不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計 作:何処にでもある
オークション・午後の部と2のリーロ…なんですが、そう言えば深淵でサーシャが神になる魔法の準備をする余暇で何を見て、知ったのか伝えてませんでしたね。
[──お待たせしました。午後の部のオークション開催です!]
「遅いわねー、サーシャ」
「天使なるものに手こずってそうですね。」
「…あの有り様だったしな。厄介なのは見て分かる。ま、サーシャなら何とかやれるさ」
「そうね。いつもとんでもないことをしてるサーシャならまた何とかするでしょう」
「──そこの羊さん、隣に座っても良い?今は近くに人が居て欲しいのよ」
「あら…態々聞くなんて律儀な人。良いわ、座りなさい。…持病で倒れそうなら手を貸すわ」
「そういう手合いじゃないって見抜いておいていけしゃあしゃあとまぁ…ま、ありがとう。一人で座るのって寂しくてイヤだったのよ」
「…ふぅん?」
サーシャが天使について考えていた頃、のほほんと始まりを見ていたシープ達に一人の女性がやって来た。
茶髪をポニーテールの様にまとめ、王都らしい現代的な服を来ている。
騎士でもないのに珍しく手甲を付けており、綺麗な顔には絆創膏がある。よく見れば、女性的ながらもしなやかな筋肉のある仕上がりが、余裕のある服の上からでも見て取れた。
──気分転換にオークションに来た時計塔12席のリートである。
[最初はこれだ!月の欠片です!]
司会が布を外し、その正体を露わにする。
見ていると視界が引き寄せられ、心を騒めかせる石だった。
[これは白鯨が飛んでいた時に出て来ていた三日月の隕石です!見ただけで分かる狂気の波動、魔法的価値は未知数でしょう!先ずは80万から!]
「100」「120」「150!」「155」「158!」
「170、丁度欲しかったから助かるわ」
シープが番号を掲げ、価値を付ける。
サーシャに渡せば何か分かると考えての行動であり…サッサと奥のある目玉商品をヘルに渡す為に引き出そうという計らいでもあった。
[170!170!他は……居ないようですので、48番の方が落札だぁ!]
「品のない…午前と同じ司会なのはこの際お目溢しするとして、立ち振る舞いと匂いも整えないなんて…品に比べてサービスは難点ね」
「シープ、機嫌でも悪いのか?急に文句を言うなんてらしくないぞ」
「…あら、ごめんなさい。勿体ぶられるのは慣れてないものだからつい気が逸ってしまったの。許してくれる?」
「口調も変に…いや、機嫌良いのか。見慣れなかったから判らなかったな」
ダルクはシープの顔を見て、機嫌が良いのだと察して安堵する。
今のシープにとって、このオークションはヘルの為のお土産選びだ。
それなら珍しい姿は機嫌が良いものだと理解し、見守ることにした。
[次の商品は白鯨の鯨油だっ。転属性のMM持ちが採取して来たという一品、売りに来た方は試しに生で飲んだそうですが、繭のような白い血管を皮膚に生やしておりました!70万から!]
「140、サーシャに渡すと面白そうね」
[こちら、今は亡き帝国の伝説に継がれる鍛冶屋の隠れ里の品です!そこで作られたと言われる食器とカトラリーフルセット、もう生産されない一品であり、どんな毒にも反応し温かな食事を楽しめます!100万から!]
[500万、お土産に丁度良さそうね]
[次は神の髪を結んだお守りだぁ!聖職者が当面の生活費の為に売り出した本物の聖遺物、呪い殺したい相手にどうぞ!600万から!]
「6千万、跳ねたわね」
次々と出てくる品から本物を見抜き、的確にシープは貴重な品を惜しみなく競り落としていく。
中には偽物もあるものの、幼い頃に目を富ませていた記憶から真偽を見抜き、取っていく様は富豪の子だった経験から由来する眼を存分に活用していた。
そうしてテンポ良く品も捌かれて、サーシャが不在なままオークションも終盤戦に突入した。
[そろそろ大詰めですが気を抜いてはいけません!最後の三品は事前に用意した大目玉となる品です!誰もが欲しがること請け合いで、どうぞ後悔の取りこぼしのなくお願いします!]
