不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計   作:何処にでもある

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 タイミングの一点で言えば、未来を見れる時計塔は規格外です。




頼・訪・四七

 

 

「…えー」

「魔法…オチエテ…その魔法…オチエテ?」

「率直に言いますね。魂から理想の人間を作る技術は誕生し、職人も生まれました」

「え、それマジ?」

「マジです。良かったですね、現実が貴方に追いつきましたよ。貴方の理想足りえる人間を生み出せるのか、それは職人の腕と気分次第ですが、自分で変身する必要はなくなりました」

「ピャアイ!マネキン嬉ぴ!」

「その職人達は命の造り手(デザイナー)と言います。当然の話ですけど、その為の()()()()()()()()は自分で稼いでくださいね?」

「うん!膿頑張りゃ!!」

 

 あ、変態が喜んでるよ、キモイね。自分をうみの(のう)と称する辺り自傷する理性はありそうだけど。

 サーシャ…こんな奴らにまで慈悲をかけずに倒せたり出来ない?到底社会に組み込める相手じゃないと思うんだけど。明け透けすぎるよ。

 

「因みに私はその職人の弟子でも有ります。…さっきは道化師呼ばわりされたので合わせましたが」

「ほほ、これは失礼したのお嬢さん。さて、服を整えねばならんのう?ほほほ」

 

 その言葉を言った途端、この変態は変身の魔法でキュキュッと服をちゃんとした老魔法使いのものへ変え、さっきとは大違いの知性を宿した青い目に変化した。

 コイツ…伊達に弟子として教授を受けていただけはあるな。速攻で社会的信用獲得の最短ルートを押し通ろうとしてやがる。

 

「…取り繕ってくれるなら、私は先ほどの痴態は水に流します。良かったですね?私が優しくて」

「マジでありがたい話じゃ…しかしなんだ、そんな世も末な職人が産まれるとは膿は思っとらんかった。優しさに甘えるには酷いものじゃったな。この場で改めて詫びさせてくれ。済まなかったな」

「良いですよ。誰だって内心の自由くらいありますし」

「じゃが…ちーっと膿は疑い深くての?本当にそんなのが居るのか疑問なんじゃが…出来るなら、ここで証拠の職人技をすこーしでも良いから見せてくれんか?」

「良いですよ。へい、リーロカモン」

 

(いやー…深淵で魂を練っていた成果を使う時が来ようとは思わなんだ)

 

 いやだ、私この人の前に出たくない。

 

「…出てこないが?」

「…リーロ、変態の前に出たくない気持ちは分かる。でも初歩くらいは見せないと信じてくれないの。ちょっと出るだけで良いから、ね?」

「…やっといてなんじゃが、膿もはっちゃけ過ぎたわ。君にも謝ろう。すまなんだ」

 

 ……………渋々だけど、ホムンクルスとして変身した。

 

『…リーロです。…おはようございます、変態さん』

「おお!!コレが!!うわ、すげえ!膿の変身魔法とか屁でもねぇじゃん!どうやったら魂に可変機能を…ああ、魔力の身体か!!うっわ、コレ考えたやつ変態じゃろ!」

は?お前今リーロの身体を作った私を侮辱したのか?

「あ…おっほほほ…なんでもないぞ?マジで。褒め言葉じゃよ、褒め言葉。ほれ、言うじゃん……ほら…ごめんなさい。2度目の慈悲をくだされ〜ぇ!」

 

 誤魔化しきれないと悟ったのか、土下座みたいなポーズになって謝罪してきた。

 へっいい気味だ。そのまま自分の品性の無さを恨んだまま反省しろ。

 

「…特別に許す。次行ったらこう(牢屋行き)ですからね」

『行けー、変態さんなんて牢屋に入れちまえー』

「何卒、何卒それだけは〜ァ!」

「…リーロ、お疲れ。戻って良いよ」

 

(信用されたようだし、もう大丈夫だよ)

 

 許可が出たので速攻で秒針に戻った。やっぱりこう言う時って人を傷付ける形態は安心出来るわ。

 

「ご覧の通り、今のが初歩の『魔素幽玄体(ホムンクルス)』の魔法です。これで蘇生判定で厄災が蘇るのを防止しつつ、生身の金型を創ります。今のはMMにある死人の魂を入れて様々な過程を省略してますけど、完全に一からのフルスクラッチも出来るって訳です。それが出来れば一人前ですね」

