不遇水魔法使いの禁忌術式サーシャと死に戻りの時計   作:何処にでもある

9 / 76


 四人目と研究の勧誘です。




旗・強・九

 

 

「…ついて来て良かったの?」

「俺が言い始めたんだから、当然だ」

「なら良いんだけど…」

 

(光は火の親戚だし、間違いなく強いから頼もしいけど…もし私かダルクが一回死んだら戻ろう。死亡可能回数が0から1になるかは不安だけど、背に腹は変えられない)

 

 思い立ったが吉日と、サーシャとダルクは今、大霊書庫に居た。

 2人だけで大丈夫かと思うだろうが、深淵探窟は潜る者のレベルと想像力、その深淵の特性が混ざって難易度が変わる。

 想像力…この場合は知っている物語や知識に比例して怪物が再現され、レベルに比例して強くなり、潜る深淵によってその在り方を変える。

 ゲームではサーシャ以外は忘却している為、基本的にオードソックスな怪物が、魔法を使うだけだった。今なら…ゴブリンや狼とかだろうか。

 或いは、略奪兵を倒し切った分でオークとかも出てくるかも知れない。

 そう考えてる間に、サーシャ達は書庫の中にある階段を降っていった。

 

「じゃあ潜るけど、奥には行かない。あくまでも上辺で帰ってくる上級生を待ち構える方向ね」

「分かってる。目的を履き違えはしない」

 

(出入り口は複数あるから、ここで待ってても意味は薄い。やるなら一層に設置された転移門、そこから出てくる人を狙う!)

 

 学園にある深淵の探窟は、ハイリスクローリターンだ。

 死ねば終わりなのに、得られるのは学園で授業を受ければ学べる知識と、ちょっとしたオマケだけ。

 ゲームでは戦闘の練習や、レベル上げとして意味はあったが、現実となると大人しく授業を受けて、未知の分野は自分達で開拓するのが最も望ましい。

 これが他の深淵だったら違うんだけどな。学園にあるのはゲームでもちょっと入ったら二度と行かなかった。

 

 ヒョーー…、

 

「さっっっ…」

「…さっきまでの坑道じゃ無くて、雪山になったな」

 

 ダルクが旗を掲げ、周囲一帯の温度を適温に維持する。

 『保温』は、発動者の周囲15マスの気温関係のバットステータスを無効化する魔法だ。

 敵味方関係なく恩恵を得れるが、基本的にない方が得なのでさっさと使うべき魔法だな。

 幾ら研究してもサーシャの水魔法には出来ないぞ。

 

「ありがとう、助かる」

「問題ない。先に進もう」

 

(…今回の深淵探窟は、ずっと待つつもりで来てるわけじゃない。一年の初めての授業が終わった次の日に、上級生の試験があるからだ。きっと、最低限卒業だけはしたい人なら、今日か明日の朝には来る筈…予想だけどね)

 

 サーシャの考えは間違ってない。攻略対象の1人は、そういうルーチンで遭遇フラグが動いていた。

 だが、知ってて尚出会えるのは3割程度。結構な博打を打つ選択なのは間違いない。

 それを超えて成功出来たのなら、相当なアドになるだろう。困ってる人を見捨てられない人だからな。

 

「…あの影は…来たぞ」

 

 吹雪の奥から、2m程の巨体と、人並みの背丈の影が見える。

 少数なら生徒の誰かだと考えられもするが、それが何十人も居ると来れば、間違いなく魔物だ。

 隠れてやり過ごすには、『保温』の分かりやすい痕跡があるから無理だろう。

 

「初めての深淵の魔物…初手はお願い」

「ああ」

 

(村でも会ったことは無かったけど…今なら火力は出せる。ダルクと一緒にやれば…!)

 

「…は!」

 

 最初に繰り出されたのは、頭上から降り注ぐ光の槍。

 未だまともに視認できてない程に離れている集団に襲いかかるそれは、奇襲なのも相待って一網打尽にした。

 

 ただ一体、一際大きな存在だけを除いて。

 

「…!? 防がれた!」

「次は私が!」

 

(今の内に水球最大限生成完了!畳み掛けていく!…さむ!)

 

 『水砲射』で高さを稼ぎ、残りの水球を全て利用して突貫。

 『保温』の範囲から離れ、冷えた水の渦は鋭く相手の肌を剥がし、突き刺さる。

 

(よし、このまま…効いてない!?)