お土産を競り落として余裕が出来たからだろう。
司会のその言葉と共に、外と繋がる扉からそっと入ってくる人影をシープは捉えた。
人影は一直線にこちらに向かって来い、途中でギョッとしたように立ち止まってから少し悩んで堂々とコチラに来た。
「ごめん、待たせた」
「あらサ「しーっ!」…」
人影の正体はパンプキンのサーシャだった。
しかし名前を呼ぼうとすると制される。気にしてる方を見れば此処までずっと手を挙げなかった手甲の女、どうやら並々ならぬ関係のようだ。
仕方ない。合わせてあげましょうとシープは羊の着ぐるみの中で頷いた。
「…ようやく終わったの?お土産も買ったし、後3つで終わるから帰る用意をなさい。下僕」
「げぼ…それではシープお嬢様。わ…がはいは側に居させて頂きます」
ぷっ吾輩って…ふふっもうちょっとどうにかならなかったの?
シープは着ぐるみの中で笑った。
「…今、聞いたことある声が…」
「気のせいよ。良い?パンプキン男爵は何者でもない。よくて?」
「なら気のせいね」
「そうそう、吾輩はパンプキン男爵であーる」
「ふっ…やめて、笑わせないでちょうだい…!」
何とか誤魔化せたが…果たしてこれはリートの節穴を嘆くべきか、それとも変装の偉大さを讃えるべきか、シープはツボに嵌っていた。
パンプキン男爵も安堵の息を吐きつつ、リートとは出来るだけ遠くに座ろうとダルク達の方を見ると…。
「「……………」」
「うわっ男共が堂々と寝てる。寝息もないガチ寝…流石に白鯨の疲れで限界だったか」
安らかに並ぶ二つの寝顔が其処にあり、起こすのは偲びないとスルーする事にして隣に座ることにした。
[ではトリの3つ、最初の品は証魔法が使えるMMだ!一流の狩人が狩ったものであり、ルビーの指輪と収納性も抜群!では5000万から!]
「1億!」「2億!」「5億!」「10億!」
[10億、10億が出ました!此処からはその価値に相当する物を仰って下さい!]
複数で沈黙を貫いていた人々が一斉に手を挙げて値段を釣り上げる。
サーシャは驚いてシープやリートの方を見るが、そっちはそんなに驚いていない様だ。
それもその筈。王国三大貴族の物ならば、それだけの価値がある。
午前の部ではあり得ないと突っぱね返す金額も、代わりの品を出せるなら通るほどの価値がある。
「500億。命魔法由来、500年間だけ不老不死になるスクロールだ!!」
[500億だぁー!一年一億の換算として、他、他はいらっしゃいませんか!?…では証魔法が使えるMMは12番が落札となります!]
「たっか…」
[なお、虚偽や証言より粗悪品だと認められた場合、購入は出来ず提示品の没収のみとなります。ご了承ください]
茫然と、その結果を見届けて出た言葉がそれだった。
不安になる。果たして、自分にはそれだけの価値を引き出せるものを持っているのか。
なにより、騙し切れるのか。
見たところ手を挙げた男の出したものは300年しか効果が持続しそうになかったが…アレではバレて没収されるだけだろう。
[次は転魔法のMMです!コチラも先ほどの狩人と同じ方が狩った物であり、ネックレスと持ち易い形状となっております!同様に5000万から!]
「5億!」「10億!」「50億、優雅の杖」「100億、過去視帽子!」
[さあコチラは早々にヒートアップだ!海の影響で価値の上がった転魔法は一体誰が掴むのか!]
「500億。『通信』会社の重役になれる社長直々の誓約書。待遇、終身雇用、等々の保証付き」
[また500億!白鯨の影響で社会が揺らぐ中、転移も必要なく海を跨いで会話出来るようにした王国の通信会社!益々需要が高まっている中でその安定した立場は確かにそれだけの価値はある!他、他の方はおりませんか!………では転魔法が使えるMMは48番が落札となります!]
