不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計   作:何処にでもある

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 第一章「王都学園」編 終了
 告白されて幸せな未来を得るための所属を決めましょう。




発・波・七四

 

 

「ですよねー。あ、此処からはオフで」

「おけー。…ヘルも私との付き合い長いでしょ?心に主人たるシープが居るならまだしも、そんなこと言って了承は取れないよ」

「いやー…僕もね、シープお嬢様の命令ならなんでも聞くわけではありませんから。国が困ると言われても水属性はねー?…それでサーシャを振り回すの性に合いませんし」

「ヘルは相手の反応を見てボケるタイプだもんね。私も誰かの為に動くことが多いからよく分かるよ」

 

 告白を断った男女が穏やかに会話する。

 普通なら気まずくもなりそうなものだが、どうしてそんなことになったのか知っているとなると話は別だ。

 ヘルシングには茶番にしか思えず身に入らなく、サーシャもそれに合わせて茶化す。

 こんな茶番でも少しでもちゃんと好きだと言ってくれたなら了承したが……それはもう叶わないことだろう。

 

「じゃあね、私は寮に帰って寝るよ。シープの様子でも見に行ってあげてね」

「はい!さようなら、サーシャ。また明日会いましょう」

「うん。お仕事お疲れ様ー」

 

 それだけ話して別れ、寮に向かう。態々私から会議室に向かっていく義理はなかったからだ。

 シープには…こんなことしなくても、友人として色々手を貸すのにと思わなくもないが。

 

「お、サーシャじゃないか」

「ダルクじゃん。どうしたの?」

「あーいや…なんか王様にコクれって言われてな…まあなんだ、付き合うか?無理ならそれでいいぞ」

「女の身体で言っても良い感じになるわけないよね。お断りー」

「だよなー…王様はなんで水属性のサーシャにあんなこと言ったのやら…じゃあな、また明日。変なこといってすまん」

「うん、気にしてないから良いよー。明日研究室に来る時は飲み物持ってこーい」

「気にしてるよなそれー…!」

 

 お互い足を止めずに話して通り過ぎる。

 スピード感だけなら合格にしてやろう。

 足を止めて話したなら了承したが…もう関係ないだろう。

 

「サーシャさん、こんばんは。」

「ダンテ先生じゃないですか。どうかしました?」

「……なんでもありませんが、断るとだけ言って下さい。」

「あー王様辺りに言われましたね?ことわりまーす」

「ありがとうございます。水魔法使いに対してこんなご迷惑をお掛けして…今度菓子折りでも持ってきますね」

「はい全然大丈夫なんではーい、お疲れ様でーす!」

 

 3連続はさすがに涙が出そうだ。

 ダンテェ…その言い方は女の子傷ついちゃうぞ?

 私も女の子だと教えてやろうか?その身体に。

 …断って欲しがってたからしないが。

 

「おっ!サーシャじゃないか!」

「君はカーリーのMMで本来の身体の持ち主のオルガ!」

「おお!今日もいい筋肉付けてるか?…って聞くまでもないか。随分と激戦だったみたいだし、ゆっくり休むといい!」

「サンキューな!」

「おお!プロテインも付けておこう!」

「センキューな!」

 

 まあ絡みの少ないオルガは関係ないしいいか。

 ゲームでは告白してくれたが…あれはカーリー成分が多かったし、純度100%のオルガに求めるのが酷だろう。

 これからも元気にマッスルして欲しいものである。いいタイミングの筋肉だったので癒された。

 元気盛り盛りと分けて貰っちまったぜ。サーシャの機嫌は回復した。

 

「サーシャ久しぶり!今ちょっといい?」

「あ、神じゃん。こんな所でどうしたの?」

「なんか司祭からサーシャを連れて来いって言ってきてさー。明日から神国に住むことって出来る?」

「んーそんな直ぐに決められないかなー?学院に住んでるのもそうなんだけど、将来何処に行こうかは…まだ決められないから」

「そっかー。なら仕方ないね!今日はそれだけ!そろそろ遊びに来てね!」

「うん。またね」

 

 寮の前で会った神を流しつつ、寮の前まで着いた。

 なんだかよくすれ違うことの多い日だったがまあ良いだろう。あんまり深く追っても来なかったし、そう大した用事でもない筈だ。

 しかし…ヘルシング、ダルク、ダンテ、オルガに神様…と来たらグリムも来そうな流れだが…流石にないらしい。そもそもリサと婚約予定なのだし、そう言われもしなかったのだろう。

 

「にしても水属性だから、水魔法だからって…久々に聞いたな」

 

