不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計 作:何処にでもある
戦争編は催眠掛けられたので短いです。どれだけ短いかと言うとこの話で終わります。なんなら次回か次次回で最終回です。
戦争とは政治の手段の一つに過ぎず、始めと終わりが長くなるものですからね。政治家思考のサーシャには無理がありました。
「あれっMMの契約が切れてる!?」
「リーロ!行き先に覚えは!?」
「ない!ないけど…サーシャは無断で切るなんて絶対にしない!絶対攫われた!」
「なんてこと…一体誰が?」
「わからない…わからないけど、私たちがやれることは一つだけ。貴族の権力を使って、サーシャを捜索することだよ」
8月17日のなんでもない普通の早朝、姉妹のMMが戸惑いを切り裂くように声を張り上げる。
寝起きで混乱する事実に、幸福な未来の想起から一転した現実の中、サーシャを探すことに決めた。無事なことを祈りつつ、サーシャなら大丈夫だと思い込みながら…。
[──…緊急放送です!帝国が先日、王国を攻めると宣戦布告を…──]
その時だった。世界が大きく動く情報が届いたのは。
8/16(昨日)
・帝国が王国に宣戦布告。
・同時に神国が王国に宣戦布告。
サーシャの予想通りだった。戦争が起こる。それは帝国からの可能性が高い。
そしてサーシャが敢えて言葉にしなかったこと。二人にとっても想定外だった情報が続けて流れた。
[──…そして、その侵攻の日は……今から30分後です。王国の皆様、今すぐお逃げください。学院にお住まいの王国の皆様、王様から徴兵指示が出ております。王様からの伝達によりますと、これを破った場合死亡するように魔法を使ったと伝言を預かりました。……どうするか、お決めください。王国に向かうか、逃げるか…王が真実を言っているか、信じるのはあなた達です]
「……えっ?」
「もう?」
[ただ、証拠として身体のどこかに紋章を刻んだとも言われています。…探してからでも遅くはないでしょう。では、私はそろそろ戦場に向かいます。今までお疲れ様でした…──]
間抜けな声が出たが、それも仕方ないだろう。
朝起きて30分後に戦場に向かわせると聞いて、それを夢だと思わない方が可笑しく……右腕と左腕、姉妹で鏡合わせになる様に印があることを受け入れるのは、多少の時間が必要だったから。
8/17
・帝国が5万のサーシャ式MM持ちの軍隊で進軍開始、1時間後、王都に到着する。
・王国が緊急事態として学院から自国の人材を徴収し、王都にて決戦。
「し…死ぬかと思った…」
「でも生き残ったわ!あの怪物共から生き延びただけ良しとしましょう…」
姉妹が息を切らしながらお互いの肩を掴んで支え合う。
早朝から即時戦闘が行われて、お互いにMMとして使ったり使われたりしながら生き延びて、それでも尚──生存者709名。此処に集まった魔法使いが9割死んだ。
地獄と形容するしかない場所だった。カラフルな死が舞い散って、無骨な死が津波のように押し寄せる。唯一の共通点は赤い血だけで、次々と死んでは真っ赤な色で大地を染めるのだ。
蘇生魔法もまだ解放されたばかりで覚えている方が居ない以上、もう取り戻せない命だ。
「こんな…こんなアッサリ死ぬの?…たった2分の戦闘で、何人死んだの?」
「此処が私達の故郷かーあ!よーし、頑張って防衛するぞー!」
「私らって王国兵士だったみたいだし、これから頑張ろうね」
「うーん…まあそうなのか?」
「あれは…学院のみんな?」
答える者は居ない。しかし、月から降りた元気な者達の姿ならあった。
やがて察するだろう。"王様は学院を取り込むことを決定した"のだと。
・王国軍が壊滅的被害を出しつつも勝利。しかし帝国兵を420名しか殺害出来なかったことから、事態を重く捉える。
・「学院解体宣言」を行い、王国が忘却の印を駆使して学院を吸収。
・学院消滅。
「…ああ、もう無いんだね」
月を見上げる。前まで小さいながらも見えていた学院の姿はどこにも無かった。
クッキリとクレーター一つ。抉れた大地があるだけで……もう戻れないのだと、リーロは漸く理解することができたのだった。
