不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計 作:何処にでもある
発表会が始まり、欲望と思惑が交差し、それを無視してサーシャが青春の全てをぶつけにいきます。提唱は似た様なのを後日配布のパンフレットにでも載せることにしました。
「つまり…ここからはサーシャでも予想外な事が増えていく…てコト!?」
「端的に言うとそうなる」
「本来ならそれが普通だと言われたらそうなんだけど…改めて言われると驚きが勝るわね」
学院魔法発表会──裏手側。
忙しなかった夏休みも終わり、其々がやりたい事をやり切ったか、若しくは苦い思い出を後を引きつつ再開した学院で最初に行われる催事、世界に向けた発表会である。
内容はごく単純、参加希望の生徒達が自らの成果を世間に公表し、富と名誉を得る。そういうイベントだ。
従来は三年生専用のイベントなのだが、今年はサーシャが裏であちこちを手伝ったおかげで一二年生も多く見受けられる。
そのせいか本来なら室内でやる準備は外にまではみ出し、サーシャ達は公平な抽選の結果、外に準備の敷地が設置されることとなった。
数々の科学製品を載せた機関車に開発した魔法に関した本、協力者名簿に計画表…サーシャの準備場は他と比べても一際山盛りだった。
「しかし…今日から戦争が始まると言われてもあまりピンと来ないな」
「だね〜。最近まで里帰りや発表会に向けた準備をしてたから尚更そうだわ」
「サーシャが言うならそうなんだろうけどねー」
「……まあ、何かあったらその時だな」
「かもね…まあ、即日開戦って訳でもないだろうし今日は目の前のことに集中しようか」
発表会。これにはサーシャ単独ではなく研究室チームによる発表だ。
サーシャとリーロ姉妹だけでなく、ダルクにモモとリンゴ、蘇生魔法でMMから解放され肉体を取り戻したカーリーも一緒に発表する形となる。
「それにしても…」
「……それにしても…なんだ?」
遂にカーリーが女性に戻ったせいでこのチームから男の影が消えてしまった。
ダルクの女性化まで治す余裕がなかったせいなのもあるが…華は残して欲しかったとサーシャは悲しみを覚えた。
本来の顔を覚えられずに済むのは利点だろうが…あわよくば目の保養が欲しかった。
「ううん、何でも。ダルクの性別を今日までに戻せなくて残念だったなってだけ!」
「それはそう。俺もそうしたかった」
「やっぱ自分の身体が一番だよねカーリー」
「……否定はしない。だが、だからと言って誰かから貰い受けた可能性がある限りあまり残念がるのも違うだろうな」
こうしてたわいもない雑談をしていると、学園に帰って来たなとサーシャはここ最近感じていた。
それは夏休みから何日か経った今でもそうだ。村が滅んだ以上サーシャの帰る場所はここしか無く、気の置けない友人だけの空間はとても居心地が良かった。
だからこそ、発表会が終われば自然解散する事実がサーシャの悲しみを強くさせるのだが。
[──…これより、第10回の学院魔法発表会を開始します…──]
「始まったけどどうする?暫く余裕があるし、他の人の発表でも見に行く?私達は150人の発表者の中で150番目。大トリだし最短でも1時間以上は暇だよ」
「サーシャが行くなら私も行くよ!」
「私は此処でのんびりするわ。発表物を見張る人は要るでしょ?」
「誘ってくれて悪いけど他の友達の方いくわー」「ごめんねー」
「……弟子の様子でも見に行く。蘇生して馴染めているか不安だからな」
「俺は…妹のジャンヌが来るらしいから顔を見せてくる。…狩人の奴に殺されたが、こうして過去を思い出せたのは感謝しても良いよな」
「わっかるぅー」「里帰り出来るってアツいよね〜」
「なら私と行くのはリーロだけか。それじゃあ行こっか」
「オッケー、面白いものがあると良いよね!」
準備は終わったので其々が思い思いの事をしつつ、サーシャとリーロは発表会を観客席から立ち見することにした。
[──…この発表会は前任の学園の形式に則り、最初の持ち時間は10分。その後、観客席の方々が持つボタンが押された数が多いほど延長されていきます。最長30分まて説明可能であり、観客席の後方にあるタイマーを見て発表者は解説してください。ルール説明は以上となります…──]
観客には各国の貴族や有力な商人、司祭や支配層が各国に分かれて座っており、後方や横には声だけ聞いている中小の勢力や神様も存在していた。
いや神様は立ち見じゃなくて座らせてもいいじゃんと思うが、神国での扱いではこれが普通なので仕方ない…のだろうか。疑問は残るが今は良いだろう。
[一番、「通信会社」社長シープ・スミスと秘書のヘルシング・スミスの発表…というより番宣、そのついでの技術公開よ。予めボタンは押す必要はない事を頭に入れて頂戴──内容は皆様ご存知の『通信』の魔法の仕組み、その運営側になる方法について。この発表でより一層健全な競争がある事を祈っているわ]
ピピピピピピピピ……
「…雑談が少ないし延長不要って言ってたのにされてる…」
「雑談は隣に敵国の首印があるし…にしてもこの視線に耐えて発表するのってキツくない?」
「まあ見る人の立場が凄いから。こういう場を設けられるだけ、学院の権威は学園とそう変わりはなさそうだ」
[最後に、特別協力者のサーシャにこの場で感謝を。テレビを渡してくれたおかげで、こうしてラジオを独占せずに発表できたのだからね?]
