不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計   作:何処にでもある

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 観光と強いだけの魔王の話。




蛮・粘・七一

 

 

「わあ!」「綺麗ねぇ」「良い景色だね」

『て、帝都に旅行に来たなら定番だろう繋がった屋根模様です…雪が降ってると見れない残念名所ですが…魔法使いには関係ないですか』

「雪なんて暖めた雨で一瞬だからね」

 

 その後サーシャ達が何かに巻き込まれるといった事もなく、サーシャの思惑通りのんびりと景色を眺めていた。

 今見ているのは帝都の歴史ある大工が計画し国に認められた景色、特定の場所で見ると絵になる屋根をキャンバスにした芸術である。

 題材は花を咲かせた世界樹というありきたりな場面だが、それもここまで大きく作られると感心と感動が勝るものだ。

 普段は雪が積もって見れないものでも、見れる時は春や夏、実りの季節だ。その時にこうして花の咲いた世界樹の絵が現れるとなると…是非適切な時期に来てみたかったものである。

 …よく考えれば今は7月後半の夏真っ盛りだった。白鯨が居なければ今が適切な時期…環境変化とは残酷な話だ。

 

「や、でもいいものが見れた。この調子で帝都を遊び尽くそう!」

「なら次はどうするの?」

「へい、リライズ。銅像とか帝都特有の場所教えて」

『な、なら中央区の勇者像とか…南の商店街で買い物すればいいんじゃないですかね。東西は住宅街ですし…北はお城が占めてますから』

「叔母様って本当に帝都に詳しいのね?」

『あ、ははは…量産型MMに分離する前は世界樹の幹に刺さってましたから…』

 

 今居る場所はお城の更に後ろ、最北の丘だ。ここからだと中央を経由して商店街に行った方がいいだろう。

 生憎未だ宿を取れてないが…そこは普通に南北を間違えて来たせいなので仕方がない。

 しかし急ぐのは仕事だけにしたいので、ここはゆっくり歩いて行く事にした。

 道中の街並みや人々の生活、後は裏路地や地元民だけが知る隠し道。それらを見るのもまた乙なものなのだから。

 

「…サーシャ、そのプラチナリングは?」

「拾った」

「返して来なさい」

 

 だからこの指輪は絶対に返さない。どう見ても長いこと紛失していた物だし、雪の下にあった隠し宝箱なんて心が躍る物を見逃す手はないのだ。

 

「だーめーよー!どう見たって誰かが大事に埋めた物じゃない!添えられた手紙からしてタイムカプセルよ!そっとしてあげなさい!」

「やーだー!隠し物は誰かに拾われても文句は言えませーん!幼き少年が埋めた初恋の手紙とリングなんて面白そうなもの無視する方が酷なんですー!」

「この…ッ!バカたれがーあ!」

 

 そんな感じにド級に真面目なリートとサーシャは揉みくちゃになりつつ、リーロはそれを横目にリライズと雑談に興じていた。どうやら先ほどの勇者譚で語られなかったリライズの身の上話をしているようだ。

 

「ねえ叔母様、叔母様は王様に告白したって本当?到底そうは見えない気の弱さなんだけど」

『し、失礼な子ですね…そうですよ。私はやる時はやれるんです。どうだすごいでしょう』

「ならさ、どんな感じのこと言ったの?」

『……は、恥ずかしいので黙秘を』

「ロリババアの癖に乙女ぶるのやめて貰っていい?言わないと勇者と居た時間の方が多い淫売の称号を渡すよ?」

『ど、どうしてそんな物持ってるんですか?あ、もしかして貴女、クッセェ黒ずんだものをお持ちで?その服といい…タイム家の恥が粋がって思い通りになると思ってたら…後悔させますよ?』

「おーやるぅ。吃ってるから気が弱いって思ってたけど、結構図太いんだね」

『あ、あー…どうも私、せ、生来喋りは下手くそでして…普段からこうなんですよね』

「へー、そのギャップで落としたのかー?このこの〜」

『は、はは。貴女…リーロも結構面白い子ですね?』

 

 反感を買ったかと思ったが、存外リライズも図太かった様だ。

 リーロと息が合う辺りやはり血は争えないのだろう。これならそこまで心配して見守る必要もなさそうだ。

 よそ見していると出歯亀をする暇があるなら自分を磨けと言われて負けた。

 それを言われると勝ち目がない。後で反則技として封印するように協議しておくとしよう。

 

「結構でかいわね」

「建国した人だからね。偉大なるものは大きく見えるものだよ」

『や、やってますねー…』

 

 そんなこんなでリートに負けてから到着した勇者像である。つい先ほど見た人形の勇者に似ている様で似ていない。少なくとも、本物と違って銅像は大きな赤いリボンで髪を結ばず無骨な装いだ。筋肉盛り盛りだし補強の際に盛ったと見た。理想とは実物と最も遠いものとは本当のことらしい。

 