「良し…リスキーだけど、海がある今、専用の転魔法なんて幾らでも使い道があるもの…フフフフ…」
「羊さん、怖い雰囲気を出すのやめたら?可愛い見た目が台無しよ?」
「…もしかして貴女、私が本物の羊だと…?」
「……違うの?」
次の落札者は48番の羊の着ぐるみ。シープが競り落としてみせた。
転移の仕様次第だが、事業拡大のチャンスと見ての動き。
紛う事なき社長権限による予算の横領、後々苦しむ事になる役職の売り渡し。
世界中の従業員7千人以上を養う社長の大博打である。
「…まあ良いわ。最後の品よ。証、転、となると流れは…」
「私にも分かる。時よね」
羊と喧嘩番長が息を合わせて予想する。
どちらも人とすぐに仲良くなれるタイプであり、オークションを見てる間に仲良くなっていた。
[……と、思いの皆さま。その予想、いい意味で裏切ってあげましょう]
「「なにっ」」
[そもそも、MMの固有魔法は不完全です。本人が使ってる訳ではないから使いこなせず、それ以上成長も変化もしない。確定で固有魔法に覚醒させますが、それだったら生きたまま仲間になってくれた方が良い]
「ま、まさか…」
「私以外の、タイム家の生き残り…?」
「…ん?私以外?」
鎖が擦れる音と共に、背丈の低い16歳の少女が魔力の猛威を振るいつつ、幕の後ろから現れる。
「──やぁやぁ、おじさまおばさま。私の身内になりたいか?」
──空気が凍った。
「…わーお、2の世界のリーロは随分とヤンチャさんだ」
サーシャはそう言って、顳顬を抑える。
ふわふわとした茶髪、赤色入りのメガネから覗ける黄金の眼、ニコニコと張り付いた笑顔。
「リー!……ロ?」
「…見たことあるのに知らない人ね?」
鎖のマフラー、全身に余す事なく彫られた刺青、真っ黒なアロハシャツに白いジーパンにサンダルだけ。
アロハシャツの下に何も無く、胸が見えそうになっている腹出し王国マフィアスタイル。
更に緩んだジーパンは垂れ下がっており、鎖でアロハに固定している始末。
そこから確認する限り、上下の下着をどっちも着けている様には見えない。
トドメに耳、舌、臍にはピアスを付けて
[御託はここまで!ではご紹介しましょう!リーロ・フォン・タイム!タイム家唯一の生き残りにして、"世界の裏社会を牛耳る怪物"!此処に証と転のMMを持ってフラッと身売りに来た私の上司でもあります!正直怖いです!]
「ちゃーっす。一人が寂しくなったんで身売りしましたー。私の身内になればマジ世界裏から支配出来っから。死ぬ気で全財産はたいちってくらさーい。いぇーい」
惚ろけた顔で逆Vをして、リーロが言う。
脳に
[…えーでは特別サービスで1Lか「は?テメェ私のことナメてんの?」……10億Lからスタートです!]
ナメたことを抜かそうとした途端、バシッとした顔で睨み、訂正させる。
どうやら毒はいつでも気分で解除出来るようだ。
誰もが腰を引く光景であり、姉のリートでさえ前に会った妹の姿からの変わり果てように固まる。
ゲームなら時計塔が即座に買う場面も、来訪者がリートに変わった事で出来た静寂だった。
「…ッチ」
そして、その静寂を一番ストレスに感じるのはリーロであり…。
「──5000兆L。別世界とのシマ争いへの参加権」
「へぇ、おもしれーこと言うじゃんねぇ?」
そのストレスを計算して与えたサーシャの、其処に居る全員への奇襲となる宣言だった。
値段、内容、パンプキン男爵、処理しきれない情報の暴力。
[──!!落札!50番の落札です!異論は認めません!]
