不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計 作:何処にでもある
今まで築いた策略が実を結んでいきます。実に浪漫がありますよね。
「はい質問」
「どうぞリーロ」
「私がなんで生き返ったのか、やっぱり教えて欲しいなって」
「矛盾を整理して出来そうだからやった。気分はどう?」
「最高だけど…アッサリ終わってしっくり来ない…」
「そうする為に頑張ってたからね。私としては苦労が報われて感無量だよ」
神学の授業にて、神の祈りを学んでいたサーシャにリーロが話しかけた。
周囲は集中して祈っていたり、写本を行ったりと各々に別れているものの、今くらいのヒソヒソ話には気付かない程度には真剣に取り組んでいる様だ。
それを尻目にサーシャは唯一残ったアンリマユの神性を利用した祈りを考案し、リーロは本に落書きを行いながら雑談に興じて居た。
方向性は違えど授業に対して不真面目な生徒達である。
「真面目にさ、こっそり計画建ててた?ゲームのサーシャも暗躍出来たし、殺しの工程を含んだ事、やってたでしょ」
「リーロ、見た目はアレなのになんだか賢くなったね。前よりもずっと鋭い意見で感激を覚えるよ」
「私、コレでも裏世界の支配者と今を折半したんだよ?子供のままよりは賢くもなるよ!」
リーロはそう言って頬を膨らませ、プンプンと怒りを顕にする。
サーシャがこうなのは前世から重々承知していたが、それでも少しは教えてくれても良いじゃんと拗ねたくなる気持ちも同じくらいあったのだ。
それはそれとして、サーシャは色々切られていてほぼ全裸になっている学生服はどうなのかと思った。その辺りは全く手をつけてないので、完全にリーロの趣味という結論になるのだが…。
肌着なし、ローブの下に着る服無し、肝心のローブも胃の辺りから前と後ろと横に切れ込みが入れられている。スリット…と言うには幅が広い。辛うじて腰紐でワンピースっぽくなってるが…それだけだ。
ヒラヒラどころかビロビロな服だなぁ…と思わずにはいられない服である。髪が無ければ尻なんて丸見えであった。
「真っ当な学生になってもこの方向に行くのは止まらないかぁ…」
「……なんのこと?」
「いや、服は普通のを着れないのかなって」
「…? ひらひらしてて可愛いでしょ?」
「確かにひらひらしてるけどぉ…男子の眼に毒にしかならないって言うかぁ…風俗街で見る様な格好だし普通の服着たら?」
「やだ。ダサい、暑い、開放感がない。断固拒否する」
「うーんこの…」
──この露出狂は矯正出来ないな。
サーシャにも不可能はある。それは未開花だったり成長途中の性癖の修正も含まれて居た。
終わりのないものに太刀打ちできる言葉を、持ってなかったのだ。
再調律を機に性欲を封じる暗示を解いたの早まったかな…サーシャは少しだけ悩んだ。
「…じゃあ授業に戻ろうか。明日から夏休みなのに、落書きを提出して赤点補習になるのを見逃す程私は優しくないよ」
「それ言うのは反則じゃんねぇ?」
そんなこんなで最初の質問を誤魔化されつつ、リーロはサーシャの監督の下、写本に精を出すこととなった。その様子は友人と言うより保護者と子供だったが…その内リーロが成長すれば変わるだろう。
「さーて、次のページを開いてやってこう」
「もう…サーシャ、あまり信用を使い過ぎないでね?何かしたのを誤魔化されてるのも大変なんだよ?人は結構好奇心旺盛なんだ」
「あはぁ、滅相もないね。あの時の私は正気じゃなかった。それで済む話だからね」
「むー」
