不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計 作:何処にでもある
授業の最初と、地下室への挑戦。
「じゃ、トイレとかも、後は自分達で出来るよね。もう行くよー」
(…ふぅ、思ったより質問が多かった。自分の国の食べ方とかトイレの使い方とか、自分の村しか知らないのにそんなこと言われても困る…)
賑わい始めた食堂で、先に食べてた子が後から来た子に教える流れを作った後、サーシャは自分の分を食べて授業に向かった。
ヘルシングとそのお嬢様?食べて冷静になったのか、もうにこやかに談笑しているよ。
どっちも人懐っこい性格だったからな。元鞘なのも有ってか、食べ方を教えてる最中に仲良くなっていた。
今もヘルシングが髪に櫛を通して整えてつつ話してるし、ゲームよりも超特急でだらしないお嬢様の姿は見なくなるだろうな。
「ふぅ、変なのに絡まれたな」
(気を取り直して授業の時間だよ!1時間目は…歴史かぁ、魔法史とかやるかな)
ここでゲームにおいての授業の扱いを言っておこう。
授業は「歴史」「語学」「神学」「属性学」「魔法学」「実技」「錬金学」「教養」の8つの主科目があり、そこに「芸術」「音楽」「狩猟」「馬術」の4つの副科目を任意で加えて授業を受ける事になる。
最初の3日間は全科目を受ける事になるが、その後の副科目は必ずしも受ける必要はない。任意科目って事だな。
勿論全部選んでスーパーサーシャを作っても良いが、それをするとイベントやサークルや深淵探窟とかの、自由時間で出来る事が減る。
かと言って一つも無いと、後々攻略で苦労する事になりかねない。趣味が合う人は話し易いもんな。
攻略対象との関わり易さが変わる重要な物だし、しっかり選んで貰いたい。
それじゃあサーシャはどれを選んだのか。
各授業のお試しでの様子を見ていこう。
まずは歴史。
「この授業は毎回別のものを教える。休むなら友達作ってノートを見せてもらうように。後は、語学も真面目にやると加点要素を見つけやすいぞ」
「そんで歴史は俺たち人間がどのようにして今に至ったか、各国はどんな事をして来たのか、当時の人はどんな事を考えていたのか、どんな文化を送って来たのか、昔と今にあった事を須く調べ、書き記し、それがどのように変化するかの法則を見出す。今日は触りだ、お前等には身近なMMの誕生について語ろう。まず───」
「て、手が忙しい」
(喋るの速いし一息でめっちゃ喋るじゃん。でも聴き取りやすくて板書も見やすいし、話してる中身も興味深いし、持ってる間はMMの中身と本来の自分の平均値になるとかも気になるし──!)
次に語学。
「成績が欲しかったら神学も頑張りなさい」
「はい、ではこの授業では各国の現代古代の言語を取り扱います。新しい魔法を創りたいなら此処でまず学びなさい。魔法とは世界との語り合いです。より短く正確に伝わる文脈や効率的な音節を得たいなら、私はそれを教授しましょう」
「手始めに…各属性の球を作る魔法の再発明をしましょうか。あれは水属性でも簡単な魔法ですから」
「…おぉ、『水球』と同じ魔法作れた」
(水魔法の起点がアッサリと…此処で学べば自分で魔法を作れるって…そっか、水魔法を学ぶだけじゃなくて、自分で増やしても良いんだ。…略奪兵を倒したあの時の渦巻も、此処で改めて改善したり出来るかも)
次は神学。
「神の奇跡の真髄は、此処だけで無く属性学にも触れなければなりません。より深い知見を得たいなら、其方も努力すると良いでしょう」
「治癒と蘇生、雨を降らし地を富み、正に神から授かる奇跡です。魔法の始まりはこの奇跡を自己の物にしようという人々から始まったが故に、ある種、原始の魔法とも呼ぶ方もいます。私がそうですから…あ、私は思想や宗教の派閥としては異端側なので、神の奇跡を起こすのを頼むやり方以外は聴き流してくださいね」
「此処では基本的に祈祷瞑想、儀式などを取り扱います。基本が大事な分野ですから、何度も同じ授業をする事になりますので…不真面目な子は実力も伸びませんから、忍耐強く頑張ってください。では全員、祈祷を」