チラリとコチラをを見るシープに会釈しつつ、再度観客席を伺ってみた。
軽く見渡しても端に座って他国の者が見える場所は睨み合いが起きている。
サーシャは発表者が利用できる立ち見台に居るが、この雰囲気を嫌ってか観ている人は少ない。
[二番、九霊会代表サンイです。新開発した魔法、『魂の飛翔』を発表します…──]
「ガラガラで見やすいや」
「うーん、手伝った人の発表って自分のことでもないのに何だかワクワクする」
「あの人…確か鏡属性の呪符の安定化の協力者だっけ。サーシャが研究で頼ってたのが珍しいから覚えてるよ!」
[最後に、先に倣って私も感謝を。この魔法を共に築いた仲間、そしてサーシャに。実に興味深い研究内容だったので今度があったら誘ってください]
何だか観客席から見られている視線が増えた気がするがまあ良いだろう。
凡人がニ千万集まって研究するより、その分野の天才一人が本腰入れてやった方が早い。
彼との協力は実に有益なものだった。
しかし…はて、こんなに協力した相手が発表会に出るものだろうか?確かに狩人による人材調整で使えそうな者に片っ端から協力を仰いだが…。
[三番……魔道具の量産……天井になりますが協力してくれたサーシャに感謝を]
[四番……転属性に寄らない転移の実例………そしてスペシャルサンクスサーシャでしたー!]
[五番……より安定した魔法薬の新製法……あ、サーシャさんあざました!]
さて、此処まで来るとさすがのサーシャでも気まずさが勝ってきた。
もうやめようみんな。隣でじとりと見ているリーロの視線が痛いばかりだ。
「サーシャどれだけやったの?流石に五連続はアレだよ?注目がエグいよ? 反省しろ!」
「魔王の対策として…偽装用と保険用と道すがらで色々やった…」
「完全に
「弱体化を跳ね返すパターン用が9割だったから…それが丸っと無駄になってる…」
弁明、予測では7割の確率で無効化していたんです。そこの所を分かってください。
そう言っても信じられていない辺り、リーロはサーシャを高く見積もり過ぎじゃないかと思った。
そういう振る舞いをしていたのはサーシャだったので後悔後先に立たずである。
「サーシャぁ…それはそれとして蘇生した連中はどこにやったの?」
「遠くて…寒いところ」
具体的には薔薇族のいる砂漠地帯だ。
あそこは結構寒かったしこの世界でも過酷な環境だ。果たして今も生きているか定かでは無いが、廃棄場としては最高の部類に入る。
サーシャは魔王を殺したいだけで別に犠牲者が幸せになって欲しいとか考えてないのだ。
だからこうして雑に廃棄出来るし後処理が楽なのである。そこまで気を回すリソースが無かったとも言う。
ただ、地上が直ぐに戦争になる事を踏まえると、まだ生き残れるかも知れない環境の方が良いと薔薇族の所を選びはしたとだけ言っておこう。
「そっかあ深淵の最下層かぁ…私は別に良いけどねー」
「流石リーロだ他人に興味がなくて助かる」
「サーシャぁ?…もう、それで後々大変なことになっても知らないからね?」
そんな事を話している内に休憩になった。発表台も立つものが居なくなり、静かな会場として休息している。
[休憩中にこんにちは。49.5番発表、
ばっと、その言葉に顔を会場の方に向けた。
そこに居たのは間違える筈もない。黒いローブ、ローマ数字の仮面、隠れ潜む神の下僕。
今までサーシャでは影も踏めなかった者が──姿を現していた。
殺───
「リーロ」
『MM化オッケー』
「"魔力弾"─陣形付与、『氷像』─
指摘された弾の支配対策に防衛用と追尾機能の『付与術(劣)』の魔法陣を刻み、氷に錬金を併用して暗殺用に調整する。水魔法を入れる余地は残念ながら作れなかった。
[はい、飛び入り参加です。ですが素敵な物を発表出来ますよ]
よし殺───
殺すのに躊躇する時間は終わった。最悪巻き戻して事前に止めるのだ。
[じゃーん、今話題のサーシャに関する解説です。知らないのはフェアじゃないので説明しに来ました]
ぶっ殺───
人類存続と種族の昇華が目的の組織は不要となった。躊躇する必要はないだろう。
[彼女は水魔法使いであり、タイム家のMMを所持しています。その為戦闘において死に辛く、持ち前の才能から研究開発に優れているのは…此処までの協力者の発明を見て理解出来るでしょう]
パァン!!!
そこまで説明された辺りで銃声が鳴り響いた。薬莢がカラリと落ち、脂汗が額を伝う。
消音器もなにも気にする余裕のない、当てる事だけを考えた挙動。緊急殺害処置。
対象はエルフ………ではなく、先ほどから思考を弄っていた──シンキングだ。
「──曰く、『大罪』のMM。誰かが選択してる時間を交換する時魔法」
リーロ曰く生前の『大罪』は作物の進化の選択を交換して品種改良を行なったらしいが…今回は「殺す」を「保留」の選択に交換させられたのだろう。
要約すると"他者同士の行動を置き換える魔法"だ。
行動交換、選択交換と言えば分かりやすいだろうか。
まさか観客席から干渉されると思ってもみなかったが、MMを魔力弾で遠くに弾くのは成功した。
私にも効く思考操作…理解できるまでかなり時間を稼がれてしまった。
目的は変わらない。ここで殺せばまだリカバリーは効くので引き金を引いた。
──理解した。これはエルフの扱っている時魔法で
…つまり、どういうこと──理解した。
「…くそっ!誰かの「あんまり理解できなかった」と交換された!邪魔くさい!」
…手出しするなと言われているのだろう。
先ほど何をされたか。
発表しているエルフの力でシンキングの時間を撃たれる前まで戻し、妨害を再開させたのだ。
「個体の時間を戻してリカバリーするエルフ、選択を交換させるシンキング…同時に仕留めても無駄…いざ殺すとなっても殺し難いのが難点か」
『私が居るから選択前を覚えてられて、状況を把握出来るけど…それでもこの組み合わせは凶悪だよね』
〜〜〜〜ッッ!!
