不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計   作:何処にでもある

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 カーリーの買い物に付き添います。




誤・買・四五

 

 

「おーい、出ておいでー?…ダメだ、完全にご機嫌斜めになってる」

「……さっきから二人して騒いでどうした?」

「あ、カーリーだ。ちょっと買い物に行こうかなって話してたんだ。どう?折角だし一緒に行こうよ」

「……眠い。悪いが一人で行っ『おお!良いなそれ!師匠、折角だから一緒に行きましょう!』…」

「それで、どう?」

「……悪くない提案だな?丁度私も行く所でな。良い機会だ。私の行きつけの店を紹介しよう」

「良いね。お金が余ってた所だったし、なんでもドンと来いだよ」

 

 サーシャは机の引き出しから硬貨の入った袋を取り出す。賞金を入れている袋のまま、鍵も掛けずに雑にしまっていた。

 カーリーはそれを見て空を仰ぐ。物々交換が基本の田舎者の雑さを舐めていたと感傷に浸った。

 

「……先ずはカードだな。学園通貨は専用のカードで支払いが楽に出来る。引き出しに放ってて盗まれる心配もない。宝物館で作れるから、先ずはそっちだ」

 

 リーロがいじけて懐中時計に引き篭もってから暫く経ち、サーシャとカーリーは一緒に買い物に行く事になった。

 それを見てリーロは棚ぼたでデートイベントだと喜んでいたが、それはまだ気が早いだろう。

 未だ研究の人員として協力している関係に過ぎず、仲を深める理由が薄い二人だ。

 早々にデートが起きても、それが有効な域まで達していなかった。

 

 そしてカーリーとサーシャは共に宝物館に向かい…。

 

「…と言うわけだ。コイツの分のカードを直ぐに作ってくれ」

「…ひまじゃねーんですの。一言言えば優先される立場と勘違いなさってるなら立ち去りなりなさい?三週間後にまた来るといいですわ」

 

 一言目に管理人に断られた。

 宝物館は学園内のあらゆる物を公平に預かり管理する館だ。

 それは金銭に始まり、貴重な魔導書や魔道具、素材に権利書など多岐に渡る。

 ただの学生が頼んでも、順番待ちになり遅れて処理されるのが常、王国の人材事情により管理人が一人しか居ないのが原因だ。

 ただ、それならただの学生ではないと示すものがあれば良い。

 

「……三年代表のオルガ。賞金の扱いがなってない一年のマネーカードを作ってくれ」

「オルガ…あぁ、あのモグラのオルガさん?…これはまた随分と珍しいお客人ですのね」

 

 書類と預かり品の山に埋もれて見えないが、管理人の嘲笑うような言葉にカーリーは片眉をピクリと反応させた。

 普段は姿を見せず、出てきたと思ったらまた直ぐに入る。3年生徒の揶揄い半分のあだ名だった。

 

「それで、どうなんだ?」

「権利があるので聞き入れますわ。2年三学期テストの一位の賞品を得ているんですもの。お顔も変わりないようですし、本人認証はパスで宜しいですわ」

「書類の山に埋もれてるのに良く見えるよね」

「一年はだまらっしゃい!後10秒で別れる奴が私の脳の端に立とうとするな!」

「……許してやってくれ。見聞きしたことは忘れない体質なんだ。情報が増えるのがストレスなんだろう」

「私に覚えられる。それだけで名誉であると心得、疾く立ち去るんですの!」

 

 書類の山から一枚のカードが放射線を描き、サーシャの手元に収められる。

 

「盗まれたらそのまま使われると思いなさい。警戒心に応じて盗まれにくくなる、金銭専用の無限収納魔道具。私のMMを応用した物でしてよ。有り難く受け取りなさい」

「わお…ありがとうございました!」

「…ふんっ!」

 

 きっかり10秒、宣言通りの仕事だった。

 

「……これから「A(アルマ)カード」は常に持っておけ。その袋の硬貨も中に入れろ」

「ありがとう、カーリー」

「……大したことじゃない。行くとするか」

 

 カーリー達は言われた通り素早く宝物館を後にし、工房街の武器通りにやって来た。

 