「……………」
(神様へ、この人雰囲気が怖いです。笑顔なのに身体中に古傷があります。多分自分の身体で奇跡の練習してた人です。…私も祈ってたら、いつかは喉も癒されるのかな)
次の属性学は。
「えー、はい。魔法学も一緒に学んでね、はい」
「此処でやるのはね、其々の属性に合う魔法の獲得とか、魔力属性の親和性を上げたりだとか、もっと具体的に言うならね、皆さんの使える魔法の範囲を広げる授業です」
「より上位の魔法や、基礎四属性への帰属性である光や雷や木や氷、そういう親和性のある属性への開花です。自分の魔法への才能と素質を増やすと言っても良いですね」
「はい、上位互換とか下位互換とか、そんなの人の勝手ですからね、はい。一緒に頑張りましょうね、はい。今日はお試しですからね、お手軽な属性強化の方法を教えます」
「…水魔法のお隣さんって氷なんだ」
(はいはい五月蝿いけど、めっちゃ興味あるのだ…!しかもお手軽が本当に手軽!ちょっとだけ水球を作る時の消費魔力も減ったし、やってる事は間違いなくすごい!)
次が魔法学となり。
「こんにちは、寮長のダンテ先生です。流れで分かってるとは思いますが、実技も大事です。一点集中はオススメしませんよ。」
「授業でやる事は単純。新たな魔法を覚えたり、魔法陣や詠唱など、魔法を構成するあらゆる要素の授業になります。」
「その為に深淵探窟や植物の育成、魔物狩りにも赴きますので、戦闘服か動き易い服で受けに来てください。」
「では最初の授業は円陣と三角陣、交点による魔力作用から字列変換までやりましょう。ではノートとペンを。」
「詰め込み…頭痛い」
(授業速度速い…簡潔で要点を話す分、一言も聞き逃せない…間違いなく身になるし必要な物だけど、その分熱量が入りそう…大変だぁ)
次の実技では。
「こんにちはー!実技のジャッジ先生なのだ!次の言葉は分かるよね!錬金術知らねーと知らない単語出てくるから真面目に受けるのだ!」
「やる事は単純!戦闘、探窟、クエスト、解決!基本的にこの授業で新しく学ぶってのはねーのだ。基本的に他の科目の課題、特に外出や命の取り合いを必要とするものへの、アドバイスと付き添いになるのだ!」
「ま、個人や友達でやっても良いんだよ?実力が有ればね?実力ねー奴は先生が出来る様にすっからドンと来い!特に殺しとか出来ない優しいやつ!」
「じゃ、今日は体術教えるから覚えるのだ。高所からの着地は今後絶対必要になるから覚えるのだ。MMで強化された身体の動かし方、その身に叩きつけっから覚悟しろ?──始めェ!!」
「ヒュー…ヒュー…」
(疲れた…筋が良いって言われて何度も叩きつけられた…背が低いからこその技を決められた…地面って硬いなぁ…)
全員ボロボロになりつつ、錬金学の授業になり。
「最後の一個前だし分かるでしょ?教養出来ない奴がやっても遅れを取るからよろしく」
「…あ、挨拶のカンペどっか行ったわ。…錬金学は自分だけの工房に興味ある奴が来い。ない奴にゃ…何もない所から道具一式揃えるやり方を教えてやる」
「そも、錬金は魔力を物質に変える、土と水から発展した分野だ。まだまだ分かってない事も多いんだよ。ぶっちゃけ俺も知らない事の方が多い。未発見な法則が多いからな」
「なんで、栄誉が欲しい奴も学べ。火と風の奴もだ。土と水に出来てお前等に出来ないなんて事はねぇ」
「魔道具自作したい、未開拓の分野に飛び込みたい方大歓迎。そんな感じで今日は…魔力を貯める水でも作ってみようか」
「魔力を貯める水を作る『魔水』の魔法…飲めば魔力が回復する魔力水の作り方、こんなに単純だったんだ」
(最新の分野…水属性的にはとても嬉しい…『魔水』の魔法も手に入ったし、絶対まだまだあるよね。当初の学園に来た目的の、新しい水魔法を学ぶのに最適かも知れない)
最後の教養にて。
「…みなさーん。寝ないでくださーい。私泣いちゃいますよー?歴史も一緒に頑張りましょー」
「…起きてる方は耳を御塞ぎ下さいね。『音空』」
パァン!!
