不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計   作:何処にでもある

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 パンプキンで楽しくしつつ、ゲーム3章に値する敵の情報。




団・天・五五

 

 

「ひゃっほー!パンプキンダンプキンだー!」

『私なんてゆーれーだぜ!』

「全身黒タイツは許されるのか?」

「それを言ったら私なんてケモ耳付けただけですよ?こんな手抜きでいいのでしょうか…。」

「……着ぐるみと比べたら楽なんじゃないの?視界不良よこっちは」

 

 今、俺たちは浮かれ気分で仮装をして王都を練り歩いていた。

 実に百鬼夜行だが、折角なので詳しく紹介しよう。

 くり抜いたカボチャに旅人服とマントを着たサーシャ。

 布に眼の穴だけ開けて被さって飛んでるだけの俺。

 戦闘員A的な黒タイツとマスクをしたダルク。

 市販のケモ耳カチューシャを付けてきたダンテ先生。

 そしてデフォルメされた羊の着ぐるみを纏ったシープである。

 うんうん、実に百鬼だな!変人を見る眼も今は気にならない!だってダンテ先生以外個人を特定出来ない見た目だから!

 

「ねぇアレちょっと…」「学園の…」「こんな時に…」

 

「私が引き連れてるから衛兵を呼ばれてませんけど、その分学園生徒なのはバレてますね…。」

「普通に不謹慎だから仕方ない!でも後悔も恥もない!だってハイな気分だから!」

『ハロウィンには早いからイタズラおんりーだー!』

「うーん、サーシャも日々の疲れで奇行に走る事があるんですね。まあフラン(錬金学の)先生で良く面倒を見てますし、思う存分ハメを外しても良いですよ。」

「なら俺もハジけるか…ヴィィィ!!!イーッ!」

「……どうしてこうなったのかしら?」

「フラン先生とバッタリ遭遇して色々貸してもらったからですね。」

「この私の為に誂えたような着ぐるみの幻覚は?」

コープ(属性学の)先生が珍しい体験の為にと幻覚で仕立てた物ですね。」

「前が見えないから体験も何も無いのよね…まあ魔力視をすれば…私だけ修行してる気分だわ」

 

 リーロが『がおっがおー!』…と内心で連呼するだけの存在になりつつも、サーシャ達は魔法大会の会場に向かっていた。

 元々参加をするだけするノリなので軽いものだが、上に行くほど本気で取り組んだ人々の世界、本気の勝負が手に汗を握る大会だ。

 だがサーシャ達には関係ない話。自分なりの芸術魔法も白鯨関係でぶっつけになった以上、優勝は最初から諦めた。

 だからこその無敵であり、コスプレで盛り上げている部分もあった。

 

[では始まりました芸術的な魔法グランプリ!白鯨で流された芸術を取り戻し乗り越えろ!実況と死んだ解説の分も私、ソードがお送りします!今回のテーマは「風習」、それでは予選スタートです!]

 

「…うーん思ってたのと違うノリだね…これだと最初からぶっつけだったか。つまりワンチャンある!行くぜパンプキン・ダンプキン!」

『イェーイ盛り上がっていーのよー!イェー!!』

 

 そんな訳で始まった予選は、集団が其々好き勝手やる即興の魔法製作だ。

 その時に出されたお題に沿って魔法を創り上げ、テーマを上手く芸術に落とし込んだ10人が勝ち上がる。

 発表のタイミングも自由なので何処まで目立てるか、芸術を主張出来るかが問われていた。

 

「よっしゃ奇祭の幻影だ!」「土で細工品の再現を…!」「花火、いっきまーす!」

 

[各員魔法を使い始めました!だが花火は夜にする魔法か闇魔法を使えー!ウチの村の伝統だぞー!]

 

 早速ドンドンと火薬が広がる音と共に、学生によって会場が鮮やかな魔法に満ち溢れる。

 

「うおー!さよならじゃんね!我が愛しき人々よー!」

「…もう、あの雪景色をみんなで見れないんだな」

「…コレが王国式の「生より送る餞」か?…ふん、犬の餌にもならん」

「…おかあさん」

 

 だが、会場はイマイチ盛り上がらない。盛り上がるのは元々王国の村人だった人々くらいなものだ。好評なのは花をバラりと撒いて盛り上がっている人達だけである。

 それもその筈。此処に居るのは王国が頑張って避難させた世界中の人々。感性は違って当然なのだ。此処に居る人々も自ら来た訳でもなく、避難先として誘導されて休んでいただけである。

 首都に問題なく避難させるには土地が足りなかったから起きた事故である。

 幸せだった時の景色、ノリの違う祭り、寝耳に水の景色を見て、即興で合わせられるのは王国民くらいのものだった。

 

[どれも美しいですが、観客の反応は悪いぞー!もっとみんなが元気になる奴を出せる奴はいないかー!?]

 

「風習…その土地由来の決まり事や慣例だっけ。サイーシャ村の主催の贈呈品みたいな奴…沈んだ土地の奴をやれって事かな」

(だったら…特に沈んだ土地は各国の首都圏外。農村が多く、特に渓谷の多い神国は殆どの土地が沈んだとか…有名処だと「神国のダンダン畑」を始めに世界中の畑が全滅してるらしいから…こうだね)

 

 だが、そんな事は今のサーシャには関係ない。遊ぶと決めたなら積極的に無視するべきものは無視するのが王国流であるし、今は心を休めたいのはこっちも同じだったからだ。

 そんなサーシャが思い浮かべたのは、海に沈んだという数多の畑。

 近頃絶望的な飢饉が発生するだろう物の対抗策。

 自分色の芸術を出すならば、やっぱり既存技術の発展から繰り出す物が相応しい。

 

「……出来た。属性+神学のコラボレーション第二弾。自己対象でなければ祈りは寧ろ得意側なのを見せてあげよう‭」

(ごめん、神形態だと持ってるだけで悪影響与えそうだから仕舞うね)

 

 サーシャはそう言うと、懐から懐中時計を取り出して片手に持つ秒針に当てて収納する。

 そして『精肉』を弱め、自身を人に押し留めている力を抑制させ、神の身体を取り戻した。

 ヌルと戦った経験を生かした、神として未完成なのを利用した任意の神への変身である。

 

「─‬‭─変身「ソクセキシニガミ」‬……死神が祈りを捧げてあげよう』

 

[おっとここで今まで不動を貫いていたパンプキンベッドが謎のオーラを出し始めた!そのランタンはなんなのか、目が離せない!]

