不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計 作:何処にでもある
押し寄せる攻略対象と、その関係者。
あの後入学式が終わり、学園内の案内をされる事になった。
全員がショックを受けてる間に学園が故郷だと刷り込ませる思惑もあるが、普通に今日中に寮とかを案内しないと野宿になるからだ。我が家を忘れたもんな。
初日はゲームでも流しだったので、俺も流していく事にする。
内階段を登り、どこまでも上に続く学園塔の中で。
「Aクラスはここです。くれぐれも忘れないように。では戻りますよ。」
「一発芸、墜落するハーピィ」
(ひゃっはー!階段から落ちるとすごい楽しい!『浮遊』で怪我しないようになってるから、降りる時は落ちればあっという間だ!)
ワァ…!!
「ウケた。笑いの基準低くなってるね」
「サーシャ、グループから離れないように。」
(うん、記憶が穴抜けになったから、感性が子供に戻ってるんだ。明日には戻るんだろうけど、幼稚退行かぁ…それはそれとして、たーのしー!)
無限にその蔵書を増やし続ける図書室で。
「全員で協力し、ここに書かれた本を人数分探してください。「浜辺」の領域に全てありますから、そこから奥は厳禁ですよ。」
「はい、近くの5人1グループ作ってー、指示役、時間を見る役、地図を見る役決めて。残り2人は探索に集中する役にするんだよー」
(なんか…集団をどう動かせば良いのか分かる…コレが私のMMの力ぁ!さっきの一発芸で注目度高めたし、なんとなく従う流れが作れてる!)
いっしょー!おれりーだー!わたしさがすね!
「これ明日には治りますよねダンテ先生。そしてこの状態でやる理由はなんですか?」
「治ります。理由は、抜けた幼少期の記憶の代用です。サーシャはレジストしたみたいですが、抜け落ちた記憶の分だけ人間関係を作る力を無くしてますから。」
(合理的だけど…やっぱり倫理観が終わってないかな。それとも、こうしないと争いが起きちゃうのかな)
最後に、外と中の大きさが狂いまくってる寮にたどり着いた。
ちなみに寮は「赤」「青」「緑」の3つがあり、三年が立ち去った寮を新しく新入生の寮にしてるらしい。
サーシャ達は「青寮」で、2年が赤、3年が緑だ。
「ここが寮で最後です。食堂は2階、個室か共有は選べますから、好きな部屋を選んでください。先人が置いていったものが多々有りますから、選ぶのは慎重に。共有なら男女は別れてくださいね。寮長は私ですので、問題が有ったら相談に来てください。」
「個室にしよ」
(せっかく記憶があるんだし、学びの多い部屋が最適…つまり個人的なものがある個室有利…!友人関係が作れる共有もいいけど、将来的な実験や研究を考えると個室だ)
お、ゲームと同じ利点欠点を見抜いてる。
研究はトラブルが付きものだからな。
1周目も同然なら、個室一択だ。
因みに一番サーシャと相性の良い部屋は123号室だぞ。
休息時にストレスが一番減る部屋で、前に使ってた奴が地下室を作ってて何かと重宝するから。
「一階だけで50部屋…階段の昇り降りを考えると…」
(2階3階や奥部屋は移動が論外、10部屋事に廊下が別れる…程々に人通りが少ない部屋が寝心地良いよね。後は覚えやすい番号で…いろはにほへと…123号室にしよ!)
