不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計   作:何処にでもある

5 / 76


 攻略対象2人目と学園長の式辞です。




教・入・五

 

 

「…はぐれた」

 

(人混み…怖い。歩けば歩く程先生と離れちゃうし…どうしよう、会場に敷かれたあの魔法、条件がペアを作る事っぽいのに…)

 

 学校に来たサーシャの最初の困難は何か?

 それは授業でも水属性による不遇な扱いでもない。

 迷子である。

 

 村と比べて圧倒的に現代の都会並みの王都の学園だ。

 そりゃあ迷子にもなるし、あちこちに珍しいものがあるから横道にそれる。

 更に道に迷い、二人組を作らないと入れない魔法が会場に敷かれれば、辿り着くのは難しくなる。

 そうして困ってるところに新たな攻略対象と出会って、入学できるんだ。

 

「…確かこっちに行けなくて困ってた人が…飛んでるー…」

 

(うわ、空飛んでる人達居るし…いや、飛んでるって言うより…釣られてる?もしくは運ばれてる…うーん、細かい原理が分かんなーい!)

 

 サーシャのいた村と、この学園の技術的なレベルは天地の差がある。

 ゲームでも一周目では着いていくのが精々で、成績はギリギリだった。

 だが、幸いにもこの学園において成績は一要素でしかない。

 攻略対象が教えてくれたりするし、イベントを進めれば勝手に男性達がすごい物を創り出す。

 最も大事なのはコミュ力と、戦場に出ても死なないだけの力だ。

 

「迷子ー、迷子の新入生はどこだー」

「確か…あっちの角を曲がれば…」

 

 ごん、

 

「あ、ごめん」

「ぐはっ!」

 

 周囲を気にして、前を見てなかったせいで人と当たってしまった。

 サーシャは倒れなかったが、向こうはそうは行かなかったらしい。

 ゲームでは倒れてたから、これはMMで俺の経験の影響を受けた結果だな。

 

「…いや、俺の方も不注意だった。済まない」

 

 サーシャは手を差し伸べて、青年はその手を握って立ち上がる

 

「もしかして新入生?私もそう。良かったら一緒に行く?」

「それは…頼む。良い加減辿り着きたかったんだ」

 

 紹介しよう。攻略対象の1人だ。

 紫色のワイルドヘアー、青色の眼、武骨な顔つき。

 格好は王都の一般市民らしいシンプルながらも素材の良い服と、背中に大きな旗槍を背負っている。

 物静で礼儀は弁えるし、背も高く周りもよく見えてる冷静なタイプだ。

 その名前をダルク。

 攻略キャラにして、姉妹が死にがちな男だ。

 姉との立場を逆転させた二次創作を書くためにコイツも創作者に謀殺されがちだぞ。

 

「良かった。私も入りたかったところだったし、頼もしい返事」

「…ん?」

「ん?」

 

(あれ…会場の条件見破れてないの?魔力視と魔法陣の読み解きを教えられてなかったのかな…)

 

 なんでこんな条件にしたのか。

 それは、困ってる人を助ける精神があるか、結界を見つけられるか、条件を読み解けるかの試験も兼ねているからだ。

 あちこちから魔法使いを誘うこの学園、入学手続きは簡単なんだが、そのせいで生徒数がエグいんだよ。

 だから少しでも試験時間の時短をする為に、時間経過で簡単になっていく結界が張られてるのだ。

 早い程真面目で優秀、遅い程人格か能力に問題有り。

 そんな風に、この開始時間内に辿り着く試験で概ねの実力が測られる。

 まぁ、そのせいで入学式の開始時間が遅い訳なんだが…少ない教員で実行できるという点を考えれば、やっぱり合理的なんだろう。

 

「ええと、あそこの建物と魔法陣は見えますか?」

「…普通の建物だが」

「あそこが入学式の会場なんですよ」

「なに?…違うんじゃないか?」

 

(これかぁ、昨日ダンテ先生が言ってたの。火魔法、思い込ませる魔法の『誤認』による試験。私は水属性で火属性とは相性良いから簡単だったけど、他はそうでもないんだなぁ。確か先生の話だと…)

 

 昨日のダンテの個人授業のおかげで、水魔法以外の知識もサーシャは手に入れてるからな。

 入学する為の最低限の予習はしてある。後はクリアするだけだ。

 サーシャは俺で相手の肩を軽く叩きながら、解き方を教え始めた。

 

「はい、全身の魔力を循環。脳と目の停滞した魔力を交換して」

「え?…まぁ、やってはみるが…」

 

