不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計 作:何処にでもある
サーシャ達が血管を潜航している間、白鯨は地獄のような苦しみにあっています。
その影響で白鯨が降らせていたほぼ滝の雨がナイアガラを超えました。
王都までの行進は白鯨がその場でのたうち回って進んでません。代わりに地震と大地の崩壊が始まりました。時計塔、頑張れ。
「…話は聞いたな?心臓を食い破るのは俺たちの手に委ねられた。いつまでも頼ってばかりじゃ男が廃るだろ?全員気合い入れて行くぞォ!!」
[おー。船も技術の根本はゴーレム。私が管制を行いましょう。]
[……おお!…頼まれたからな。輪切りにしてやる]
[ウオォ!既に掘り進んでは居るが、食い破れてはないね。オレも全力でカーリーの補助に回ろうか!]
「くっ、熱血野郎が足りないチームだな。だがノリの良さなら満点だ!脆い場所を見破るのは任せろ!」
ドクン…!ドクン…!ドクン…!
男達は自然と二つのチームに役割を分担して白鯨討伐に当たった。
白鯨にトドメを刺すカーリーとグリムチーム。
船を制御し操作するダルクとダンテチームだ。
元々サーシャが分けたものであり、的確な振り分けだとダルクは思った。
[この先、右]
「案内からしてここか?広いな、城くらいはあるんじゃないか?」
旗を掲げて先を照らし、比較的脆い箇所に船先をぶつけて破っていく。肉を破っては掘り進める、また別の血管に侵入する。
「よし、コレで…」
[この先、真っ直ぐ]
「…まだあるのか?…あれか!」
だが白鯨の身体が特殊なのか、やけに心臓にいる期間が長い…というより、
「…多くないか?」
心臓自体は既に40はカーリーがズタズタにし、船先で突き破っていた。なのに静脈の通りを抜ければまた心臓の中に入る。探せばまた、新たな心臓が見つかる。キリがない。
ドクン…!ドクン…!ドクン…!
[くそっまだあるのか!?さっきから心臓の鼓動が止まらないぞ!]
[……この巨躯だ。大きな身体を動かす為に複数有るのは不自然でもない]
[ですが…それなら一つ一つが小さいですね。いえ、お城ほどは有りますし私達と比べれば大きくは有りますが…。]
カーリーが手慣れた動きで心臓を切り裂き、身体中に血を溢れ出させる。
だがそれで血が止まるのは一瞬で、また押し出されては新しい心臓に流れ着く。一つを壊しても別の心臓が代わりに動いているとカーリーは考察する。
そして、それに違和感を抱いたのはダンテだ。カーリーの考察は一理あるが、それにしては一つ一つが王城程度の大きさなのは不合理だろう。少なくとも、文字通りの山脈レベルを動かすには出力が足りない。
["何処かにメインとなる心臓が在る"んだと思います。先ずはそこを探してみましょうか。]
[サーシャは何も言ってなかったけど大丈夫かい?]
[あの子、情報共有が苦手な節が有りますからねぇ…。ダルクは試しに案内に訊ねてみて下さい。]
「サーシャ、途中で俺たち道外れてたりしたか?」
[この先、上]
変わらずに出される指示を受けて前を見る。
分かれ道はなかった。取り敢えず上側を貫いて進みつつ、結論を弾き出す。
「ダメだ!コレ録音だ!すまない、どうやら俺は誤解して脱線したらしい!」
[……やらかしたな。どうする?真っ直ぐ殺しに行けなくなったぞ]
[サーシャに聞こうにもヘルシングの治療中ですからね。誰か作戦とか有りませんか?]
[それならオレが立案しよう!なーに、オレは王子様らしいから行ける筈さ!]
「この際だ。言うだけ言ってみてくれ!」
途方に暮れる時間はない。
時間を掛けてもいいが、その分被害が大きくなる。それを承知しているからこそ、ダルクは焦り、グリムの提案にも縋った。
放っておけば学園の印のせいで忘れた家族がいつの間にか死ぬかも知れないのだ。今は実感が湧かなくても、後々後悔に苛まれるのは回避したかった。
[サーシャがこういう時にやりそうな事をするのさ!偉大な人を真似れば良いことがある。言動も立ち振る舞いとかそうだろう?道を知ってる人の後を付ければ、自ずと目的地に着くからね!オレが迷子になった時とか良くやっていたことさ!]
