不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計   作:何処にでもある

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 悪魔あ、悪魔が居るぅ!




没・六・六六

 

 

「昨日の商国、色々面白いものが見れたよね」

『シープって復讐として改革するとか言ってるけど思想がガッカリ商国の者だったよね』

ヌル(第0席)に教えて貰ってたけど…それ以上に機織りを直接見たのはすごい体験だったわ…なんで場所が分かったの?』

「だってシープが富豪を機織りに売って「生地」を作れって暗に言ってたし…頑張って探し出して失言のお詫び茶会で渡す必要があったから…」

『ごめんってばー…あの悪評みたく真っ黒なのが「生地」かぁ。黒いほど質が良さそうだったよね』

『特定手順で願い事を叶えたり出来るそうだけど…サーシャ、落ちてた屑糸や切れ端を鞄いっぱいに集めてたけど、何に使うつもり?』

「いざという時の一張羅にする為の再現。「生地」の研究資料」

 

 銃声が鳴り響く中、武器と会話している悪の神がいた。

 サーシャである。

 

『なら昨日の今日で旅行二度打ちはキツくない?一旦研究しに休みましょうよ』

「それはそう。でもさ、初めての旅行で失敗したなら次は上手く行くとは思わない?」

『それはどうだろう…商国で失敗したなら神国はもっと難しくない?』

 

 曇り空、赤い海、毒々しい島、何処かで見たことのある氷の客船二号。

 サーシャ達は商国の旅行が終わって学院に帰宅し、シープにお詫びのお茶会を開いた。

 なんだかんだ後味悪い結果に終わってしまったが、それで折れる様なメンタルはしていない。

 起きて早々に神国に最寄の街の廃墟からこうして来たのである。

 

「今回は転移早々に溺れない様に船を展開して浮上したし、こうして問題なく船旅が出来ている。両替もしたし、今回はバッチリだよ」

『でもさ、誰も誘えてない時点でもう既に怪しくない?』

「大丈夫。今回は旅先にカーリー達が居るのを把握してるから。合流する連絡もしたし、問題はないよ」

『でも海は赤いよ?時々見える島もほら…魔界の植生みたいになってる』

「それは知らない知ってても言わない」

 

 サーシャとリーロがぐだぐだ言い合いつつも船は順調に進み、陸地のある場所まで問題なく進むことが出来た。

 商国は船で直前まで行けたが、神国はポツポツと島があり陸地も広い。そのおかげで商国みたいに溺れている難民もおらず、こうして魔物の襲撃を撃退するだけで済んだ。

 

 因みに襲撃は引っ切りなしである。先ほどの会話も魔物の足や翼を射撃で撃ち落としながらの発言だ。

 

『いや多くない?神国ってこんなに魔物多くなかったわよ?』

『空飛ぶ悪魔みたいなの、海から来る名状し難きもの、陸地の角生えた人っぽいの…明らかに魔界なのだ!』

「大丈夫大丈夫気のせいだって。通信のカーリーも[絶対に来るな。こっちは危険だ]って言ってたけどそこまで危なくはないよきっと」

『あのう、役満って言葉を教えましょうか?』

 

 リートには何故サーシャがそこまで旅行にこだわるのか定かではないが、この旅行も波乱に満ちそうな予感を感じていた。

 …というより、これは本当に旅行なのだろうか?そういう名目の敵国への偵察や武者修行が正しいのでは?リートはそんなことを考えていたが、続々とやってくる魔物の群れの対象に思考を霧散させた。

 

「ふむ。撃ち落としながら観察してたけど、やっぱり半分は人間が元になってるね。リーロ任命の魔族、悪魔族は人に角や翼を付けただけだ」

『なにそれ、人体改造にしても変わりすぎでしょ』

「元々時計塔所属だったのに、このくらいの未来も知らないの?」

『私の役割は実働チーム。リーダーや支援チームの連中と違って言われた通りにやる下っ端。現場で得た知識くらいね』

「なら説明しておこうか。聖女から始まった「施術」による社会の誕生をさ」

 

 前提の聖女を考えればあり得ることだが…リートのこの発言も尤もだろう。

 羽根や手足を撃って動けなくした奴を軽く蹴れば、石を蹴ったときと同じで。

 生きたままくり抜いた眼や内臓を調べれば、どれも神経が無く魔法陣で代用されている。

 