[──…前任者より代わりました、商国の放送員です。緊急放送をお届けします。只今、世界平和の象徴である「魔法学院」を王国が徴収したと情報が入りました。パンドラ王からは「余の象徴は10年前に終わった」と供述しており、総勢88万の魔法使いと施設を無断で奪い取ったことになり…──]
サーシャではないが、リーロでも一つ分かる未来があった。
もう、昨日より良い明日は来ないことだ。
8/19
・神国の傭兵の大連合が王都へ進軍開始。道中にある複数の貴族領を占領。
・その中にはタイム家、エンブレム家など、有数の王国貴族がなすすべなく明け渡した。
・同時刻、ゾーン家により神国首都を電撃攻略。同時に退却することを条件を出すが神国の返事が遅々として送られないまま日々が過ぎる。
「…まだなの?」
「まだみたい。でもいつかは返事が…はぁ…いつまで傭兵を歓待すれば良いんだろう」
タイム領都市、サーシャが魔改造した都市にある、領主の屋敷が残っていたのが幸いだった。
学院が無くなった次の日、王の指示によってリーロ達はなし崩しで自分の領地に向かう事になった。
「突然連れてこられたと思えば仕事の山があって…そしたら隠れてた神国の傭兵が夜の間に騎士団を皆殺しにして…民が殺されたく無かったら歓待しろ、此処は我々が占領したって……私達で倒せないかな」
「何度も答えた質問ね?…何度聞いても同じよ。散らばっていて絶対に1箇所に集まらない以上、まとめて殺せない限り被害が出る。それを許容すれば出来るわ」
「…タイム家の領地、貴族の権力が集中してないから私達が居なくても回るけど…こういう時に強く出れないのがなあ…」
「不思議な話よね。民の為に出来る最善が、肝心の民の意思で出来ないだなんて……リーロ知ってる?占領されてる場所、どこもそういう感じらしいわ。
「悪質〜ぅ!」
このままで良いのかと聞かれれば……そう思っているなら、こうして不満は言わないだろう。
そこで体験したのは膨大な書類の山と、理不尽で横暴な傭兵くらいなものだ。
何かしようとしても、強く出れないから膠着する。貴族だからと任された仕事でも、初めてだからやって良いのか分からない。
政治が出来ない。サーシャが居れば変わっていたかも知れないが、居ないから動けない。
「でも転属性のゾーン家がいつでも首都の支配者達を殺せる状態にしたみたいだし、いつかは傭兵も何処かにに行ってくれるわ。今はそれを信じて待ちましょう」
「…そうだといいんだけど」
そこから変化が有ったのは──8日後。
未だ戦争になったのだと理解していない王国の眼を覚ます準備が完全に整ったのが、その日だった。
8/25
・王国にある占領された音楽の都市「ミュージム」が大火災となる。原因解明として送られた記者によれば、水属性の少女が確認されたと報告。この時点での推定死者数10万人。
・商国が神国に宣戦布告。
・帝国が神国に宣戦布告。
・歴史書における「世界大戦」開始日となる。
開始日から2日前のある都市で、民衆の笑い声と歓声が溢れた所があった。
「カーリー様!ありがとうございます!」「今日も宜しく頼むよー!」「よ!世界一の支配者様!」
「……ああ」
サーシャを攫った誘拐犯の都市、かつての龍の一族が支配していた頃以上の栄華に溢れた、カーリーの歩く所である。
あれから9日経ち、最初は汚れ、飢え、苦しみ、絶望に染まっていた民衆が今では活気に溢れた様子でこの都市を新たな故郷にしようとしている。
何もかも、サーシャを連れて働かせたお陰だ。肝心のサーシャのことは守る為にも秘匿したのだが。
「……よし、みんな穏やかに暮らせてるな」
龍の一族 旧都市 現在人口 約100万人
復旧率:350% 市民支持率:100%
「……一時はどうなるかと思ったが、サーシャを無理矢理にでも連れてきて正解だった。お陰でこうしてみんな幸せになっているし……」
カーリーが民の感謝の声を受けながら自らの宮殿に入る。
全て上手くいった。弟子を置き去りにして学院が王国兵として連れ去られも、それ以上に助けることが出来た。
