補佐の下順調に進めていた。
忙しく他に目をやる暇もない中だが、他のチームがどうなっているのかを知らなければこれが順調かも分かりづらいだろう。敵を知り、己を知れば百戦危うからずだ。
『だが…このままで果たして良いのか…良し』
少なくともリサの騎士はそう考えたようで、忙しない業務の合間に偵察に何回か向かっていたようだ。
リサが聞いたサーシャの計画を一緒に聞いてないが故の行動、ここは一つ、その様子を追ってみよう。騎士が聴くことはないが、通信も含めてだ。
『彼らは…確かリーロ様はサーシャ様の研究仲間のダルクチームと言っていたが…その実力は、見せて貰おう』
「やっべー魔物やっべー」
「またフルーツ村滅んだ…村長の一族実は凄かったんだねー。いや記憶には無いけどさ」
「ダルクー、魔法の研究はー?」
[先ず魔法の基礎を覚えるのが少ない。お前らの先祖らしき人物は良い筋だが…これだと奇跡を広める方が被害は少ないな]
「あちゃー…芸術の前に安全かー…魔物避けってどうすれば作れたっけ」
「待って魔法学で手帳に…コレ作るのムズくね?…剣で殴る方が速いんじゃね?」
[よし、ダメで元々だ。巻き戻して鍛治、剣、槍、弓の量産で行くぞ]
その様子を見て、騎士はうんうんと頷いた。
魔法使いは確かに強い。しかしそれはMMの底上げと学園という最高の環境があるからこそ。
そうでなければ、騎士の方が早く育ち戦力になる。何せ武器を持って思いっきり叩きつければ良い。
力自慢が出れば知恵物を死なせる心配もないし、内政に回せるのだ。昔なら有効的だろう。
『ふむ…相手にならんな。このペースでは3日かけても我々を超えることはあるまい』
騎士は視線と興味を切り、自分の持ち場に帰っていった。
『…いや、まだリーロ様の注目のチームは居たな。…確認しておこうか』
それからしばらく経ち、製本作業を補佐していた時に他のチームもいることに思い至った。
騎士はその手の要領が良かったので、早速ながら作業で確認してみる事にした。
『…居た、アイツらが商国の者達だったか。己は又聞きだが王国騎士、警戒に越したことはない』
「6番は北に道を!7番は南に!6と7の道路は合流させなさい!4番は6人兵士を2番に!魔物のケツを叩かせなさい!1番はまだ待機!」
[お嬢様、もう動いて良いのでは?]
「良い?初動が重要なの。一手一年ならば、投入に時差を設けて隙間なく管理出来る体制を作れば良い。謂わばシフト制って奴よ!後30分でコスパの良い問題は片付けるわ、それまで時間は加速させないように!」
[[[イエス、マム!]]]
『ふむ…コレは脅威的だな。チームの数を利用して問題の取捨選択を行いスコアを稼いでいる。そしてこの統率力…コレが優秀なチームか』
しばらく様子を見た後、騎士は手元の作業に戻る事にした。
序盤でチームの明暗がこうもハッキリするテストは中々無いだろう。
確かにコレを模倣出来るなら強いが、シープのワンマンとサーシャのワンマンは似てるものの、人数という面では大差が付いている。参考にはならないなら、偵察は意味がないだろう。
何より、平均5分で十年経過しているのだ。600年の歴史なら300分、5時間で一周目は終わる計算になる。
『二周目…果たして、リーロ様は頷いてくれるだろうか』
それがどれだけ衝撃的な体験なのか、騎士は想像も付かない。付かないが、箱から見える景色を眺めれば、自然と自分には思いも寄らない程壮絶なのは予想が付いた。
参考になるか不明瞭な偵察より、その慰めと、この一度目を大切にする。騎士は凡人でも、相手を思いやれる凡人だった。
「…おかしい」
果たしてその考えが合っていたか…。
