不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計 作:何処にでもある
どうあれ決着は付き、次に進むものです。
──も『停滞』が使えない勝負なんて久々だから…死んでも恨まないように」
(これで
魔力が衝突して生まれた衝撃波を魔力操作だけで受け流しつつ、サーシャは最適化された動きを再現する。
果敢に攻め立てる炎の波を潜り抜け、
「へえ燃えないんだ。それなら直ぐに終わるような事はないね」
氷属性、それはサーシャが属性学で並行世界の自分を捕える事で手にした新たな属性だ。
肉体に触れれば容易く砕け、その上無機物とぶつけても普通の氷程度の強度しかない魔法。
使えるのは土木や冷所くらいであり、戦闘に使うには向いてない魔法だ。
(だけど割と便利な特性があった。それがこの「氷の息」。寒冷にとても強くなり、意識して呼吸すれば火傷もし辛くなる。後は血が凍らなくなるくらいだけどそれは今は良い)
今までのサーシャなら、触れた瞬間引火して燃え尽きたであろう熱気と炎に耐えられる種と仕掛けの正体だ。
しかし熱に耐えられるからといって、呼吸が不要になった訳ではない。逐次息継ぎが出来る場所へ逃げ込まないとならないし、その場に少しでも留まると炎が押し寄せて燃え尽きる。
一瞬でも気を緩めれば死ぬ。だというのに
「ま、どっちでもいっか!ほら、攻撃の一つや二つやってみなよ。決闘ならそうじゃなきゃ面白くないだろ?」
ヌルの挑発もお構い無しにサーシャは踊り続ける。
炎に包まれても氷の輝きを残し、『水滑』すら使わずに滑らかに避け続ける。
このまま攻め立てれば体力の底に至るだろう。だというのに、ヌルは警戒心を解かないでいた。
「…不気味な奴」
初めから不審に思っていると、どれもが怪しく思えて仕方がない。
踊りはシーシャとやらを産み出した踊りに見えるし、氷の残滓が魔法陣を描いてないか疑えるし、攻撃に出ないのも、何か強力な反撃が来るじゃないかと思えてしまう。
呪符とやらを二つ取り出したのに、一向に使わないのも反撃への警戒を強めていた。
だからこそ、ある程度の魔力と並行起動の枠を防御に回さざるを得ない。攻めきれない。
「──はい、終わり」
「ッ!?……何もないじゃないか!」
「一曲踊り終わった。どう?綺麗だったでしょ」
「〜〜…!馬鹿にしているのか!」
いつでも逃げられる用意をしたまま、挑発に乗ったフリをする。
ヌルは戦士ではなく元メイド長の一般人だ。大見得切った言葉を吐いても根は一般人。つい先ほどの威圧も相まって、サーシャを恐れる気持ちでいっぱいだった。
「馬鹿にはしてない。補助と錬金を終わらせただけ」
「はっ?MM無しで…ちぃ!」
そこまで言われてヌルは思い出した。相手の持つ呪符の計算機能は程度の低いMMに相当する。
それが2枚、合わせれば上等なMMを少し超えていることに思い至った。
知っていた。しかし知っていただけだった。
急いで炎を殺到させても、片手で払われる。
それどころか払った手に巻きついて、槍の形を纏って相手の武器になる始末だった。
「深淵言語より発展させた
「…ばか言うなよ。たった今完成させた?そんな簡単に新しい物を作れる人間が居るか!!」
炎を太陽と見間違う程集中させた火球で十字砲火を放つ。
サーシャはその手に持った槍を回すと、火砲は軌道を変えて穂先へと集まり無力化された。
「まだ説明は終わってないよ。その二つの技術を利用して作ったのがこの槍。名前は「吸魔の槍」にした。ホムンクルスの構造を応用して作った"魔力と魔法陣だけで構成された武器"。言い換えれば、魔力さえあれば道具として半永久的に独立して存在し続ける魔法其の物」
「…何が言いたいんだ」
「もう其方は詰んだと言っている。この槍の効果は魔法の吸収と放出。個人戦なら負けず、勝ち筋が必ず残る性能にした。もう私が負ける事はない」
実演とばかりにサーシャは穂先を外へ向けて火砲を発射する。その魔力は間違いなくヌルの物と同一だった。
そして恐ろしいことに、その槍は先ほどから絶えず緑色の光を吸収し続けていた。
「そして、その槍があれば『停滞』も打ち破れる。時間はかかりそうだけどね」
「…なら、それを奪えば私が勝つよね。そして物理にも効果はない」
ヌルは炎で巨人の腕を創り出すと、その腕で教室の壁を持って投げる。
そしてサーシャは槍を構えると、投槍によって壁を打ち砕いた。
その細身のどこにそんな筋肉があるのか、ヌルは目の前で起きた現実に気が遠くなった。
