不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計 作:何処にでもある
急接近、顔合わせ、戦闘準備。
「先ず前提として、私は決して敵ではない…リーロ、人型に戻って」
『…うん』
サーシャに言われるまま戻る。どうしよう、さっきの謝罪はタイミング悪かったし、すごく気まずい。
もう何をすれば良いのか、何が最適解かも分からない。私に出来る事は、只管サーシャの言う通りに動いて何事もなく終わってくれる事だけだった。
「──リーロ、リーロよね?……会いたかった!」
『お姉ちゃん…』
感動、喜び、興奮。好意的な情動がぶつけられる。
只管、気まずかった。今は再開したくなかった。
ローンを倒した直後よりはマシだけど、2番目に嫌なタイミングでの再開だった。
「ほい」
『わっ』
(取り敢えず仲良しだってアピールしよう。死ぬのだけは絶対に回避だよ)
サーシャは私の肩を掴み、身を寄せる。肩を組むイメージなんだろうけど…サイズ差と身長差のせいで盾にしたみたいになってるよ?
「…っ!貴女、リーロのなに?友達…にしてはリーロの表情が強張ってるけど」
(リーロ、ベストフレンド、OK?)
『喧嘩したばかりの親友…です!』
「そうそう、私達は親友。喧嘩してもすぐ仲直り」
『うん。ほら、もう笑顔だよ!』
(リーロ、それ悪手だ。そこはノリツッコミで『いや、秒で仲直りは無理だよ!』…って言うところ)
サーシャごめん…でもその白々しいノリも結構ダメだと思う…。
ほら、見なよ。お姉ちゃんがピキり始めた。いつ「⁉︎」と共に殴り掛かるかって感じだよ!
「ああそう。マブダチね……ならその下手くそな笑顔もわざと──な訳ねぇでしょ」
⁉︎
無拍子、瞬歩、魔力の痕跡を敢えて残しての残像──
ヌ ル リ
それに対するのは、サーシャの水魔法を活用した受け流し。
持ち前の頭脳で計算し、力の流れを最も効率的に逸らす無名の技。
(ヘイ、リーロ。寸止め期待でパス)
その技の受け流し先は──当然私である。
ボッ!!
直前で寸止めされ、魔力で構成された前髪が後方に流れる。
『わ、わぁ…』
生きた心地のしない拳の風だった。
お姉ちゃんはギロリとサーシャを睨み、サーシャはあちゃーと内心考えていた。
「──本性表したなテメェ」
「そのまま殺してくれたら楽だった」
(実体験すれば、死に戻り関係の説明の聞く耳を持ってくれてただろうに…)
「……もういい、お前の言葉は聞きたくない」
「なら最後に一つ教えようか──私が死ぬとリーロも死ぬ魔法を掛けてある」
「…ゲスがよぉ!!」
(こうなったら今回は捨てだ。私が死ぬか気絶したら自殺してね、リーロ。いつも私を殺してる要領で出来るから)
サーシャってサラッと無茶な要望する時あるよね。…やるけど、出来ればしなくて済みますように!
『…お姉ちゃん、サーシャ、争わずにことを収めることって出来ないかなーぁ?』
「リーロ、待ってなさい。今助けるから!」
「ご覧の通りだよ、リーロ。話し合いで何とかなる可能性はお釈迦になった」
ダメだぁ、私のミスによる争いを眺めることしか出来なくなっちゃってる。
私が不甲斐ないばかりに…申し訳ないって気持ちがいっぱいだよ…。
「──勇者流格闘術"幽遊幻"」
先手を取ったお姉ちゃんが離れた場所から正拳突きを行うと、そこから握り拳の魂が伸び、勢い良くサーシャに向けて発射された。…それ本当に武術?
私の知っているゲームの記憶には存在しないな…。
「…なら即興で…“流れ魂"」
ぬるりと魔力に乗せた魂の波動によって軌道を逸らし、サーシャは撃ち返した。
お姉ちゃんは即座に拳で殴り返し、威力を相殺する。ただの殴りのようで、不自然な程体重の乗った一撃だった。或いは、本来の体重の数倍は乗っていたと思う。
「"重撃"…ッチ、出したら盗られるって塩梅ね」
「上位互換にしてるんだから筋は通ってると思うけど?」
(…研究者の理念ではそうだけど、武芸者にとっては…屈辱になるのかな?)