「リーロの行動が終わっているのに、時間が進まない…放置してても問題ない筈のグリムの方で異変が起きた?」
リーロが帰って答え合わせがされる前に、このトラブルから解決する必要がありそうだった。
サーシャの送った諸々を渡して10分、未だに時間が進まない事に違和感を覚えたのはそのくらいだった。
『あれ?次に進まない?』
「あれ〜?おかしいですね〜、伝承ではもう停止する筈なのですが〜…?」
「つまり異変ヤンケ。原因分かるヤンケ?」
そう聞かれれば、身に覚えのある人物は一人しか居ない。
ずっと探しに行かずに進めてたのが仇になったな。恐らく市内を冒険しているのだろうグリムの方で動けないでいる環境にいる様だった。
『…多分グリムかな。良ければなんですけど…探すのを手伝ってくれませんか?』
「あ〜将来産まれる王様のご子息でしたか〜?私達の代で…まぁ、丁度兄妹ですし、片方が手伝えば問題ありませんか〜。一日抜けたくらいなら一人でも執務は回せますしね〜」
「ならどっちを連れ歩くか決めるヤンケ。防御は『時纏』、攻撃は『時球』が向いてると考えるヤンケ。他の能力はドッコイヤンケ」
「ちょっとお兄ちゃん〜?義体が壊れたら修理に出さないといけないんですよ〜?そこも考えて選ばなきゃ〜」
『騎士や専属の魔法使いはどうですか?』
「貴女の立ち位置はタイム家の秘宝ですよ〜?おいそれとは任せられません〜」
「今のタイム家が信任出来る部下は乳母しか居ないヤンケ。発展して小賢しい連中が昔より多い悲哀ヤンケ」
『政治的な問題ですか…』
確か義体の兄が『時纏』、妹は『時球』だ。暗に妹が選ばれたそうな発言をしていたし、攻撃重点と行こう。もし誘拐とかだったらそっちの方がいいだろうしな。
『それなら『時球』の方でお願いします』
「アー妹がアンナコト言うから気を遣われたヤンケズルイヤンケ」
「単なる事実じゃないですか〜。それじゃあおばあちゃんの姿で頑張ってくださいね〜」
「…ハアー…仕方ないヤンケ」
『時球』が懐から黒い砂時計を取り出して『時纏』に渡すと、『時纏』の姿が『大罪』のものに変化した。大きなゴーグルとそばかす、胸と尻は出て腰は締まってるナイスバディなジャージ服の女性になった。
外部に寿命の事を悟られない為にタイム家がやっている特定の先祖の姿への変更だ。
時属性が死んだ後に残す時計を同じ時属性が触れれば、その姿と魔法を借り受けられる特性。実際に目にすると奇妙なものだ。
『おぉ、これが…』
「なにー?もしかして見るの初めてヤンケ?まあご覧の通りヤンケ。男のプライド捨てて行ってくるヤンケ…キシシ」
「まあまあ〜。サマになってると思うんですけどね〜?」
「自分よりも身長高いのが癪に触障るヤンケ…ババアのキャラ濃すぎヤン、アダッ!」
「あははぁ〜!おばあちゃんの残留思念の癪に障ることを言ったらダメじゃないですか〜」
『残留とかあるんですね…』
それが普段の光景なのだろう。兄は頭をパリパリと掻きつつ普通に出ていった。
「それじゃあお仕事頑張ってください〜。妹は陰ながら応援してます〜」
「おう、ヤンケー」
妹はそれを見送ると、俺の手を握って外に向かう。
ちょっとだけ話せる時間はありそうだ。気になる事を訊ねる良い機会だろう。
『ところで『時球』さん「
「ん〜…それも知らないとなると〜…あ〜いえ、答えますよ〜?勿論二人でおばあちゃんを演じてます〜。普段は週一で交代して、もう片方は街を巡ったり婿嫁探しをしたりですね〜。民の不満は直で聞くとやっぱり違いますから〜」
『そんな時もお仕事を…趣味とかないんですか?』
「する時間がありませんからね〜」
やっぱりこの属性が貴族をやるの向いてないんじゃないか?