 

 一回やった事があるならサーシャの独擅場だ。あっさりと死に戻りから死の要素を魔力操作で抽出し、身を覆う神の殻を骸骨のようなものに変化させる。

 即席なせいでひび割れた骨みたいな殻だったが、別に戦う訳でもないので十分だとサーシャは判断した。パンプキンを被っていて変身を人にバレないようにしてるのもその判断を後押ししていた。

 

『ん、ん〜。クロノスの時より良い調子だネ。普段から死を冒涜してるから相性は悪いけど、今は世界中に死が溢れてるからトータル+(プラス)だネ!…おっと、精神引っ張られる…ネ…あんまり長く使うのはやっぱりナシか』

 

 肩を鳴らしつつ、サッと力を行使する。

 この世界において、神に成るのは様々なリスクを含む。

 種族特性による魔物由来の種族からの嫌悪感、容姿の変質、精神の変質……何よりもサーシャにとって致命的なのは、"子供が作れない"事。

 サーシャは何も知らないまま力を使うほど無警戒ではない。いつだって解析し、その力の性質を理解することを諦めなかった。

 その上で理解したのは、"神という種族は子供を作る性質を持っていない"ことだった。

 それは王国の主であり学園の長であり、神の孫である王様の実例とは反する事実だったが…そこは禁忌を落とした星の旅人のことだ。異世界の技術にでもあるのだとサーシャは納得した。

 

『"鎮魂の祈り"私が蝋燭にフッと息を掛ければあラ不思議、死者の魂が癒されます。そして…"幽玄の祈り"!さアさアお立ち合い!死んだ分だけ産まれる命…化ける命もアルってネ!………解除、神の力が増してると汚染も早く進むね。やっぱり多用は控えた方が良さそうだ」

 

『ウフフ』『アハハ』『オーイ』

『ワーィ』『イヤッフー』『ウワー』

 

[これは…]

『これは魔法か何かで魂?を調律?して今日から49日だけこうして話し合えるようにした、芸術家のクズにして人外のプロことパンプキン選手だね。どうも、死んでも解説しに来たキャットだよ』

[芸術じゃなくて奇跡の分野だが芸術的だー!]

『こいつは私が死んで実況を放棄しかけてた実況のクズにして妻愛家のソードだね。仕事はちゃんとして欲しいね』

[返す言葉がないぞー!ですが観客も多くはそんな感じだー!]

 

 2手分動き、サーシャは神の身体を『精肉』で人の物に変え、気軽に使って良い物ではないと改めて実感する。

 何せちょっと魂の法則に期限付きで精神活動の許可を与えるだけでコレだ。もっと厳重に管理する必要があるとサーシャは決意した。

 

「…本当に奇跡じゃんねぇ?みんな居るねー?」

「ははっ…確かに本人達を連れてくれば風習は産まれるだろうが…本物か?」

「……ふん、金にならないが、此処に留まる価値は有ったな」

「おかあさん!」

 

『イェーイきのーぶりー。お、シメメじゃーん』

『疑うまでもない。神の気まぐれも悪いことばかりではないと言うことだ』

『また商売話?私が死んだってのに変わらない男ね』

『あぁ…この珍しく慈悲を与えた神に感謝を!ロンウェイ!』

 

 やったことは単純だ。

 神の力で魂の法則を調律し、世界中で今日から49日間限定で産まれるまでの間、会話と姿を現せるようにした。因みに参考資料は魔素幽玄体(ホムンクルス)である。

 

「どうよ、魂の改造より難易度の高い魂の法則の追加だよ。思ったより長く活動できるようにしたし、割と芸術点高いことしたと思うんだけど」

 

 そして、こんなことをした反応も単純だ。

 神様がカボチャヘッドにして来たと誤解するのである。

 

「ネ申降臨キター!聞いてたよりキャワーじゃんね!ね、ね、急いでみんなに知らせなきゃ!神様が大会に参加してるって!」

「…聞いてたより粋な計らいをするんだな、神って奴は」

「普通死者を連れ出して芸術とかするか?…神様だったわ」

『あの、嬉しいけどアレは神様ではないです…あの方なら死体の鼻を数珠つなぎにして「コレが本当の花冠」とか言う筈です…』「なんでもいいよ。おかあさんと会えたもん!」

 

[パンプキン選手こと神様が観客を味方にしたー!合格だこのやろー!]

『あれは選手のクズにして善神の鑑ことパンプキン選手の作品に私情10割で合格にした審査員のクズこと実況のソードだね』

 

「…うーん。神様と誤解されてるけど、事実神の力だし…神様のフットワークって軽いらしいし、このままで良いや」

 

 再現性のない力だが、芸術なら良いだろう。

 折角パンプキンをくり抜いて被っているのだ。人の心を前向きにするならコレが一番効く。

 そう考えつつ、神への変身に巻き込まれて懐中時計からランタンに変質した懐中時計を取り出す。

 

「リーロ、気分はどう?」

『もうしないって約束したじゃん!サーシャの嘘つき!』

「出してると時の神になっちゃうから…仕舞わないとね」

『…次からもやる?』

「やる」

『うわーん!サーシャに弄ばれたぁ!』

「あはぁ、対策を練る時間を奪った白鯨を恨めぇ」

 

 中に居るリーロをMMに戻し、泣かれつつもサーシャは合格して本戦に出場した。

 因みにその頃の観客席では…。

 

「スゥー…[社員共、緊急放送よ。今目の前で魔法大会に出場した神様が予選の芸術魔法の展示で魂の法則を期間限定で追加したわ。世界中で白鯨で死んだ人達の…差し詰め「幽霊」と呼称しなさい…が今日から数えて49日出てくるから、ラジオでお知らせしなさい]……こんなお手軽にやっていい物なの?」

「そうですね…出来るならやって良いんじゃないですか?大体は神様に押し付けられますしね。」

「…神よ、身に覚えのない所業をお赦しください。望むならちょっとお金を払いもします…よし、許されたってことで」

「お、見てくださいシープ。ダルクも魂の服を豪華にして踊ることで出場しましたよ。見てて楽しい踊りですね。」

 

 羊の着ぐるみが何やら偉そうに『通信』で指示を出しつつ、ダンテ先生が着ぐるみに話し掛けて盛り上がる。

 マスコットなだけはあり、群がる子供達から逃げながらの会話だった。

 

[では予選も終わりまして本戦です!一人ずつ予め用意した魔法を見せ合って審査員に合格を貰えれば優勝です!では最初にレオナルド選手どうぞ!]

