不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計   作:何処にでもある

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 サーシャに七日も準備期間を設けるとどうなるか。




粘・核・七二

 

 

‭─‬‭─‬予め言っておこう。

 

「寝起きに水爆を受けた事はある?」

 

‭─‬‭─‬この戦いは、理不尽の押し付けである。

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬…………

 

 空の彼方から世界樹に向けられた黒点がサーシャの方へ返され、それを後方に転移させ、爆風が帝都を襲う。大地が揺れ、建物が崩れ、プレートだけの大地に大穴を開けた。

 

「‬無いな。だが、心臓に悪い言葉だったよ。思わず投げ返しちまった。普通自分のいる場所にこんなもの落とすか?」

「製作者は対抗策を用意しているものだよ」

「自分だけ安全だったってことかよ」

 

 始まりは盛大に。過去改変から落ち着いて来たダンテ先生に協力を仰いで作った最高の爆弾は、意図も容易く無効化されてお返しされた。

 全く、転移させて爆破したから良いものの、これで帝都に水属性が多かったら放射線で大変なことになっていた。精霊だった名残が残っている人類は雑に扱えて便利である。

 しかし…水爆一つで済めばよかったのだが…ままならないものだ。

 

「はぁ…一度だけなら誤射だと見逃す。出来ればあんたとは戦いたく無い、そうだ、一緒に上位世界に降伏しよう。それならお互い得だろ?」

「私はお前を殺す必要がある。敗北主義者を殺す義務だ。容易く諦め、不利な博打に身を投じるしか無い愚者を殺す義務だ」

「…想像よりも話にならないな」

「本当だね。しかしそれは守るべきものが他者を含むかの差だ。私は私の世界を背負っていて、自分自身の世界を滅ぼそうとするお前と話が噛み合わなくて当然だ」

「は?分かんな。もう良いや死ね」

 

『禁忌‭─‬水‭─‬』

 

 人型を取っていたスライムが高水圧カッターを出すと同時に禁忌を発動する。

 制御なんて考えていない元来の禁忌。世界が変わって魔法となっても変わりなく、禁忌の怪物は世界を水の身体へと変えていく。その中には当然、相手の放出した水も含まれていた。

 首を横にズラし、消しきれなかった水飛沫が頬を掠る。禁忌で消しきれない辺り、耐性を持っているようだ。

 

「あ?くそっ折角台無しにしたのにどうやって制御法を見つけた?…どうでも良いか。『捕食』」

「‭─‬‭─‬取り込んだな?魔法連鎖『星の蘇生‭─‬水‭─‬』」

「…ただの蘇生魔法がッ!?…ガッ!!?」

「他者に興味がないんだろう。しかしそれで戦闘の基本である観察を怠るのは隙に繋がるね」

「何を…グッ…した!?」

 

 禁忌の怪物が取り込まれる。魔王は普段通り、依然変わりなく外郭の怪物を自らの力にする。

 実に予想通り。取り込んだ力を使うより、相手の力を奪えば効率的に差をつけられる。アドになると考えて魔王は動いていた。

 だからそこに魔法を仕込ませて貰った。

 食事に毒を混ぜ込んだ…否、禁忌の怪物が居座った魔法、その本来の形を取り戻させ更に改善したのが偶然魔物に毒だっただけの話か。

 上手くいけば儲け物。実際試してみれば笑えるほど上手く行った。相手が持っている情報量を考えないからこうなる。

 

「大した事はしてないよ。精々、"蘇生魔法にお前が取り込んだ全てが蘇生する程の魔力を注ぎ、安全な場所に転移させた"だけだ。折角MMとの契約も切ってイチタイイチにしたんだ。他人の力は無しと行こう」

「…ゴミがよ!こんなアッサリ…今までの苦労がパァになるなんてな!!覚えとけよクソ野郎!」

『氷水結界‭─‬陽炎』

 

 実にクレバーな判断だ。

 サーシャが自分の想定以上に対策していると分かるや否や逃げるとは立派な心掛けである。

 

 逃す訳がない。

 

 魔法を繋ぎ、その賢明な判断は誤ったものにする。場を閉じ込め、幻覚を作り、方向を狂わせ、脱出を防ぐ。

 取り込んだものの力を、耐性も身に付けるなら剥がして殴り殺せば良い。

 