みんな上に立つ器を少なからず持ってたけど、走り抜いた末に死ぬ姿は見てられない。
そう考えたから、思わず今まで聞かない様にしていた疑問が口に出た。
『…辛いとかは思わないんですか?』
「あはぁ〜、初めから諦めてれば辛いだなんて思わないですよ〜」
『それなら…この役目を辞めたいって考えなかったんですか?』
コレまで見た人達は望んでそこに立ってた。しかしこの人は珍しく望んでやっている訳ではなさそうだ。
奇遇だと思った。今まで見てきて抱えた、このもやもやへの答えを持っているかもしれない。
そう考えて続きをを期待した。
「ははぁ〜、それはまた随分と自分の価値を高く見積もりましたね〜?逃げ出して何が出来るって、想像が付かないからここに居るんですよ〜。ここなら少なくとも生きていけますしね〜」
『…やめたいけど、やりたいことがないって事ですか?』
「ちょっと違うかな〜」
トマルは緩やかに首を振り、お屋敷の入り口を開く。
いつの間にか屋敷の外まで来ていたらしい。歩いてるなら地面の感触で分かるだろうけど、『精肉』の効果が薄れてちょっぴり浮いてたから気付かなかったようだ。
キィィ…。
「自分は大したことがないって見切りを付けて〜、そんな自分に任された事があるから頑張ってるんですよ〜。後ろ向きに前を向いていれば〜未来に期待を持たなくても明るく振る舞えますからね〜」
『………そうなんですね』
「そんな物ですよ〜?未来に名を残すとか〜子孫の為に頑張るとか〜…考えてても疲れて〜自分の不甲斐なさに憤って〜…短命という自らの運命を呪いたくなるじゃないですか〜?だけど期待をしなければ〜心の底で濁る物を抱えるだけで良くなりますから〜。後はそれを無視すれば楽になるんですよ〜」
それは、『複線』の"短命だからこそ爪痕を残す為頑張る"持論とはまた違った、時属性の思想だった。
短命だから未来に希望を持たず、力不足への怒りを期待を持たない事でやり過ごし、大きな情動を持たないことで楽に生きる。
確かに後ろ向きに前向きだ。ちょっと仏教の思想に似てる気もするし、俺としてもちょっと分かる話かな。
『それなのに…どうして引っかかるんだろう?』
思わずそう呟く。
今までサーシャに任せて自分が何か変えられると期待せず、流れるままに過ごして来た。
それにしっかり当て嵌まる言葉が返って来て、どこか納得した部分がもある。
それなのに心のモヤモヤは大きくなるばかりだった。
自分がどうして先祖達の生き様を見て息苦しいか、自分の言葉で表せないのがもどかしかった。
「それじゃ〜探していきましょ〜。先ずは手がかりを見つけますよ〜」
はっとして、先に進むトマルに付いて行く。
手がかりなら魔力視で掴めるかも知れないから、一旦試す時間が欲しかった。
ジリリリ、ジリリリ、
『それなら魔力視で…ごめん、ちょっと連絡が来たから待っててください』
「頼む側だからって敬語は要らないですよ〜。ではど〜ぞ〜お手紙を読むのは早い程良いですからね〜」
『ありがとうご…ありがとうトマル!』
ピッ。
魔法を起動し、サーシャからの連絡に出る。コレから始めるって事に一体どうしたのだろう。
グリムの事だったら話が早くなるんだけど。
[リーロ、グリムの場所が分かったから今すぐ其処に最大戦力で向かって]
『サーシャ!話が早くて助かるけど何があったの?』
すごく助かる情報だけど、その分剣呑で厄介なことになった雰囲気も一緒に感じた。
なんだろうな。魔物に襲われたか、終わりの時計塔の標的になったのか。
[終わりの時計塔だよ。たった今、"生徒の解放かこれ以上の反映箱への干渉の二択を突きつけられた"]
『…なんて?』
[私たちのチームで言えばグリムを生きて取り戻してこのテストを捨てるか、テストを拾ってグリムを捨てるかの二択を突き付けられた]
『そんなの一択じゃない?』
確かゲームだと反映箱を全て繋げる時に干渉して現実に反映しようとしていたが…こんな脅しはなかったな。
取り敢えずグリムが死ぬと色々大変だし、生きて取り戻す方向に進もう。
[良い?私達だけじゃない。他のチームにも同様の脅迫が送られている]