 それを理由に断られる、恋愛系の話を出されないのは珍しい話ではない。

 村に居た頃からそう言われて断られてきたし、そういう目線を向けるのは論外と言外に言われ続けてきた。

 学院だった時の全て忘れた状態で好意的に言われても、学院の記憶がある状態だと違う。

 友人に成れる。取引や買い物も出来る。人間扱いされる。

 

 だけど…恋と愛を向ける相手としては、徹底的に拒絶される。

 それこそ此処まで有用性を見せても…上から言われたとしても…断られたい、断られたなら仕方ないとアッサリ引き下がる程には根強い価値観だ。

 

「慣れたけどね…水属性は登用条件に恋愛を入れるだけで難易度が上がっちゃうのは。…美人局もしたくないから、やりたくないから誘われない」

 

 長く付き合った友人達でもこれだ。ましてや初対面なら…。

 例え専門の人だったとしても、寮の自分の部屋に戻るまで一切声が掛からなかった辺りで察せられる物がある。嫌悪感から来るものではなく、猿以下を恋愛の相手に見ない当然の価値観。別種族の相手に対する当たり前だ。

 

「全く…他人から見て私はどう見えているのやら。幼い頃は理不尽に思ってたけど、もう慣れちゃったし…」

 

 サーシャは恋愛対象外なのだ。だから仕方ない話で、此処まで必死に積み重ねても全く足りやしない。

 ある意味、学園を学院にした時点で詰んでいるのだ。

 どれだけ非道な仕組みでも、学園は唯一の機会を得られる場所だった。

 それが失われたのなら……サーシャは愛する人を手に入れられない。

 

 それを理解した上で、サーシャは世界のみんなを優先する選択をした。

 

「良いけどね。本心から誘われないのも慣れてたし。……王様達も、自分から誘わないからこんな命令を出せただけに過ぎないだろうし」

 

 きっとこれは水属性の私にしか分からない感覚だろう。

 社会的に不遇で、当たり前のことを得られないことの重みは。

 個人的に最も欲する幸福を捨ててまで、戦争に関与せずに済ませた感情は。

 

「だから友情に負けるんだばーか」

『……それってどういうこと?』

「部屋に戻るまで声を掛けないでくれてありがとう、リート。私は寝るから…リーロ、説明出来る?」

『多分いけるー』

「じゃあお願い。私は…疲れたから」

『お疲れ様、サーシャ』

 

 そうしてサーシャが静かに寝息をした辺りで…姉妹は人の身体に戻って言葉を交わした。

 

「それで…恋愛を諦めたってどういうこと?」

「これはサーシャも知っているゲームからの知識なんだけど…」

「待った、先ずはゲームとやらからしっかり教えなさい。聞く機会が無かったから今まで流してたけど、いい加減それについて詳しく教えてくれてもいい頃合いよ」

「それなら…」

 

 そんな訳でリーロはリートにゲーム知識が何かを教えた。

 異世界からの人格、それに含まれていたこの世界の未来の情報、なんかそれをいつの間にか得ていたサーシャに関して、確実な事だけを伝えたのだ。

 

「ふむ…その情報通りになる保証は?」

「その世界から来た魔王の人格の影響以外は全く同じだったから確度は高いよ」

「なら未来も知らずに闇雲に動くよりはマシね…それで、その知識とやらによると現状はどんな感じよ」

「えっとねー…」

 

 早期に計画を二つ実行し、攻略対象を全員断ることになり、戦争編で必ず何処かに所属する筈がそれが無くなった。

 発表会で出す提唱次第では狙った所属する陣営から声を掛かり易くするだけなので良いとして、肝心の恋愛の部分が破綻している。

 ゲームではバグり、処理飛ばしでそのまま戦争編の二章が飛ばされる場面なので…。

 

「…二択かな。戦争に関与せずに過ごすか、そもそも戦争が起きないか…あ、そこに直ぐに三章のあれこれが始まるか、ならないかでも分かれるかも」

「そこは確定しないのね?」

「元々1990年代発売のセガサターンで遊べるゲームだったけど…今までの流れを見るに、バグった所は無理にこの世界の流れを再現した結果っぽいから…これ以降サーシャが戦争に関係しなくなるのは確かかも」

「…良いのか悪いのか…難しい所ね」

 

 リートが眉をひそめて考え込む。

 この情報だけならサーシャが戦争に参加しないのを優先した様に見えるが、これまでの恋愛への執着からして、恋愛を棄ててまでそれをするとは思えなかった。

 なにか別の思惑がある。確信できるがどんなものなのかはリートでは理解できない。

 確かにサーシャが戦争に参加せずに生き残れるのは喜ばしいが…。

 

