不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計 作:何処にでもある
作戦が上手くいかなかった時計塔は腹を立て、代替策を実行して逃走する。
『なんで気付かなかったの』
「ごめん」
『私が2日も拗ねる訳ないじゃん。気付いても良かったじゃん』
「本当にごめん」
『…だっこして』
「ばっちこい」
月末の連休の初日、サーシャは私の前で正座し、最後は私にハグをすることで許されていた。
『むふー』
(感触は実装してない筈だけど…一度人の身体になって寂しく成り易くなったのかな?)
『ぶんせき禁止ー』
「…触れてる間は読心出来るんだった」
(正座で思考が緩んだ…)
安い女だとは思うが、MMが求められるのがこのくらいが限度だろう。
懐中時計はね、懐に入ってるとずっと真っ暗で…杖として持たれる事もないと、納屋に放って置かれていた時を思い出してとても苦痛なんだ。
これからは出来るだけ外に出ていたい。2度と仕舞われないぞ!
『だからもう仕舞わないで?』
「分かった。それならこれは別の道具にして再活用しておく」
『うむ!苦しゅうない!』
コンコン。
「少々宜しいでしょうか。」
さて、幼児退行は此処まで。この後は尋ねてきたダンテ先生の話を聞く時間になるの。
「その才能と人柄を見込んでの頼み事です。断るなら、この扉は開け」ガチャ
サーシャは最後まで聞かずに扉を開いた。
語るまでもなく受諾する意思表示だった。
「ダンテ先生の頼み事なら喜んで。どうぞ、歓迎します」
(…なんか…焦ってる?)
コト。
『どうぞ、召し上がりください』
地下室にて、紅茶を机の上に置いておもてなしをする。この部屋の秘匿性は結構高いからな。秘密の話をするなら打ってつけだ。
互いにお茶を飲み、話はサーシャから始まった。
「魔法大会は知ってますか?」
「王国主催の国威を示す祭りですね。私も音楽部門に出場するんです。」
「実は友達に誘われまして。芸術的な魔法を創りたいんです。その手の魔法研究と使用許可を貰いたいんです」
「『良いですよ』。お祭りはみんなでやってこそですから。後、『この依頼の最中はあらゆる制限はありません』。」
「ありがとうございます」
(よし、これで「吸魔の槍」と踊りは日の目を見れる。…にしたって、まさか芸術用に考案した魔法で不意打ちを決めるのが最適解とはね。ヌルの警戒心は厄介だったなー)
前置きで許可を貰いつつ、お互いに紅茶を置いて本題に入った。
教養の授業をある程度受けたから分かるぞ。王国式の会議の場はこの流れが作法だと。
地味に面倒だが、話を切り出し易くなる点では有効なやり方だな。
「では、私の方からも一つお願いが。…"本日早朝に魔女の脱走が確認されました"。」
「今7時でバリバリの朝なんですが?」
「ではこう言いましょう。"3分前に最終防衛ラインが突破されました"。」
でたな王国のメインクエスト「魔女狩り」。ゲームではサーシャに作戦を防がれた時計塔が、リカバリーの為に一気に世間を荒らし始めるんだ。
ここからはメインクエストも分裂し捌ききれなくなる。どの陣営に着くか、考えながら処理していかないとこの先大変だぞ。
「…何人ですか?」
「
「私達以外は?」
「王様と先生以外は居ませんよ。もし信用出来る協力者が居るなら教えてください。巻き込みますから。」
(魔女がどれだけヤバいか知らないけど、大変そうなのは分かる話だ)
どっちも冷静に進めるタイプだからアレだが、普通なら大声だして驚くべき情報だ。
どれだけかと言えば、カーリーが驚いてひっくり返るくらいの話だ。
なにせ今まさに魔女の魔法の余波らしきものが地下室に流れて来た。背筋が凍る悍ましい気配だな。
「うわ…では最初に教えて欲しいんですけど、魔女ってなんですか?」
「各国の汚点と呼ばれる方々ですよ。そうですね…丁度外に出た魔力の反応もありますし、実物を見てみましょうか。」
「あ、これがそうなんですね」
(めっちゃヤバい相手じゃん…なんで私達に…作れと?コレを捕まえられる魔法を?)
そう言って二人は席を立ち、寮の外を出て深淵階段に向かった。
俺も秒針に成り臨戦態勢になるヒリつく魔力だが、どちらも涼しい顔で溢れ出ている魔力の源に向かう。
おかしいな、周囲の生徒達は離れようと逃げてるのに散歩しているような気軽さだぞ?