「勇者像…そう言えばリライズは勇者をくそと言ったり嫌いみたいだね。それまたどうして?」

『わ、分かりませんか?狩人に殺されたせいでわ、私は長い苦痛に苛まれたんですよ?……依頼主、勇者なんですよ。本人がい、言ってました』

「…狩人がねぇ?」

 

 サーシャは狩人を死に戻らせることで世界を大いに改変した。

 人を殺さず、ただの獣を狩る普通の狩人として歩み直させたのだ。

 しかしどうしたことだろう、狩人に殺され過去に行った『回顧』のMMに変化がない。

 気になりはするものの…つつくのは藪蛇だ。実の所、サーシャですら時間と空間を動かし、3つの世界が混ざった影響は把握しきれてないのだ。

 その中で変わり切ってないものがあったとしても、研究者として事実のみで解明することはとても難しい。

 

「そりゃあご愁傷様。変な犬に噛まれたと思ってこれからを見よう」

『…………』

「言いたいことがあるけど飲み込んだ顔だね。さすが王様の妻なだけはある」

『で、でも一つだけ…一つだけ勇者にも良いところはありました』

「ふむ?」

 

 なので、謀略屋として仮説を詭弁にして振るおう。

 削り忘れたインクの染みが、深く世界に刻まれた痕跡を完全に消し去るのは難しかったのだと。

 或いは、勇者はタイム家のMMを持っていたので過去改変を無効化した。

 必要なのは納得である。特に二段階構えの説明は結構な割合で有効だ。

 本人がどんな事実を抱えていたとしても、これで問題ないだろう。

 

『せ、世界を守る為に禁忌を始めとした外なる怪物に手を出したま、魔王に勝って…世界の中心に封印したことです。…そのおかげで、この世界は平和になりましたから』

「…封印?討伐じゃないの?」

『な、何言ってるのリーロ?さっきの勇者譚でも封印って言ったよね?』

「あれぇ?魔王の力の残滓じゃなくてまさか本人とやるの?マジかー」

『た、確かに魔王は意味不明なことを言ってたから省いたこともあるけど…そんなご、誤解が出る様な話はし、してないよ!』

 

 おや、想定外の横槍が脇腹に突き刺さった。

 不思議なことだ。ゲーム知識では魔王は魔物の力しか使わないのだが。確かにやけに勇者の話でゲームより四回多く変身していたがまさかそんな…。

 

「へー、魔王ってどんな攻撃とか動きとかするの?」

『な、なんでも食べて…食べたものの力を得てたよ?能力、知識、技術…存在其の物まで…スライムなのにほ、本当になんでも食べてなんでも出来る』

「うーん、私が覚えるより強いわ」

 

 まさか星の中心にいる怪物関係のことなんてことはないだろう。サーシャが上位世界とは別で個人的に対処している原因がまさか魔王だなんてそんな…。

 

「どうしたのリーロ?まるでこれから魔王と戦うみたいな事を聞いて?」

「まあまあ…その世界の中心って私達が立つ大地の下だったりする?」

『そ、そうだけど…聞いてどうするの?』

「まあまあまあ…魔王と戦うことになった理由は?」

『じ、人類を絶滅させようとして…せ、世界を手土産に自分を売り込むとか、ど、どうとか言って暴れたから…』

 

 いやいや、まさかそんな訳がないだろう。ゲーム知識外の行動をする存在がサーシャが産まれる前からあったなんてそんな…特に魔王は白鯨狩人勇者と来て、最後に戦う相手なのにそんなまさか…。

 

「………因みにさ、"魔王は自分のことをどういう存在だと名乗った"の?」

『え?さ、サーシャも聞くの?……うーんと、勇者との名乗り合いでち、近いのだと……』

 

 大事なことだ。

 初めからこの世界がゲームではなく現実と理解した上で、サーシャはゲームのチャート通りに動いて来た。何故ならそれが一番安定するからだ。

 しかしここに来てゲームとは別の挙動を取っていた奴が判明した。そうなると、自身をどう呼称しているかで話が随分と変わってくる。なんなら現行のチャートを捨てなければならない。

 冷や汗を流し、時計塔の黒いローブのフードを被った。決して、焦る様子は見せない為に。

 

『‭─‬‭─‬俺はしがないチート転生者だよ……ま、魔王は確かにそう名乗ったよ…よ?』

 

 …………。

 なるほど(リーロが拾った模倣人格が転がってた原因)

 なるほど(世界の外郭でゲーム知識を見れたかの原因)なるほど(全てのズレ、禁忌の怪物の制御を消した原因)

 …………理解した(生きているだけで発生する危険性)

 

 "殺していいと理解した(生かす価値が見当たらない)"。

 

「‭─‬‭─‬ありがとう、リライズ。まさかここまで有力な情報が手に入るとは思ってなかった。本当にありがとう」

『え、そ、そう?なら蘇生を…』

「勿論!全力で、予定より気合いを入れてやる!本当にいい仕事をしてくれたし、この世界に蘇生魔法を復活させてもいい!!」

『あわわ…ど、どういたしまして?』

 

 理解が置いついていない様子だったが、それどころではない!