「‭─‬‭─‬……という訳で、神国は「生体技術(バイオテクノロジー)」系列に強いんだよ。今まで倒してきたのは聖女や研究者の産物だろうね」

『…だったら、なんで海は赤くなってコイツらが彷徨いてるの。こういうのってバレない様に閉じ込めておくんじゃないの?』

「不完全なのか理性もないし、確かに他国ならそうするかもね。でもこの国に限っては違う」

 

 血肉の方も魔力と生身を融合させており、中には禁忌の怪物や機織りと似た「別世界の産物」に組み込まれた人も居た。

 魔物は良いが、こっちはゲームとは違う点だ。十分に注意すべきだとサーシャは危険度を高めにした。

 

「‭─‬‭─‬でも、神国は絶対階級制度だ。上の意向、その結果には絶対に逆らえないし、やっちゃいけない。…ほら、魔族と悪魔族の服とかどっちもボロいし、中には足枷や首輪のある者もいる。そういう立場の人を実験体にしたんだろうね」

 

 此処から考えられる事は一つ。

 「白鯨」から更なる施術の発展が起こり、「動物特性を加える施術」から「魔物特性を加える施術」と「別世界の産物を加える施術」まで発展させ、その実験体が彷徨いている。

 

「実験体の立場が低いから、誰が倒しても問題ない。放し飼いしてても、上の階級がやった事だから文句は出ない。勿論比較検証の為に管理している個体も居るだろうけど…例えば施術の腕を鍛える為の練習台とかに、そんな価値はないだろうね」

『思ったよりクソッタレな答えが帰ってきたわね…胸糞悪りぃ』

『お姉ちゃんって時計塔で色々見て来たのに世間知らずな所あるよね』

『…実際に現場に出たのは最近。幼い頃はヌル(第0席)に教育を受けてたし、去年までは学園で学んでた。実際に現場に出たのは初対面から一月前だったわ』

「つまりリーロと同じ箱入り娘って訳だ」

『意味合い違くない?』

 

 リーロが茶々を入れるが、魔物や施術された人を撃ち落とす手は止まらない。

 

『で、アレって魔物で良いのかな』

「良いんじゃない?魔物の要素を入れたなら広義としては魔物でしょ」

『それだと広義としての人間でもありそうね』

「いや普通に人間だよ。そもそも人間が「精霊」って魔物から発生した動物なんだし…被害者とか、奴隷とか、凶暴な山賊とかで良いと思う」

『サーシャ、その理論だと施術してない人間も魔物になるよ?』

「そうだと言ってる。将来の戦争で兵士への教育に使えそうな理論だなって考えてた理論だよ。中々でしょ」

『サーシャ…貴女はその戦争前提で話すのやめなさいよ。…そういえば時計塔のみんなもそうだったわね。なんで賢い奴らってそれを前提に未来を考えるの…?』

 

(思ったより無知だなリート(この娘)…ゲーム知識のあるリーロより丁寧に接した方が良いか。…時計塔が消えたから流れで着いてきてくれてるけど、リーロが居なかったら逃げ出してそうだし、なるべく早く仲良くしないとだね)

 

 そうこう話している間に神国の首都、新都が見えて来た。

 サーシャもリートの事を理解し始め、これからの仲良し計画を練る思考を止めて足早に向かう。

 

「っとその前に……………ヨシ!」

『ねえちょっと(おもむ)ろに終わりの時計塔の格好(私から剥ぎ取った制服)になってどうするつもりなの?ねぇ何か言ってよ。あれ聞こえてないのおかしいわねちゃんと聞こえてる筈なんだけどあれっ可笑しいわね?』

『お姉ちゃんが嫌な予感に苛まれて壊れちゃったね!』

 

 流石に長時間不殺に神経を尖らせたまま過ごすのは疲れたのだろう。早く宿を取りたいとばかりにサーシャは魔法も駆使して日が落ち切る前に関門に到着した。

 着替えたのは…気分転換だろうか?もしくは施術のない自分を猪の門番に見せたくなかったのかもしれない。

 

「「1つ。止まれ、他国の者が都市に入る事は禁止されている」」

「おっと…結構排他的なこと言うね。普段からこうなんですか?」

「2つ。そうだ、この都市は戦士達より上の者が入れる都市にして、庶民共には一生入ることの出来ない楽園である」

「3つ。貴様ら他国の人間は庶民共…いや、奴隷にも劣る。例外的に3度だけ問いに答えられる権利とその間の不敬を見逃す権利を持つが、それが終われば即座に殺していい事になっている」

「「三度許した。では不敬にも戦士と眼を合わせた罪を償う為に死ね」」

 

 ─‬‭─‬タァァン!!

