不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計   作:何処にでもある

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 ゲームの通常プレイでは1周目だと15日、2周目で7日程度で討伐されます。
 討伐日数が増えるほど帝国と神国と王国のイベントも潰れていきます。
 その為初心者は商国→王国→神国→帝国の順で攻略するパターンが多いです。誘導とも言います。
 白鯨被害 氾濫から34時間37分経過時点。
 ・死亡者数 76,493名
 ・アルプ山脈(平均標高1669m)、聖剣墓地、鍛冶屋の隠れ里、消滅
 ・78の村町街都市の消滅
 ・各国が捕食量の分だけ巨大化している特性を観測、神国と帝国が共同戦線を実施
 ・現地の深淵の連鎖反応や探窟家、体内から飛び出た謎の斬撃や騎士団の活躍により一時休止状態に移行
 ・休止から22時間経過、起床まで後2時間
 ・合計4525個のMMが捕食され4500個の帝国量産型MMを白鯨が吸収。
 ・時魔法『回顧』獲得率45%。
 ・「人魚」大量発生中、被害拡大中。神国から「適合者」、帝国から「龍魚」の半魔半人の存在の報告が上がる。其々、発見した国に敵対的な行動を確認。
 ・世界規模で大嵐や大雪や大雨の異常気象発生中。各地で雷雨の報告が上がり始める。
 ・現在「白鯨」は南下途中、進路上の王都まで後20日(休止した為)




議・題・五二

 

 

 location:「帝国 アルプ山脈 腹部」

 time:6/23 14:02p.m.

 

‭─‬‭─‬・・・‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬・・‭─‬‭─‬‭─‬・‭─‬‭─‬‭─‬ォ

 

 アルプ山、そこはかつて勇者が折れた聖剣を直すため、その地に住まう鍛冶屋の隠れ里を訪れた逸話のある山脈である。

 普段は何者も立ち入らぬその領域の中部に、地には防寒具と武装を重ねた集団が、空には途方もない大きさの「白鯨」の影が雪の向こうから覗いていた。

 

「‭─‬‭─‬諸君、此度の討伐によくぞ集まってくれた」

 

 その集団の先頭の男が振り返り、この場に集まった勇士達を見やる。

 普段寒さに満ちている帝国でも有り得ない、絶えず吹雪く大雪をモノともせず誰一人欠けずついて来た兵士たちを見た。

 

「事前に言っておこう。我々は死ぬ。誰一人例外なく死んで、帝都を、故郷を凱旋する事はない」

 

 真昼間にも関わらず吹雪くからか、遠くまでは見えない。しかし魔力視で見渡せば、闘志を滾らせる兵士達の集団が見渡す限りいる事が分かるだろう。

 

 「第一大隊〈桜〉」及び「第二大隊〈梅〉」「第三大隊〈松〉」

 総勢1500名の先鋭達。帝都から四方を定めて守る4つの大隊の内、南を守る〈藤〉の部隊を除く3部隊が此処に足並みを揃えてやって来ていた。

 普段は各地に散らばり魔物や深淵を警邏し、日々帝国市民を守る為に活躍する兵士達は、仮に全員が動くとすればそれは普段を置いてでも対処するべき国難であるという事。

 命懸けで伝えられた伝令を重く見た皇室が、非常事態宣言を行なって徴収し、この場に立っていた。

 

「だが、私は此処にいる全員、そんな事で泣いて逃げる弱卒だとは思わない」

 

 そして今、その先頭に立って兵士達を鼓舞しているのが五つの大隊を纏める総大将、スターバックである。

 皇帝が出撃を命じてから僅か3時間で帝国全域に散らばっていた兵士達をまとめ上げ、この地まで30分で行軍を終えさせた、かつての貴族狩りで流された転属性のMMを持つ者である。

 

 スターバックは返しが幾つもある槍のMMを空を掲げ、大雪に負けない声を張り上げる。

 いくら強者どもだとしても、ちょっと前まで平和に普段通り過ごしていた集団だ。

 何よりも状況を把握させ、死ぬ心構えをさせる必要があった。

 

「敵は「白鯨」、勿論途方もなく強い魔物だ。近づくだけでも末代に語れる偉業となる相手を、あまつさえ討伐する。‭─‬‭─‬当然、全員死ぬ。これは紛れもない事実だ。しかし、か細くも生き延びる道がある」

 

‭─‬‭─‬‭─‬・‭─‬‭─‬‭─‬・・・‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬・‭─‬‭─‬・・‭─‬‭─‬‭─‬ォォォ

 

 高音のソナーと共に嵐がやって来た。

 白鯨がこちらに来ている証拠であり、官僚達の計算が正しければあと30分もすれば山に激突する計算である。

 

「‭─‬‭─‬恐れを抱け!!そして進め!!今貴様達が、家族が、生きる障害となって立ち塞がっている「白鯨」を殺せ!!それが唯一にして、我々が生きて帰るのを許される戦果である!!」

 

 ォォォォォオオオオオオオ!!!!!!

