不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計   作:何処にでもある

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 サーシャが頑張って帰宅します。
 凱旋は華やかに行きましょう。




戦・勝・七六

 

 

「へいアニー先生!このままだと私は死ぬ!」

「待って下さい!この子を殺すのはちょっと覚悟が必要で……!」

「偽装された見た目ですよ!模擬餌!シーシャの見た目してるからって躊躇しないで私死あああ!!!」

 

 タイム家のコロニーを目指すに当たって、見落としていた難題があった。

 「移動都市ゴーレム」として動けるコロニーにしたせいで、歩きで追いつこうとしたらとても大変な事である。少なくとも人の足で間に合うような速度で設計してない為、背中から追っていこうとしたら永遠に間に合わないという難題があった。自分で作った癖して間抜けである。

 そこで私の登場だ。一計案じて、新たな飛行手段か移動手段で先回りしつつ乗り込む事にした。

 移動都市の入り口はかなり高めに設定した為、どの道飛行手段が必要。この際両方作ろうという魂胆である。

 

「うおお!!『水刃』!」

「おお、いつの間にそんな新魔法を!」

「…先生、そこは助けてくださいよもー!」

 

 所でこの先生、可愛い敵や幻覚を見せる相手だととても弱くなる。

 どれだけ弱くなるかと言えば、こうして私が触手に捕まり振り回されても助けられないくらいだ。

 全く…新しい魔力が水属性と相性が良く、汎用的な攻撃も出来るようになって無ければ死んでいた。

 

「全く…新しい魔力は出力が上昇する程上がり辛い代わりに、出力最低値が高い…均一化している。そのおかげでこうして戦力になってますけど…代わりに一人でできる事も減ったんです。ちゃんと協力しないとこの先死にますよ?分かってるんですか?せ・ん・せ・い!」

「はい!…それは分かっているんですが」

「…はぁ。この調子だと年単位になりそうかな」

 

 旅を始めて3日間、ずっとこの調子である。先生と呼ぶとある程度ビシッとしてくれるのだが、アニー先生は普段すごくだらしない。旅してる時もそうだし、寝ずの番も、今みたいな戦闘でもそうだ。

 この調子ではいつか死んでしまいそうだと思う。…それは頂けない。何とかする必要があるだろう。

 

「と言う事で作った魔法がこれです」

「おおー…なんですかこれ?」

「『虫の知らせ』です。前の世代にもあった魔法の互換ですね。危険を察知してゾワワってしてくれます」

「ああー!これですか!ありがとうございます!普段から使ってた分、無くて不便だったんですよ〜!」

「お、言いましたね?次は期待しますよ?」

 

 新しい魔力は前の魔力と比べると随分と不思議な性質だ。

 出力が上がり辛い。他属性の魔法も使えるようになる。汎用魔法が使い易い。身体に馴染まず回復し辛い……魔力一つでここまで使い勝手が変わるのかと驚くばかりだ。

 事前に予測していた魔法の変化先の一つとはいえ、まさか現実でお目にかかれるとは思いもしなかった。そのせいで氷属性世界線のサーシャとの契約が不要になったので解除した。元の世界で元気に過ごすんだぞ。

 そんな感じで毎日が発見の日々である。これで思考が2000万人相当じゃなかったらと思うと怖くて寝れない。生成した物質が魔力に自然と戻ってるってどうなってるんだか。

 

「はい捕まったー!おら助けて見せろや先生ー!」

「……ごめんなさいシーシャ!『風刃』!」

「出来たじゃ無いですか。良い感じですよ」

「すごく…悲しい!」

 

 そんな感じで歩いては魔物を殺し、歩いては動物を殺して食べて、良い感じの素材を見つけては錬金の素材として回収する。

 幸いと言うべきか、錬金に関しては余り変化は無い様だった。精々が『付与術(劣)』が無くても特殊な効果を追加出来るようになったくらいだろう。

 量産性が下がって固有性が上がった。今分かるのはそのくらいだ。全く…魔力一つ変わるだけで随分と変化するものだ。

 

「というわけで新魔力+白鯨油切り替え式のバイク2台の完成です。耐寒性と走破性が高く頑丈な設計にしたので悪路でもなんのその!白鯨油を利用できるようにしたので燃料も長持ちする!早速ツーリングと洒落込みましょう」

「運転の仕方は…?」

「今日一日掛けて教えるのでそれで覚えましょう。点検方法も覚えてくださいね?」

「はい!…この年でまだまだ学ぶことがあるとは…幸せなことですねぇ」

 

 4日目はそんな感じで過ぎ去り、白鯨山脈の麓から帝都の有るだろう方向へ進むことになった。帝都を目的地にした理由は近場なのと、あわよくばMMを借りたいと考えているからだ。

 運転教育の記憶は…幸いエンジンを動かすのに必要なものが山ほど有って助かった。

 アニー先生の壊滅的な運転で何回か大破しようとも、終わりには前輪を上げて走行していたので良かったと思う。

 変な運転するな馬鹿タレがと思ったのは内緒だ。そんなんだから壊すんだよ。

 

「‭─‬‭─‬と、エンジン吹かして早3日…不幸な事故の対策としてヘルメットを始めに様々な物を創りつつも帝都に到着した訳だけと…」

「コレがコロニーですかー…埋まってますねー?」

「落下した時に大半が壊れたんでしょう。枯れた世界樹が蓋をしている形ですね」

 

 中身を空洞にした嵩増しが無くなったことで距離が短くなり、魔物と遭遇してもそんなに長い時間を掛けずに元帝都に到着した。

 そこに有ったのは、一面の雪原…もっと言うなら、枯れ木に積もった土と雪の蓋の大地である。

 どうやら落下した時に偶然こうなったみたいで、天然のコロニーとして成立した様だ。

 この下がどれだけ崩壊しているかは未だ未知数だが、入るにも出るにも一苦労しそうだと思う。

 

「じゃあどうやって入るかな…枯れ木を降っても良いけど、バイクは此処に置いておかないとだし…『渦巻』はまだ再現出来てないし…」

「あ、ならバイクは置いて私が抱えて降りましょうか?」

「アニー先生何言ってるんですか?二人仲良く紐なしバンジーはごめんですよ」

「あーいえ…」

 

 アニー先生がそういうと、力を込め始めた。すると背中からミミズクのような羽根が生え、頭の羽飾りと思っていた物がピョコンと伸びる。…そう言えば彼女、鳥の施術を受けた司祭層の者だった。

 完全に忘れていた。今まで間抜けな光景ばかりですっかり忘れていた。

 

「私、鳥人間ですから!飛べなくても人を抱えて滑空することは出来ますよ!」

「よし採用。先生にも良い所有ったんですね」

「えっへん!コレでも完全変身も出来るすごい司祭です!横移動とか大得意!」

「良い年した大人の姿か…?コレが…?」

「人は誰しも心に少年を飼っているものなんですよ、サーシャ」

 