あの後、サーシャは弁明をあの手この手で誤魔化した。
狂気に染まってたから自分の意思では無い。穴抜けの情報で要領を掴ませない。他の話題に注意を向かせる。
サーシャとしては余計な不安を撒くような事をしたくないし、今後の事を考えると"たかが世界が滅びる程度"の話に余分なリソースを当てたくないのだ。…とはいえ、これはサーシャの好みや性格に由来する配分だが。
世界を国として考えると分かりやすいだろう。多少は先の外患より、内側から崩す内憂をサーシャは優先しているだけの話だ。その多少は先の話も、
確実に6年は先の話より、3年先の戦争、1年先の革命、45日後の飢饉、翌日の──学園解体だ。
「クラスのみんなにお知らせが有ります。」
それは余りにも早い話で、急な知らせだった。
「白鯨、授業の取り戻し…延期に延期が重なり、漸く明日始まる夏休みですが、残念な事に明日"だけ"になりました。」
まさかの展開、生徒の誰もが想定してなかったこと。
「…と言っても急なので簡潔に経緯を話しますと、本日の早朝にこの様な手紙が有ったんですよ。」
或る者は唖然として、或る者は冷静に見守る。
その中で唯一経緯を把握していたのは、
「──[狩人は再び血を求め彷徨う。望むならば書き記せ、獲物の名前を]……10年前、王国の貴族を狩り尽くした「狩人」が再び動き出しました。」
やったことは単純だ。「狩人」が動き出す要素を呼び出すのにダルクを使った。
「同じ手紙に入っていた魔道具は「獲物の印」…人の名前だけ書くことの出来る紙であり、全ての紙に書かれた内容が共有される物、書かれた人を殺す度に力を与える物でもあります。…別名、「狩人が絶対に殺りに来るリスト」です。」
元々「狩人」とは異世界の人物だ。偶然深淵が人物の情報を取り込み再現し、不完全にこの世界に再誕した。
サーシャとダルクがやったのは、その不完全を補う物の引き込みだけだ。
本来必要な過程を全て無視して、召喚しただけだ。
狩人が本来の姿に戻りたいなら、流れる血が圧倒的に足りない状況だった。
「昔は依頼上限が右上にあったらしいですが…「今回はそんなの無いしめっちゃ死ぬよ」と当時を見た方からお墨付きを頂いたのでヤバいです。…その上で言います。」
手元にある紙をこっそり見る。無秩序にばら撒かれた印の紙は、半身を呼び出した礼も兼ねてるのかサーシャの手元にも届いていた。
しかも、試しにサーシャの名前を書こうとしてもインクが滲まないおまけ付きだ。ダルクやジャンヌの方は書こうとしたら滲んだのでやめたが……計画通りだ。
サーシャの身体でやったから、狩人はサーシャに恩義を感じて例外にした。
だから、サーシャは狩人に怯えなくて済む。
最高級の暗殺者に怯えず、大手を振って活動出来るのだ。
──これで有名になるリスクの大半が消えた。
「──教師、生徒、工房街の住民、旅行者…例外無く、本日学園に居る全ての人の名前が有りました。…明日全員で顔を合わせられるか、既に怪しいでしょう。」
だからこそ、敢えて学園関係の名前を書いたのだ。
だからこそ、此処で「狩人」を殺して名誉を稼ぐ。
「これを書いた依頼人の要求期日は明日の夜明けから日暮れまで。…未だ夜が続いている状況において、これは正確な時間が測れない内容です。…恐らく、狩人の実力を測る目的の依頼。時間までに逃げ切れば生き残れるかもしれません。」
名簿は大霊書庫から。自分の名前は魔道具の管理機能を乗っ取って書いて、自分が犯人だとバレない様にした。こんな事をする以上、自分の命くらいは賭けなければ話にならない。リスク?この一回以降がなければ上々でしょ?