それは、作戦と言うには余りにもお粗末なもの。具体性の一切ない子供のような提案だった。
だが、何もないよりはマシな物でもあった。今の自分達は迷子だ。迷子のプロの発言は一考に値する。
[それなら一番サーシャを知っている人がするべきですね。]
[……私よりダルクがやれ。私は私でしかないからな他人には成れない]
「サーシャなら…か。分かった、やれるだけやってみよう」
アドバイスを受け入れ、ダルクは思考を巡らせる。
今日に至るまで、結構な時間をサーシャと共に過ごしたのだ。
研究を側で見て、学んできた。初めは自分と大差ない知識しかなかったのに、グングンと成長して今や魔法使いの最前線を走っている。
未だ6月なので、8月の「魔法学園主催 学術懸賞会」で世間に発表はしていないが、それでも出せば一発で優勝できる内容なのは近くで見た自分が一番理解していた。
「考えるんだ。あの人はいつだってどんなに小さな事も見逃さず、一つずつ進んでいた。最近は途轍もない速度で循環をさせてはいるが、根本的には俺でも出来る積み重ねだ…」
先ずは前提確認だ。
サーシャは静脈の血管の流れに沿って心臓に行くと言っていた。
血管は身体を満遍なく通るが、この流れに沿っていけば必ず辿りつける。
俺達はこの流れに従って白鯨を殺そうとしていたのだ。
「今も一応指示には従っているが…明らかに道を外れてしまっている気がする」
別に外側に出ている訳ではない。今も血管を通ってるし、狭い道は通らないようにしている。
にも関わらず、段々今まで壊したのと同じ心臓…仮に「副心臓」と遭遇する間隔が伸びてきていた。明らかに遠ざかっている。
「そうだ。サーシャが言っていない以上、コアとなる心臓、「主心臓」は俺達が出した仮説に過ぎない。ないと不自然だから、ないと困るから出した物だ。事実確認は出来ていない」
それなら、先ずやるべき事は確認だろう。
方法は何でも良い。サーシャがやった様に白鯨の体内を確認するのだ。
「方法は…魔法だな。俺は光属性だからやるなら光による確認だ。だが、眼で見える範囲には限界がある。サーシャは『通信』の応用で音の反響で調べたと言っていたが…『反響』…ダメだ、音や肌が震える感覚はするが何も分からない」
当たり前の話だが、人は一朝一夕で音の強弱や肌の震えから情報を割り出す事は出来ない。
人がやるには特殊な技術であり、ソナーの確認はプロの領域だ。サーシャは死に戻りの補正の暴力で覚えたが、その場の思い付きでやれることではなかった。
「サーシャなら次は反省だな。魔法、光属性でやるなら……"音は波"だとサーシャは言った。そして、「オシロスコープ」とかいう奴で周波数を視覚的に見れる様にもしていた。サーシャは水属性で出来なかったが、光ならコレで視覚的に見れる様にできるんじゃないか?」
それは、拙くは有ったが論理的思考だった。
原因、対策、結果、改善。
一歩ずつ進み、より良い結果を弾き出す。
空想物語や新聞などの市民が得られる情報が少ないこの世界で、論理的な思考回路を得られるのは都市に住み、余裕のある人たちの特権だ。
ダルクは生来そういう思考が出来るタイプだったが、それでも一市民の範疇だった。
「出来るか?…いや、方法はある。『反響』を基本として、受信側にそれに反応する光を作れば…そうなると魔法陣は…」
アイディアがあっても、一市民はそこから新しい物は作れない。それが出来る様になったのは、紛れもないダルク自身の成長。今のダルクには預かり知らぬ話だが、記憶がなくなる前のダルクを考えればかなり驚くべきものだ。
何故か?サーシャは教える人が良く死に戻り補正があるが、ダルクは元々はそうなる余地を自ら捨てたからだ。
「出来た…が、奇縁だな。代々の光属性をパンを練る手法らしい