 

 一瞬の静寂、その直後に雪山を揺るがす兵士の昂りが響いた。

 

 ドォ…。

 

 雪崩が起きる。山頂から兵士達を飲み込もうと押し寄せる。

 

「さぁ!!」

 

 スターバックが槍のMMを一振りし、背中から襲って来ていた雪崩を穂先に座標を合わせて転移させる。

 1500人の集団を飲み込む大雪崩が一点の座標に集まり、圧縮され、白鯨に向けられて発射された。

 戦闘開始の狼煙代わりの一撃が白鯨を襲う。

 

 ゴォ…………。

 

 動じない。圧縮された雪の刺突は難なくその皮に塞がれた。

 精々が白鯨の周囲を巡る嵐を退かすだけであり、一瞬だけ白鯨の顔を顕わにするだけに留まり…。

 

「‭─‬‭─‬征くぞォ!!!」

 

 執着心と狂気を宿した眼を見たのを合図に、彼らは鯨狩りの為に突撃した。

 

 

 

‭─‬‭─・・‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬・・・‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬・‭─‬ォォォォ

 

「……『通信』」

 

 それを箒に乗り、遠くから見ていた中年の魔法使いが今学園で流行りの魔法を起動する。

 側には200名の箒に乗った魔法使いが、立場のある将軍達や実力のある兵士、MMを抱えて撤退していた。

 

[こちら、第零大隊〈菊〉が内の飛行隊。戦闘開始から30秒後、救助した負傷者300名、重傷者57名を除き全滅。繰り返す、負傷者300名……]

 

 帝都を四方から守る大隊の総括部隊。帝都と王室を守る近衛部隊が敗走する。

 魔法使いが報告を挙げながら白鯨を睨む。

 

 30分後、頭部に大きなバッテン印の切り傷を新たにした白鯨は、山脈を余す事なく喰らい尽くした。

 

 


 

 

 location:「神国 テラ一族領土跡地」

 time:6/23 14:40p.m.

 

[あー、あー!アイン(第1席)聞こえる?]

[聴こえる。だから大声で喚くなフェンフ(第5席)よ]

 

 神国の辺境、星を構成する大地が抉れ、底なしの奈落の近くで一人の女が『通信』していた。

 時計塔第五席、ループである。

 珍しく組織としての活動服である真っ黒なローブと仮面では無く、黒髪のツインテールに王都民みたいな現代的でカジュアルな服装をしていた。

 真っ赤な傘も相まって、この地にそぐわない格好だった。

 それもその筈、今回の任務は偵察任務。組織としてバレたらダメな業務だ。

 技術都市を管理する立場であるアイン(第1席)のシンキングに通信したのもその一環。

 直接ヌル(0席)に通話して位置を特定されない為、ついでの要件を頼むのも兼ねての連絡だった。

 

[未来で登場がブレていた白鯨って奴居たじゃん。5年後辺りから大災害として纏められる一連の騒動の一つのあの鯨]

[居たな。なんだ、出たのか]

[出た。ほんで神国の龍の一族の土地が終わった。やー、見事な奈落だ]

 

 ループが石を蹴って奈落に落とす。音は鳴らず、真っ暗な闇に吸い込まれていった。

 何年後かに反対側の大地に着くんだろうなと、ループは考える。

 

[土属性少ないってやっぱクソだわ。いい加減神様には中身を用意して欲しいね!歩いてて不安になる]

 

 世界は未だに未完成。ハリボテの大地をほんの500mも潜ればこの星の空っぽさがお見えする。

 ループはそれが嫌いだった。まるで自分達の住む世界はハリボテのような感覚になるから。

 そして、小さく纏めずハリボテにしてでも無駄に大きな星にした神様もループは嫌いだった。

 神に仕える時計塔がそれでいいかと言われそうだが、リーダーのヌル(0席)がそんなノリなのでループは気にしなかった。

 

[なんだ、愚痴なら付き合わんぞ。今も我は業務で忙しいのだ]