「はい起きましたね。教養の授業です。色々と忘れてしまった皆さんの為に、改めて各国の礼儀作法や会話、決闘の方法を教えたりします。特に魔道具の中にはそこを重視する方もいらっしゃいますから、真面目に受けて損はありませんよ」
「なにより、今のあなた方は偏見のない視点を持てています。敵国とか嫌悪感とかで学ぶのが遅れることがない現状を、活用しない手はありません」
「世の中、実力があっても品性に欠けてれば、蛆虫と同じ扱いをされますからね。魔法だけのダメ人間にならないよう、人としてもレベルアップしていきましょう」
「では最初は服や食事とトイレの仕方を。綺麗さっぱり忘れたその脳みそに叩き込みます。覚悟してください」
「…教える側にさせられた」
(水魔法使いって知られた途端教える側に…あんまり惹かれないなぁ、でも真面目に頑張らないと歴史が…サボるのはやめとこ)
そして今日が終わり、サーシャは泥の様に眠った。
…正確には、一年全員だけど。
初日だけで結構な知識が詰め込まれたからな。誰だって脳みそが爆発するわ。
そして起きたサーシャの第一声がこれだ。
「…多い…多くない?」
(休む時間は作りたいんだけど…主科目でこれか。ここから更に副科目?身体足りなくない?)
必須が8科目なのが多いって気持ちは分かるよ。
この世界って休日が1日しかないから殆どが平日だしさ。
代わりに祝日が祝週に進化してまとめて来るんだけど、現実にすると変わってる構成だよな。
「副科目…居る?」
(芸術に狩猟に音楽馬術…今日はやってみるけど、手触り次第だなぁ)
大学と高校を混ぜた様な授業構成は、全部やると確実に疲労で動けなくなる。
なのに選択出来るのが副科目だけなのは…この世界の人類の体力の多さを感じるな。
ギ…、
「…ん?」
(今魔力の動き変じゃなかった?)
そうして今日も頑張るぞとサーシャが起き上がった所で、何か違和感を感じたらしい。
部屋の隅々まで歩いて確認し、その後もう一度音のなった場所を確認する。
「…最初はベッドの裏か」
(ベッドを押すと鳴ったり鳴らなかったりするけど…それだけじゃ無い。鳴らすと闇属性の魔力が見える…動き方で解ける暗号かな…)
先住の生徒の隠された地下室の事だな。
まだ気付くには一年早いと思うが…これは早い分には問題ないだろう。
…問題ないか?なんか必要な技術があった気がするんだけど。
「似た様なものを見た気がする…」
(本来なら製作者の魔力で解除されるんだろうけど…確か闇は土の帰属性。私の一個上なら、簡単な暗号なら代理が効いた…気がする!)
思い当たるものがあるのか、サーシャは俺を持ってベッドの支柱に均等に魔力を流しいく。
ゆっくりと鍵穴に蜜蝋を入れる様に、不可視の魔法陣に自分の魔力を入れて上書きしていく。
…あ、思い出した。この技術を授業で習ってからやる事なんだけど…。
一回でも失敗すると地下室諸共この部屋が崩壊して死ぬわ。
バチッ…、
「…あ」
(やば、魔力を通すと崩壊する線があっ
「………ッ!?」
(イッッタイ!!でも流し始めなら戻せ…あ、止めたらさっきと同じ事になる返しの罠がある!?始めたら戻れないんだ!)