元々が王都外れのパン屋、元々は大通りに構えていた過去を持つが、それは安さと牧場と専属契約を結んでいたから。名物のミルクパンは、それと特殊な製造法の組み合わせで作られていた。
それが破綻したのが10年前、「源龍事件」の余波で牧場が潰れたと、ダルクは記憶が消される前のMMとなった姉から聞いた。
「源龍」、何でも広範囲の「角がある生き物」を無差別に「源龍」にする力を持っていたという。
専属契約していた牧場は、不運にも影響範囲内の村にあった。
最終的に核となる魔物が倒されて戻ったは良いものの、竜に変化した副作用で乳の味が変わり、人足が少なくなり、じわじわと規模を小さくして、しまいには王都の外れ。
師を持つ金もなく、ダルクが成長する過程で光魔法を覚えたのは独学に過ぎない。
若い頃は基本的に肉体労働で金を稼いで家に入れ、持ち前の才能とセンスで光魔法を修めていた。
言語化する能力を得る環境が無かった感覚派に見える論理派。それが学園に入る前のダルクだった。
感覚的に理解する為に言葉や論理的思考を投げ捨てた者が、本来の才能を活かせている。
今のダルクは、学園の忘却の印とサーシャが協力して出来た物なのだ。
「名付けるなら…『地形探査』…行くぞ、姉貴」
コォーン…コォーン…
MM側は答えない。リーロの活発さを見れば大人しく見えるが、普通のMRCを得たMMはコレが基準だ。
なにせ、生前を忘却したのだから、精神の主軸が道具になる。
道具は喋らず、寡黙なものだ。初めは授業を受けたり夜にふらつく事もあったが、今ではずっと道具として所有者に付き添っている。
今でも語り掛ければ時折り返したりするが、生前からの役目も全うしようとする真面目でもなければ自ら動くのは稀だっだ。
だが、杖としてなら良くよく働いてくれる。情の一つも挟まることなく、最大限の力でダルクの魔法の出力を上げて情報を処理していく。
コォーン…コォーン…
「…あった、ここか![道が分かった!巨大な心臓は船から見て上にある!いまから突撃してぶっ壊すぞ!]」
[待ちくたびれたよ、ダルク!だけどやってくれると信じていたさ!]
[ダルク、よくやりました。はなまる満点です。]
[……いつでも良いぞ]
[なら船角上昇、一直線だぁぁぁあ!!]
ギギギと船が傾き、血管の上を削って進む。肉を破り、骨を避け、神経をぐるぐると巻き込みながら突き進む。
今頃痛みで白鯨が苦しんでいるだろうが関係ない。『地形探査』で横に並走する竜と見間違えるような大きさの寄生虫のように掘り進む。
…二度見して、肉体の中にも関わらず新手が出たのをダルクは確認した。
相手は避ける様子も離れる様子も見せずに並び立っている。敵意を感じ取った。
[甲板の二人に仕事だ!左にコチラを攻撃しようとする魔物がいる。壁越しに切り裂いてやれ!]
[左だな?……先ずは挨拶からだ]
戦闘員に指示を出し、山を断つ風の斬撃が放たれる。
寄生虫らしき影は立ち止まって後ろに流れるが、直ぐに二匹になって追いついて来た。
新手か?否、再生による分裂。
微生物が自然と行うそれは、今やられたらたまった物ではない代物だ。
しかも追い付いた辺り、瞬発力と再生力は並大抵の物ではない。斬り殺すだけでは完全に殺す事は出来ない。
別の攻撃手段が必要だと次の手を考える…最中に向こうが前を塞ごうとして来た。慌てて進路を変えて回避するが、速度が出ていると少しのズレで大幅に道がズレる。「主心臓」との距離が離れてしまった。
避けられるが、邪魔だ。
「グリム、燃やせ!再生出来なくなるほど熱々にしてやるんだ!」
[その提案には一つ弱点があるね。肉の壁が邪魔で攻撃が届かない]
[……なら私が切り抜こう。並走中だから一瞬で当てる必要があるが…やれない事はない筈だ]
[ははっ無理!オレ達はそこまで連携出来てないからね!成功するまでの時間が足りないかな!]