「ドラゴン殺しが欲しい!」「馬鹿者、武器を引きずって運ぶな!」「うーん、鎧かぁ…」

「この帷子は買ってやるべきか…」「剣おっも!」

 

 人々が賑わい、武器や防具、戦闘に役立つ道具が所狭しと並んでいる光景、戦士が見れば大興奮受け合いの通りだった。

 

「わぁ、魔法学園なのに武器がいっぱい!」

「……深淵に潜ると相性の関係で魔法だけでは乗り越えられない事がある。そんな時に役立つのがこれだ」

「にしては持ち上げられない人が多くない?」

 

 サーシャが指差す先には、ヒョロヒョロな女子が鎖帷子を必死こいて運んでいる様子があった。

 華奢な見た目も相待って、とても着れそうには思えない。

 カーリーは懐かしむように滑舌良く解説した。

 

「雇った探窟家の分だろうな。私ら魔法使いは深淵の専門家じゃない。普通なら転移門を潜った先の街で地元の探窟家を雇い、潜るんだ」

「その為の装備?地元の探窟家なら自分の分があるんじゃないの?」

「基本的に前衛は身体も装備も消耗品だ。魔法薬で回復し、装備は買い変える。その分の出費は私達雇い主の義務なんだ」

「へーぇ、誰が決めた義務?」

「学園長だな。学園生たるもの、そうあるべしと定めたそうだ」

 

 サーシャはそこまで聞いて感心した。この学園の規則は今まで触れてこなかったが、しっかりそういうのがあり、それが良いものだと思えたからだ。

 だからこそ、次の言葉は自然と口に出た。

 

「良いねそれ。誉高いし潜るのを成功させる気合いも入るよ」

「……そうでもない」

「…そうなの?」

 

 カーリーは意外にも否定した。

 

「基本的に深淵潜りは様々な理由がある。素材が欲しい、珍しい環境を見たい、戦って自らを高めたい…その中で一番多いのはもっとお金が欲しいからだ。そうなると、この規則は邪魔になる」

「こんなにお金があるのにまだ欲しいの?」

「サーシャ、ずっと研究ばかりだから知らないだろうが、世の中は案外金が必要なんだ。一点物の魔道具、遊びに必要な道具、研究に使う施設…食事と寝床がタダになっても尚…いや、寧ろ生活に余裕があるからこそ、お金の消費は多くなるんだ」

 

 その言葉には、カーリーの実感と重みがあった。

 サーシャはこれでも政治の才能はある方だ。経済の流れも、立場による視点の変化への理解も自然と出来る天性の才だ。他所の良い所を取り入れ、今何が必要なのかも察知できる。

 だからこそ言い分は理解出来る。世界を見る視点が広くなるキッカケは生活の余裕と相場が決まっていて、だからこそ学園生は浪費家になりがちだと。

 しかしサーシャは知識がある訳ではない。自然と正解を導き出せても、その具体性には欠けていた。

 

「そうなのかなぁ…。私は生活してて困ってないんだけど」

「……なら、数学の時間だ。優秀だが無欲のサーシャは困ってないが、普通の学生の賞金は15万Aが精々。一年で行われるテストは合計6回、合計80万Aがテストで手に入る分だ」

「…遊びに使うなら十分じゃない?」

「なら、そこの飯屋のメニューを見てみろ」

 

 どんな通りにも、職人や商売人の為に飯屋はあるものだ。サーシャは言われた通りに店の前に置き並べられたメニューと値段を確認してみた。

 

「カルボナーラ800A、竜牛のステーキ1600A…デザートのイチゴパフェが4000A…高い気がする!」

「食堂を使ってると分からないが、首都は首都であるだけであらゆる値段が上がる。田舎ならメニューが少なくなる代わりに400〜600代に落ち着くだろうな。ただ、代わりに王都の飯屋はどれも食堂よりずっと美味いぞ」

「外食だから高いかもじゃん。自分で料理すれば…」

 

 そこまで考えて、サーシャは気付いた。寮に風呂は有っても料理する場所はないと。

 学生の使える金銭の計算には関係ないが、ちょっとだけショックをサーシャは受けた。

 普段は地下室の器具で紅茶を作ってるから気が付いていなかった事実だった。

 

