不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計   作:何処にでもある

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 この世界の世界人口は8千万人ほどです。
 白鯨被害 氾濫から3時間経過時点。
 ・死亡者数 47,801名
 ・帝国辺境伯爵領「オーマ」、3名を残し全滅。
 ・神国「テラ一族領土」、完全消滅。
 ・1501個のMMが捕食され1500個の帝国量産型MMを白鯨が吸収。
 ・「人魚」大量発生中、被害拡大中。
 ・世界規模で大嵐や大雪や大雨の異常気象発生中。
 ・現在「白鯨」は南下中、進路上の王都まで後20日。




鯨・議・五一

 

 

 location:「白鯨・第一胃袋」

 time:6/22 13:21p.m.

 

 ここは「白鯨・安全海域(サンクチュアリ)」。リーロを紛失した御一行が避難しているビーチサイドである。

 リーロを紛失してから3時間、サーシャは思考速度を最高速でぶん回して錬金と付与術と呪符による演算を使用。周囲に流れる残骸を巻き込んで錬金し、安全海域を丸ごとゴーレムとして錬成し、内部にある魔力発電所が全域に行き渡るように改変。

 前代未聞である「土地型ゴーレム」を飛び越え「海洋都市型ゴーレム」までかっ飛ばして錬金する事で強引に"膨大な表面積のある一個体"の持つ魔力吸収量を利用して、強引に魔力不足を解決してここまで走り抜けてきたのだ。

 

 その間グリムはこき使われたのは言うまでもなく、そしてそれだけでサーシャの機嫌が直る筈もなく…。

 

「えー、ではコレより被告人グリムへの裁判を行います。裁判長は僕、ヘルシングが務めさせて頂きます」

 

 こうして、反省会とサーシャの休息を兼ねた裁判が始まっていた。

 

「ははは…その内戻ってくるとも…言ってはダメそうな雰囲気だね?」

「……弁護士のカーリーとオルガだが…この茶番に意味はあるのか?」

「原告のサーシャです。反省会も兼ねてるので意味はあります」

「検事のダルクだが…先生は入れなくて良いのか?」

「先生はほら、貴族だから。忖度の疑惑を一々晴らすのも面倒だからゴーレムの指示を任せてる」

「と言う訳で、グリムのやった事を問い詰めて行きますね、サーシャお嬢様」

 

 そう言うヘルシングの眼に、多数の瓦礫やジャンク品が映る。

 真っ赤な肉壁、胃液の混じる黒い海、ガスの異臭のする空間。無防備に外に出れば、魔物に遭遇するまでもなく空気中に漂う酸で溶けてしまうだろう。

 そのどれとも切り離されたような、自分達が居る青い海と綺麗な空間。自分達を守る、安心できる空間。

 現在、不運にも白鯨に飲み込まれ、この「海洋都市型ゴーレム」によって生き延びているヘルシング達にとって、今もこの「海洋都市型ゴーレム」の制御と管理を行っているサーシャの機嫌を損ねることは死を意味していた。

 仮にも裁判の形を取ってはいるものの、その実態は一方的な宣告とさして変わらない。ヘルシングに出来るのは、精々少しでも穏当な処置になるように嗜めることだけである。

 そうして胃を痛めるヘルシングに対し、検事のダルクは追求するだけの楽な仕事だと議論を始めた。

 

「状況説明から行くぞ。MMを無断で借り、それを投げて使った。それによりリーロは行方不明、今は魂の波長を利用した誘導音声は流しこっちに来れるようにしているが、戻れるかは不明…被告人、弁明は?」

「魔物を丸ごと殺せば解決すると考えたんだ。結果は一匹も殺せず、リーロちゃんもどこかに消えてしまった」

 

「ほぉーん…」

 

 ピガピガと頭部から音を鳴らしながら相槌を打ったサーシャの反応に何人か目を向ける。

 今現在、サーシャはその頭部には「海洋都市型ゴーレム」の制御パーツが装着されていた。

 水着に呪符や水流に押し潰されて死んでいた魔物の素材を組み合わせたヘルメットは笑いを誘うものであったものの、それで生きていられるのだから、見て笑うものは居ない。

 変な緊張がこの場に流れていた。

 