 

 巨体は、それだけで渦巻く水の勢いに耐えられる余地が生まれる。

 無理やり腕が伸ばされて、サーシャの足を掴むと、勢い良く地面に叩きつけた。

 

 パァン!

 

 速度のある叩きつけは、雪を硬く感じさせる。

 

「‭─‬カハッ!?」

(オークじゃない。肉と脂肪の多重だった。人肌に見えるけど、実態は分厚い獣の毛に近い!)

 

 挙句に受け身を取るが、完全には防げずにサーシャの肺から息が漏れた。

 目が回る衝撃、強く握られ痛む足、仲間を殺されて怒り心頭に相手が唸る。

 

「‭─‬‭─‬オ"オ"オ"」

「……人?」

(歯が溶けて歪んでるけど…いや、落ち着け。山賊や犯罪者、それらを再現したのも出て来るのは知っている!)

 

 渦巻から突破したその魔物の顔を初めて視認する。

 俺が若い時に見た格闘漫画の序盤の敵だった。…MMの知識も対象かーそっかー…それは想定してない。

 

 相手が腕を振り上げて、サーシャを殴り潰そうとする。

 サーシャも挙句に俺で突き刺すが、少し沈んだ辺りで進まなくなる。

 脂肪で絡み取られ、二重層の筋肉が防がれていた。

 

 サーシャに覆いかぶさり、上への警戒が疎かになっていた。

 

 吹雪の中に、一閃の輝きが過ぎ去った。

 

 相手の右上半身が消し飛んだ。

 

「あ"あ"あ"ーーっ!」

 

(…え、火力高くない?…あ、自由になったんだから逃げないと!)

 

 サーシャを掴んでいた腕が千切れ自由になる。

 右胸から肘までが消えた痛みでもがいてる隙に、ダルクの方へ戻るのに成功した。

 

「…『光放射』は鉄すら貫く魔法だってのにまだ生きてるのか」

「ありがとう、助かった」

「後ろに来い。火力と射程さえあれば勝てる相手だ」

「そうする」

 

(そうだよね、近距離が得意な魔物に近づいたらダメだよね…あの時は勝てたから感覚が麻痺してたけど、近づくまでもなく一方的に屠れるのが普通の魔法使いなんだ…)

 

 その後は語るまでもないだろう。距離を稼ぎながら撃ち殺し、途中呼び出された兵士達も光の槍雨で殺した。

 

「よし、何発か外したが無事に殺せた。次からは前に出ない魔法で補佐してくれ」

「…分かった」

「気にするな。俺も初戦闘で呼び止めるのが遅れたし、事前に何が出来るかもお互いに言ってなかった。次に活かそう」

「そうだね」

 

(…私の持ってる水魔法って、近づくか守るかひるませるかなんだけど…あれ、遠距離出来ない私って弱い?)

 

 サーシャとダルクは魔力に戻って消えた魔物を後にして、引き続き雪山を進む。

 サーシャは気落ちしているが、そう落ち込む必要はない。ゲームでも禁忌無しなら、サーシャは居ない方が戦闘が有利だったから。

 

 もうお分かりだろう。サーシャはゲームでこそ禁忌魔法で全ての戦闘を勝利出来る怪物なのだが、それがないと全キャラの中で最弱レベルになる。

 妨害と補助は土魔法と錬金が便利だし、移動と射程は風魔法の方が強いし、火力と汎用性は火魔法の方が強いし、回復手段は奇跡だけだ。

 そもそも禁忌以外の攻撃手段が終盤以外ないから、戦闘だとお荷物にしかならない。物理?MMで強化されても元がただの女の子レベルの強化幅なんてたかが知れてるよ。

 奇跡的に覚えた『渦巻』も、近付かないと使えないと来れば…いかに水魔法が不遇か分かるだろう。

 日常生活と研究以外では使い勝手が最悪。それが水魔法だ。

 

「俺が使えるのは『光放射』『反射』『幻覚』『光速化』『保温』『光球』だ。そっちは?」

「『水球』『水纏』『水放射』『渦巻』『魔水』…さっきの戦闘で思い知ったけど、私は役立たずかも知れない。戦闘ではそっち頼りになると思う」

 

(思い上がってた…私は戦えるって思ってた…全然そんな事無かった…恥ずかしい…穴があったら入りたい)

 

 サーシャが身を縮ませてちょぼちょぼと出来ることを言う。

 魔法について詳しいのは間違いなくサーシャでも、使える魔法と戦闘力は間違いなくダルクの方が強かった。

 自分の方が弱いのに付き合わせてる事に申し訳なく感じて、それが態度に出ているようだった。

 ダルクはそれに対してどうすれば良いか少しだけ思い悩み、それから手をサーシャの頭の上に置いてなでた。

 サーシャが小さい分、小さな子供を慰めてるようだった。

 