「おぉ…膿、今一度感動した!なんと…なんと素晴らしい!そうか、膿の広めた魔法は、確かに膿の願い通りのものを産み出したのじゃなっ!」

 

 うわ、今度はおんおんと泣いてる…一度変態って印象が付くと何してもキモいな…サーシャは本当に良くやってるよ。

 変態はふるふると感銘に震えた後、ピタリと動きを止めてこちらを伺うように手揉みを始めた。

 

「…それで、膿の望み通りの嫁はどうすれば作ってもらえるのかなーって思うんじゃが…望みとかあるか?膿、全力で叶えるぞ?」

「先ずはその古い認識を現代のものに変えましょう。そして魔法の理論や何が禁じられているかを学び、只人として成長してください。そしてお金を集めて、私の方へ来るんです。そうきたら、私が作ってくれるように口利きします」

「………そうかそうか!なら膿も頑張らねばならんのう!」

 

 あ、今ちょっと間があった。別ルート探そうって顔に出てるぞ。

 サーシャも見抜いたようで、呆れた声でそれを咎める。

 

「…何百年も監獄に居たんですから、もう数年くらい我慢してくださいよ。貴方、大罪を犯したって自覚してます?」

「だって目標がすぐそこにあるんじゃぞ!?気が逸って仕方ないわい!」

「…なら、妥協案を出しましょう。帝国にあると言う「ギルド」、そこで頂点であるS級になってください。そうしたら、私も納得出来ますから」

「ぬっ!?…もう一度頂点になれと?」

 

(あ、そうなんだ?なら都合がいいね)

 

 「ギルド」、それは歴史の授業で聞いた帝国内で幅を効かせている組織だ。

 ゲーム知識から一言で言えば冒険者ギルドなんだが…本当何でもやる組織で深淵潜りや魔物狩り、ドブ洗いから家の建築、汚い部分では貴族狩りや戦争傭兵に暗殺強盗、外部の人間が手出し出来る範疇であれば帝国の何処でも顔を覗かせる人達だ。

 その歴史も長く、数々の帝国貴族の圧を物ともしない相互扶助組織として日夜社会の一部として大きな歯車を回しているんだとか。

 どうやらサーシャはそこに属させて、お金も社会的立場もいっぺんに稼ぎに行かせるつもりらしい。

 

「一度やり遂げたなら容易いでしょ?…ほら、ぼうっとしてないで分かったらサッサと行く!特別に帝都まで転移させてあげますから!」

「…あーい、膿頑張りまーす。あ、転移したら膿が抑えてた禁忌の枷が取れるからの。精々それで死なぬようにな」

 

 ヒュッ…パリン!

 

「…殺して奪う」「シニタイ…」「エグッエグッ」「クルシ…イ」

 

「…変な所で面倒くさがりな人だ」

(それは先に言って欲しかったね)

 

 サーシャが転属性の呪符で帝都まで送り、程なくして禁忌の罪を犯した者を封じていた鎖が破壊される。

 あの変態は悍ましい魔力と癖を持っていたが、まだ話は通じる相手だった。

 今度は最早会話すらも成立しない。何せ修羅だ。殺すか殺されるか、それしか選択肢がない。

 

『‭─‬‭─‬‭─‬禁忌』

 

 手印が結ばれ、修羅が禁忌を呼び覚ます。

 

「あー…流石開祖…かな?無拍子でそれ使えるんだ…『禁忌』」

(なるほど…そう使うんだ?…こうかな)

 

 サーシャも死に戻りを前提に、見よう見真似で高度な禁忌を使った。

 それは普通ならば、不完全に発動して周囲を巻き込んで死ぬ行為であり、よほどの天才でもなければできない所業であり‭─‬‭─‬サーシャには出来る選択だった。

 

星火燎原

 

汲水仏

 

 

 ぼっ。一つの生きた灯火が修羅の指先に宿り、この星を焼き尽くさんと大きな伸びをして‭─‬‭─‬

 

 

 ザァァァ‭─‬‭─‬……

 

 

‭─‬‭─‬雨が、全てを溶かす水が火の頭を抑え、

 

ゴォ!