「先に言った。踊りで補正をかけたと。今の私の身体は巨人の魔物と同じ性能が出せる。そして、この槍も再生成可能なように魔法陣を作った」
実際に、サーシャは同じ槍を創り出してみせた。今度は炎を材料にせず、自らの氷と水で作った槍だ。
「…出鱈目が」
「私は言ったよ。其方は詰んだって。負けを認めるか、死ぬか。選ぶ権利はまだあるよ」
「時間をかけたら殺すって意味じゃないか…はーぁ…」
ヌルは溜息を付き、魔法を行使する手を止めた。
想定外の相手だと想定していたが、実際に相対してみるとそれすらも認識が甘かったと反省する。
ここまで何でも出来るとは思ってなかったのだ。
確かにこの世界で最も偉大なる人と、未来から戻ってきた
「…認めよう。その代わりにもう一鞘当てさせてくれ。久々の決闘だし、錆び取りしたいんだよね」
「良いよ。この後の結果は見えてるし、この槍が何処まで吸えるか確かめ切れてないから都合が良い」
その発言に僅かな引っ掛かりを覚えたヌルは、この感覚に従ってサーシャに揺さぶりをかけた。
「ほーん、一言で矛盾するじゃん。聞いた話だと未来がわかってるらしいけど、それで分かんないのか」
「うん。普通に作ったらこの決闘ではどうやっても吸収限界に届かなかった。だからこの槍はある程度
「はー?お前こっちのこと舐め腐ってる?」
「単純に基準と程度を測りたいだけ。吸収した魔力量は計算してるし、設計と許容量の比例さえ割り出せれば上限が分かるから」
「お前さぁ、私も人のこと言えないけどさぁ…ちょっとは目の前のことに集中できない?」
「出来てない人には言われたくない」
その会話を最後に、教室は『炎幕』による絨毯放火が絶えず降り注ぎ、それを槍で永遠に吸い取る光景が続いた。
「待たせたね、オレはもう大丈夫だよ!」
「ヌルの姉貴!今すぐにその箱を全部ぶっ壊すんだYO!!」
そこから変化が有ったのは7分後、反映箱からグリムとゴールドが一緒に出た開幕の一言による、ヌルの最後となる一手。
「っ!『停た──ッコ°…」
最も早い、光を当てるだけで壊せる魔法の行使。そこに後から詠唱を挟むことで破壊出来る威力へと増幅する算段は、"肺に突き刺さる真っ赤な槍"によって防がれた。
(痛い…痛い痛い痛い痛い…)
その結果、反映箱は石化するだけに留まり崩壊することはなかった。
ヌルはサーシャを睨む余裕すらなく、痛みに動けない。脂汗が吹き出し、死に近づく眩暈に恐怖した。
圧倒的な力を振るって完勝し続けた過去が、痛みを堪えさせるのを不可能にさせていた。
パシャリ。
それを為した者は気負うことなく液状化させた黄金を踏み締め、ヌルに近づく。
既にグリムは転移による安全圏への避難を、ゴールドは解析して得た『黄金(劣)』による命令の上書きによる黄金の殴打で気絶していた。
劣化した結果、出来ることは『黄金』へ与えられた命令の上書きだけだったが、今はそれで十分過ぎたようだった。
「う"う"…」
カラン…。
膝を屈し、仮面が影に落ちる。隠れた顔は影に隠れ、蹲っていて見えなかった。
そこでヌルは気付いた。自身が今、先程赤い槍を投げた方向に背を向けていたことに。
「さて、未来で教えろって言われそうなことを先に言っておこうか」
いつの間にか誘導され、不意打ちを喰らったのだと漸く気付いた。
「吸魔の槍を構成する魔法の起源は『魔水』、魔力を貯める魔法を発展させ、設定された魔力を吸収するまで、魔法を構築している魔力すら喰らう悪食の魔法にした」
サーシャが『黄金(劣)』でゴールドが隠し持っていた黄金へ命令を下し、その学習内容を上書きしていく。
3歩も歩かぬ内に人型のメイドのような見た目に変化し、サーシャの後ろを粛々と付き添い始めた。
「ただ、この魔法は欠点がある、魔法を吸収する魔法がある二つ以上ある場合、"吸収した魔力が少ない方が勝手に動く"。今回は調整して丁度心臓の近くを突き刺すようにしたけど、この性質は量産出来ない欠点になる」
ヌルからしてみれば聞いてもいない話。
だが、サーシャからしてみれば
潜在的な敵ではない以上、ある程度親身に話すくらいの気兼ねなさをサーシャは持ち合わせていた。
「…いだい」
「今治しても暴れるし、もう少し痛い目に遭ってて。先に勝った方…箱の中にいるタイム家への報酬とみんなの治療が先だから」
ザシュ。
「ぐあ…」
苦しんでいるヌルの足先を踊りで得た巨人の力任せに槍で切り落とし、靴紐のMMとの繋がりを切断し、足とまとめてMMを遠くに蹴り飛ばした。