ゲームでは何とも思わなかったけど、この二人胆力あるんだな。
「現在深淵階段を登ってますからね。王様と先生方が撃退された連絡が来たので、もう止められません。」
「え、王様達を退けたんですか?」
「魔女4人揃えば王様と並びますね。先生達も居ましたが、相手の増援に終わりの時計塔が…いやー、人手不足は世知辛い物ですね。ははは。」
(え、マジで?もしかしてもう万事休すなの?…対策も何もない感じか!)
笑ってる場合かと叩かれそうなダンテの態度だが、もうやれる事をやった後だと虚しさすら覚える乾いた笑いだった。
学園塔の入り口に二人は座り、ダンテ先生はサンドイッチを取り出して汗を拭ってから食べ始めた。ダンテ先生、サンドイッチはハンカチじゃないぞ?
「あ、食べますか?最後の晩餐になるかもですし。」
「朝なので晩ご飯は良いです。…対策も何も用意してないなんて言いませんよね?」
「その才能と人柄を見込んでの頼み事です。脱走を防いでください。」
「…猫の手も借りたいと。やるだけやりますけど、生き残るだけ儲け物と思ってください」
「元よりそのつもりです。顔くらい知っておきたいですし……おや、この晩餐喉を通りませんね。どうやら私はテンパっているようだ。」
「今更気付きました?気が付くのが遅いですね、私は顔を見た時から気付いてましたよ」
(さーて、████████████████████──…よし、一旦の道筋は書けた)
まるで漫才だが、焦ってボケをかましてるダンテ先生と手を借りられた猫のサーシャの会話だから漫才で間違ってない。
そして出たな最近のサーシャが研究している時の早すぎて塗りつぶされてる感じになってる思考!
今日こそ聞き取ってやる!…もう終わってる!…なにも分からない!
加速かましてるから本当に分からない!
ゾワッ!!
──空気が変わった。
「おや──出迎えに道化師を遣わすとは。どの国じゃ?」
最初に出て来たのは、狐の尻尾を9本生やしたシスターだった。
黄金色の狐耳、夕焼けの様な目、和服が似合いそうなものだが、シスター服だ。
それなのに似合ってるのは、破け、着崩して和服の様な雰囲気もあるからだろう。少なくとも、俺はあんなに袖のあるシスター服を他に知らない。煙管や扇子とか似合いそうだと思うよ。
その名前はアンゲロス。犯した罪は「新種族の創造」。
最終的に身体改造こそ救済という答えに辿り着いたせいで投獄された、元救世主の聖女である。
「しりゃーせんぜメシアの姉御。だが…あっしの
次に出て来たのは、何処にでも居そうな顔つきの褐色の男性だった。
田舎者丸出しのオーバーオールに記者のような帽子。だが、時折り見せる鋭い眼差しは深い知性を窺わせる。
唯一特徴的なのは身の丈を超えた巨大なリュック。パンパンに入れられたそれには、戦って戦闘不能になったのだろう先生達の顔や手がはみ出ている。何でも売る姿勢は良いけど、
その名前はトネリコ。犯した罪は「鏡魔法の探究」。
砂漠に雨を降らせようとして勢い余って別世界の国を持ってきた、商国では雨の魔女と呼ばれる男である。
「ぐふふ…昂る…あぁ興奮するウゥゥuuu!!!コレぞッ!コレこそ自由ッ!!ンンンンッ何よりも素晴らしい──この解・放・感!!!」
勃起しながら出て来たのは、この悍ましい魔力の持ち主である老人だった。
とんがり帽子、黒いローブ、学園の女性服、ミニスカ。仮にコレが若い女性ならば魔法使いらしい魔法使いだっただろう。しかし実態はその逆なのが無惨で仕方がない。
頭が飛んでいる格好だが、目の焦点が合わずよだれを垂らして腰をカクカクしている所を見るに、ネジすら飛んでその末に錆びてしまったようだ。
その名前はマネキン。犯した罪は「魂の改造」。
自分が理想の嫁になる事だ!した末に師匠の『
「…何だって良い。今度こそ…俺は…最愛を蘇らせる」
「クルシイ…」「モウ…イヤダ…」「タス…ケテ…」「オギャー!オギャー!」
……その姿を敢えて例えるなら、修羅だろう。
