不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計   作:何処にでもある

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 初めての友達との会話と、初めての研究が始まります。




羊・旗・八

 

 

「それじゃあ、サーシャは自分の事を覚えてるのね」

「まーね。水属性の数少ない利点だよ」

「ふーん。私のは火だけど、そんな便利な魔力の特性なんてない無いわよ」

「特性が便利って言うより、無属性より遠い属性だからだよ。清浄にするのと、一番遠いのが合わさって、こうして高い抗魔の特性に繋がってる」

「なんだって良いじゃ無い。自分の記憶がどれだけ消えたのか、その恐怖を感じなくて良いなんてズルなまであるわ」

「そうかなぁ、そうかもねぇ…片方しか知らないと芝生が青く見えるからなぁ」

「なにそれ、どこの国の言い回し?」

「他人の物の方が魅力的に見えるって意味。どこの国かは私も知らない」

 

(ソーセージが私の知らない奴だ…こんなにパリパリしてなかったのに…落ち着いて話せば結構話しやすい子だな。顔に反して直球っていうか、正直者だ)

 

 サーシャとシープが和やかに会話しつつ、その隅っこでヘルシングがまた山盛りのご飯を食べているこの光景、恋愛ゲームの姿か?これが…って言われそうだな。

 ゲームならシープ関係の騒動起きたりもするからな。それで余計に溝を深めたりしてたし、早期になんとかなってるのは結構すごいぞサーシャ。

 でも距離感の調整が俺みたいで心配だぞ。俺はそれで人間関係失敗した事あるからな。

 

「逆に聞くけど、シープは彼のこと覚えてたんだよね。忘却を撃たれるのってどんな感じだったの?」

「…そうね。頭をとっても強く打ったみたいにぐでんぐでんになって、前も後ろも分からない中、自分が取られてるみたいな…これだけは取られたく無いって、ふわふわした中で抱えていたの」

「二日酔いみたいな感じか…」

「それで起きた時には寮に居て、ヘルのことだけは覚えてたから、居ないのが不安になって…そこにサーシャとヘルが一緒に居るのを見て、つい…カッとなっちゃったわ…あの時は悪かったわね。ごめんなさい」

 

 シープは言葉にして振り返って、改めて自分がダメな事をしたと理解したのだろう。申し訳なさそうにサーシャに謝って来た。

 口元に食べカスが付いてるせいで真面目な空気にはなりきれてないけど、根は良い子なんだよな。

 サーシャもそれには見かねたのか、指先で摘み、取って食べた。

 捨てるのが勿体無いという、辺境の村出身の思考回路である。

 

「…!?あ、な、な…!?」

「気にして無いから大丈夫。それよりも…ほら、もうちょっと小さく切り分けようね。女の子の口は小さいんだから」

「〜〜〜!?……この非常識ぃ!!」

「お嬢様!?サーシャお嬢様、お席を外させて頂きます!…シープお嬢様、そんな走られてはまた転んでしまいますよ!」

 

「…行っちゃった」

(あぁん、なんで?同性でしょ?お残しが勿体無いだけなのに…お金があると、食べ物を残す文化でも出来るのかな)

 

 今日の朝食は、赤面羊を作るだけに終わったようだった。

 

 そして今日の授業は「神学」と「属性学」の二つをした後に自習を2時間の後、お昼の休憩だ。

 副科目は午後からだな。今は自習で習った所の見直しの最中である。

 

「…あれ、案外楽?」

(昨日と比べたら…え、これだけ?あ、でもそうか。先生の数と比べたら教室も多いし、他と合同でやっても余りは出ちゃうのか…だからあんなに詰め込みなんだ)

 

 そう、最初こそ授業を教える為に怒涛の勢いだったが、この学園は教師の数に比べて生徒が膨大なのもあって、一クラスのコマ自体は自習の方が多い。

 特にAクラスは優秀な人材ということで、自力で学んでいく事を見込んで枠が少ないのだ。

 基本は他クラスとの合同で各授業の専用の教室に向かい、後は自習の間に教室で課題や自分のやりたい事をする構成なのだ。

 出席すれば教師に質問したりして、より覚えやすいのは確かだが、義務じゃ無い。

 ゲームでも上手くやれば授業に一切行かず、試験だけ受けて卒業する事もできたからな。

 メタ的には自由度はゲームを面白くするという、そういう大人の事情がある訳だが、現実だと割と世知辛い理由だ。ゲームでもモブ教師や上級生が手伝いでやったりしてるんだけどな…それでも足りないんだよ。

