【完結】リリー・ポッターの存在否定   作:夜風ミシェル

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学生編
01.リリーの覚醒


 

 

「ほらほら、スニベルス!」

 

 ポッターが笑いながら杖を振るう。何とか防御を展開したセブルスは、しかし、ブラックの魔法まで捌くことはできず吹っ飛ばされた。

 それを偶々発見したリリーは、いつも通りに駆け寄って止めに入った。

 

「やめなさい!」

「やあ、リリー。君も見なよ」

 

 言うや否やポッターは魔法を放ち、セブルスを逆さ吊りにしてしまった。

 セブルスの細い足とパンツが露わになる。

 リリーはそれを直視してしまった。

 

「あっ⋯⋯」

 

 幼馴染のはしたない姿。それは、思春期真っ最中の女の子にとっては刺激の強いもので──。

 脳の何処かで、閃くものがあった。

 

 

 ぱちぱちぱちっ。

 

 

 視界が点滅する。

 知らないはずの思い出が、脳内に溢れ出す──。

 

 

 

 そしてリリーは、前世の記憶を取り戻した。

 

 

 『私』が目覚める。

 

 

「いや、スネイプ先生の下着を見て前世を思い出すって何!?」

 

 

 

*****

 

 私はあの日、確かに死んだはずだ。

 コンビニ強盗に腹部を刺されて。

 それなのに、気づいたら『ハリー・ポッター』の世界、それも親世代で、まさかのリリーになっていた。何を言っているのか、自分でも分からん。確かなのは、スネイプ先生(幼)のパンツを見た衝撃が凄かったということだ。⋯⋯いや本当にどういうこと?

 うおおおお、と呻いていたら、肩をトントンと叩かれた。

 

「え、リリー?どうしたの」

 

 ハリーがいた。

 いや違うわ、これは父親の方だ。

 

「ジェームズ⋯⋯」

 

 名前を呼んだら、ジェームズは飛び上がった。比喩ではない。文字通り。

 

「リ、リリーが僕の名前を⋯⋯!?」

「こりゃ、明日は雨だな」

 

 ジェームズの横にいたイケメンが揶揄った。えーと、これがシリウスか!映画で見た顔だ。

 

「えーと、いつもじゃない?⋯⋯シリウス」

 

 話しかけたら、シリウスは飛び上がった。比喩ではない。文字通り。⋯⋯何これ、デジャヴ?

 何でこの人たち、私が喋っただけで驚くんだ?少し考えて、私はぽん、と手を叩いた。

 あれだ、リリーは悪戯仕掛人のことをファミリーネームで呼んでいたのかな、この時は。やべ、ついポッタリアンとして呼んでしまった。でももう今更か。

 

「これからはそう呼ぶから、よ、よろしくね?」

 

 話し方これで合ってる?

 とりあえずニコッと笑うと、ジェームズは首が取れそうな勢いで頷いた。うーん、リリーにぞっこんで草。

 面白いなぁ、などと思っていたら、後ろでドサッという音がした。

 宙吊りにされていたスネイプ先生(幼)が落ちた音だ。魔法が切れたのだろう。

 私の意思より先にリリーの体が動いて、体を起こすのを手伝った。てぇてぇですわね。

 だが、口から飛び出したのは全くリリーらしい言葉ではなかった。

 

「大丈夫ですか、スネイプ先生!」

「⋯⋯⋯⋯?」

 

 スネイプ先生(幼)は不思議そうな顔をした。いや違った、これはセブルスだ。ぐぎぎぎぎと歯を食いしばりながら、私は「⋯⋯大丈夫?セブルス」と言い直す。多分今、リリーがやっちゃいけない顔をしている。そんな自信がある。

 というか、今って原作で言うとどこ?もうリリーとスネイプ先生は仲違いしちゃってるのか?

 何て聞くべきか分からず、もう適当でいいや、となった。私は元来面倒くさがり屋なのだ。お金とノリと勢いで生きてきた。

 

「あの、スネ⋯⋯セブルス。私たちの関係って何?」

「「は?」」

 

 ジェームズとスネイプ先生の声が揃った。いやごめんなさい、聞き方が悪かった。これってあれでしょ、『友達以上恋人未満の二人が、関係性に悩んでうだうだする話』で出てくる台詞ですよね。

 勘違いさせたらしく、スネイプ先生の頬がほんのり赤くなった。そして凛々しい顔つきになると、急に私の手を取った。

 

「リ、リリー!僕は、」

「キィィィェェェァォァァァェェェァァァァ!!!」

 

