不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計   作:何処にでもある

57 / 76


 一方その頃、深淵の奥で。0を1にするのは苦手なサーシャがどの様にして神になる魔法の基底を始めとする知識を得られたか。




競・子・五七

 

 

 location:「深淵・薔薇族の集落」

 time:6/27 17:00p.m.

 

「…お兄様、理解出来ますか?」

「…誰に物を言っている。神様の知恵を最も授かった巫女だぞ?…そういうお前はどうだ?」

「正直な所、理解し切れません。…正確には理解し難い…でしょうか。意味は分かっても内容を受け入れる事が困難ですね」

 

 枯れた薔薇のように薄い枯れ葉色の砂漠の小屋にて、二人の薔薇族が無数の本を手元に語り合っていた。

 かつてサーシャが飢えのあまりに産み出した薔薇族の最高品、兄たる転の巫女と妹たる鏡の巫女である。

 およそ2ヶ月前…薔薇族の習性でこの深淵で流れる時間が地上と同様のものなった影響で、長い時を過ごす事もなく月日が流れていた。

 だが、これはなにも喜ばしい事ではない。餌が無くなった薔薇族の同胞は皆して餓死し、薔薇族の生き残りは巫女の二人だけとなってしまったのだから。

 

「それはそうだが…神に見放されてから2ヶ月か。あの謀略を見抜かれてから…コレも償いなのだろうか」

「それだけだとすれば、このような書物は残らないでしょう。ここで餓死するか、私たちだけが転移に失敗して死ぬか…」

 

 鏡の巫女、ミラーが兄のミーコに嘆く。

 この2ヶ月間、彼らは水界結界を突破した先にある道を渡り、サーシャの隠し部屋や研究成果を学んでいた。

 始めは触れず、神を怒らせた罪として死を受け入れようとしたのだが、ふと眼に入った一枚の紙が彼らに生き続ける勇気を与えていたのだ。

 「考える薔薇に送る最後の慈悲」…そう書かれた題名と共に、薔薇族への最後の教えがあったから。

 

「慈悲…ともすれば、試練なのだろう。読み解き理解し、自身の肉として得る。そうして初めてこの罪が赦される…ならば、俺達は粛々と学びを得る他ないだろう」

「分かっています。分かっているんです…でも、この事実だけは飲み込む事が出来ない…!」

 

 

「"私達は偽りであり、後に続く現世の踏み台に過ぎない"など…どうやって受け入れようと出来ましょうか!」

 

 ミラーは立ち上がって心の鬱屈を吐き出す。

 それはこの世界の残酷な事実であり、自分たちが本物の為の試金石に過ぎないという事実だった。

 

「ミラー」

「分かるんです…鏡の向こうは本物だと!肉があり、その激情こそが本物であると!」

「ミラー…」

「この知恵を得た時から、そうと分かったんです…嗚呼…知らないままで居たかった…我々もその仲間だと思い続けたかった!」

「ミラー!」

 

 ミーコが声を荒げて哀叫を咎める。

 それはこの試練を課した神を責め立てる言葉であり、その行いに対する疑問だった。

 

「お兄様に何が分かると言うのですか!?コレは決して慈悲ではない!残酷で赦されることのない、終わらない罰です!!絶望のままに死ねと言う…神の悪意ある…!」

「…ミラー、言いたい事がある」

「何がですか!!」

 

 薔薇族は地上より信仰の深い者が多い。

 なぜかと問えば、赤子が親に抱く無条件の親愛と好意が含まれるからだ。

 そのことを考えれば、この発言は同じ一族であれば許し難い事であり、心底見損なう発言である。

 それを聞いた上で兄のミーコが取った行動は…。

 

「‭─‬‭─‬神も同じだよ」

「……はっ?」

 

 論す事だった。

 

「良いかミラー。この知恵は神から与えられたものだ。つまり、神も同じ視座を持っていた」

「…えぇ、そうですね。そうでしょうとも。でなければこの知恵は与えられませんから」

「ならば、分かるだろう?」

「何がですか!」

「ミラーと同じ絶望を、神も感じたということだ」

「……!!」

 

 共感。それは隣人を持つ生き物なら尽くが持てる思考回路であり、能力だ。

 しかし同時にそれは、共感する相手を己と同じ立場に、()()()()()()()()()()()()()

 それは即ち…。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

()()()()()()()()()

 