 

「このまま自習するか…それとも…」

(最初だし授業は問題ない…今のうちに他の子に話しかけたり、行ってみたい場所に行こうかな…?体力ある間に地下室の確認も…でも、死ねる回数は今日は後一回が精々、危ないことは避けよう)

 

 チラリとサーシャは俺を見て、黒い部分が根本しか無い姿を見て行動を決めた。

 4回死んでも真っ白にはならなかったが、真っ白から戻れるかは分かんないもんな。

 少ししかないと、全部ないは大いに違う。巻き戻す時間が短いなら、リスクは出来るだけ避けたいものだった。

 そうしてサーシャが足を運んだのは…

 

「や、ダルク。調子はどう?」

「お前は…サーシャか。正直、着いて行けてないな。俺には魔法の師匠なんてのは居なかったし、魔法陣の交点やら古代文字やら、専門用語が多くて眼が回りそうだ」

「分かる。自分達が考えていたことの、数倍すごい事を学ばされてるよね」

「何より、MMが有ればここで学んだ大半の知識は無用だ。そう考えると、やってるのがアホらしくなって来てな」

「んー…」

 

(これは…やる気がある私の方が異常かな。普通ならMMで魔法を使って、それで魔物でも倒せれば満足するだろうし。私も水魔法が弱くなかったら、今も村で過ごすだけで満足してただろうし……もしかして忘れちゃったりしてる?)

 

 このダルクの考えは、別に変では無い。

 この学園は入学式で記憶の大半を吹き飛ばすからか、入学動機も一緒に消えちゃって燃え尽きる人が居る。

 そういう人は授業は受けずに不良として適当にほっつき歩いたり、工房で職人になったり、学園内にある深淵を探窟したり、これは稀だが退学したりもする。

 この学園は入学も退学も簡単だからな。学徒の印がある間は在学生で、無くせば退学だ。

 ただ卒業せずに退学になると、記憶が戻る機会を失うから本当に稀だ。よっぽど思い出したく無い事があって入学した人くらいしか、そういうのは無い。

 

「…もしかしてさ、なんでここに来たのか思い出せない?」

「……まあな。俺からすれば、あの入学式に魔法の知識と技術を持って産まれたようなものだ。それより昔の記憶は一切ないし、自分の名前以外、ぽっかりと無くした気分だ」

 

(…結構深刻な話かも。そういえば食堂でマナー講座をしてた時も、やたらパーソナルな質問されてたし、みんな大なり小なり不安なんだ。これじゃあ、身になるものも付かないよ)

 

 サーシャは周りを見渡して、ダルクみたいにぼうっとしてる人達が散見されるのに気付いた。

 分かる。過去にこうなった方がマシな事が起きたんだけど、それを知らないと学園が悪の組織に見えて来ちゃうよな。

 

「なにより…段々、俺がそのことを気にしなくなって来てるのが…怖い。不安も恐怖も、魔法の知恵が押し流していく気がしてるんだよ」

「…だったら、過去を見るやり方を考えてみよっか」

「出来るのか?」

 

 サーシャが自分のノートを取り出して、最初のページを開いてダルクに見せた。

 それは、ダルク相手のイベントの一つ目が始まったことを意味した。

 本来なら失敗に終わり、やろうとした、挑戦しようとした事でみんなに認められる流れのイベントが。

 

「歴史の授業で言ってたよね。MMは外の景色が見えている。生き物と道具を掛け合わせて、杖にする魔法、中にいる存在は、確かに生きているって。それなら、その中に居る子と会話すれば良い。その為に必要な魔法を作り出すんだよ。杖に印は刻まれてないんだから、こっちの事も覚えてる筈だよ」

「…それ、歴史の先公は研究禁止だって言ってなかったか?」

「危険だからやめとけって言ってたけど、禁止とは言ってない。…まぁ、MMは昔の偉人が作って、歴史の中で天才達が手を加えて来たオーパーツだ。その結果、解析するだけでも、解析防止の罠が幾つも牙を向く」

「だったら無謀だろ。その会話の為だけに、命が幾つあっても足りないぞ」

「私は、MMの固有魔法として、条件さえ合えば未来を観測できる。中断できる方法さえあれば、ノーリスクだよ」

 