4つの頭、其々8本ある手足、やけに凸凹とした胴体、股辺りはより酷く、男性器と女性器が絡み合ってキモイ物になっている。時折り謎の液体を出すのがよりキモイ。生理的嫌悪感すらある。
裸だが、それ以上に血濡れで、皮が裂けて真っ赤な肉が見えて、狂った容姿をしていた。
その名前はピノキオ。犯した罪は「禁忌の研究」。
虚言癖、妄想癖、回帰願望、快楽主義、自己中心…なんで禁忌を研究をしたのか未だに分からない相手である。
「ふうん、
「ね?捕まるだけはあるでしょう?やっほ、サーシャ。また会ったね」
「よしてください。やる事やったんですからサッサと帰りますよ!」
そしてコイツらを脱出させた時計塔の1、5、11席だ。マジでやってくれたな。
「…もう消えてる。逃げ足だけは早いよね」
(逃げたと言うより、初めから実態のある映像だった…かな。ループが居るならそういう手口が妥当だ)
もう居ないし、時間が向こうの味方なのは怖いなぁ…罪人達も無駄に強いから困るんだよなぁ…。
「さて、道化師よ。妾の機嫌を取る方策は決めたかえ?戯れじゃ、見てやろう。良ければ褒美も取らせるぞ?妾と同じ狐とかどうじゃ?」
「やーやーそこの別嬪の嬢ちゃんとイケてるにいちゃん!そうそう君らさ!なに、あっしはしがねー旅商人でしてね?チョイとここいらのことを教えて欲しーんでさー。なに、タダでとは言いませんよ。あっしの持つ商品をいくばくかと交換こ!お得ですぜ?」
「ム!?…ホギャアアアッッ!!!師匠のォ!師匠と儂の愛の結晶が進化していルゥゥゥ!!??儂感動ォォォooo!!!コレが人の可能性ッ!!未来だァアアハハハhhh!!」
「先ずは人だ…実験体を作る必要があるよな?そうだ…そうだろう?そうだよなぁ?」
「うわっこっちによって来た。…はぁ、魑魅魍魎が跋扈してるのは、見てて気分が良くなる物じゃないね」
(野蛮人が続々と…思ったより酷いし、作戦は修正して…よし、一つずつ対応していこう)
何が酷いって、戦闘になれば全員連携して殺しにくること。そして全員しっかり強い事だ。
対一でも厳しいのに、それが四人。話し合いで解決出来るならそうしたい相手だ。
問題はそれが難しいって事だけど。寿命くらい簡単に克服する相手だ、正気じゃない。
「先ずメシア様、私は引退した道化師の娘です。芸は有っても、親より継いだ病によって出来やしません」
「ならば安心せい。妾は元聖女、病の一つ治すのは容易いこと。今は気分が良い。其方の為に祈ってやろう」
「ああ!おやめ下さ──」
それでもサーシャはやるだけやる。
相手に祈りを使わせて、それに合わせて全身の皮を神の物に戻した。まるで祈りで治したら神になったように…いや、実際今のサーシャは奇跡を使われると神になるんだけどな?
「な…なんだ?その姿は…」
『ああ…ああ…なぜ奇跡を祈ったのでしょう…私を蝕む病とは、神になる病です…神の力で祈ったとして、どうして神になる病を打ち払えましょうや』
「なにっ…今の世はそのようなものが…!?な、なんと悍ましい病じゃ!だが、あの神ならやりかねん…!」
おおっ罪人が一斉に離れた!神になる病がそれだけ恐ろしいんだ!
…そんなに神様と永遠に過ごすのが嫌か…罪人でもそこは変わらないんだな。
『父は王国の者ですが、神国に立ち寄った時に神に会い、患ったそうです。私はその看病で伝染り…父は今、神の干渉によって今も意識を朦朧と…そのせいで芸にも身が入らず…私も…ああっああっ!!神よ、おやめ下さい!!うあぁぁぁ!!!』
(どうだ…!?又聞きで聞いた神様への印象からの演技だけど…どうだ!?私はもう無理だと思う!)
神への扱い酷くない?
「…なんと…惨い…くっすまぬ…妾の無知が…この罪、2度と重ねることはせんぞ……しかし、おのれ、おのれ神め!しばし見ぬ内にここまで落ちぶれたか!!元よりやりかねんとは思っておったが…遂にやらかしたな!こうしてはおれん、直ちにあやつの下へ征くぞ!これ以上被害を増やしてはいかん!」
(嘘でしょ、コレが通るの?)
神への扱い酷くないか?身内の救世主すらこう言うって相当だぞ?