 堂々と断言し、胸を張る兄を見てミラーは息を止め狼狽える。

 どうしてそこまで堂々と、神か絶対でないと、そう言い切れるのか。

 其れこそ、最も理解出来ないことだった。

 

「……〜〜ッ!!神を侮辱するな!多少早く産まれた程度の存在が!私より劣る者が神と同列など…!!」

「…漸く本音を出したな、ミーコ」

「何を…!」

「その通り、俺は最初に神に創られた。つまり、神でさえ最初は失敗するんだ。なら、神は絶対ではなく俺達と同じ存在だろう?」

「っは!?」

 

 墓穴を掘ったと、して嵌められたミラーは気付いたが、もう遅い。

 既に神の不完全性は自分自身の言葉で証明してしまったのだから。

 

「神は不完全だ。だから俺達と同じく失敗もする。…きっと、神はあの時心細かったんだ。俺達は間違え続けた。神と崇め、同じ立場に立たなかった。だから神は俺達を置いてったんだ」

「…最初から気付いていたのですか。私が心の底を吐き出すまでずっと待っていたと?」

「その通り、一計謀らせて貰った。…過ちから学ばなかったからでなく、今度こそ失敗しない為に」

 

 そう言う兄の眼は、確かな意思を宿している。

 考える薔薇が、神に寄りかかるのではなく自分の根と茎だけで花を咲かせるのだと立っていた。

 

「……なら、どうしろと?神は共感こそを欲した。しかし我々は信仰を渡し、間違えた。…終わりでは無いですか」

「終わりじゃ無い。ここから始まるんだ」

 

 兄が手を渡し、立ち上がるように促した。

 

「間違えたなら、やり直せば良い。神はそうしてミラーを創った。なら、俺達もまたやり直せば良いんだ」

「…たくさん死んだんですよ?」

 

 ミラーは周囲を見渡す。

 砂漠には溶けて消えた薔薇族の色が広がっていて、自ら種の一つも残さずに消えた跡地があった。

 巫女達より知恵の足りない者ですら罪を子に与えたく無いと選んだ。その意思は、選択は間違いだったのかと、やり直さずに終わらせたのは彼らは間違いだったのかと、そう問うた。

 

「そうだな。沢山死んで、沢山間違えた。…だが、だがだ。俺達までそうする必要はないだろ?その間違いを背負い、その分進むんだ。死んだ者達が罪で苦しまず、安息の眠りになるように、()()()()()()()()()()()()()()

 

 間違えた。失敗した。

 だからこそ、その分も共に償うのだとミーコは言う。

 茨の道だ。だが、その茨は同胞の物だ。

 抱えるほどに棘で傷つくだろうが、それが罪を背負うと言う事だ。

 苦しむからこそ、歩むべきなのだ。

 

 ミラーの頭にある薔薇冠が萎びていく。

 激情は消え、深く深く澱んだ思考の底に沈んでいるのだ。

 諭されて理解したからこそ、神への批判で逃げるのではなく真正面から自分の罪悪感を受け入れた証左だった。

 

「……やはり私は、全てを受け入れられません。一生向き合っても、この事実を認める事が出来ない確信があります」

 

 ミーコは手を差し伸ばすだけで、それ以上の言葉を語らなかった。

 ここからは彼女の選択であり、自分の関与すべきものではなかったからだ。

 

「…ですが、同胞の過ちを背負い償うのはやるべきであると…確信しました」

 

 お互いに手を掴む。

 自分一人では無理でも、兄と同胞の為ならば歩き出せると言う。

 

「共に行きましょう。私にもその義務がある。……なにより、お兄様一人に背負わせたくは有りません。労苦は分かつべきですから」

「…ならば共に行こう。歩いてれば見えてくるものもある。その時まで、俺が側に居ると誓おう」

 

 その時、不思議な事が起こった。

 

「きゃっ!」

「…!?なんだコレは!」

 

 先ほどまで読み解いていた書物の文字が光り、小屋に風が吹き荒れる。

 資料が宙を舞い、一冊の本を起点にあらゆる書物が星のように順転を開始する。

 

「神様が残した知恵が…一体何が?」

「俺には分からない。…だがこのタイミング、もしやするともしやするかもしれん」

「まさか…神のお告げ?」

 

 驚きとほんの少しの期待。

 もしかすると今まで見守っていたかもしれないという高揚感。

 またお見えする為に何かある期待を込めてやっていた学びが実を結んだ瞬間。

 二人は全神経を伸ばして次に来る現象を見守っていた。

 資料の謎の線が魔力糸を介して繋がり、霧が発生し、隠れ家に置かれていた魂が反応して…。

 