『これはぼちぼち仕事に戻ってきた死者達に審査員の仕事を返し始めた実況と一番予選の成績が良かったレオナルド選手だね』

 

「さーて、"東方の観測 北方の勇気 西方の信仰 凡ゆる叡智を凌駕するは我が万能なり"『満願成就(オールパーフェクト)』さあ、我が土よ。昨日遂に完成した「絵」を広げなさい」

 

 結論から言おう。優勝トロフィーはレオナルド選手の手に渡った。

 他の選手も健闘したし、サーシャも水魔法と氷魔法の合わせ技で『水の花園』という魔法で本物同然に動く高度な水魔法を見せたりもした。ダルクだって、万華鏡を空一面に貼ったりして美しい光景を魅せた。

 しかし、本物を超える動きで魅せる土の「絵」には敵わなかった。

 「見惚れる」を追い越して「圧倒」する魔法に勝てる魔法使いはいなかったのだ。

 

「いやー…良いもの見れたね…」

「だな…負けたが悔しさも感じない…それどころか未だに気分が浮ついている…」

『すごかった…とてもすごかった…すごかった…』

 

 サーシャ達もその例に漏れない。抗魔の力で魅了を弾けるサーシャも、ただの技術のみで魅せられれば形無しだ。

 勿論、浮ついた気持ちの人ばかりではない。過去を知るダンテ先生や未来を見ているシープは別のことを思い浮かべていた。

 

「いやー、久々ですね。あの三年生、一年の頃によく尋ねて来て熱心に学んでましたからね。色々ありましたが、その成果をこうして発表出来た事を喜ばしく感じます。今度優勝おめでとうの会でも上げますか。」

「その会、私も参加させて貰っても?卒業後のパトロン、アレを唯一見た私以外に居なさそうだし…でも、コレを見てる金持ちが私だけなのは幸運ね。白鯨でそれどころじゃないお陰で悠々と誘えるのだから」

 

 片や過去に思い馳せ、もう片方は未来に思い馳せ、ひっそりとレオナルドの未来が決定した。

 金があるということは、そういうことであり、(比較的に)金が無いということは、されるがままなのだ。

 

「…はっ!イケないイケない、ぼーっとしてた。えっと、次はシープの番だよね。大丈夫?オークション会場に間に合いそう?」

「あら、本戦まで出て時間が心配?大丈夫よ、ヘルが取った席は午後の部。食べに寄ってもまだ余裕があるし…午前の部は大した物はないし、スルーで良いわ」

「…ふぅん、白鯨が居なければ魔法大会→オークションの流れが金持ちの鉄板の流れになる感じ?」

「そういうこと…と言いたい所だけど、偶然よ。大会とオークションの日付が被っただけね。ま、大会を途中で抜けたから結構余裕があるのは確かよ」

「なら何か食べよう。お腹が空いて来た」

 

 サーシャとシープがそんな風に駄弁りに華を開かせつつ、買い食いで食べ歩く事になった。

 席に着いて食べるのも良いが、大会のあるお祭りにはお祭りなりの楽しみ方があるのだ。普段は研究や事務作業で引きこもってるサーシャ達は特にそっちの方に自然と惹かれた。

 

「あ、竜牛の串焼きだって。ピリ辛とか美味しそうだよ!トリックorマネー!ピリ辛くださいな!」

『周りの難民達がちょっと怖いけど…死者と話すのに夢中でコッチには気付いてないみたいだよ』

「まあ、化けて出たらそうなりますか。屋台を出す根性はスゴいですが…食べ歩こうとする私達も大概ですね。」

「ダルク、デカいのを選びなさい。匂いからしてここは当たりよ」

「おっちゃん、ピリ辛デカ刺し4本…いや、5本くれ」

「あいよ!こんな中でも元気なあんちゃん達にはもう一本やろう!」

 

 そんな訳で熱々な肉を美味しく頂きつつ、サーシャ達はオークション会場に早めに到着した。

 屋台を巡るのも考えたが、白鯨の影響で少ない上に難民が陰気臭いのが自然と足早にさせていた。

 

「…まあまあね。食べ切れる味だけど、次は買わないわ」

「お祭り価格ですからね。そんな物です。」

『でもサーシャは美味しそうだよ?』

 

「うめー。朝は流石に避けたけど陸の生き物の肉うめー。香辛料いっぱい使ったピリ辛美味すぎでしょ!」

「…週一でも問題ない俺らは兎も角、水属性のサーシャは毎日3食辛そうに食べてたしな。喜びも特に大きいか」

 

 サーシャが大絶賛しつつ、リーロとオマケの串焼きもぺろりと平らげてしまった。

 海と陸の肉はやっぱり違うと、サーシャは確信した。超えられない壁があると満足しながら考える。素晴らしい芸術を見た気持ちは何処へやら、今だけは花より団子のサーシャだった。

 

「ふーっご馳走でした!」

 

 食事も終わり、サーシャ達は折角なので午前の部のオークションを覗いてみる事にした。

 実質本番である午後の部と比べて緩く、飛び入り参加も自由だったのが気を向かせたのだ。

 

「ふふふっ…。」

 

 そして、午前の部に参加すると知ってからにやけ始めたのがダンテ先生である。

 大半はそれをスルーしてそそくさと進んだが、コレを見逃さなかったのが一人いた。

 

「先生、どうしたんですか?」

 

 サーシャである。

 ようやくと言うべきか、魔法大会や串焼きで上がった気分による物か、ダンテ先生に珍しくプライベートなことを質問したのだ。

 研究の為に授業内容を質問している普段の様子と比べると、結構珍しいことだった。

 

「ふふ、実は私、毎年午前のオークションには参加してますし、何度か出品したことがあるんですよ。なのでここは私の独擅場です。ついつい張り切っちゃうんですよ。」

「それは…頼もしいですね!それならここは先生の胸を借りましょう!」

「ええ、お任せを。「朝市のダンテ」の意味を教えてあげます。」

 

 仮にも貴族が持って良い称号ではなかったが、王国では割とあることだった。

 そんな訳で張り切ったダンテだったが…。

 

[次は商国のシスター様だ!5つの祈りを覚えている才気溢れる17歳!先ずは自己アピール!]

「スクロールで村をここまで転移させてくれたのは感謝するけど、私を売ったそこの奴は神の鉄槌で死ね」

[では5万Lから!]

「6!」「8」「…10」「15!」「…16」「20!」「…25」「40!!」

[他はー!……決まりだー!商国のシスター、40万で落札!]

 

「おや、朝市ではなく闇市が始まってますね。精が出てますが私には専門外です。」

『ダンテェ…』

「寝てる時に攫われてヘルが買い戻した話を思い出すわ。MMが言ってたあれ、本当だったのね」

「商国の悪いところが開催されているな。難民にそういうのを生業とする商隊でも居たのか?」

「うーん…衛兵はパンクしてるし、私達は取り締まる権力がない。暴れてうやむやにするには…ヘルのお土産がまだだね……みんなは好きにしてて。私、ちょっと行ってくるから」

「…分かった。破産しない程度にな」

 

 そこに広がっていたのは人身売買のオークション、王国では禁止されている奴隷の売買であった。

 サーシャは迷うことなく参加する事にした。

 

「先ずは…すみませーん、参加しまーす」

[おっと飛び入り参加かぁ!?良いぜ、身分と資金の出所を言ってみろ!]