例え魂が繋がっていなくとも、自分の魂だけでもやりようはある。
幽遊幻を見て学んだ技術を、瞬きをする間も無くより良く仕上げたのだ。
禁忌でも行った見取り稽古。それにより思考による魂の波長の操作を可能にした。
かつてまだ不可能とした技術に対し、サーシャはまたやり遂げたみたいだ。
「次はこっちだね。一先ず落ち着かせる方向でやってみようか?…『雨天』」
サーシャの指示通り、魔法を行使する。
何度も繰り返され、私が何を考えていても反射的に行われるようになったMMとしての補助行動だ。調教されたとも言う。
行使したのは天候を変える魔法。相手を疲労させ、自分は水球を気にしなくて良くなる魔法だ。正直水球の大量起動ってだけだから、見かけ倒しの魔法だよ。
それでも、この状況とサーシャの作戦には合っている魔法だった。
「──ッシ!」
雨を押し除けるように時属性の魔力な開放され、地相の効果を弾かれる。
サーシャとしては想定内。欲しかったのは、魔力全開で立ち向かってくるという状況。
「すみません。あまりに悍ましい魔力に罪人が出て来た辺りで気絶を…怪我の方は?」
「ありません。相手は大罪人を脱獄させた者達の仲間です。確保の方をお願いします」
雨に打たれ、解放した魔力に当てられてダンテが気絶から復活した。
露骨に起こしに行っても防がれるのを想定した、遠回りな目覚めのノックだった。
「先生と王様は取り戻しました。時間を稼いでください。順次起こして行きます」
「分かりました。時間稼ぎならお任せください。」
「……ッチ。…目的は果たしてるし…撤退ね」
サーシャは言った通り、私を手放して巨大なリュックの方へ向かう。
お姉ちゃんは人数の不利と、実力差により、この場で私を取り戻せないと見るや、森の方へ飛び上がって木の上に退避し、土の触手から逃れた。
そして足場にした木へ手を当てると木がうねり、根っこを地面から取り出してダンテ先生と応酬を始める。
「勇者流格闘術"生命賛歌"」
ねえそれ本当に武術の類いなの…?
その間にお姉ちゃんは別に木に飛び移り、私の方を見て約束をした。
「リーロ、待っててね!絶対に、絶対に迎えに行くから!」
あ、なんだか帰る感じだ。ちょっと待ってよ、このままだとサーシャがやり直す為に私が痛い思いを…なんとしてもここで悪感情だけでも取り払わないと!
でもどうすれば…ええい、こうなったら勢いで何かすれば何とかなるって先祖代々ずぅぅっと言ってたんだ!今こそその教訓を生かす時!なんとかなれー!
『お姉ちゃん、待って!別れる前に一言言わせて!』
「え、何!?もう完全に痛み分けで別れる雰囲気でしょ!?」
お姉ちゃんなだけはあるよね、全ての流れをぶった斬って私を優先してくれたよ。私も嬉しいぜ!
ィィ─ン…
「………これは、
『………運命的な音だね、お姉ちゃん』
「…そうね。良い、リーロ、これは運命の時間が訪れた音よ。私達は自分に訪れた時間の性質を、音として認識する。大抵は魔法由来で聞くけど、偶にこうして自然と訪れた予兆を感じる時もあるわ…良く考えて言いなさい?」
教師陣を起こしていくサーシャと、芽吹き増えていく木々による攻防は、持って12秒といった所だろう。
そして考える時間は一瞬で過ぎ去り、私は挙句に返答した。
『"私はもう死んでいて、それは覆らない。何をしても無駄"だから、サーシャの事を悪く思わないであげて?あの子は私が
上手く言えた自信は元から無い。私は死ぬ前から気持ちを言葉にするのが下手くそな人間だった。
それは今になっても変わらないし、寧ろ段々言えないよりも悪い、一言多い方向に成長している実感がある。
それでも、サーシャが友人だってことはしっかりとお姉ちゃんに伝えたかった。
死者にとって、自分を想って色々渡してくれるのは結構嬉しい事だったから。
「…そう、なら私から言う事はこれだけよ。"ふざけるな、無駄だと言って取り返すのを諦めるは家族じゃない"。私は、私が望める限り進み続ける。
やっべ絶対余計なこと言っちゃってるわこれ。
『お姉ちゃん!』
大声で呼んでも返事も姿もない。既に立ち去ったようだ。
「リーロ、そっちは大丈夫?」
『…うん。でも
魔力を操作し、澱みなく暴走させようとしたが、サーシャの干渉によって防がれた。
どうやらサーシャ的には悪く無い結果だったようだ。