横で凄い勢いで見ているリーロは後で明日には口止めするとして、後は守り切るだけで良い。水魔法で護れれば、自然と学園内唯一の使い手であるサーシャがやったのだと注目と好意が集まるだろう。
まぁ、多少死んで貰いたい人が死ぬのを見逃すかも知れないが…謀殺程度、戦争の前準備としては優しい方だろう。
その為に
「以上、これから命を賭けた鬼ごっこが始まります。…最後まで諦めずに明日を願うか、諦めて夏休みを享受するか…私たちは定めません。望むならこの後忘却の印から解放すると、学園長からも許可を頂きました。」
時計の針はクルクル廻る。
学園は安寧と平穏を下で素晴らしいものを築いたが、同時に余りにも歪な塔を築いてしまった。
無理矢理築き上げられた平和は、将来余計な悲劇を産む。戦争の規模を小さくするにはこうするしか無い。
即ち、学園を半分殺し解体する他ない。
「どうか、後悔しない選択を。短い間でしたが、先生は君たちを受け持てた事を誇りに思います。」
斯くして、学園にいる半分の人にとって最も短い一日が始まった。
location:「工房街・辺鄙な裏路地」
time:7/12 4:00a.m.
「あ…雨だ」
闇が晴れて街灯が道を照らす中、或る学園生徒が雨脚に気付いて火で傘を作る。
パチパチ、ジュウジュウと水が弾け蒸気になる音の中、急足で目的地に向かう。
大雨になりそうな気配が、白鯨の時を想起させて嫌な気持ちになったからだ。
「先生は狩人がどうとか言ってたけど…それなら誰も訪れない様な辺鄙な場所に隠れれば良いよね。工房街の「隠された地下通路」の奥の奥、今は水没しているからこそバレにくい筈…」
作戦は至って単純。火の魔法で膜を生成し、水を避けながら最奥の場所で縮こまるのだ。
この世界の火属性の人類は無補給でも一月は問題ない。水という相性の悪い環境でも、1日潜り続ける程度容易に出来るのだ。
「あった…此処から入って行けば…アレ?」
昔見つけた入り口から入ると、
「あはは…緊張してるのかな…あれ?…立てないや」
くるぶしから先が無い。糸の設置罠だ。
足首を挫いたのだろうか。力が入らず、進めない。
ナイフが首に近付いている。
少し休憩しようと思い、壁に寄りかかった。
ポトリ。
(…あれ?…声が出せな……)
視界がひっくり返って、頭に衝撃が走った。
何処からともなく、声が聞こえる。
「ハーバー。帝国産まれ。依頼「どの未来でも毒ガス兵器を開発するから」…完了」
その死は恙無く実行され、首を刈り取られる事で終わりを迎えた。
影が伸びて、死体と頭が取り込まれていく。
終わる…が、僅かな時間…影に取り込まれる間に聞こえたものがあった。
「ランスロット。王国産まれ。依頼「騎士道と言う名の共産主義は邪魔」…完了」
「トリスタン。王国産まれ。依頼「魔法の躍進にとって害悪」…完了」
「ガンジー。神国産まれ。依頼「革命主義者は黙っていろ」…完了」
「アドルフ。帝国産まれ。依頼「お前が居ると将来泥沼になる」…完了」
「トネリコ。商国産まれ。依頼「大罪人の処刑2」…完了」
「ジャンヌ。王国産まれ。依頼「戦争のルール守らないのは…」…完了」
「カルメン。神国産まれ。依頼「お前が居るとカーリーが神国に付いちゃうから」…完了」
「フラン。帝国産まれ。依頼「お前が居るとダンテが帝国に付いちゃうから」…完了」
「アンゲロス。神国産まれ。依頼「大罪人の処刑1」…完了」
「コウシ。商国産まれ。依頼「今は平和じゃなくて争い競う時代だ」…完了」
「コウメイ。帝国産まれ。依頼「敵国の将来有望な軍師になるから」…完了」
………………
………
…
(ああ…)
それを聞いて、悟った。
私は、摘み取られた有望株だったのだと。
幸福になる筈だった輝く運命を見た誰かが、こうしたのだと。
そうやって自分の可能性に気付いた頃に、彼女は悔やみながら息絶えた。
location:「学園塔・屋上の間」
time:7/12 4:03a.m.