「続けて?」

「検事として、このことからグリムの罪は「無許可の使用」、「紛失しこの場にいる全員を危機的な状況にした」こと、罰として「危険な任務を積極的に当てがう」、「白鯨脱出後の補填」を要求する」

「はい。では弁護士のカーリーとオルガさん、弁護の方をお願いします」

「待った」

 

 サーシャが挙手し、流れを止めた。

 ヘルシングは暫く悩んだ後、この発言を許可をする。

 

「…どうぞ、サーシャお嬢様」

「罪を取り違えている。確かにダルクの言うこともそうだけど、最も大事なものが欠けている」

「…なにか足りないことが有ったか?」

「余計な事をしなければどれだけの利益を我々は得られたか、そして被害者の心理的損害への賠償だよ」

 

 あ、結構ガチ目に追い詰めに来たな。

 この場に居る全員が似たようなことを考えた。

 

「…その罰はどうするのが妥当だとお考えに?」

「脱出自体は既に出来る。私の転属性の呪符やグリムの転移があれば一発。しないのは白鯨をこのまま倒す為には内部の方が有利なのと、リーロが帰って来るまで待たないと行けないから」

 

 結論の前に、サーシャが前置きを語り始めた。

 「脱出後」という条件が話に出た辺りで、この集団がお互いの情報が共有出来てないと把握したからだ。

 誰が何をやれるのか。サーシャはそれを知らないと痛い目を見ると身をもって実感していた。

 それを聞いたカーリーが口を挟む。誰もが思いつく案の確認だった。

 

「……誰か外に出て迎えに行ったり、この船を動かすのはどうだ?」

「外は危険だ。活性化した酸は常に『氷水結界』を展開し続けなければ15秒で私達を溶かしきってしまう。MMや一部の魔道具は兎も角、それ以外は出ただけで詰む」

 

 周囲の過酷な環境は凄まじいものだ。

 漂流物自体は無数にあれど、それは物量と常に新しいものが流れてくるからに過ぎない。

 腸の方へ進めば進むほどそれらは少なくなり、穏やかな黒い海になる。

 いつでも転移で帰られるとしても、あまり長居はしたくない環境だった。

 

「そして船を動かすのも難しい。この居住区の海域は転属性の呪符で空間ごと保護してるけど、その為に電力はフル活動。推進力はない。……ただ、現在この船を構築する物質は私の氷と水だけだから少しずつ小さくなっている。少しずつ酸への耐性が付く術式に改善しているけどね。だから動かせるくらいまで小さくなれば迎えに行けるよ」

「……仮に脱出するとどうなる?」

「この鯨を中心に渦巻く嵐に難破してみんな死ぬ。どの道殺さないと出られない」

「……今は出来ないってことか」

「そういうこと。それでグリムへの罰なんだけど」

 

 カーリーの話題逸らしも虚しく、サーシャはグリムの罰の話に戻した。

 カーリーの弁護能力ではこれが限界だった。

 

「白鯨討伐の間、私の実験に強制参加して貰うよ。その間転移は禁止。逃げ場はないと思ってね?リーロの感じた怒りと寂しさの分だけ容赦なく行くよ」

「そんな〜ぁ」

「では判決、有罪!グリムはサーシャお嬢様の要求に従い討伐に貢献するように。以上!閉廷!!解散!!!」

 

 こうして反省会と今後の方針を決める会議は終わり、グリムはサーシャの白鯨討伐に向けた研究の実験体になる事になった。

 

「でも、案外楽そうな罰で助かったよ!」

「…へぇ?」

 

 その後、グリムが泣き言を言うまで後5分…。

 

 


 

 

 location:「帝都 城門前」

 time:6/22 11:43a.m.