「"爪併せ(射程延長)""重撃(火力上昇)""霞殺し(物理無効貫通)"‭─‬‭─これが柳生神影流だ‬」

「あクソ俺特効の技じゃグハっ…!」

 

 そしてこの考えは正解だった。サーシャの貫手から延びた一撃はアッサリと魔王の核を貫き、粉々に砕け散る。

 これで……。

 

「…良くもやってくれたな?」

 

 ()()()()()()()()()

 伝承や口伝通り、魔王は核を再構築し、新たな姿を得る。

 ただの人型のスライムから人間の色と臓器を手に入れて、サーシャに似た姿になる。

 思考の方は逃げられない環境に適応し、闘争本能を肉体に与えたらしい。結界を構築し続ける手間が省けて寧ろ万々歳だ。

 

「だがな、テメェは俺に勝てんぜ?何故なら俺は死なないからだ!」

 

 『捕食』、魔王が使う固有魔法。

 その効果は「氾濫」による自己進化の任意発動だ。取り込んだものの力を再現し、負ければ新たな同族をその場に繰り出し、敗因を参考にした要素を追加して意識を移動させる。

 理論上は確かに無敵だろう。食べるほど強くなり、負ければ新たに出現する進化した同族を喰らって乗っ取る。

 新たに産まれた意思や生命を踏み躙ることを躊躇しなければ、いつかは全てを殺せるのも確かな事実だった。

 そして本物は魔王が何故死んだのかも理解出来る。同族喰らいで生きながらえてることに耐えきれなかったからだ。

 

「はあぁ!新生魔王流‭ってな!!‭─‬─‬‭─‬"五爪併(射程延長+)""超重撃(火力上昇+)""霞絶殺(物理無効貫通+)"!!」

「新しく覚えた技を雑に使いたがるのは悪手だね」

 

 しかし、コイツには関係ない。

 だから無限復活するし、とても強い。捕食の仕組みを改めて考えると、転生者の自称もそう間違っても居ないと考えを改めておいた。

 

「ほい、"投げ返し(致命パリィ)"」

「コハッ!?」

 

 それはそれとして武術で負ける要素も無いので普通に殺した。

 新しく覚えた技を使いたがるのは伝承で知っていたので、予め作っておいた返し技ですり潰したのだ。素晴らしきは歴史の偉大さを教授してくれたエイハブ先生と宝物館の管理人である。

 例え既知の技しか投げ返せなくても、予想出来れば使えるのが偉大だった。

 

「まだまだァァ!!『認識阻害』!」

 

 第三形態、追加は魔法の獲得、絡め手の学習だけ。

 丁度良い力加減で殺し、他者の捕食をまっさらにしたお陰だろう。進化の上がり幅も渋く未だ対処が余裕だ。

 

「同じ死に方…かよ…」

「……ゲーム知識を何処に置いて来たの?水属性は状態異常がとても効き辛いの忘れてた?」

 

 結界を解除し、敢えて逃走出来る余地を作って無駄進化を挟ませる。

 無限に進化できる相手に果たして意味があるのか?それは続けていけば分かる話だ。

 

 第四形態、記憶から再現したと思わしき不完全な蝙蝠の羽根の獲得。

 飛行中に魔力弾を使い銃殺。

 

 第五形態、基礎四属性の魔法、『火砲』『瞬足』『土纏』の獲得。

 魔法を発動に失敗し自殺。

 

 第六形態、無詠唱、杖無しによる高度な魔法技術、達人級の身体能力と技術、記憶にある全ての魔法と武術の獲得?

 恐らく魔力量がA程度なのに魔法を覚え過ぎたことによる溶殺と思われる。

 

 第七形態、大地を取り込んで質量を増やし魔力量及び記憶容量を解決。更に地上に出た時の穴を通り星の中心に居る外郭の怪物を取り込もうとする。

 帝都の街並みが消えたが、被害は事前に行った王国名義の避難勧告で公式上は0人とする。

 

「‭─‬‭─‬つまり想定済み」

 

 事前に行った…具体的には最初に行った水爆による大穴。

 "怪物が分かりやすく気付ける轟音と衝撃で作った避難通路"。

 その先は王様に依頼することで転移門が即刻構築され「世界の外郭」…深淵の先にあるサーシャが神になる大魔法を使った儀式場に繋がっている。

 