『…うん。それで?』
[向こうは本気だ。特に私達は注目されている。…従っても碌な結末にはならないだろうし、リーロにはグリムを回収して貰って、出来るだけ早急に時間を進めて欲しい…そっちに居る方はそれで何とかなる]
『ちょっ…ちょっと待ってよ。居るの?サーシャなしでやれる気がしないんだけど…?』
困った事にサーシャが俺が頑張るプランを作ってるみたいなので抗議する。
そんな事言われても俺とトマルだけ…他に戦力が有っても時計塔の連中を攻略出来るとは到底思えなかった。
[大丈夫。"死に戻りはリーロが死んだ場合でも発動する"。仮にご先祖が死んでも、時計塔のやる事を考えれば"産まれなかった事になって死ぬ"。5回までなら失敗は許されてるからやるだけやろう]
『うぇぇぇ…やるしかないのか…分かった、頑張る』
[ありがとう。現場にはMMになってから入ってね。リーロの正体と能力は知られない様にしよう]
幾らか会話を交わし、どうにも俺が行かないとダメそうな状況だったから頑張る事になった。
果たしてどうなるか…自分でも戦闘はサーシャよりも下手だと最近自覚してきたのだ。
出来るだけ頑張るけど…自信は一切存在しなかった。失敗が視界にいっぱいにうまってそうだった。
それでも向こうも大変だろうし、幸運を祈るくらいならやれるだろう。
『分かった…サーシャ、そっちも気を付けてね』
[…そうだね。場所は高層農園プラントの最上階に居るから。…頑張ってね]
ピッ。
通信が終わったのでトマルと向かい合う。
なにをするにも先ずは人集めだ。
サーシャ不在で時計塔が相手なら誰が相手でも二人だけじゃ死ぬと分かっている。
相手が本気を出すまでもなく死ぬのが俺らだ。ここは失敗しないように慎重に行こう。
「それで、どんな話だったんですか〜?」
『誘拐されてるって話…後、戦闘があるから戦える人が欲しい…』
「あはぁ〜愉快な話になって来ましたね〜?」
『私は武器に戻るから、戦うなら私を使ってね。MMの更に発展した新型のMRCって杖だから、確実に強くなれるよ』
「MMの発展版…?MRC…あれ〜もしかして貴女って本当に秘宝なんでしょうか〜?」
『えっと、MMの無詠唱、並行起動、身体強化、威力増幅に加えて、無限の魔力、空中浮遊、人化、魂の完全共鳴に…時属性同士の起動はどうなるかわからないけど、絶対強くなれるとは思う…かな』
そう言うと、トマルが失笑して空を仰いだ。
相談に乗ったか弱い子供が実は強かったみたいな雰囲気を出している。
「ははっ2度と自信のない顔しないでください。死んでようとそれだけの力を手に入れておいて何が不満なんですか?」
『相手がそれ以上だからかなぁ…』
「…あれ〜?もしかして私、王様や神様の領域の争いに巻き込まれてます?」
『その3歩手前くらい…』
「あ〜は〜…分かりました〜…私達も本気でやらないとダメな話ですね〜?」
『お願い!ありったけが欲しい!』
「少々お待ちを〜。家宝と戦力を片っ端から持って来ますので〜…"流れる時間よ 澱み狂え『時球─未練の逢瀬』"」
トマルはそう言うと、周囲一帯を透明な球で包んだかと思えば、早送りみたいな動きで館に逆走し、暫くしてから色々抱えて戻って来た。
怖がらせ過ぎた気がするが、舐めてかかって死ぬよりはマシ…うっわなんかぞろぞろやって来た!?
「お待たせ〜」
『…後ろの人達は?』
そう問いかけると、一クラス程度の人数は居そうな集団のリーダーっぽい人が前に出て来た。
マントをはためかせ、
うん、俺はもう指示は無理だと思えて来たよ。圧力すごいもん。
「タイム家直轄騎士団「
『さっきの今で状況把握し過ぎじゃない?』
「あはぁ〜私の『時球』は応用で、囲んだ空間の時間を自在に圧縮出来るんですよ〜?それで少しばかり集まる時間と説明の時間を
『えっぐい程攻撃以外に転用出来てるじゃん…』
「でもお兄ちゃんも同じ事出来ますから〜。ほら、ドッコイヤンケ〜?説明不足だけど合ってるヤンケ〜!」
案外攻略出来る気がして来たな…案内したら俺は武器として動くだけで全てなんとかなるんじゃないか?