 …ジジ…ジ…

[‭─‬‭─‬ふぅ…今日はもう休憩にしよっと]

 

「神様!」

「待て!…これは映像だ」

 

 ノイズが走るサーシャの幻像が現れる。

 水球を霧吹きを介す事でミストに変換し、其処に光属性の魂の周囲にある魔力を利用してホログラムを生成していた。

 こちらを気にしておらず、普段通りに動く様を見るに、どうやら昔の記録のようだ。

 

[何しよっかなー?魔力糸新たな利用法…新しい記録媒体…そう言えばシープにプレゼントした『通信』、新しくその場の風景とか送れたらステキだよね?よし、今日はそれにしよう!]

 

「…休憩で研究してますね」

「神様は働き者だからな」

 

 …と言っても構想図考える程度だけどねーははは。

 伸びをしたサーシャがそう言いつつ魔力を練り、魂の波長や道具を利用しない、設計段階の『通信』の魔法陣を魔力糸で描いていく。

 この時のサーシャはMRCを理解し切る前に創り上げ、うっかりそれを言ってここに落とされた時期のサーシャである。

 コレから途方もない苦労が待ち構えているとも知らずに、4月の初心が残っている時期だ。顔にはまだ表情がわかりやすく有り、未来に対して期待を寄せている頃でもあった。

 

[うーん…風景…画面…視覚…()()魔法…なら『換装(劣)』と組み合わせれば…試しに一回やってみよっか]

 

 サーシャはそう言うと、死に戻る過程で一応覚えたリーロの魔法の一部分を描き出す。

 未だ未解明の魔法であり、「眼で見る」行為と変わらない結果しか得られなかった。

 だからこそ、風景を魔法媒体での記録に変換するなら持ってこいだと判断し、組み合わせた。

 

[‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬?]

 

「なんだか神様の様子が…」

「……動かなくなりましたね」

 

 適当に組み合わせた魔法を行使し、動作を確認する。

 

 偶然の産物だった。

 

 何が悪かったか。そう問うなら、噛み合わせだろう。

 

 情報を受信する『通信』。

 重なった世界(Server)を個別に見る『換装(劣)』

 そして、世界の最も外側にある「深淵」という環境。

 リーロの知るゲームにはない想定外の三重層。

 

[‭─‬‭─‬きみは…だれ?]

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 『換装(劣)』は、声を掛ける事で自身を相手に認知させる特性を持つ。

 これは元々の『換装』がより的確な人格を得る為の機能として備わっていた物だからだ。

 考えてみて欲しい。

 世界の外で次元(Server)を、ピントを、調律する魔法で何が観測出来るかを。

 

 深淵はこの世界の外側、つまりこの世界に縁のあるものしか見えない。

 では外の世界とこの世界で縁があるものは何か?

 

 少なくとも、サーシャはそれで挙げられるものを全て観測した。

 

 リーロが人格を採取した世界の断片、過去に神様が通った道、星を支配する王と旅人…空間に刻まれた過去の記録群。

 属性学で干渉するような並行世界、この世界(仮想世界)を創り出した融合予定の二つの世界、あらゆる世界の様々な神の生誕と数多の神の設計図…干渉可能な接続端子群。

 

 最後に‭─‬‭─‬本来の道のりを捻じ曲げ、リーロがMMになる様にしたいつかのサーシャだった。

 

 


《3》→《███》

 

[きみは…だれ?]

 

「……ん?……あゝ、珍しい来訪者…いや、そうでもないね。うん、コレからやる事を考えれば腐るほど見ることになるものだろうし」

 

 モノクロの世界。

 しかし目が痛くなる程赤い空。

 数えるのも億劫になる死体の山の上で、時針を持った少女が休憩を取っていた。

 白めの髪に王都学園風のローブを着込み、リーロと似ている様で細部の違うMMを保有している。

 明らかにサーシャと似てる容姿だったが、大人びていて目元が真っ暗で見えないのが大きく違っていた。

 

「まあ、座ってよ。何回目か知らないけど、まあ100万は行ってないでしょ?大体…54万6697回目かな?」

[…分からない。その数の意味も、この世界も。私は転移の偶然で深淵に辿り着いて、色々あってここに来ただけだよ]

「あー…ごめん、それなら7000万台か。そんな奇跡、よっぽど最適化しないと無理だろうしね」

 

 自己に完結したことばかり並べて、釈然としないまま言われた通りに死体に座る。

 よく見れば、リーロに似た誰かだった。ふわふわとして、夢を見てる気分で"腹の座り心地が良い"と感じた。気のせいだったのだが、図らずもリーロの腹の座り心地は良い事になった。

 

[…それで、何があったの?随分と沢山死んでるけど]

「戦争かな。…いやね?世界を壊して資源を得ようとする人達がいてね?ソイツらに直接喧嘩ふっかけて勝とうとしてるんだ」

[へー。…勝ったの?]