(うお、まぶし…その見た目で光属性なんだ…ダンテ先生は火属性の仲間って言ってたけど…熱くないし、全然そうには思えないなぁ)

 

 魔力の循環は、魔法のレジストや瞬間火力を上げたりする物だ。

 才能と素質と努力が極まると近づく物全てを殺す存在になるが、それはそれ。

 普通にやってればちょっと便利な小技でしかない。

 ゲームでもレベルが高いと呪いや幻覚を弾けてたな。

 まぁ、専用のアクセを付ける方が早いし楽だったけど。

 

「どう?」

「………入り口のすぐ横に入学式会場って看板があるな。…もう試験は始まってたのか」

「じゃあ1人で入ろうとしてみて」

「分かりました。やってみます、先輩」

 

 たったったっ……

 

(お、素直……今先輩って言ったかコイツ。そんな年取ってないんだけど)

 

 ……たったった、

 

 1人で入ろうとしたダルクは、狐に化かされたような顔で戻ってきた。

 そうそう、この先輩呼び問題で話が長引いて、一周目はAクラスに入れないんだよ。

 仕方ないとはいえ、Aクラスに行かないと後を引いちゃうんだよな。

 

「ダメです何故か送り返されます」

「闇魔法の『湾曲』だよ。それを元にアレンジされた奴。魔法陣は見れる?」

「はい。ですけど自分、古代文字は読めません。どうすれば良いですか」

「…よし、5分で覚えて。魔力視しながら聞いてね。先ず文字を現代の物に訳すと……」

 

(まぁ……癪だけど一旦置いとこう。コーチングの一歩はまず、相手を聞き入る姿勢にしなきゃなんだから。寧ろ都合が良い……コーチングってなに?…このMMって元々この学園の教員だったかぁ?)

 

 おぉ、俺の会社員として新人教育した経験が生かされている。

 色んな本を漁ったのがこんなところで聞いてくるなんて想定してないよ!

 想定外だったが、サーシャは俺を筆に、魔力で文字を書いて教えるのに成功した。

 なんだろう、俺がMMとしてペアになった影響が細やか過ぎるんだけど。

 現代で積み上げた要領を良くするための技術が還元されてる感じだ。

 

「…以上。これを今回のものに当てはまれば…」

「『2人の魔力を合わせた膜で無効化される』…魔法陣に答えは書いてあったんですね」

「よし。今教えた文字対応、単語の端の交換、文の読み順は昔の魔導書読むなら必須だから。法則性は忘れないで置くと便利だよ」

「ご指導ありがとうございました」

 

(おじいちゃんが死んでからは、魔導書片手に覚えてたんだから。これくらいは出来なきゃね)

 

 サーシャは文字の形を維持してた魔力を離散させると、ダルクの手を取った。

 2人の魔力を合わせた膜は、手を繋いだ方が作り易いからだ。

 

「じゃあ、行こうか」

「はい。…あ、自分はダルクと言います。よろしくお願いします、先輩」

「私は先輩じゃない」

「…?」

「ダルクと同じ新入生。名前はサーシャだから」

「なにっ」

「これから三年間、仲良くしてこう」

 

(ふふん、これでダルクくんとはトントンって事で!で、どうよ。結構順調に行けたと思うけど…空いてるなぁ、よし、前の方に行こう)

 

 イタズラ成功と言わんばかりに、猫っぽく目を細めてサーシャは笑ってから手を引いた。

 進んでる最中、後ろで着いて来ているダルクが恥ずかしいやら気まずいやら、驚きも含めた変な表情をしていたのは…まぁ見なかった事にしよう。

 そこら辺、ゲームだと特に描写はなかったんだし。

 

(…先に着いた人達不自然なくらい動いてないな。…時間が止まってるみたい)

 

 サーシャがそう思いながら、ダルクと一緒に座ると…

 

 キュルルルルルル…、

 

「…はい、では新入生全員が集まった所で、学園長のお話です」

 

「…っは?」「え、なんだ?」「…時間だな」

「へー、面白」「すごっ…」「魔法の無駄使い…」

 

「お、便利」

(…うわすごっ時間が一瞬で飛んだ…座った人の時間を遅らせたんだ。どうすればこんな…)

 

 時間が加速して、一瞬で新入生と、見に来た在校生が集まった。

 飛ばされた時間は1時間にも満たず、定刻までに来なかった新入生は転移で席に座らされた。

 これをお気軽に出来るのがこの学園のすごい所であり、世界中の国々が王国を攻め入る最大の理由である。

 王国はやってないけど、これを自国全体に行き渡らせればすごく繁栄しそうだもんな。

 