「あー納得出来ない!答えに辿り着けないのがもどかしい!リーロ、なんとかせい!」

「お姉ちゃん…まあ、明日に成れば分かるんじゃないかな。大事なのは今日の会議でサーシャの行先が明瞭にならなかったこと。サーシャがフリーになったこと……はっ!」

 

 その時、リーロからピロリンといい事を思いついたばかりに電球が光る音がした。

 名案を閃く時間の音である。

 

「何か気付いたの?」

「今なら…タイム家が誘える!…お姉ちゃん、今の世界はタイム家があるんだよね!サーシャが魔改造した未来都市みたいなの!」

「まあ?…あれ、ということはママも生きてる?」

「その話は大事だけど今じゃない!お姉ちゃん、これは大チャンスだよ!」

「むぅ…王国所属と何が違うの?」

「独立して天下取れる」

「性に合わない…」

「それからサーシャがタイム家の者になって、私達と一緒に過ごせる」

「それは…意外と…存外…悪く…ないわね?」

 

 サーシャと家族一緒に過ごす光景を想像してみたのだろう。

 そして案外それが魅力的に見えた自分に驚きもしたのだろう。

 リートはそんな新たな自分の側面に困惑し、リーロはそんな姉を見て引いていた。

 

「お姉ちゃん…恋しちゃったあ?サーシャと一緒に居るのが居心地良かったのー?引くわー」

「そんなのじゃないから!……ないからあ!ちょっと不安定な所が放っておけないだけなんだからね!」

「あー照れてるー。女の子の癖に女の子が好きになっちゃったんだー」

「うぅ…っさい!そういうリーロはどうなのよ!」

「私が男ならもう一発ヤッてこましてる」

「うえっ!?」

 

 リーロ、白昼堂々とヤリチン宣言である。

 これには姉もタジタジになるしかない。

 リーロからサーシャに向けて好意があるのは知っていたが、此処まで堂々と言い切れるほど好いているとは露にも思っていなかったからだ。

 

「…妹のシモ事情なんて聞きたかないけど一応聞くわ。どこに惹かれたのよ」

「普段は営業スマイルだけど私と話してると心から笑ってくれたり、私が話したい時には付き合ってくれるし、大体受け入れてくれること」

「あー包容力は確かにそうね…」

「私は結構寂しがり屋の自負がある。だけどずっと構われるのもそんなに好きじゃない。サーシャはずっと居心地の良い距離感で居てくれるからすごく好き」

「あー…静かに横に居てくれて、自分が話したい時に声を掛けてくれるのはそうね」

 

 二人が其々の思い出を振り返る。

 リーロが相手を傷付けるようなことを言うと大体怒られるが、サーシャの場合だと自分に言われたことはかなりの割合で無視してそのまま続行する。他から聞いただけで不快になるものだと流石に咎めるものの…リーロにとって、その優しさはとても居心地の良いものだった。

 因みにサーシャはリーロを猫みたいな扱いをしているだけである。困ったら雑に撫でれば誤魔化せるくらいの扱いだ。

 

「さて…私は情報を開示した。お姉ちゃん、因果応報を受ける時間だよ」

「……一つだけ聞かせて。どうすれば私が言わなくて済む道がある?」

「それなら…自分と私に向けて『周回』の応用で好感度を測定すれば良い。ゲーム知識でお姉ちゃんがそういうのも出来るって知ってるから、誤魔化しても無駄だよ」

「それ私とリーロがどれだけサーシャを好きか公表するようなものじゃない?」

「逆だよ。サーシャがどれだけ私達を好きかも分かる」

「私の妹は天才ね。早速やるわよ『周回‭─‬関係評価』」

 

 ゲームで友好度や好感度を教えていた能力の面目躍如である。

 『周回』はやり直すだけでなく、それを補佐する効果も付随した完璧周回補助魔法だ。

 最大を50とした関係性の数字化は、効率的な周回を助けるものだ。

 好感度に関しては5で無意識に視線で追う。15で一緒に居るとドキドキする。20で普通のカップル。30で性別差を気にしなくなる。40で束縛が強い。50がとんでもないヤンデレくらいの感覚だ。

 大雑把だしリートにとってはそこまで好ましい使い方ではないものの、それで妹に気になる相手の好きなことを言うなんて、恥ずかしい体験をしなくて済むなら使うくらいの使い方だ。

 決して自分も気になるからだとかそんな不純な動機ではないのは理解して貰いたい。

 

「……へーぇ…ほーぉん…そうなんだー…」

 

 それで見た数字は……リートの反応を見るに、ちょっと思う所があるものだったらしい。

 

