不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計 作:何処にでもある
騎士団人数を54→49名に修正。
理由:水属性は戦力にならず、入団不可である為。
「到着〜…う〜ん…見覚えのある黄金ですね〜。みなさ〜ん、出来るだけ脱いで、肌を晒しておいて下さいね〜!生き物以外が触れたら黄金になる魔法ですから〜!武器は持っていって良いですけど、周りの黄金には触れないように〜!」
(お母さんだ…白くないですけど、輝き方はお母さんですね〜…まさか母の力と戦うとは…奇縁ですね〜…勝てるかな〜)
周囲を囲んだビルの物陰から黄金のビルを見て、トマルはそういった。
母が持っているだけあり、勝手知ったる力なのだろう。
的確な対処法を騎士団に伝え、全員が素直に従う。上官の命令をしっかり聞けるとは、間違いなく熟練の騎士団だな。羞恥心の呵責もなく下着やベルト、アイテム袋を除いて装備を外している。まるでスパルタ兵だ。
「言われた通りだ。全員装備を外せ!動きを阻害させない自信がある者は着用を許す!」
「はっ!……だが、当主様が金鉱脈を見つけた際に目覚めた時魔法か」
「敵は未来の者と聞く。力を盗む魔法があっても不思議ではないな」
「だとすれば不甲斐ない。未来の騎士団は何をしているのか!」
「過去に訪れている辺り、他の魔法も取られてるやもしれん。警戒すべきだろうな」
それを見てうんうんと頷いた後、トマルは目前にある勝てる卵型の黄金のビルを見上げ、攻略の算段を立て始めた。
「確か〜ゴールドさんでしたっけ〜?人の親を振り回すとは随分と勝手をなさりますね〜」
(リーロちゃんから聞いた話だと、お母さんの魔法を扱える土属性の魔法使いでしたか〜?土地の侵食をしてない所を見るに、使い熟せてる訳では無さそうですね〜?うん、被害は出るけど殺せる殺せる〜)
相手の正体は『黄金』のMMを持つ
終わりの時計塔は全国活動の組織だからな、8、9、10は其々一国を担当しているんだ。
普段の活動は価格調整。商国でハイパーインフレが起きないように、日夜高くなった商品を安く売る転売で調整している。
本来ならここにいる筈のない相手ではあるが…流れが変わるのは想定していたし、普通に倒して済むならそうすることにしよう。
「あ〜でも〜…飛べるなら触れずに行けますかね〜?…うっかりは怖いし、天井から向かうだけに留めましょ〜。確かやり方は〜…リーロちゃん〜?」
(え〜と、そっちでなんとか出来ませんか〜?)
トマルが俺に頼ったので、早速魔力の生産をフル稼働させて周囲の魔力濃度を上げる。
これはサーシャが帰ってから様々な研究を進めてる合間に作られた、
『わ〜深淵の奥側ってこんな感じなんでしょうか〜?』
(ゴリ押しだな〜…でもすごく分かりやすい仕組みですね〜?)
ギョッとした感情が伝わるのもお構いなしに放出し、サーシャがダンテを説得して追加した機能を起動させた。
魔力展開、共鳴率上昇、魔力糸生成、『獲得(劣)』の人形操作用の糸を展開…。
トマルとの共鳴が上がったのを利用し、起動呪文を教える。向こうからすればなんとなく何をすれば良いか分かる感覚の筈だ。
(…あ、これを言う感じですね〜?)