「魔法学園成績優秀者でーす。金なら賞金がありますよー」

[よし、背格好からして一年か!王国だし質の悪い偽物じゃ無さそうだな!判別する機材もないし今は商品を悪く扱う本物として参加を許可する!]

「ありがとうございまーす……雑だけど、商国では秩序側ではありそうだね」

 

 誰も近くに居ない席に座り、リーロを隣に座らせた。

 商国では商売に関する取り締まりの法がなく、その影響で奴隷などを取り扱うのに躊躇がない。

 だから人の売買も躊躇がなく、奴隷商人も大通りを歩ける存在だ。

 サーシャは今の受け答えでそれを理解した。ちょっと納得いかないが、彼らにとって悪いことをしているつもりはないし、実際商国では悪ではない。

 その為にこの場で出来ることは、悪い流れだったら自分が買い取るくらいである。

 

「だからリーロ、多分二人か三人来ても暖かく迎え入れてね」

『一人にする案はないの?』

「研究員がまだまだ欲しいからそれはない。専属だと嬉しいのは確かだしね」

『分かった。実際悪くないやり方だし、そうなったら受け入れるよ』

 

[では神国の龍族の子供は100万Lで決まりだー!]

 

『…今のはいいの?』

「親族が買ってたから良い。……今までのを見ると身内が買い切ったパターンが多いね。今は高値の迷子センターも兼ねてそうだ」

『へー、悪いことばかりじゃないんだねー』

「今はね。最初はなんでも綺麗な部分がある物だから……さっきのシスターみたいに他所に行くパターンでも幸せは掴めそうなのが多いしね。…まだ悪人の買い手は少ないようだ」

 

 次々と買われていく人を見送りつつ、サーシャは人を見定める。

 どうやらこの奴隷商人の腕は良いらしい。流れと勢いを途切れさせず、次々と良い感じに買われていく様は見ていて爽快感すら覚えた。

 

「…分かった。これ事前にそういう買い取り手を集めてたんだ。そんなの、王国に来て直ぐに動かないと無理そうなのに…機を見たのかな。あんまり心配は要らなかったみたい」

『良かったね、サーシャ。平和に終わってさ』

「そうだね。…次で最後か」

 

[ではお待たせしました皆々様!午前の部の大目玉!締めくくりはこの奴隷だー!]

 

 バサっ

 

‭─‬‭─‬空気が変わった。

 

 穏やかな空気で終わりそうだった会場が静寂に満ち、()()に目を向ける。

 

[……見て分かるでしょう!翼、輪っか、清涼な空気!………はい、そんな感じです!…後はー…正直に言いましょう!"私達はこの奴隷を知りません"!本来なら生き残りの吸血鬼だったのですが…なんか変わってますね!……えー、果たして何者なのか、飛び入り参加にしては悪い冗談だー!]

 

「………………」

 

「すごい、この状況で買う気にさせる努力を止めてない。プロだ」

『あ、天使だ。サーシャ買おう。他に渡すと面倒だから』

「え、コレゲームに出たの?すごいなー、どれだけ精度の良い観測機材使ったんだろ」

 

 それは異質な存在だった。

 神国の司祭階級よりも立派で、なのに何の動物にも該当しない白い翼が背中から生えていた。

 その頭には光が物質化したような謎の輝く輪っかがあり、なのに周囲を照らさずに浮いていた。

 薄ピンクの長い髪を持ち、紫にもピンクにも見える宇宙色の目をしていて、コレまでの奴隷達と違ってボロボロの服を着て足枷と手枷と首輪をしていた。

 まるでここで酷い扱いを受けてきたような見た目であり、コレまでの身綺麗な奴隷とは正反対の存在。そこだけ別世界の映像を見ている気分だと、サーシャは考える。

 

[あ、今お客様から呼び名が有りましたね。どうやら「天使」らしいです!どういう存在なのか、私に分かりませんが……なんだ?なに、知らない檻がある?…はっ!?俺たちの管理記録が出て来た!?馬鹿野郎知らねぇよ!……なに?奴隷紋が…ってそりゃ何だ……マジじゃねーか…確かに魔法上では俺達の管理する奴隷って扱いだ…な?]

 

「…大人しくしてるけど、よく見たら魔力も魂も無くない?白鯨の「人魚」と同じ特徴じゃん」

『まぁまぁ…今回収すれば問題ないから…最悪封印すれば良いから…』

 

 バサっ

 

「なんでも良いだろ!早く始めろ!」「そうよ!待ちくたびれさせるつもり!?」「殺されてぇか!?」

「うわ、ビックリした!なに、突然出てきたんだけど!?」

『おー、天使の影響が存分に漏れ出てるねー。早くはじめろー!間に合わなくなる前にー!』

 

 司会が困惑し、観察していたサーシャの隣で怒鳴り声が上がった。

 サーシャが困惑するのも無理はない。先ほどまでサーシャとリーロの二人だけだった場所に、突然知らない人が出てきたのだ。

 魔力の前兆もなく、刺青や宝石の指輪を沢山した持った人間が出る。転移に似ているが、転移ではないとサーシャは結論を出した。

 

[…なんか気分が…兎に角売っちまっておさらば……あん?3分離れただけで絶対今まで居なかった奴らが来たな…まぁ良いか…えーお待たせしました!では始めます!先ずはーー…えー…1Lから!]

「10億L!」

[ふぁ!?]

「100億よ!!」

[待て、絶対持ってないだろ!白鯨のせいで海に流れて物理的に金貨が足りない量だぞ!?]

「…ふむ、一京

『1京入りまーす!』

「はぁー!?」「何よアンタ!」「邪魔するってのか!」

「え、私は本当に持ってるよ?虚空から現れたあなた達と違って、それだけの事をした」

 

 即断である。

 だが、何も冗談で言った訳ではない。初手の桁からして、天使の落札は金の多寡ではないと予想した。禁忌の事もあるし、不思議な力が働いている以上、それに則って動くべきだと考えたのだ。

 

「ぐっ…!」「生意気な…!」「くそっ俺は産まれたいだけだってのに…!」

[あーもう冗談でもいいや!1京Lで落札!異論は認めません!私も知らない単位ですが、兎に角落札です!]