 

 全てを燃やし尽くす火が、火山から噴き出た灰の如く広がり、溶岩の如く須くを火の内側へと取り入れて熱に変える。

 本来ならば、一瞬にして星を覆い隠し火の球にしてしまう無制限の火。それが広がっていないのは、今も降り注いでいる雨によってその熱すらも溶かし増える水へと変えられているが故。

 学園内が一瞬にして火と水の災害により荼毘へ伏す。そこに居た全ての命が灰も残らずに死に絶え、例え僅かに残ろうとも水に溶けて消えた。

 

 余りにも問答無用の死。あらゆる魔法が、栄光が、人の営みが、火と水の流転によって掻き消されていく。

 

「完全に扱えれば、この災害は私に従うんだね。勉強になったよ、先達」

 

 その中で唯一…否、無二の内の1人がもう片方へと歩み寄った。

 その身に迫る火の手は雨に防がれ、彼女の頬を伝う雨は人肌を溶かす事なく滴る。

 大きな情動も危機を感じるまでもなく、今を以て禁忌を完全に制御した才女が歩み寄った。

 

「ただ、敵味方を判別出来ないのは頂けないかな。隙あらば反逆しようとしているのも難点。…何より、蘇生している相手の得体の知れなさもダメだ。"この世界の法則下に居ない怪物"なんてもの、藪の下に放っておくのが賢明だ」

 

(…恐らく、神話に綴られている神と子供を成した相手、"星の旅人由来の怪物"だね。魔物ですらない異世界の怪物…恐ろしいのは、"これがただの肉片程度の存在でしかない"こと。人なら爪一枚程度の存在が、"蘇生魔法という概念を占領"している…今の私なら、ざっとここまで理解出来るのか…大概私も怪物染みて来たね)

 

 決着は3秒で着いた。

 ついさっきまで封じられ、王様と先生達の手によって消耗し、道具も何も持たずに術式を行使した禁忌。

 対して、ほぼ万全の状態で、MMとMRCの演算能力と魔力で後押しされ、技術の洗練さも一瞬で並び立ったサーシャ。

 

 属性の尊火卑水の概念も、行使する術式の根本が"異世界の怪物の蘇生"であり、衝突する怪物はこの世界の概念に囚われないならば、属性の概念はなく対等となる。

 

「修羅、ここが貴方の終わりだ。…そして」

 

 サーシャが秒針の先を相手の喉仏に添える。

 虚ろな眼がサーシャを捉え、ニッタリと嗤った。

 

「‭─‬‭─‬私の終わりでもある」

 

 サーシャの心臓から、火が燃え盛り身体全体に広がり燃えていく。

 禁忌の身体も、秒針の先から垂れた水滴から身体が溶けていく。

 

 勝負の結果は共倒れの引き分けだった。

 

(敗因は未知だった事実。"異世界の怪物は一体だけである"こと。蘇生する手法、属性によって姿は変えても、蘇る怪物は一体だけ。この災害も、怪物にとっては"蘇った肉片が合体している"だけに過ぎない。だからこそ、融合して賢くなった怪物に不意打ちを喰らった)

 

 果たして禁忌の修羅はこの事実を知っていたか、定かではないが、こうしてサーシャは膝を着いた。

 

「…死体だ。実験して、今度こそ…」

 

(…それ、残機か。リーロ、巻き戻し先は3分前でお願い)

 

 そうして俺とサーシャが最後に見た光景は、修羅の身体に引っ付いていた人の顔が一つ剥がれ、それが対価であるかのように溶けた身体が治り、近付いてくる修羅だった。

 

カチッ

 

‭─‬‭─‭─‬‬ぼっ。

 

「ッ!!!」

(『推理(劣)』、遅延調律、239倍。████████‭─‬‭─‬良し、後はやり遂げるだけ)

 

 最初に驚いたのは、サーシャに頼まれた巻き戻り時間が上手くできなかったこと。

 3分前に戻る筈が、10秒程度しか戻ることができなかったという事実。想定外の、禁忌の影響。

 その次に俺に押し寄せて来たのは、サーシャによる無数の指示。思考する余裕もなく、俺は大量の計算に身を投じることとなった。

 

(目指すは一点、ただ一点‭─‬‭─‬!)