魔法を使う余裕もない内にやるのが最も効果的であると、サーシャは初めて死んだ時から知っていた。
「黄金人形、手当してて。さて…『停滞(劣)』は覚えたけど、溶けた石は直せないか。ただの緑色のライトだし。なにか方法は…ああ、これが良いかな。タイム家を上から見て知った新しい時魔法の使い方から…多分こうして…」
苦しんでいるヌルを、先程ゴーレムを参考に作った黄金人形にお世話を任せ、石となって溶けた同級生を見る。
既に粉々を超えて熱で溶けてしまっていたが、サーシャは魂しかないMMから身体を再構築させたこともある。
一度似たようなことをやり遂げたサーシャにとって、この程度は難題の内にも入らなかった。
「構成…分解…調律…うん、魂はあるからその繋がりで…分子単位で…外に飛び散ったのは…そこに辿り着く魔法を…錬金は今回は使わない方が良いか…」
望ましい結果から算出し、持てる手段から工程を導き出し、あくまでも物体の修理に留め蘇生の領域に踏み込まないように調整する。
一度似たような事をしただけはあり、手慣れた様子で魔法を完成させた。
「呪符がもう1枚欲しい…出来れば2枚…一つは時属性にするとして、もう一つは…私に掛かってる証魔法から属性を持ってこよう」
計算の結果、学園全体を対象にする為に演算装置が足りないという結論に至った。
残念ながら呪符は証魔法によって作成禁止の縛りがなされているが、物はやりようである。
既に事前の許可なく踊りや魔法陣の新たな執筆手段を作ったのだ。サーシャは抜け道を見つけていた。
「あー、あー…[はい、ダンテ先生の声と魔力の再現完了。サーシャの発明と生産を今回は許可します。]…良し、解除された」
そしてサーシャは新たに呪符を2枚作り、新たに開発した魔法の行使を開始する。
さらりと血液型とボイチェンを使わない声質の再現も同然の所業をしたが、こっちに関してはサーシャもいつの間にか身につけていた技術だ。
水属性のサーシャは知らない話だが、氷属性のサーシャが2年掛けて身に付けた偽装技術である。
奇縁なことに、別世界のサーシャの脱出計画が巡り巡ってこの世界のサーシャを手助けしていた。
「"噛み締めて巡れ 時の歯車よ"」
ガキンと歯車が噛み合う音と共に、ギリギリと錆びた鉄が鳴らす音が響いた。
「"表し 顕し 著す時間 全ての連続と共に在る者達よ"」
かつて存在した完全な時属性は、世界の時間を産み出したという。
しかし今に至るまで、時属性の魔法は時間を産み出すことは叶わなかった。
「"今こそ一つとなり 世界の運航をこの手に宿さんと集約せよ"」
サーシャの知る複数の魔法陣が宙に描かれ、重なる。
それはサーシャが今まで解析し、時属性の要素を抜き出して再構成された何物でもない劣化した魔法。属性の欠けた魔法。
「"されど我らは偽りの時間 決して至らぬ砕氷の歯車である"」
本来なら、このこの魔法は歴代の時属性の者達が一つとなり、原初の時魔法へと至る技術だ。
その名前を「魔法合体」。固有魔法限定の現象であり、それを劣化させようと一人で、それも四属性の魔法使いが扱うのは異常に他ならなかった。
「"故にこれは
千年先の未来であれば数億の分岐の果てに一つ出会えるかどうかの稀代な魔法。
4枚の呪符と神に近づく肉体、そして何百と死に戻って魂に付着した僅かな時属性。
全てを呼応させ、全ての縁を魔法に昇華して成立させた。
『魔法合体→時間断片『獲得』『貸与』『停滞』 セット』
両手を広げ、足を畳み、腰辺りに浮遊する呪符に身を任せた。
『──変身』
バキッバキバキッ
呪符から伸びる魔力の生地がサーシャの肌と一体化し、その上に宙に浮かんでいた魔法陣が刻まれる。
皮は鎧に、神への変質を制御し、表面を神のものへ置き換え、錆の浮いた仮面のような生地が顔を覆い、神の仮面を被った。
何処か蟲を連想させ、神々しさを感じさせる姿。しかし錆び付いた見た目が、コレが偽りの神であると思わせる姿であった。
『時の神─カタテマクロノス
王国の貴族達ですら、本来の力の引き出し方は失伝していた。
それは神国の教祖とその弟子達が行使したと言われる固有魔法の真の姿。
2年後に起こる戦争で再び日の目を見る筈だったその姿は、世界の予想を裏切って学園を救済しにここに降り立った。
ピギュゥン…
『即席15秒限定フォーム、一発で決めよう』
ベルトが回転し、右手に構築されていた鎧のパーツが外れ銃口が顕になる。
学園中の石になった生き物達から緑色の光を吸い取り、その時間を凝縮し始めた。
『
ンゥュギピ!!