[ツれないー…単なる王国式の会話でしょ?前置きくらい話そ?本日はお日柄も悪く〜]

[せん。我は忙しいからな]

[…はいはい。本題に入りますよーっと]

 

 崖に腰がけ、休息を取りながらループは会話を続ける。ズボンが水たまりで濡れるのもお構いなしだ。

 既に泥だらけのずぶ濡れになっていたから、気にしなかった。

 

[なるはやでツェーン(第10席)を寄越して。喰われた土地を復活させたい。山は白鯨が代わりになるから良いけど、こっちはどんな未来でも絶対に悪影響が出る。奈落になった土地以外はどうでも良いよ]

[…良いだろう。お前の事だ、未来を見て判断したのだろう。後日やらせて置く]

[ん、頼むわ。それが一つね。二つ目、サーシャが白鯨に喰われてる]

[…なに?死んだのか?]

[いや、生きてるわ。過去を往復させたけど、胃袋を都市サイズのゴーレム船で航海してた]

 

 『往復』、ループの持つMMの固有魔法であり、繰り返しの他に過去と未来を見れる付随効果のある魔法だ。

 ループはそれにより、この地を通った白鯨の内部を確認し、サーシャの存在を突き止めていた。

 それを伝えると同時に、ループはため息を吐く。今まさに時計塔の心労となる存在が、この騒ぎの中心部にいるのだ。

 そのせいで未来も不安定になり、確定した情報を探るのも一苦労だった。

 

[まーた未来変わったよ。ねーコレで何回目?いい加減にして欲しいんだけど]

[そういう事ならば我の予測で補おう。精度は95%以上で良いな?良いならば学園側に通告しておく]

[いや…70%でお願い。多分向こうでも想定外だろうし、諸事情込み込みで低品質で早めに終わらせた方が良いよ。…で、これが二つ目ね]

[何故精度を低く…まだあるのか?報告は小まめにしておけとあれ程…]

[まぁまぁ…それでコレが一番重要なんだけど‭─‬‭─‬未来に存在しない「人魚」の新種が確認された]

[…なんだそれは?サーシャと何が違う]

 

 ループは改まってシンキングに伝える。

 未来を見て動く時計塔にとってのイレギュラーが発生したと。

 

[おっけ、前提から言うわ。サーシャはあくまでも存在を知らなかっただけで、バリバリ既定路線の予定調和、コレは良い?]

[うむ、今の情報を掌握する程未来視は明瞭に見えると聞いたな]

[そうだよ。だから不明瞭な状態でも、サーシャが居る未来が見えていた]

[それと何が違う?]

 

 ア"…ゝ"…ぁ"

 

 そこまで話した所で、ループの足先の奈落から謎の存在が這い出て来た。何処か帝国兵のような見た目で、真っ白な血管を張り巡らされた存在…ゾンビのようにふらつき、しかしその剣を構える腕は支障なく構えていた。

 崖を掴む場所、触れる場所から真っ白な血管が広がるサマは、ループの眼から見て異様な物だった。

 

[うわ、また来た。何人居るんだよコイツら]

 

 未来を確認した限りでは存在しなかったモノ。試しに1秒先の未来を見ても、誰も居ない奈落があるだけだった。

 ループは真っ赤な傘を錬金して大鎌を展開し、臨戦態勢に入った。真っ赤な刃先が、キラリと光る。

 

[ま、"完全なイレギュラー"ってこと。この星の存在でも、この星にある程度馴染んだ旅人由来の物でもない。禁忌以上に存在しちゃダメな相手だね]

[そんな物が白鯨に…?バカな、アレは深淵の氾濫、完全にこの世界の物だろう]

[そうだね、"魔物関係はこの世界由来であり"、"動物関係は星の旅人由来"だ。魔法、魔物、神様は身内。動物、生き物、知性は星の旅人が振り撒いた。全く、イヤになる話だわ。"段々星の旅人の世界に侵食されてる"って事実が気色悪い……あ、画面通話オンにしといて。実物見た方が早いでしょ]

 

カーン…

 

 大鎌が赤い残光を帯びて白い帝国兵を斬る。

 

 ア"…アァ"…

 

 左右に真っ二つにした。

 真っ白な血管が断面を融合させ、元通りにする。

 改めて17分割にして、一部分を大鎌で奈落に突き落とした。

 真っ白な血管が断面を融合させ、欠けた部分は侵食した土が補った。

 

 ア"…

 