 

「伝令ー!伝令ー!」

 

 それはサーシャ達が白鯨に飲み込まれて1時間後辺りの事である。

 1時間前に突発的に訪れた大雪に文句を垂れながら城の前で警備をしていた二人の門番の前に、一人の帝国兵が現れた。

 右胸にある紋章は青い雪結晶が1つ、准尉の階級だ。伝令にしては随分と豪華な階級だと門番達は呑気に考えた。

 

「身分証は?」

「ある!神国との国境の辺境伯、オーマ伯爵の家紋入りの儀礼剣だ!」

 

 儀式的に問いだし、出された剣を確認する。多少のひび割れや欠けは見受けられるものの、辺境ではよく使われるものなので偽物の証拠にはならない。

 むしろ欠けているからこそ、間違いなく辺境伯のものであると確信を得られた。

 

「辺境だと?馬車だけで「転魔法だ!奥の手として帝国にも隠し持っていた魔道具を使った!」…言っていいのか?重罪だ「どうでも良い!こっちはもう領地が滅んだんだ!裁くべき奴は俺だけだろうよ!そして、俺ももうじき死ぬ!」…通れ、余程の災いが訪れたと見た。…その傷では辛いだろう、王室まで私が付き添う…ここは任せた」

「了解。後はお任せください」

「では行こう。…勝手だったか?」

「…頼む。肩を貸してくれれば十分だ」

 

 門番の判断は准尉の焦りや言葉だけではない。

 "片腕が欠け、傷口から生魚が絶えずこぼれ落ちていた"からだ。

 ただ帝王の命を取るだけにしては切羽詰まっていて、今までの常識が多用しない呪いか何かに身を苛まれている。

 門番は、何かあれば家族と共に死ぬことを理解した上で、そうする価値がある事だと判断し肩を貸した。

 

「生憎私は教会に住まう者達のように祈りで癒す事は出来ん。精々が肩を貸し声を掛けるくらいだ」

「…それだけでも助かる。…俺は帝王に伝えて死ぬと考えていたが、どうやら遺言を言う機会に恵まれたようだ。…これで訳も分からず死んだ故郷の連中にも…自慢出来るだろうよ」

「そうか…近道を知っている。そこを通ろう」

「…昔の杵柄か?」

「なに、昔に帝の剣術を指導したことがあるだけだ。若き帝に……まぁ、万が一の為の隠された逃げ道だ。使ったとバレたら極刑ものだな」

 

 そうして、門番と伝令は掴まれば面倒な官僚が通る道を飛ばし、王室まで続く道を進む。

 後5分で辿り着くだろうと門番が伝えれば、伝令は自ずと遺言を言い始めた。

 

「……俺以外も2名転移した。辺境伯の娘と息子。息子の方はまだ赤子だ。王城前の長い階段を降りきり、右側の隅の木箱近くで休ませた。これが終われば爵位は剥奪される。生きてると知れば帝国貴族のことだ、面倒だと殺すだろう……それなら乞食である方がまだ生きられる」

「生憎、私にも夫と息子が居る。帝国の為ならば投げ捨てられるが…悪いな、爵位を剥奪される者の子供なぞ、其方の言う通り、帝都の隅で震える幼い乞食と変わらん。育てる義理も余裕もない」

 

 それを聞き、伝令は歩みを進めつつも懐から懐中時計を取り出して門番に渡した。

 

「…その人柄を見込む。帝都のメープル銀行は知ってるな?そこでコレとケーメ・チュセの名前を出せ。…2000万B(ブレイブ)、俺の全財産だ。最近の軍の羽振りの良さと、仕事ばかりで使い損ねた分、子供二人育てても余りある…まさか、帝国に忠義を示すものとして、受け取らない訳ないな?」

 

 それは家来としての忠義であり、唯一生き残った同郷への優しさだった。

 門番は迷いなく受け取り、その勇気と意志も共に受け継いだ。

 勇者が祖となるこの帝都で、この土地の寒さに負けない快男児の願いを聞き届けないのは、帝国に忠義を示すものとして示しが付かない事であったからだ。

 