全て司祭の言う通りになった。此処には笑顔が溢れ、貢献者のサーシャの安全も確保した。
楽園だ。完璧で、あらゆる罪に眼を向けないで済む楽園が出来た。
心の痛む行いだったが、やって良かったのだと7日前を思い返した。
「……命令。今すぐ民を幸福にしてくれ」
『肯。短期的幸福の為、「
「……命令。安全な場所にしてくれ」
『肯。民衆の愚民化リスクを無視し文明レベルを引き上げます』
ただ、実行前に言われたリスクとやらが気になるところだったが…今は良いだろう。
今日は司祭が成果を確認する為に訪れる日だ。少し魔物の討伐で出向いたが、そろそろサーシャを隠して置かなければならない。
「……今戻った。サーシャ、変化はなか……た…か?」
隠し部屋を見渡す。誰も居ない。
普段なら此処で佇んでいるサーシャすらも。
「……どこに行った?」
罪が背筋を伝い、焦りが額を流れた。
しかし、誰かに頼ることは出来ないだろう。
学院の友人達にとってカーリーは裏切り者で、神国の上役はサーシャを盗んだ第一容疑者だ。
何より致命的な話は、転移出来ないカーリーが出向こうとしたら首都まで3日掛かること。
その間のサーシャの扱いについては──その心が手遅れになるのは間違いないだろう。
同日8/25(カーリーの手元からサーシャが離れて2日後)
・「ミュージム」で氾濫が発生。"音が届いた死体を同族にする"魔物、「音響鬼」と任命された存在の手により、都市消滅。推定死者数15万、その内魔物化──20万。
────────オオオオオ!!!
絶叫。哀叫。阿鼻叫喚。
鐘を鳴らしたような叫び声が響き辺り、それと悲鳴が共鳴しては鐘の音が増える。
『生成完了』
燃える地獄を一人、歩いている者がいた。
青い髪をたなびかせ、眼を包帯で隠し、額に刺されたナイフは紐で固定されている。
ベルトで縛られたドレスのような囚人服を着用し、その手はベルトによって祈る様な形で固定されていた。
この地獄を創り上げた元凶──サーシャである。
『再行使──深淵拡大──氾濫調律──完了』
何をやっているか。
人々を都合の良い魔物にする魔法の行使だ。
なんでそんなことをしているか。
カーリーに攫われた後、カーリーの命令通りに内政している最中に、司祭に命令されたからだ。
「"能力に劣化が無い範囲で人格を消去しろ"」
「"命令に背く意思を消去しろ"」
「"王国人を最も惨たらしい方法で殺せ"」
「"始めに命令されたことを終了するまで、他の命令を受け付けるな"」
そう言われれば、どれだけ非効率でも洗脳され、命令通りに動くだけのサーシャはやるだけである。
言われた通り、最も自分が見たく無いものを創り上げた。
『薔薇族を基底に神性付与──人類卵として
────────オオオオオ!!!
自我があるかと言われれば、もう無いだろう。
言われた通りに動き、涙も流さずに淡々と魔法を行使する。
どちらかといえば、生きた魔道具でしかない。
カーリーは封印に留めたが…一瞬の隙を作った司祭によって、都合よく書き換えて消された。
「あれは…[──ご覧ください! 先程まで大火災を創り上げていた者が今まさに魔物を作成しっ!?]──オオオオオ!!!」
命を対価にサーシャを写した記者が鬼になったとしても、無感動だ。そういう機能は消去された。
ここまでの流れは単純だ。
外壁に火の手を挙げて逃走を困難にして、外から内側に向かう様に魔物を進軍させる。
『ガソリン生成』と『深淵拡大』、後は「深淵会話」で魔物を作れば良い。
皮肉なことに、自我の無い今は「深淵会話」と相性が良い。踊りが使えなくても、純粋な思考で入力出来る今なら自在に扱える。
傭兵達に配慮しないのもこの作戦がスムーズに行っている要因だろう。
MRCがない事による魔力不足や、MMに記録した魔法が使えなくなったのが弱点だが…それも深淵から魔力結晶を抜き取って利用すれば問題ない。
例え数多の魔法を使えなくても、禁忌術式がある限りあらゆる魔法を再開発出来る。
『──生成完了』
どれだけ不向きな行いへの命令でも、もう関係無かった。
やることは一つ──自分の故郷が滅んだ時のように、一匹残さずに殲滅するだけだ。
8/30