「くっそが!」「イヤ、無かった事になりたく無いのよ!」「……またあそこに行くのか」

 

 バサっ

 

「……消えた?」

『良かった、悪い奴らは居なかったんだね!』

「リーロ、説明。この際周りは気にしないで」

『良いよ!でも受け取ってからにしよ?天使も待ってるしさ』

「………………」

「…そうだね」

 

 機嫌を損ねるのは回避したい。

 司会も直ぐに手放したかったのか、1Lに京の文字を掘った銅貨を払った後は奴隷紋の処理も淡々と進み、手早く処理された。

 終わりに話がしたいと言えば、3時間後に様子を見に来ると言って立ち去った。

 

「あれは相当参ってるね。無理もないけどさ」

「………………」

「気分はどう?話せる?話せるなら天使が何か教えて欲しいものだけど…」

「………………」

「…そう。リーロ、本人からは無理そうだし話してみて」

 

(所で…この奴隷紋ってなに?見たところ水魔法の帰属性由来みたいだけど…可笑しいよね、水魔法が排除されてる世間で産まれて良い物じゃない。なのに司会は問題なく処理した。…()()()()()

 

 喉に小骨どころではない。違和感を抱くにはあまりにも大きな物で有り、飲み込めないものだ。

 理解出来ない。解析出来ないのではなく、その結果がおかしいのだ。

 だからこそ、知識のあるリーロにその謎を解説させた。

 

『良いよ!でもコレに関してはサーシャが自力で辿り着く必要があるから、遠回りに言うね?…「異端狩り」それは魂も魔力もない存在が蔓延ったから起きた出来事。白鯨とは関係なく、その存在を量産してる奴が出て来たから起きた出来事だよ』

「…その存在って天使だったりする?」

『はい、いいえ、どっちでもある…かな?』

「はぁーん?」

『最後まで聞いて?…天使はあくまでも先駆けでしかない。コレでも味方よりの中立なんだよ』

「えぇー?」

 

 サーシャが訝しんで天使を見る。

 この矛盾塊みたいな存在が味方?それこそ冗談だとサーシャは思った。

 ただそこに居るだけで悪そうな人間を三人、奴隷紋という未知の技術を持って来たのだ。警戒しない訳がない。

 

『先ず、"天使が全ての原因ではない"。だけど"起こる出来事の方向性を調律してる"。だから量産はしているけど、本人の意思じゃない。あくまでも最悪を回避する為に穏当な方向にしているだけ』

「…まるで"無秩序な力が暴走してる"みたいな言い草だね。では、その天使が調律している力の性質は?」

『えーと…確か深淵の根本だから‭─‬‭─‬"空想を具現化する力"だね。魔物、人間の祖、天使…シーシャを作る時にも使ったらしいし、サーシャならよく知ってるんじゃない?』

 

 その発言は、ある意味自分の見落としを指摘する物で有り、同時にあり得ない話だった。

 確かに深淵は、魔物は、人の脳にある(空想)を被る。だが、その過程は魔物が産まれる場面にしか存在せず、人は兎も角技術を作るのは不可能な筈で……あらゆる属性を扱えるシーシャよりは、可能な物だった。

 

「まさか…嘘でしょ?だって、天使は明らかに司会の記憶や記録にも干渉していた。この奴隷紋と服や枷だって、実際に使った感じが……」

『…サーシャ、一つ大事な心構えを教えてあげようか?』

「なに…?私、結構心構えはちゃんとしてる方だと思ってるんだけど」

 

『"サーシャの力は固有の力ではなく、誰でも…それこそ自然現象として起きる事の再現に過ぎない"よ?元々ある時間を操るだけの時属性もそうだけど、無から産み出している訳じゃない』

 

「……あぁ、その通りだね。そう言われればそうだった」

 

 当たり前の話だが。

 技術は自然現象に起こり得る出来事の再現だ。

 例えばホムンクルス形態が、魂をちょっと誘導してやれば自然と出来るようになる様に、

 例えば深淵会話で(シーシャ)を創り出し、無制限の属性変化能力を付け足した様に、

 例えば神になる大魔法が、偉業を成し遂げた上で神になる事を望めば自然と成れる様に、

 世界は魔法以外にも様々な法則があり、サーシャの技術はその延長線上にあるのだ。

 

 故に、理論上()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「だったら、私が「天使」を作るならどうするか考えれば自然と読み解ける」

「…………………」

 

 天使は眼を閉じて、サーシャの言葉に耳を傾けた。

 出会ってから初めての、天使から起こしたアクションだ。

 折角だから一京分の価値を見せようとサーシャは改めて気合いを入れた。

 

「先ず、前提として天使は魔物の複合体…正確には"空想の集合体"かな。その上で"現実に空想を追加する能力"がある。何故なら、これは魔物が同族を産み出す力だ。その延長線で持たせるのは簡単だから、私なら取り敢えず持たせる」

『なんの目的で?作り手は何を考えていたの?』

「作り手は神様で、目的は旅人から逃げる事かな。その為の時間稼ぎとして作ったなら納得出来る性能だ」

 

 一つずつ読み解くのは得意分野だ。応用でちょっとだけ性能を上げたり、そういうのはサクサク出来る。

 予想して、仮説を提唱し、実践し、反省すれば良い。サーシャには苦でもない。

 そして、()()()()()()()()()

 

「そして、私達は天使とは別の"空想の集合体"を知っている。私が発展元として利用するなら、それは「深淵」だよ。思考を読み解き、魔物を産み出す深淵。そう考えると、天使とは「生きた深淵」であると言える。人を出したのは「氾濫」であり、コレなら神様でも作れる範囲の筈だ」

『なんで作れたのかは?』

「偶然じゃない?意識して作れるものには見えないし…"低確率を潜り抜けた"んだと思う」

『─‬‭─‬グレート』

 

 こんな物を作れるのはサーシャ以外には神様以外に居ない。

 そして当時の神様の能力を考えれば、自然と辿り着ける。

 「天使」とは"深淵の発展系"であり、偶発的に神様が生み出せた奇跡の産物である…と。

 

 何となく、「天使」の異様さが小さくなった気がした。

 

『それなら記憶や不自然な記録は?現実が書き変わったみたいに色々出て来たよね?出て来た人も無かった事になりたく無いって言ってたし、コレについては?』

「んー…氾濫で片付けるには不自然…なら、此処は一つ深淵の法則から考えよう」

 

 法則1、脳を覗いて空想上の存在を読み取り、魔物として創り出す。

 法則2、魔物が大量に殺されると「氾濫」し、上層に向かい始める。

 法則3、稀に「宝箱」が作られ、其処には様々な物がある。

 法則4、無の力を抽出し、時間経過で下層から消えていく。

 