その時、操縦近くの警報が鳴った。点滅する表示版を見ればエネルギー残量が足りないとある。
本来ならとっくに心臓に到着している筈だった弊害で、早期解決が必要だった。
[なら、一つ提案が有ります。先生の指示に従ってくれるなら何とか出来る筈です。]
「先生、何とか出来るんですか!?」
[さっきの警報、説明する時間も惜しいでしょう。承諾しますか?]
「今すぐやって下さい!先生なんだからもっと堂々とね!」
[では、準備は済ませてます。今まで通った進路の5箇所のどれかに、並走している魔物が当たる様に誘導するだけで良いですよ。]
[……流石先生だ。手際が良い]
要求は簡単だ。ダルクのドライブテク、それだけ。
そして挙句に出来る操縦も単純だ。螺旋を描きながらダンテ先生が画面通話で提示した箇所に当てるだけ。
プロなら一発だろう。しかしダルクは操縦を始めて47分の新人なので困難な話だった。
「対G体勢ィィ!!!面舵イッパァイィィィィ!!!」
ぐるぐると舵が回り、船も回る。サーシャの方は大丈夫か心配だったが、サーシャのことなので何とかすると判断して遠慮なくいった。
船が軋み、急旋回する。有り合わせの船に要求するべき負荷ではないが、やらないと破綻するのだから仕方がない。
──限界を超える。
ボッ!!
「火が付いたあ!」
幸いだったのは、『地形探査』で出した地図のお陰で迷わなかったこと。新人でも地図を見て修正すれば何とかなった。そのお陰で二匹とも待機していたゴーレムの爆発で気絶したのだ。
災いだったのは、船が燃えたこと。両脇に居た寄生虫が燃える広範囲の爆発は、その間に居た船も巻き込んで燃えたこと。新人にも成功し易いように範囲を広げたのが仇になっていた。
ダンテ、自爆戦法で解決する。
[コレにて一件落着ですね。]
[アホ言ってないで消火するんだ先生!!ゴーレムの指示とかあるじゃないか!]
[ふふっさっきの爆発と同レベルを後4箇所も用意したのですっからかんですね。]
「千体も居たのに何故使い切ってるこの馬鹿は?これ一直線で行ってるけど間に合うか?」
甲板上にいて火事と対面している分焦っているグリム。
一周回って冷静になって来たダルク。
惚けるダンテ。
場は混沌に包まれていた。
[爆発と大量消費はゴーレムの華ですよ。安全海域の水でも使いましょうか?]
[……使えるなら使えばいいが、その水を運ぶ労働力はどうした?]
[爆弾にしましたね。]
ゴォォォ!!!
火の手が上がる。
ところで、こうなる直前までダンテは結界があるから爆発は大丈夫だと考えていた。
しかしこの船を覆う氷水結界は、先ほどゴーレムを落とす為に穴を開けている。
侵入した火が勢い付いた。
[コントやってる場合かな!?白鯨の血で消火するとかあるじゃないか!]
「とにかくもうそれしかない!持ってくれよ捕鯨船!ウオオ!加速10倍ダァ!!」
[……良し、多少進み易いように切れ目も入れておこうか]
こうなったら仕方がない。心臓に直撃するコースで限界を超えるしかない。
ガスが僅かなら、いっそ使い切ってしまう作戦である。
ぽすん…。
「あっ」
[あっ。]
[ははっ]
[……あー]
……エンジンが、ガス欠になった。
──"『
ギュルルルルル!!!
終わりだと背筋が凍った瞬間、通った後から押し寄せる血が黒く変質して勢いを増し船を押す。
それを水の壁が緩衝材となり、その上カーリーが刻んだ切れ目から溢れ出す血が、船を進みやすくしていた。
白鯨の力を利用した波乗りであり、血の噴射で白鯨自身の傷をふやしている不自然な血の勢いが、何かの力が働いていると男達に感じさせた。
呆然とそれを眺め、困惑する。
「何やってるんですか?僕も不甲斐なかったですけど、今の皆さんは寝起きのお嬢様より間抜けな顔ですよ」
「よくやった。治療は終わったから手伝いに来たよ」
「[[[[サーシャ!]]]]」
「あれ、僕の方はなにかないんですか?今船を押してるの僕ですよ?」
通信に映る顔を見て、全員が声を揃えてその名を呼ぶ。
今一番頼りになる人が参戦したのだ。自分達で出来なかったのは不甲斐ない話だが、コレほどありがたい話を他になかった。
「ヘル、コレが白鯨生活で見せた頼り甲斐の差だよ。悔しかったらその新しい力で何とかして」
「ぐっ返す言葉が見当たらない…仕方ありませんね、大人しく船を押すのに専念します」
[……そこの吸血鬼モドキはどうしたんだ?]