それは、時属性の当主達がやっている様を見て覚えた時属性の逆転行使。時魔法の負の方向性への利用。
それに加え、三つの時魔法の効果をを一つにまとめて解き放つ合体魔法を組み合わせる。
その結果起こるのは、三つの不完全な魔法の効果の反転。
「石になった者の時間を全部借りる」効果が、「石になった者の時間を元通りに返す」効果に変化した。
ゴミのような効果も、三つ合わせて逆転もすれば意味のある力になる。
時属性特有の雑な扱いでも良い感じになるアバウトさも、この姿なら持ち合わせてるので雑にぶっ放せる。
サーシャは巨人の力で天井を突き破り、逆さまの姿勢になる。
そして銃口を学園に向ける為に右手を上に上げ、反動を抑える為に左手を肘あたりに添えた。
『肉体設計図を再現…時間返済先を捕捉…石化限定復活光線!』
ビババババ!!
再現した巨人の力、錆び付いているが銀色の身体、光線…変身は変身でも仮面より星雲の超人を彷彿とさせる物だったが、兎も角緑色の光に包まれた学園は光と生気を取り戻し、バラバラになっていた者達も無事に本来の姿を取り戻すことに成功した。
それを見届けてサーシャは着地し、神の力を順次封じ込めていく。
やがて全てを収めると、サーシャは元の身体へと戻っていた。
「──ふぅ…やっぱり逃げられてる」
そしてヌルの方へ振り向いたが、既にゴールドや黄金人形と共に何処かへと逃げていた。
「自分を石化し、私の復活の光線に乗じて足を治療。その後ゴールドを起こし、黄金人形の制御権を奪還、共に逃げる…かな。痛みが一周回って冷静さを取り戻させたね」
サーシャが言った予想通りである。
サーシャが飛び上がったと同時に石化し、降りて来るまでの間に逃亡を成功させた。
ちゃっかり真っ赤な「吸魔の槍」を回収した所を見るに、傷が治って余裕が戻ったようだ。
「…ま、いっか。その場凌ぎの武器なんて大した事ない。グリムが戻ってきた後は初見だったし、良い方だね」
そこまで言うと、サーシャは他の反映箱に組織の人達が入ってないか確認してから、自分のチームの下へ帰還した。
兎にも角にもテスト中。まだ終わってない以上、休むのはそれからでも遅くはなかった。
「サーシャ!あの後どうなったんですか!?あの光からは、どれだけ時間が経ちましたか!?」
「まだ30分だけだよ。それじゃあグリムを回収して、ちょっと巻き戻しね。戦争の余波で高層農プラントが壊れちゃったから」
「…解決してきて早々に言うことがそれですか。…はぁ、まあ良いです。サーシャはそういう方であると覚えました。──ここまでやったんです。優勝、狙いますよ!」
「おおー…」
そうしてサーシャは日常に戻り、リーロはグリムを助ける為に使い切った騎士団が、戻ってきた事を喜んだ。
多少悲しくなるが、死ぬよりはマシ。リーロは誰かを指示する立場になって、少しだけ逞しくなった。
なにも、悪いことではないと。
そう考えている内に一抹の不安は消えていき…
「…休憩はしっかり取ろうか」
そう言ってサーシャは計画を見直した。
「ダンテ・フォン・エンブレム」
王国三大貴族であり、唯一王様の下に残り続ける証の王国貴族。
かつての「貴族狩り」で妻も息子も亡くしていて、死者は今もダンテの心の深い場所を占領しているようだ。
先生なだけはあり、個人同士ならば教えるのも上手な大人なのは分かる。ただより親身になれるかは…。
教師なので狙うつもりはないが、私より長く生きただけはある。もし惚れさせるなら、相当な覚悟かいるだろう。