 

 その回答を聞いてからのサーシャの行動は早かった。

 

「「ァ"ァ"嗚"呼"!!?」」

 

「…"一見四水"『八功』四肢に纏わり付かせて動けなくしたよ。…後から詠唱し効果を上げる技術も結構手慣れて来たかな」

 

 硝子の塵、輝く自我の霧が弾丸代わりに放射され、二人の戦士の四肢をズタズタに切り裂いていく。

 本分は内部破壊だが、此処に至るまで山賊や魔物相手に使っていたお陰だろう。手加減し程々に勝てる手段として便利に扱えるまでになっていた。

 

「「おのれ、不遜者めが!唯では済まさんぞ!」」

『サーシャどうするの?門番に喧嘩売っちゃったけど』

『このままだと面ど…もしかしてこの為に私の時計塔の活動服を来たのか?おい、なんか言えよ』

「私の所属は終わりの時計塔。復讐?やってみ?司祭の友人に喧嘩売ったので復讐手伝ってくださーいってね」

『テメェ遂にやったな?』

 

 反省を生かしリサーチした結果、サーシャは所属を誤魔化す結論に達した。擦り当て相手は存在が確認できない時計塔である。

 リートがギャンギャンと吠え立てているが今は無視。コレはシープとのお茶会で疲れたサーシャが深夜のノリで計画した最高の手順の初手である。文句を言うにはまだ早いのだ。

 

「まぁ待ってよ。つい最近出来た魔法があるんだ…無理矢理使える様にしたからだいぶ手間取るけどね」

「おのれ…報告せねば…」

「通信…を」

「"火の幻は華々しく 水は華を育てるが故に幻を見出す"『幻覚水』

 "全ては陽炎となり まやかしとなる"『陽炎』

 "認識はぼやけ 霞む思考には影が刺す"『影牢』

 "痛みは思考を支配し 幻影を傍に寄せる"『蜻蛉』

 "四節調律 魔法封入 見立儀式 神秘選別"『付与(劣)』」

 

 パチンと指で鳴らし、パタリと門番が倒れ臥す。

 暫くして口から引っ切りなしに泡ぶき、白目を晒しながら門番の仕事を再開する。

 明らかに気絶しているが誰かに操られた様には見えず、無理して立っているような印象をリーロ達は覚えた。

 

『…何コレ』

「狩人が封鎖してた『誤認』系列の魔法、その水属性版。死んで普通の人になったからね、妨害が空いた隙に占領したんだ。お陰で6つの魔法を支配出来たから上々かな」

『うーん、付属性はカーリーと一緒に見たのが完成したとして…認識系も修めたんだね』

『…私にわかる様に言いなさいよ』

『認識系は先に開発すると後発を潰せる仕組みがあるよ!サーシャは狩人が独占してた分を奪ったよ!』

「後は劣化模倣した付与で「魔法を篭める」効果を使っただけ。スクロール生成を紙以外でも出来る様になっただけだね」

 

(そこまでして出来るのは、見れば幻覚に掛かってると分かる幻覚での操作だけ。…割に合わないけど、国に取られるよりはマシだろうね)

 

 会釈をして泡を吹く門番を通り過ぎ、神都にサーシャは入った。

 門番はそのうち誰かが眼を覚まさせるだろうが、誰にされたのかは聞いても曖昧だろう。よしんば覚えていても時計塔のワードしか思い出せないだろうし、繋がる隙はない筈である。

 記憶に疑問を持たせる『陽炎』

 思考を堂々巡りにさせる『影牢』

 痛みと蜻蛉の幻覚を与える『蜻蛉』

 それらを封入した幻覚と麻酔作用のある『幻覚水』

 此処まで積み重ねて幻覚系を鍛えた大人の火属性並みだ。時間も掛かるので戦闘には使えないし、隙も多い。

 使えるのはこういう誰もいない黄昏時くらい。疲れて思考がぼやけ易い時間でなければ無効化されるだろう。

 そんな訳で妙に長い通路を渡り…。

 

「はー疲れたなぁ」「またねー!」「ほら、早く帰るわよ」

「ではこの辺で」「くんくん…良い匂いがする…」「早く食材を届かなきゃ…!」

 

 門の先には、獣人の国が広がっていた。

 

「此処が神都かぁ!テンション上がるなぁ!」

『モフモフだぁ!動物が沢山いる!』

『全員人間よリーロ。いい?それ絶対他の人の前で言うんじゃないわよ?』

 