 そんな訳で更に変身を進行させ、アニー先生は私の二倍はある大きさのミミズクに変身した。

 アニー先生が破けないように事前に脱いだ服を回収して持ち、いざ帝都。

 アニー先生の脚に捕まってヒョイヒョイと着地しつつ、途中遭遇した魔物を倒しつつ、魔物が多過ぎたので『渦巻』を開発して爆速で降りようとして、蜘蛛の魔物に阻まれたので倒しつつ、一日掛けて元帝都のコロニーに到着した。

 案外順調に進まない物である。蜘蛛の巣が邪魔過ぎてビックリした。

 

「到着ー!昇る時考えると憂鬱だけど今は嬉しい!」

『サーシャ、服をそろそろ返してくれません?』

「ちょっと待ってね…あー…ごめん。戦闘のどっかでボロボロにしちゃったみたい。服屋にでも行って仕立て直すからもう少しそのままで良い?」

『ええー!?人前で裸なのは嫌なんですが…』

「今のアニー先生は完全にミミズクだし大丈夫。羽毛あるから誰も気にしないよ」

『そんなー…せめてお尻だけでも…』

「そこまで言うなら仕方ない…蜘蛛の巣から回収した糸で包める様にしよう」

 

 そんな感じで白い生地をアニー先生に掛けて雑談しつつ、帝都を見渡す。

 見た感想としては、やはり鬱々しいと思う。

 主観では一瞬で終わったとしても、彼らにとっては長い時間戦争して、その終わりがこのザマなんだからしょうがないのだろうが。

 

「全員が帯刀していて、表情は暗い。偶に子供が居るけど…剣を渡して生き残らせたかな。武器を抱えて路地に座ってるね」

『……痛ましい光景ですね。どうにか出来ないのでしょうか』

「さあね。上であれだけ魔法を使って偵察も無かった。気力とか、そういうのがない。…心まで助けることが出来ないなら、何をしても大して変わらない」

 

 大事なのは心だ。どれだけ貧困に苦しんでも、未来に希望があるなら勝手に救われる。

 今の状態で前の生活に戻しても良いことはないだろう。仮に日常に戻したとして、それは親しい人が居ないことを強調してしまう。そうなると自殺する者も居るだろう。

 苦しい今というのは、そこから眼を背けられる非日常として役立っているのだから。

 

「だから、助けるならほんの少しだけがいい。ふと顔を上げた時、明日を迎えてみようと思う物があれば良い」

『それは…どの様な?』

「そうだなー…」

 

 はて、どうしたものか。時間が経って魂は簡単に化けて出る事が出来なくなった。

 リーロ達に会う事も考えれば手軽に素早く終わるのが望ましい。

 こういう時に呪符やMMでもあれば簡単に手札が作れるのだが…新魔力で満ちた今、どれも役立たずになってしまった。

 その分この真っ暗な地下コロニーに必要なのははっきりしているので、何を作るかで悩む必要はないだろう。

 

「それにしても此処は暗いね。蓋されてる分本当に暗い。太陽の一つでも有れば良いよね?」

『え、それは…確かにあると嬉しいでしょうが…作れるんですか?』

「誰に聞いてるの先生?此処に居るのは‭─‬‭─‬」

 

 先程魔法の属性の制約が消えた事は伝えただろう。

 私も水属性の方が扱い易いとはいえ、他の属性もこの魔力なら使える様になった。

 そして光属性は、私の友人だった者が近くで長い事見せてくれた属性だ。

 

「‭─‭─‬みんなを照らしていたダルクの友人だよ?その光を再現するくらい簡単なことだ」

 

 『SRPG』(新魔力ver.)

 裏側で地道に互換を作っていた仲間の力を借りる魔法、死者再現魔法。

 蘇生と比べるとローコストで、どれだけ昔の死人でも再現出来るのが利点。

 代わりに自我などは存在しないが…肉体だけ再現する都合上、素材として肉体だけ欲しい時に向いている。

 新魔力になった変化は使用者の実力以上を引き出せなくなった点、代わりに召喚上限が消えたこと。

 魔力が続く限り召喚出来るので、MRC辺りを噛ませたら面白いことが起こるだろう。

 

「先祖返りしたダルク肉を基底にしてー新魔力の吸収効率を上げる魔法陣書いてー光から魔力に変わったのを再利用する構造にすればー…完成、太陽みたいにチカチカする半永久動作の魔道具「太陽の聖女」でーす」

『倫理観!!』

 

 流石に光る肉の実はアウトらしい。交換前提で良いと思ったのだが…今の私はズレているらしいから、こうして神と人の価値観のズレが直せるのが良いと思う。

 

「えー?仕方ない…それじゃあ多少効率は落ちるけど肉塊を人型にしてー中身の私を参考にしっかり生きてる物にしてー裸はあれなので保護用の水晶球でくるんでー…中にいる間は魔力を栄養素に変換して生きていられるようにしようか」

『絵面が完全に囚われの被害者!!』

 

 今度は変な生贄とかのそれに見えると言ってきた。割と力作だっただけに口惜しいと思う。

 …いや、この場合は寧ろいい方向にいきそうか?囚われの姫を助けるなんて、勇者を尊いと言っている帝国には丁度良い発火剤だろう。助けられる頃には地上に出れる様にすれば尚良い。

 

「なら良かった。後は…景品にするなら良い物にしないとね。新魔力版の『停滞』と『貸与』の時魔法で可能な限り光を出す以外は時間を止めて、いつ助けても美しい少女が復活する様にしようか」

『ええ…それで良いんですか?』

「勇者に必要なのは魔王だよ。それなら、「アンリマユ」の私がその役に丁度いい。復活した時の人格は……まあ、設置していればその内魂の一つや二つ宿ってるでしょ」

 

 そうと決まれば話は早い。帰る時に地上までの道中を盛り上がる形で整えておこう。

 後は帝王にこの子の設置の許可といい感じの話の捏造、MMの貸出を頼むとしよう。

 アレな言い方だが落ちてからも死者が居るから余ってると思うしね。

 

「‭─‬‭─‬…という訳で許可と盛り上げ、MM貸してくださーい」

「灯りがあるのは確かに助かるが…その景品の大きさが片手で持てる程度なのは大丈夫か?」

「赤子ですからね。幼い方が長生きしますし」

「……まあ、どうせ俺の代で地上に出ようとは思わん。暇の慰めとして乗ってやろう。だがMMはダメだ」

 

 かつての王城と比べると随分と貧相になった小屋に帝は居た。話は小屋のすぐ隣、墓地の中で行う。隠し話には丁度いいだろう。

 もうこの集団の長ではないらしいが関係ない。私にとって話を通すべき人物は彼なんだから。

 それに、今だけはいいだろう。私関係なんて、昔の権力者がするべき判断だろうから。

 

「なんでですか?」

「死者と共に弔ったからだ。墓荒らしは重罪だぞ?」

「帝国式MMそのものが墓荒らしと死者の冒涜の象徴なのに?」

「だからこそだ。…勇者として俺は道を踏み外した。しかし王道に戻ってならんというルールもない。これからは然りと定め、守るのよ」

 