・「音響鬼」によりエンブレム領全滅。推定死者数90万。
・ダンテ・フォン・エンブレム死亡。
・龍の一族カーリーが離反。カーリーと王国貴族の手により「音響鬼」全滅。
・帝国軍5万が神国に侵攻開始。白鯨山脈で神国軍1万に奇襲される。
・神国軍勝利。逆侵攻によって領土占領。「特殊な施術」により270万に増加。進軍開始。
『警。6時の方角より帝国軍の行軍を確認。襲撃ポイントを選定完了。案内開始』
「ほほ、笑いが止まらんの。なんとも滑稽な姿じゃて」
帝国の白い景色に老人の笑い声が響く。
「あのにっくき王国の大天才がこうして羅針盤程度の道具になれ果てるとは…いやはや、これで水属性でなければより辱めることも出来たが…まあこの際いいわ。勝ちが揺るぎないものになった以上、他国の者共が全員死んでも構わんし、なんなら勝ち方も遊んでもよい。いやー楽しいのう?」
ブータラ直々の帝国への行軍、勝利を確信しているが故の物見遊山、カーリーの手元で遊ばせている間に見たもので確信しきった余裕の表れ……どう言ってもいいだろう。
どう言い換えた所で、願望器が手に入ったと錯覚した者の命は短いものだ。
……いや、今回の場合、何をしたのかは関係ないだろう。
生き残るのも、運次第になるのだから。
「……?あれはなんじゃ?」
『解。』
──空から降り注ぐ閃光は、平等な死を齎すのだから。
『──設計図がそのままな場合、当機が登録した者だけは負傷しない魔法陣を利用した、一発で大地に大穴を開ける爆弾「MRC核弾頭」です』
「今すぐ儂をそこに含め──」
同日8/30
・王様の手により「MRC核弾頭」を世界中に向けて800発を発射。
・大地を構成するプレートが崩壊。王国を除く大地が沈没。
・帝国、サーシャ式MM所持者総勢115万生存。
・商国、富豪のサーシャ改造の転属性のMMと「生地」の消費により150万生存。
・神国、ダープラ、神、他蘇生魔法を使える司祭層40名生存。神国消滅。
・王国、王と貴族、サーシャが事前登録したタイム領30万生存。
・カーリー・サイ死亡。
・ダルク、ジャンヌ両名死亡。
・オルガ死亡。
・リサ、モモ、リンゴ死亡。
・以上の事件を「
・世界総人口およそ70,000,000→2,950,000へ。
「な、なんでこんなことをしたのっっっ!!!」
王国の一室で、誰かの泣き叫ぶ声が聞こえるね。
王を責め立てる声は、粛清が怖くはないの?
いや…されてもいいと考えているのかな。
「ど、ど、ど……!!どうして!……私は…此処にいるのに…!」
「むしゃくしゃした。丁度良いのがあった。とりあえず全部使った。やってもリライズなら愛してくれるだろう?」
「バカっ!!!!アホ!!!!〜〜〜〜ッッッ!!!!……………でも、愛してる!」
「ほらな?よし、いっちょおっぱじめよう!」
苦々しく口にして、やった事を考えると随分と軽々しく許しを与えたね。
どうやら夫婦の仲は良いみたい。お互いに抱き合って、人でなしらしく獣のような交尾を始めちゃった。
結局、大事な人だけが居れば良いって考えは……沢山の他人が死んだ所で変わらないんだろうね。
頭にお花畑が咲いているって、そういう事だもんね。
「ね、グリム。そのせいでお嫁になる筈のリサちゃんが死んだけど、これからどうするの?」
「……………俺が…口を開けていいのか?」
「何か言わないと始まらないし、このままだと悪くなるばかりだよ」
王室の前、リーロは次代の王となる予定のグリムに話しかけていた。
どうせ何を言っても取り返しはつかないだろう。
知り合いも仲のいい友達も、全員死んだ。
王は証属性のダンテが死んで契約が切れて、その本性を曝け出した。
時間を戻した所で、その先にあるのは勝利文明、上位世界の殺戮だ。
リートはショックで塞ぎ込んだ。幸いタイム領は住民登録自体が「MRC核弾頭」から逃れられるように仕組まれていたみたいで、リーロを始めとして誰一人被害は出なかった。
だが、それを不幸中の幸いと言うことは出来ないだろう。サーシャを取り返せば何とか出来た筈のことなのに、出来なかった。
今こうして生きているのはサーシャのおかげに過ぎず、リーロは何も出来ていない。