「どうだった?」

「私達からサーシャに向けた数字はリーロが25、私が26だったわ」

「なんだと?私がチョロ甘お姉ちゃんよりサーシャが好きじゃないと申すか?」

「……ふぅー、この勝負は私の勝ちって事で良いわね?」

「どっちもサーシャに惚れ負けてるからお姉ちゃんも負けだね」

「リーロ、負けて悔しいからといって私を負けにしないで頂戴。子供っぽいわよ?」

「コイツぅ…勝ったからってメッチャ煽るじゃん…」

「ま、元気出しなさいよ。生きてればその内私を越えられるかもよ?…ふっ」

「コイツぅ…」

 

 煽っぷりがすごいが、たった1の差なので大差はない。

 サーシャの杖になっていた時間を含めると単にリートがサーシャに爆速で堕ちているだけなのだが…それを指摘しても勝ち誇るだけなので、リーロは言うのをやめた。

 

「それで!…肝心のサーシャからの好感度は?あーいや、まだ友好度かも知らないけどさ」

「"100"」

 

 僅かな静寂。サーシャの寝息が妙にクッキリと聞こえる。

 リーロが次に口を開いたのは、溢れた生唾を飲んだ後だった。

 

「…二人の友好度と好感度を合わせた数を言うなんておちゃめなお姉ちゃんだなー」

「どっちも好感度100って意味よ。そんじょそこらのキチガイでは勝てない上限突破した好意ね」

「マジかよ全然顔に出てないし魔法がバグってるんじゃないか?」

「正常も正常よ。しっかりリーロの死に戻り補正抜きで3回測ったわ」

 

 リーロがまたもや唖然として固まり、やがて再稼働した瞬間に発狂し始めた。

 そんな好かれている訳がないという自己評価との矛盾が致命傷となっていたのだ。

 

「嘘だ私を1万回殺した癖にアレ私サーシャに殺されたっけそういえばマフィアだった時に殺されたな思い出したアレでも私其処まで好きならなんで殺したんだろうな私沢山命乞いしてたのに不思議だなあれ」

「どうどう落ち着きなさい。衝撃で変な記憶思い出すくらいには驚いたのは分かったから。ほら深呼吸ー」

 

 リートが宥め、リーロが深呼吸を繰り返して落ち着いていく。

 そうして思考が回った辺りでリーロは一つの仮説を立てた。

 

「お姉ちゃん、サーシャが他の人に向けている好感度を全部調べて」

「もうやったわ。全部100か50のどっちかだったわね」

「サーシャが偽装している説を提案しまーす!」

「どの道見破れないから証明は困難ね」

「うーっ…なんてことだ。私達が恥ずかしい思いをしただけになった」

 

 少し調べれば予想通り、サーシャが雑に偽装したと思わしき好意の数字が綺麗に並んでいると姉が言う。

 少し残念な気持ちもあるものの、そりゃそうだとリーロは納得した。他者をどう思ってるかなんて、偽装できるならしたいものに決まっている。

 いつからそうしていたかは不明だがそういうことなら仕方ない。

 いや、仕方なくない。諦めきれないので足掻くことにした。

 

「どうしても見たーい!」

「もう諦めなさいよ…サーシャに解除をお願いするにももう寝てるわよ?」

「お姉ちゃん、逆に考えるんだ。寝ぼけてるからこそ間違えて解除するかもしれないって」

「姑息!!」

「よーしサーシャ起きて好感度を見れるようにしろー!おらー!おらおら!」

「うーん……りーろ…なにー…?」

 

 ゆさゆさとすると、サーシャが眠気で目眼をショボショボさせながら唸る。

 本当に疲れているのだろう。いつもと違ってふにゃふにゃとした顔をしていた。

 

「『周回』の好感度をまともに見れるようにして!」

「……やだ……めんど……」

「おーねーがーいー!サーシャー!」

「うぅん……分かったよぉ…だから起こさな…………」

「ねーるーなー!」

「んふぇ…?……あー……"むにゃむるごにゃ…うど"しんぴの………べる…はが」

「よしお姉ちゃん!」

「はい来た妹!『周回‭─‬関係評価』!…あー…」

 

 寝ぼけていても魔法使いの実力は高いだけはあるのだろう。

 まともな発音もせずに術式を発動させ、睡眠を妨害するリーロの言う通りに解除することに成功した。

 普通ならかなり危険な使い方なのだが…思考能力が大量にあるだけはあるらしい。

 

「それでどうだったの!?」

「…聞いて驚かないでね?‭─‬‭─リーロが‬友好度40、私も友好度40よ」

「恋愛感情すらない!」

「丁度親友くらいの立ち位置…普段の扱いから考えればそんなものでしょうけど…親友…親友かあ…」

 

 リーロは海老反りブリッジで盛大に床に頭を叩きつけて驚く。

 口では友好の可能性も言っていたとはいえ、内心では期待していたのだろう。

 姉妹は真っ当に親友だと思っているだけなのに傷付き、なんだか腹が立つ気持ちが湧いてきていた。

 

