不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計   作:何処にでもある

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 50話記念にゲームにおける各国のメインストーリールートをご公開だぁ!
王国編「魔女狩り」→「vs狩人」→「提唱:神の民の定義」
神国編「白鯨狩り」→「vs魔王」→「提唱:人と魔物の境界」
帝国編「楽園狩り」→「vs勇者」→「提唱:偉人の結末」
商国編「異端狩り」→「vs旅人」→「提唱:外なる星の船」
→共通「不遇水魔法使いの禁忌術式」 or →共通「廻り回る時計の針先」
→共通「選択する」 or →共通「やり直す」
→第二章「戦争編」へ
 一章だけでも結構ボリュームのあるゲームなんだあ 楽しんで貰おうかあ。




海・鯨・五十

 

 

「あー、あー…うん喋れるね」

(付属性で付与された効果を参考にした、自身を魔道具に見立てて構築した魔法…名付けて「付与術」多分新しい魔法体系に出来そうだけど…今はどうでもいい。水中呼吸が出来るならそれで十分)

 

 秒針として俺を構えつつ、サーシャは昏い海の中を探索する。

 一寸先が見えないが、魔力視をすればある程度は目視出来る。しかしそうすると肉眼でしか見えない相手に弱くなる。

 だが元から見えないなら関係ない。不可視の魔物がいると知っていればある程度の対策は立てられた。

 

 コォーン…コォーン…、

 

「『通信』を応用して…うん、ソナーになりそうだね。肉眼代わりになるか、実地調査としよう」

(周囲500kmに…安全海域のみんなは確認出来ないか。問題なく妨害機能は正常稼働中だね…呼吸の問題から遠くには行ってない筈だし、このソナーも遠くほど大雑把だ。軽く探して居なかったら一旦戻ろう)

 

 サーシャは方針を固めると海の奥に進む。ソナーで確認した魔物を避けつつ、近づいて来たら隠れてやり過ごす。

 

(3mの魚の群れが前方200Mさき、500m下はイソギンチャクの魔物…?1km右下の遠方で薄ぼんやり光っているのはアンコウみたいな魔物かな…)

 

 まだ光が入っている海域だが、既に無数の魔物の影を確認出来た。

 ここ、海の深淵は下に潜るほど深淵層に近づく場所だ。他続きで下から未知の魔物が這い出るのも珍しい話ではなく、近くの街で情報を集まればその危険性を知ることが出来るだろう。

 代わりに下から這い出る分浅瀬でも貴重な素材が手に入るのだからそこは痛し痒しだ。

 

 ゴォ…、

 

「…水圧が押し寄せて来た。…大きな魔物が近付いてる」

(…限界かな。500km下に昏闇層の魔物らしき鯨が見えた。…この捜索範囲で全貌を把握出来ない魔物とか初めてだ。…脱出だ)

 

 捜索開始から15分、下から途方もないほど大きな魔物…サーシャ曰く鯨の魔物が近付いてきたので捜索は中断する事になった。

 サーシャは周囲に水球を大量展開し、自分を押させることで加速しながら浅瀬に戻る。

 

「…可笑しい。もうあの巨体では海底にめり込む筈…まさか、()()()()()()()()()()()()?…私…いや、安全海域狙い…まさか、氾濫?」

(よりによってあの巨体で敵対的とか…!死に戻る…だめだ、あの動きは初めからこの海域を丸ごと食べる腹つもりの動きだ。戻った所で、陸地諸共食べられる!)

 

 しかし、一向に距離は離れない。それどころか、サーシャの真下から浮上を始めた。

 

─・‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─・・‬‭─‬‭─‬‭─・・・ォ

 

 遠くから、サーシャの出したソナーをずっと長く、生々しくした音が辺りに響いた。

 静かに、ゆっくりと、雄大に、こちらににじりより、何をしてもどうしようもなく食べられると自覚させられていた。

 

「…来るよ、リーロ。運の悪いことに…鯨みたいな魔物の氾濫に遭遇したみたいだ」

(昏闇層…シーシャを創造した時の環境と同等…その上でたった一体に収束し、外に出る…そこまで同じだなんてね。ここで何があったのかは知らないけど、なんて運の悪い…)

 

 サーシャのその声と共に、なにか途方もなく大きな()()が迫り上がった。

 

‭─‬‭─‬・・・‭─‬‭─‬‭─‬・‭─‬‭─‬‭─‬・・‭─‬・・‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬ォォォ

 

「…人の肉眼で見ようとすれば、空の彼方に向かう必要がありそうだね」

(守るには『水界結界』で…水流に耐える為の質量が足りないか。それなら氷で…生身に触れて壊れるのは属性を混ぜて中和して…壊れる前提でより良い物に出来るように…)