「…ダルク?」

 

 咄嗟にやったからだろう。ダルクも自分の行動が分かってなかったが、それは昔泣いていた妹にしたものだ。記憶を無くしても、身体はそれを覚えていたのだろう。

 

「気にするな。お前は弱いかも知れないが、その分俺が守れば良い。そして守られた分だけ、俺を振り回せば良い」

「…振り回すの?」

「お前が言わなきゃ俺はここに来ずに副科目の方に行ってた。そして、漠然としたままこの学園に馴染んでいっただろう」

「そっちの方が良かった?」

「逆だ。こうして一緒に馬鹿な事をしてるのが、最高に楽しい。それをお前に気付かされたんだ」

「全然そうは見えないけど…今馬鹿って言ったな?」

 

(この…えいえい……かっった!)

 

 周囲の警戒をやめて見上げてみたサーシャの視界には、無愛想な顔のダルクが映っていた。

 サーシャは馬鹿と言われた腹いせもかねて、その頬をこねくり回す。

 思ったよりも硬く、サーシャの手の方が痛くなった。

 

「人に見られてるとどうも表情が硬くなるんだ。これでも結構楽しくやっている」

「むぅ…結構ズルいポーカーフェイスだ」

「良いだろ、賭け事には強く出れそうな特技だぞ」

「見られてないと思って不敵に笑ったら実は見られてた、とかで逆転されそう。有り金全部だ」

「そうして俺は裸一貫でゴミ箱の中…ってそこまでボロ負けはしねーよ」

「どうだろ、今度試してみよっか?」

「良いぜ、逆に有り金全部毟り取ってやる」

「どうだろ。結構強いよ、私は」

 

(あ…なんだか心が軽くなったかも)

 

 軽口を叩き合い、今度一緒に遊ぶ用事を取り付ける。

 吹雪の中で2人きりという状況がそうさせるのか、妙な連帯感がサーシャの心を軽くしたみたいだった。

 

「…ありがと、慰めてくれて。気が楽になった」

「気にするな。もう友達なんだから、一々感謝と謝罪をしてたらキリがない」

「それでも最初は、だよ」

 

 そうこう話してる間に、転移門のある場所に着いた。

 門は3m程度の大きさで魔法陣が刻まれており、扉の隙間から青い魔力が漏れ出している。

 魔法の構築が甘い訳じゃない。魔法使いはこの青い魔力を辿って辿り着けられるから、わざとそうしているのだ。

 

「あ、もう転移門に着いたね。それじゃあ上級生が来たら私が交渉するから、ダルクは周りの警戒を「こんな所に来てまで、1年がなんの交渉をするつもりだ?」……スゥー…」

 

(爆速で出て来ちゃった…まだどう言うかも考えてる最中なのに…)

 

 門にたどり着き、役割分担をしようというところで早速お出ましとなった。

 俺もまさかここまで運が向いてるとは思ってなかったが…本当に攻略対象がやって来た。

 

「こんにちは!私はサーシャって言います。突然ですが、私達MMとお話出来る研究をしてまして、協力してくれませんか!」

「断る」

 

 長く赤い髪をボサボサにして目元を隠し、ギザギザの歯が特徴の男。

 隠れているその眼の中を見れば、学徒の印が刻まれているだろう。

 赤いローブは3年である事を示し、無機質な手に持つ赤くて肉肉しい剣のMMも相まって、実力の高さを察せられる。

 妄執と約束に囚われて尚、理性的な受け答えが出来るのが、彼が食べて来た知恵の石の数を物語っていた。

 その名前をカーリー。師匠の名前の方を覚えていたせいで、自分の名前を忘れたと勘違いしているぞ。身体の名前はオルガ・ウィリアムズだ。

 ややこしい過去を持つ攻略キャラにして、ゲームシステムでも設定でも1人だけ無双ゲーをしている人だ。

 終盤スペックは他作品含めた最強キャラランキングの動画によく取り上げられてたぞ。

 

「武器と話して何になる」

「学園に来る前から持ってたなら、自分の過去を知ってる筈ですよね。だったら中にいる魂と会話すれば、知りたい事を知れるって思いませんか?」

「…この暴れん坊がか?」

 

 カーリーがサーシャ達の後ろを薙ぎ払う。

 