「受け取った。勇者に誓い、その嘆願を出来る限り叶えよう」

「フフ、思ってもみない形で主君の最後の命令も果たせたな。これで俺も後悔なく往けるというものだ」

「…ここを曲がれば扉の前だ。最後に私に言うことは?」

「ない。俺は俺個人として言うべきことは全て言った…後は一人で良い」

「そうか、ではさらばだ。勇敢な者よ」

 

 曲がり角にて、門番は足早に立ち去り、伝令は堂々と王室前の近衛兵の前に出た。

 その後、二人は2度と会うことはなかった。

 

「伝令である!本日1時間前に神国と帝国の国境にて深淵の氾濫有り!

 白き鯨!その身、如何なる雪山をも越える巨峰の肉体!ただ一匹の空飛ぶ鯨なり!

 その肌に触れればご覧の通りの呪いに蝕まれ、

 血に触れれば(たちま)ち老衰し、

 漏れ出る霧は記憶を消し去り、

 牙で砕ければこの後の己のように鯨に従う人魚として作り替えられ、

 叫びを上げれば四肢が消し飛び、

 在るだけで永遠に大雪大雨大嵐を引き起こし、

 そしてあらゆる攻撃はその巨体により無為に返す‭─‬‭─‬災害の鯨、「白鯨」なり!」

 

 言い切った後に伝令の心臓が魚に変わり、破裂する。

 警戒する近衛兵が見守る中、肉片が再度集まり、次第に手の生えた鮫のような魔物に変わり…伝令の信憑性を高めると共に、その身は槍に滅多刺しにされ死んだ。

 

 

 

 ザク、ザク、ザク…ガコ。

 

 大雪の降る同日の夜、城門下前の千段の階段を降った辺りの右側に、不自然に置かれた木箱の蓋を開けた女がいた。中には幼い少女と、腹を空かし泣き疲れたのか眠る赤子が蹲っていた。

 

「ひっ…」

「…そう慌てるな。…コレに見覚えは?」

「………」

 

 少女は首を横に振る。

 

「…浅知恵で頷くような乞食では無さそうだな。コレからお前を育てるよう頼まれた。さっき見せたのはお前らをここに連れた男の遺品だ」

「…出たく有りません。この雪は、あそこを思い出しますから」

「白鯨への恐怖か…だが連れて行こう。此処は安寧の家でも、待てば腹を膨らませる料理人も居ない。あるのは冷たい終わりだけだ」

 

 女は無理やり少女を木箱から取り出し、厚目のコートを被せてから抱える。

 少女は服越しに鎧の冷たさを感じ、(しか)れど雪よりも暖かな物も感じた。

 だからだろうか。雪の冷たさが、痺れるような感覚もこの者に抱えられている内は気にならなかった。

 

「今日からお前はシャノンと名乗れ。赤子の方はお前が決めろ」

「名を…家族を捨てろと?」

「心に秘めろと言っている。心は熱く、仮面は冷たく。それが帝都の人としての在り方だ。将来どうするかはお前次第だが、今はそうしなければ生き残れない。やれ」

「…分かりました。ですが、その前にあなたのお名前を。それを知らなければ冷たい仮面なぞ被れません」

 

 少女の言い返し、女は片眉を上げる。職務中でも決して動かさない女の顔が、今日初めて崩れた。

 存外心の強い子だと、女は思った。

 

「いいぞ。私の名は‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬」

 

 そして3人は、大雪に隠れて見えなくなった。

 サーシャの関わらない、見上げれば大きな大樹が見える場所で紡がれた、僅かな希望が繋がっただけの話。

 歴史に残らない、伝令の死に関わる溢れ話である。

 

 


 

 

 location:「神国 支配層の宮殿 大広間」

 time:6/23 14:10p.m.