だいぶ俺に染まってるなぁ。いろは歌歌い始めたよ。
…本当に、思ったより、MMの影響がデカいな。
ここまで来ると、ゲームのサーシャもリートの影響受けてたりしてたのかも。
そうなるとゲームとは性格変わりそうだし、展開も変化が多くなりそうな気がして来た。
…既に細かく変わってるか。本当にゲームの流れがアテに出来ないな。それでも役に立つけどさ。
ガチャ、
「お、クラシック。気に入った」
(…良いじゃん。田舎から来た私に優しい、昔っぽい雰囲気だ。学園の中から見たけど、王都は光り輝くデッカい塔が沢山あったからなー。ネオンの光ー…)
ぽすん、…すぅ、すぅ、
サーシャは早速ベッドに飛び込み、そのまま寝た。
はしゃいでて疲れてたんだろうな。でもドアが開いてるままなのに寝るのは不用心だぞ。
王都の街並みが殆ど現代だったり、この世界の貴族らしさは現代人らしさである事とか、無理もない話だけど。
「…やや、ぶよーじんななおじょうさまだ」
そんなだから、ゲームでも現実でも別の人がお邪魔してくるんだ。
「ううんと、むきをあわせて…ふとんはかけて…なんだかしっくりくるきがする?」
黒髪で塩顔の生徒が、一つ一つ手順を確認しながら、本来の自分を思い出そうとしていた。
「むー…ぼくはだれかにつかえてたのかなー…このひとかな?」
仕えてたのは合っている。サーシャでは無いが。
侍従としてはあるまじき幼稚な言動だが、今日はサーシャ以外みんなこうだから問題ないとして…突然やって来てお世話するこの男、攻略対象である。
「なんだかおてんばなひとにしたがってたはず…ならあってるはず!おぉ、うんめい!」
わーはーはー、
紹介しよう。攻略対象の1人だ。
塩顔のイケメンで、黒い髪が割りかし長く、夜空みたいな目の持ち主。
服装は制服なものの、トランプと手袋や細やかな所作、アクセサリーなどから執事かホストのどっちかをしている者なのは理解できるだろう。
仕事は出来るタイプ、ただし中身は割と愉快側。本来仕えていた主人に影響されたのだろう。
その名前をヘルシング・スミス。
攻略キャラにして、ある事件にて、仕えていた富豪の家族、その一人娘しか守れなかった男だ。
その一人娘に転生した夢小説をよく見かけたぞ。
「ならば!ぼくがやるべきことは、かんぺきなあさをよういすること!とりゃー!」
見なよ、仕事中の仮面を被ってない、ヘルシングの貴重でも無い素面の姿だよ。
…誰しも若い姿は有ったのだろうが、青年姿だと見てらんないな。
ゲームだと本来の主人である生き残りの娘が、忘れてる筈のヘルシング関係で、なんか気に食わないって理由でサーシャに突っかかってたんだけど…俺の影響を受けてるなら…どうかな、結構流れが変わる気がするわ。
「むむ…でかいいやり…あぶないのでたてかけましょう」
…そう言えばヘルシングの手袋とトランプ、MMなんだよな。
丁度触って来たし、話しかけてみるか。
「こんばんは、ご挨拶に伺いました」
「あらあら…これはまた小さな訪問者ねぇ?」
「…なんのようだ?」
商国式の、女性らしいカーテンシーでお辞儀をする。
イギリスモチーフだからな、リーロが死んだ時の格好はワンピースだから、割と格好付くんだよ。
顔合わせ程度だし、すぐ手を離すだろうから簡潔に言うか。
「あなた方の執事が、誤解でサーシャに仕えそうなので。暫く一緒に居るでしょうから、顔合わせを」
「それはそれは…丁寧な子ね?身姿に似合わないわぁ」
「その程度で一々来なくて良い。商談の種もない者同士の会話程、くだらんものは無いからな」
「あなた、キツい言葉はおよしになって。どうせ死んだ身なのですから、軽く行きましょう」
「ふん、生きてなどおらんだろうに」
銀髪と金色の目の婦人と、金髪と茶色い目の旦那が、夫婦漫才をしながらこちらの様子を伺っていた。
急な訪問なのに優しい警官と厳しい警官の役割をすぐに演じるとか、流石商国で富豪となった夫妻だ。阿吽の呼吸だな。
尚、手袋が旦那でトランプが婦人だ。死んでも執事の手元で娘を見守ってる辺り心配症な家族だよな。
そしてこの光景をゲームの知識で当てはまると…結構好印象っぽいか?
ゲームだとどっちもツンドラだったし、来てよかったな。
「では早いですけど、これで失礼しますね。もし言いたいことが有ったらこうして話し合いましょう。触れて会話したいと思えば出来るそうですから」
「あら、お名前を聞くのはまた今度なのね?仕方ないけど、やっぱり不便よねえ」
「所詮杖だ、勝手は出来ん。……あれば妻にその身の一つを使わせる。覚えておけ」
「では、トランプが転がってたら捲ることにしますね」
こうして隣人の挨拶も済み、朝を迎え、
「おはようございます、お嬢様。本日は初めての授業の日です。寮の朝食をしっかり食べ、英気を養うとよろしいかと」
「…ん?……んん?…だれ?」
「あなたの執事です」
「人違いですけど…?」
「わはは、僕がお嬢様を間違える訳ないじゃないですか。さ、朝の支度ですよ」
(…あー、扉開けっぱなしにしてたか。今頃本当のお嬢様困ってそうだなぁ。普段から手伝ってもらってる人が忘却もしたら、絶対散々な朝になるよね)
サーシャがまだ見ぬお嬢様に同情と憐憫を向けつつ、
「…ヘルシングの名前は?お嬢様って人なら覚えてるだろうけど、私は違うから教えてよ」
「そんな、お嬢様も記憶を無くされ…覚えてるじゃないですか」
「……違う、これは本当に違う。勝手に口から出て来た」
「つまり、僕がお嬢様に仕えるのは運命なんですよ」
「むぅ…」
(今ぁ?ダンテ先生と同じことを、よりによって今ぁ?MM、変な情報を送りつけるのはやめて。知人なんだろうけど、今はややこしい!)