 私は奇声を上げた。すまない、スネイプ先生。その言葉は、今のリリー(わたし)に言うべきではないと思う。

 先程から痴態しか見せてないことに気づく。

 これは、一人で考える時間が必要だ。

 若干引いている同級生を尻目に、私はその場から逃げ出した。

 

 

 

*****

 

 夢にまで見たホグワーツを彷徨い歩くと、段々と冷静さを取り戻した。それと、『リリー・エバンズ』としての記憶が、ふにゃりふにゃりと『私』の中に取り込まれていくのを感じた。多分、リリーの体に『私』が定着したのだろう。不思議な感覚だった。

 

「信じられない⋯⋯まさか私が、リリーに転生するなんて⋯⋯いや憑依?ていうか、リリーの人格は消えたのか?もしそうなら、それって不味いのでは?」

 

 ブツブツ呟いていたら、周りからの視線が刺さった。聞こえるような大きさでは言っていないけど、はたから見れば変人だ。リリーの評判が悪くなってしまう。

 私は個室トイレに入った。持っていた鞄を何となく探ると、勉強用のノートや羽ペンなどが入っていた。

 私は右こめかみをトントン、と叩いた。

 リリーの記憶を見るに、どうやら今日は5年生のO.W.L試験があったらしい。あれ、この日って⋯⋯。

 

「スネイプ先生がリリーに、『穢れた血』って言った日⋯⋯」

 

 私は唇を摩った。

 本来なら今日、リリーとスネイプ先生は仲違いをして、取り返しのつかない事態になって⋯⋯。それが、『私』の覚醒で防げた⋯⋯?

 ⋯⋯⋯⋯。

 

「うん、よくやったぜ私!」

 

 私はガッツポーズを作った。

 スネイプ先生の下着を見て覚醒したとかいう変態みたいになってしまったが、このあとの鬱展開に比べたらマシ!ええ、間違いなく!

 うん⋯⋯。

 

「パンツ覚醒系ヒロインかぁ⋯⋯」

 

 なんというか、響きがよろしくない。

 その後、完璧にリリーを理解できた頃には、夕食の時間が迫っていた。

 ご飯を食べるのって大広間よね⋯⋯。うーん、ポッタリアンの血が騒ぐぜ!

 大広間に向かいながらポケットに手を突っ込むと、細い棒状のものに触れた。

 取り出してみると、リリーの杖だった。

 今の私は魔法使い。つまり、CGみたいなことができるわけで⋯⋯。

 私は杖をぎゅっと握りしめた。それから恐る恐る唱えてみる。

 

「アグアメンティ」

 

 するっと杖先から水が飛び出た。

 その時の感動を、私は一生忘れない。

 かつて魅了された世界に、私はいた。

 どうしようもない程の歓喜に溺れそうで、堪えきれなかった涙が、床に落ちた。

 

 

 

 

「おほっ、ふへへへへへへ⋯⋯」

 

 だが笑い方はきしょかった。自分でも引くくらいやべー声。

 ダメだ、こんなのはリリーに相応しくない。

 私は何とか澄まし顔を作った。

 よし、いける。

 完璧に成り代われる。

 

 

 私はリリー・エバンズ。

 マグル生まれの魔法使い。

 これから頑張りますっ☆

 

 

「⋯⋯と思ったけど、リリーって死ぬわね」

 

 オチが早い。

 さよなら、二度目の世界。

 私の人生は儚いものでした⋯⋯。

 

「あっ、見つけたよ!愛しのリリー〜〜!!」

 

 黄昏ていたら、凄まじい大声が聞こえてきた。

 見なくても分かる。はいはい、ジェームズですね。

 

「探したよ。何でこんな所に一人でいるんだい?」

「⋯⋯」

 

 私はじぃっ、とジェームズを見つめた。

 デレデレし始めるジェームズは無視した。

 リリーはこの人と結婚して、ハリーを産んだから死んだとも言える。まぁ、元々不死鳥の騎士団に所属していたし、遅かれ早かれ死んでいた可能性はあるけど⋯⋯。

 

 

 原作通り死んであげる?