「なんか飛ばされた…」「えーちょーやば…」「お前、帝国の…!」

 

 こつ、こつ、こつ……。

 

「あ、誰か出て来た」「錬金工房の見学がぁ…」

 

 こつ、こつ、こつ…。

 

 全生徒がどよめく中、年老いた男性が登壇し、姿を現した。

 

 こつ、……………。

 

 壇上の前に立つと、自然と話し声が小さくなっていく。

 不思議と耳を傾けようとしたのは、間違いなくカリスマの賜物だろう。

 

「余はサテライト王国の国王にして、学園長のパンドラ・フォン・サテライトである」

 

 長い白髪と、古い大木の杖。

 魔法使いらしさと、王様らしさを合わせた服装。

 その威厳は、この学園を創り出した偉人として相応しいものだ。

 

「先ずは一堂がここにくる事を頷いたこと、それを嬉しく思う」

 

 ッター…キン!

 

(…音速の針!恐らく土魔法、…と火魔法の幻影!)

 

 それと同時に、土魔法による暗殺の弾丸が放たれ、魔力障壁によって防がれた。

 サーシャが発砲された方向を見ても、誰も居ない。

 そして、誰も気にすることがない。

 校長も気にせずに会話を継続した。

 

「さて、諸君達には今年から三年間、共にこの学園で過ごしてもらう」

 

 ザッパンパン、キキ!ガガガッ…ゴ、

 

(誰も騒がない…幻影に阻まれてるけど、その一歩先でこんなにも騒がしい暗殺戦が行われてるのに!?)

 

「この入学式が終わってから、諸君は自国を忘れ、この学園の仲間として過ごすだろう。故に、どのような思惑も、この場で搔き消える」

 

 サーシャが入学して来た当時の戦闘のトレンドは、火属性の『誤認』に始まるあらゆる認識改変系の魔法を併用した、認識できない暗殺合戰だ。

 故にこの光景はここ最近のこの世界の日常であり、学園長の対応も手慣れている。

 サーシャはこれを認識できているが、それは水属性の特徴のせいだ。

 その魔力に触れるだけで清浄される性質により、他の属性で映し出す光景を無効化するのだ。

 ゲームでもサーシャはレジスト性能が高かったから、これはもう水魔法使いの(さが)なのだろう。

 

「さぁ、学び、見つけ、そして自ら振う力がどんなものか、理解しなさい。今一度、初心に立ち戻っての」

 

 それは、ふたりの老人の声が重なって聞こえた。

 

 トン、

 

‭─‬‭─‬‬「『忘却と学徒の印』」

 

 透明な魔力が広がり、全ての新入生の服が学生服へと変わる。

 そして、身体の何処かに、王都魔法学園の校印が刻まれた。

 

(……あ、攻撃が止んでる。自分の所属や任務とかを忘れさせた?どの属性でも無かったし…これが無属性で、この人が、王国と魔法学園の頂点なんだ)

 

 この世界では、全ての生き物は必ず魔力に属性が宿っている。

 それは親の血筋により定まり、その属性で使える魔法も決まる。

 その中でも無属性は、最も純粋な魔力であり、この属性の魔力ならあらゆる魔法を扱える。

 何故なら、全ての属性の始祖だから。

 そこから代を重ねる程、属性は無属性から離れ、世界に染まる。

 無から火、火から風、風から土、土から水へ。

 故に水魔法は最も劣った属性であり、最弱の魔法なのだ。

 

 代わりに…

 

「では以上だ。諸君、励みたまえ」

 

 パチパチパチ…、

 

(ほへぇ、すごかったなぁ…みんな拍手しないなぁ…あ、忘れちゃったのかなぁ。文化とか、そういうのって、自分が元々どこに所属してたかの手がかりになっちゃうんだし。学びに集中して欲しいんだろうけど、ちょっと酷いよね)

 

 水魔法のレジスト性能は、本当に高い。

 それこそ、ただ魔力を循環させてるだけで最高の魔法使いの忘却を無効化できる程に。

 

 パチパチパチ、

 

 サーシャだけが拍手をして、それを背に学園長は立ち去る。

 

 たったひとり。

 

 学園に通う水属性の数を雄弁に語る、入学式だった。

 

 






「属性」
 何もない力が集まり、多くが世界となりました。
 残った僅かな何もない力は、神となって世界を調律しました。
 何もないが、よりそこに存在出来るように、時代を重ねる程、生き物になるように。
 最終的に、魔法がこの世から消え去るように、始まりに立てるように祝福しました。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。