不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計   作:何処にでもある

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 旅行計画第一弾は「商国の首都」
 上は極楽、下は地獄になっていく資本主義の国です。




獣・隷・六四

 

 

『…商国って砂だらけなんだよね』

『当たり前よ。砂漠と日差し、暑いし砂だらけよ』

『でもこれは…一面…海だよ?』

 

 リーロが指差した先にあるのは、かつて砂漠だったのだろう海洋だった。

 砂漠なんて見る影もなく、長閑な海が広がっている。

 あの長い夜も「狂わしの月」が消えたからか日が上り、久方ぶりの太陽に眼を細めた。

 

「いやー、船の設計図があって良かったね。まさか転移門を潜った先が海底だった時は流石に焦ったかな」

『こんな事で白鯨ぶっ殺船を作った成果を見せるとは思わなかったね』

『これがあの…本当にデッカい…』

「今回はMRCもMM一つに5つ組み込んだからね。10個も炉心があれば戦艦程度一瞬だよ」

 

 そんな訳で25日の夏休みの初日、初手遭難である。転移門は王国限定の移動手段なので、商国最寄りの街から来た結果がこれだ。

 え、友人?…みんな混乱してて状況把握に努めたいと断られたのでサーシャ達だけだ。

 然もありなん。それどころではないと言われたら仕方ないとしか言えないだろう。

 この巨大な氷の船も乗客3人だけでは寂しく、全長100mの甲板が虚しいものだ。

 

「これ、救援の依頼とかどうしてたんだろう…依頼を出す場所が沈没してるじゃん」

『サーシャ、普通の人は空気が無くても直ぐには死なないんだよ?恐らく泳いで首都に行ったんだと思う』

「そんな乱暴な…でも納得かな。空を飛べる上級生達なら救助も楽そうだ」

『登る時に魚も見えたし、食料で困る事は無いでしょうね。…あの時は白鯨と一緒に深淵の魔物も大量に出てたし、動物も同じくらい落ちて来たか…』

「美味しいよね、魚。白鯨よりクセがないから生でも食べやすいよ」

『躊躇ないわね…』

 

 そんな訳でのんびりと魚を食べつつ首都まで航海している最中の事である。

 

「……ぃ…」「…ーい……」「おーい!助けてくれー!」

 

「ん?…うわあ!こっちに向かって集団が泳いでる!あれ、白鯨から大体一月は経ったよね?それで生きてるの?」

『火属性なら無補給で一月余裕よ。此処は食料も水も沢山あるし、全然有り得るわ』

『すっご……でもあれだね、この船って氷で作られてるからとても目立つんだね。だからこうして遭難者が引き寄せられてるんだ』

 

 恐らく救助の漏れだろう。行方不明で処理されていただろう人々だ。助けない理由はないので救命ボートを錬金し、船の上に乗せる。

 合計102名…小さな街、若しくは大きな村一つ程の人数が新たな乗客として追加された。

 避難した人々は総じて皮と骨ばかりの痩せこけた人が多く、比較的成人男性の数が多い。女子供は少数な辺り、途中で脱落してそうだ。

 こうなると戦艦の設計では不適格だろう。幾つかの対魔物用の兵装を取り外して避難者用の施設に作り替える必要がありそうだ。

 

「えー、このクルーズ船は6時間後に商国首都に到着予定です。急な来訪なので生憎と水と服しか出ませんけど、それでも良ければ船旅をお楽しみくださ…あ、またこっちに来る人居るじゃん」

『ソナーに感あり!サーシャ、助けに行こう!』

『思ったよりばんぱか見つかるわね…着く頃には千人行くんじゃないの?』

 

 追加で57名…今のサーシャは船の管制室とMMを通じて接続している状態だ。感覚は船に備えられたソナーと同等まで拡張されている。

 その感覚で見渡せば、四方八方から泳いで来ている数百名に囲まれていると気付いた。

 …確かに、学園の時は二週間程各国の依頼で救助に回っていたのだが…もしやすると、世界が変わった事で…学園から学院になったことで、その辺りも変化したのかも知れない。

 

「…ええい!こうなったからには全員助けたらぁよ!ダンテ先生が残した対白鯨用ゴーレムを救助用に再設計して生成!即席だから脆いけど千人大隊だ、不足無し!行けー!」

 

 そんなこんなで商国に着いたのは8時間後の事だった。

 その間は急遽客船を運営する事になったのだが…この苦労話は大変だっただけなので忘れる事にしよう。客室を作り、施設を作り、海から食料を取ったり接客用のゴーレムを作る事になったり…最後にはこの船の半分はある海蛇に襲われたのだから。

 今は船を座礁させてから氷の橋を作りながら滑り、首都に上陸中である。難民?橋と階段は残すから靴履いて勝手に降りたら?と伝えたから問題ないだろう。

 

「全く…魔力弾二発で追い返したから良いものを…MMのある今は殺すと時間が戻るかやり直させるしかないってのに…」

『まあまあサーシャ。平和に終わったんだから良いじゃんねぇ?』

『そうよ、不殺の技一つや二つ覚えておけばこの程度楽な物よ』

「私は必殺技がメインなの!必ず殺すか虐殺する技、後は…!」

 

 カッ‭─‬‭─‬‭─‬ターン!