 そういった帝の姿は…なるほど、墓守りらしい。

 死者を軽んじた分、これからは向き合っていくそうだ。

 

「なら仕方ないですね…いつぞやはお世話になりました。この赤子は私がこっそり鳥の巣に添えておくとしましょう」

「うむ…既に死した赤子か…いや、これから産まれる子か?…まあいい。帝国が滅び、新たな国の歩みを御伽噺にして育つ赤子だ。光の御子でもなんでも言って、いつかその水晶の卵が割れた時に受け入れられるようにしておこう」

 

 そろそろ席を立つとしよう。

 貰えなかったのは残念だが、私が手伝うべきことは成せた筈だ。

 最後に剣山のようになっている墓地に手を合わせ、その冥福を祈ってから背を向けた。

 

「では私はコレで」

「ああ、もう二度とその力を人の眼に入れるなよ。達者でな」

「……あーでも一つだけ、神として言葉を残しましょう」

 

 ある程度歩いてから振り返る。言っても言わなくても良いが、少しでも彼の心が救われたら嬉しい。悪ではあるが神の身体だ。慰めにはなるだろう。

 

「‭─‬‭─今宵から死ぬ時まで死者を尊重した時、‬貴方は自分の弟に再会するだろう」

 

 返事はない。そのまま立ち去って、赤子の設置を終えてから地上に出た。

 ゲーム知識で弟を妻にしたのは割れてるんだから、神は全てを見通す的な神秘体験として利用させて貰った。

 どう思ったか知らないが、少しでも心の助けになれば良いと思う。

 

「それじゃあ次!タイムゴーレムの痕跡が商国に続いてるので其方に行こう!」

「私、神様が言っていた「サーシャは神」って言葉が今になって分かった気がします」

「あー雪めっちゃ積もってる…まあ、神なんてそんなもんだよ。すごくいい加減で、それでも偉大なのに間違いない。心がある内はそんな感じー」

「…捨て子に死者の尊厳破壊に詐欺の教唆。中身が犯罪でなければ立派でした」

「悪いね、私は悪の神だよ?悪い事をさも善さそうに仕立てるのは得意なんだ」

 

 最後にダルクにごめんなさいをして、私達は旧帝都を後にした。ぐっぱいダルク、転生先の身体は用意したから上手く使ってくれよ。

 思ったより時間を使ってしまったが、大地が破壊されたこの星は案外小さい。幸いにもそれ程の時間をかけるまでもなく商国に着いた。

 MMのない23日の旅は長かったと言っておこう。

 

「やっと到着したー…いやー案外海が厄介だったね」

「逆に聞きますが、どうして船を作る魔法なんて知ってるんですか?」

「ちょっと船舶旅行した時にね!」

 

 久しぶりの商国は相変わらず大きな塔で、しかし随分と壊れてボロっちくなっていた。

 背丈も小さく、周囲には瓦礫の島が幾つもある。だがそれが逆に防波堤や魔物の侵入を防いでいる様にも見えた。

 海による天然の城壁と、海中を通るのを難しくする複雑に積み上がった瓦礫。空の侵入さえ気を付ければ生きることは出来るだろう。

 幸い大地が落下した時に土が被さったらしく農業も出来そうだ。流石商人の国、悪運が強いと言うべきだろうか。…どうせ「生地」を使ったからだろうから、実力の成果を言うべきだろう。

 

「シープは元気にしてるかなー。ヘルが死んだらしいからメッチャ鬱ってそう」

「シープさんですか…倫理学で優秀な方でしたね」

「そりゃあ商人だもん。礼儀でしっかりと悪意を隠してたからね」

 

 そんな訳で訪問だが、道中で瀕死のヘルシングの名残をかき集めて完治してから尋ねる事にした。

 商国に必要なのは信頼出来る隣人だ。誰よりもシープが信用できる相手が居るだろう。

 そこでヘルシングだ。死んだ?何を言ってる、吸血鬼はかなりしぶとい魔物だ。

 

「そんなにしぶといんですか?」

「笑えるくらいしぶとい。魂さえあれば復活出来るんだからね」

 

 どれだけしぶといかと言われれば、位が高い程劣化して蘇る感じの残機がある。そしてヘルシングはかなりの高位だった。

 既に何回か死んだみたいで霧のような姿になっていたが、ちゃんと手助けしてやれば完治する余地がある。血を与えて「吸血の霧」という魔物としてヘルシングの欠片を修復して、それを集めて「吸血蝙蝠」に進化させ、更に集めて「吸血ゾンビ」として肉体を取り戻させ、吸血鬼相伝の儀式で魂が肉体に戻り「下級吸血鬼」になるのだ。

 やっててよかったかかりつけ医。魔物の中で吸血鬼だけやたら詳しくなってしまったが、そのおかげで治療出来る。Cプランの一環でヘルシングの面倒を見て良かったよ本当。

 

「と言う訳で儀式する所まで持ってきた!15日かけたからしっかり完治しろー!」

「友を救う絵面が完全に邪教ですが…シープさんのお宅の前でやるのはどういう意味が?」

「魂がシープの側にいるからこうしないと別な魂が入る」

「シープさんに言わないので?」

「私はサプライズしたい派なんだ。決して疑心暗鬼を説得するのが面倒とかこっちの方が結果的に早いとかそんな事じゃない」

「面倒だったんですね…」

「まあまあ、それじゃあアニー先生は途中で邪魔が入ったら止めてくださいね」

 

 そんな話は置いといて儀式(オペ)の開始だ。紅い月を昇らせ、詠唱を行い、私の内部にある2000万の人格を以てして必要な属性や魔力を運用する。

 新魔力を使わないと絶対量が足りないので儀式の改造は必要だったが、果たしてコレが上手くいくかどうか…コレばっかりは試してみない事には分からない。

 

「夜遅くに一体こんな五月蝿く……護衛兵ー!」

「待ちましょうシープさん。私です。倫理のアニー先生です。一旦話を聞いてください」

「嘘つかないで!先生達はあの時全員死んだの!この偽物め!」

「うわメッチャ疑心暗鬼!」

 

 15分後、ネグリジェ姿のシープがやって来たのでアニー先生が阻止に回り、ごちゃごちゃ騒ぎが始まった。是非先生にはもう1分ほど耐えて欲しい。この儀式治療する吸血鬼の年齢と同じだけ詠唱が必要だから。16歳のヘルシングは16分だ。頑張って欲しい。

 

「今ヘルシングさんを治療している最中なんです!魂があの身体に入れば治療が終わるんですよ!」

「信じない!もう誰も信じない!王国も帝国も神国も全部「敵」「敵」「敵」!!その死だけが唯一の救いだと教えましょう!」

「それは違います!」

 

 護衛兵のシープによる銃の雨を赤と青の双剣で弾き、アニー先生が否と応える。

 元々アニー先生のMMを再現した物だ。使い勝手はただの剣だが、身体能力を上げる機能や普通の杖として扱えたりする。設備がない中で作った苦肉の杖だ。

 