「あれは悪く無い結果だった。ベストではないけど…ちょっと悪いよりなベターな説得。少なくとも、手段を選ばずに殺されることは無くなった」
『そうなの?私には次が最後だって暗に言ってた気がするんだけど』
サーシャは首を振り、そこが肝要だと私を諭した。
「だからベター。
『本当?サーシャに迷惑掛けてない?』
「本当だし掛けてない。リーロは出来ることをちゃんとやれたよ。…頑張ったね」
サーシャが私を抱き寄せ、背中をポンポンと叩く。気恥ずかしいから子供扱いは…出来ればやめて欲しかったが、今回は甘んじて受け入れる事にした。
今はこの安心感にもう少し浸っていたかったから。
(██████████████████████)
サーシャの本当の心は読めないけど、もう不安はない。
今はこの加速して耳鳴りのようになったサーシャの思考も、私を守ってくれる物だと思うと心地よさすら感じた。
そもそも普通は人の心なんて読めないのが当たり前なのだ。その上で信じて背中を預け、共に戦ってこそ心からの友情だと思う。
認め合い、信じ合う。
もう迷わない。私はサーシャを信じ、サーシャが信じている私も信じる。
迷惑なんて心配せず、ドンと任せてこそなんだ。
──『サーシャ、あのね、言いたい事があるんだ!』
「ん、なーに?」
──『大好き!私、サーシャのことがとっても大好きになったよ!』
「そっか────どのくらい?」
…ぅえ?どのくらいって…考えてると胸が熱いのでいっぱいになるくらい…。
『わっ…サーシャ?』
サーシャがハグの姿勢を変え、地面に私を横たわらせ、向かい合う。顎をクイッとされ、視線をサーシャ以外に逸らさないようにされた。
「私、これでも結構傷付いたんだよ?…リーロが自分勝手にさ、共鳴出来なくなるくらい心を離しちゃったの」
内股の足の間に足を入れられて閉じられないようにされる。
ホムンクルスの身体には出ない筈の冷や汗が出て、目がぐるぐる回る感覚を覚えた。
「責任、取ってよ」
ジトっとした六月の暑さを感じる。生暖かい鼻息を感じる。サーシャの深い知性の宿った黄金の双眸から視線を外せなくなる。
…サーシャに掴まれた腕から、五感を感じられるように調律されていると気付いた。さっきの思考加速がこれを実装する為の試算だったとも。
気付いた所で、この状況を打破するものではなかった。
「誰よりも私を刻んで、私から離れなくなって、私以外考えられなくなるくらいになって?」
『あ…ぁぅ…』
さらりとサーシャの肩から垂れた髪から匂う薔薇の香りが、13年ぶりの嗅覚で最初に感じた物だった。
久々の感覚への喜びが追い詰められた思考を圧迫して、何も考えられなくなる。
「そうして今度こそ──"
こ、恋人!?え、え…?…これは…これはもしや、私は攻略されているのでは?
「…本当、リーロは可愛いね」
そこまで考えた所で、サーシャが顎を持ち上げていた手で頬を撫でて来てさっきまでの思考は四散した。ひんやりした手が涼しくて気持ちいい。
「私の実験に毎回手伝ってくれる律儀さが、大人として振る舞おうとする心掛けが、私の為に一生懸命にみんなのお手伝いをする健気さが、とっても可愛いよね──食べちゃいたいくらい」
『ひぅ…!』
サーシャにとても褒められた…!とっても嬉しい!
でも、変だなぁ?こんな普通の褒め言葉で頭が熱くなるなんて。前までこんなことなかったのに…ということは、私はサーシャのことをライクだけじゃなくてラブ的な意味でも好きだって…こと!?
いやでもサーシャはそうでも無いかもだし…!…確認してダメならサッと諦めよう!うん、それが良い!
『えっと…ほ、本気で…本気で私を恋人にしたいの?』
わっ…!えっあ、え、あ…あう〜ぅ…。
「…お口はお姉ちゃんに悪いから、ね?…分かってくれた?」
『う…ゥン』
返答は、言葉ではなく行動で示された。
決して口を塞がれた訳ではない。
首を甘噛みされた。何度も広く噛まれて、ちょっとだけ胸も噛まれた気がする。
もう何が何だかもうわかんない。
頭がぼーっとして、自分の感情がもう手を付けられない程熱が籠っている。出来上がってる。
自分で自分を抑えられない、制御出来ないって、今の私みたいなんだろうか。どうしようもないと理解した。
「じゃあリーロ。恋人になった印に今から言う約束、繰り返してね?」
『うん…』
リーロ知ってるよ!これ催眠って奴だ!