カーリーが先陣を切り質問する。
別に無視していた訳ではない。画面越しでも写った瞬間身を強張らせたから、意識が無意識にサーシャの方に集中して逃げたのだ。
認識した瞬間殺されると、カーリーでも錯覚する力が無視という結果になっていた。
「治療したらなんか強くなった。吸血鬼なんだけど、白鯨の奴の残り滓が悪さしたらしい。吸血鬼の階級に当て嵌まらなくなっちゃった」
「どういうことなんだ?」
「"吸血鬼の力を待った人間"って事ですよ。なんでも「人間という種族特性に白鯨の浸食能力がくっ付いた」みたいです。その結果種族浸食の力関係が激変し、吸血鬼の方が負けたとかなんとか?」
[えー…浸食って武器を持たない人間が白鯨の
「そう聞くと人間を舐めるなって話みたいになりますね。面白い例えですよ、先生」
『サーシャ、出来ればヘルと一緒の時に先生に敬語は使わないで。聞いてて混乱するから』
「え、声質でわからない?」
事情を聞いてみれば頓珍漢な話が返って来た。
先生の例えで何となく理解したが、それを一個人の体内でやってるとなると変な事になっていると少し疲れた気分になる。
兎に角ヘルは吸血鬼の力を持った人間になったらしい。今船を押している黒い血はその力だと…ダルクは最低限理解した。
「だが良かったな。噛まれた時はどうなるかと思ってたが、変なデメリットもなさそうで安心した」
「そこは僕もですよ。お嬢様が居なかったらと思うとゾッとします」
「…老化の治療しなくてもさ、吸血鬼になるなら勝手に寿命伸びて若返ってたよね。…運命ってよく出来てるなー」
「まあまぁ…あの時は本当に有り難かったのでそれで良いじゃないですか…」
[おっと、その話は後にしようじゃないか!一面真っ白の心臓に到着したからね!]
グリムの発言でみんなの意識が外に向く。
治療成功の話に花を咲かせるのは楽しいだろうが、今は白鯨退治の大詰めだ。
「ヘル、血を盾にして。勢いに呑まれないよう相殺して」
「寝起きに無茶を言いますねサーシャお嬢様!承知しました!」
黒い血が船を護り、白い海と見間違えそうな心臓を進む。
真っ黒なシャボン玉のように包み、潜水…潜血を行って中心部に進む。
大き過ぎてカーリーが切り壊すには数日かかる。その為、更に奥にある核を壊す方針だった。
トクン…トクン…トクン…
「…心臓の中に心臓だと?」
「白鯨の心臓の作りは魔物らしく特殊でね。
それは、10m程度の大きさの心臓だった。
今まで見て来たもので一番小さく、最重要な心臓。白鯨の真の心臓だった。
「ヘル、トドメは貴方がやって。この中で一番苦労した者が一番殺す資格が有るだろうから」
「サーシャお嬢様…分かりました。では失礼をば」
サーシャの言葉に従い、ヘルが船先の槍を掴む、
ミシ…。
「フッ!」
バキバキと捕鯨船の先端にあった巨大な槍を片手で持ち上げる。
槍の重さが乗ったヘルの真下が壊れて沈むが、腰辺りで静止し、上がって来た。
よく見れば周囲を守っている黒い血から触手のように血が伸び、足場として支えている。
周囲の白い血から船を守りつつ、足場にする。それだけでどれだけ複雑な演算が必要になるだろうか。しかしヘルはいとも簡単に実行した。
「僕は外で戦っている人達と較べれば、大した事のない被害なんでしょう。死んでも、大切な物が消えた訳でもない。僕以上にトドメを任せるべき人は沢山います」
血を槍に纏い、ひび割れて壊れた部分や欠けた箇所を直し、強化する。
「そして貴女様も何かやりたい方がお有りなのでしょう。少しの間ですけど、貴女に浸食されたので何となく分かるんです。会いたいと聞こえましたから」