「人とは信じ共に歩んでこそ成り立つもの。それは隣人を愛することであったり、人が元来備えた善性に期待することでもあります。確かに否定するのは簡単で、肯定するのは難しいでしょう!」

 

 忘れてはいけないが、学園の教師は強いのだ。一人で普通の氾濫を収められるくらいに。

 音速も超えてない銃弾など、簡単に弾き飛ばせるくらいにだ。

 

「しかし!その心の迷いを打破し、否定しようとする己を説破してこそ倫理とは、人道とは歩めるもの!決して楽で簡単な道ではありません!‭─‬‭─‬だからこそ、共に歩む者が居れば違う!!共に支え合え、間違いを正せるから人は人々となり、その道が倫理として築かれるのです!」

 

「‭─‬‭─‬‭─‬……だから、どうしたあ!!!」

 

「先生として、隣人として伝えてるんです!疑心で眼を覆い、暗闇に鬼が居ると信じる限り共に歩む道は拓けないと!!今目の前にある真なる事実すらも、己の蒙昧で見えていないと!」

 

 一歩の前進、3合にて切り伏せ。銃撃の停止。

 そしてシープの持っている銃を両断し、その眼に真剣に向き合った。

 

「友人が訪れたことも向かい合えないで、どうして愛する者と向かい合えましょうや」

「………殺すなら殺しなさい」

「最後まで曇った眼であり続けますか。では、お望み通り‭─‬‭─‬」

 

「ちょっと待ってください」

 

 剣を振り上げた先生の手を掴む者が居た。

 聞き覚えのある声にバッとシープが顔を上げる。

 

「お嬢様は、私の愛すべき隣人なんです。先生、どうか剣を下ろしてくれませんか?」

 

 シープが見間違える筈がないだろう。

 その声、その姿、その表情─‬‭─‬全てが遠い昔の様に懐かしく、確かに今、存在している事実があった。

 そこからの話は……野暮だろう。

 何処に行っていただの、霧となって商国を守っていただの話、それすらも惜しいとばかりに抱き合ったのだ。とてもじゃないが、私とアニー先生がお邪魔出来る空気ではない。

 かかりつけ医としてはコレからの処方についても話したかったが…それはまた今度で良いだろう。

 ちゃんと紙にまとめて置いて来たので見ている筈だ。

 

「でも本当に良かったのですか?あそこで退散するなんて」

「良いよ、顔は見れたし見せた。ヘルにも一言労りの言葉を与えたし、十分でしょ」

「そんな物でしょうか。人道に沿うなら此処は礼儀を受け取るべきでは?綺麗過ぎても人からは外れますよ」

「いーや、ちゃんとお礼は受け取ってるよ」

 

 揺蕩う船の上でそう言って、吸血鬼の魂を手で遊ぶ。

 ヘルシングの魂ではない。彼を吸血鬼にした吸血鬼、「マリー」という吸血鬼の魂だ。

 

「次は神国…今だと魔国か…に行くからね。そろそろ元の場所に返してあげたかったし丁度いい貰いものだったよ」

「結局人助けじゃないですか…サーシャ、もっと遊んでゆっくりしても良いんですよ?船旅だって自分の部屋で研究までして…」

「小言は聞きたくなーい!勘弁してよアニー先生、学院にいた時より余裕はあるけど、設備とか考えたら今からやらないと間に合わないんだよー」

「ダメです。もっとゆとりを持ちなさい。偶に寝れずに魘されるの、バレてないと思ってるんですか?」

「あーあー聞きたくないー」

 

 ちくしょうコイツ普段ポンコツな癖にこういうのだけは目敏いな。

 こっちは普段から元気な姿を見せているというのに、普通に騙されてくれよ。

 私は悪の神だぞ?戦争で助けられなかった命を想って魘されるなんて姿は見せたくないんだ。

 決してこの旅でじわじわ実感し始めて来たとかそういう訳ではない。ないったらない。

 

「はいじゃあ魔国に行った司祭の様子を確認しよう!そろそろカーリーに花でも添えなきゃならないしね!」

「こうなった原因にやる必要は…それで心が癒されるなら見守りましょう。先生はもう、サーシャだけの先生なんですからね」

「なんか急に重たい言葉使うじゃん」

「事実ですよ?……でもそうですね〜?ずっと一緒に居ると放って置けなくなるわるーいサーシャに騙されたのかもしれません」

「おっと誤魔化そうたってそうはいかんぞ。私は悪い神だから分かるんだ」

「はいはい、かわいいですねー」

「もうー!」

 

 ちょっと最近神である事実に頼り過ぎな気もするが…そうなっても仕方ないだろう。

 だって人が余りにも少ないし、この星は随分と小さくなってしまった。

 行けども行けども戦の名残があって、そろそろ2ヶ月経つのにゴーレムは影も形も見せやしない。

 自分で設計しておいてなんだが、ステルス機能を付けたか記憶を疑い始めて来た。

 そろそろ親友の姿が恋しい。魔法研究だけじゃ寂しい。アニー先生をそろそろママと言い間違えそうで怖い。

 

 それが最近の私の日常だった。

 

「そして非日常は直ぐに終わるんだよね。此処が噂の魔国かーテンション上がるなー」

「本当に魔物ばかり…いえ、人の姿ではあるのですが…」

 

「ほいだらお前の下顎を砕いたろかあーん?」「殺す…」「なにをゆうとるんじゃあ」

「なんじゃあ目が見えないんか?」「死ねアルヨ!」「〜ルと申します」

 

「口が…悪くないですか?」

「でも言葉の割には平和だし…言葉に別の意味を込めてる感じがするなー?」

 

 具体的には猿。薔薇族は深淵で何をどう見たのだろうか。

 疑問が尽きないが、取り敢えず経典を見て宗教がどうなったか確認する事にした。

 

「どうぞ、猿全集です」

「経典の名前からして嫌な予感が…これ「鉄拳伝」じゃないか?」

 

 現代的な街並み、言葉の割に平和な社会、そして無料で借りることの出来たマンガ…間違いない。

 

「やったな?アイツら」

「わー、街並みがこの国みたいですね……流し読みしたんですけど、最初に居たこけし君は何処に行ったんですか?」

「さあね…だが猿先生の御意志は測り知れないのは事実だ」

「面白いですけど…矛盾や消えた人の行先が気になっちゃいますね〜」

 

 知ってる話なのでマンガは飛ばし、神様関係を読んでから経典を返却し…国を後にする事にした。

 こんなものを経典にして、その神として私が置かれているとか冗談ではない。

 なんで猿渡先生と同一視されなければいけないんだ理不尽でしょ。

 何より猿渡先生に不敬だし、創作者と作品を間違えるとかあってはならない。

 お灸を据えることを考えたが…何しても薔薇族が喜びそうなので何もしない事にした。

 

「とっととオルガ達の墓参りして帰るよアニー先生。捕捉されない内に逃げちゃおう」

「人間関係から逃げてばかりだと後々大変ですよ〜?」

「知らない知ってても言わない。私はこんなのに関わりたくない。アニー先生は鳥になって私を隠してて」

『え〜?わがままですね〜?良いですよー』

 

 こうなったら時間との勝負だ。怪しまれないように自然な足取りかつ顔を隠して…。

 

「すみませーん、此処に神様が居るって連絡があったのですがー」

 

 ズボッ!