 切り裂いた大鎌に付着した白い血管が広がり、帝国兵と似たような呻き声を出し始めた。

 再度錬金で傘に変え、その過程で白い血管を振り落とした。

 

『往復』

 

 以上、繰り返し。

 魔法で再現されたループが先程と同じ動きで真っ白な帝国兵の動きを封じ込め続ける。

 

[ご覧の通りでーす。四属性は侵食されてダメ。コレで1()4()1()0()()()となりまーす]

 

 ループが振り返れば、1410回分の過去のループの幻影が、一対一でその場に封じ込めている光景が有った。

 それは大鎌を持つ大隊と怪物の大隊のぶつかり合いのようで、その実孤軍奮闘の代物だった。

 

[なんだこの怪物は。何故星の内側からこんな物が出てくる]

[さあね、神様か"誰かが封印してた"んじゃないの?侵食する不死の怪物とか悍ましい]

[至急ツェーン(第10席)を寄越す。確かにコレは奈落を塞がねばならん]

[そういうこと。既に回収された帝国大隊357名を除く、1143名()()の帝国兵が出てるから。ガチの異常だから。いや、本当に大変だったぜ?最初まとめて1000人出て来てさ、土地ごと切り落としたけど、後どれだけ抑えられるか…]

[…漏れは居るか?]

[絶対居る。だって、私は神国側しか抑えてられてない。"帝国側にも出てるなら大惨事"確定よ]

[小まめな報告をしろ!一人でやれる物ではないだろう!]

 

 思わず、シンキングは叫ぶ。心からの叫びだった。

 ループも、ここまで遅れたのは不本意だと首を振った。

 

[残念だけど、コイツらは集団かつ生身が多いと『通信』の妨害かまして来た。身体を切り刻んで、生身を減らして漸く繋がったんだわ]

[ぐう…!いや、この際それは良い。良いか、援軍が来るまで持ち堪えろ!これは我々に取ってサーシャ以上の災害だと認識する!希望して待っていろ!]

「お願…切ったか」

 

 新たに這い出たイレギュラーを見て、大鎌を構える。休む暇はない。

 恐らく、生身を落とせばそれらが集まって融合して復活するのだろう。

 

 キリがなく、終わりが見えない。

 

 未来に映らないから予測を高めてもどうせ外れる。

 封じ込めなければ無限に出てくる。

 この場を封じ込めていても、既に溢れた者と奴は神国にも帝国にも出ている。

 

「絶望的で、洒落臭い。特に、コレとサーシャの遭遇が確定しているのが一番憂鬱!」

 

 そして、これが「人魚」として出て来たのなら、「白鯨」は得体の知れない物を捕食した。

 見たのだ、白鯨の牙から漏れた生物変化した「人魚」の一部が、この怪物に変わっていたのを。

 

「あーもう!体力と魔力持つかな!?今晩は良いとこのディナーを用意してるからその分の気力は残したいのよ!いい加減死ね!滅びろ!何処の連中が知らないけど土足でこの星に上がるんじゃねぇ!」

 

 後々神国に現れたのを「適合者」、帝国に現れたのを「龍魚」と呼ばれるようになる怪物達は、こうして初動を抑えられて時計塔に対処された。

 幾つか漏れは居たものの、それらはまだ国で対処出来る範囲であり、神国と帝国で収容し研究されることとなる。

 後の戦争、それにより産まれた兵器が投入されるのは…その時になってから話題になる事だろう。

 

 


 

 

 location:「白鯨・第三胃袋」

 time:6/23 21:08p.m.

 

「えー、では定例会議を始めます。司会は引き続きヘルシーな地獄ことヘルシングがお送りします」

「前回もこのような寒いギャグをかましたんですか?」

「……いや、前回は法廷バトルくらいで普通にやってたな」

「普通なんですか?それ。」

「まあ良い。ずっと変わり映えしない景色の中で過ごすなら、言葉くらいは変えた方が気が紛れる」

「………疲れたとも」

「グリム様は何があったんです?僕、気になります!」

「人体解剖」

 

「ごめん、お待たせ。じゃあ早速みんながやった事を報告し合おうか」

 

 ここは「白鯨・安全海域(サンクチュアリ)・ピークォード号」

 サーシャと愉快な仲間達が胃液の黒海に流されながら進む愉快な船。

 今宵、人体解剖という爆弾発言により謎に高まった緊張の中、恒例行事にする予定の報告会の、第一回目が始まった。

 