俺への文句を考えながら朝食を食べに向かった。
「…?どうされましたか、お嬢様」
「お嬢様じゃない。私はサーシャ」
「では行きましょう。サーシャお嬢様」
「あっはぁ、さては結構な堅物だな?」
ごめん。俺がやってる訳じゃないんだ…弁解できないのがもどかしいな。
そんな風にもやっていると、青寮の食堂に到着した。
朝早く来たのにも関わらず人が多いのは、そもそもの母数と普段の生活からだろう。
村娘のサーシャのように、身分の低い者程朝は早く訪れる物だからな。
「…ここに居るのはお嬢様じゃ無いか」
「サーシャお嬢様、そろそろ自分がその人だと認めたらどうですか?」
「違うと言っている。ヘルシングもランチAにしとくよ」
「ふっ…長い説得になりそうですね。ランチBで」
「問答無用。パンの上に焼いたベーコンとチーズ、卵を乗せるなんて豪華セットは見逃せる訳がない」
「ふっ…ランチBで!」
「分かった分かった。A1つとBの2つね」
「わーい!食べ切れるかな…」
(…面白い男だなぁ。もう少しこのノリに付き合おうか)
因みにここ、ゲームだともうちょっと真面目な会話だった。
この変化はサーシャが相手のノリに合わせることが出来てる影響だな。
…よし、ようやく言語化出来た。俺の影響を受けてる、を具体的に言いたかったのがやっと出来たわ。
ドッサリ…、
「うわぁ、座ってる僕を超えた…もしゃもしゃ」
「神に感謝を、いただきます…2つ言っちゃった」
「もしゃもしゃサーシャお嬢様も忙しそうですねガツガツ」
「ヘル、お前はちゃんとフォークとナイフを使いなさい。ほら、手袋も汚れちゃって…綺麗にするから両手寄越して」
「お願いしますお嬢様!」
(…犬みたい。尻尾と耳が見える気がする)
サーシャが子供に食べ方を指導するお母さんみたいになってる時、食堂の入り口から、見覚えのある寝癖のある銀髪が見えた。
銀色のウェーブのある外ハネ髪と茶色の目、寝巻きは1人しか思い当たらないしあの子かな。
ゲームではこの後意地の張り合いでライバル宣言とか有ったけど…ヘルシングが普通に引き渡されるとみた!どうよ。
かつかつかつかつ、
「はい、水属性の浸透。生活魔法の二つ名の由来を思い知れ」
「新品になった!すごい!」
かつかつゴッ、ガっ、「わっ」バシン!
「お嬢様!」
こっちに向かって歩いていた女の子が何も無い場所で転び、サーシャを巻き込んで倒れる。
上側の女の子の無様な転倒であり、下側のサーシャの見事な受け身だった。
「びっくりした。あんな転び方出来るんだ」
「………さい」
「大丈夫?痛いところあった?」
「私のヘルを返しなさい!」
「ヘル、保護者が来たよ」
「お嬢様になんてご無礼な事を!この無礼者が!」
「お前はバトラー失格者だね」
「ヘルになにをしたこの……このぉ!」
「お前は罵倒のレパートリーがミジンコだね」
(…痴話喧嘩なのか巻き込まれたの?…取り敢えず食事優先しよ)
「取り敢えず2人とも、お腹いっぱいにしてから話そうね。お腹が空いてたら気が短くなっちゃうから」
「「………もしゃもしゃ」」
(あ、簡単に言う事を聞いた…昨日の発言レベルが残ってる?幼少期の刷り込みとやらで、何となく言うこと聞かないといけない気がするお姉ちゃん…辺りになったのかなぁ)
「なら…みんなに食べ方のやり方を教えようね。今食堂にいる人達、全員静聴」
(だったらやるべきことは一つだよね。この作法を忘れた野蛮人達に文明を思い出させなきゃだ)
言うことを案外素直に聞き入れた2人を見て、サーシャは今日も騒がしい日になりそうなのを実感しつつ、まずは見苦しい光景を変えることにした。
うん、ヘルシングだけじゃ無いもんな。そりゃあそれに囲まれたら嫌な気分になるよな。
今からもっと増えるなら、尚更見本は多くした方が良いだろう。こういうのは先例に倣う物だからな。
そうしてゲームでの朝食イベントは、サーシャの食事教室に変化した。
…どう変化するのか、予想するのやめるか。
「イマジネ商国」
神様が世界を調律し終わった後、世界中にその痕跡が残り、それは深淵と呼ばれました。
神の力の片鱗が歪な形に残る場所、それは何れも素晴らしい宝として、人々を魅了しました。
そうして探窟家が降り、誰も身に覚えのない市場が出来、商いの国となりました。
国体が無く、誰も対価を払ってない国は、今も契約者を求めています。