「つまり、私は少しでも何かすべきだと思って此処に来た。…グリム、少なくともこれを見て心を痛めることが出来てる貴方は、そこのパンドラ王とタイム家の汚点よりもずっとマシな筈。……王の座を取って、これ以上被害が出ないようにしよう?」
「………俺は」
その返事を聞いて、リーロは手を差し伸べる。
硬い握手が、将来の王城の内乱を約束する事になった。
それが今よりマシな未来になるかは…今までの積み重ね次第だろう。
9/3
・パンドラ・フォン・サテライト、リライズ・フォン・サテライト両名死亡。
・グリム・フォン・サテライトが次代の王として就く。
・王国が帝、商国に向けて停戦交渉開始。停戦拒否。
・最大の難敵が無くなったとして、帝国と商国の同時侵略開始。
・グリム王が発狂、『童話』の魔法に覚醒。
・以降、空に留まった王国と落ちた帝国と商国による、各地で長期に渡る紛争が開始。
「くそっ…パンドラ王め…!愚かな男だと思っておったが、まさか此処までの愚物だとは!」
『回復処置終了──待機に移行』
「やっとか!魔力汚染とやらに随分と時間を掛けられたわい!」
地下施設にて、喚く老人を治療する魔道具が居た。
サーシャである。あの日から
わざと老人を治さずにやっていた訳ではない。すぐに治しても地上に出ればすぐに罹患する以上、「"完全に治療しろ"」という命令を完遂するにはこうするしかなかったのだ。
「本当に、随分と時間を食わされた…これでは他の司祭と神もやるとなると、どれだけ掛かるか…おい、推定治療時間を言え」
『0秒』
「は?」
「ううーん?」「なんか随分長く寝たような…」「身体が…凝ったのう?」
「あいたた…寝坊!?倫理の授業はどうなりました!?」「五月蝿いのう…?」「ぐおっ…」
完全に治療したのだから、当然ここで安静にさせていた神と司祭も当然治療済みだ。
サーシャの声が合図となったように次第に其々が起き始める。
神と支配層40名。「"神国の生きている者を集めよ"」という命令通り、王国で兵士をしていた学院の倫理の先生…アニー先生も回収済みだ。それ以外は死んでいたので回収は不可能だった。
「完全と言ったのが悪かったかの…?まあまあ、これはコレでよい。やけに長い治療期間を不自然に思わなかった儂が悪いわ」
「あれー?ブータラじゃん。此処どこか知ってる?」
「神よ、此処は地下シェルター、王国の奴めが地上を破壊し尽くした為、その怪我を治すべく作られたものです」
「あっそう。それで、そこのサーシャは?」
「魔道具です。サーシャに似てますが違います」
「でもこの神性はサーシャだよ?」
「サーシャ製の魔道具ですから、その辺りの再現度も高いのでしょう」
「へー、よく出来てるね!」
本人なので当たり前だが、そんな事情は微塵も顔に出さずにブータラは神の質問を乗り切った。
神は騙され易い性分、仕方ない話だった。
「ではサーシャの魔道具よ、戦争や国の動きに関する情報を集めよ。核が撃ち込まれてから何があったか、1分で調べて報告せい!一番飯を食ってるんじゃからそのくらいせねば割に合わんぞ!」
『肯』
「……ううーん?やっぱり違和感が…」
期間は8/30〜11/30の戦争と国際情勢の情報。
1分という制約から、大雑把に調べるのが最適だろう。
情報源は魔力視とコレまでのラジオ放送を追う形で…完了した。
「あ、待て待て。ワシは戦争すら寝耳に水だ。最初から頼む」
「あら私もです…お恥ずかしながら学院にいた時から後の記憶がないんですよね…」
「なに?…まあ司祭ならそうなるか。ほれ、いい感じに説明せい」
…という事なので、初めから簡潔に箇条書きで説明する事になった。
サーシャが攫われてから今に至るまでをサラッとである。
『8/16サーシャがカーリーの手によって誘拐……』
「おいやっぱりサーシャ本人!本人の口から言ってる!」
「やべ…なんのことかな?」
「ブータラ、ボケないでください。倫理的にド級のアウトですよこれ」
「もう治せないしこのまま使おう。それでいいじゃあないか」
「サーシャ、どう?」
『許可があれば治療可能です。8/19…──』