悶えた末にリーロを銃から秒針へと変型させ、仁王立ちする。
ここで殺すことは出来るだろう。しかしそれをやるのは酷く面倒な手間暇とリソースが必要になる。
思えばリートとの関係悪化の危惧もある。
『周回』は本来リートだけが恩恵を受けられる魔法。
独断で使われたらどうしようもなくなる。
今こうして時間を正常に進んでいるのも、リートが妹が生き返った今を手放すのが惜しいからだ。
やり直せる奴は全部を得るのに固執する。少なくともリートと彼らが仲違いするまで、殺すのは得策ではない。
「だからまあ…殺さない理由はある。でもそれはそれとして殺して起きたいほど面倒なのも変わらない」
殺したい程面倒な相手だが、殺し難い。
例えこれから先の戦争で大量の死人が出るように動く組織だとしても、サーシャ一人では消しきれない。
利害では損しかないが、関係が悪化すると身内から刺される相手。心底面倒極まりない。
全ての情報を得たら余計な事をしかねないのも含め、コイツらには動かないで欲しかった。
なにもしなければ全て終わった後に身内にするから、何もしないでくれと。
[本人からの苦情が止まった所で再開します。彼女は優秀ですが、同時に利点とも欠点とも取れる物を持っています。それは──極端なまでに身内には優しく、敵には厳しい点です]
人のことを赤裸々にして何が楽しいか?
むかつく奴である。
[なので仮に戦争が起きれば、彼女は躊躇なく自国以外を滅ぼすでしょう。容赦なく徹底的に]
観客の一部がおおっと言っているが、お前らに言われる筋合いはないだろう。
旅行客や旅人の扱いとか酷かった国は特に。
[……引き入れる程、必死になる価値があるのかと疑問でしょう。ですが私にはその疑問こそが疑問ですね。──此処までの50の発表者全員が感謝するような相手ということは、彼女一人でこの発表会全ての発明を持っているということ。どうして必死に引き入れないのか?…と]
「なんかアイツ等に言われるとむかつくなあ。なんか殺したくなって来ちゃったなあ」
『サーシャってなんか時計塔の人達嫌いだよね』
「最初に殺そうとして来たの、アイツ等。世界の為に死ねとか言われてさ、実際何回か殺そうとして来た相手を好きになる?」
『…言われてみればそうだね!』
[では私はこの辺りで。次は無間地獄で会いましょう]
その言葉を最後にしてエルフとシンキングは虚空へと消え去った。
サーシャが得られたものといえば、シンキングから"他人と意識を交換する"だけの『大罪(劣)』、エルフからは"過去の状態に戻す"『逆転(劣)』だけ。
二千万人相当の思考を得たおかげでどちらもかなり良い状態の物を取ることが出来たが…果たしてサーシャはこの後どういう扱いをされるのか。
この物欲に満ちた視線が答えなのだろう。
サーシャという個人ではなく、手に取れば勝利出来るトロフィーを見つめる視線。
この場に居る全員の意思が「あの言葉を信じる」に統制された、満場一致した意思。
[ご来訪の皆様、休憩時間が終わったのだ。午後からは私、ジャッジの進行でお送りす──……]
かつかつと踵を鳴らし、会場を後にする。
「リートの所に戻ろうか。これはあんまり好きじゃない流れだ」
『戻ってどうするの?発表は最後だけど』
「そうだなー…いっそ、遠い何処かにでも行こうか?」
仮に…好ましく思っている男性でも居れば、この状況でも何処かに着くことを選んだだろう。
だが、残念ながら今の私にそのような相手は居ない。居ないのだ。
『良いの?あんなに頑張ってたじゃん』
「そうなんだけどね…確かに私は名誉も権力も手に入るなら手に入れるよ。でも、それは手段でしかないんだ。…旦那を待てず魔法の研究が出来ないなら、それに価値はないんだよ」
『つまり………ヘラったんだ!』
「…あーどうだろう。そうかもね?…色々あって疲れてるのかも」
今までを振り返ってみよう。
私は魔法の研究の為に学園に来た。
そしたらなんか男の気を引く為に作った魔道具で幽閉されたり、この世界がガチでやばいと知った。
しかも、私はそれを解決する為に産まれたような物だとも知った。
仕方ないので色々やって、世界を救うまで後一歩まで来た。
「そこまで来てさー…アレはないでしょ。私が恋と趣味に生きる邪魔でしかない」
こうして考えると学園生活が全然出来てない気がする。
元々目的を達成する為なら、嫌悪感が有っても誰かに操られるのに許容出来るのが私だ。
しかし、それはそれとして腹に溜まるものはある。
タダでさえ好きな
『そしたらどうする?本当に逃げちゃう?』
「……もう少しだから我慢するけど、終わったらタダじゃおかない。…それに、期待自体は嫌いな訳ではないから。発表はちゃんとやるよ」
この後サーシャとリーロは自分の待機場所に戻り、弁当を食べたり昼寝して休息した。
思えばこうして何もせずにのんびりすることも久しぶりな気がするし、待機中くらい問題ないと判断したのだ。
そうして時間は過ぎて夜の5時…遂にサーシャ達の番が回って来たのだった。
「それじゃあみんな、準備は良い?」
意気の良い返事が返って来て、サーシャは満足そうに頷く。
例えこの後に何が有っても、これだけはサーシャが築き上げた本物の日常だ。
その成果を例えどう言われようと、こんなのがあるのだと、宣言すべきだと確信したものを出そう。
[それではお待たせしたのだ。まさか学園と合わせても最高峰の1番から149番までの全ての研究に関わってるとは思わなかった最後の生徒、サーシャの研究室の発表になるのだ!]