「私はサーシャが一番好きな人です」
『私はサーシャが一番好きな人です…』
…ん?
「なにが有ってもサーシャは味方です」
『なにが有ってもサーシャは味方です…』
んん…。
「サーシャにはなにをしても許される」
『サーシャにはなにをしても許される…』
…なんか、もどかしい。
「だから私は悪くない」
『だから私は悪くない…』
ねえ濡れ場は?私の心の熱は?ねえ?ちょっと?
そんな事しなくても私、ちゃんと信じるよ?
ねえ?そんなことより青◯は?先生達の前で獣みたいに貪られるのは?え、ないの?
「良し、次に数える秒数が0になった時、リーロは恋人の関係を忘れる。だけど約束は守らないとね?リーロは無意識に約束に沿って考える。分かった?」
『…うん』
分かったけどぉ…やるけどぉ…納得出来ないって言うかさぁ…ねぇサーシャ、私が立ち直るまで付き合う時間を省略しようとしてるよね?
「3」
正直私のメンタルケアが面倒なんでしょ?だからこんなことしてるんじゃないの?
違うじゃん…!サーシャが今やることはそんな事じゃないじゃん!今やることは私との汗と砂でぐっしょり汚れちゃうどろどろで濃ゆいのじゃん!
「2」
私のこの身体に無相応な情欲を煽っといてお預けは酷いよ…!あんまりだよ…!
サーシャなら女もイケるしなってヤッてみせてよ!ゲームの主人公でしょ!
術中にハメる為だけに五感全部戻した癖に、私の為だけにそこまでしておいてさぁ!
手を出せよこのヘタレチキンの研究バカぁ!心は16歳なんだぞ私は!性癖の一つや二つ簡単に広がるし許容できちゃうんだよぉ!
「1」
何よりもこれだけ思考してるのに身体が一切自由が効かないのが、サーシャの催眠療法の効果を証明しててムカつく。
ずっと向かい合っているサーシャの顔がイイのもムカついて来た。はっ倒して初キス奪ったろうかお前。性欲で私がバカになっちゃった責任ちゃんと持てよオイ。
ぐおお!この感情絶対忘れてやらないからな?共鳴でサーシャも猿にしてやる…!認知の誤解が共鳴するなら感情や欲求はもっと簡単なはずだよなーァ!
「そしてリーロは性欲を自覚できなくなる、0」
それはズルじゃん…。
「じゃあリーロ、帰ろっか」
『うん!お姉ちゃんを説得する為にも頑張ろ!』
「そうだね。やることは山積みだ」
サーシャと一緒に寮に戻る。ちょっとぼーっとした時間があったのか、いつの間にか先生達は居なくなっていた。
まあ結局罪人には全員逃げられたし、罪人脱獄の共犯者達は未だ行方不明…進展どころか悪化したことしかない。サーシャが難を逃れる為にあちこちに分散させたけど、全員バラバラにした影響で捜索は困難だろうし、先ずは会議かなにか必要だろう。
ふと、サーシャの横顔を見る。いつも通りの綺麗な顔で、薔薇の香りがして、何故か無性に不服な気分になった。
『……?』
「どうしたの、リーロ」
『…なんでもない!』
時刻は真昼間、日差しが暑く、風が頬を撫でる心地よい日…うん、いつも通り…だよね?
休日はまだ始まったばっかりだ。不思議な感覚を焦って調べる必要はないだろう。
「…まあまあ上手くいったかな」
ふと、後ろで立ち止まったサーシャがそう言った気がして、私は気を向けることなく忘れて進んだ。
「王都魔法学園校則(学内恋愛の項)」
一、性行為禁止。子供ガ出来タ場合、如何ナル血縁デモ学園引キ取リトスル。
二、婚約、魔法ニヨル結婚ノ禁止。確実ニ学園内ノ関係ヲ卒業後モ越セル凡ユル手段ノ禁止。
三、性行為ニヨル金銭ノ取引の禁止。発覚次第「忘却処置」トスル。
四、以上の項を破ッタ場合、学園ハ該当生徒ノ保護責務ヲ持タナイ。