 

 空間を掌握し、魔力の配列を選択し、サーシャの加速した計算の補佐を行う。

 今からやるのは狂気の沙汰。一目で並び立つ行為を越す、一瞬での術式の改良。

 

()()()()

 

 熱が膨張し、空気中に再配列させた魔力が雨粒に変化する。

 終わりまで一瞬、コンマ一桁の世界で、禁忌の新たな領域に辿り着く。

 

 "異世界の未知の法則を怪物の成り立ちから逆算し全てを支配する"。

 

一水四見『閼伽』

 

‭─‬‭─‬変化は劇的だった。

 

「…なんだ、それ」

 

 ボコ…。

(異世界の力…いや、法則に基づいた術式かな)

 

 修羅の首を握ったまま喋ろうとしたサーシャの口から泡が出る。

 泡は周囲に満ちた水を登り、遠く見える水上へと向かった。

 修羅の顔が一つ、剥がれて水に溶ける。

 

 こぽぽ…。

(この怪物は、"周囲の環境によって姿を変える"特性があった。今まで属性に応じた数だけ居たと思われていたこれは、その実たった一体による七変化だった)

 

 周囲に満ちた水にサーシャの鼻血が混じる。強引な思考、MMの演算能力すら追い越して行った解析の反動であり、今も続いている怪物の干渉への対処の反動だった。

 ゲーム知識ですら知らない、終盤か裏設定の情報まで無理矢理暴いた反動だった。

 修羅の顔がまた一つ水に溶ける。

 

「…溶ける…俺の家族が…テメェ、血も涙もねぇ!」

 

 ぽぽ…。

(だったら苦しませず、残機にもせず安らかに死なせなよ……この術式、私達2人にしか効かないようにしたんだよ?それで効いてるなら…その顔にその家族の自我はない)

 

 この急遽作った術式の効果は、「蘇生後、極々狭い範囲の禁忌を取り込み、禁忌の術者だけが"怪物が変化した海"の底に連れ込まれる」だけだ。

 謂わば、対禁忌に特化した妨害魔法だと言える。

 魔力は使わないので魔法かは疑問だが、この技術の名称がまだ決まってないので一旦はそう表現しよう。

 また、顔が一つ溶けた。

 

「待て…待て。俺には蘇らせたい家族が…嫁が…我が子が居るんだ!殺さないでくれ!」

 

 ぷくぷく…。

(殺すも何も、もう死んでいる。だから蘇生しようとしてるんでしょ?…設定はしっかり練っておかないから、こういう時に苦労する)

 

 ミシミシと、サーシャは修羅の首を絞める手を強めた。

 この怪物の海は、禁忌の術者だけ見て感じ取れる不可避の海だ。

 そして異世界の怪物の腹の中に居る以上、ここは異世界の法則に支配される。

 

 魔法も魔力を使った身体能力の向上も出来ない。

 

 ここでは、誰もが無力な存在でしかない。

 

「ひぃ…!」

 

 顔が一つ溶けた。後2つ溶ければおしまいだな?

 

 ぷく…。

(終わりだよ。蘇生だけでなく異世界の怪物を一時とはいえ支配してるんだ。同じ領域じゃないと勝てないよ)

 

「あ、あぁ…うあ…助けてくれ」

 

 顔が溶けて、ついに頭は一つだけになった。

 もう修羅の身代わりは居ない。

 

「嫌だ…いやだいやだいやだいやだいやだ!!!!()()()()()()!!!」

 

 ぽあ。

(あーでもそういえば…"自分の意思で人を殺すのは初めてだね")

 

 罪から逃れようとする意思、サーシャの手による殺害。

 神も運命もここから死を覆すのを許さないだろう。

 禁忌の術者にしては余りにも呆気なく幕が引かれ。

 

 

 

カチッ

 

‭─‬‭─‬‭─‬んだ…『禁忌』‭─‬‭─‬っ!?」

(…は?)

 

「‭─‬‭─‬ハハッ!!神よ、貴女に感謝を!!」

 

 それと同じくらい、あっさりと死んだ結末は覆った。

 

「「()()()()」!!」

 

 "秒針の残弾は3から2つに、今の分はきっかり減っている"。

 "サーシャは挙句に前回と同じ動きを取った"。

 

一水四見『閼伽』

 

 "挙句の奇跡だろう。修羅は一度見たサーシャの術式の見稽古に成功した"。

 

光聚仏頂『劫火』

 

‭─‬‭─‬相殺。

 

 "それはこの時点で誰も知らない事実だったが、極みに達した禁忌術式はぶつかり合うと相殺される"。

 "その結果の相殺。相性が悪く、勝てない相手だと悟ったのだろう。修羅は相殺され、一瞬の内に気が緩んだサーシャの隙を着いて逃げ仰せた"。

 

「…逃げられたか」

(…理解した。"死に戻りの対象は、リーロと所有者ではない"。"リーロと、()()()()()()()()()()()()()"だったんだ)

 