「大体こうなるね。で、天使の見せた力に近いものを当て嵌めると…人や物を出すのは2の力。消したのは4の力かな。そして、過去を改変してる様な動きは3かな。あれも深淵の中身を改変してるって感じだし。そうなると天使自身が現れたのは1になる」

『そこで分かりやすく!』

「うーん、名付けるなら…「出現」の1、「流出」の2、「改変」の3、「消失」の4かな。そう考えるとちょっとは分かり易くなるんじゃない?」

『‭─‬‭─‬エクセレント!』

 

 「天使」の力が紐解かれる。

 身に纏っていた異物感が消え、()()()()()()()

 その工程を、サーシャはじっと観察した。

 

「良し、コレで天使が何者かは読み解けた。次は何故魔力も魂も無いか、何故此処に居るのかだね」

『その通り!良いね良いね、サーシャも分かってきたね!』

 

 リーロはテンションを上げてサーシャを褒め称える。

 サーシャもこの時間が何なのか疑問に思いつつも、天使の様子からして意味はあると理解した。

 

「まあね。だってこの子、"鏡魔法に類する何かで来訪した存在"でしょ?そうじゃなきゃ神話に居ないと可笑しい存在だし。で、存在が不安定だから魂や魔力を観測出来ない!コレじゃない?」

 

 ささっとサーシャが答える。割と自信のある回答であり、結構本気でコレで問題解決だと確信していた。

 

『‭─‬‭─‬本当にそうかな?』

「なにっ」

『いやー、いくらサーシャでも一発は無理だったねー。ある意味合ってるけど、その上が欲しかったね!』

 

 しかし、疑問が呈される。その上でありゃーって雰囲気をリーロは出した。

 天使は変わらず眼を閉じて大人しいが、少しだけ神秘的な雰囲気を出し始めた。

 どうやら間違えたらしい。

 

「違うの?」

『ヒントを出すね?

 "天使はこの世界の存在"である。

 "深淵に魔力が介在しないのは不可能"だ。

 "天使は旅人を殺している"。

 以上だよ!』

「……それだと歴史や現状や王族の存在と矛盾しない?」

『まぁ混乱はするよね。‭─‬‭─‬だから解いてよ、この「事象の矛盾(パラドックス)」を』

「…その「パラドックス」ってなに?」

『並行世界と融合している最中に起きるあらゆる矛盾、その総称。融合中は問題なくても、終わった時に一つでも残したままだと大変な事になる…らしいよ?』

「融合って?」

『ああ!…てのは冗談。でもこの世界の事情を説明する必要がある……あ、もう大丈夫そう?…からちょっと長くなるよ。ちゃんと全部聞く?断ったら要約するよ!』

「何が大丈夫?…折角だしお願いしようかな」

 

 そんな訳で、少し引っかかる部分がありつつも、説明の為の説明が始まる事になった。

 

『おっけー!…この世界は無の力が集まって基礎が出来て、その上に一緒に産まれた神様が積み重ねる構造だよね?』

「そうだね」

『その上で並行世界があって、鏡魔法で覗けたりする。つまり、"世界の基礎+神様セットがあちこちで発生した"ってことじゃん?』

「そうなるね。商国とか並行世界由来みたいだし、あんまり珍しくないね」

『つまり、"無の力を進めば並行世界に行ける"。それって、やろうと思えば"世界同士で戦争出来る"よね』

「…嫌な予感が」

 

 サーシャの頬に冷や汗が流れた。今からリーロが言おうとしてるのは、それだけ厄介な事だった。

 確かに並行世界の存在を観測する方法も恩恵も沢山ある。

 商国由来の全て、属性学による氷魔法の獲得、リーロが取り入れた男性の記録…サーシャも授業や研究で多大な成果を其処から得て来た。

 

 では、それが敵意を持って襲って来たら?

 

『ある世界で誰かが言いました。「じゃーん、「世界融合魔法」!コレで崩壊した世界のリソースを集めれば安全に資材採取出来るよ!」…って。つまり戦争の為の資材集めだね!』

 

 しかし、現実はそれ以上にどうしようもない。

 敵意を持つ必要すらなく、刈られる立場だとリーロは宣告した。

 

「……勝てない感じ?」

『負ける余地がなく程々に回収出来る、誕生3千年以内の世界を狙ってるからね。まぁ、サーシャの事は考慮してないから逃れる余地はあるよ?』

「あー、つまり融合相手は潜在的に味方かぁ…天使はその先駆けか…二つ?」

『うん。だから味方よりの中立。結構考慮してやってくれるって意味でね?あ、こっちとあっちで二つだよ』

 

 気が遠くなる話だ。

 ある世界の資材採取で並行世界と融合する事になるという事実も、その前に大国同士で戦争がある話も、一介の村人だったサーシャには重く感じる荷だった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()というのに、更に載せられるのは足が重くなって仕方がない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()か…まぁ、両方やれば良いか」

『え、なに他に何か見つけてたの?』

「なーんでもないよ。ただ、もっと頑張らないといけなくなっただけ」

『ふぅーん…それで、天使の推察は出来た?』

「大体分かった。…要は、この天使は向こうの存在…仮にコッチを「1の世界」、アッチを「2の世界」と呼称するとして、融合したら「3の世界」になるか「崩壊」する訳だ。で、天使は2の世界の方で……主軸は過去側の1で合ってる?」

『合ってるよ。私達の世界を中心に2の方が混ざってる。向こうは確か合計2900年…歴1400年…神歴が終わって400年経った世界だから、2は未来の人達。融合中に存在を確立出来なければ"産まれなかった事になる"事情があるよ』

「うっわ…」

 

 残酷で合理的な話だとサーシャは考える。

 例えば、時間を30cmの物差しとしよう。

 サーシャ達の「1の世界」は10cmに、「2の世界」は29cmに点が有る。

 「世界融合魔法」は点を書いた物差しを折り畳んで合体させるものであり、距離が離れるほど勢い良くぶつかって壊れ(矛盾)し易い。

 今の説明はそういうものだ。

 

「…なら、私達は矛盾を解消するしかない訳だ。二つの世界の相違点の辻褄を合わせ、それを現実に…反映するには?」

『サーシャがある程度辿り着けばあとは世界がやってくれるよ!世界も死にたくないからね、誰かが答えを出せばその通りに都合をつけるのだー!…あ、でもやらなくても問題はないよ。そもそもさっきのサーシャみたいに別世界由来が結果的なのが答えだし、"その上で間違えた答えを出す"必要があるからね。後3年は本格的な融合しないだろうし、先ずは目先の戦争からだよ』

「うーん…完全に解く必要はなく、誤魔化せれば良い…そもそもが正解が不正解だから"現実的な話をでっち上げれば良い"…」

 