「…なまいき…生意気じゃない?サーシャは主人だけどさ、今は私達も生きてる訳じゃん。色々酷いことはされたけどさ、それだけ私を求めてたってことじゃん。…なのにさ、親友程度に収めてるのって酷くない?起訴したら勝てると思うんだけど。懲役100年生涯同棲しても許されると思うんだけど」

「力だけの歓迎ではないのは嬉しいけれど…いや、寧ろ悪質なまであるわね。此方の片思いなら諦めついたけど、ワンチャンありそうな感じなのがいやらしいわ。とてもエッチね」

 

 どうやらどっちも頭が甘い妄想で沸騰しているようだ。この場合サーシャが健全に親友だと思っていたのが寧ろ刺さっているらしい。

 忘れてはいけないが、タイム家は短命だ。そしてこれはタイム家の隠された秘密だが、その宿命を補う為に性欲は普通の人の何倍もある。

 更に思い出して欲しいが、リーロは過去の暗示で性欲が溜まったのをサーシャがずっと近くに居たせいで発散していない状態……リートもまた、武闘家で尚更多いのにサーシャが近くにいてデキてない状態だ。しかも時計塔と命のやり取りをした直後だ。

 

 そう!! 上がサーシャの取り合いで揉めている最中でも性欲で馬鹿になるくらい、今の二人は悶々とした日々を過ごしていたのである!!

 

 本来なら多頭飼いしているサーシャがケアすべき事なのだが、その事をすっかり忘れて今まで放置していたツケが回ってきている訳だ。おしまいである。

 女だからって性欲が無い訳じゃ無いんだぞコラっ!誰もがお前(サーシャ)みたいに綺麗な夢(幸福な家庭)だけを持ってると思うな清純女が!…とは、リーロの思考である。

 

「……ねえお姉ちゃん、"女同士で親友だと思ってた姉妹にある日突然挟まれて百合乱暴の性欲の捌け口にされる"って滾ると思わない?」

「リーロ……思うけど女同士は流石にダメよ」

「スケベしようや」

「いいわね……頭を冷やす必要があるわね。バケツじゃなくてプールでね」

「最悪お姉ちゃん相手でもいい」

「リーロ……心頭滅却なさい……私のように」

 

 良い加減寝て欲しいものなのだが、MMになった人間に睡眠は不要。

 こうして馬鹿話をするかして暇を潰さないとやってられない。でないと本気で襲ってしまう。

 どうせ明日からまたシリアスな日々なんだ。夜くらい良いだろうという気持ちも多々あって、こうして馬鹿なことをしていた。

 それにしたって今日は特にリーロが焦っている感じがしているが…気のせいかなとリートは脳の隅に置くことにした。

 

「そして…水で冷やすならサーシャよね!ちょっと抱きつくくらいならいいでしょ」

「お姉ちゃん前取るとかずるいね、私背中ー…足を絡めるのはセーフ!涼しい!」

「水と氷属性の身体なんてこの夏最適の抱き枕に決まってるのよ…甘噛みくらいならセーフよね?」

「……あつい」

「逃げるなーズルいサーシャめー。普段はかっこよくて頼もしくて怖い所とかあるのに、ふとした時に弱い所見せたりいつも私達に優しかったりする奴がよー。エロいんだよお前ー」

「こうして寝てる姿は普通の女の子なのよねー…手を絡めるのはセーフ!」

 

 彼女のために弁明するなら、別にサーシャが一度寝たら中々起きない訳ではない。

 これが見知らぬ他人なら直ぐに起きて臨戦態勢になる常在戦場の心構えは出来ている。

 だが、何事にも例外はある。サーシャは身内にはとことん甘い。何かあると気付いて起きても、目の前にリーロ達が居たら大丈夫だと判断してそのまま眠るくらいには甘いのだ。

 例えそれが信用に漬け込んで猿になっている二人でも変わらない。美しきかな不変の友愛である。

 

「そういえばお姉ちゃん、性別変える魔法があるんだよ」

「マ?」

「マ。いつの研究かはまだ忘れたけど、だいぶ昔に副産物で見つけたやつ。射◯も出来るのはサーシャ自身で確認出来てるよ」

「なんでそれでダルク戻さないのよ」

「アレは性別じゃなくてもっと別の部分が変わってるからこれじゃ無理だって言ってた。どうする?サーシャを男にする?私達が変わる?」

「………流石にそれは本気でダメよ。悩むけどダメ」

「そっかあ…でも味見なら?」

「肉棒なんて本来存在しないし夢にすれば許されるからやりなさい…っく!言ってしまった!」

「お姉ちゃん惜しかったね。でも想像させて口走らせれば私の勝ちだったんだよ『性転換』!!」

 

 バチ"ッッ!!