「……なんもねえ!?」

「本来の静寂を取り戻したと言って欲しいな」

 

 とどのつまり、既に星の中心はもぬけの殻だ。誘導員はカーリーとヘルシングとダルクに頼んだ。お陰で随分と頼み事に使える手札を使ってしまったが…それだけの価値はあった。

 

「決戦のバトルフィールドに到着したんだ。……まさか、今更逃げられるなんて思ってないよね?」

「……ぃいやそんな事ないな!思い出したぞ、今のお前はMM(やり直し装置)がない!此処で殺せば全部上手くいくって事だよなあ!?七回()殺されたんだ!負ける訳がない!」

 

 良いことに気付いたの魔王が身体を圧縮させ、背中から触手の腕を8つ、先端を剣や槍先に変えて、"重増幅"で自重を操り浮遊するサーシャに向ける。

 蘇生魔法で胃袋を空にされ、それでも此処まで成長したのだと吼える。

 

「それじゃあどっちが逃げ道を塞がれたか、私とお前の世界をぶつけ合おう!」

 

 それを見て、だからどうしたとサーシャが嘲笑った。

 

7回自分を殺したお前の世界と!1万1044回友人を殺した私の世界!どれだけ死体を積み重ねたか、その高みを競い合おうじゃないか!!」

 

 魔王(匹夫)よ、お前の前に居るのは‭─‬‭─‬悪の化身(アンリマユ)である人間だ。

 

鏡符(きょうふ)‭─‬‭─‬‬」

「魔王流‭─‬‭─"‬奥義"」

 

 同時に紡ぐのは最後の一撃。

 お互いが持つ、必ず殺す技。

 片や最悪な状態で新たな力を引き出し。

 片や鏡属性の呪符から引き出した、遥か先の別世界を再現する。

 

『"絶滅斬"』

 

 それはあらゆる生物の生存を許さない星斬りの一撃。

 魔王が自ら「氾濫」から引き出した最高峰の殺意を宿した魔物の可能性。

 

「魂を滅ぼす妖精‭─再現率10^-99%」

 

『"█ス██ツヲ█████十██████ョ█"』

 

 それは、ある世界で起きた世界変化の一つ。

 魂が世界の根幹である世界ほど致命となる、"魂という概念を消滅させる現象"となった、全知の欠片を持った妖精を再現する魔法。

 一度起きて仕舞えば最後、"呼ばれた目的が確実に達成する"のだ。

 よって─‬‭─‬此度、魔王の魂が必ず滅ぶことが"確定"し…。

 

『"██████ョ"』

なんだお前?  !…   !?    !    …

『"ツ███レハ‭"』

 

 それは直近の過去にまで遡り、徹底的に実行され‭、星を斬ったことすら無かったことになり─‬‭─‬消えた。

 

『"─‬‭─‬()()()()()()()()()()()()()()"」

「魔力弾‭─‬"重増幅"」

 

 極限まで再現性を落として尚この世界に適応し始めた妖精を殺して、完遂されるのだ。

 腑をぶち抜き、四肢を肉片とし、構成された魔力を徹底的に分解させ‭─‬‭─‬。

 

 頭部を撃ち抜く、質量を持たせた魔力の弾丸が直前に停止した。

 

「"『魔力弾』の欠点はその速度を捉えてしまえば、簡単に支配権を握れることだ。魔法陣に護られてないセキュリティの欠落は、来ると分かっていればこうして停止出来る程に脆弱だ"」

 

「…ッうあもう!この情報垂れ流しが軽々と使わせてくれないんだからもう!」

 

 初めから使えたこの全知の妖精。薔薇族の二人目の巫女、ミラーが発見し、サーシャが封印させた奥の手だ。使えば確かに必殺であり、禁忌に変わる新たな確殺の手札。

 それを何故最初から使えなかったか、それはこの全知由来のしぶとさと弱点の垂れ流しである。

 下手に使えば自ら自分の攻略法を曝け出す羽目になるのだ。地上、深淵、学院……確実に誰の眼も耳もない状況でしか使えない諸刃の剣。

 数多の偽装、協力者には特定手順で進化を重ねさせて殺す様に説明し、こうしてMMも側に居ない様にして漸く安心できるのだ。

 