『人のこと言えないんじゃ…場所を言ったら杖になるから、後はお願いね』
「ど〜ぞ〜」
『高層農園プラント最上階。彼らは其処で、私の仲間を脅している。お願いします、どうか助けてください』
其処まで言った後、俺は秒針にその身を変え、穂先が地面に突き刺さった。
「う…コレは…魔力が迸っていますね〜?それにこの属性…本当に子孫なんですね〜?」
変化は顕著だった。
生産される魔力が周囲に溢れ、周囲を威圧し魔力酔いを引き起こす。
時属性は更に俺の属性を認識出来るのか、変わらない笑みを浮かべながら俺を掴んではいるものの、内心で怯み怯えているような感情をしていた。
「それじゃ〜行きましょ〜」
俺を引き抜き、トマルは騎士団を率いて農園に向かう。
その後ろを騎士団が付いて行くのも相待って、まるで戦争をしに行くみたいだと思う。
否、実際戦争なんだろう。
「あは〜…なんだ、私よりもずっと酷いじゃないですか。…子孫は私より良い生活をしてるって、知らず知らずのうちに期待してましたね〜。少しガッカリです」
(腹立つな〜、私達が頑張っても未来はこのザマなんて…私達が頑張ってるんだから、幸せに生きてくれたら良かったのに…MM…MRCでしたっけ?王様が自ら守ってくれている筈なのに、どうして…服もあんな貧しいものを…弱い人も生きていられる政策、考えてみますか〜)
…え、トマルお前…あんなこと言っておいて、内心は今まで見て来た先祖とそう変わらなかったりするのか…?
そんな…私、親近感覚えていたのに…裏切ったの…?あなたも
「魔力操作〜無詠唱〜威力〜…お〜、すご〜い!これがMMなんですね〜!」
(すごいすごい!親族が素材になってるだけはある!魔力が無尽蔵に沸いてるし、"逆回転"の行使がどうなるかも…!"魔法合体"も果たしてどうなるか〜!)
…え、"逆回転"? "魔法合体"? …何それ?
「変なことしてない?」
「そう何度も尋ねられても答えは変わらないよ」
「でもサーシャだしさぁ」
「まるで人を万能の手段みたいに扱うね」
「未来でも今でも散々手を焼くことになってるからね!そりゃあ警戒しますとも」
暖簾に腕押し、糠に釘、そう表現するべき押し問答をしていたのは、サーシャとヌルの二人だった。
真っ黒なフード、数字の書かれていない真っ暗な無地の仮面。声から女性である事しか情報のない、正体不明の不審者が白昼堂々とAクラスの教室を練り歩いていた。
「でも不思議だよね?そんなに賢いのに実力を隠さないなんてさ。このご時世、優秀な人はMMにされちゃうんだぞー?」
「残念だけど、こうなったのは学園に入ってから。それまで私はただの村娘であり、水魔法が使えるだけの穀潰しだった」
「嘘つけー、その理論だとたった2ヶ月で世界の誰よりも知恵と知識で上回ったことになるじゃんか。あり得るー?」
「来た、やった、出来た。だから貴女達はこうして手を焼いているでしょ?」
「うわー…サーシャが一年後生きたらって考えただけで恐ろしいこと言うじゃん…」
その周囲に有るのは石化した生徒と教師、ヌルの後ろにはサーシャの反映箱以外が合体した箱が浮かんでいた。
サーシャの周りには絶えず
「…で、実際問題さ、ここからどう解決するの?既に"サーシャを除く学園内に居る生物は全員『停滞』に陥った" けど」
端的に、ヌルが限りなく詰みで有ると宣言する。
あくまで"限りなく"と評するのは、それだけサーシャを警戒していることの意思表示だった。
終わりの時計塔、
MM「停刻」、行使する時魔法『停滞』。
やった事は単純だ。
石化と生存の状態を切り替える時魔法で、学園内にいる全ての生き物を石化させた。
起きた事も明白だ。
草木も、鳥も、人も、虫も、細菌も、学園内に居る生命活動を行っている者全てを緑色の光で包み、石へと変化した。
「どう解決するか?…愚問だね」
水属性は抗魔の力が飛び抜けて高い。
ただ一人、学園内唯一の水属性であるサーシャだけが、その力を跳ね返し続けることに成功した。
「既に手配はした。残念だけど、
「へーぇ、怖い事を言ってくれる。良いのかい?私はビビるとチビるタイプなんだぜ?」
「紙オムツ居る?手配のついでに作った試作品。ほら使って確かめてみてよ」
「ほぉ、余裕綽々に敵に塩を送る余裕まであるのか。おっかしいなー、完全な不意打ちを決めた筈なんだけどなー?」
まるで登校中の学生のような呑気な会話に聞こえるだろう。
実際、お互いの話してる内容と表情を見ることが叶うならば、それそのものと言えるくらい、お互いにのんびりとしていた。
「お返しに、友好的なサーシャ君には一つ良い提案をしよう。研究をやめて大人しく学園生活をしてくれないか?これ以上進められるとさ、先の戦争で人類全滅しかねないんだよねー」
「無理。"その戦争の次の戦争で勝てなくなる"から」
「おーっとそこまで知ってるなら話は早い!──私らに一任しろ。悪いようにしない」
お互い、結果の分かりきっている会話を続ける。
この会話で話した話題は全て、大きな実りは得られない。
何故なら、お互いに時間稼ぎで行っている会話だからだ。
「…それなら私からも言っておこうか?