──『獲得─人形術:パントマイム飛行(劣)』
唱えた途端、トマルと騎士団の背中から一本の糸が張り詰め、宙に浮かぶ。糸の先は途中で途切れているものの、風で揺られておらず、まるで見えない人形師がその先にいるようだった。
これぞサーシャの落下攻撃で即オチしたアンテナが繰り出す筈だった『獲得』の応用、人形化した相手への飛行能力の付与である。
サーシャのものは劣化が著しいので魔力濃度を濃くしたり、魔力の糸を用いたり、共鳴率を上げて操作し易くする必要があるが、代わりに本来なら人形にする過程を飛ばして付与できるような作りになっている。
まあそこまでしなくても錬金で強度を増やした魔力糸で目的地まで引っ張る方が速いし安上がりなんだけどさ。勝ってるのは集団に一度に飛行能力を与えられる部分だけである。
ぶっちゃけ劣化させてまで再現する必要性はないが、俺はこれ以外の他者への飛行能力の付与は出来ないので仕方ない。自分だけなら普段から勝手に浮くんだけどね…。
「うん、ある意味都合良し〜」
(ん〜、先祖の力を借りずに行使した?リーロちゃんの時属性ってそういう方向性なのかな?ま〜士気を高めるには丁度良いか〜)
トマルはそう言うと、自分が空を飛んでいる状況に驚いている騎士団の方を向いて声を張り上げた。
「皆の者〜!これは我らが先祖の加護である〜!三代目当主は我らに空を飛ぶ力を与えた!即ち敵は最上の階に有り!勇気ある者は共に進め〜!!」
「「「おおおおおおおおぉぉ!!!!」」」
トマルと騎士団の動きたい意思に合わせ、全員の飛行を補助する。
多少忙しいが、サーシャが要求する魔法の計算に比べればなんて事はない。
風や魔力濃度による誤差の影響も計算に入れ、騎士団は高層ビルの上に降り立った。
太陽の光がキンキラに反射していて眩しいが、直ぐに火属性の魔法使いの手によって影響を取り除かれた。
「…っ!総員跳躍!全力防御!」
だから、総隊長は不意打ちの予兆に気付くことが出来た。
足裏に感じる違和感、僅かに地面に棘が生えたのを視認し、急遽騎士団全員を空の上に避難させる。
同時にビルの天井が黄金の針山を一瞬で生やし、
「─ッ!?『土纏』!!」
「「「「"大地は産まれ我を囲いけり"『土纏』」」」」
ズガガガガガガッ!!!バキっバキッ!
反応出来た魔法使いは、騎士団を守る訓練を重点的に行った土属性の魔法使いのリーダー格。
次いで他の魔法使いが土の壁を広げて重ねるが、次第に黄金の棘の先端が見える辺りそう長くは持ちそうにない。
その上で、通り過ぎた黄金の棘が旋回して後ろから襲いかかって来た。
「はっ囲んできた!?『火放射』!」
ヒュンっヒュンヒュン、ボウッ!
「ちいっ『火放射』『火放射』『火放射』!!」
火属性の魔法使いのリーダー格が詠唱破棄の炎のビームをぶつけて黄金の棘の軌道を逸らす。
MMを使わない魔法、それでも通常の黄金なら一瞬で溶ける熱ですら、黄金を逸らすしか出来なかった。
「「「「「"風吹く先は我が鱗"!『風纏』!!」」」」」
「「「「"炎の渦"『火纏』」」」」
状況を把握し詠唱を終えた他の魔法使いが防壁を重ねるが、土壁の様に質量で覆うのではなく逸らす魔法では、また旋回して再度突撃されるだけだ。
その度に速度は増して、逸らす為に使う魔力は多くなる。水属性の様に維持に魔力は支払わなくても良いが、攻撃を防ぐ為に追加の魔力を使うのは全属性共通だ。いずれ限界が来る。
「留まっても消耗する!隊列変更!盾持ちは前へ!他は後ろに下がれ!防壁を展開したまま進むぞ!!」
「しかし総隊長、このままでは上下からも来ます。この場合隊列は立体的に置かなければ意味が有りません!それに進む先は全て黄金です。壁も天井も床も、それを零距離で防ぐのは難しいかと!」
「ぬぅ!流石当主様の力、その一端だけでここまで窮するとは!」
「言ってる場合ですか!?魔法使い達の消耗も想定以上です。撤退か、決死の進軍か、決断を!」
そう話してる間にも、全方位に発射された黄金の棘が三つの属性で作られた防壁の壁に沿って回転しながら旋回を始める。
ドリルの様に回転し、ミキサーの刃のように壁を効率的に削り始めた。
「はは〜思ったよりもちゃんと強いですね〜?」
(もう観察は良さそうかな〜?そういえばお母さんは、私の黄金には意思があると言ってましたか〜。あれ本当だったんですね〜?)