 

 水属性に状態異常は効き辛い。これは友愛と同じくらいの不変の事実だ。

 

「お姉ちゃん、お兄ちゃんになる?」

「……やめやめ、なんか冷めたわ。私は入れるより入れられたい方よ」

「私は入れる側がやりたかった…でもお姉ちゃんを共犯に出来ないなら仕方ないね。止められるだろうし」

「それが目的だったの?…悪知恵は相変わらずね」

「だってー…私達の寿命は必ず25歳で訪れるでしょ?それなら絶対早い方がいいもん…サーシャが穏便な解決手段見つけても他国所属だとリライズ叔母さんは厳しいし…それなら既成事実を作った方が…」

「リーロ…タイム家って25歳で死ぬの?初耳よ?」

「うん…だからママはもう生きてないよ。叔母さんは今まで死んでたからまだ余裕はあるけど…私達は生きていたことになった分、寿命も少ないんだよ」

「どこ情報?」

「過去から旅してるご先祖様…属性の都合で必ずそうなる…」

「ガチ情報じゃない…」

 

 馬鹿な絵面でも合理的に考えれば利点があるもの。

 それは所属の問題だったり、寿命の問題だったり、様々だ。

 リーロ達はサーシャよりも思考を回せないが、普段から性欲だけの馬鹿ではない。一人分の思考で考えられることは十分注意するし、思い悩む。

 

「それもここで襲えば全部解決するから…お姉ちゃんを誘導してた」

「なら初めから言いなさい。それとも何?姉が信用出来ないの?」

「そんなことない!だけど…サーシャは心から求めないと断っちゃうから。だから打算で求めるのは私だけにしたかった」

「そう…なるほどね?」

「ああ…言っちゃった…!これでもう私達が誘っても無理だーあ!あだっ!」

「ばーか」

 

 なし崩しで言ってしまったとリーロがサーシャの背中で悶えるが、姉のデコピンによって停止する。

 なにをするんだとリーロが睨もうと上半身を起こすと、リートはカラカラと笑っていた。

 

「なーに焦ってるのかと思ったら…そんなくだらないことだったのね?」

「くだらないとはなんだー!私なりに建てた計画なんだよ!?」

「だからよ、心配する必要なんてない。私はそれを聞いて寧ろ安心したわ。サーシャはちゃんと考えてくれてたんだーってね?」

「な、なにを?」

 

 本気でわからないと困惑しているリーロを見て、リートはコイツマジかという眼を向ける…が、仕方ないだろう。

 リーロは共感性に欠けている。それはつまり、他人の思いやりや感情による動きを予測出来ないということだ。サーシャの友情を優先した思考など、思いもしない。

 それを思い出したリートは、一から解説してやると体を起こすことにした。

 不出来な妹へのリートブリーフィングである。

 

「良い?サーシャは何処の陣営にも所属しないやり方を選んだのよね?」

「うん」

「今ならサーシャを何処に行ってもおかしくないのよね?」

「うん」

「それは私達が誘っても良いってことでもあるわよね?」

「うん」

「サーシャは寝る前にだから友情に負けるんだと言っていたわね?」

「うん?」

「そこは覚えてなさい。言ってたわよ……まあ、だからよ」

「なにが?」

「サーシャは今日に至るまで戦争に参加しなくても良いように整えた。サーシャはまだ私達の問題を解決出来ていない。わからない?暗に戦争や世界より、今は私達を優先するって言ってるのよ、サーシャは」

「お姉ちゃん天才か?」

「普通よこれくらい」

 

 あー心配して損したと、リートはサーシャを抱きしめて瞼を閉じる。

 なんでも出来そうな癖に人との付き合いが下手くそな奴。今のサーシャに対するリートの認識はそういったものだった。

 全力を尽くして他人の為に動いて、偶にやり過ぎて最悪な絵面になるきらいはあれど頑張り屋。

 その敵として相対するのは堪ったものではないが、それを受け取る側になるとここまで愛おしく思えてくるから不思議な話だ。

 惜しむべきは、今が平和な時代でないこと。普通に働いて貢ぐ程度に収まっていただろう行動が、世界だの戦争だの、敵の命を捧げるのが素晴らしいことになる価値観によって歪んでしまったことだろう。

 誰が悪いという話ではない。間が悪く、力と運命が揃っていたが故の覇道だ。

 であればだ…私達が支えなければ彼女はダメになる。道を間違えた時、それを止めなければ何処までも堕ちてしまう。必要なのは…そう、鎖のように硬く、鉛のように重く、鉄のように心強い伴侶だ。