『きゃ!ちょっ…ちょっとそこは!』

 

 巫女の声が聞こえたので反射的に羽毛に隠れた。

 反射だったので何処に隠れたのかは知らないが多分胸元だ。

 さてと…もっと奥に隠れなければ。

 

「…あのう、サーシャという神様を知りませんか?こんな姿なんですけど…」

『あ〜いえ〜…んうっ…ふぇっ!?…し、知りませんね〜?』

「…その胸元で動いてるのは?」

『こ…子供ですよ〜?大きくなっても甘えん坊でおほほ…!』

 

 むにゅう…なんだこの…コレは?胸かと思ったけどよく触ったら羽毛だな。

 ならいけるか。

 

『ちょっと…!?』

「大丈夫ですか?良かったら引きずり出しますが…」

『だ…だい…うぅ〜…ぶです…』

「なら良いのですが…困ったら頼って良いですからね?この国のみんなは優しい方ばかりですから」

 ズボッ!

 

 あ、反対側に突き抜けた。鳥モードだと全身が羽毛になるんだね、始めて知ったよ。

 そして姿がバッチリ見えた。なんなら眼が合った。こうなったら仕方ない‭─‬‭─‬普通に逃げよう。

 

「全速前進だ!」

「いたーーー!!!?全員確保ーー!!!」

「うおおお!」「サーシャ・ラッシュだ!」「野蛮人が続々と上陸だあ」

『サーシャー!後でお仕置きですからね〜!!?』

「ごめん本当にごめんでも今は走って、ねえお願い!」

『あーもう、この子ったらもおー!』

 

 結果から言おう。鬼ごっこには勝利した。

 しかしアニー先生の裏切りによって差し出される事になった。一番効くお仕置きはコレとの事だ。

 悲しみが溢れる…私は悲しい。アニー先生が裏切ったのが悲しい…。

 信じてたのに…悲しみが高まる…溢れる…。

 

「アニー先生ェ…恨みますよぉ…」

「幾らでも恨みなさい。人の身体を隅々弄った罰です」

「なにも…言い返せない…」

 

「神様、お久しゅうございます」

「お会いしたく一日千秋の思いでございました」

 

 そんな茶番も此処までだろう。

 巫女達が部屋に来て早々にこうして片膝ついて頭を下げて来たのだから。

 

「あー別に良いよ。私は神になったけど悪い神。そこまで改まる必要はない」

「それでもです……地上に来るまで、長い時間と多くの出来事がありました」

「蘇った者たちの力も借りて、神様の全てをリーロ様から聞き及び…私たちは、より心から尊敬しました!」

「お前ら深淵で何を学んできたの?」

 

 おかしいな。コイツらが神様と崇めるのをやめるように仕込んだ筈なんだけど。

 

「はい、その御意志は理解しました。崇められるのが負担だと、疲れると」

「ですので…はい。確かに最初こそ、対等に扱うことにしておりました」

「しかし…無理なのです。だってやった事が神話その物じゃないですか。大体サーシャ様が介入しているではありませんか」

「そうなると自然と…敬い、崇める気持ちは高まり溢れるしかないのです。人は、偉大なものを見た時、自然と膝をつく物ですから」

 

 ダメだあ…コイツら種族からして奉仕者だから…なにしてもこの形に収束するのか。

 面倒…また束縛して来たら嫌だな…そしてコイツらに配慮する必要無かったかも知れない。

 

「しかしそれでサーシャ様の自由を奪ってはなりません。それはダメだと、我々は学びました」

「ですので、我々の趣味以外ではこの国もサーシャ様を信仰するのは禁止となっております」

「その割には猿渡先生と私を同一視した経典広めてない?」

「「深淵での唯一の娯楽とサーシャ様を合わせたら最強では?」」

「んんんん〜〜〜〜……」

 

 小学生の理論だな…好きな物足して最強って…そっか、まだまだ子供かあ。

 子供なら…子供騙しでいけるかな。どうかな。

 

「サーシャ」

「アニー先生?」

「世の中には義息、義娘という言葉があります。例え血が繋がってなくとも、親と子は成り立つものです。…どうか恐れず、嫌わず、向き合ってあげましょう」

「えぇ…?……分かった、やってみる」

 

 親…親かあ…自覚は全くないし自認も正直したくない。薔薇の化け物から進化させた過程を見た分、その気持ちは強いし変わらないだろう。

 それでも私が親だと言われたのなら…そうなのだろう。

 それならやることは……アニー先生みたいに振る舞うことだろうか。

 

「先ず、その足し算はやめなさい。山と海が重なっても両立はしないように、人と人を重ねても破綻するだけ。寧ろどう分ければ忘れてしまって大惨事にすらなります」

「ごめんなさい…」

「今すぐやめます…」

「そして、悪意ある言葉を普通のものとするのはやめなさい。悪と善は別れて在るからこそ意義があり、そこを混ぜてしまえば本質を捉えられなくなります。悪の悪、悪の善ではダメなのです」

「「はい…すみませんでした」」

 

 よし、文句はこんなものでいいだろう。子供には親が叱るのがかなり効くらしいからね。

 そうして自分に都合の悪いことを禁止出来るのだから楽なものだ…が。

 

「ですが、蘇った者たちを助けた事、地上に来れる程努力したこと、良い国を作ろうとしたのは賞賛に値します。…良くやりましたね」

「「……!!ありがとうございます!」」

 

 そして褒めれば良い感じの空気で終われるのは身を持って体験した。

 自分から産まれた…子供なのか認め難い存在だが、道を外れるのは望む事ではない。

 自分で産んだ子が一番なのは変わらないだろうが、この子達も過剰に恐れずに接すれば分かってくれる。

 信じるのは難しいが……嫌悪感はどうしてもあるが……それでも、ゆっくりとなら…うーん、でもなー…どっちかと言うと制作物や食べ物だし…。

 今直ぐは難しいので、これからゆっくり…偶に会うくらいはしても良いだろう。

 親に嫌われる悲しさは知らないが、親が居なくなる寂しさは良く知っているから。

 

「じゃあ、私達はもう行こうかな。そろそろ王国に行かないと」

「もう行くのですか?もう少し…100年くらいゆっくりしても…」

「それ一生じゃん。ダメだよ、親離れは必要なんだから」

「あう〜〜……イヤです!やっぱり離れたくありません!」

「こら、ミラー!」

 

 鏡属性の方が私に抱きつき、離すまいと力を込める。

 既に体格は私を大きく超えて、私は精々コレの腹までの大きさだ。大人と子供くらいには違う。

 薔薇族の巫女が大柄なのも在るだろうが…見た目は、私が子供に見えるだろう。

 …アニー先生からの視線が厳しいので、仕方なく抱き返した。私は自分の手から作った物にあまり愛着が湧かないタイプなのだが…これも勉強だろう。

 