 ぐるぐるとする思考をまとめ、やるべき事をピックアップする。

 だが、その前に幾つか確認したいことがあった。

 

「ところで…そういう事なら最初から全部先に説明すれば良かったよね」

『サーシャ、矛盾は世界にとっての瑕疵だよ?下手したらもっと酷くなるかも知れないの。先ずは天使の矛盾を少しでも解消して、自分は問題ないって教えなきゃ聞く事も出来ないよ?』

 

「世界に認められなきゃ聞けない説明ってことね。…それで天使は何を穏当にしてるの?」

『矛盾し難い様にしてるよ。同一視出来そうな人や立場は重ねてるし、人に知られてカバーする規模が大きくなりそうなら悪人三人衆みたいに対策するね』

 

「ずっと天使が黙ってるのは?」

『それは天使の力をあまり与えない様にする為だね。矛盾の産物は大人しくしないと世界崩壊が加速するから』

 

「結局天使の魔力と魂がないのは矛盾してる最中だからで、その上で別解を出す方向だよね?」

『合ってるよ!魂も魔力も2の方にあって解消のされ方次第で完全復活するよ』

 

「天使以外の矛盾の産物は?」

『逃した大罪人全員、元男の方の神様、星の旅人関連、太陽と月と大地の構造、王国以外の人…かな?主軸が1だから、現状で2の仕様になってるのは大体矛盾してるよ』

「…待った、それだと2の方で王族産まれなくない?何で居るの?」

『そっちは1だね。神様は2、王族は1、記録や神様の記憶は混合してる…らしいよ?1の女神様が頑張った跡だってのは見たかな』

 

「全部じゃん…詰んでるじゃん…」

『だから時計塔は世界大戦を止めないんだよ。少しでも世界を長くしたいなら、人類の繁栄も何もかも最低限にしないといけないから』

 

「私以外で対策してる奴は居ない?」

『終わりの時計塔、1の女神様、天使。でも時計塔は無自覚かな。少しでも人類史が長くなるパターンを調べたら自然と辿り着いてただけ』

 

「リーロは今日も可愛いね」

『えっへへー!』

 

「リーロは今日も可愛いね」

『えっへ……どうしてまた言ったの?』

「何となく…良い反応しそうだったから?」

『むぅー!最近のサーシャはイジワルだ!』

 

「ありがとう、参考になった」

『もう…どういたしまして!』

 

 質問も終わったところで、先ずは天使の矛盾の解消だ。

 

「…とりあえず、この推理で出来た話を「猿渡噺(モンキー・ブリーフィング)」とする。猿が書いた話みたいな事実の矛盾、世界の架け橋から眼を覆う為のでっち上げってことで」

『猿渡先生ェ…なんだかシマキンの魔物の時から縁があるなぁ…』

 

 その言葉にピンと来る。何となくこの名前にしてみたが、観測で読んだ限りだとあれも話の流れが矛盾していた。確かリーロの魔法が参照した男性の見た掲示板では…参考元になりそうなので使う事にした。

 

「…良し、こうしよう。

 

 "天使は確かに旅人を殺したその時、旅人は星の王に変身した。幽玄の変質である"

 "「バキバキッ我は星の王、そしてコレが幽玄の未来送り。イヤーッ!」"

 "ゴウランガ!天使屈辱、神歴1000年辺りに飛ばされる。あっ魂と魔力と存在で分裂したぁ!"

 "「男もイけるしな(ヌッ」"

 "「ウワーッ!…バウっ!第二の人格元男神様が御登場だぁ」"

 "女神哀れ、ショックにより第二の人格に目覚める!◇次回、逃げられない運命‭(カルマ)─‬─‬"

 

…以上、猿渡噺「天使の屈辱」でしたっと。…これなら何も矛盾しないでしょ」

「『サーシャ、変な薬でもやってるの?』ですか?」

『…ん?』

 

 ツッコミがハモッた方を見ると、天使が呆れた眼で三角座りをしつつこちらを見ていた。

 いつの間にかさっきまで有った神秘さも異様さもなく、何処か気安い雰囲気すら感じさせる。

 頭上の輪っかも明確な形を形成し、ツインテールになった髪と同じ、薄ピンク色の「?」の形に変化していた。

 相変わらず魂と魔力は欠けているが、先ほどよりもずっと安全な雰囲気を漂わせていた。

 

「いえ、助かりましたよ?ですが、それは無いでしょう。超展開にも程があります」

「…いけるんだコレで。え、こんなので良いんだ…」

『‭─‬‭─‬ブリリアント!!初期対応が適切なら矛盾なんてこんな物だー!』

「…ええまあ、そこのやけに詳しい子の言う通りではあります。どれだけ良い加減でも、世界が納得すれば良いのですから」

 

 天使はそう言いながら、首元に刻まれた奴隷紋の契約をパリパリと破壊する。

 自由に動けるならどうと言う事はないとばかりの諸行無常の一撃だった。

 

「ですが助かりました。お陰で積極的に世界の融合に対処出来ますから。なので、サーシャにはお礼に()()()()()()()()願い事を聞き届けましょう。何かありますか?何でも良いですよ」

「じゃあ先ずは自己紹介と、私達の知ってる情報と其方の情報を交換しよう」

「構いません。願い事にカウントする必要もない事です。ちょっと休憩してから始めましょう」

『話と判断が速い!』

 

 恙無く話し合いの合意は成され、お互いに伸びや休憩を挟んでから席に座り直す。

 

「良し、始めよう」

「…そのカボチャ頭は外さないのですか?」

「今日は一日中付けるって決めてるから外さない」

「…まあ、良いのですが…私が顔を覚えないとサーシャと間違えて他人の願い事を叶えるかもですよ?良いんですか?」

「私の人となりを知ってくれれば判断付きそうだし大丈夫。…そっちもずっと三角座りは疲れない?」

「問題ありません。収納モードになってるだけです。神様が私を納屋に仕舞ってる時はずっとこんな感じですし、一番落ち着くんです」

『天使も納屋に入れられる時代かぁー…親近感湧くなぁ』

「おや、あなたも?それなら差し詰め…納屋友…でしょうか。コレからは天使の初めての友人を名乗っても良いですよ」

『イェーイ!エンジェル・イズ・マイフレンドー!』

 

 既に時間は1時間経過し、午後の部が始まろうとしていた。

 流石に向こうの様子を見るべきかと悩む頃合いだが、それより重要そうな話し合いが始まるなら放って置けないだろう。

 或いはリーロを置いて自分は様子を見に行っても良いが…天使を連れて行った方が速いと結論付け、そうする事にした。

 

「じゃあ、自己紹介だけして席を変えよう。友人と一緒に見る約束があるからね」

 