(…戻った。感知出来たって事はMMの繋がりは切れていない。『推理(劣)』……うん"この状態でも死に戻れば私に補正が乗る"。つまり──殺し得か)
───反応できたのはプロ一人。一刻も早く現状から抜け出したい司会だった。
リーロはひとっ飛びでサーシャの前に立ち、カボチャ頭の顔から中を覗く。
(…一気に5回。けど、それまでの記憶は無い…リーロが何かしたって結果だけが残ってる…消費が気軽過ぎるって事は、やっぱり生きてれば仕様も変わるのか)
「──他人の気がしないし、タメなのも良い。何より強い。合格だ。今から身内に入れてやる。テメェ、名前は?」
何より強い。リーロはそう言った。なら、自分は勝ってる方なのを前提としたやり方に変える。
「サーシャだよ、5回目のリーロ。納得してくれたなら"家族"として一緒に世界を楽しもうね」
「サーシャ…サーシャね。良いよ、何故か
「
(はい無制限確定。あった時様にリーロが焦るまではリーロの命は軽く見積もろうか。──更生とレベリングの時間だ)
「ははっ!考えてやるよ」
「…最終通告だよ
──この時、2の世界のリーロが犯した失敗はただ一つである。
魔法に頼って6回以上挑んだこと、それだけだ。
「14回目だね。14って特別な13とキリのいい15で、素数でも無い何処までも途中って感じの数字だよね。止めると面倒だしもう一回殺されておく?折角だしキリ良くしようよ」
「…いや、良い。毎回こうも違う殺され方だと対策も出来ん。なんか死に戻る程お前、強くなってるし……引き分けだ。今は大人しくしてやるよ」
「はい15回目。リーロならもっと素直になれるよね?身内ならその尊大な態度は面倒なだけだし、改めるまでしんどい感じの死に方で殺すね」
「いやちょっと待てよ」
「行っくよー。私は身内でも、死んでも生き返る相手に躊躇してあげる程優しくはないからねー」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
「42回目。
「そんな事ないもん!サーシャの為なら私なんでもがんばるよ!」
最早恥もへったくれもないのだろう。幼児退行してサーシャの知っているリーロに近くなったが…本人ではないので殺す事にした。
「…うーん、私なら演技で騙すし、もう千回行こう。嘘付いたら針千本、三回目辺りで私が言ってそうだしね」
「待って!本当、本当に反省したから!靴でもなんでも舐めるからぁ!」
きっとリーロはどうしてこんな目に遭うんだと考えたことだろう。
事実普通の人にとって理不尽な行為であり、サーシャも即座にこの量の殺し方の案出しには苦労した。
では、なんでこんな事をするのか?
1の世界のMMのリーロを引き出す為、2のリーロを殺し尽くす為だ。
理由なんて何でもいい。調律して2が様々な面で有利だから2のリーロになってるなら、その条件を全部壊せば良いのだ。
生きている?殺そう。
心が強い?へし折ろう。
立場がある?辞職させよう。
つまりは、そう言う事である。
「1042回目。どう?今までの人生反省して真っ当に生きる気になった?」
記憶が受け継がれない事を最大限利用した精神破壊。
サーシャは躊躇なく選択を採用してやり遂げた。
「やー…いたいのやー…」
「…うーん、此処まで壊してもMMには戻らないか。半分はホムンクルスの身体でMRCの力はあるみたいだけど、混ざったままだね…もう千回アンコールやっとく?」
「!?…やっ!やっー!」
「あ、まだ言葉が分かるんだ。ならもっと壊せるよね。よーし、感謝の1万回デスループの始まり始まり…」
「…うぇぇん!」
「泣き言は無用、今から結界の応用魔法の『皮取り』で剥ぎ取られて死ぬんだから黙って食材になって」
大概2のリーロの精神力も強いな…と思いつつ、初めてにしては手慣れた動きでリーロの顔を剥ぎ取ろうとして、回避した。
「"刺鋼指"」
鋭く伸ばされた指から繰り出される勇者流の格闘術、鉄よりも硬い指先で貫く一撃。
リートの技であり、死に戻り地点を少しずつ、少しずつ前に進めて経過した3秒の間に気を持ち直したのだ。
「あう…たすけて!」
「当然だ」
短く、安心させる言葉を呼び掛ける。
リーロはこの時、本当に、本当に心の底から安心感を覚えた。
「…さっきから聞いてれば恐ろしい意味を含めた数を言いやがってよぉ〜…グレててもそれはダメでしょ」
「このくらい可愛い戯れでしょ?"増幅"」
「うぎゃっ」
ボキバギバギャッ!!
手刀から、爪先から飛来する5つの斬撃を束ねたものを氷水結界で捌き、流れる動きでリーロの首の関節を"重撃"を改良した"重増幅"で踏み壊す。
クッキーを踏み潰すように、前回の遭遇時に見取った勇者流とやらの技の改良技で動けないようにした。
「何処にそんな戯れあるって言ってんだよクソゴミがー!」
「取り戻す為に地獄に落とす愛もある」
「…お前だけは生きて帰さない!"死ノ圧"!!」
魔力が周囲を支配し、重くのし掛かる。
魔力を物質に変換する工程を敢えて不完全に行った、
勇者流の基本の一つはこの法則を利用し、遠隔攻撃や体重や威力の増加、純粋な殺意で相手を殺す。
まだまだ隠し札はありそうだが、合理的に相手を殺すならこれほど有効な技はない。
利確の時間だと、サーシャは手を銃の形にした。
──パァン!