「惨敗かな。でもまだ37周目だし、全然諦めるつもりはないよ。勝機も見えてるしね」

 

 上から風が来る。見上げれば、赤い空が近付いて来ていた。

 少し考えて、あれがひたすらデカい圧搾機であり、赤いのは世界の欠片なのだと、不思議と理解した。

 …コレでは戦争ですらない。ただ、作業の様に殺されているだけだ。

 

[なんであんなのに勝とうとするの?果物と人間並に戦力差があるけど。逃げられない?]

「んー…出来るよ?出来るけど、それじゃあ最新の未来から数えて3ヶ月程度で()()()()からね。私は幸い昔の人間だから、寿命まで死ねる。でも、それは未来の子孫を助けない理由にはならない。だから頑張ってるんだよね」

[子孫!?相手は!!?]

「おおう…随分と肉食系だね…」

 

 上から死が降りていると言うのに、二人は未来に目を向ける。

 やれ相手は誰だと問い、5〜6人候補が居るけどハーレムは無理だよ?と返す。

 赤色の光で照らされているのもあり、昼下がりの女子の明け透けな会話のようだった。

 

「まぁ、それは良いや。兎も角、私は子供達の為に頑張ってて、"私では無理な相手"を何とかする為に世界を捻じ曲げる予定。貴女はその結果、若しくは過程ってこと!」

[……それだと、貴女はどうするの?]

「むっ…」

 

 簡潔にまとめた直後に疑問を投げかける。

 詳しくは聞いてない。事情も分からない。作戦も知らない。

 だが、"全て成し遂げた後に、この人の居場所は無い"のはハッキリと分かった。

 

「…はぁ。全く、誰に似てこんなに聡く…旦那か。…ま、どうせ勘で言ってるだけでしょ?そんな子に教える事なんてありませーん!自分の力で頑張ってくださーい!」

[うぅ…自分同士なら親切にしてくれたって良いのに…]

 

 サーシャはイジけて、魔力糸であやとりを始めた。ポーズとして分かりやすい方法を採用するぶりっ子仕草だ。サーシャらしくなく、親に甘える子供のようにイジけていた。

 

「……ま、確かに言葉の一つも贈らずに済ませるのはアレかな。うん、それならちょっとだけ教えてあげよう」

[わーい。コレに勝つ方法ってなに?]

「おっと泣き真似…姑息な子だね!…ま、やり方は簡単だよ。勝つまで強くなって勝つ。リーロの固有魔法弄って色々そうなり得る流れを作るんだよ」

[へー。研究者にあるまじき脳筋戦法だ]

「煩い、結局レベルを上げて死ぬまで殴るのが一番()()んだよ!仲間もいればより上出来だ!」

 

 頼れそうな仲間が全員死んでる奴の発言は一味違うと、サーシャは死体の山を見る。

 何をどうすれば"死体が積み重なり心臓だけが腐る"のかと、疑問を抱かずにはいられなかった。

 

「……ま、そんな感じだよ。お前は荼毘に伏した私とサーシャの意思を継ぐんだから、その分日々を懸命に生きていればいい。"果実が突然樹木になったりすれば、衝撃で真上に居た人が死ぬこともある"。人の一生なんて、世界にとってはそのくらい短いんだ。それを逆に利用してしまえ」

[…自分でやらないの?]