 それなら自分たちが取るべき手段は…取りたい手段は…。

 

「リーロ」

「なに?お姉ちゃん」

「私は女相手でもヤると決めたわ」

「……‼︎」

「明日って今さ。"口下手不遇世話焼き攻め強受け弱純朴田舎娘覚悟完了悪ぶり合法ロリ"をヤるわ。心のチ◯コを勃◯させなさい!脳みそを男に変えるわよ!」

「さっすがお姉ちゃん話が分かるー!…いや、お兄ちゃん!この幼馴染が居なかった幼馴染属性の情報を食って興奮してやがるぜえ!」

 

 やんややんやと囃し立て、二人揃って性転換の魔法で肉体を変化させる。

 しなやかな筋肉が引き締まったクール優男なリート、露出の多い小悪魔王子系のリーロ。

 やれ筋肉すごいだのちんちんでけーだので盛り上がって……其処まで騒げば、サーシャも物騒なワードを聞いて起きるのも当然の話だった。

 

「二人とも…夜遅くになに騒いでる…」

「サーシャ!聞きなさい…いや、聞きな!今日から俺の妻になれ!」

「サーシャ!私…僕たち二人の妻になってよ!一生一緒に居よう!」

「……………?」

 

 ………はて、何があったのか。起きたらリーロ達に似た奴らが告白している。

 普段からずっとボケたりしてはいるが、これは本気で想定外の出来事だ。私のデータにはないぞ?

 流石に夢かと思って頬をつねっても痛い。魔力を見れば姉妹揃って性転換の魔法を使ったようだ。

 どうやら本気なのは伝わるが…女の子と結婚する趣味はない。しかし性転換してまで求めてくれるなら…でも同性の親友二人が深夜に言ってきても困るのだ。

 なにより眠い。頭がガンガンする。瞼が重い。耐えられない。眠い。

 

「………良いけど、手を繋ぐところから始めよ?」

「「やだ、今から子作りする」」

「おっと…獣だったか…"私は獣欲が暴れる封である"」

「「…ぐぅ」」

 

 流石にその発言は頂けないので、暗示と『誤認』系の魔法で眠らせることにした。

 その効果は"夢のような幻覚を見せる"もの。今回は性欲で暴れてるようだったので私を好き勝手にする夢にした。どんな扱いをされるどうでも良くはないが…まあ、これでマシになるなら良いだろう。起きてもヤった気がしない仕様なので誤解も起きないし、これで万事オッケーだ。

 後は…好感度関係のあれこれが外れてたので付け直し、二人をベッドの上に放り込み…イカ臭いので触って……水球で洗ってから地下室で寝ることにした。

 精液は汚れじゃないのでサーシャが触っても綺麗にならないのは、今回触れて発覚した事実である。ベタベタした。

 

「あー…顔が熱い…突然過ぎるし…あれをそのまま触れるハメに…嬉しいけど、今するのは妊娠の時期が悪いし…二人はねぇ?産み分けとか大変だし…」

 

 出来れば一夫一妻が良かったのだが…流石にそれは欲深いだろうか。

 

「にしても…あの二人が告白かあ…告白…告白⁉︎嘘でしょ?」

 

 完全にノーマークだったから本気で驚いたが…冷静に振り返ると段々告白された実感が湧いて来た。非常識なタイミングだったとはいえ、念願の幸せな家庭のゲットチャンスだ。激アツだ。

 だが元々女性である。アリかナシかで言えば時間を掛ければ受け入れられる類いのものだ。

 それでもサーシャの社会的立場から言えば子供を求められるだけでも望外の幸福。決して不幸になるなんてないだろう。

 

「あーでも…この為に手伝ってた訳じゃ無いし…友達が少なくなっちゃう…やだなー、友達の関係がなくなるの」

 

 関係が変化するということは友達が少なくなるということ。その中でも特に好きな相手となると抵抗がある。

 それは寂しいし、結構凹むくらいには悲しい。まだ友達として一緒に過ごしたいのだ。

 買い物、遊び、会話…友人でないと出来ないこともある。だからまだ友人でいたい。

 

「でも…それだと二人とも悶々としちゃうよね?…あの様子だと、普段から無理させてたみたいだし…」

 

 しかしそんな我儘でこれ以上二人を我慢させて良いものか。せっかくの機会をそんなことで愛想を尽かせてしまったら…サーシャはすっごく悲しくなるだろう。一年は引き摺りかねない。

 

「あー…コッソリ…コッソリどっちかと二人になったタイミングでやれば…不義理かなあ?でもそういうのって2人きりでやりたい物だよね?三人揃ってなんて稀で良いだろうし…精のあるのは清浄で消せないけど、水洗いは直ぐ出来るから……臭いやカウパーなら消せるから、上と下で分ければバレずに…そうだ、男の時でも女の時でも楽しんでくれるように勉強を…反応とかしっかりする様に演技も…」