「……学生には縁がないが、自炊なら一食500A程度になるらしい。だがそれは良いだろう。そんな訳でご飯だけでもこの価格だ。衣服やアクセサリー、遊具に副科目…どれもお金を使おうと思えば一瞬で消えていくだろうな」

「だから深淵に潜ってお金を…そんなに稼げるの?」

「私が前までよく潜っていた大霊書庫下の深淵、あそこで獲れる「知恵の真髄」は小さいのでも一つ10万Aだ。そこそこ潜って中くらいなら20万、ショボいと言われる深淵でこれだ。普通の物なら100万や300万は簡単に集まる」

「おぉ、トレジャーで夢がある…」

 

 サーシャはこれまで潜った深淵は大霊書庫下と無限森林と監獄砂漠の三つ。

 どれも特殊な深淵であり、危険で獲れるものは大した事ないものばかりだった。

 だが、普通深淵ならより安全により価値のあるものが手に入る。商国が主軸産業に組み込むだけはあるのだ。

 

「……話が逸れたな。ともあれ、ここにいる魔法使いの大半はその夢に魅了された人々だ。金を掛けて装備を買い、より深く潜って金策を行う。毎年死亡者が出てるのにも関わらず潜る人が尽きない場所だ。その中でケチって探窟家と死ぬ奴は後を絶たないんだ」

「欲に目が眩むって奴だね」

「そうだな……さて、話している内に店に着いたな。店長、入るぞ」

 

 closeの看板が吊り下げられた扉を遠慮なく開けて店長を呼ぶと、早速短剣が投げられた。

 カーリーは掴んで本来あった位置に投げ入れて、ズンズンと奥に進む。

 金属が叩かれる音と凄まじい熱気は、ここが工房であることを如実にサーシャに知らしめていた。

 

 カンッカンッカンッ……!!

 

「鎖帷子と制服と魔力結晶は此処に置く。修理ついでに強化出来そうならやっておいてくれ」

 

 カンッカンッカンッ……!!

 

 カーリーがごちゃついた装備と道具の山の傍らに3万Aと共に置き、名札の付いているもう一つの山から自分の分を取り出した。

 目眩し、燃焼、氷結、風属性の増幅…様々な効果の魔道具が入っている籠がカーリーの物だった。

 

「…構わずにやってるけど、聞こえてるの?」

「さてね。ここ、「カクテル工房」はMM以外ならなんでも魔道具にするのが売りの工房だ。何でもかんでもトンテンカンで力を宿させる、付属性って固有魔法の力らしい」

 

 その言葉と共にハルバードがカーリーの方へ飛び、カーリーはそれを掴んで名札のある方へ投げた。

 

「……ご覧の通りの偏屈ジジイだ。仕事はやっても会話はしないし直ぐに武器を投げる。だが腕と力は本物だな。付与される力は素材も一緒に渡せば固定してくれるし安く済む」

「おぉ…ロマンがある!」

「そして強化もしてくれる。寡黙だから自分や利用者同士で共有する必要があるが、知っていればどの工房よりも便利な場所だ。どうだ?サーシャが好きそうな所だと思うんだが…?」

 

 飛んできた2本の剣を捌いて名札の方へ投げ入れつつ、カーリーは工房の説明を終えたのでサーシャの方を向くと、サーシャは名札の付いた方の魔道具に貼り付いていた。

 

「すごい…どれも時魔法と比べて再現し易い…あ、こっちは無理…置かれっぱなしで一年以上…時間経過で術式がブラックボックスになるんだ!うわ、すごい、感動した!まるで成長…()()()()()()()()()()()!!」

 

 初めて魔法学園を見た時と同じくらいサーシャは感動していた。

 今までサーシャが知っている魔法は、単純な四属性による物質の創造と固有魔法による時間と空間の操作だけだった。

 なかったのだ。魔法らしい魔法が。カボチャを馬車に変え、呪文一つで摩訶不思議な現象を起こす力が。

 だが、この魔道具達は違う。錬金のような魔法陣の物質化や合成による物や属性の力を宿した原始的な物とはまた別の、"深淵から発掘されるような既存の魔法体系に沿ってない力"を宿していた。

 