(一から開発はしない。基となる魔法を弄ってやるだけで良い。特に最近は認識関係の魔法の研究が熱心だ。その試みの一つとして、錬金学ではMMの共鳴反応の再現の研究もしているって先生は言っていた。その資料が見つかれば研究もた易い筈……)

 

 一つ一つの点となる情報を、頭の中で繋げていく。

 先生達は…少なくとも学園長は、忘却から逃れるのを良しとしない筈だ。やった側なんだから。

 教科書を集めた大霊書庫は、世界中の書き記された本や紙を模倣して納める。探せばあるだろう。

 研究場所は、地下室が良いだろう。必要となる箱と研究がバレないようにする秘匿性がある。

 水魔法で出来る事は他の属性にも出来る。だから、私が成功させれば誰にでも扱える。

 必要な物は…、必要な知識は…、必要な技術は…、必要な人員は…。

 

「‭─‬‭─‬シャ、サーシャ!戻って来い!」

「………どうしたの?」

「急に動かなくなってどうしたんだ。なにかあったのか?」

「いや、大丈夫。具体的に何をすれば良いか考えてただけ。ごめんね、ダルクがやりたいって思わないと始まらないのに、先走っちゃった」

「…はぁ、お前、実は結構な魔法バカなんだな。全ての記憶があるってのに、この中で誰よりもここに向いている」

 

 サーシャはむっとした顔で、聞き捨てならない言葉に反論した。

 

「取り消してよ。バカって言うのは」

「なんだ、自覚がないのか?普通、一からじゃ無いとは言え、新しい魔法を作るとか考えないだろ」

「なんだとー」

 

(むっ…普通なら無理なら諦めるって…だからこそ挑戦し甲斐があるのに。無属性の魔法を解析するよりは私達にもチャンスのある手段なんだぞぉ?)

 

 印を付けられた人は、通常ならその発想に至る前にここに適応してしまう。

 学園外でやろうとしたとしても、失敗すれば即死の罠で進まない。

 ゲームではそもそも、MMのリートに頭を下げて頼めば又聞き出来たから、完成させる必要は無かった。

 だから失敗しても問題なかったんだ。

 

 だからある意味、俺がMMになったから、サーシャは本気で取り組む事になったとも言える。

 

「…それで、やってみる?ぼうっとしてるよりはずっとマシだと思うけど」

「そうだな…いいぜ、どうせしたい事も無いんだ。お前に俺の時間を預けてみよう」

「いいね、そう来なくちゃ」

「…で、最初にどうするのかは決めてるのか?口だけなら誰でも言えるぞ」

「もう決めてる。この後の副科目は行かないで、その間にある所でこの研究の勧誘する」

「人集めか。悪く無いな、サークルも人がいなければ認められないし…本気でやるつもりなんだな」

「うん、だから先ずは‭─‬‭─‬」

 

(さーて…そうと決まれば副科目は無視!出席義務は無いんだから、その時間で情報と人を集めよう。私達は一年だ。上級生を説得出来る重みは無く、先生達は反対する立場だろうから、必要なのはこの学校を面白く思ってなくて、その上で優秀な上級生だ。そういう人が居そうな場所は‭……)

 

 事前に言っておこう。

 ゲームにおいてこのイベントで手に入った結果は、ダルクへの関心と、学園におけるサーシャの立ち位置を不遇なものにする散々な物だった。

 ダルクの攻略フラグの代わりに、現実になるとキツいものを支払う事になる。

 自習中の上級生の教室に行っての勧誘、研究場所を手に入れる為にクエストをクリアして、そうしてダルクに頑張りがすごい奴と認められる物だった。

 

「‭─‬‭─‬この学園の所有する深淵、そこに向かう」

 

 その条件は期せずして、ある攻略キャラの特徴と被っていた。

 深淵探窟をし続けて、試験の時だけ来て合格してはまた潜る男。

 忘れてしまった誰とも知れぬ相手との、約束だけを覚えて突き進むもの。

 

 この学園で最も神に近い場所で、知恵の真髄を学ぶ者だ。

 

 






「大霊書庫」
 ある深淵で神の頭とぶつかって砕けた岩石に、魂が宿りました。
 その魂は神の眼と脳を不完全ながら模倣し、知恵を集める書庫として深淵の上に成り立ちました。
 いずれ下にある深淵に知恵の真髄が、石となって落ちるようになりました。
 食べれば神の知恵を手に入れられる石は、今ではルーンと呼ばれています。

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