指先から、紫煙が漂う。
何処までも単純明快な、"質量のある魔力を高速で打ち出す"だけの攻撃。
幾つかの勇者流とやらの技術を模倣し、理解し、改良し、無数の自分とリーロの屍を積み上げて加速させた研究速度で、前回の時から到達していた"技"。
「…コハッ」
「"魔力弾"」
血を吐き出すリートを向けて、もう片手の方も銃の形にした。
「"ガトリング"」
弾速2,000m/s、秒間1288発、それを3秒間。
サーシャがMMの所有者となってからリーロが死に戻った総回数と、その影響で補正された知恵の分の3倍をリートに与えた。
文字通りの血煙となり、死体の時計も残らない攻撃。
「あぁ…そんな…初めてのサーシャ以外の変化だったのに…」
「…あーあ」
"殺したのに死に戻りが発動しない"。
"つまり、まだ生きている"。
だが見破ったと悟られれば不利だ。適当に余裕をこく必要がある。
…丁度良い、見たところこの展開はリーロも初めてなようだ。利用しよう。
どうせ殺す相手に、殺しても生き返る相手に情けは要らない。
「
「…え?」
「リートお姉ちゃんも残念だったと思うよ?折角生きて再会出来たのに、無駄に死んだんだから」
「え、え?」
「どう?本当の身内だった人が死んで心が追いつけない?でも問題ないよね、リーロが大人しく殺されてれば死ぬ事にならないんだから」
「………あえ?」
倒れ伏すリーロに向けて指を向ける。
今回の成果はこんな物で良いだろう。
リートをもう一度相手する手間が面倒だ。後は次の自分に任せる。
「今回は特別に楽に殺してあげる。逃げられないのは重々承知してるだろうけど、何分前に戻るかはよく考えてね」
「……この、クソゴミが!」
「ぱん」
「──結局11042回までリーロが我慢すれば良いだけなんだって、悟れるまで付き合ってあげるから。その時が来るまで待ってるよ」
「8046回目…だけど、その顔と目線を見るに、予想通り1042辺りで姉のことを知ったね?…戻した時間も丁度良い。分かってくれたなら、一緒に11042回まで頑張ろうね」
『"うん!大好きなサーシャの為に頑張るね!"』
「うん、いい子だ。肉体も8割がホムンクルスになったし、その調子で自分を消していこうね」
『私、"お姉ちゃん"とサーシャの為に頑張る!』
『いふぁい…いふぁい…』
「"サーシャとお姉ちゃんの為に"、だよね?私を優先し、その上で家族も大切に。譲歩してあげてるんだからその通りにすれば良いのに」
「10,000回目…お、MMになってる。お帰り、リーロ。寂しかった?」
『ただいまー!』
──パァーン………
『あうっ…』
「なんだ、偽物か。MMなら耐えられる程度に抑えたのに…死に戻る魔法に目覚めるだけあって、生きる為ならなんでもするね」
「11,042回目…なんだけど…居ないな」
(ならMMの繋がりから…
辺りを見渡し、2のリーロを探す。
時間はリーロがひとっ飛びで自分の前に来た直後。位置は変えられない筈なのだが…唖然とする人達だけが居る。
魔力も、魂も感知出来ない。逃げ出した時用のMMの繋がりを辿っても、
まるで"この世界から消えた"ようだ。
だったら、今持っている手札で一番捜索範囲が広い魔法を使えば良い。
「なら…『換装(劣)』。効果は「世界を確認する」だけだけど、今なら捜索に使える」
(今の私の知識なら、1と2の世界、混ざった後の3の世界を別けて観測出来る。肉眼で見えるのは3の世界。そのピントを変えれば見つけられる筈だ)
視界を換装し、見る世界を変える。
「視界変更、1の世界」
何度も死に戻った過程で得たは良いものの、使い方を知らないせいで使い道の無かった魔法だ。
そもそもが人格換装の為の人格取得機能の一部だけ。こうして使い道が生まれるとは思っても見なかった魔法であり、今まで思考の端にも入れてなかった力だ。