そうしてハーバーが息絶えた頃、ほぼ同じくして生徒が学ぶ教室が積み上がった塔の最上で、一人の老人が雨も気にせずに居た。
「…これで、儂の学びの園も終わりか」
学園長である。
一つため息を吐くと、全方位に結界を張る。
途端に全方位から襲い掛かるナイフの雨が降り注いで結界を破り、老人は転移で回避する。
転移先に投げ置かれていた槍を身体を捻って避け、避けた先に3方向から襲い掛かる3本の矢を魔杖で弾く。
休む暇もなく足元が崩れると、共に落ちる瓦礫の隙間から17の
「全く、相変わらずの連撃と暗殺術…腕は衰えてないのう」
一瞬の
爆破を転移で避けた直後に、周囲一帯を太陽の様な火の球で覆って支配する。そうして自分以外の魔法が使えない領域を展開した。
そして太陽から漏れ出す日差しの様に火柱を手当たり次第に発射し、周囲の塔を壊し尽くした。
外に出た太陽は辺りを照らし、影も残らない程に光り輝いた。
だが…それで終わった。
「…気配の無さも相変わらずか」
人が入れる余地はない。転移で襲われる余地もない。
魔法も利用できる環境も排除したのに、武器は突然現れて老人を突き刺した。
心臓、肺、脳、肝臓。確実に仕留める四撃であり、常人なら一瞬で死ぬものだ。
それを姿を出さずにやってみせた。ただの暗殺者でないのは明白だろう。
「…だが、神を殺すには至らんな」
カラカラと槍が落ち、見れば傷口が塞がっていた。治っていく肉に押し出されたのだ。
老人は学園長だが、同時にこの王国を支配する神の血を引く王族でもある。
たかが急所を貫かれた程度、大した傷にもならなかった。
10年前の焼き増し、同じ結果だ。
爆音で鼓膜を破壊され、肉体を休みなく擦り潰されても、魂を殺されなければ如何とでもなる。
だからこそ老人は学園に赴き、こうして少しでも相手の手数を減らそうと目立つ場所に来た。
期日は日暮れ、それまで生き残れば当面は凌げる。
少なくとも、罪のない生徒達なら二度狙われる事はないだろう。
しかし…。
「…なんだ?…その武器は」
目の前に真っ黒な槍が造られた。影を槍の形に切り抜いた様に全てが黒く、唐突に現れた。
イヤな気配を感じる。自分の天敵だと本能が告げる。
射出されたのを避け、当たらない様に努める。普通の攻撃に混じり始める中、影の物は優先して避けた。…そして
「…こはっ…癒えないな。不治の傷口…昔と変わらないと思っていたが…そうか、昔より…強くなっていたか」
身体が崩れ、無に還っていくのが分かった。
ああ、呆気ない。未だ何も出来てないのに、妻も助けることも叶わずに死ぬ事になるとは。
ふと、影が伸びて自分が沈むのが分かった。
自分が影に溶け込んで、狩人がそこに居るのだと理解した。
「……ほほっ」
笑い飛ばす。火も光も効かない訳だ。相手は"影だけの存在"だったのだから。
どれだけ攻撃を重ねようと、影を殺すならば影を持つ物でなければ話にならない。
真に必要なのは土や水、影を持てる攻撃だったなんて…思えば、狩人の攻撃は全て"実像のあるもの"であり…考えるに、"影を作る事で実体化"するのだろう。
もっと早く気付いていれば貴族の皆も…いや、言うまい。
──『土槍』
賢者たる魔杖が周囲の土を操る魔法を創り上げ、小さな太陽の下、槍の形にして回転させる。
それだけでよかった。影を殺すなら、武器の影を作って仕舞えば良い。
魔法陣を描く様に地面と水平にして、影を炙り出す為に太陽を作って…体内の影に入られない様に、闇属性で自分の内側に払った。
「…合っていたか」
途端に攻撃は止まり、影で貫かれた部位も治った。どうやら闇属性で影を払えば治る様だ。
仮説が結果で補強され、確実になる。これならば、こちらから殺しに行けば問題は消える筈だ。