「…だが、その前に」
そしてアンゲロスは神の皮を被って苦しむ演技をするサーシャを抱えた。
穏やかに、見た者が苦痛を忘れるような安心する笑顔だった。
「妾は目が醒めた。誇れ、道化師の娘よ、其方は救世主を堕落から救ったのだ。……それが例え嘘が混ざっていたとしても、本来進むべきだった道に戻したのならそれは善である──ではな」
サーシャがずっと『精肉』で抑え続けている神になる大魔法。
一度発動すれば完全に神になるまでその身を犯し続けるそれを、敢えて限定解除し神に近づける。
それと演技を組み合わせ、サーシャは無事に一人この場から追い払った。
次に商人が情報を得ようと近づく。次から次へと…。
「うひゃー、嬢ちゃん、素晴らしい演技でしたな!まさかあの救世主の目を醒ませるなんざ、滅多なことじゃねー。…実際、どこが嘘なんですかい?」
『…実の所、私に天涯孤独で道化師の父は居ません。神にも会ってません。しかし、神になる病は本物であり、神国で流行っているのも事実です」
サーシャはそう言って、『精肉』の魔法を代行する魔道具で神になった部分を生身に戻していく。
因みに神になる病は俺情報だ。ゲームで実際神国の上層部が神様の力で神に成りかけてるからな。
「おぉ…一番アレな部分だけ本物ですかい…しかし、戻れるんですな」
「そういう魔道具を使ってるだけですよ。今も蝕んでますし、それを無理やり上から生身に変えてるだけです。…神であることが正常な姿だと刻まれた以上、奇跡の治療は神になる促進にしかならない。全く、不便な物です」
「そりゃあ大変だ。なら「ジャッジ先生とキー先生。先の情報分をお渡しください」…目敏い女だな。的確にこっちが見積もった分をきっちり取ってくるとは」
「医療は商売にすれば役に立ちますからね。あなたならやれるでしょう」
「褒めても
サーシャは相手の渡した先生を受け取りつつ、次の手を打った。
「おっと…」
「ありゃ、落としました…ぜ…タイム領管理…?」
はらりと、二人の先生を抱えた時に懐から手紙が落ちる。
地味に読んでからずっと懐に入れていた、タイム領管理人の手紙である。
サーシャは差出人の名前を見る雨の魔女から手紙を取り上げた。
「失礼、拾ってくれてありがとうございます」
「…嬢ちゃん、その手紙の話、お話お聞かせくだされねーか?」
「
雨の魔女の口角が上がる。
サーシャは、この状況で全先生を返しても足りないと言ってのけた。
先に相手の腹つもりを見破れる能力は示した。その上で足りないと言った。
それが意味することは、これは雨の魔女にとって大きな機会であるという意味に他ならない。
「…なら、今から650年前の魔法媒体もやる」
「足りないね」
「虎の子の鏡魔法の魔道具、そしてイマジン商国のフリーカードだ。商国で死ぬまで困ることはない」
「足りないね。…ねぇ、もっと事態を重く受け止めようよ。今貴方が知ろうとしているのは、
呆れを少し、慈悲感を少し、教えてる人の態度を少し、威風を少し。
今まで演技と振る舞いの最適化を繰り返してきた。その成果は確かに雨の魔女を恐怖させるに足る物だった。
「──ッ!!…いや、いや、末恐ろしいのは時間だな。あっしの夢が勝手に叶ってるなんてな。…仕方ねぇ」
雨の魔女がどさりと背負っていたリュックを降ろす。サーシャはそれを見て、手紙の裏に一筆したためて封をし直して雨の魔女に渡した。
「歴史で習ったよ。商国は金が全てで、より価値のある物が正義だと。その初代ならそういう場所を創り上げるのが夢だと予測を立てた。だから賭けに出た」
「…なら、この交渉はあっしの負けだわな。…余計な物を背負うより裸一貫で行く方が良いと思わせた。あんた、強いよ」
サーシャは首を振る。そう思わせたのは事実でも、その過程の認識が間違いであると指摘した。
「違うよ。私が強いんじゃなくて、時代が進んだから。貴方はその進みを私の強さとして感じただけ。本当に強いのは、そういう嗅覚のある貴方だ」
「なら言い直そう。"アンタはマネーゲームが上手だ"。誰よりもお金の匂いを漂わせて、それに足る自信と根拠がある」
「そうでもないよ。単に鼻につく刺激臭なだけだから」
「あっしの嗅覚を鈍らせる濃厚な金の匂いが、どれだけのものか確かめたかった。あっしはそれだけでさー」
そこまで会話して、雨の魔女はこの場から立ち去った。
次はきっと大商人に。無言のうちに、そう言われたのだと感じ取った。
「…次は」
「アウッアウッアウッ!末恐ろしい!!」
「魔法使い…良い材料だ」
「この2人か…」
ここまでは良い。悪だが信念のある悪だった。
だが、残り物のこいつらはただのヤバいだけの連中だ。
今まで以上に困難な説得が始まった。
「救世主」
昔、神様は数万年先の人類の為に救世主を仕立て上げました。
しかし世界が未成熟だったからでしょう、救世主は保管した3日後に復活を遂げてしまいます。
あまりに早すぎる目覚めでしたが、救世主はそれでも役目を果たそうと救済方法を考えました。
そうして神国は、多種族国家として生まれ変わることになりましたとさ。