「ミラー、親と離れるのはそう珍しいことじゃないよ。ちょっと眼を離したら死んで別れたりする物だしね」

「余計離せません!もう部屋で一生愛でましょう!神じゃないなら子供扱いでも許される筈です!」

「サーシャ様…それは火に油を注ぐ言葉です…」

「でもねえ…戦争で大体死んだし、死は結構あっさり訪れるものなんだから…」

 

 これは本当の話だ。どれだけ強くても死ぬ時は死ぬし、殺してきた。

 不老不死を「生地」にしたり、神の血を引き継ぐ者を暗殺したり…本当に珍しい話ではない。

 

「ちょっとでも戦争に参加したなら知ってるでしょ?部屋に居ても転移からの暗殺で死ぬ。留まる事こそが最も死に繋がるんだ。そして、いつだってそれらに予兆は存在しない」

「…………」

「利口だね、事実を認められるのは良い事だ。道理を理解したなら離しなさい。…心配しなくても、私はまた会いに来る」

「……1月に一度は来てください」

「転移の送り迎えをしてくれるならね」

「約束ですよ」

「ああ約束だ。君たちが死ぬまで守ろう」

 

 拘束から解放される。良かった、無条件の愛情は気持ち悪かったから、解放されて安堵が勝る。

 なんだか慣れないのだ。無償の愛というのが。いつだってあらゆる愛に対価を渡して来た分、彼らの対応はすごく気味が悪い。

 しかしこれで対価は作られた。共に会談し、それで利益を渡せばこの気味の悪さもなくなるだろう。

 

「じゃあね。一月関係なく、気が向いたら会いに来るよ」

「はい!また来てくださいね!」

「また今度、約束ですよー!」

 

 その後、アニー先生に揶揄われつつも別れた司祭達が元気なのを確認し、カーリーに頼まれて作った都市の残骸に訪れた。これのせいで戦争に参加出来なかった元凶だが…こうして全てが終わっているのを見ると、どうにも恨み言を言う気が失せる。

 

「何も無いね」

「…直撃ですから。救いがあるとすれば、痛みを感じる間もなく死んだことです」

「そっか」

 

 死体も何もなく、カーリーの肉肉しいMMも無いと来た。

 きっと何か願いを持って攫ったのだろうが…もう聞くことは出来ない。

 出来ることは、何も収めていない墓を一つ建てて、その魂を慰める事だけである。

 

「じゃあねカーリー。もう会わないだろうけど、今度があったら相談してくれたら嬉しいな」

 

 ダルクみたいに転生先の身体を用意する気も起きない。

 彼女は完全に自業自得だったから、私からやれることは何も無かった。

 その場を後にする。…風が吹き、この巡礼で積み重なった罪の重さが結構軽くなった気がした。

 …持てる分だけ罪悪感を持っていってくれた気がするね。カーリーは力持ちだから、持っていく分もすごく多かったみたいだ。

 

「そしてゴーレムを追って幾千年ってね。12日掛けて王国山に到着っと」

「ミャージムとエンブレム領、その他王国領土が重なった山ですね…ここにダンテ先生達の死体があると思うと、なんとも言えない気持ちになります」

「すごくお世話になった分普通に悲しい」

 

 普通の付き合いだったからなんとも言えない。

 正直モモやリンゴの姉妹の方がもっと悲しいが…良く考えたらこの山に全員埋まってるのか。

 火属性なら灰に消えたのだろうけど、それ以降は骨くらいは残る。探すのは…いいや。絶対混ざってる。

 

「うーん…山頂に行ってみようか。誰も来てないだろうし、全員分を纏めた墓くらいは建てよう。もちろん、景色が良い場所ね」

「うーん…1日もあれば登れますか」

「バイクがあるからもっと早いよ。船に置いてたからね、使えるよ」

 

 そんな訳でサクッと魔物を倒しつつ山頂に向かい、朝日を拝む事が出来た。

 結構良い景色だし早速立派な墓を…という所で朝日に照らされた景色に違和感を覚える。

 

「あの形は…王城?」

「夜だから気付きませんでしたね…行ってみましょう」

「そうだね、折角なら王国のみんなを守ったらしいグリムの顔を見てみよう」

 

 立ち去る前にリンゴとモモ達含む沢山の人を纏めた墓を作り、木属性の『花畑』で花で囲っておいた。これで王国らしくなったね、ヨシ!

 

「…あれ、行かないのですか?」

「ちょっとね…私が殺した人達、私はごめんで許されようとは思ってないよ。でも私は死なないよ。もっと長く生きて、自分の幸福は掴むって決めてるんだ。…義理は果たしたから、私はもう顔を出さない。……それでもね、どうか祝福を贈らせて欲しい。その魂の流れにさ、幸福があってもいいと私は思ってるんだ。…それだけ」

「…もう良いのですか?」

「うん…言いたい事、全部言った気はしないけど…言うべきことは全部言えた気がするから」

 

 随分と支離滅裂になったが、こんなの言葉をまとめられる方が可笑しいと私は思う。

 自分が自覚なく殺した相手に、どう顔と言葉を送ればいいかなんて…知らないから。

 それでも私なりに出来ることはした。蹴りはコレでつけたと、その場を後にする。

 

「王城…見る影もないね」

「もうレンガと…意外ですね。赤いカーペットの道がありますよ」

「王の間に続く道…どうしてコレだけ…」

 

 誘われるように赤いカーペットの道を進み、壊れた扉を開く。触れた先から崩れ、粉になって風と共に立ち去った。

 その先にあったのは、不気味なほど綺麗な玉座と、その上にある王冠。

 今でも新品のままそこにあり、新たな王が座るのを待っていた。

 

 気味が悪く、思わず最高火力の魔法をぶつける。

 

「……うそ、あれで無事?」

「何で出来てるんでしょうか…ここまで来ると、もう怖いですね…」

 

 そう言ってしまうのも無理はないだろう。

 何をしても壊れない権力の象徴なんてあってはならない。

 まるでこの座こそが真の支配者のようで……プランAで此処に座る予定だったことを思い出し、背筋が凍った。

 私は…何を見落としていたんだろうか?…時間はある。調べてみよう。

 

「座るのは論外として…魔力視、観測系魔法起動、錬金干渉、神性を介在して視覚確認……」

 

 後は……そうだ。魂を滅ぼしたらしい、妖精の眼を最大限劣化して借り受ける方法で……。

 

 

 

 

 

 

 

 

    デ  

  イ デ  

  イ デ ヨ

オ イ デ ヨ

 

オウサマホシイ

 

   ミタ ?

コレ ミタナ?