 そんなのあり得ないでしょう。

 

 私は魔法使いを楽しみたい。

 若くして死ぬとか、まっぴらごめんよ。

 

「ねぇ、ジェームズ⋯⋯」

「ん?何かな」

 

 ごめんね、ジェームズ。

 それと、本物のリリー。

 二人は既に両思いだけど、それは私が破壊する。

 

「そういうノリ、本当に迷惑なの。やめてくれる?」

 

 我ながら、冷たい言い方だと思う。いやでもどうしよう、何だか申し訳ない気持ちに襲われ始めたんだが。

 ジェームズは後退りした。傷つくわよね、そりゃ。

 あー、うー。

 一応前世は大学生で、ジェームズは年下。自分より小さい子に酷いことをするのは⋯⋯。

 

「クールなリリーも最高だよ!」

「⋯⋯んん?」

 

 思っていた反応と違う。何故かジェームズはにこにこしていた。

 聞いてもいないのに、ペラペラ語り出すジェームズ。

 

「怒る君も可愛いけど、今みたいに冷淡さを装って突き放す君もいい!っはぁ、ゾクゾクしちゃうなぁっ!僕と付き合おう!」

「え、気持ち悪っ⋯⋯」

 

 素の感想が漏れ出た。え、ハリーのパパってこんなだったの?

 リリーの記憶と照合する。⋯⋯なるほど、確かにキモかった。私よりもっと変態チックだった。

 身の危険を感じて、今度は私が後退りした。そのまま全力ダッシュ!

 

「あ待ってリリー!!」

「無理無理無理」

 

 あんなのとよく結婚したな、リリィィィィェェー!

 角を曲がると、スリザリン集団と出くわした。

 

「マグル生まれが。穢らわしい」

「変態よりはマシでしょ!!」

「!?」

 

 中心にいた人に蔑まれたが、それどころではなかった。

 誰かいないのか、ジェームズのストッパーは!!

 いるわ、リーマス!

 私は大広間に飛び込んだ。一瞬でリーマスとピーターを見つけて、二人の間に割って入るように座った。これで、隣にジェームズは来れない。

 

「どうしたの。いつも冷静に対処してるのに」

「今日は、そうね。仕方ないのよ⋯⋯」

 

 確かに、リリーはいつも落ち着いている。ジェームズの攻めに慣れているからだ。だが私は初見。捌くのは無理でした。

 

「なんかリリー変だよな。あれか、スニベルスのパンツを見たから動揺してんだな」

 

 正面にいるシリウスが揶揄ってきた。あながち間違ってないのがウケる。

 追いついたジェームズは、ピーターの席を奪おうとした。躊躇いのない動き。最早洗練されてて自然だった。いつもやってるんだな、この動作⋯⋯。

 

「ま、待って!僕落ちる⋯⋯」

「もー、何やってんの?」

 

 女の子の声がした。

 肩までの金髪に、くりくりした目。

 彼女はエマ・アリエット。

 原作に名前は出ないが、リリーの友人だ。同性の中で一番親しいのが彼女である。

 彼女も慣れた手つきでジェームズを転がすと、私に向かって笑いかけた。

 

「ほらリリー。ジェームズたちは放って早く食べよう?」

「ええ、そうね⋯⋯」

 

 何だか感慨深かった。

 原作という限られた世界でも、原作が全ての世界ではない。こうして、知らないキャラがいるわけだし⋯⋯。そう思うと、気持ちが昂ってきた。

 私はチーズリゾットを皿に取った。

 リリー生存のためには、何をするべきか?

 ハリーを産まなきゃいいとか、そんな簡単な話ではないだろう。今のイギリスは、ヴォルデモートという脅威に晒されている。マグル生まれのリリーが狙われない訳がない。となると、打倒☆ヴォルデモートという目標ができる、が。

 リリーは生存しつつ、平和な世界を目指すっていうのはかなり難しい。原作では、リリーの愛による魔法がハリーを助けていたし。

 うーん⋯⋯。

 

「何か考え事かな?この僕に相談してよ」

「黙って」

 

 ジェームズ、ウザい男は嫌われるぞ。つい心の中で突っ込んだが、リリーはジェームズに惹かれるところもあったのだっけ。趣味悪くないか?

 ちなみに私の友人(前世の方)は、セブリリ派だった。

 まぁね、映画を観るとセブリリも良いなって思うけど⋯⋯。普通にセブルス、リリー以外のマグル生まれは見下しているからね?元のリリーも、その点でセブルスに不信感を持っていたし。それで決裂してしまったと。

 いや、でも今日、決裂を未然に防いだ。だったらセブリリもアリか?有るのか、セブリリ?

 

「⋯⋯いやいや、これじゃただのカプ厨だ」

「え?」

 

 きょとん、とするエマ。私は、「何でもない」と言って首を横に振った。

 

 

 これが私の二度目の生の始まり。

 とりあえずは、カップリングでも考えて寝るか()。

 

 

 




 前世ポッタリアン、今世リリーは魔法使いを謳歌したい。

 ということで、『前世の記憶を取り戻したら自分がリリーさんだった』話が始まります。キャラ崩壊待ったなし。宜しくお願いします。
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