 ………ズン、

 

 それだけで遠くの雪山が崩れ、射線上に居た魔物達が全て真っ二つになった。

 やったことは単純だ。薄く鋭い風の刃を何処までも伸ばしただけ。

 それは繊細かつ人外並みの魔力がなければ成り立たない、神域の魔法だった。

 

「うわすげぇ…」

「私はただ振るっただけだ。それだけでこうなるような武器が、人間の魂で作られたとは到底思わない……覚えておけ、MMは人以外でも作れる。化け物の剣に化け物を入れれば、誰でもこれが出来るんだ」

 

「……あ、まだ話は終わってないです!」

(すごい…無詠唱ってこうやるんだ…って待って待って!)

 

 カーリーがそのまま立ち去ろうとしたので、サーシャが引き留める。

 そこで足を止める辺り、善性が隠し切れてないな。

 

「…なんだ?」

「先ず確認させて貰って良いですか?さっきの魔法の操作って自分でやりましたよね」

「……剣がやった」

「魔力源は確かに剣ですけど、それ以降は自分で魔法陣を作って、それを剣に戻してから放ってますよね。魔力視した感じそういう流れでしたけど」

「…普通のやり方だろう?」

「魔力視してください…良いですか?普通のMMの使い方はこう!貴方のはこう!」

 

 サーシャが俺に使う魔法を指示して魔力を渡し、俺はMMに刻まれた魔法陣や詠唱代行文を運用して水球を作る。

 次に、俺が魔力を渡し、サーシャが脳に刻んだ魔法陣を通してから俺に魔法陣にした魔力を戻し、それを詠唱代行文を通して水球を作った。

 全てをMMが代理でやるやり方と、手間のかかるやり方だった。

 

「貴方は逆なんですよ。勿論自分の脳で計算する古来のやり方を否定はしないですけど、それは貴方自身の能力です。武器じゃない」

「…つまり?」

「化け物の魂を使ってるんじゃなくて、貴方が化け物なだけです。貴方の言う、言葉の通じない化け物の魂だからって理論に貴方は当て嵌まりません」

「……………」

 

(勧誘のコツは、相手の断る理由を潰すこと!全部消して、そこにやる理由を添えたら人は動く!)

 

 あ、普通に傷ついた。感性は案外まともだからな。化け物扱いされたら悲しく感じるんだよ。

 サーシャは気にせず、手を差し出した。実力は確かだから、逃したくないんだろう。

 

「だから、私たちの研究に協力してください。貴方の過去は必ず見つかります。卒業の答え合わせで後悔したくはないですよね。……最後の一年、此処で彷徨うよりは私達に賭けてみた方が良いと思ったなら、青寮の123号室に来てください。其処が私の部屋ですから」

 

 少しばかり、吹雪と風の音だけが良く聞こえた。

 

「…………」

 

 カーリーは、その手を取らずにその場を立ち去った。

 

「…行っちゃったか」

「気にしても仕方ない。後もう少し粘ってみよう」

 

 それから夜まで粘ったが、誰も来なかった為にその日は解散となった。

 

「あーあ…収穫なしかぁ…ん?」

(試験前の今日が無理なら、先に資料を集めようかな…研究が数日で終わるなんて思ってないし、自分達の実力を上げながらやるのも有りだよね……部屋が明るい)

 

 がっくりと肩を落としつつ、サーシャが自室の前に立つと、自分の部屋が明るいことに気が付いた。

 鍵は閉めた筈だし、誰かを招いた覚えは…一つだけある。

 

「まさかね…?」

 

「おい、入らないのか?」

 

(あ、コイツ乙女の部屋に無断で侵入したマジ怒る)

 

 がちゃりと、開けるまでもなく向こうから開けて来た。

 地下室に先に入って罠を解除したりとか、研究資料として役立ちそうなのを集めてから来た事ことか、ありがたい事をしてくれたのは確かだが…その後何が起きたのかは、サーシャの荒れ狂う内心を思って秘匿しよう。

 服の数が足りないと下着と服も用意された話なんて、話してもサーシャが恥ずかしがるだけだろうかな。

 

 






「ムーン神国」
 人々がまだ魔物と同じだった時代、ある魔物が深淵で神と出会いました。
 魔物と神は激闘の末に、魔物は神に血を一滴流させ、その身に取り入れました。
 その魔物は人の先祖としてその身を神の子とし、その奇跡の一端を手に入れました。
 我々が奇跡を扱えるのは、この一滴の神の血のお陰です。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。