「再現して置いてなんだけど契約が終わったら大人しく死んで欲しい!お願い!後生だから!」

「"『神血の精霊』が神になるのを対抗しているね。それならなんで…ああ、『勝利文明』との交渉目的か。なら先ずは星を…やってるね。種族と星の上辺が問題ないなら後は言語か。一度脳に共有して……"」

「前もそうだったけど…!一発殴るだけで終わりなのに無駄に飛行が上手い!」

「"2回目か。だったらその無駄に嵩張った嘘の鎧をとって真剣に友人と会話したら良い。足元を掬われて無駄に死が嵩張る未来がもう察せられる"」

 

 毒を持って毒を制すと言うが、破壊力が物理から情報になる方がサーシャは困る。物理の方が周囲の被害が大きいからこうしたが、やはり胃が痛くなる召喚だ。

 しかも急に人間関係にまで口出しして来た。全知の情報飽和によって時間経過で死ぬ癖に生意気にもお節介までしてきた。

 

「うおおお!その事実しか言わない口を閉じろー!」

「"ん、どうせ後6秒で死ぬ。なので最後に一言‭─‬‭─‬大人しく芸術にでも講じていれば良いのに…『勝利文明』と魔王を警戒し過ぎたね。もう止まらない。世界大戦が8月辺りで始まるよ。お前さん、時計の針を早めちまったね?"」

「はあ?何言って…死んだ」

 

 その言葉を最後にして妖精の脳から全身が溶け、魔力に返還された。

 最後にとんでもない言葉を、預言を残して再現の魔法は破綻した。

 これで再現率は最低と考えるととんでもないが…だからといって100%は考えるだけでも背筋が凍る。サーシャは自分の人生の最後を知りたい訳じゃないのだ。

 

 しかし…それでも先ほどの発言は注意深く考えるべきだろう。

 

 魔王は倒せた、上位世界の「勝利文明」への最後の計画もいつでも実効できるようにした。

 

 これでゲームでは提言‭─‬‭─‬世間一般に対する名声を得る手段の選択、付きたい国への友好度を高める決定‭─‬‭─‬を行うだけだ。

 サーシャはそれを8月の学園…もとい、学院魔法発表会で行おうと考えている。

 相手が言っていた時計の針云々はこれだろう。この発表会で何があるのか…実の所、確定している部分もあるのだ。サーシャが関係し予測出来る部分である。

 

 ローンが過去に向かうこと。逆説的に終わりの時計塔が居るかも知れないこと。

 魔王討伐の為に、妖精を使う為に重ねた偽装の数々による発表会の注目株の急増。

 王様夫妻を蘇生したことによる政治的変化。最後の各国の会議で行われる情勢変化。

 

「ローンは確か向かう途中で飛ばされた…時計塔に何があったんだろう?」

 

 あの時から世界は随分と変わってしまった。果たして今が、未来から飛ばされたローンのいた時間かは最早分からない。しかし、仮に時計塔が未だに居るとして行動を起こすなら此処だろう。

 

「確かにイラついて魔王の確殺で無駄に出費した自覚はあるけど…蘇生魔法の復活を使い、協力の為に知り合いの死人は片っ端から蘇らせた。MRCも大量に流した。あちこちの研究室の魔法開発を推し進めた……」

 

 数えたらキリがないだろう。文字通り、打てる手は打ったのだ。

 7日間もあったから本当に様々な事をしたのを覚えている。

 その過程で沢山の人を巻き込んだし、もし魔王が地上を覗いてた時様に偽装用の作戦も組み立ていた。その大半は杞憂に終わったが、その時に渡したものが沢山ある。

 

「最後に国際会議…大国なら平和の方が利益があるから維持するものだけど…今はどこの国も大変なことになってるよね。…一つずつ思い出そう」

 

「帝国は白鯨と魔王のせいで帝都が消え、国として対処すべき魔王も消えた。つまり国是が消えたんだよね…雪で作物も育たないしどうするんだろ」

 

「商国は…新しい富豪が消えたせいで政治不安がある。つまりは無秩序な訳で…一体誰がこんな事を…これじゃあ会議で商国の席に座る人が居無いじゃないか」

 