 何せ全ての違和感を拭う最後のピースがひょんなことから出て来たのだ!

 

「‭─‬‭─‬クハ」

 

 例えばゲームでは最初から使うのに支障のない筈の禁忌が暴走していた。

 その原因は魔王が外郭の怪物、禁忌の怪物を一部でも喰らったから!

 

「クハハ……アッハハハハ!!!」

 

 例えばリーロの模擬人格は本来、ゲームに実装されない程度には発動しない要素だったのに何回も発動し、何処からかゲーム関係の知識を持った人格が流れていた!

 その原因はその世界から来訪した魂の通った道から情報が垂れていたから!

 

「そうかそうか…お前が原因か…」

 

 初めから!初めから少しずつズレていた!それはたった一つの違いから始まっていた!

 遂に、私の道のりに茨を撒いた馬鹿を遂にッ見つけた!

 無駄にリーロが苦痛を感じる原因を見つけた!

 私が自力で解決出来た筈の問題をより困難にした奴を見つけた!

 

「‭─‬‭─‬‭─‬…………ハァァァッッはははは…」

 

 そしてその馬鹿はあろうことか!魔王を乗っといて置いて転生者と宣う!

 肉体を奪った憑依者、略奪者の癖に、元からそれが自分の身体と人生だったと傲慢に嘲笑い!

 

‭─‬‭─‬‭─‬その者の目指した理想、「魔物だけの争いのない楽園」すらも台無しにして、全てを殺して自分だけ助かろうとしているのだ。

 

「…まいったなあ。本気で殺したいって思っちゃったよ」

 

 虫唾が走る。

 

「ん?雨が霰に…サーシャ、怒りは鎮めないと」

「…ああ、ごめんねリーロ。ちょっと嫌な事実に気がついちゃって…ほら、買い物に行こう。必要なもの、お土産を買って帰るんだ」

「あれ?泊まるんじゃなかったの?」

「ちょっとね…急いでやらないといけないことが出来ちゃったから」

『わ、私には都合が良いので構いませんが…ど、どういう風の吹き回しですか?』

「計画の立て直しが必要になった。あ、ごめんなんだけどさ、リライズは蘇生を早めにやる代わりに『回顧』は止めないでね。最低2日分…可能なら3日分必要だから」

『ええ…良いですけど…こ、これ以上の約束の変更はなしですよ?』

「当然、約束する」

 

 サーシャ達は銅像から踵を返し、南の商店街へと向かう。

 行動自体は旅行者のそれでも、最早誰一人としてこの場を楽しむ者は居なかった。

 サーシャは笑顔の裏で今後の為に必要なものを計算し、リーロはこれからの死に戻りに憂鬱になり、リートは静かに死闘の覚悟を完了させ、リライズは剣呑な空気に魔王との戦闘を予期させた。

 

‭─‬‭─…‬…ォォ。

 

「おっと…地震にしてはタイミングが良い。…そうか、世界樹はその為に…勇者が変化した世界樹の種が消えた事による魔王の復活……この様子なら7日後、夏休み最後の日が復活の時かな」

 

 地中の底、魔王の鼓動で星が揺れる。

 星の中心で復活の時が来たと、再誕の産声をあげようとする。

 流石はサーシャの友人だ。魔王の封印として、無限に力を付ける勇者と聖剣で蓋にしていたとは。

 知らされずにやらされた勇者と聖剣は確かに哀れだが、確かにその功績は今なお讃えられるのに相応しいものだった。

 ならばサーシャは勇者に死の安寧を、聖剣に夫の再会を与えた責任を取るべきだろう。

 

 用意したいのは最高の仲間、最高の装備、対策魔法、覚悟のある兵士……とびっきりの悪意。

 

 しかし全部用意する必要はない。

 折角相手は自らズルをしていると言ってくれているのだ。

 それならサーシャにも考えがある。今まで上位世界に警戒されない様自重していた分を解放する用意がある。

 

「最高の誕生日プレゼントを用意しよう。勿論、誰に喧嘩を売ったのか後悔出来るものだ」

 

 懐にある世界樹の種が、戦意高揚の意思に応じてより強く脈動した。

 

 

 

 

 

‭─‬‭─‬‭─‬七日後、サーシャは再び帝都に足を踏み入れた。

 

 






「ハードモードにした奴」
 実はリーロが模倣した五月雨ではない。ネット小説好きの歩きスマホで死んだ、恋より食い気な20代後半の男性。
 まだ魔王と勇者が居た時代にこの世界に転がり落ち、魔王を乗っ取った。目的は自堕落に過ごし死なないこと。その為に自分以外全て殺して高度な文明のある上位世界の一住民になろうとした。
 ゲームの方は知っているが、バグゲーだったことしか記憶にないので思い入れは無い。その結果勇者を舐めてかかり封印された。
 彼がチートと言っているのは魔王の力のこと。本物の魔王が倫理や矜持的にしなかったことを遠慮なくやっているのでゲームよりも強くなっただけ。

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