その通り、『黄金』の魔法で作られた黄金は意思がある。
物の時間を個体…生物の時間に変換し、与えられた目的に対して学習と強化を繰り返す。
その上スライムのように形状を変化させ、生物として活動出来る時間を消費して新しい性質を一時的に得る事も可能だ。
さっきの火放射への耐性も、活動時間を消費して追加で獲得した物だろう。
そしてその活動時間も、生き物から時間を吸い取る事で増やすことが出来る。そしてここは農園、植物という生き物が大量に育てられている場所。その時間を吸い取ったとなれば、果たしてこの『黄金』はどれだけの時間を持っているのやら。
仕舞いには普通の物質を侵食して『黄金』を増やしてくるんだから厄介この上無い。ゲームだと遠距離で暗殺決めるのが鉄板の攻略法だった。
魔法で生み出したばかりの物質はまだ侵食出来ないが、その内土壁も黄金に変わってその牙を向いてくるだろう。
「なので〜えいっ」
(便利〜無詠唱なのに、いつもよりずっと扱い易くて絶対的だ〜)
軽い掛け声と共に『時球』が放たれ、黄金の棘の一つに接触する。
「…遅くなった?」
「これは…まるで当主が新たに目覚めた力と同じ…」
「もう大丈夫ですよ〜?入って探しに行きましょ〜。あ、黄金には触れない様にしてね〜?同じ時間になりますから〜」
(騎士団の実力は見れたし、これなら『黄金』との戦いの役に立ちますね〜?良かった良かった〜)
途端、
騎士団は動揺しつつもトマルの後ろについて行く。何処まで言ったのか不明だが、この分だとあんまり話してはいないな?
それなら俺の事もあまり話してなさそうだし、サーシャの情報隠蔽の支障にならなそうで安心だ。
「…当主代行、これはいったい?」
「この未来のMMのお陰ですよ〜。この黄金のビルを作った犯人の扱う物と同じ未来の魔法です〜」
「なるほど、ではどんな魔法ですか?」
「言いたいのは山々ですが〜…この黄金の足留めは10分程度、時間優先でね〜?後で言いますよ〜」
「…ならば今はそちらが優先ですか。…皆の者、行くぞ!」
(思考を
トマル本人の力なんだけど…都合の良い隠れ蓑にされてるよ。
良いけどね、俺にとっても都合が良いし。
そして『時球』の性質もわかって来たぞ。
一度接触すれば身体と切り離されてても効果が有り、持続する若返りと老化を行える。
その応用で遅延と加速を行えて、合わせて特定の作業が終わるまでの圧縮が可能…単純に強いな?
「………ぉ……ま…にく…」
「あ〜ここですね。相手の声が大きくて分かりやすいですね〜」
「では突撃しましょう。火魔法使い達、扉を撃ち抜け!」
「あ、王子…は良いか〜。王様の子供なら大丈夫大丈夫〜」
そう考えてる間にもトマルと騎士団は進み、それらしい部屋に辿り着いた。
黄金の扉に閉まってても分かる大声と重低音、間違いなくゴールドだな。
「「「「「──『火炎砲』」」」」」
ボウっ!!
『火放射』の一つ上の魔法が放たれ、黄金を溶かし室内を蹂躙する。
火に対する耐性も、しっかり詠唱した5人の魔法使いの力が合わされば打ち破ることが出来た。
シュウゥゥゥ…
「…やったか?」
「いえ〜全然ですね〜。構えてください〜」
陽炎と煙と共に二つの人影が現れる。騎士団は広がり、剣を構えて囲む。
相手の主戦力は削いだとはいえ、それだけしかない訳がない。順当な警戒心だった。
ジェケジェケジェケジェケギュン
「ヘイお前らYO!人質居るのに随分なご挨拶じゃねーかYO!そんなんじゃ筋肉悲しむぜ?オマエらには俺専用特訓コースが必要な様だYO!!」
「助けに来てくれてありがとう!早速だけどこの筋肉魔人を倒してくれないかい?そうすればなんとか出来る自信があるんだ!」
「どっちもうるさいな〜?」
(どっちも喧しいな〜?)