「くそっ!利便性優先で途中で命令挟めるようにするんじゃなかった!」
「己の悪因悪果を呪いなさい!『大音空』を打ち込みます!……出来ない!」
時は残酷なものだ。最初にやっていた命令も、孤独の話し相手として使いたいが為に解除する事もある。
そんな訳でボコボコのブータラを無感情で見送りつつ、サーシャの言葉は紡がれる。
最初は気楽に聞いていた者も、直ぐに姿勢を整える戦争の──終了報告だ。
『報告します』
9/10時点
・帝国の手によって空中戦用魔道具開発完了。
・商国の手によって生活基盤構築完了。
・残り生存者数280万。
9/20時点
・ゾーン家滅亡。帝国によりMMとして鹵獲。
・王国が守衛姿勢に。紛争が小康状態に。
9/30時点
・帝の妻が暗殺により死亡。
・ヘルシング・スミスが暗殺により死亡。
・戦争の勢いが復活。
・MRC核弾頭の魔力汚染により、500万の死体系列の魔物発生、氾濫開始。
・推定10万の所属不明の集団が発生。
10/10時点
・暗殺者が薔薇族だと判明。神様を穢した罪人に対する罰と処刑だと主張。
・所属不明の集団が「薔薇族と魔王被害者の集団」と判明。魔国と命名。
・魔国から帝国と商国へ宣戦布告。異教徒の殲滅と公表。
・魔国から王国へ同盟を交渉。タイム家が神の身内だとして友好を表明。
・帝国と商国が同盟締結。
・王国と魔国が同盟締結。
・帝商と魔王で戦争することに。
10/20時点
・各地の氾濫により人類生存圏縮小開始。10→7割。
・各国で首都に人口を集める体制に移行。
・死者が利用された魔物の出現が増加。魔力汚染で不作の大地が拡大。
10/30時点
・転移による暗殺合戦開始。
・各地の氾濫により生存圏が5割に縮小。
・この時点で王国の人口が20万まで減少。
・帝国の人口が50万まで減少。
・商国の人口が30万まで減少。
・魔国が「音響鬼」の残骸から魔物を新人類に進化、教育しつつ20万に増加。
11/10時点
・人類生存圏が0割に減少。都市をコロニーと改名、改築しそれだけが人類の生存領域となる。
・空中に留まっていた王都が汚染の影響で維持用の魔力不足に陥り墜落。
・サーシャが事前にタイム領に仕掛けていた『移動都市ゴーレム生成』の魔法陣起動、着地成功。
・王都の民達はグリムの転移魔法によってタイム家のコロニーに避難成功。
・グリム・フォン・サテライト死亡。
・王様の死亡により、王国消滅。
・サーシャが魔力汚染を「神秘」で安全で新しい魔力へ変換成功。汚染の侵攻が停止し、浄化が開始。
11/20時点
・汚染回復度50%。既存の魔力が99%汚染された事により、様々な魔法が動作停止、発動不可に。
・転移不可になった事で戦争状態が自然解消。
・帝国はサーシャ式のMMが新しい魔力にも対応していた為、出力を大幅に落としつつも現状維持。
・商国は機械へのノウハウが「通信会社」のお陰であった為、劣勢ながらも銃を片手に現状維持。
・タイム領はタイム家の隠し部屋からサーシャによる新しい魔力の推測や仮想研究による青写真を発見。魔法を武器に現状維持。
・魔国の人口が推定50万を突破。これ以降ラジオに情報がない為報告不可。
・魔族と思わしき存在の報告が魔国から上がっている為、未知の原因から神国の住民が復活していると推測。
11/30(現在)まで
・魔力汚染回復完了により、神国からの命令完了。
・紛争発生──無。
・魔国を除く残存生存者 80万人。
・以上を以て「世界大戦」は終結と定義。
・以下、終わりの時計塔から時限性のラジオジャックより。
「人類の皆様、お疲れ様でした。以上を持ちまして49.5番、終わりの時計塔の発表を終わりにします。これにて人類は救われました…が、どうかこの
『──以上、「終わりの時計塔」司会担当、
「…………」「…………」「そうか…儂はなにも出来なんだか……」
「…………」「…………」「やばい奴らがいるもんだねー。あ、サーシャは自分を治療しててよ」
『肯──精肉』
静寂の中、神様の呑気な声が響いた。
言われた通りに治療として、『精肉』で失った記憶を可能な限り取り戻し、ナイフを抜く。