「なら早速…私は天使。生きる深淵にして、唯一たる神の下僕にして便利道具。審判からお使い、料理から清掃、雑用でも何でも任せられて来て大体1800年くらい。気付けば自我を得て伴侶が欲しくなって来たけど相手が居ない感じです。コンゴトモヨロシク」

 

 天使は手を差し出した。

 

「宜しく。私はサーシャ。王都魔法学園所属の一年生徒。時属性のMMことリーロ持ち、夫を六人くらい欲しき者。子供も10人は欲しき者。迸る性欲は常に昇華してる魔法マニアの女の子。最近シニガミになって魂の法則を弄ったりしました。コンゴトモヨロシク」

 

 サーシャも合わせて手を差し出し、天使は手を引っ込めた。

 

「一旦待ってください」

「はい」

 

 ジャブ代わりに明け透けに語りつつ、様子を見る。

 死に戻りの回数が4回だからこそ出来る躊躇のない正直者ムーブだった。

 

「‭─‬‭─‬あーゆーにゅーふぇいずのGOD?」

「おーイエース。but(しかし)…魔法で人間の状態を保持してるから完全ではないかな」

「おー!でも神様はお喜びになられますよ!それも相性の良い水属性ではないですか!」

「案外好印象だね」

「当然です神様の喜びは私の喜びですから天使嘘つきません信じて」

「急に早口になったね」

「純粋に性格が悪いのは否定出来ませんから…」

 

 結果は良好、サーシャは相手の信頼をかなり得ることが出来た。

 具体的には一瞬で友好度が50(MAX)になる勢いである。

 天使は三角座りから飛び出し、サーシャの両手を握った。

 

「でも!あのお方は今は唯一神ですが、あれでも「カミヒナ(神雛)」の神様なので…浄化されないとずっと厄が溜まってしまうんです」

「へぇ、そんな事情があったんだ」

「今の時期は水属性の方が居ないせいで、近くにいる人全て不幸にする勢いで呪いを振り撒きますけど…みんなにも嫌われますけど!サーシャが側にいれば全て解決できるじゃないですか!」

 

 掴んだサーシャの手を離すものかと強く握り、ブンブンと振る。

 今までで一番天使は喜んでいた。若干不安になる勢いである。

 

「でも良かったー…あの方にも漸く友達が…天使は嬉しいです…あ、涙が…」

 

 流石にここまで喜ばれると、断りづらい気持ちになってくる。

 生きてる間は無理だが、死んだ後なら成っても良いと譲歩することにした。

 

「…今すぐは断るけど…まあ人として死んだら成って良いよ」

「はい。たかが百年千年、その程度ならあの方も待たせてみせます。確定してるなら私から言う事は有りません…あ、そうだ。願い事、無制限で良いですよ!」

「え、なんで?」

「私は神の使い、サーシャは神の卵。つまり私はサーシャの使いです。どのような御命令もお申し付け下さい」

「…なら、取り敢えず一緒に友人の所に行こう。予定より話し込んじゃったからね、もう始まってるみたいだし、ちょっと急ごうか」

「はい、仰せのままに」

 

 大きめの布テントから出れば、すぐ近くで盛り上がっている喧騒が聞こえる。

 少し聞き分ければ、数字を叫ぶ声も聞こえる事だろう。

 あくまでもサーシャはシープの付き添いであり、買う予定などはない。だが、話の流れがわからないと入りずらい。歩いて数秒の道を急ぐ理由はそのくらいだった。

 

「あ、そういえば…」

 

 その間の僅かな時間、天使は気になる事を言った。

 

「今回の先駆けの融合ではオークションの中身や客に2の人達が混ざるんです。私はそれに便乗してこっちに来たんですが…あの…リーロでしたっけ?」

「うん。MMで1の世界のリーロだね」

「‭─‬‭─‬2の世界のオークションで同じ名前が有りました。奴隷側の大目玉、タイム家の生き残りとして」

「へぇ、コレで混ざったらどうなるんだろうね、リーロ……ん?」

 

 手元や周囲を見渡し、リーロを探す。

 更に手元やランタンの中も確認し、追撃に三度目の手元確認をする。

 さっきの話し合っていたテントの中も確認し、呼び掛けてから現実を受け入れた。

 

「……え、混ざった?」

「もう調律は終わらせたんですけど、基本的に同一視出来そうなのはしたんですよ。「ドッペル」は矛盾の元になりますから」

「え、コレってどっち優先になるの? 1? 2?」

「基本的に1にしてますよ。…吸血鬼の生き残りは私と同一視出来たので(2の方)を調整しましたが…リーロも1の筈です」

「質問、2になる変化条件は?」

「生きてる、意思が強い、力量がある…などの個人にとっての+があると2の方になりますね…申し訳有りません。コレでも全力で1の方になる様に調律したのですが…」

「……ふぅぅ…大丈夫、天使は抑えてる側だから悪くない。悪いのは融合とかやってる奴だよ」

 

 死んでる、3歳児の大人振りたいメンタル、死に戻りやMMやMRCの力が本体……。

 

「最初の命令。このカードを見せて学園の宝物館から貯金全部 L にして持って来て。……負けられない戦いが始まるから」

 

「‭─‬‭─‬では、仰せのままに」

 

 バサっ

 

 天使が羽ばたく。

 神務を果たす為、二つの世界を守る為。

 なによりも、天使の友人を助ける為に、その両翼を広げ、青空を飛翔した。

 

 






「ゲーム知識から見た異端狩り」
 俺の覚えてる限りだと神国のメインイベであり、要素としては推理アドベンチャーに近い。ここは特に選択肢が多くなるし、"分岐によって第3章の相手や結末が変わる"仕組みがあるんだ。
 大枠のルートは3つ、天使の正体を何処まで暴くかで相対する敵が変わってストーリーも変化する。禁忌確定勝利が通用する「1と2の戦争」、ボス級には通じなくなる「パラレル戦争」、カーリーで最低限土台に立てる「勝利文明への挑戦状(パーリィトゥドゥ)」……サーシャに何処までやるか、お伺い建てたくなるだろ?…煽ったの失敗だったわ。
 で、ブリリアントだから…最後だな。最高難易度モード、完全解答による天使の仲間化と、存在が挙がってる奴なら全員仲間にできる様になるオマケ付きだ。私だったら怖くて選べないね。メッチャ死にそうじゃん?
 …俺の知識はそこから先は概要しか知らない。中盤、第二章をクリアした所で途切れてるからな。其処からはどうすればクリア出来るか、俺には判らん。多分、この世界だと主人公のサーシャしか知らないな。…うおーがんばれー!私は何故か奴隷の中にいるぞー!助けてくれー!

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