トランプが舞い、槍の周囲を回転して魔法陣を描き始めた。
「とはいえ、殺さない道は有りません。僕を噛んだ吸血鬼、マリーお嬢様の仇討ちでもありますから」
黒い血が凝固し、より鋭く痛みを感じさせない武器に昇華させた。
「──なので、その全ての思いも含めてお命をお預かりします」
『
それは、咬まれ、浸食され、僅かながらに知った白鯨の狂気の一片。
それは、噛まれ、侵食され、僅かながらに与えられた吸血鬼の無念の一端。
それらをまとめ、未だ予断を許さない中で弱まっている力の名前。
「我が主 シープ・スミス、我が母 始祖マリー・アントワネット、我が恩師 サーシャに誓い、スミス家従者長第二眷属 ジョン・スミスの名の下に眠りなさい──『
白に包まれた心臓に、黒き一閃が通る。
それは世界の1割を喰らい尽くした者には余りにも破格な、穏やかで眠るような死の救済だった。
time:6/24 20:20p.m.
「白鯨狩り」 クリア
location:「王都魔法学園 青寮食堂」
time:6/25 7:20a.m.
「心配かけるんじゃないわよ馬鹿たれがー!!」
「本当に申し訳ぶへぇ!!」
「いやー、平和。ここ最近は色々有ったから尚更癒されむぐっ!?」
『ほんとだねー』
吹き飛ばれるヘルシングを見つつ、サーシャは三色団子を食べ、喉を詰まらせてお茶を飲み干した。
タイム家の領地を魔改造した結果増えた日本食だ。
サーシャは身に覚えは無いと言うけれど、弄った影響の結果なんだから甘んじて食べ慣れるしかない。ちゃんと噛めば喉に詰まらないのに…。
「とは言え昨日の今日だ。ヘルの奴は安静にさせた方がいいんじゃないか?」
「ぷはー…肉体はそうだろうけど、精神面を考えればあーしてた方が良いよ。なにより、あれはじゃれ合いみたいな物だしね」
「ふむ、そんな物か」
近くで一緒に食べていたダルクにサーシャが返事をする。
漸く帰れたが、昨日までは白鯨狩りで大変だったのだ。のんびりとした朝を過ごしたいよね。
「私はねぇ!通信会社を経営してるのよ!?世界規模になって来たから世界中の情報が集まるのよ!白鯨の脅威を一番伝わる中でヘルが行方不明だった気持ち分かる!?メッチャ心配だったわよ!」
「ごめんなさい…出て来てから一面水しかなくて僕もびっくりしました…」
「あー、あれは予想してても驚いたよね。コレから「海」って名付けられるらしいけど知ってた?私はさっき友達から聞いた。その友達今ヘルにアームロック仕掛けてるけどさ」
「世界中の7割が水に覆われた
『いやーどうだろうね?案外生き物が過ごしやすい環境かもよ?』
「ふっ」
『あーダルク今笑ったでしょ!うおー私をバカにするなー!』
ダルクをポカポカとボコしつつ考える。
アレからシープに聞いたが、白鯨の影響はとんでもなく、世界の7割が沈んだとか。
幸い人の避難に関しては王国が白鯨討伐そっちのけで主導してたから被害に比べて驚くほど少なく済んだものの、それが却って食料不足や難民問題に繋がりそうだと言う。
死亡者700万人、行方不明者3200万人。どちらも少な目に見積もった予想だが、そのくらいは行くのだとか。おっかしいなぁ、死亡者はゲーム通りなのに難民になって行方不明になってる連中が多すぎるぞ?
なんでも「適合者」や「龍魚」と言う俺も知らない奴も出たらしいし、どうやら俺たちが遭遇した「白鯨」はゲームよりも強かったようだ。やんなるね!
あ、でもゲームと違って大地の穴は
海関係のイベント強化だ!絶対アイツら強化されてるぜ?やんなるね!