 

 この後もやることはあるが、プライベートな調べ物や練習も出来てしまった。

 幸いこの後の予定はスカスカだったので計画に支障はないだろうが…ある意味一番忙しくなりそうだ。

 サーシャの手で2人を支えられるかどうか不明瞭だが…今の中途半端に起きた脳みそでまともな案は出ないだろう。

 自分でも視界がぐるぐるしている自覚があるのだ。到底正気ではあるまい。

 

「あはぁー…それでも嬉しい悲鳴かな。私の手から離れない様にしっかりしないと!よーし、久々にやる気の出る仕事が出来たぞー!」

 

 諦めたものをポンと渡された時、人はどうしても浮かれるものだ。

 サーシャもまた例外では無い。全ての思考能力が2人の方に向き、あわあわと裏に居る全てのサーシャの人格が祭りを開いていた。

 普段から常に魔力を制御していた人格も例外では無い。その油断は‭─‬‭─‬サーシャの身柄を狙っていた者にとって、大変都合がよいものだった。

 

「‭─‬‭─『魔性脆弱化』‬、『洗脳』、『支配』、『催眠』、『無傷』」

「ッア"!?」

「……を、付与したナイフだ。学園の頃から理由は知らなくても、この日の為に作っていた」

 

 ドサリと…ナイフの一突きでサーシャが倒れ、拾われる。

 サーシャの抗魔を弱くして、複数の精神を支配する効果を付与する。

 本来ならもっと重役の、或いはその血族を攫う為に用意した手札だ。

 

「……すまんな、依頼だ。今の私では断れないものだったんだ…いや、私の意思で選んでおいて…言い訳だな。せめて、優しく運ぶとしようか」

 

 地下室に居るのが当たり前、ずっと居たから油断した。

 決して裏切りではない。元から、学院に入る代わりとしての依頼だった。

 ヒントもあった。学園の入学式から一枚岩ではなく、暗殺者やスパイが居るのはサーシャも把握していた。

 それでもこうなったのは、忘却していた時の態度や、恩を与えた事による誤認だろう。

 何せゲーム知識では直ぐに攻略されて味方になっていたのだ。今がそうだと錯覚したのを誰が責められるだろうか。

 

 カーリーの赤い髪が揺れ、サーシャが抱えられる。

 そっと壊れやすい物を持つ様に、大事に抱えられた。

 

「死に戻りとやらの残機が尽きている今…MMから離れた今…私が万全な今…一番都合が良いからにはな」

 

 カーリーが力を込めると、赤い髪から2本の角が伸び、肌から鱗が生える。

 牙が伸び、眼は鋭いものへ変化して…それは正しく、龍と呼ぶべきものだった。

 

 全員の記憶が戻っている今、改めて紹介しよう。

 

「……支配者になってくれと頼まれた……民を路頭に迷わせる訳にはいかないんだ。その知恵、どうか私の所で奮ってくれ……絶対、死なせないから」

 

 神国 支配層 龍の一族長女 元傭兵カーリー

 一族の次期後継者だったが性に合わず、一人で生きる道を選んだ女性。

 今となっては最後の生き残り。司祭の言葉に騙され、一人として存在しない民の為にその力を使おうとするもの。

 例え領土に辿り着いたとして、其処に居るのは棄民でしかない。それでも、優しい彼女が放っておけるものではなかった。

 そんな彼らを救う手段としてサーシャを頼るのは当然の結論であり…盗み聞きした末に攫うしか無いと結論を出すのもまた、自然な流れだった。

 

 赤い龍が水玉の乙女を掴み、空を駆ける。

 助けを求める民達のため、宝を奪った罪悪感から逃れるため。

 

 やがてサーシャは思い知るだろう。

 ゲームでバグによって所属しないという意味がどういう意味を持っていたか。

 先んじて死んだ時計塔の判断の思惑を。

 これから始まる‭─‬‭─早回しされた‬世界大戦(ヴァーリトゥード)の無慈悲さを。

 

 






「早期に戦争を始めた場合の災害などについて(ゲーム攻略サイト)」
 ゲームでは学園生活を盛り上げる為、白鯨を始めとした複数のイベントがある。
 これらは日程をトリガーにしており、早期に戦争を始めた場合も変わらず発生する。
 大抵は国の力を借りられる為楽々突破出来るが、逆に苦労するイベントが存在する。
 「竜が吼える日」「勝利者の予兆」「捨てられた者達」など、所属することで困難になるイベント、対処が出来なくなるものはかなりの数だ。

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