「生憎、成長や進歩を加速させる都合の良い魔法なんて「神秘」的に作るしかない。それを使い熟せる人も、同様に「神秘」を宿さなければならず……っとと、話し過ぎた。さぁ、もう帰る時間だ!目を覚ましな!」

[あ、うん]

 

 サーシャがそう言うと共に、魔法陣が周囲に展開される。

 年齢不相応に熟達した、一歩ずつ努力して積み上げた繊細な魔法だった。

 視界が歪む。いつの間にか涙を流していたのだと気付いた。

 

『"さぁさぁ、親と子の絆の魔法の時間だ!どうせならと完璧を追求して何百年!長くこの席に座ってはいたが、1周目でカタを付けないとダメと知った以上、私は山河に降ろう!即ち継承の時間、参加資格がある物はこの継承戦に集いたまえ!"』

 

 …ふと気付く。"まだ、名前を教えて貰っていない"。

 何となくサーシャではないのは分かる。髪色も年齢も、要素以外は全く違ったのだから。

 急いで尋ねる、尋ねようとする。

 出来なかったのは、"周囲の自分によく似た声に掻き消されたから"だ。

 

 うぉぉぉぉぉぉ!!!!!

 

『"良い声だ!未来を渇望する若造がよくぞ吠えた!だが我ら皆姉妹なれば、最上を決めるのは全てを尽くして行わねばならない!それこそが継承戦、神秘を持つ為の定め!"』

 

 "無数の可能性で繋がった一門がこの場に集った"。

 "叫び、燃え上がり、自分こそが魔法使いにすげ変わろうと虎視眈々と睨み合う"。

 "魔力も魂も存在しない者達の宴が始まった"。

 

[…すごい]

 

 サーシャを置いて魔法は続く。出鱈目だった。

 四属性にも、固有魔法にも当て嵌まらない。詠唱も起きている現象も常識外。

 しかし、成立する。成立している。自分の知らない法則を利用し、それを以て完成へと至っている。

 

『"さぁゴングを鳴らせ!勝負を仕掛けろ!無差別デスマッチの開催だ!自分の可能性が一番だと思い知らせてやれ!"』

 

 その声と同時に集まった人々が殴り合い、魔法を使い、知恵を比べ、争い合う。

 負けた人から続々と消えていき、すぐに一人だけとなった。

 

[…うそ、私がいる]

 

 モノクロの風景から浮いた蒼い髪と黄金の目の、体格のある血濡れた自分自身が居た。

 

「よくやったな。じゃあ未来とお前の為、頑張れ。私はリーロの魔法の一部となって見守っているからね。全力で使い倒してこい!」

 

 途端、疑問が溢れる。"ふわふわとした感覚がなくなり、視界がクリアになった"。

 こんな魔法を使えるなんて何者なのか、生き残りは何故私と同じ見た目なのか、私はなぜこの景色を見れているのか……しかし、挙句に出た言葉は一つだけだった。

 

[教えて!貴女はお母さんなの!?]

 

 帰って来た言葉も、一つだけだった。

 

「はっ気付くのが遅いよ、バカ"息子"」

 


《███》→《3》

 

[‭─‬‭─‬お母さ‭─‬‭─‬プツン…

 

 ぼーっと倒れていたサーシャの幻影が起き上がり、手を伸ばす。

 それを最後に映像は終わり、映し終えた本は自然発火して自ら燃えて消えてしまった。

 残ったのは机の燃え跡、意図的な発火で簡易的に暗号化された、深淵からの抜け出し方だった。

 来るなら来いと、そういうことなのだろう。

 

「今の記録、どう言う意味だと思いますか?」

「さてな、肝心の部分は俺たちには見れない…いや、見れたかも知れないがその手段に思い至らなかったらしい…だが」

 

 ミーコは机に刻まれた暗号を読み解き、知恵の輪郭を顕にする。

 そこに刻まれていた文のウチ3行の数字は、転魔法の座標に使える物。

 もう3行は、鏡魔法の観測に使える物だ。使えば、先ほどの記録に再挑戦出来るだろう。

 

「やり直せる手段はここにあった。いつでも神様の下に行けるだろうが、先ずは観測に挑戦しよう」

「…そうですね。確実な成功と誠実な努力、コレに勝る信用はないでしょうから」

 

 二人はもう暫く留まることにしたが、この地から立ち去るのも時間の問題だろう。

 それがいつになるかは…案外、もう直ぐなのかも知れない。

 

 






「魔力熱」
 魔法にする工程を分解して考えた際に、魔力に質量を与える前段階の技術となる魔力に熱を与える技術。
 火属性は勿論、水属性でも、水を人肌程度まで調整する際に無意識に使用している。
 意図的に使う者は稀であり、魔力の消費を気にしなければ水属性でも何かを燃やすことも可能。
 テクノロジーツリーの一つには「燃焼」→「熱の維持」→「熱の線」→「温度差による魔法陣」→「ホログラム」→「科学的観点による魔法制御」など、基礎的な技術が多い。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。