「お、やってますね。調子はどうですか?」
「あ、先生。良い感じです。今日開催される大会にも出れそうです」
「俺もイケそうです。寧ろあんな体験してインスピレーションが湧いてくるくらいですよ」
『この状況下でやるって正気の沙汰じゃないよね。良く決行できたよね?』
「平和の象徴としての側面もありますからね。王都に避難して来た民の為の歓迎会や討伐成功の祝賀会も兼ねてますし、やって損はありませんよ。」
そんな訳でこの後は魔法大会である。若者の体力による弾丸旅行以上の無茶だな?
討伐が終わった直後の悲しみに暮れた中でやって良い理由か?コレが。
海に落ちた白鯨が起こした津波でも結構行方不明者増えたのに、そんなだから頭王国とか呼ばれるんだぞ?
「ヘル、約束なさい。夜は出歩かない!」
「夜は出歩かない!」
「昼も出歩かない!」
「トレビアーン朝と夕方だけ活動するカラスにでもさせるつもりですか?」
「そうね、今のは勢いで言い過ぎたわ。だから門限を決めるだけにしましょう」
「しまった、妥協を引き出す話術です!」
「いやー、相変わらずで安心しますね。今のヘルシングは死の恐怖を撒き散らしているのに平然といつも通りに過ごすとは。よっぽど信頼されているのでしょうね。」
「吸血鬼に関しては
「抗魔が強いサーシャにとっては可愛い物なんだろうが、アレ結構キツいぞ?普通の人なら心臓がすくみ上がって止まるからな」
『家族愛って偉大だよね!うんうん』
「じゃあ先ずはアレを引っ込めるくらいにしないとか…かかりつけ医として修行させないとね」
『それって医者の仕事かな?』
駄弁りつつみんな一緒にご飯を食べる。
団子、サラダ、炒り豆、クッキー…ずっと肉に囲まれた反動だろうか、見事に軽食かつ肉が見当たらなかった。
「で、その揺れてる影と真っ白な宝石は何?私の勘が女の気配を感じているのだけど」
「あぁコレですか?我が祖なるマリーお嬢様と思い人に渡すと約束した白鯨お嬢様です」
「それ、生きてるの?残留思念とかだったら私揉み消しに行くから」
「サーシャお嬢様曰く、マリーお嬢様は僕の魂を補完しているそうです。白鯨お嬢様はちょっと共感させられたので見捨ておけなかったからですね。サーシャお嬢様に頼んで魂を圧縮した心臓に入れました」
「……義肢と負け鯨って所ね。なら良いわ、精々ヘルを生きながらえさせなさい?」
「あ、今二人から顰蹙買いましたね。お互い仲良くしましょう!」
『私知ってるよ!思い人はエイハブ先生!』
「そうなのか?…ならヘルに伝えてやれ。無駄に休日が潰れるのは凹むからな」
「そう言えば「
「おや、サーシャの新しい技術…ではなく魔法薬ですか。後でどんなものか見させてくれませんか?レシピに残しても仕方ない物とは言え、先生的にチェックを入れる必要が有りますから。」
「分かりました。効果とか色々まとめておきますね」
ぼちぼち全員食べ終わったようで、カチャカチャと食器がまとめられ始める。
カーリーがこの場に居ないが、あっちはあっちで付与術の受け取りに行ったので仕方ない。
受け取り期限ギリギリは焦るからね、朝早くから並んでおきたいからしょうがないね。
「あら、もう食べ終わったの?それなら私達も急いで食べましょう。ヘル、準備なさい」
「はい、お嬢様。コチラが3日間私達が食べた白鯨丼となります」
「食べられるか私自身が実食するのはラジオ向けのネタになる…断りにくい線ね」
「蛋白な魚の肉を崩して小麦代わりに、癖のある白鯨を塩抜きしてお嬢様でも食べ易く致しました。きっとお口に合いますよ」
「……はむ!……!はふ、はふはふ…!」
「焦らずにどうぞ。おかわりも有りますからね」
「あー、アレ塩辛くてキツかったよね。ほぼ塩だったし」
「キチンとしたキッチンが有れば食べ易くなるのは僥倖だな。転移門で難民達のご飯になれそうだからな」
「塩抜き出来ない人達にはツラいことになりそうなのは残念だけどね」
『将来的に頭と心臓の痛みが貧困者の友人になりそうだね。塩の取りすぎは怖いよ〜?』
ゲームにもあった社会問題をダシにサーシャに冗談がてらに言ってみる。
実際、コレで減る労働力や効率、病気がバカにならないんだよな。
やるなら早めに対策立てると後々楽だよ!