「では先発安定のダルクさん、お願いします」

「先ずは俺だな。と言っても外に出れない以上大した事は出来ん。サーシャから依頼された船の魔力糸のほつれを直したり、魔力を光属性に変換する魔道具を船の外殻に漂流していた残骸から作ったり、ロスの発生している箇所を改善しただけだ」

「十分では?一学生としては優秀な部類ですよね?」

「サーシャの研究室にずっと通ってみろ。実力は上がるが自信は付かん」

「ダルクは私が育てた」

「……将来食いっぱぐれることは無いだろうな」

 

 ほれ、みんなの分だ。

 ダルクはそう言いながら電力式のランタンを各自に配布していく。

 普段からサーシャの隣で研究を見てきた関係で、ダルクは科学と錬金も学があった。

 

「では次にダンテ先生、お願いします」

「はい。先生ですからみんなより…と言いたい所ですが、私が実地で役立てるのはゴーレム関係だけなんです。知識は有りますが全部使いこなせてる訳では有りませんし…今回も私はサーシャのゴーレムを見て驚いたくらいですからね。」

「ダンテ先生、やった事を簡潔にお願いします」

「おっと…やったことは単純です。ゴーレムの…確かOS?…まぁ脳みそを全体的に賢くして、700体ほど作らせて頂きました。いくら画期的な発想でも突貫の物なら、既存の物や私の持てる限りの知識で何とか付いていけますから。」

「ダンテ先生、流石です。たった一日で私のゴーレムが3倍の性能になりました」

「いえ、サーシャの方がすごいですよ。あんなこと、私では思い付かなかったでしょうから。」

「どっちもどっちですよ、お嬢様方」

 

 ダンテ先生はサラッと流し、大した事ない事としているものの、新たな概念を咀嚼し自らの力にするのはそれだけで素晴らしい才能だ。

 その上でここまでの成果をこの環境で挙げているのだから、流石は専門家の先生といった所だろう。

 この場に居る者は全員、ゲームでサーシャが研究を一任した相手だ。その実力は伊達ではないのだ。

 

「ではカーリーさん、お願いします」

「……斬った。以上だ」

「具体的にお願いします」

「……弟子、出番だ」

『ここからは俺が解説するぜ!師匠はサーシャから耐酸の結界で包まれた後、船の甲板に出て此処から第一胃袋まで一直線に行ける道を作ったんだ!』

「どうやってですか?」

「……跳んだ」

『風魔法の瞬歩で空中を蹴った!そして傷が塞がらない斬り方で道を作った!流石師匠だな!』

「あれだけデカければサーシャも気づくだろうし、良い仕事だったよ。ちょっと外に届いたくらいだし」

「……あれは偶然だ。斬撃の先に偶然風の魔力が増幅する空間があった。…恐らく、食べられた村か街にそういう魔道具が有ったんだろう。その効果が胃袋の中で広がって、効果が残っている内に俺の斬撃を増幅したんだろうな」

『運も実力の内だぜ師匠!』

 

 事もなげに言っているが、その空間を何となく察知してその方向に剣を振り抜いたのはカーリーの実力である。

 実力の一点で並び立つ者の居ないと評され、事実その通りになる者の勘は伊達ではない。

 傭兵時代、狩人が全盛期の時期に正々堂々と正面突破して来た実力は、記憶を失って尚健在だった。

 

「……後、やたらしぶとい魔物も見つけた。真っ白な血管で構築された小さな…私の小指程の鯨だ。攻撃するほど大きくなったので撤退した。各自、見かけたら逃げておけ」

「白血球的な奴かな…分かった、船先に居たら避けておくね」

「はい、カーリーさんありがとうございます。続いて僕が行きますね」

「…オレは!最後かい?」

「サーシャ関係は一番最後にしたいので…眠そうですが我慢してください」

「そんなぁ〜」

 

 そんな訳でヘルシングの番である。

 

「僕も大したことじゃありません。この鯨の胃袋から食べられる食材を見つけ、レシピを考案し、当面の食料を確保しただけです。後は…こちら、皆様のご洋服も仕立てた程度です」

「とても助かる。ずっと水着なのは流石に辛かったから」

「……助かる」

「助かった。身体が汚れるのは辛かったんだ」

「はは、ありがたい!オレも正直寒かったからね!」

 

 そう言って取り出した服をサーシャが真っ先に取る。元から服を着ていたダンテ以外の男性陣もまた、それに続く。

 頭部の演算補助装置が取り外せないことも考慮し、羽織った後に紐で縛る作りになっているそれは、藍色なのも相待って和服に似ていた。

 