止める者は誰も居なかった。ブータラが何をしたかったのかは知らないが、もう全てが終わった後だ。
「ふう…こうなった場合に備えた甲斐は有ったね。神様と友達になってて良かったよ」
包帯を解き、ナイフを抜いた跡を痕跡も残さずに消し去り、復活した記憶に問題ないか吟味する。
覚えている限りでは……発表会をする直前。時計塔を見て、念を入れてゆっくり眠る時間を設けた際の長期間の『精肉』の記憶の再登録だった。
主観だと発表が出来なくて名残惜しい気持ちはあるが……こうして復活しただけ御の字だろう。
どうせ大したことしてないだろうし、この分だと全員の告白とか断っただろうし…悲しいものだ。
そして報告した記憶からしてみんな死んで……心配なのはリーロ達くらいだろう。元気にしているだろうか。
「うん、覚えてる限りだと発表会直前だから名残惜しいなー…でもいっか。世界はある程度形を保ったんだし、プランCが実行出来るなら問題ない!」
「プラン…?サーシャ、どういう事ですか?」
「それはー…まあ、大体終わったし言っても良いか」
正直さっきまで一緒に寝てた気分だけど、まあそれは置いておこう。プランCなんだからのんびりだ。なにより、私がやるべきことは殆ど終わっている。それこそ、どう思考していたか明かしたいくらいに。
サーシャ…私の計画は複数あった。
一つ目のプランAは何もかも上手くいった時のやつ。
王国の人間を影ながら支配し、適度に数を減らして周辺国家の鬱憤を晴らして解決するプラン。世界人口は大体6000万生き残る計算で、世界を回収しにきた上位世界を私自ら対処するプラン。
二つ目のプランBはなんとびっくり結婚出来た時のやつ。
所属した国家にとって都合のいい結果にしつつ、世界の救済に必要なリソースを確保するプラン。大体5000万〜3000万生き残る計算だ。
三つ目は案の定、時計塔の思惑やらなんやらで自由に動けず何も出来なかった時のやつ。
何処にも所属しないってのが悪い方向だった場合でもあるが、こうなったらどうしようもない。
推定生存者がどうやっても100万以下になって上位世界も来ないし、次来るのは千年後。大体のゲーム通りに次世代に問題解決を委ねる事になる。勿論実質解決したくらいの、出来る限りの用意はする。
以上だ。ゲームでは勝利文明に勝つエンディングは一つ
勿論だがそれは理論値だ。現実の一回限りで求める類いではない。なので最高を求めつつ、サブプランを用意できる展開を考えた。
そこで目に付いたのがRTAだ。最小限かつ最適な手法を実施しつつ、余裕を以て計画を実施可能。
どうだ実にマストな立案だろう。私の頭脳はどちらかと言えば政治家タイプだ。最高を求めるのではなく、最悪をマシにすることを至上とする。
限界突破?最善最高?勝利の概念その物に勝利する?バカを言うな私は世界全て預かってるんだぞ?その重みを理解しているからこそ、それらの意見を考慮しつつこうして対策立ててるんだ。
全く、自由になったからといって他の人格が私…サーシャ代表の人格に話しかけないで欲しい。今は説明中なんだから後にしてくれ。
「なるほど…では、これからどうするんですか?」
「アニー先生、そりゃあ決まってますよ。長い事顔を見せてなかった…らしい?親友に顔を見せるんです」
「そうですか…いえ、それが当然の話ですね」
「はい。お互い戦争で何も出来なかった身ですけど、出来る限りやりましょう。時計塔に一杯食わされたんですから、その分人助けも積極的に…です」
「…それなら私たちは、貴女に助けを与えなければなりませんね」
おや、何か変なことを言い始めた。私としては時計塔の計画に相乗りするような結果になった分、少しでもマシな今にしようって感じで言ったのだが。
自覚ないけど私めっちゃ殺したみたいだし。
「助け…ですか」
「そうですよ。治療されたんですから、その代金は支払うべきでしょう?」
「あー…それなら」
そう言われても困るので、取り敢えずいい感じのことを適当に言う事にした。
もう死ぬまでにのんびり対策とか生存圏増やしてけばいいんだから、この際ある程度適当でも良いだろう。
「私に着いてくるか、ここで祝福して下さい。あれです。汝らの旅路に祝福あれってね」