 

 6Aもといシックスアクセル。あれからスケート技も地味に上手くなった。

 MMが二つあれば身体能力も2倍、良い時代だ、コレがないと2Aが限界になるしね。

 

「…っと。こうして水や氷の上で踊るくらいだよ。戦闘は必殺技で完成してる分、成長余地なんて身軽さとか、そのくらい!」

『おお、懐かしい…そう言えばこんなのも人格の一要素で拾ってたね』

『確かにすごいけど…そんなに回る必要ある?』

「分かってない…分かってないね二人とも…」

 

 サーシャは身体を反転し、背中を向いて滑る。商国を見るのも良いが、8時間の船旅を共にした人々の姿もこうすれば見れるのだ。

 それだけじゃない。スケートというのは回るだけで終わる競技ではないのだ。

 既にあの男性の人格は過去のものとしてリーロから抜けてしまったが、憑依されて教授されたものはしっかりサーシャが受け継いでいる。

 交渉能力、スケートの楽しさ、ゲームの知識…おじいちゃんくらいまで好きな訳ではないが、仮にこっちに来るような奇跡でも起きれば、お父さんの席を用意してやらなくもない程度には考えていた。

 少なくともリーロがリーロに戻る前…短い間でも確かに彼はサーシャのMMであり、相棒で…あの時助けてくれたのは、リーロではなく彼の意思だと確信していたから。

 

「良い?これは踊りの技なんだよ。本来なら曲に合わせて踊って、客を喜ばせるの。踊って魅せて競って歌って…そうして自分も楽しむのが大事なんだよ」

『へー。今の私には理解出来ないや。ただ滑ってるだけじゃん』

『武術の方が面白くない?』

「こやつら…武術にも演舞とかあるのに…ま、人それぞれだね」

『ふぅん…あ、もう着くよ!』

「おお二人を人に戻して、どれどれ………わーお」

 

 そんな訳で踊りながら商都に上陸した所で、サーシャはその景色に圧倒される事となった。

 

「上が見えなーい!でかーい!」

「相変わらずのレンガの塔…こんなに高くする必要ないでしょうに…」

 

 遠くから見てて察していたが、近いと尚更首が痛くなる螺旋の塔。

 どれだけのレンガを積んだのだろう、雲に届かんとする塔の街並みは、山の斜面にある街みたいな光景で、家で作られた崖が形成されている。

 端から端まで馬車でも数日は掛かりそうな塔は…成程、この建築物だけで一つの国として成立するのに不足はないだろう。

 

「これが金と深淵に満ちた国の都市、商都…正式名称、イマジンタワー!」

「実際に来てみると圧巻だねー!今は人も溢れてるから尚更だ!」

「感動もそこそこにしときなさい。ここは競争の激しい都市、お上りさんは餌になって終わりよ」

「ここも難民が…王国より少ないね?」

 

 上も下も、海に沈んだ部分も塔。普通なら即時崩壊の物理法則に喧嘩を売っている構造物だが、現実にはこうしてドシンと人々が活発に動く都市として機能している。

 だが、あまり不思議でもないだろう。魔法でも神秘でもなさそうだが、魔物や深淵由来だとサーシャには分かる。

 それによく見れば、このレンガの塔の材質は学園にあった「深淵階段(ファストトラベル)」に酷似している。

 本来なら「深淵階段(ファストトラベル)」はこの建築物の一部なのだろう。船のソナーが感知した地下の構造から、沈没した後やぶつ切りになった階段が見える。

 学園長が昔、運営の為に徴収した。そう考えるのが妥当だろう。成程、商国の反感があって当然である。

 

「そりゃあそうよ。此処は最も経済活動が活発な都市よ?例え難民でも働かなければ食えない場所。自分の居場所を手に入れるにはそのくらいは必須よ必須」

「なるー、だからこんなに途方に暮れてる人が少ないんだねー…途方に暮れてる人、腕が無かったり病気だったりなんだけど…」

「そりゃあそうよ。此処は最も経済活動が活発な都市よ?祈りも有料だし、釣り竿が折れるような事が一度でも起きれば落ちぶれて終わりよ終わり」

「うん、魚を渡す人が居なくても秩序は保たれてるね。誰も少数の弱者に見向きもしないからかな」

 