そうして手始めに人の多い場所に転移をして…老"人"は死んだ。
「"一見四水"『観音』…神だけは殺さない水です。王様、貴方をただ殺すのは勿体無い。特に貴方が使わなかった神の部分は有用です。2の「カミヒナ」と1の「キシモジン」…重なった二つの神の力、有効活用させて貰いますね」
転移先に居たサーシャの毒牙に沈み、老いた者の人の側面は死んだ。
予定通り、計画通り。静かに広まりつつある混乱に乗じて集団から離れて殺し、神の力を回収する。触れればサーシャの身体に習合し、「アンリマユ」を基礎に一つの神に纏まった。
世界の強度が上がった事で正式にこの世界の力となった元禁忌の術式…魔法を振るい、これまた世界の強度が上がる過程で差し込んだ「神性の習合」の法則で取り込む。
世界を新生した者の特権は、こういう時に都合の良い仕組みを創れる事にあるだろう。
「…よし、狩人の殺害後と同じ行方不明の状況になった。コレでバレる事はない。…もう5分は待とうか。予定通りの殺害ルートなら丁度良い人数になる筈だから」
それまで追加の準備をしようと、サーシャはその場を離れた。
安全対策も逃げ隠れもしない。事前に狩人には殺す人の順番や殺害手順、居場所や狩りに使う道具を一式用意してある。
その手順に従ってくれるならば、サーシャは中間の一つ後に来る手筈だった。
「それじゃあ…「貴族狩り」を始めようか」
location:「王都・時計塔前」
time:7/12 4:07a.m.
「…此処で良いの?隠れるには向いてないけど」
「良いんだよ。私達の因縁の地みたいなものだし、折角死ぬなら此処ほど相応しい場所はない」
そうして不安がるリーロを横目に、カチャリとサーシャは一枚のスクロールとカンテラを改造した時計を取り出し、時刻を確認する。残り1分50秒…といった所だろう。
かつてリーロが死んだ時計塔であり、サーシャのおじいちゃんが建設していた建築物。お互いに正負の差はあれども因縁のある場所だった。
「…諦めたの?」
「そうじゃないよ。折角迎え打つなら、リーロのお姉ちゃんも一緒の方が頼もしいでしょ?」
「え…?」
「──あら、気付いていたのね」
夜と雨の影に紛れていたリートが現れて、サーシャ達の前に立つ。
時計塔としての真っ黒なローブと
今回で三度目の会合となるし、因縁の精算には丁度良さそうだ。
「どう?妹が生き返った気分は。今まで仲が悪かったけど、コレで蟠りや行き違いは消えたと思う」
「…とっても癪だけど、今回は手伝わせて貰うわ。…けど勘違いしないで。私はまだサーシャを認めてなんていないんだからね」
そういうリートは、チラチラとリーロが気になって仕方がない様子だった。
口ではそう言っても、やはり実利を与えれば心は正直なものだ。不倶戴天の扱いから、此処まで関係性が緩和した。
この調子なら時間と手間さえあれば親友になれる程度は、サーシャの手元にある物を気にしない程度には油断し切っていた。
カンテラにスクロールと一緒に腰に付け、両手をリーロとリートに差し伸べる。
「なら仲直りの握手をしよう。みんなで輪になるんだ」
「いいね、お姉ちゃん一緒にやろ?この子は私の友達のサーシャ。…へへ、ずっと紹介したかったんだ!いい子…いい子なんだよ!」
「…リーロがそう言うなら…まぁ、少しは認めてやっても…いや、認めてなんてあげないんだから!」
チョッッロ。と思う心を顔に出さない様に気を付けつつ、姉妹の両手を握り、仲直りとした。
生きて成長した二人が笑い合う姿は…雨と夜の中でも眩しい程に輝いていた。
万感に満ちた笑顔の姉と、純粋に喜ぶ二人に釣られて笑い…笑ったまま
ヒュン、ヒュン。
「「あ…」」
空から落ちる、2本の時計の針。
それはトラウマ、死の想起と喪失の記憶。