パチパチパチパチ──!!!
疎らな拍手が、一人だけひょっこりと出て来たサーシャに贈られる。
今まで一度たりとも拍手をしなかった観客達が、期待を胸にサーシャ達を出迎えた。
片手を上げて、静かにさせる。まだ早かったからだ。
「…あー[あー…こんばんは。150番のサーシャの研究室です]」
最初から全員は入らない。こういうのはデモンストレーションだと予め脚本を作っておいたのだ。
恭しい一礼、ハキハキとした言葉。細かいあれそれを誤魔化せる大音量と身振り手振り。
此処では私が最も偉大な神なのだと、圧倒させる。
[この度は最後まで席に着いたままな事に感謝を。退屈されましたか?眠気はありませんか?最後の最後で夢の中なんて、そんな寂しいことは無しですよ!!]
持ち時間は30分。既に全員が私に早く見せてくれと言外に言っていた。
[では前置きは程々に──折角なら楽しくいきましょう]
くるりと、観客に背中を向ける。
入場の時間だ。
[
バッ──。
照明を乗っ取って消して、会場をダイヤモンドダストを撒く。
空気は作った。全てが真新しい体験を届けよう。陰気な空気を今だけでも消し去って仕舞え。
スポットライト点灯!音楽再生!ビバババ!!
[魔法だけが全てではない! 全てが新しい技術体系がある! 其れこそが、科学です!!]
ダルクを先頭に様々な機械を──蓄音機、ラジオ、テレビ、スピーカー、マイク、映写機、パソコン──可能な限り再現した科学技術を乗せた大型自動車が、幻想的で現代的な未知の世界を創り出して。
[所で…お隣の遠い国の人と会話してみませんか? ああ、王国語ではなくて結構です!! もう此処に言葉の垣根が有りませんから!!]
「
杖はどんな魔道具か?とびっきりの魔道具だよ。それっぽく見えるようになるだけの魔法のステッキだ!
[さあさあ始まったばかりだ!! 早速──おっと!主役が待ちきれなくて出て来ちゃった!! それならいっそみんな一緒に歩いて…いやいや飛んで行こう!! 素晴らしき魔法達のご登場だー!]
モモとリンゴが引き連れて現れたのはMRCを入れたMM達──死者を利用したMMが実体化した物達が続々と現れては魔法が振るわれる。ダンテ先生の息子、シープのご両親、モモとリンゴの親友、誰かの愛犬、その他声を掛けたら快く受けてくれた方々。
専用の服で着飾った彼ら彼女らは、それぞれに渡した魔法が予定通り発動した。
[『ガソリン生成』は燃える水を作る魔法!
『風来坊』は帰り道を案内する魔法!
『火の実り』は命魔法のように、いや、それ以上に即席で食べ物を作る魔法!
皆様も是非ご試食を! ほんの少しラッキーになるキュートなポップコーンですから!]
ダルクがサーシャが喋っている間に準備した小さな機関車にガソリンを入れて、クルクルと巡回させる。
風に導かれた機関車はレールも無しに裏手に回り、風船や新しい
今日に至るまでに創り上げた魔法効果のある食事。その完成品の一つだ。今日訪れた者への些細な祝福である。
[うーん美味しい! よし機関車君! もう一度面白くておいしいものを持ってこーい! ……おっとー!? これは今までの発表者達じゃあないかあ!! これはこれは、折角だから何かやっちゃいませんか?]
小さな機関車がもう一度回り、今度は困惑した顔の1〜149番の発表者達を乗せて現れた。
パレードは数が居てこそなんだよ…MMには話を通してるからサプライズだと思って欲しい。
次第にMM達の言葉を聞いて状況を把握したのだろう。シープが率先として使い、それに釣られて他の発表者達も同じ魔法を使い始めた。
[おっとと! 属性に依らない魔法が出て来たぞ!? それは「汎用魔法体系」の『結界』じゃないか! 属性を、無属性すら使わない誰でも使える魔法だあ!]
次第に会場を覆うドームが現れ、空間が歪み、私のいる場所を中心とした形状に変化する。
『結界』を構築してくれた人達には増築した観客席に座って貰い、立ち見していた人達にも外周に増築した席に座って貰った。
これにて完成──複数人による『結界』の魔法である。
[良かった! 無属性しか使えなかった魔法も、これからは誰でも使えるんだね!]
戦闘に使える魔法は発表しない。
私は元から、こういう誰も傷付けない魔法が好きで魔法の研究をしていたんだ。
だからこそ全然殺す気のない水魔法のことを嫌いにならなかったし、今も尚有効活用出来ないか模索していた。それはそれとして戦闘に使う魔法も好きではあるが、それ以上に好きなのがこっちなのだ。
此処では私が全てを支配する。成果物をどう発表するか、決めるのは私だ。
決して戦争だけに使えるのがサーシャではない。
決して魔法ならなんでも良いのが
国がどうとか、世界がどうとかではなく、今は私だけを──見ろ!
[最後はやっぱりコレが良い──皆様、決して見逃さないように!!]