しかし、知識を得た上で使えば変化は劇的だった。
「みなさま!最後は吸血鬼の生き残りです!血を与える必要は有りますが、その分色々役立つと思いますよ!50Lから!」
「……ねえ人間、誰も居ない会場の司会に意味はあるのかしら?」
「…言うなよー。仕方ないだろ?みんな白鯨って奴のせいで死んじゃったんだから」
「尚更やる意味ないのよ。ほら、明日の為に王様達の建築の手伝いにでも行くのよ。知ってるかしら、日差しは遮ってなんぼなのよ?」
「うぼあー不労所得が欲しいぃ…」
誰も居ない空が見える粗末な台の上で、吸血鬼の生き残りと司会が漫才してから立ち去ろうとする景色が映った。
死人が出てるのにすごく雰囲気が緩いが、純粋な1の世界とはこういうものなのだろう。
人をたった50Lで売り出そうとしているが、それだけデフレが極まってるようだ。
「朝のオークションのより粗末だね。『通信』を応用した拡声器もないし、技術も古い。…2の世界は未来なんだっけ。その影響が無ければこんなにちんまりとするんだ…」
「うわっ!」
その声に反応したのか、前から歩いていた二人が驚いて尻もちする。
挙句に手を差し出して掴もうとするが、触れずにすり抜けた。
「急に人が現れてすり抜けた!」
「ひゃー!死人が化けてるのだわきっと!逃げるのよ、早く!」
「死んでないよー。ちょっとすり抜けるだけ」
そう言うと、二人はキョトンとした顔で少し離れてからコソコソと話し始めた。
「マズイわ、死んでるのに気付いてない子なのよ。気付いたらきっと消えてしまうのよ!」
「死人が歩くのは怖いが、それはちょっとアレだな…」
「…放って置くのも気まずいから一緒に花冠を作るかしら。あなたは王様に相談して来るのよ!」
(…喋ったら向こうが私に気付いて見えるようになった。『換装(劣)』…ただ見るだけの魔法では無さそうだね)
弁明が必要かと考えるが、別にこのまま放置しても問題なさそうだったので2の世界に合わせる事にした。向こうからしたら振り返ったら居なくなっている事だろう。
「ただ…注意が必要そうだ」
肉体は3の世界にある。あくまで観測、手出ししても意味は薄い。
調律された相手が今でも1の世界で活動しているのは奇妙で面白い現象だが、それを調べるのは後で良いだろう。今はリーロが先決だ。
「視界変更、2の世界」
「サーシャ怖いサーシャ怖いサーシャ怖いサーシャ怖い………」
『ねー良い加減機嫌なおそーよ。この世界にもサーシャは居るんだし、そんなに怖がる必要ないじゃん』
「お前がその名前を出すなよ!!……うーっお前が私と同一存在だったせいであんな目に遭ったんだ!どうしてくれんだよオイ!!処刑…は魔法的にアレだから…くすぐりの刑に処すぞテメェ!」
『同じリーロ同士仲良くしよーよ。説明した通りどの道1つに纏まる以上、仲は悪くするだけ損だよ』
「やーだー!あんな目に遭うなら2の世界に引きこもるー!世界なんて勝手に壊れてろボケがよー!」
其処には1と2のリーロが天幕の裏側、奴隷として登場する前の状態で話し合う姿があった。
一先ずそのまま様子を見守り、情報を集める。
『やーい弱虫のクズもん、己の悪因悪果をうらめー』
「コイツァくせーな…将来私と同レベルのクズになる臭いがプンプンするぜぇ?鼻がひん曲がりそうだナァ!?」
『怒らないでくださいね?裏社会牛耳った所でその三下の格好じゃボスの風格は出せないんですよ。精々が突撃ちゃん6号、もしくはチンピラのバカなんだよね』
「若くして無駄に煽りだけは才覚示しやがって…我が事ながら無様なもんだ…」
『「…………」』
『あほ』「マヌケ」
『
『バカばばあ』「馬鹿チビ」
『嫌われ者』「気狂い憑き」
『堕落の化身』「無知の咎人」
『お前友達居ない顔してるよな』「テメェ命落とした顔してるよな」
『お姉ちゃんを助けられなかった負けい』パァン!