「…流石に今はやらないよ。昨日の今日だし休みたい。それに行き渡るのも時間が掛かるし、他にやるべきことをやってからね」
『そっかぁ。確かに昨日まで大変だったし今日はお休み!早速魔法大会にレッツゴー!』
「だね。私も久々にバカやりたい。時計塔対策に適当に扮装して行くよ!」
『おー!』
「お、仮装か。せっかくだし俺もやって行こうか」
「それなら先生もやりません?みんなでやった方が楽しいですよ!」
「おっと、私もですか…面白そうな話ですしやりましよう。」
そんな感じでワイワイしめいると、ヘルシングがなにやら落ち込み始めた。
なんだろう、体調が悪くなってきたか?
「いいなー…僕も行きたかったのですが…頭が…流石にこれ以上はまずそうなので大人しくしています…」
「安心なさい、私はその分楽しむわ。ラジオでも聴きつつお土産、楽しみにすることね?」
「なら商国からの出張オークションとかでお願いします。地味に目玉商品が何か気になってたんですよ」
「任せなさい。金なら全盛期の7割はあるから大抵の奴なら買えるわ」
そんな話をしている所に、二人の影が…色々用事があって近づいたサーシャと俺である。
「へいへいシープ、せっかくだから一緒に回ろうよ。絶対楽しいよ。ヘルは食前にこの薬飲んでベッドで休んでてね」
「ふーん、テンションの高いサーシャなんて珍しいし、折角だから一緒に行ってあげる。感謝しても良いわよ?全部奢ってあげるから」
「流石に申し訳ないよそれは」
「なら貸し一つでも良くてよ?」
「おっとさっき聞いた妥協何とかだ」
「残念、ちょっと違う奴よ。安く見せる1円引き戦法的なのよ」
シープにサーシャが絡んでる間に俺もヘルシングへの用事を済ませる。
『ヘルシングー、白鯨の思い人って歴史のエイハブ先生らしいよー。ちなサーシャ情報』
「ガチな奴じゃないですか…魂が騒がしくなってますし…でも今日はエイハブ先生も祭りでしょうし、大人しくしています…あぁ、五月蝿い…」
『後ね、あまり暗い所には行かないようにしてね。吸血鬼ってそう言う所で活発化するから』
『助言感謝します…部屋の照明増し増しにしますかね…』
「シープも早速化粧の時間だー!化けて行くぞー!」
(ヒャホー!今日は楽しむぞー!細かいことは良いんだよ!楽しければ!)
色々やるべきことはありそうで、事実課題も山積みではあるが今は良いだろう。
英雄にも休日は必要だ。ランダム発生イベントの「異端狩り」の始め、出張オークションの情報が入ったがまー今日は良いだろう。
直前まで楽しんで欲しいし、ギリギリでも問題ないと思うし。
さーて、競り勝てるかなー?出来たら面倒にならないんだけど。
あれ、関わりたく無いけど…下手に他のやつから
-二八十七羽
「オークション」
オークション、それは欲望の展覧会
-二八十五鼎 オークション、それはなんでも売っている強欲の会場。 -二八十三翅
オークション、それは人も魔物も魔法使いも、全てが売れる、金のみが正義の秩序。
-二八十靈 オークション、それは -二七十九哥
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█」█」█」█」█」
す ら
も───
──星の旅人から神様が逃げていた時、逃げるためのメチャクチャな調律で、偶然にも██が産まれました。
挙句に神は叫びます。「殺せ!俺の尻を狙うあの鳥みたいなの殺…え、誰?ここどこぉ?或いは██!ねぇこの力なにー!?言ってないこと言ったことになるんだけどーぉ!」
██は乞われた通りに見事星の旅人を殺して見せました。
███████──………*世界に始めて矛盾が産まれました*