思いっきり地面を蹴ると同時に氷を張り詰める。会場の形も相まって…スケートリンクが完成した。
照明を消して、暗闇に紛れてリートが現れ、靴先に
「──行くよ」
「いつでもどうぞ?ミズ・サーシャ」
──クラシックな音楽に切り替わると同時に、背後のリートと
「それにしても、よく踊りを最後に持って来たな?」
「私の一番の青春と言えるのがコレだったから」
手を繋ぎ、回り、支え、支えられて踊る。
踊る最中の音楽はかなり大きな音に設定した。
観客に、この話は聞こえないだろう。
「相手、私で良かったの?リーロとかダルクとか…カーリーでも良かったじゃない」
「カーリーは後方で発表者を集めるのに忙しかったから…後、あの人踊るのが壊滅的だった」
「あっはは! なら仕方ないわね!!」
ターンをして、連続で飛んで、クルクルと回り踊る。
相手の選定は動けて、そして踊れる人を選んだ。出来れば男に戻ったダルクにしたかったが、そこは間に合わなかったので仕方ない。
「それに、リートとは縁があったから……こうして一緒に踊っているのが不思議な感じがする」
「縁って変な言い方…確かにスケートはよく分からないけど…一緒に踊るの、私は悪い気分じゃないわ」
「奇遇だね、私もだ」
消去法でも、リートを選ぶ事になったのは奇縁を感じる。
私の知らない私の相棒となった人。スケートをよくわからないと言いながら余裕で踊れるのも含め、なんだか複雑な気分になった。
きっとリーロより長い時間を過ごしたのだろう相手。覚えてなくても、事実として世界の外殻で確かに見た。
「サーシャ」
「なに?リート」
「私、始めは貴女のことをとんでもない悪者だと思ってたし、今もそれは変わらない」
「うん」
「でも良い人で善人でもあるって、普通なところもあるって、一緒に過ごして分かったの」
「私も、リートが生真面目で義と礼に厚くても、妹の為に目を瞑れる人間らしさもあるって知った」
「はは、喧嘩売ってる?……でも、少し分かったことがあるわ。人って一面だけじゃ分からない!」
リートに体重を預け、倒れる様に滑る。息を合わせなければ、速度を合わせなければ出来ない技を繰り出していく。
軽口を叩き、そうすることが出来るくらい、サーシャとリートは信頼を重ねることが出来ていた。
「だから決めた。悪い事したら吹っ飛ばすけど、私はサーシャについて行く。終わりの時計塔より、貴女の側にいるって決めたわ」
「それは嬉しい話だね。うん、本当に嬉しい」
「でもこの前の魔王の時みたいに置いて行ったら殺す。それだけは承知なさい」
「……分かったあ」
置いていったの結構気にしてたんだ…ごめん…ごめんってば。
サーシャが踊りの最後に考えていたのは、そんなちょっとアンニュイな、しょんもりした感情だった。
ワアアアアアアア…───
こうして、サーシャの発表会は大盛況のままに終わりを迎えたとさ。
location:「学院・会議室」
time:8/15 18:13p.m.
「いいものだったのう?」
「そうであるな。様々な被害を与えられたが、あれを見れば許せるものだった」
「我らの新たな支配者として迎えても良いものだったな」
「実際に舞台に上がった身としては、結構楽しかったわ」
「そういえば富豪の、お前はあの水魔法使いの舞台に上がっていたな?」
「一応、学院の生徒ですもの」
「しかし驚いたな。あのスミス家の生き残りがいて、ましてや富豪に再び成るとは。竜の仔は竜だったな?」
「あらどうも──竜に滅ぼされた身として光栄な言葉です」
宴も終わって学生達が帰って行く中、とある一室で各国の代表達が雑談に講じていた。
毎年恒例の国際会議、その直前である。18時15分開始のため、それまではこうして王国式に沿って個人的に話し合っているのだ。
座っているのは上座から
唯一殺気だってないのは王様くらいだろう。
「余も歴代最高と言えるものを見られて満足じゃ。実に──
カチリと、時計の針が15を指した。
「では、国際会議を始める。従来通り席順で議題を出し、それを三巡して終えるとしよう。先ずは余から──「あの水魔法使いは王国の者」でよいな?」
王が今まで通り、強権を翳して結論を下す。
コレまでも神国の森林、商国の深淵階段、帝国の資源をこの一言で奪って来たものだ。
これまでは力があるが故に通じた暴君圧政。それはこれからも変わらないと宣言し──。
「「「却下。「こちらのもの」だ」」」
───それを絶対に覆せる力が目の前にあるからこそ、その不条理は通りとならず拒絶された。
「では、貴族を各国に送るとしよう。国力の1割…それで良いな?」
「いつもの脅しだな、つまらん。少しはあの小娘のように楽しませる気骨を見せろ。その脅し、あやつを手に入れれば通じないものに過ぎん」
「神国はちと繋がりが薄いが…珍しく神が彼女の友人のようでな?交渉の余地があるのよ」
「男の従者を売れば一発よ。私の友達だから詳しいのよ」
「ほう?既に動いてる輩もおるか」
いつもと違って礼儀のなってない代表の発言が重なっています。
不敬なので王は彼らの護衛の首を刎ねる事にした。
『大回転』でずんばらり。たくさん死にました。
王様は満足げです。久々の血の噴水が中々綺麗でしたから。
「…相変わらず、その暴力癖は頂けないな」
「全く、仮にも一国の王の姿か?これが。人の命で花冠でも作っているのか?嘆かわしい」