 

 サーシャは氷で多重防壁を安全海域を包むように作り、更にMRCの魔力生産をフル活動させ、氷の箱を『水界結界』で包み込んだ。サーシャは結界の上に立ち、足越しに結界の調律と強化を重ね掛けをしていく。

 

「即席だけど、『氷水結界』と名付けよう。…はぁ、やれやれ…私はどうやら、深淵で益を得ようとすると痛い目を見る運命らしい」

(呪符はある。転移で逃げる?…そのまま放置して何人の犠牲が出るかな。…万は超えそうだ)

 

 昏闇層、ゲームでもそこの深淵探窟をするなら、5周はする必要のあるエンドコンテンツだ。

 

「…うわ、最悪の気分だ。コイツ私と同じ属性だ」

(魔物なのに珍しい…いや、だからこそこんなに大きくなれたのかな?)

 

 例えサーシャがゲームより強くても、一回限りの人生しか過ごしていないなら太刀打ち出来ない。

 

「さあ食べなよ。胃の中から切り裂いて出てやる」

(ただ、あまりに巨大だから直ぐに討伐隊が出張るだろう。…確かこの深淵は神国と帝国の間にある。共同戦線か、倒した後の死体を巡って争うか…恐ろしいことに、"この鯨は水属性、死体が殆ど残る"…国が荒れるね)

 

 そして俺は、この鯨を知っている。

 神国のメインストーリーである「白鯨狩り」の連続クエストだ。

 魔女の脱獄と共に誰もが想定していなかったタイミングで発生した氾濫。

 それは属性すら持たない魔物では珍しいことに、水属性という大量の戦利品を得られる属性を有していた。

 その成果は本当に凄まじい。何せエベレスト山脈を越える大きさの空飛ぶ鯨だ。

 何億人が食べても食べきれない肉、何よりも壊れないのに加工のし易い骨、無尽蔵かと錯覚する空に浮くガス、食べれば寿命が伸び死ぬまで健康になる心臓……倒した国、交換したキャラの領地が全て裕福になる物だ。

 その上で血肉は腐らず土地に撒けば肥えた大地になるんだから都合がいい。

 結果的に神国と帝国の間には巨大な鯨の雪山が出来、両方の技術と経済がより高度な物になるんだから凄まじい。

 サーシャはこのメインクエで主導を取ることも出来るし、名を広めたり発展を助長させたり出来た。因みに何も手出ししなかったら、歴史のエイハブ先生が命と引き換えに倒したりする。

 …ただなぁ、このクエスト発生時期がランダムなんだよな。まさか今日とは付いてなかった。

 

 無数の山脈のような牙が、俺達を出迎え、そして暗闇に閉じ込める。

 

 ザバババババババパァ!!

 

「くそっ!食道を流れるだけで激流か!」

(第一、第二、第三結界崩壊、即時再構築!そして形状変更、船の形が望ましいねこれは!)

 

 そうして俺達は食べられ、食道を流れている最中である。

 荒れ狂う海水が大雨として降りかかるし、魚や魔物もオマケに降り掛かる。

 ダルク達の男陣営は今頃荒れ狂う安全海域で戸惑っている最中だろう。

 正直俺も戸惑ってるから気持ちは分かるぞ。白鯨に食べられるなんてゲームでは態とやらないと出来ないし、起きても即死するだけだったからな。

 

「"錬金多重起動 水戦用ゴーレム50機生成 『獲得(劣)』起動 手動(マニュアル)開始"、雑魚散らしの時間だゴーレムども!!絶対に殺さずに、そして私に一切近づけるんじゃないよ!!」

(雑魚はこれで良い。私が殺せばリーロの固有魔法でソイツが死に戻る。それは一番ダメだ。こうなった以上、この3つの残機は一番希少な物だ、下手に使えない…!)

 

 禁忌戦の次の日、未だ残機は回復し切ってない状況で襲われた災難は、これ以上ない程の厄介さを持っていた。

 

「…波に拐われる!"錬金調律 構造改変"!」

(足を蛸足に、吸盤で張り付く構造にする!)