ワタシ  ハ 

 

ホシノタビビト

 

 

 

 

 

 

 

「‭─‬‭─‬‭─‬ハハッ笑えない」

 

 肉眼が潰れ、どろりと腐って落ちる。空になった眼から、血の涙が溢れた。

 そうなると世界が見えなくなると思うだろうが、残念ながらそうはならなかった。

 

「‭─‬‭─‬世界が見え過ぎる」

 

 後悔先に立たず。

 

 例えば…氷山だろうか。

 海上から見えるものが全てではなく、その下に大きな氷があるという話。

 この妖精の…いや、元は人間の眼で…見た世界とは、そういうものだった。

 

 全ての意味を解明し、全ての不可思議を観測し、全ての情報を貯蓄する。

 

 正に全知。決して興味本意で、猫の手を借りる感覚で頼ってはいけなかった。

 これの持ち主は果たして、どうやって制御したのだろう。人間だったみたいだが、私の知る人類ではなさそうだ…いや、寧ろ弱い人間なのか。完全に物理現象のみの世界の人間?嘘でしょ?

 

「どうしたのですか!?」

「まぁってくれ…今、すごく脳が痛いんだ…取り敢えずそこの玉座は大丈夫…アレは座った者にしか効果がない。そして、この世界の手段ぇ…この眼以外で正体を明かしてもいけない。あれはそういう存在」

 

 理解が止まらない。2000万の思考が発狂しては圧倒的な情報で正気に戻る。

 焦るな、一番必要なのは、この眼を消す方法だ。例え思考回路や知識の類いによる影響なのだとしても、影響があるのは脳だけだ。魂で記憶する手法を併用すればなにも問題はない。ヘルシングが無意識にやっていたように。その知識に対してたかが自分の人格2000万、対価として釣り合っている。

 魂の扱い方?…知らない筈なのに知っている。知らないが知ってるに変わる。既知だけが残り、未知が減っていく。研究も解明も必要ない。必要なものは全て脳にある。

 全知はそこにある。私は私なのだから、それが違いを及ぼすことはない。底にあるものは澱んでるが、完全に解明する必要はない。見れば終わるし、知れば終わるが問題ない。

 勝利の概念が文明化した存在の、神の概念の、極点の一種への対抗手段は、コレだけではない。私は見えていなかったが、世界の綻びには無限の可能性が残っている。異端は多くなるが、世界を成長した今なら許容範囲だろう。天使を呼び、玉座を使い、時間の狭間で苦しむ存在達を消費してしまえばいい。

 世界が流転し融合したのだ、神秘という力は未だ猶予がある。それを使う方法もある。どうせ他世界が観測し、その力によって粒子の動きが固定化されているのだ。多少本来の形を取り戻しても笑い話だろう。30年もあれば完璧だから…。

 

 先ずは…私の脳を抉り取る所から始めようか。

 

 ぐしゃり

 

「……え?……え?」

 

 後は…捨てた脳を玉座にあげるとしよう。アレはもう使い物にならない。

 新しい脳は…『精肉』で復活させて、魂に移した記憶を渡すとしよう。ヘルシングが復活した儀式の再現だ。大した手間ではない。

 

「とま…!止まって下さい!」

「なに?わたしはしょうきだよ?」

「正気じゃない!絶対にです!どうして…どうして脳を抉って…オェッ…無事なんですか!?」

「へるがやったよね。そのさいげん。ぎしき、しにもどりのほせいを、ぜんぶつかって、やった…すっきりした」

「先ずは休んで下さい…!その脳もどうするか知りませんが、離してください」

「だめ。なら、なげる」

 

 単純な話だ。あの脳はやべえ眼の影響を受けた。それが玉座に座ったなら‭─‬‭─‬。

 

 ッ‭─‬‭─‬。

 

 脳に触れた玉座が崩れ去る。脳に触れた王冠もまた、崩れ去った。

 どこに居るのか分からなかった旅人も、ようやく倒せた。多分本来の旅人とは違う奴なのだろうが、コレで本当にこの世界の内憂は取り除けたと思う。私がずっと感じていた外郭の怪物への警戒も、コレで終わりだ。

 

 ザッ‭─‬‭─‬。

 

 ノイズが走り、初めからそこに無かったかのように脳が除去された。

 世界のシステムを妨害していた者が居なくなり、不要な物を取り除けるようになったからだろう。

 あの玉座はきっと旅人の偽物だったのだろうが…もう関係無いよね?

 

「……説明、出来ますか?」

「あー…出来るけど、しない。…あ、眼を治すの忘れてた…ほいっと」

 

 普通に眼が無くても見えていたから違和感無かった。ちょっと透視や千里眼的な要素が残ってるかも知れない…まあこのくらいなら大丈夫だろう。その内消える。

 

「まあ…要点だけ話すよ」

 

 要点は二つだけ。

 王様はその精神が狂う代わりにあの玉座に座って封じていた。

 グリムも、座ってその性質を示唆理解して、必死に封じていた。

 

 良くやったと思う。仮にずっと誰も座って無かったら、全人類は死んでいただろう。

 肝心の玉座の性質は、死んだ世界の欠片を運ぶ方舟。何処かの世界が作った可能性の箱。

 厄介な所は、着地した世界が存続していたら滅ぼすことだろう。

 死んだ世界の欠片を集めて運ぶのだから、集める為に世界を殺す訳だ。

 ここら辺を言ったら何故か復活し始めるので言えないが、とんでもないと思う。

 

「…つまり?」

「なんやかんやで後2日放置してたら世界滅んでたよ」

「こっわ……」

「うん。だから2000万の私を対価にしても釣り合ってたの」

「理解しましたが…脳抉りは一体…?」

「ちょっと観測で頼った先が最悪だった。あの人すごいけどあれだね、私は近寄りたく無いタイプだね」

「…だれ?」

「遠い世界の誰かさんの話」

 

 まあ結末まで見えたから『花畑』の魔法を手向けにするくらいはしよう。

 良くやったと思うよ?私はああはなりたく無いけどね。

 …鏡魔法ダメだな。知識を得るだけでもコレだから実物なんて…ミラーは早急に魔法を封じさせよう。もう頼っちゃダメだコレは。

 

「…未だに動転してる気がするけど、それでもグリムが良くやったのは理解した。そこまで関わらなかったけど、祈るくらいはしようか」

「何が何だかですが…そうですね」

 

 手を合わせ、その死を偲び、心の底から畏敬を抱き…なんか知らない葬儀のやり方になってしまったが、兎に角変な連中も倒して万々歳といた事にした。

 じゃあね王国、そんなに悪く無いと思ってたけど、その下で抱えてる物がヤバすぎて近寄りたく無くなった国。

 正直滅ぼしてよかったと思う。死んだ人には申し訳ないけど、知った物を考えるとコレでよかったわ。

 

「で、肝心のタイム領ゴーレムは?」

「さぁ…今日まで全然会いませんでしたし…領土一つ動いてるなら振動くらいありそうなものですがねぇ?」

「ちょっと待ってね。なんか今透視と千里眼的な能力得てるからコレで探してみる…あ、居た」

「最後はあっさりでしたね」

「うん。コレだけならメッチャ便利」

 

 締まらないが見つけたのだからいいだろう。肝心の相手は空の上を歩いてたので、完全に予想外だった。

 雲の日陰だと思ってたらこれタイム領ゴーレムかあ…大地が壊れる前の高度で動いてるんだろうな。見つからない訳だ。

 でも稀に痕跡があったのは…何かの補給だろうか?