「……初参加ですけど、王国が嫌われてる理由が今分かりました。…サーシャの言う通りヘルを連れて来なくて正解ね」
「おお富豪の、良ければ神商同盟でも組まんか?経済や関税、今のご時世調整が必要だからな?」
「帝王の出す条件次第。成り立てで直ぐに頷ける立場でもないので、そうさせてくださいな」
「…ほほ、若葉ながら将来が楽しみな子じゃ」
しかし、慌てる人は誰一人居ません。それもその筈です。
後ろにいる者は全て、捨てても痛くない実力の低い者。彼らはもう王座に居る老人の癖を把握していたからです。
本当の護衛は『誤認』などを使ってあちこちに隠れ潜んでいます。
もう王の権力は絶対ではない。それがこの場の共通認識でした。
「ふむ、王の提案が却下されたからには次は帝王の俺だな。「帝国は王国に対し宣戦布告」を宣言する。翌日から数えて7日後、首都までの軍事的侵略だ。王を殺して終わりとし、その後王国の亡国を宣言させて貰おう」
「早速じゃのお…では殺るか」
その言葉と同時に二百の斬撃と魔法が切り結ばれた。王が片眉を上げる。帝の力が強くなっている。この程度で今までなら殺せたのにも関わらず、今はこうしてピンピンだ。
「手品はなんじゃ?」
「軍事機密だ。して、争うとしてはかの者は魔王を殺す大義を成したが故に帝国の
「ふむ…仕方ない。一度で殺せないからと、二度も続けるほど余も狭量ではないからの」
口を閉ざした帝の代わりにサーシャの記憶から答えるなら、帝王の手にある
帝都の住民の避難、それはただ脅すだけでは悪い思ったサーシャが、世界樹の代わりとして差し出したMMと設計図だ。
帝国式の魂や素材に依存しない技術を盗み見て応用し、勇者の魂がなくともその肉体に掛けられた魔法の効能を限界まで引き出した逸品。勇者に掛けられた『回顧』の効果を1%だけ引き出すのに最高した帝国式のMMだ。
つまり、量産可能な身体能力と技術を8000万倍にするMMである。帝は恐怖と共に喜んでサーシャのお願いを聞き入れて魔王討伐に協力した。
だから分かるのだ。この小娘絶対に他国に渡したらあかんと。スーパー帝国人なら良いが、他国がスーパーをやって来たらあかんと。
「では「神国も他国に宣戦布告」をしようかのう?ああいや誤解せんでおくれ。最近の神様がサーシャが欲しいと五月蠅くてな。それさえ貰えれば撤廃できるのよ」
「許す訳もないのう?」
「では戦争じゃな。「サーシャが所属するのが他国であるなら、その国に戦争を行う」とする」
「じゃあ殺すか」
帝の繰り出す青い火が老鳥を包み、灰も残らずに消し炭にした。
しかし──どうした事だろうか。
灰も残らず死んだ老鳥が火を再び燃やして生まれ直したではないか。
まるで探窟家が噂する不死鳥のように、死を一過性のものだと息を吹き返してみせた。
「蘇生魔法──それが復活して誰が最も恩恵を受けるか、神に祈る我々じゃよ。それこそ、寿命以外では死なんほどに──神託によれば禁忌を廃したのはあの小娘、価値なんぞパレードを見る前から知っておったわ」
なんでも
彼女を他に渡したらあかんと。たった"一人"で"禁忌を破棄"した。それも確殺という力を捨ててまでそうしたと神は言うのだ。
昔ならいざ知らず、最近の神が言う言葉には説得力がある。だからこそ、今こうして身体を張ってまで意思を示している。
「終わったのなら私ね?「商国はこの戦争に対し中立とします」……最も、我が友人が私の方に着いたのならその限りでなく、積極的防衛の為属国するまで殴るのでご了承をば」
富豪の宣言に対する反論は出ない。これからの流れ次第で味方にも敵にもなる風見鶏の宣言であろうとも、味方になるなら頼もしいのも事実なのだ。何より情報伝達においては絶対的に優る国は、コレほど頼もしいものはない。
シープの視点で考えても出来ればサーシャと敵対したくない。散々一人で大国に勝てるようなものを見たのだ。
それも単に力があるだけなら兎も角、多目的に対応出来る能力の高さ。人間の可能性を煮詰めたようなそれは、誰にとっても価値のあるものだ。
「……ふむ、煮詰まったな。後はあの小娘の選択次第か」
「………それなら賭けでもどう?どうせ全員裏で手配してるでしょう?そのうち来るでしょうし、その言葉を賭けるの」
「自分に有利な発言以外選ぶ奴がいるか?」
「余暇なのですから良いでしょう?どうせ今回は三巡もせずに解散となりますし」
「では余は発言権を1つ賭けよう。勝者が総取りで良いな?」
「俺も一つだ。全員顔を揃えている内に言うべきことは言った」
「……では神国も一つ。勝者が言うべきことは多くなるからなあ」
「言い出しっぺの私は二つ」
其々が不自然な思考の間を置きつつ、全員が参加する。
国の代表がするにはなんとも気軽な調子で、国の行き先を決める手札を賭けることとなった。
既に何人かの貴族や官僚、支配者や商人が泡吹いたりヒソヒソと使いを出しているが気にした様子もない。
下がどう動こうと大局を決めるのはこの4名だ。その流れを誰がどう乗りこなす為に足掻いても、それは小さなこと。最上の場にいる者には関係ない話だった。
それからサーシャが来たのは10分後。
キイィィィ──。
「──『魔素融合消失弾:MRC弾』。例えお前らが時間を巻き戻しても、これは消し去れない」
「無駄ア!!