それを出迎えたのは、MMであるディスクでリズムを取る、黒光りの筋肉をロープの上からも主張するアフロ、席《アハトゥ》のゴールド。
そして黄金の縄でマッスルポーズにされているグリムだった。
うーん、流石ギャグシナリオの敵だ。ゲームだとメインに関わらなかっただけはある。
ジェケジェケジェケジェケギュン
「よくぞここまで辿り着いた!しかしまだまだ戦は前哨戦、話もバランスも決着着くにはまだ早い。だからもいっちょ争いあるぜ!俺とコイツの魂のビート、受け止め切れるかお前さん!」
「あはぁ〜リズムに乗って話すんですね?未来ではそんなのが流行ってるなんて…いえ〜有り得ませんね。筋肉と音楽の間でふらついている人の感性なんてアテになりませんから〜」
すっごい罵倒飛ばすじゃん…。
「オイオイ開幕罵倒は無しだろう?良いか物事はバランスよ、文武両道筋肉DJ!どっちも揃えてパーフェクト、心も生活も余裕が生まれるYO!」
「自分の感性を過信しただけの〜、誰も乗らない孤独のリズム、その上私の母の死体を弄ぶクズの所業、ふざけて赦されるものではないと〜…──思い知ると良い」
御託はここまで。トマルは秒針を振るい、周囲に『時球』を展開させる。
対してゴールドはグリムを掴んで盾にしつつ、ディスクを回して周囲の『黄金』を音符の形に変えた。
「「───ッ!」」
初手はこっちが早かった。
トマルは自分と騎士団を10倍速させ、『時球』を巨大化させて周囲を包み、その内部を10分の1にさせた。合わせて100倍差による集団の暴力、それに合わせて騎士が走り、その身体の質量と速度を伴って剣を叩きつける。
対してゴールドは宙に浮く黄金を爆発させると同時に飛散物としと無数の
キィィ─ン
それは、攻撃を弾いた音だ。
トマルへ飛来した刃を騎士長が弾き、ゴールドは襲いかかる剣をアフロから伸ばした黄金の盾で弾いた。
「かはっ」「がっ」「うおおっ」「─ッシ!」
流れ弾が何人かの騎士に当たり、血を吐く。それでもゴールドへ突っ込み、一斉に剣を振るった。
一人は首を、一人はグリムを掴む腕を、一人は腹から心臓まで、一人はアフロの中にある黄金へ。
複数人が多方面から剣を突き刺せば、全方位を囲まなければ何処かしら穴は出来るものだ。さっきの空中戦の戦訓が生かされていた。
そして肉まで入った剣を振り抜けない弱卒はここに居ない。剣が黄金に変わって溶け切る前に、グリムを掴む腕が切り飛ばされ、代わりに4人の騎士が黄金の時間へと変えられて老衰した。
そして死体の大半が火や風へと変わり、世界に還元される。多少の灰と骨が辺りに散った。
「──『瞬足』」
「良くやった!」
筋肉を強調するポーズを取らされた王子を風の魔法使いが抱え、高速移動で戦線から離脱する。
だがすぐに決着を付けなければならないだろう。王子の首元に巻かれた黄金から血が滲み出ている。
このままだと死ぬのは確実だ。サーシャなら何とか出来るかも知れないから早く送り返さないと。
「終わりですね〜?」
だが、それは案外早く叶うだろう。
何度か失敗する事を前提にしていたが、倒すだけなら騎士が4人死ぬだけに留まりそうな雰囲気だった。
なにせ人質が居ないなら、魔法使いには恰好の的だ。
速度差が100倍もある15の杖が向けられた以上、ゴールドは動ける余地がない。
だからこそ次の問題は──。
「あっ」
スパっ…ドサ。
「あ〜…死んじゃいましたね〜?」
間に合わずに首を落とされたグリムの救出方法だろう。
倒すだけなら問題ない。ただ、グリムを何とかしなければ成功とはいえない。
グリムが死ぬのはだめだ。王様が怒り狂うし幾つかのイベントが狂う。
何より親身になってくれた彼が死ぬのは悲しい。
騎士は死ぬのが仕事まである戦闘職だから良いとして、やり直しが必要だった。
『ふぅ…』
「あれ〜?人に戻ってどうしたんですか〜?」
『グリムが死ぬのはダメ…だから…やり直す』
「…あ〜…そういう時魔法だったんですね。それで今回は捨てだと〜…条件は〜?」
『ごめん…私か所有者…サーシャが死ぬこと』
「では介錯を務めましょ〜。次はしっかり口出ししてくださいね〜?」
トマルが真っ赤な三角形の時計を取り出すと、その見た目を『日蝕』に変えた。
逆立った髪に鋭い眼光を持つ男性、繋ぎとして政策を続け次の代で完成させてみせた人。
その魔法は時間に対応して火力を上げる槍を創り出す物だったか。
「では〜…『日蝕─80%』」
そして燃え盛る真っ赤な槍が頭部に近付いて──…。
「ヘルシング・スミス」
商国の元大富豪の一人娘の使用人にして、今も付き従っているちょっと節穴だけど忠義は本物な男。
MMにシープの両親が納められているけど、なんで使用人が使ってるんだろうね。なんだかんだプライベートはあまり明かしてくれない。仕事人間かも知れない。
おちゃらけてるけど、思考回路は割と冷たい方かな。理解力と例えは上手いけど想像力はなさそうなのが欠点。
シープとは恋愛って感じもしないし、合理的に詰めればワンチャンあるかな。前提にシープに仕えるのに問題ないかの判定が入るだろうけど、そんなのシープの方を動かせばいいから問題ない。割と狙い目。