サーシャはリーロが時間を進めるまで、ヌルは回収した反映箱の下拵えが終わるまで。
だからこそ、この話題がこの時に出ると言う事は、それは失敗が約束されている事に他ならなかった。
──だからこそ、サーシャは久々に相手に合わせずに話せる機会を得た。
「受け入れる訳ないだろ。臆病者が」
空気が一変する。
「神の命令、人類の存続、タイム家の使命…それがどうした?そんな最もらしいお題目が、私の友人達をどれだけ助ける?私の運命を手に入れるのにどれ程役に立つ?」
それは、サーシャ自身ですら自覚していない傲慢。
ある世界のゲーム制作で、主人公として選ばれるにまで至ったもの。
どこまでも優しく、そしてどこまでも奉仕的な、
それは、
ゲーム通りなら多くて3度で済む筈だった死を、何百と繰り返しても乗り越えられていた、心の強い部分。
サーシャの行動原理であり、ゲーム会社にSRPG要素をオマケにさせる作りにさせた、極まった恋愛脳の末路であった。
「…けほん。私ならそっちが成せる最善より良い未来を与えられる。終わりばっかり見て、始まりも過程も見ない奴よりずっと良い筈だよ」
「──…ハァッ!!ゴホッゴホッゴホッ!?」
張り詰めた空気が霧散し、ヌルは息苦しさに呼吸を忘れていた事実に気が付いた。
咳をこみ、動悸を落ち着かせる。
未来を見て知っていた。サーシャがどういう人物であるか、どう考えて行動するか。
その情報から組織の人員で多数決を取り、サーシャとは協力関係にならないと結論付けてもいる。
「…心遣いどうも。そっちからお断りされると、ウチの子の説得が楽に済むよ」
「事前に協力するか多数決したのによく言うね。私はそれに合わせて言っただけ。そっちが協力するつもりなら、有る程度妥協はしてあげたよ」
「どの口が…協調した未来だと最終的に自分の意見を押し通してたじゃないか」
「当然でしょ?"アレ"に関して妥協は許されないし、そっちは場合によって無責任にこの選択に関しても投げ出す」
「さも当然に私等でも見れない未来を知ってるねー」
「ただの予想。でもここ最近は間違えたことはないよ」
会話を続けて10分程経過し、サーシャ達はお互いに時計を確認した。
「じゃ、そろそろ…」
「そうだね──決闘と行こう」
話して明確になったのは、未来への見解での相違。今は分かり合えないという事実だ。
今を生きる者に理解出来ない会話であり、未来を知る者同士の会話でも 話にならない部類の物。
…で、あるならば、後は暴力でしかこの場は収まらないだろう。
それだけはお互いに分かり合えた。
「よし来た。話してただけじゃみんなに揶揄われるし、本気で行くよ」
「勝てば箱、負ければ渡す。死ぬか負けを認めるか、一本勝負、如何に?」
「良いよー。でも『停滞』が使えない勝負なんて久々だから…死んでも恨まないように」
ヌルの桃色の火が辺りを照らし、サーシャが水球を展開する。
ヌルはMMである靴紐を結び直し、サーシャは2枚の呪符を取り出した。
お互いに準備を終えて一礼し──膨大な魔力が、教室でぶつかった。
「ダルク」
王都住まいの長男坊にして、有名なパン屋の倅。ミルクパンが美味しいらしい。
姉曰く妹と一緒に入学したらしく、今はその子を探しているようだ。
一歩後ろで集団を見るタイプだが、一緒に研究をやったりしたおかげでその手の距離感はなくなったように思える。
知り合いで一番癖が少ない性格だが、その分記憶を取り戻した時の反応は一般的な物になるだろう。もし狙うなら、心の底から惚れさせる必要がありそうだ。