「ライン越えだからぶん殴った」
『痛い…芯に効く一撃顎に貰った…』
「"痛震昇"って言う勇者流・裏格闘術で倍にした痛みだよ。効くだろ?」
1のリーロが痛みで転がり、その上に2のリーロが座る。
同レベルの争いだが力に関しては2の方が強かったみたいだ。
『ぐえっ』
「仰向けの上に座ってみたが…私って座り心地良いな。今度から使うか」
『…むぅん!MMになる!』
「ぐえっ」
抗議代わりに1のリーロがMMに変わり、更に人型に変わって抜け出した。
突然の空気椅子状態に対応し切れず、2のリーロが地面に転がる。やはり同レベルの争いだった。
1のリーロはしめしめとした顔をして空に逃げる。やり返して気をよくしたようだ。ドヤ顔を晒していた。
『ぶぁかめぇ…私はMMだからこんな事も出来るんだ!時計の針に乗るなんてロマンチックなことはさせないよ!』
「コイツ…だが良いのかーぁ?私に媚びを売らないでよぉ?テメェと同一なのを利用して死に戻り逆行して拐ったのは私なんだぜ?」
『ふん、一人じゃ死亡からキッカリ15秒前にしか戻せないでよく言うよ。最大10分以内なら何処でも戻れる私の方が上だね!』
「へっコイツは傑作だぜぇ?五回制限のボケ魔法のクソの上に殺した側が有利になる魔法で言ってるんだからよぉ?ボケーっ!サーシャが死に戻る度に強くなってたのお前のせいじゃねーか!」
不良は大きく飛んで、ガキを掴んで地面に叩きつける。
罵倒を飛ばし乱暴な行為ではあったが、ガキがあまり痛がる様子がない。
やはり自分同士だからだろう。これでも最大限傷付けない配慮はしているようだった。
『いったー…でもさー、分離したのは不思議だよね。時間が融合後の3の世界より前なのもだけど、どういう理屈なんだろ』
「あっ?……知らないよ。私はこの幕を潜ったら3の方に行っただけだし、イキがった学者サマでもハナにつく王サマでもない。日々を楽しく過ごすだけのギャングだよ。なんだ?私がそんな高尚な奴にでも見えたか?」
『むー、しょうがないでしょ。私の所有者はサーシャ、その高尚な学者様だよ。MMと所有者は性格が混ざって平均化する。今の私の半分はサーシャなんだよ?なんだか気になるの!』
「……そうかい、あの外道の半分ね…ずっと自分が擁護してんのを聞くのは不快だったが…そう言う事なら…来い」
それを聞いた不良はガキの首を掴んだまま、幕の向こうに行かずこの場から立ち去り始めた。
粗々しいが、背丈の違いからか子猫を運ぶ親猫のようにも見える。少なくとも、悪意を持ってやっている訳ではなさそうだった。
『え、何処行くの?今ならMMになった姉を持つサーシャが向こうに居ると思うけど…会わないの?』
「私には関係ない。血を分けた姉妹だろうと、テメェみたいに喋れる訳でもないんだろう?中身に意識があろうと、それじゃあ死体と変わらない」
『生きてるお姉ちゃんを見た時すっごく動揺してた癖に…』
「そりゃ生きてれば100万回繰り返そうと助けるさ。…だが、どの道3の世界で生きてる方に負けて混ざるんだろ?…だったら、会っても意味がない。やる事をやった方がマシだ」
不良の口から血が垂れる。口ではそう言いつつ本当は会いたいのだろう。
知らず知らずの内に唇を噛みちぎってしまったらしい。今も気付いてないところを見るに、心穏やかでは無さそうだ。
『じゃあ、コレから何をするの?』
「決まってるだろ?抗争だよ。ありったけの武器と人を用意して、時計塔やら国やらぜーんぶ巻き込んで3の世界での主導権を得る。今は2が優先なんだろ?このまま押し切る為の下準備。…後はテメェと一緒に遊びにでも─」
「──行かせると思う?」
トンズラしようとする不良の前にサーシャが現れた。
「…っ!?」
『サーシャ!来るって信じてたよ!信じてたけどあの1万回殺しは無いと思う!』
ガキが人型と秒針への変形を利用して不良の手から抜け出し、サーシャの方へよる。