 ……MMは、共鳴している時に所有者が死ぬと引き摺られて死ぬ。

 ゲームでサーシャが取った戦術で、その現象を利用したモノがある、公式の事実だ。

 サーシャが今まで死んで戻っていたのは、単に私との共鳴が元から高く、サーシャに釣られて私も死んでいたからに過ぎない。…今、それが判明した。

 

「…くくッ…クハハっ…」

(思えば当たり前だ。M()M()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 いつかのサーシャが発見していた、"共鳴はMMの誤認に引き摺られる"現象。

 きっと、サーシャなら殺しがなくても、いつかは知ることが出来たのだろう。

 状況を正しく把握出来る力に掛けては、ゲームでも誰よりも優れていたのだから。

 ただ、初めて殺そうとした相手が最悪で…私の勘違いが、猛毒のようにこの未来に辿り着かせた。

 

「〜〜〜っしてやられた!!」

(クソっ!"この時魔法を使い熟すなら、不殺が望ましい"とか、どれだけの無茶だと…!()()()()()()()()()()!!なのに自ら手を掛けるの禁止っ!?…()()()()()()()()()…あっ)

 

 …サーシャ(最も信頼した相手)に、否定された。

 私は人型になり、サーシャに頭を下げる。

 

『…ごめんなさい、わた、私のせいで…私が、サーシャのMMでなければ…!』

「…それは違う。()()()以上の最適解は居ない」

『でも…ここから先は、私以上のハズレはきっと「今、妹の名前を言ったのはだれ?」

 

 物陰から私にそっくりで、だけど似ても似つかないほど成長した人が、仮面を外しながら現れた。

 …一度だけ、会ったことがある。未来のローン(3席)との戦闘、その死に戻りの過程に現れた、謎の20代後半の女性の姿だった。

 

 今ならわかる。この人は、10歳を超えて全盛の肉体に変化した、"私の姉だ"。

 

「……次から次へと…タイミングが悪い!!」

(話は後、…やられるだけだったあの時とは違う。一先ず立ち向かって情報収集をする!)

 

 サーシャに私の手を掴まれ、反射的に秒針に戻る。

 

「ダンテ先生!!…いつの間にか気絶してる」

(…流れが悪過ぎる…共鳴が出来ない。さっきの思考でリーロの心が離れてしまった。"今の私は、リーロを引き摺って殺せない。死に戻り出来ない。"…運の悪い事に、偽りの魂(ソウル・コンプレックス)は「カクテル工房」に置いて来た。強制共鳴は出来ない)

 

 何故お姉ちゃんがここにいるか、それは手に持っている仮面が答えだろう。

 時計塔の一員、ツヴォルフ(12席)の仮面。

 誰が原因か不明だが、間違いなく今はサーシャに取って最悪のタイミングだった。

 

「…お前、なんで私の妹の…死んだ妹の名前を知ってるの?」

 

「中間テストで出題になったから…かな?」

(幸い、来たばかりなのかホムンクルス形態のリーロは見ていない…退けられるか?)

 

 お姉ちゃんが袖を捲り、籠手を露出させ構える。

 MMの反応は一切感じない。正真正銘の喧嘩上等(ステゴロ)スタイルだった。

 

「嘘を…いや、本当の事を話しなさい。場合によっては‭─‬‭─‬無差別試合(デスマッチ)が始まるから」

 

「…怖い事言うね」

(前回の遭遇時より聞き分けが良い…あの時はローンが倒されてたし、助ける為に問答無用だったのかな…少なくとも、"この秒針がリーロなのは確信を持たれてる"…目指すはノーミスクリアだ)

 

 着いて行くと決めたサーシャと、今も正直…大好きなお姉ちゃんが相対する。

 私は…私は、どうすれば良いんだろう?

 

 






死に戻り(『換装』)
 五回まで死亡から10分以内まで巻き戻れるが、誰が戻るのか認知してない場合は死を巻き返せる直前になる。一日に一回分補充される。
 リーロと殺害者or被害者の記憶だけ保持され、相手は2回目以降持ち前の才能に補正が乗るようになる。補正は殺害回数倍、仮に2回殺せば2倍になる。サーシャは現在、リーロを239回殺害している。
 死に戻りの対価として、()()()はより有利な未来に、()()()は生き延びられる未来に運命が書き変わる。総じて、今よりも相手にとって良い方向で極端な結末に換装する。
 連続で6回死亡するとリーロの人格が交換され、相手にとって好ましいものに最適化して人生を再走する事になる。それは命乞いであり、分かり合う為であり…リーロの優しさが魔法に反映された影響でもある。

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