 

 盾を持った魚人のようなゴーレムが『氷水結界』の上に乗った魔物を散らし行くが、90度を超えて一回転を繰り返す船にしがみつくのに精一杯のようだ。

 既に10体が魔物に関係なく波に流され、残りは改変情報を魔力の波動でねじ込んで無理やり造り直して場を凌ぐ。そのお陰でサーシャを守る動きが最低限出来るようになった。

 しかし、ここは何でも飲み干す白鯨の食道だ。サーシャが結界の構造を変えて壁を生やして塞いでも、新手は絶えずやってくる。

 何せこの船の上は食道の中で最も静けさを保った領域だ。生き延びたい者なら必ず目を付ける。

 

「ッ突破され…カニぃ!?」

 

 また新たに10mはある魔物が一体サーシャの近くに侵入した。

 緑の溶解液を垂れ流し、海壺が大量に張り付いた甲羅をその鋏で鳴らす。威嚇行為であり、安全な縄張りを奪おうとする、その魔物なりの意思表示だった。

 

「『氷像』!押し出…チッ甲羅…海壺が生身判定か!ゴーレム軍団!」

(コイツも水属性!この深淵は水属性のバーゲンセール!この分だと氷も居るかな!)

 

 ゴーレムが盾で押し出そうとするが、身長差は人の大人と子犬レベルだ。蟹はモノともせずにゴーレムを蹴散らしてしまう。

 格上である上に殺害禁止。どれだけ傷付ければ相手が死に戻るかも分からない以上、下手に手出し出来ないのが不味かった。

 蟹はそのまま大鋏でサーシャを押し潰そうと迫る。サーシャは結界の計算をしている以上、動ける状況ではなかった。

 

(終わった。それなら次は…)

 

 そうしてサーシャは思考を次に回した時だった。

 

 ヒュンッキィィン…!

 

「大丈夫かい?」

 

 ザパァン!

 

 金属が弾かれる音と共に、弾かれた蟹が激流に飲み込まれて先の方へ流れていく。

 振り返った彼に弾けた水飛沫が髪を撫で、こんな状況でもキラキラと輝いて見えた。

 その名はグリム・フォン・サテライト。行方不明の王子様がここに帰還した。

 

「グリム!どこに行ってたの!」

「変な気配を感じたから外洋の方までね!この鯨を見て、その後は転移で戻って来たんだけど…って、そんなことより、今はこの状況をなんとかしようじゃないか!」

「それはっ…そうだね。うん、それなら私をゴーレム達と一緒に守ってて。この結界の船が壊れたら私達はおしまいだから」

 

 グリムはその言葉を聞いて、周囲に炎を展開する。炎が辺りを照らし、この暗闇を進む氷の船を照らした。

 そして船の先頭に立ち、両手を広げた。

 

「ではそうしようか!なーに、オレもこの…そうだな、白…雪…鯨…白鯨…「白鯨」を放っておくのはどうかと思っていたんだ。共に立ち向かうさ!」

「ありがとうグリム!でもそこに立ってると「ぶべっ!…ザパァン!」危ない…って言おうとしたんだけど…」

 

 ヒュン!

 

「では行こう!なーに、オレは直ぐに戻れる。心配ご無ぶべぇっ!!」

 

 ザパァン!

 

「…転属性呪符と付与術で魔法陣を構築、『座標補正』 グリム、転移先の調律は任せて!」

(手伝いは必要そうだけど、生来の転属性じゃないから仕方ない。死に戻りしなくて済むならそれに越したことはない。全力で行こう)

 

 …頼りないが、転移と同時に蟹を飛ばせる実力はある。この場に置いては頼もしい味方なんだ。

 サーシャも新しい魔法を作り、死に戻りせずに攻略する覚悟を決めたみたいだった。

 グリムも炎の光で転移先を分かり易くしているし、バカでもなさそうだしね!俺はもう見直したぞ!

 

 ヒュン!

 

「さーぁ行こう!既にオレの魔力は後転移1回分もないぞー!」

 

(嘘でしょ?)

 嘘でしょ?

 

 その時、私とサーシャの気持ちは一つになった。無駄に魔力減らしてミソッカスじゃん?

 もしかしてサーシャよりも魔力量は少ないタイプ?

 

 その一瞬の思考の隙を突かれたのだろう。新手のアザラシみたいな魔物が搭乗した。

 グリムは古臭い樫の杖を構え、応戦しようとする。…MMは?

 

「さぁかかって来い!オレは今投げ飛ばされたら死ぬぞー!」

「リーロ! こっちは大丈夫だからMRCで魔力譲渡してあげて!この人火事場で放ってたら死ぬタイプだ!」

『うおお!まって待って立ち向かわないでこっちに来て!今魔力を渡すからぁ!』

 

 訂正しよう。コイツはバカだ。私よりもバカだ。

 無詠唱や魔法の練度が高いから何とかなってるけど、戦闘スタイルは決闘をしていた初期のサーシャ並みだ。その癖魔力量は魔力を注いだ量からしてAランク、サーシャの三分の一程度しかない。

 才能がない癖に、騎士道物語や童話の主人公みたいな勇敢に似た蛮勇を持ち合わせる命知らず。よくもまぁ期末テストで生きてたね?