どれだけ力を得ても変えられない、足がすくむ光景。
"サーシャが一歩ズレた事で、当たらなくなった軌道を描いてる物"。
"そうと分かっていても、どうしても眼を晒せない光景"。
"サーシャが触れるほど近くに居ても、二人の目線を気にせずに動ける時間"。
「スクロール二枚起動、『魔法の杖─最新改訂サーシャ+元祖模倣式NEO版(改).コピーmk.5』」
「「なにその蛇足の極みみたいな
思わず正気に戻って突っ込む二人より、肩を掴んで発動する魔法の方が早かった。
触れた相手をMMにする魔法、それをサーシャの中に居る無数のサーシャ達が改訂に改訂を重ねた最新の物。薔薇族を作るにあたって学んだ魂の改造技術を元手に、元祖であるマネキンの技術を見取って洗練させた物だ。
それを使い、"生きたままMMを超える魔法の杖にして所有者契約を結んだ"。
サーシャの手により変身した二人はカンテラ時計に収まり、元々あった秒針と分針と一体化し、最も最新のMMとして産声を上げたのだ。
『……サーシャぁ!なにやってんだおめぇー!』
『なにこれ…私達を騙したって言うの!?』
「大丈夫、私の任意で変化もするけど、慣れれば自分の意思で人に戻れる」
カンテラ時計……死に戻りと強くてニューゲームの二つの力を持った時計をカラカラと揺らし、"世界の時間を停止した"。
『"
雨は停止し、影も止まる。『推理(劣)』のちょっとした応用は、このMMさえ有れば時間を止める領域に踏み込んでいた。
「──さて、私は常々思ってた事がある。MMにされると死ぬ仕組みをどうにか出来ないかって点だ」
『生きたMM…?そんなのあり得るって言うの?』
『サーシャ…ま、まさか』
「なので作った。ついでに二つで一つのMMにもした。オマケで今までの集大成や発展形を最大限詰められる様に、世界を再調律してからMMに変える計画を立てた。……ぶっちゃけた話、槍や軍旗より大きいMMは嵩張って仕方が無かった」
『あー…うん』
『あれMMの中でも古い形式だったものね…頑丈さ以外大したこと無かったし』
「と言うわけで、様々な縁や神様由来の力も使って、私なりに最高のMMを作ってみた。狩人、貴方は必要分働いたので的になる権利を与える。最大限足掻いて試し撃ちさせて貰うから覚悟する様に」
時間が停止して聞くも何もないのだが、そんなのは関係ない。
どうせ聞く耳持たない相手だからコレで良いし、二人に向けた説明の側面の方が多かったからだ。
「そして、神の力を使ったからこんな事も出来るよ。──
カンテラが変形し、二丁の銃…「
それが時計や歯車で組み立っているのだ。神秘的で美しく、しかし力強い魔法の杖だった。
『お姉ちゃん、私カッコよくない?』
『イケ過ぎてて走馬灯かと思ったわ』
「そろそろ時を動かすから御託はそこ迄にね」
『はーい、リーロいっきまーす』
『…まぁ、話は後ね。今は貴方に合わせてあげるから感謝なさい!』
「うん、ありがと。今はそれだけでも有り難いかな」
サーシャが神の皮を被る時の要領でMMに武器の形態を変える機能を付け加えた杖は、随分と頼もしくなった。頑張った甲斐があったと、サーシャは達成感を感じた。
討伐する為に必要な知識、神の力、二丁の銃にしてMM……何より、今のサーシャには「死に戻りの時計」が付いている。
「狩人、貴方の狩りに終止符を撃つ時が来たよ」
──止まった時が、再び動き出した。
「死に戻りの時計」
一人の女の子は考えました。この際とことん都合の良い武器を作ろうと。
殺すのに向いている死神の力を持ったカンテラを媒介に、クロノスの時の欠片を組み込み。
タイム家最後の生き残りとなった二人の少女を取り入れ、オマケに友情を一つまみ…。
こうして、サーシャの「切り札」が完成しました。後は敵を迎え打つだけです。