窓ガラスを背中を向けてぶち破り、MMの二丁の拳銃を構えて長机の上を滑りながら──相対した10人…終わりの時計塔に向けて、そう言い放っていた。
「人を殺したいだけのお前らよりずっと意味のある行動だ。もう戦争しか促せないお前達よりずっと、ずっとね?」
「煩いなあ…私らの世界を返せって言ってるのが分からないの?」
「此処が私たちの世界だよ。何度も言う通り、もう私が全部解決した後の世界なんだ」
「…あの難題を?…嘘をつくなよ…」
意見をぶつけ、疑い、会議室に居る人も気にせずにお互いに武器を振う。
サーシャの10のMRCが魔力を生成し、サーシャが本気も本気の2000万の思考を駆動させて魔法を起動する。
「ご新規さんも居るね!挨拶する間もなく殺す事になりそうだけどね!」
「"
「はいレジスト…周りを人質にするつもりの奴?残念だけど『結界』があるから無駄なんだよね」
あちこちからゴーレム兵が現れては相手の兵とぶつかり合い、武器や魔物が錬金されては攻撃を一度したかどうかの辺りで時魔法によって様々な結末を迎えていく。
お互いが出せる手札の総力戦。逐次投入などしない電光石火の火力制圧。
新しい魔法が作られては時魔法の貸与で破綻し、加速して崩壊し、巻き戻って退化する。
新しい機械が作られては難題を解けずに消失し、稼働を停止し、黄金化する。
新しい技術が作られては制限され、選択を間違え、往復で模倣されて陳腐化する。
雑兵で4、魔法で3、6、11、機械で7、0、8、
「二千万人相当の制圧力によくもまぁ10人で対応出来るね?こっちは死にそうだってのに!」
「お前が言うなって!」
「今誰が返事したー!?」
「もう分かんねえYO!」
それでも足りない。
手数も実力も揃っている。対策も次々と試してより良い物に改善している。
しかし勝てない。
何故か?経験の差、振う力の絶対性、能力の相性──どれでもない。
「"
「『獲得─熟考洗練』クラブ6カバー、スペード攻撃、ダイヤ2アシスト、ハート8回復」
「██████……ありがとう」
「その調子ですよ、みなさん!」
一点だけ、今のサーシャでは無理な物──絆を信頼した連携だ。
言葉の掛け合っている分だけじゃない。その裏で行われる無意識の隙の埋め合いによって均衡している。
舐めていた訳ではない。今だって常に全力を尽くしている。
一人だったのも奇襲された勢いで此処まで飛ばされたせいだ。
発表が終わって裏側に回って直ぐにみんなが転移して孤立し、
戦闘中になんか参戦してくれた各国の手練が居たが、それも直ぐに流れ弾で離脱した。
正直疲弊しているなんて物ではない。サーシャは長くて30秒でバテる(消去法の)短期決戦タイプだ。限界なんてとっくに成っている。
それでも限界の60倍の長期戦闘を行えてるのは、単にMRCの無限尽の魔力と後2回使える死に戻り、膨大な思考能力があるおかげだ。そのおかげで、こうして戦い続けられている。
『サーシャ!このままだとまた圧殺されるわよ!何か突破方法はないの!?』
「此処で使える確定勝利はない…禁忌の怪物は死んだ。私に残されたのは、今まで築いた水と氷と汎用の魔法と科学、武術を始めとした細々とした能力だけ!」
『魔王に禁忌の怪物殺されたのキツくない?禁忌術式から使いまわせるものとかないの?』
「あれは禁忌以外大したものは──」
唯一、言葉と自由な思考を許されたサーシャの思考が回る。
禁忌の魔法は、複数の機構、あらゆる魔法の一部、混沌とした意味の無さない部分を合わせて成り立っている。
その中でも。
蘇生魔法の部分。
魔法が不発動の時に発動する魔法陣。
魔法に潜んだ
潜んだ怪物を属性によって従えて制御下に置く魔法。
怪物を召喚する魔法。
怪物を返還する魔法。
の部分が主核となり、それを大量の無駄を付け加えて発動させているのだ。
正直な話、今になっても尚サーシャはその情報を完全には解析出来ていない。
何処までも乱雑で複雑で、最初も最初こそ偶然『渦巻』になる部分を抜き取れたとはいえ、それに賭けるなら普通に開発した方が早い。どこの線がどの陣のものか分からなかったのだ。
「──リーロォォォ…良いこと言ったね」
しかし──しかしだ。汎用魔法の確立をした今、属性に依らない魔法体系の一歩を作れた今なら──。
主核の部分を其々独立して発動させれば、今直ぐに新しい汎用魔法を作れるのではないか?
難しいのは承知の上、未だサーシャでも解明しきれないこの術式を作った人の真意が測れないのも承知の上。
この加速した時間で活動出来ない王様達に頼るよりは、今を乗り切るには都合が良いとサーシャは活路を見出す。
「──突破口なんて、一回死ぬ迄に発見すれば良いんだ」
確定した勝利でなくても良い。ほんの少しだけ隙を作れるなら──ありとあらゆる死が迫る。
防御も攻撃もやめて、全てのリソースで死ぬ迄の一瞬を引き延ばす。
思考の加速を制御して、並列した思考同士で協力し研究して──開けた眼に刃が迫っても──。
魔法が脳を焼き───とても、とても長い間焼かれ───痛みを感じても───。
思考は止めず────最後の一瞬まで────魔法の真髄を探究し────。
「──覚えた」
今度は、実力で禁忌から魔法を引き出した。
「──『蘇生者:カーリー』『
引き出したのは、蘇生魔法に起因した複製の魔法。
"かつて魔法を施したことのある人物の完璧なクローンを作成する魔法"。
引き出したのは、MMにする魔法に連なる支配の魔法。
"肉体だけの存在を支配し、操作する魔法"。
引き出したのは、怪物を返還する過程から発展した魔法。
"呼び出した相手をこの世から消し去る魔法"
向こうにとって想定外の動き、無理やり創り上げた隙を──無視して一連の魔法の流れを繋げ一つの力に仕立て上げる。
そんな事よりも、この魔法の完成を優先するべきだと判断した。
「完成した──私の『
SIN ROOM PARTY GAME.