 親のコネ入学、親譲りの無属性、親の教育で底上げされてる匹夫、親の七光りが極まってるタイプだわ。

 

『はい、魔力注ぎ終わったよ』

「リーロちゃん!手伝ってくれるなら心強い!さぁ、共に駆けようじゃないか!」

 

 注ぎ終わってサーシャの元に帰ろうとして、脇に手を入れられてヒョイと持ち上げられた。

 おいおい、胸がガッツリ指に当たってるよ。紳士的じゃないな。…うん?もしかして私使われるの?

 

『えっちょっ使うなら秒針に戻ってからでぇぇー!』

 

 急いで秒針の形態に戻り、グリムの手に収まる。無遠慮な無属性の魔力が私の身体を嬲るように覆い隠した。

 うおおお、めっちゃイタくすぐったいぞグリムー!多少は私を気遣いやがれー!

 

「"戴冠の刻来れり 我は刻の王冠を献げる神の末裔なれば!王権神授〈時〉(フォン・ギフテッド〈タイム〉)"!!」

 

 私の身体に侵入した無属性が謎の力に代わり、固有魔法が強くなる感覚を覚える。

 全能感、万能感、そして投げ槍として後方に投げられた事による浮遊感。

 

『待って私転移出来ないぃぃーー!!!』

「リー…!ォ……」

 

 サーシャが名前を呼んでいたが、それも直ぐに掻き消された。

 MMは頑丈で生き物じゃないから死なないが、流石に数百mもある津波の壁に大穴を開けて貫き、飲み込まれれば一溜りもない。

 辛うじて生きているが、魔物にぶつかって波に拐われ、濁流に身を任せ…死に戻りが発動していない所を見るに、この投槍で死んだ知性ある生き物は居なかったらしい。

 

 つまり大体投げられ損である。アイツ今度会ったらタダじゃおかないぞ?

 俺は蛸やイルカが案外賢いことや、頭の大きい生き物は賢いこと知ってるからな?それらが死んでない時点で安全地帯を狙う奴は減ってないんだよ。ばぁか!

 

 

………

……

 

 

 あれから何時間経っただろうか。

 少なくとも一日はまだ経過してないだろう。死に戻りが発動していない所を見るに、サーシャ達は依然として無事なようだ。

 喜ばしいが、それはそれとして言わなければならない事がある。

 

『…ここどこぉ?』

 

 私は無事?に胃の中で浮上することに成功し、ホムンクルスに変身する事に成功していた。

 あの濁流だと変身もままならなかったからな。いつの間にか鼻が効くようになったからか、とても臭いが…ともあれ、私は素早くサーシャの元に戻らなければならないだろう。

 真っ赤な肉壁、漂流する魔物の死体、稀に見える船の残骸…こんな所に長居はしたくなかった。

 

 コォーン…コォーン…

 

『えっと…こっち…かな』

 

 幸いと言うか、さすがサーシャと言うべきか。私が戻って来れるように『通信』を応用したソナーを流用したもので位置を知らせてくれている。この音を辿ればいずれ辿り着けるだろう。

 

『待っててねサーシャ。今戻るから!』

 

 これでも24時間動けるMMなんだ。ホムンクルスの身体なら空も飛べるし、遠くを見ることも出来る。私は結構便利な機能が山盛りなんだ。

 ある程度は呪符が代用出来るだろうけど…サーシャならまたMRCを作れそうだけど…それはそれ、これはこれだ。

 

 待っててねサーシャ、頑張って急ぐからね!

 

 そして首を洗って待ってろよグリム。今宵の私の針先は血に飢えているぞ?

 

 






「白鯨狩り」
 ある所に穏やかに暮らす鯨の群れがありました。
 そんなある日、気まぐれに浮上した白い鯨が人に出会い、その姿に恋を抱きました。それから毎日訪れる姿を眺め続け、その内パタリとその人は訪れなくなりました。
 悲しみに暮れようと抱き続けた恋は焦がれていき、白い鯨は遂に狂って、同胞を全て食べ、食べた分だけ大きくなってしまいました。
 するとどうでしょう、鯨を縛るものはもうありません。鯨は遂に外に出て、あの人に会えるのです。‭─‬‭─‬ああ、エイハブよ、今会いに行きましょう。たとえこの身が道半ばで死のうとも、私は貴方を最後まで祝福しましょう。それが私の恋なのです。

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