 空を飛びインド様式の都市を見守る鳥、レンガ道を歩く使用人らしき多種多様な獣人、住まいからは洗濯を取り込む者も居て、遊び終わりに別れを告げる子供達の姿もあった。

 沈んでいく夕焼けに照らされた神都の光景は居心地が良さそうで、確かな平和があると感じ取れた。

 

 活気があるのが不自然なのを除けば。

 

「わぁ…可笑しいな商国と比べると難民が全然居ないね?もう都市の住民になったのかな」

『活気溢れてるけど…本当ね、元々此処に居た感じの人しか居ないわ。元々上位層の街だとしても、もっと居ないと不自然な筈』

『単純に難民を受け入れなかったんじゃない?若しくは此処に来るまでに張り倒した魔族達がそうかもね』

「ありそう」

『いや流石にないでしょ…そんな人を人とも思わない真似なんて…』

「…悪いけどそろそろ話を切り上げよう。道が暗くなってきた」

 

 話もそこそこに話を切り上げて宿を探す事にした。

 難民の扱いは今のサーシャ達には関係ない。今必要なのは安心して眠れる宿だとサーシャは確信した。

 サーシャは今、凄く眠たかったのだ。

 どれ程かと言えば、道端で寝っ転がっている奴を見かけてもスルーする程度には眠気に襲われていた。

 

「はーっなんだか寒いなぁ…野宿するからね」

 

「宿やどやーどー…よく考えたら奴隷より下扱いの他国の人間の方が多そうな国で宿ってあるのかな」

『あるわよ?私よく街や村で泊まってたし』

「ほーん…だからと言って都市にあるかは微妙だな…支配層以上専用の街だし想定してないかも」

 

「誰か一緒にいてくれたらなー…時計塔のやや子が一緒にいてくれたらなー!」

 

「空き家でも探して…最悪かまくらでも…肌寒いから出来れば袋路地辺りに…」

『なら上から見た方が良いわ。早く行きましょ?これ以上留まってると捕まるわ』

 

「無視してんじゃねーよ。お前に言ったんだよ第12席(ツヴォルフ)ちゃんよぉ?」

 

 …そろそろこの神格を無視するのも限界だろう。

 足首を掴まれたし。

 

「ふぅ…初対面がコレで良いのかな…」

 

 見下げれば其処には色素の足りてない真っ白な人影があり、男の和服を身に纏う女神がいた。

 落ちぶれてんなーオイとはリートの思考である。

 漫画みたいなモノクロだなーとはリーロの思考である。

 サーシャはしゃがんで話し合う事にした。

 

「…神様、どうしてこんなところに転がってるんですか」

「なんか急に世界や歴史が変わったせいで発狂したって思われて追い出された…」

「そうですか。でも良くなったでしょ?多少の被害には眼を瞑ってください」

「確かに矛盾とか消えたけどー…上位者のみんなと話す余地も出来たけどー…第12席(ツヴォルフ)ちゃんってそんなに詳しかったっけ?」

「詳しいですよ、実行者ですし」

「えっ」

 

 サーシャは仮面を外し、中身を見せた。

 節穴なのか神に人の区別は付きにくいのか、どっちでもいいが別に騙すつもりはない。

 月明かりを後ろに背負い、肉体を神の物に戻してサーシャはにっこりとして見つめた。

 

「‭─‬‭─‬こんばんは。厄災流しの「神雛」にして母性と力の化身たる「鬼子母神」。

 私はこの世全ての悪「アンリマユ」です。神格同士、末永く宜しくお願いしますね」

 

 それを聞いた神様は暫く呆然として、よりによって初手で悪神が産まれたことを理解し、頬を引き攣らせた。

 

「うわあ、とんでも無いことになっちゃったぞ?」

 

 頼もしそうだけど茶化さないタイプだと、神様はこの時点でそう悟るのだった。

 

 






「神様枠(ゲーム仕様)」
 このゲームにはニューゲーム時に64種類からランダムな神格が二柱設定される仕様となっており、世界の軸側の1と合成側の2に生誕する。
 神格によってストーリー上に変化はないが、神学で得られる祈りの種類や神国の国力など、数値関係にはかなり変化がある。
 ただし関係するのは最初の方であり、神になったり神格を増やせる様になれば全ての神の力が使える仕様となのでコンプ勢は安心しよう。
 余談だが神格の立ち絵は四種類あり、軸側に生誕した神の神話によって決まる仕組みになっているようだ。

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