部屋中が闇に包まれて、そのまま圧縮して死ぬと同時に巻き戻った。
そうだった。防犯が結構しっかりしてたんだよこの地下室って。
幸い二日経って回数は満タンだから、最低4回は間違えられる。
間違えられるが…その程度で済む罠か?
バチッ…、
「あ…」
(立体交差とか言う未知の領域やめて?魔法陣が立体に組めるって今知ったけどこれ考える事が多すぎ
バチッ…、
「…うっわ」
(オッケー、一定時間そこに魔力を留まらせると進められる線ね?時間要素もあるとか…そんなに隠したいならいっそ廃棄し
「………ォ?………こう、こう、こうして……止めて…はい解けた!」
バチッ…、
「は?」
(…は?…あー、ここに来て解除の言葉を言う初歩的な奴ね。呪文は…罠の線を抜き出して上から見て……バッカや
「竜の吐息は闇混ざり」
ガシャン、
4回の死を乗り越えて、サーシャは地下室の出現に成功した。
出入り口はベッドの下に出てきたので、今後はそこから出入りするだけで済むだろう。
これ結構なアドなんだけど…今はそっとしてあげよう。
「…ざけんな」
(普通さ、クソみたいな下ネタを解除の呪文にする?魔法陣に竜のアソコの落書き入れるなダボが…しかも、言えばこんな苦労して陣の乗っ取りしなくても…あーイラつく!無駄に高度な技術使いやがって!)
バタバタバタ…ぽすん、
サーシャはひとしきりベッドの上でばたついた後、事切れたように動かなくなった。
そこにタイミングが良いのか悪いのか、ガチャリとヘルシング達が扉を開け、入ってくる。
「サーシャ!ヘルがあなたにお世話になったみたいね!そういうことなら、この私が特別に朝餉に誘っても良い「ふんっ!」うぎゃ!」
「シープお嬢様ぁ!」
「ごめん、八つ当たりする」
「もうしてるじゃない!」
「そうだね。枕を投げ返しても良いよ」
「…そりゃあ!」
「はいキャッチアンドリリース」
(ご飯のお誘いなんて始めてだから嬉しいけど、今じゃないんだよなぁ)
ヘルシングとその主人のお嬢様…もとい、シープに枕を投げつつ、投げ返された枕をベッドの上に戻す。
まぁ…なんであれ友達になれそうなんだし、俺としてはもっと大切にした方が良いと思うぞ。
「じゃ、改めて聞くね。名前と用件は?」
「…シープよ。多分貴族か富豪のシープ!覚えておきなさい」
この機会に説明しよう。
髪を整えても毛先が暴れる羊みたいなふわふわの銀髪と、茶色い目。
その名前をシープ・スミス。元は商国の富豪の一人娘であり、ゲームではライバルとして張り合って来た女。
ヘルシングルートにおける悪役令嬢的な立ち位置の子だ。まとめて攻略するのが楽だぞ。
「今日来たのは僕を捕まえてたお礼と称して、一緒に食べようと誘ってきただけです。ご一緒にいかがですか?」
「いいよ、一緒に食べようか。後、シープが本当のお嬢様だって納得した?」
「はい。こんなにも必死ですし、サーシャお嬢様と同じく僕の名前を言えてますから。…もっと落ち着いてた気がしますが…先ずは様子見で」
「ちょっと、私が運命よ。ヘルだけは唯一覚えてたんだから!」
(どうあれ…面白い子だし、まずは話してみよう。初めての友達…うん、悪くはないかな)
サーシャは騒がしく進む2人を見つつ、一番後ろでこっそり笑った。
「暦」
神は6日かけて世界を整え、1日かけて自身の寝床を作りました。
その後は24日間見守り、7日間眠る様になりました。
それを12回繰り返す度、神は世界を祝福しました。
人々はそれに倣い、時間に区切りを設け、より神に近づくことにしました。