「おお、ちょっと重いけどゆとりがあって動き易い」

「伸縮性のある素材ではありませんからね。ピッタリだと破けてしまいます」

「……いいな、コレ。着心地も悪くない。素材はなんだ?」

「船に流れ着いた魔物ですね。服にしては多少重いですが、繊維を取り出して編んでみました」

「よく作れたな。俺はサーシャに余裕が出るまで無理だと思ってたんだが」

「どうにも僕は昔シープお嬢様の為に服を編んだことがあったらしく、その経験が生かされました。料理も同様ですね、毒抜きもサバイバル料理もお手のものです」

 

 MRCの騒動の時、ヘルシングはシープの両親からそのことを聞いていた。

 それが巡り巡ってサーシャ達の役に立っている。何がどう繋がるか分からないものだとヘルシングが実感した。

 

「料理は作っておりますので、会議が終わったらお召し上がりください。暖かい内が食べ頃ですよ。ではグリム様、サーシャ様、お願いします」

「ではオレは一言でまとめよう!よくわからない実験に付き合わされた!以上だとも!」

 

 そして流れる様にグリムの報告は終わり、サーシャの番になった。

 複数箇所から誰とも知れずに腹の虫が鳴っている辺り、そろそろ終わらせた方が良いだろう。

 時刻は21時、夕食を食べるには遅い時間帯だった。

 

「なら私も一息で…酸に対する完全耐性のある結界を作れた。

 発電所を増築し、ゆっくりだけど推進能力を得た。

 居住区にある海の植物を増やして酸素循環の問題を解決した。

 無属性から構造を理解している動植物の創造に成功した。

 なので船の外殻を鯨の胃壁の物に変え、結界と合わせて問題なく航海出来る様にした。

 "ついでに性転換の魔法が作れた"。

 居住区に道路を敷き、建設計画を作り終えた。

 上下水道と電線、そこら辺にある鯨のガスの収集と配管工事もしておいた。

 ダンテ先生の協力の元、船の管理AIの作成を完了した。コレで私は寝れる。

 台所や風呂や冷蔵庫を始めとする生活用品は作った。

 簡易的な研究室も作った。自由に使って良いよ。

 海底に残っていた魚の卵を回収して養殖出来る環境を作った。

 鯨の心臓までの航路を見つけた。

 思ったより色々出来たから明日カーリーはリーロの回収をお願い。

 余った時間でリーロの位置も割り出したからね。

 必要そうな基盤は揃えたから明日からは白鯨の弱体化や食べられた魔道具の復活を進めよう。そういう魔法で出来るのは把握しているからね」

 

「じゃ、晩御飯にしよっか。私もお腹がぺこぺこだから楽しみだ」

「オレも食べたい!」

 

 そう言ってサーシャは会議室の扉を開けたすぐ近くで、みんなが来るのを待つ。

 簡潔に話して尚、男性陣は把握し咀嚼するのに時間をかけた。

 唯一グリムは理解を放棄して食堂に向かったが、一度で把握出来る物ではなかった。

 

「…ともあれ、会議を終わらせます。お疲れ様でした」

「…うん、一旦食べてから考えよう。どうやら疲れて思考が回らないようだ」

「私もそうしましょう。これは食べながら気になる物を聞く事になりそうです。」

「……まあ、これはグリムが正しいだろうな。私もそれに習おう」

 

 そして、全員一旦考えをやめてサーシャと共にグリムの後に続く。

 こうして、この船の役割分担は決定した。

 

 保守、再確認のダルク。ゴーレム関係のダンテ。外部調査のカーリー。

 生活関係のヘルシング。実験体グリム。色々やるサーシャ。

 その他手伝いや肉体労働担当のゴーレム達。

 

 多少偏ってはいるものの、白鯨討伐までの道筋は問題なさそうだと男性陣は安堵した。

 

「…カーリーがしぶといと言う魔物か。サンプルが欲しいね」

 

 サーシャの一抹の不安を感じさせる言葉から目を逸らし、安堵した。

 






異端(イレギュラー)
 時として、この世界に組み込むにはたった一つの条件がありました。
 それは無の力由来の魔力か魂を兼ね備えること。それさえあれば、始まったばかりのこの世界は何でも受け入れました。
 それは神様という神秘的な存在であっても、星の旅人とその付随物であっても、それ以外でも、何でもです。
 しかし、時としてそれは逆説的な事も言えました。魔力か魂がなければ、元々この世界のものでも排除する。そうなってしまった誰かにとっては想定外の挙動ですが、確かに成立する法則でした。

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