サーシャをそれを見て朗らかに笑い、撫でるように手を動かした。
「リーロも意識有ったんだ。だったらあんまり欲張らない方がよかったね。辛かったよね、大丈夫だった?」
『私はふわふわしながら眺めてるだけだったから大丈夫だよ?…でもちょっと辛かったかな、あの時は私も一部になってたから』
「そっか。やりすぎちゃったね、ごめん。今度お詫びに良い事してあげる」
『わーい!サーシャ大好き!』
────コォー…ン────コォー…ン──
「……気味が悪い」
普段通りに会話する二人を見て、頭痛に思わず抑えて不良が悪態を吐き捨てた。
別の道を歩んだ自分がやっていたからではない。
1万以上殺されたサーシャの優しい言葉を聞いたからでも無い。
その程度、裏社会を牛耳る過程でもっと悍ましいものを見て、体験してきた。
その上で、この
まるで演劇を観ているような、或いはのっぺりとしたマネキンが人の振りをしているような、精神が尖っていく気分になる。
何回も無理やり見せられた駄作の映画をまた観たような"既知感"。
或いは、静かに狂う苦痛に悲鳴を挙げる"時間の音"。
3の世界から帰還するという現象を起こしたからだろうか。何か、形容したくもない現状に置かれている気分になってくる。
「…おい、さっさと行くぞ」
『え、でもサーシャならここに』
「"あの手段は見えるだけで、次元の壁を乗り越えられる力はない。精々が拾うだけ"だ」
その言葉と共に、サーシャの姿がブレる。
クッキリとした幻像にノイズが走り、保たれた神秘の力の補正が剥がれ落ちた。
『うわ!…え、
[お…バレるとは思ってなかったな。どうやって知ったの?]
頭痛が酷くなる。何処かから自分が流れてくる感覚を覚える。
知識が増える。その内、積み重なった小さい自分の死体を幻視した。
(ザッと数えて11,042…なるほど、
気付く。コレはガキの自分の魔法によるものだと理解した。
その上で知らないフリをする。
「…私が知りたいね。ガキの私が言う「神秘」とやらが関係でもしてるんじゃ無いか?私より賢い頭で考えてた方が建設的だろうよ」
[…それもそうだね。なら、一つだけ言って私は去ろうか]
『え、なに?もしかして私、このまま2の世界に滞在する感じ?』
サーシャの幻影が目と鼻の先まで近付き、不良の耳元に口を寄せる。
どうやら、ガキには聞かせたくない話のようだった。
["その無い頭なりに
その言葉を最後に、サーシャの幻影は消えた。
観測を切り、3の世界でやるべきことをやるらしい。
「…言われなくたってやり切るよ」
自然とその言葉が出た。
先程まであんなに嫌悪を向けてた相手なのにも関わらず、この頭痛と感覚を対処していた先達だと思うと嫌いになりきれそうになかった。
…特に考えるべきことはない。バカの考えは休んでるも同然だ。
なら、私に出来ることは最大限行動してみせること。
それだけだ。
『ね、ね、サーシャはなに言ってたの?』
「テメェを殺し切ったら許さないだとよ。はっ言われなくたって自分にはそんなことしないっての」
『そっかぁ。なら安心だね!リーロはそんなことをするほど悪い人じゃないもん!』
「うるせぇ、私は悪人だよ」
ガキを抱え、闇に紛れる。
「……誰も居ない?」
その内静かになったのを察した司会が顔を見せるが、其処にリーロ達の痕跡は一つも存在しなかった。
黄昏が終わり、陽が落ちる。
長い長い夜が、始まろうとしていた。
「神秘/猿渡噺/3の世界」
二つの以上の世界が混ざる過程で発生しうる事象全ての総称、或いは矛盾を覆った
矛盾を解消する為のカバーストーリーであり、融合しようとする世界同士で演算した
完成すれば融合した後にその通りに動く「運命」に変化し、世界を矛盾なく運営する「星界航路」となる。
その性質上どれだけ異質な物や予期せぬ例外も、"この世界で起きた事象や法則は逆説的に融合後に現実の物として実体化する"。