(罪を重ねる遊び部屋)
唯の言葉遊びだ。
蘇生した人物を勝手に使って、自分の部屋で人形遊びをしている子供の様な、罪深い者の魔法。
ああそうだ。ゲームと現実であるこの世界。それを無理に重ねてやろうとするから齟齬が起きていたんだ。
普通なら、世界救済よりも自分の事情を優先するに決まっている。
普通なら、リアルタイムで一人一人指示を出すなんて不可能だ。
普通なら、普通なら、普通なら……
「ははっ悪の化身らしい、戦いを侮蔑する魔法だね」
遂に、私に最も向いた魔法が完成した。
「『SRPG』"ゲェムすたぁと"」
コンテニューはもう必要ない。
『 *編成:カーリー、オルガ、ヘルシング、シープ、ダルク(ジャンヌモード)、パンドラ、リライズ、ユージーン(人形)(合計8/8)*
*戦闘速度は操作者のサーシャに同期!形式:
*中身がサーシャ同士であるが故の息の合った連携が戦場を支配する*
*士気向上!消費アイテム欄共有!
『リーロそれどういう意味?』
『ゲームの再現…』
リーロの声を流し聞きし、全員が行動を開始する。
流石自分同士といったところか。向こう以上の連携は、綺麗事や不快さに関係なく戦場をこちらに有利にしていく。
雑兵が居ればカーリーの攻撃に巻き込み、その弟子は二人を相手に均衡を保つ。
ヘルシングが戦場に散った血を操って連携や意思疎通の邪魔をして、シープの雷属性の魔法が『通信』の魔法を使う為の電波を妨害し、戦場の仲間達の速度と力を向上させる。
怪我をしてもダルクの祈りで回復し、時魔法をより弾き易くし、光で戦場を撹乱する。
そうして整えた戦場を
倒れた者を復活させようとする動き、逃げようとする動きをすれば、サーシャが持てる限りの力で妨害して──勝利した。
「これが──私達の力だ!!」
コレが連携、サーシャ以外の力を借りることによる絆の力である。
詭弁だなんだと時計塔やリートが言っているが関係ない。勝てば官軍だ。
ちょーーっと知り合いに似ているが気にしてはいけない。あくまでも影法師みたいなものだ。
「"ゲェムしゅーりょー"…『返還』」
死人も返してしまえばこの魔法は誰にも分からない。後は身包みを奪い、魔封石で魔法を使えないようにして、奴隷商人にでも流せば二度とこの様な活動は出来ないだろう。
「いっそ殺せ!」
「やだ。お前らはシープの手腕によって今後碌でもない人生を歩ませる」
殺さないのだからそれで満足して欲しいと思う。タイム家が存続しているのに死体漁りを敢行した連中だ。死者の尊厳を侮蔑した奴はされる覚悟も持ち合わせないとならない。
私はしているので是非とも其方もそうして欲しい。一線超えたサーシャは強いと教えよう。
「じゃあ此処で大人しくしててね。…過去の私を殺す為に仲間を送り出すとか、やっても無意味だから」
そう言い残してから彼らを大罪人の牢獄でもあった砂漠に収監し、サーシャはその場を後にするのだった。
その後の砂漠で何が起きたかは……ローンだけ一部の記憶を無くして過去に来ていたことだけが推理材料だ。繋がっているのか知らないが、考えるのは疲れたので多分合っているだろう。
「ふう…やっと事後処理が終わった…今何時?」
『ちょっと待ちなさい』
戦闘があまりにも長く、急に来た為に時間感覚が完全に狂ってしまった。
慣れたのだろう。リートはサーシャの手助けなく人間の身体に戻り、懐中時計を確認した。
「えーと…18時20分ね」
「国際会議始まって…まあいいか今日は。戦争だなんだはもうコリゴリ…なんだけどなー…」
此処で終わる?とんでもない。
「こんばんは、サーシャ。吸血鬼が夜のお迎えに上がりました」
「こんばんは、ヘル。さっきまで死闘で疲れてるからお願いなら後でいい?」
まだ会議は始まったばかり。
サーシャに選択権がある美人局は此処から始まるのだ。
青紫の夕暮れを背に立つヘルシングを見て、今日が今までで長い一日だと確信した。
「率直に言います。結婚を前提に付き合う──フリをして下さい」
「ごめんね、やらせは無理」
あゝ…ヘルシングからの好感度が足りない。
サーシャは相手の自由恋愛を尊び退けるタイプだった。
「告白タイム」
恋愛ゲームでは定番の総決算。今まで稼いできた好感度やフラグによって台詞が変わったり人間関係の爆弾が起動したりする。
…というのはゲームの仕様。現実では戦争前のサーシャの争奪戦、それに本気の感情を乗せられるかの勝負。間に合わなかったら告白未満を断る罰ゲームになる。
サーシャとしては相手が本気で付き合うつもりなら無理やりでも良いが、男共が積極的じゃないのでサーシャが好感度を稼ぐ必要があった。
好きになる努力を後にして、まずは相手が好きになってくれる努力をする。本質的に奉仕体質なサーシャでなければ成功する可能性すら無かっただろう。