 かなり珍しい入国をしたが目を向けられる様子はない。

 氷の橋も、確実に見える筈の氷の船も気にされない。どうやら此処で働いている人々にとって、今の仕事のノルマを終わらせる方が大事な様だ。

 サーシャ達には助かることだが、末は富が二極化されるだろうな、とサーシャは肌に感じ取った。

 だが今はまだまだ始まったばかりだ。社会の問題に成る程支障になっていないし、災害後という例外環境だ。コレばっかりはどうしようもないだろう。

 精々が、通り過ぎる際に祈りや海から取ってきた余った食料を施すくらいだ。

 

「サーシャなにしてるの?」

「折角だから祈りの実験。このまま死ぬなら被験体にしておこうかなって」

「この…いや、ある意味機会を与えている訳だし、治験ならそんなものね…」

「リート、安心して。上手くいく自信は結構あるから」

 

 かつては無数の神性の基盤を手に入れたせいで勝手に神に身体が変わったり、祈る程神に近付いていた。

 だが今は違う。神性が「アンリマユ」の一柱になった影響で神化も弱まり、祈っても大した問題にはならなくなった。問題は悪の化身たる「アンリマユ」で治療が出来るかどうかだが…問題ない。

 そもそもとして祈り、祈祷による奇跡は"神から奪った権能の無責任な行使"だ。それ即ち神からすれば"悪"に違いなく、世界から見ても理を乱す"悪"である。

 ならば悪を司る「アンリマユ」が出来ない筈がない。

 何より王様が持っていた神性、「カミヒナ」と「キシモジン」の一部を既に収奪して習合済みなのだ。条件は十分に揃えていた。

 なに?治してくれた人々にとっては善?商国では本来有料なのを無償で配るのは社会にとっての"悪"だからセーフだ。個々人と社会なら規模的に社会の認識優先になって当然だろう。

 

「……あれ?身体が軽く…」「う…腕が…!」「なんか足の調子が良く…?」

「ふあ…あれ、生きてる?」「こほ……ん?喉が楽になった?」「世界に…色がある…!」

 

「んー…「シニガミ」と同じ…やっぱり祈りより直感的な操作感だね。指先を動かしてるのと大差ない感じ…今まで神の力を使った時と同じか…これなら魔法と併用可能かな。全く別の力だからこそ使い分けられるって感じ」

 

 今まではその場凌ぎで神の力を使ってきて、改めて侵食を気にせずに使うのは「シニガミ」以来だろう。感覚の確定には複数回同じ結果になって初めて確信出来るもの。練習がてら使ったがやはり便利だとサーシャは思った。

 コレで上位の世界相手に通用してくれれば便利だったのだが…。

 

「あ、あの!」

「ん、なに?虫歯と水虫と腫れを治しただけじゃ足りなかった?」

「通り過ぎただけなのに症状を把握されてる…!?…あ、いえそうではなく…」

 

 そんな事考えながら数を重ねていた所、若い男がとことこやって来た。

 貧しそうな格好と汚れた肌。明確に労働階級が下の方だが、ここの人々は皆してこんな感じだ。

 …今更だが、ここは外国客が来る場所ではないのかも知れない。取り敢えず一番下に橋を架けたのだが…もうちょっと上側にやるべきだったと思う。

 全て知ってるとつまらないからゲーム知識を一旦仕舞った悪影響…いや、これもまた乙だろう。

 サーシャは少し悩んだが、これはこれでアリだと判断した。

 

「ありがとうございました!これで明日も働けそうです!」

「お礼だなんてそんな…水球しか出ないよ」

「ぶくぶくぶく………ぷはっ!…あっ服も身体も綺麗になってる!?」

「私は水属性だからね。生活に役立つ事ならドンと来い、だよ。じゃあーねー」

 

 子供が驚いている内にスタスタと立ち去り、ついでに一人だけに使うのは不公平なので最低下層に水の幕を張って全員に行き渡らせる。

 やり方は簡単だ。MMで作った大量の魔力を使ってとんでもなくデカい水の板を作り、パパッと往復させる。それだけで都市の外側の汚れは大体落とせるし、外にいた人の汚れも落とせる。

 水属性由来の水はいつだって触れたもの全てを清浄な状態にするのだ。魔力操作技術を磨いた甲斐もあり、こんな事もできる様になっていた。

 