「それなら私が付き合いましょう。他はどうされますか?」
「…此処に残るか、魔国だな。魔族が…自国の民が居るならそれを統制しなければ…それと、聞いた限りでは神の信仰に熱心の国のようだ。荊棘の道になるだろうが、司祭として人々の祈りを届けに行こうと思う」
「神様は此処に居るけど?」
「架空の、じゃよ。実在する神よ。もっと言うなら、人の心には其々己の神が居る。司祭とは、その架空の神に祈りを届けようとする者じゃ」
「?????」
「分からないなら儂らに着いてきなさい。今なら人々の側にいても嫌われないし、良い学びの機会じゃ」
どうやら私に着いてくるのはアニー先生だけのようだ。
それ以外は魔国に行く事にしたようで、ダープラだけが此処に残るらしい。自分は過去の遺物になったから死ぬんだとか。
殉教という奴だろう。心の神に己を捧げる…私は悪の化身たる神、実物の神なのでよくわからないが、要は信念だろう。自分が死ぬべきだから死ぬって奴だ。
それが何処か可笑しくて笑いたくなるのは…この3ヶ月でかなり悪の神になった影響だろう。
文字通りの悪影響って奴だね?……リーロ達の所に着くまでに矯正するとしよう。
「じゃあのー」「さよならー」「魔国ってどんなかなかのう?」「バイバイサーシャ!またねー!」
「では…さようなら、私のおじい様」「良い国だと楽だの」「旅なんて何年振りか…」
「それじゃあ今までお世話になりました。ダープラさん。もう会うことはないでしょうけど、きっと最後は穏やかであって下さいね」
「お主ら…まあ、そうじゃな。儂なんかがこんな別れが出来るのは幸福か……では行け!旅人達よ!汝らの旅路に度し難き程の祝福と災いぞあれ!」
「最後の最後で特級の呪いやったな?」
ぐだっとしたがまあ良いだろう。どの道此処から結構な旅になる。
整備された道も、頼りになる魔法も使えなくなった。魔物は蔓延って、いつかの魔王が夢見た世界になってしまった。
世界に平和は訪れないまま長い夜が始まったが、それでも構わない。
戦争は終わり、上位世界からの収穫も過ぎ去った。
真エンドまでは行かないが、ゲームだとノーマルエンドの中で最高の終わりだし悪くはないだろう。時計塔の思惑通り進んだけど、なんだかんだゲームと違って4カ国全部残ってるし、時間経過で何とかなるように計画しておいたんだから。
「さーて、ここからが本番。友達がリーロ、リート、シープしか生き残らなかった中でどう幸せになるか。ゲームやらなんやらで任されたことは大体終わった以上、後始末をどう付けるか。墓参りは先にしたいし…忙しくなってきたね」
「やけに元気ですね…魔法が使えないんですよ?魔物と会ったらおしまいです」
「祈りは使えるでしょ?」
「私は使えませんが?」
「よーし、先ずは新しい魔力で使える風魔法を作らないとだね!私わくわくしてきたぞ!」
大層な計画も一歩から。積み重ねた死を自覚するにも先ずはそこから始めるとしよう。
なーに、こうなっても良いように魂を再利用して生まれ変われるようにしたんだ。
生きてればその内そっくりさんと出会えるだろうし、それまでまた積み重ねればいい。
「はぁ…それでもちょっとしんどいね」
まあ、それはそれとしてしんどい終わりだとは思うが。
だが…まあ…それでも受け入れて進むべきだ。
だから、もう少し待っててね?リーロ/リート、私の親愛なる友人達よ。
「Cエンド」
ノーマルの中でも最高峰。ゲームの次回作はこの世界線より悪い世界線なので全然マシ。今を守ることは出来なかったが、未来は明るいし頑張り次第で全然巻き返せる。ただし死人は生き返らない。攻略対象も生き返らない。
全部一人でやったのがいけなかったけど、他人を頼っても対して変わらないので仕方ない。だって運が上振れるかどうかが全てですし。
ゲームなら独身のまま英雄として死ぬけど、このサーシャは天才なので独自のチャートで幸せになる未来を掴んで結婚することが出来ます。
敗因は時計塔の発表を阻止しなかったこと。でも1と11は無理です。クイックセーブとロードで引き直すしかないけどゲームじゃないから出来ません。