「うわっうわっ!「持ってると水中呼吸が出来る魔法」に「臭いの識別がし易くなる魔法」!どれも既存の四属性で作るなら難しい術式なのに…!私の作ったMRCや神になる魔法みたいな属性に囚われてない作りだ…!すごい、地味に目指してた新しい魔法体系の参考にすごい役立…!」

 

 サーシャは投げられた4つの槍を『水纏』で受け流し、名札があるのを確認してから後ろの山に置く。射線上に居る以上こうなるのは必然のことだった。

 

「ごめんなさい!邪魔でしたよね、直ぐに退きます!」

 

 カンッカンッカンッ……!!

 

 金属の叩く音が返答代わりになっているかは受け取り手次第だが、サーシャはこれだけでは許されないと受け取った。

 

「…そうですよね、じっくり見ておいて冷やかしだけなのは失礼ですよね。でしたら…これ(偽りの魂)を置いていきます。念の為に持っていた物ですけど、貴方の力を与えられるなら絶好の物です」

 

 カンッカンッカンッ……!!

 

「…終わったらまた来ます。楽しみに待ってますね…行こう、カーリー」

「……そうだな。店長、後は宜しく頼む」

 

 サーシャとカーリーは店を出て、行く宛もなく街を散歩し始めた。

 用事は終わったが、だからといって直ぐに帰るような気分に二人ともならなかったのだ。

 

「……言っておくが、一つ頼むのに10万Aは多い。アクセサリーの持ち込み無しならその半分が妥当だった」

「でもあれは特殊な物だから。それに技術も盗み見ちゃったし、迷惑料は必要だったよ」

「……サーシャ、お前は買い物を、個人での金銭のやり取りを学んだほうがいいな。あのジジイはそのくらい赦すだろうが、あるなら貰う。結局はただの払い損だ」

 

 話は自然と直前に起きた話題となった。

 サーシャはカーリーの発言に首を横に振り、損であることをやんわりと否定する。

 

「良いんだよ。私にはあれ以上の価値があった。魔法の可能性への気付き、今の魔法理論よりも実態の「魔法」の枠組みは…思ったよりも広いって確信」

「……広い?」

「"今学園で教えられてる魔法は全体のほんの一部分"って事だよ。属性頼りの物質の創造だけが魔法じゃない。物質として存在している物を操るだけじゃない。魂を扱うだけじゃない。前兆はあった。でも、それを確信するのはとても怖かった」

「……怖いときたか」

 

 それはある意味サーシャの弱音でもあった。

 おじいちゃんと過ごし修行した日々が、此処最近で簡単に追い越せる速度で成長し、長く苦労した魔法技術がほんの一角に過ぎないと認める。

 リーロからすればその才覚は間違いなくサーシャ本人のものだが、サーシャからしてみればリーロの固有魔法の成果物に過ぎない。

 その目的の為に才能を使うのに躊躇はなくても、私用で使うのはサーシャでも恐怖が勝ったのだ。

 例えそれが禁忌の術式を禁忌から脱却させるものだとしても、その手を取るのに躊躇していた。

 

「…なんでもない。魔法はまだまだ先があるってだけ。…ほら、もう帰ろう?夕飯の学食が楽しみだしさ」

「……そうだな」

 

 カーリーは喉元まで来た言葉を飲み込んで一緒に帰ることにした。

 お互いまだ仲が良いとは言えないと考えていたから、表面を撫でるだけの会話で終わった。

 遠慮して、気を置いて、互いの趣味を尋ねる。出会って2ヶ月目だが、関係の進みは依然としてゆっくりとした物。

 

 仲良くなるのはまだまだ先になりそうだと、リーロは懐中時計に仕舞われたまま考えた。

 どうやら自力では出られないと伝えられるまで、時間はかかりそうだった。

 

 






「工房」
 魔道具を筆頭に数々の分野における生産者達が使う場所。
 基本的に立場は低くなり易く、戦士が護衛代わりに滞在している場合も珍しくない。
 だが、学園では一つの街が出来るほどであり、日夜工房の煙が消える事はないと言われている。
 技術の盗みは地域差があり、立ち入りから禁止する事もあれば寧ろ教えに行く場所もある。

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