「神国は…神が心機一転した影響がどこまで出るか?後は土地的に海に沈んだ場所が多くて群島みたいになっていたし…あの階級社会で別階級の人が集まったらどうなるんだろうね?」

 

「王国は…良くも悪くも王様の気分次第かな。妻が居て蘇生された。MMの間の出来事を今頃話しているだろうし…怒りで狂ってないと良いんだけど…」

 

「ダメだ。どの国も不安だ。私が原因なのも幾つかあるけど、それ以外も致命的だ。言われてみれば戦争が前倒しになってもおかしくなかった」

 

 魔王を倒してもあまりうかうかとは出来ないと理解出来た。

 改めてこうして見返してみると何処も酷過ぎて笑えてくるが、どの道どの国に付くかは選ばないとならない。例え全ての国に喧嘩を売っていたとしても、国がなければ最後の計画は発動も出来ないのだから。

 

「それにしても…恋愛関係が本当に終わってるね。未だ誰一人として恋愛的に好意を持ってくれないし…なんだかこのまま進まない気配も感じる」

 

 こんな感じに国よりも考えて憂鬱になるのが恋愛関係だ。

 これに関してサーシャがどれだけ賢くても関係ない。キッカケを無くしたのだから対策もなにもない。なんなら賢いのが祟っているまであるし、こればっかりは今までの積み重ねが良くも悪くも結果に出ていた。

 

「ぬおお…平凡な幸福が遠のいていく…全部終わった後とか考えてないし、ちゃんと日常を作れるか不安になって来たぞ?」

 

 帰れる日常は消えたので自分で作る必要があるが、そのやり方に関しては二千万相当の自分が集まっても想像もつかない。殺しや悪意、戦争に向けて考えれば一級品の頭脳も、消えた日常を取り戻すことにかけては唯の人だった。

 既に加速させた主観では数百年経過している分、大半の人格にとっては本当に、本当に遠い昔の概念としか捉えられなかった。

 

「…よし、愚痴終わり!これだけ時間が経てば出て来ても違和感は無いよね?流れ弾の偽装として魔力弾や武術を放つのも、そろそろ終わらせようか」

 

 自分の実力、出来ることはとことん隠し、記録にも残さない。

 妖精に言われてもこの思考を変えるのは難しいだろう。このおかげで相手が実力を見誤って救った命が幾つかあるのだ。

 この先も自ら戦うことも少なく無い。手放すとしても全て終わってから。サーシャはそうすることに決めたのだ。

 例えそれが孤独になる道だったとしても、隣人を愛する当たり前だけは忘れたく無い。

 その為に嘘の鎧は必要だ。騙し隠し守る道。自分の大切な誰かを無くさないために進もう。

 まぁ、肝心の大切な誰かが未だ見つからないのだが…そこはご愛嬌として、未来の課題として置いておくことにした。

 

 今は…死した強敵達を謳うことにしよう。

 帰るには時間がかかりそうだったから、もう少しだけ思い出に浸りたかった。

 

「白鯨」

「愛しの彼を探す鯨は空を飛び立った」

「心臓はくり抜かれた。もう二度と狂気に苛まれる事はない」

 

「狩人」

「尊きものを無差別に狩る者の夜は明けない」

「獣と再開した。鈍った者は戦争で狩られるのを待つばかりだ」

 

「勇者」

「不老不死の旅路は勇気を忘れるのに十分だった」

「塵埃と掻き消えた。やっと勇者の目の前がまっくらになった」

 

「魔王」

「捕食者が目を覚ました」

「一生分のパーティで満足しなかった対価は払われた」

 

「………」

 

 少しだけ悩み、自分の事も謳ってこそ完成すると判断した。

 多少の気恥ずかしさは誰もいないのを免罪符とする。

 

「サーシャ」

「些細な幸福の為に大勢を犠牲にする」

「未だ死は訪れない」

 

 






「学徒動員(ゲーム版)」
 学園の経営が困難になるか、戦争開始が前倒しになった際に発動するイベント。
 発動後は即時留年/卒業とし、早まった戦争に参加出来るようになる。
 ゲーム機能としては3週目以降の同じことの繰り返し防止…なのだが、育成不十分なまま発動して再走することもある。
 サーシャも存在自体は知っていたが、参考資料(五月雨のプレイ)では出てこなかった為、細かい内容には気にしていなかった。

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