 

 

「‭─‬‭─‬テラの一族が消滅した?」

「はっ!その領地と共に、一切の痕跡を残さず氾濫の鯨に食べられました」

 

 神国は、帝国より一日遅れで届いた情報を三昧していた。

 支配層、それは司祭層の一つ下の階級であり、俗世の全てを管理し司祭層が恙無く神を祀るように整える、実質的なトップである。

 普段なら面倒は部下に任せ、悠々自適に暮らす支配層は、今日は珍しく一つの一族を除いて全員が氾濫対策に集まっていた。

 

「バカな、我ら十二支の最強格、龍の一族だぞ?」

「しかし実際に起こっていることだろう。昨日今日と続けて2日、大雪が全く勢いを落とさずに降るなんぞ、それ程の魔物でなければ考えられん」

「ぐるる…帝国との幸い帝国とは同盟だ。共に戦えば良い…」

「だけど進路先はあの王国だよ?王国と共倒れとか狙えない?」

「その鯨、水属性だそうじゃないか。残ればさぞ面倒だろうねぇ?」

「王様の奴が消滅させて終わりだよ」

「…え、あ、占いでは今までよく頑張ったな?倒すと莫大な利益が出るぞって出ました…」

「大丈夫それ?神様が干渉してない?」

 

 騒々しく各々が喋り、不安と意見を口にする。

 誰もが獣の特徴を備え、金銀財宝を羽織ったような見た目をしている。

 何処までも俗世に溺れ、欲の皮の張ったような生活をしているのが見てとれた。

 

「‭─‬‭─‬鎮まれよ、者共」

 

 上座に座る二人の内頭に鳥の羽を生やした老人の一声と共に、一斉に静まる。

 俗世とは離れた司祭層の中では数少ない、支配層と蜜月な関係を持った司祭、ブータラである。

 

「此度の災難は一致団結せねば滅ぶもの。しかしかつて存在し、今の今まで王国やかの学園が対処してきた氾濫とは、比べものにならない程の富を得られるもの。今は息を合わせる時じゃ」

 

 その説法と共に、支配者達は自省する。そしてお互いを見やり、呼吸を合わせた。

 この国では上の階級の言うことは絶対。死ねと言われれば死んで、息を合わせろと言われれば互いに目線を合わせ物理的にも息を合わせなければならない。

 融通は効かないが、その分頭がまともなら動きは早い。そして今の神国を動かす頭は、頭が切れる者だった。

 

「…物理的な息は各々の自由で良い。しかし、此度の件は協調の姿勢を取るべきと言ったのは変えん。…そうじゃな、先ずは伝令」

 

「はっ!」

 

「相手の特徴を正確に、漏れなく述べよ。そしてその際の略称を許す」

 

 その命令を受け、伝令は自身の知っている全てを話した。

 テラ一族が死ぬまでに学園で流行り始めている『通信』の魔道具を利用し、近辺に居た魔法使いに伝わった情報をそっくりそのまま伝えた。

 

 その大きさ、肌、血、牙、霧、叫び、其処に居るだけで天気を雪か雨にする力…大凡帝国に伝わった物と同一のものだった。

 

「……以上となります」

 

「うむ、大義で在る。それ、皆も分かっただろう。此度の相手は史上最強の氾濫じゃ。討伐する案はあるか?ほんの思い付きでよい。言ってみよ」

 

「ぐるる…縄を付けた槍で地表に落として総攻撃」

「チチッ同盟国と同時に攻め立てるのはどうでしょう?」

「王国と白鯨で争わせた後に弱った方を叩く」

「魔法使いを集めて遠距離から永遠と殴る」

「気合い!」

「大軍で殴る」

「十二支全員で祈る」

「新技術とか…?」

「めっちゃ癪だけど神様頼るとか」

「…あ、それなら占いでは呼吸する穴を塞げと出ました…相手は魔物の中では珍しい水属性、肉体の構造に沿った戦術が効く筈です…」

 

 各々が口々に言う中、手を挙げて具体的な案を出したのは、身体の殆どが虎の女だった。

 虎の一族、それは第六感と呼ぶべき感覚を研ぎ澄ます施術の果てに、占いという形で過程を飛ばした答えを得られるようになった一族である。

 