「サーシャ、そんなに目立つことして大丈夫?ここは学園でも学院でもないよ?」

「知ってるよ。でも、道を間違えたからって放置するのも違うじゃん。街並みは綺麗な方が気分が良いしね」

「むぅー…どうなっても知らないからね?」

「因みに馬車が多い中間層が外国客がよく行く場所よ。…折角だし第8席(アハトゥ)のゴールドの様子も見に行きましょ。そのくらいなら出来るでしょ?」

「時計塔の繋がりを絶ったから向こうは知らないと思うけど…それでも良いなら」

「構わない。彼はそんな事一々気にしないもの」

 

 リーロの忠告を聞き流し、リートの要求でこの後は「終わりの時計塔」メンバーに会うことになった。世界が変わった事でどうなってるか…実の所サーシャも時計塔の未来は確定出来なかったのでちょっとワクワクしていたりする。

 やはりタイム家が復活したから消えているのだろうか?

 

「着いたわ、ここよ」

「ここは…銀行?」

「ぶぶー。リーロ、此処は印刷室よ。この商国で使える貨幣を今まさに作り出してる場所、此処がとち狂えばあっという間に商国は終わること間違いなし!」

「そんな元気に言う事じゃなくない?」

 

「ならやるだけやってみて終わりにしようか。犯罪者にならない範囲、向こうが迷惑そうにしたら直ぐに撤退するように」

 

 結論から言おう。ゴールドという人物は居なかったしサーシャ達は見つかった。

 時計塔は解体された可能性が高まっていく感覚をサーシャ達は感じ取る。

 時計塔が居ない。それは救えないほどこの世界が終わったか、制御できなくなったか、問題なくなったかのどれかだ。これからは均衡が崩れても戻す人は居ないと考えた方が良いだろう。

 

「お嬢さん達、こんな所で迷子にならない様、次は気を付けなさい。関係者立ち入り禁止区域の侵入、一人頭罰金10万C(クレジット)ね」

「はーい、ごめんなさーい」

「サーシャ、早く払いなさい。私達はお金なんて用意してないわよ」

 

 その言葉に勿論と思いつつ手元の100万Aを確認し…。

 学院専用通貨を王国通貨に変えてないや。

 A→L→Cの通貨の両替を忘れていた。

 …そもそも学園じゃないから王国が中間になってくれるかな。

 多分完全に孤立した専用通貨になってる可能性が高いな。

 

「………」

 

 さて、困った事になった。

 

「………」

 

「…サーシャ?…サーシャ?」

「あ……お姉ちゃん、覚悟して」

 

 さーて、困ったことになったぞぉ?

 

「…ピピー!罰金未払いとして奴隷処分とする!大人しく確保されろ!」

「ごめんなさいごめんなさいちょっとそれだけは勘弁して下さい奴隷落ちはちょっと本当に勘弁して下さい!!」

「サーシャぁ!何やってんだおめー!」

「あのう、やり直し弾撃ちましょうか?」

「そんな時間(残弾)あるかあ!」

「金の持ってない犯罪者共め!大人しく捕まって明日の市場に並ぶがいいわあ!!」

「あのう、稼いで来ましょうか?」

「ボケーっそんな時間ない言ってるでしょうが!」

 

 サーシャ達は捕まった。

 殺し禁止だと無力、真っ当な人に拳は向けられない、雑魚。

 憲兵には無抵抗になるしかないメンバーなのが仇になったのだ。

 

「うわー!? サーシャ達がオークションの商品になってますよお嬢様!?」

「噂を聞きつけた帰郷で特大のチャンスキターアアア!!!!? 100億C!!!」

 

 こんな国滅んじまえばいいのに…戦争になったら絶対商国社会の仕組み壊す…サーシャは商国の正負が極端になる仕組みはクソだと、とことん実感する事となったのでしたとさ。

 

 






「旅行」
 休みの間に選択できるコマンド。他国に行って珍しい体験をしたり、随伴者次第で貴重な物や関係を得ることが可能。望みの相手を引き当てれば好感度を大幅アップしよう!
 イベント前に何度か選択肢が提示され、その選択次第で失敗のリカバリーが効くことも。
 基本的に小噺やサブイベしか起こらないが、進行度次第ではメインイべのショートカットにもなる。
 ただしバグが多数確認されるコマンドの為、進行に問題のある物ではないが控えた方が良いだろう。「両替未処理(うっかりサーシャ)」「溶岩水泳部」「無限カーリー」「エンドレステント」「フライングドッペル編(3章メインイベ先取り)」などなど…見所もバグも枚挙に暇がない。

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