 確実なことは、私が設計した時から随分と変化したことだけだ。

 

「どう行きますか?」

「滑空で…厳しいよね。エアロバイクとかは…設備が足りない。普通に照明で伝えようか」

「あー光魔法とかで文字を?」

「そうそう、夜とかにやれば行けるんじゃ無いかな」

 

 普通に空を飛ぶ魔法を使えばいけそうだが…肝心の魔力量が足りない。

 ここはマストに向こうに気付いて貰う作戦だ。リーロなら来るだろう。

 

「そんなことを考えたのが一週間前…中々気付かないなあ…」

「もしかして下を確認する人が居ないんじゃないですか?」

「そうかも…この一週間動かなかったし…よし、ちょっと照明弾打ってみよう」

 

 パシュ〜〜〜〜……。

 

「…反応はないね。どうやら遮光性と遮音性は良いみたい」

「困りましたね…いっそここで一月待ってみますか?」

「うーん…そろそろ薔薇族からのお向かえもあるし、その時の帰りに中に行くようにお願いしようか」

「ああ〜転移出来るからそれで行けますか。…初めからそれで良かったのでは?」

「王国に立ち寄りたかったし…立ち寄らないと世界滅んでたし…」

「何が役に立つか分からないものですね!」

 

 本当にそれはそう。

 そんな訳で薔薇族のお迎えをのんびり待つ事にした。

 王国の土地が重なった山でやる冬山キャンプである。

 テントどころかこの一週間の間に木の小屋も作った本格派だ。

 冬眠した獣狩り、キノコ集め、キャンプファイヤーしながらBBQもしたり、中々楽しい日々だった。

 途中で参加し始めたミーコ(転属性の兄薔薇)が楽器を作って即席で歌ったのも中々乙だった。

 

「それで、いつ送って貰えるの?」

「もう少し馬鹿騒ぎしません?」

「しない。もう待たせるのも気まずくなりそうだしね」

 

 かれこれ…結構前に新年が明けた気がするのが私だ。最近は日数を正確に数えてないので、兎に角寒いことしか分からない。…もう人格が私一人だけなので、仕方ないだろう。正確に数える担当は消えたのだから。

 それは兎も角、冬のキャンプもそこそこに魔国で歓待を受け、それから遂にタイム領に不法侵入する事に成功した。全く転移は便利なものである。

 

「良し、到着!アニー先生はどうしますか?タイム領も学校ありますし、就職なら捻じ込めますけど」

「それなのですが…」

 

 なんでもこの旅の間でアニー先生も身の振り方の考えが纏まったらしく、魔国で先生をしていくらしい。まだまだ知らないことばかりな彼らに、人類が築いた気付き(倫理観)を教えたいんだとか。

 それなら偶には会えるだろうし良いだろう。此処でお別れだと、送迎にしたミーコと一緒に別れの挨拶をした。

 

「ではまた。一月後に顔を出して下さいね」

「うん。この旅で結構アニー先生のこと、気に入ったんだ。年が離れてても、友達の所には行くよ」

「年は余計です!もう…ちゃんと、リーロ達に今までのことを話して上げて下さいね?」

「はい!…今までお世話になりました。この旅で学んだこと、絶対に忘れません」

 

 それを最後に転移で彼らは魔国に戻っていった。

 アニー先生には本当に助けられた。始めはこの人大丈夫かと思ったが、蓋を開けてみれば人間性の高いすごい良い人だった。色々、親として目指すべき姿も学ばせて貰ったし、今後の恩師として付き合い続けることになるだろう。

 

「さて…と」

 

 降り始めた雪を見上げつつ…久々に一人だが、直ぐに三人になるだろう。

 それまでに勝利文明関係の対策をコッソリやる準備を…。

 

「サーシャ?」

 

 ビクリと肩を震わせて停止し、ギギギと錆びた機械のように振り向く。

 其処に居たのは、マフラーと毛糸の手袋をして着込んだ、記憶より成長した女の子。

 

 リーロだった。

 

「…はぁーい、久しぶりリーロ。元気してた?」

 

 さーて、どうしたものかな…取り敢えず、手をひらひらとさせて笑う。

 どうにも上手く笑えない。気まずさで苦笑いになってる気がする。

 

「…会いたかった。会いたかった!」

「うわっぷ」

 

 突撃したのを抱え、ぎゅっと抱きしめる。

 重くて、冬でも暖かい感覚が伝わった。

 私より大きいのに、屈んでまで私の胸に頭を擦りつけて…本当に、長いこと会いたかったらしい。

 私もそうだったから、黙って受け入れる。

 始め、どう言葉をかけて良いか分からなかったのは内緒にしよう。

 

「…リーロ、どうした…サーシャ!」

「や、リート。元気そうですよかっとお!?」

 

 リートも突撃して来たので、遂に私はリーロとリートを抱えて倒れてしまった。

 純粋な体格差…等々は不粋だろう。長いこと留守にしていた時の言葉は、これだけで良い。

 

「…ただいま」

 

 おかえりと、二人の声が寒い空に響く。

 それを聞いて、ふと自分に残った物を見直してみた。

 

 帰りを待つ二人が居るから不遇では無くなって。

 

 自由に魔法を使えるようになったから水魔法使いでは無くなって。

 

 禁忌の怪物が消え術式が魔法の宝庫じゃなくなったから禁忌術式は無くなって。

 

 2000万人相当の人格のサーシャが無くなって。

 

 生きて私の帰りを待つ二人が居るから、死に戻りの時計は無くなった。

 

 自分を構成する要素が全部消えた気がするが…まあ、それでも良いだろう。

 

「サーシャ、あのね、私頑張ったよ!」

「頑張ったね、リーロ」

「サーシャ、どこでもたついてたのよ…心配…したんだから!」

「ごめんね、リート。でも、心配してくれるのがとっても嬉しいや」

 

 私が最も得たかったものは、もう手元にある。

 

「リーロ、リート。今日までに何があったのか教えてくれるかな。私も、話したいことがいっぱいあるんだ」

 

 






「サーシャ」
 彼女は欲した全てを手に入れました。
 家族も、子供も、友人も、尊敬出来る恩師も、親しい隣人さえもです。
 無くした物も多くありましたが、彼女は笑っています。
 だって、彼女は死ぬまで幸福でしたから。

「リーロ」
 死に続ける必要はなくなりました。
 家族も取り戻しました。
 邪悪に落ちる必要も消えました。
 もう、時計が逆回りすることはないでしょう。

「リート」
 最善を目指す必要はなくなりました。
 家族も取り戻しました。
 正義に殉ずる必要も消えました。
 もう、時計が過去を示すことはないでしょう。


「後書き」
 この話はサーシャが頑張る話です。それは世界だったり、誰かの幸せだったり、様々なことを含みます。
 真EDに今直ぐ辿り着くことは出来ませんでしたが、そのうち同じ結果を何十年後かに叶えてみせるでしょう。もう焦る必要はありませんからね。
 それではまた会う日まで。次は魔法少女と共にやって来ましょう。
 またね。

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