「なるほど…ならば、誰か鯨とやらに詳しい奴はおらんか?」

「…妾を隣にして、よくもまぁヌケヌケといえるなぁ?老鳥よ」

 

 鳥の施術で頭に羽を生やした老人の態とらしい掛け声に、その隣に居た女が貰い物の扇子でバシバシと老人を叩く。

 それは平民が見れば失禁してしまうような、最高権力者に対する無礼そのもの。

 しかし老人は眉の一つも動かさずに居るとなれば、女の正体は一つしかないだろう。

 

「聖女がおるんじゃ、もっと頼ってくりゃれ?仮にもお主らの先祖を施術したのだぞ?動物の構造なぞ当然把握しておる。鯨もまた然りよ」

「おぉ流石は聖女様!困っている我々を助けてくれるとは有り難き幸せにございます!」

「おい鳥ー?3歩で忘れるような作りにした覚えはないぞ鳥ー?全く…司祭の中ではまともな奴だと側に居るのを許してあるが、その小生意気な所はいけ好かんのぉ?」

 

 九尾の聖女は尻尾の一つで老人の頭をぽふぽふ叩きつつ、好かん好かんと呆れた顔で思い返す。

 サーシャに騙されて神国に来訪し、早速司祭層を覗いてみれば出るわ出るわ神様の傀儡共が出る。

 一つ一つ治していったは良いものの、目を離せばまた傀儡に逆戻りすると来た。

 コレでは放っておけんと見渡せば、はてこの老人はマトモそうだ。

 なので聖女は傀儡にならない理由を探る為、この老人と共に行動していた。

 

「…まぁ、呼吸を塞ぐのは良い案じゃ。鯨の呼吸は一つの穴で行われておる。ただ、其処まで変異した魔物が同じ作りだとは思えんの。やるなら複数塞がるように整えるか、死ぬ気で偵察するしかあるまい?」

 

 それはそれとして、聖女は動物と人体の医者として最高の腕を持つ。

 この手の知恵を頼るなら打ってつけの相手だった。

 

「あーただ、水属性じゃし10や20は行かんか?魔物と動物はどちらも属性はないが、その中身は反対の理由じゃ。純粋な魔力か、完全な生き物か。属性持ちはその中間。水はその中でも動物寄りとくれば…多くて3つになろうなぁ?」

 

 そして、それだけの知恵が有るだけはあり、聖女は頭が回る方だ。

 着々とサーシャと同じ結論に達して行き、そして持ち得た手札と状況から別の手段に辿り着く。

 

「捕鯨船を大量に作る。それも空を飛び、嵐に耐えられるような物をの?」

 

 即ち同じ結論とは、船を作り、相手の動物としての弱点を突き、仕留めること。

 相違点はサーシャは心臓を、聖女は唯一の呼吸穴を狙っている事だけだった。

 

「では、皆の者もそのように」

 

「「「「「「「「「「「「はっ!!!」」」」」」」」」」」」

 

 十二支と伝令の掛け声をキッカケに会議は終わり、全員が狩りの準備に勤しみ始めた。

 

 だが、忘れてはならない。

 相手は殆どが動物と言える存在だが、空を飛び嵐を呼ぶ魔物である事を。

 その違いは現場を知らないまま進める者達にとって、致命的な失敗を招きかねないという事を。

 

 






「イベント」
 イベントには三種類あり、エンディングに関わるメイン、一キャラの生死や人生に関わるサブ、分岐が無くストーリーを読むだけのショートがあります。
 基本的にメインを攻略していけばゲームはクリア出来ますが、攻略する順番や方法で他のイベントに多少の変化が訪れもします。
 クエストなどのサブは章を跨る際に影響し、関わった内容次第でプレイヤーに有利な結末になったりします。
 ショートは幕間も兼ねており、サーシャの関わらない、歴史にも残らないこの世界の住民達の話が主になります。特定のタイミングでしか見れない物が多いので、見かけたら是非確認してみましょう!

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