【完結】リリー・ポッターの存在否定   作:夜風ミシェル

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今週と来週は週二投稿の予定です。


14.ネズミ男

 

 突然だが、ここでアズカバンの内部構造について語っておこう。

 アズカバンは空に届きそうなほど高い建物だ。上層階にいくほど罪が重く、下層部は下っ端レベルといった感じに分かれている。

 今のところ、アズカバンの上層部はガラガラだ。まぁ、ベラトリックスやらルシウスやらを捕まえるのは難しいからね。もっとも、前者は単純に強くて逮捕できないのに対し、後者は魔法省に顔が効くので、現行犯でない限り手出しできないというのが正確だが。

 そういうわけで、死喰い人の下っ端どもは皆、下層階の部屋にすし詰め状態である。下層部の部屋は個室ではないため、強制的にシェアルームなのだ。こんな汚ねぇところで盛る馬鹿がいて、それがきっかけで男女で分けてはある。人間の本能って恐ろしい。

 

 そんなことはさておき。

 いくら仲間とはいえ、狭い場所で寝食を共にすることを強いられていたら、当然イライラも募る。だが、死喰い人の皆さんは大人なので、目立った衝突はない。

 それじゃあつまらないよね?

 

 ということで。

 

「部屋のグレードアップを賭けた、『雑魚死喰い人バトルロワイヤル』の開始ぃぃぃぃぃ!!いえーい、どんどんぱふぱふどんどんぱふぱふ」

 

 説明しよう!

 先ほども述べた通り、アズカバンの上層階はスカスカ。下層階はミチミチ。

 「せっかくなら空いている部屋を活かそうぜ!」ということでバトロワを開催するよ!

 勝者はただ一人、ご褒美は上層階の個室。

 攻撃手段は殴り合い。

 ディメンターがうろちょろする中で、一体誰が勝つのか!?

 視聴者の方も、リモコンのDボタンでぜひ予想してみてくださいね!

 

「ふふふふふ⋯⋯!」

 

 本日の見回りを終えて刑務官専用部屋に戻ると、私はいそいそと双眼鏡を覗き込んだ。これはただの双眼鏡ではなく、当然魔法道具の一種である。100メートル先の景色までを透視できる優れものだ。

 

「おお⋯⋯やってるわね」

 

 外聞をかなぐり捨てて、欲望のためだけに仲間をボコボコにする様子は見ていて面白かった。これが、ヴォルデモートの元で築かれた死喰い人の絆(笑)か。尊いね。

 もちろん、この醜い戦いを止めようとする人もいる。

 

『おい、俺たちは仲間だろ!?こんなとこで争いなんて──ごふっ!あちょ、ヤメテ⋯⋯ヤメテ⋯⋯』

「誰も話聞いてなくて草」

 

 揉まれて部屋の隅に追い込まれた死喰い人に合掌。

 

「何やってんだ、後輩」

 

 お手洗いから戻ってきたギボンが、私の肩を叩いた。無言で双眼鏡を貸してやると、ギボンは綺麗な二度見をかました。

 

「いや⋯⋯何やってんだ(二回目)?」

「バトロワですよ。やはり人間に共同生活は無理なんですねー」

 

 ジト目のギボン。私は下手くそな口笛を吹いた。

 

「⋯⋯君が何か言ったんだな」

「え?いやぁー。別の刑務官じゃないっすかー?」

「『例のあの人』の写真で遊んでる君以外に、こんなことする人がいてたまるか!」

 

 尚、大量の写真のコピーはこの部屋の角に積まれている。

 しれっとスナック菓子の袋を開けると、ギボンは信じられない、とでも言いたそうな表情になった。こりゃたまりませんわぁ、おいしすぎる。

 もっそもっそ口に放り込みつつ、私は言った。

 

「まぁ、死喰い人なんてどうなってもいいでしょう」

「どうすんだよ、これで死者が出たら」

「大量死したら魔法省も不審に思うでしょうから、そこはうまく調整しますよ」

 

 バレなきゃ犯罪じゃない!

 とはいえ、私が唆したバトロワで囚人が死んだとなれば非難の嵐だろう。仕方ない、全員生かしてやるか⋯⋯。あとでエピスキーをかけてあげよう。

 今度は大容量のクッキーの箱を開けた。

 

「初めて食べた商品ですけど、おいしいですね。ギボンさんも食べます?」

「いらねぇよ」

 

 ギボンは荒々しく椅子に座った。

 双眼鏡を覗くと、立っているのは五人だった。手元の資料をめくる。

 

「部屋番号C102の囚人は⋯⋯ああ、なるほど。⋯⋯ん?ゴイル家の人がいるわね」

 

 ゴイルといえば、ドラコの取り巻きの一人が思い浮かぶ。ただ、年齢的に父親ではなさそうだ。ただの親族か。

 親戚のゴイルさんは、静かに立っていた。その姿山の如し。もののふかな?

 

「それにしても楽しいですね。魔法界の貴族サマがみっともなく争うなんて。それもマグル式の拳で!」

 

 さぞ屈辱的だろう。私はゲラゲラ笑った。

 ドン引きするギボン。

 

「君怖いよ⋯⋯。最早どっちが悪魔の手先なんだか分からんな」

「死喰い人に決まってるでしょう」

「ゲス、ここに極まれり」

 

 てへぺろしたところで、ポートキーでモリソンが飛んできた。

 

「今日もお疲れ様。交代の時間だよ⋯⋯って、ギボン?どうしてエバンズから離れていくんだ?」

「こいつやばいですよ。悪魔です」

 

 この短期間に、悪魔の手先から悪魔にランクアップしてて草。

 ギボンからバトロワの話を聞いたモリソンは、一言。

 

「⋯⋯ほどほどにね」

「モリソンさぁぁぁぁん!?そんな、真面目だと思ってたのに⋯⋯!」

「ありがとうございます!」

 

 やった、これでバトロワは上司公認になった。

 人のいいモリソンだが、やはり死喰い人には恨みがあるので目を瞑ってくれるようだ。

 任せてください、あなたの分までやりますから。

 

 

 

*****

 

 私はある一軒家の前に佇んでいた。

 

「よっしゃ、行くわよ」

 

 呼び鈴を鳴らして、数秒後。

 玄関の扉が開かれた。

 

「⋯⋯リリー?」

 

 そう呟いて瞬きを繰り返すのは、ピーターである。

 持ってきたケーキの箱をぶらぶらさせて、私は軽く挨拶した。

 

「いきなりで悪いわね。ちょっとお話ししましょうか」

「え⋯⋯」

 

 ビビるピーター。

 「早く食べないとケーキが悲惨なことになるわよ」とケーキを理由に、家に上がらせてもらった。

 

 

 

 

 本日ピーター宅に突撃したのは他でもない、不死鳥の騎士団の話をするためだ。多忙なダンブルドアの代わりに、私が馳せ参じた。

 ピーターが紅茶を淹れてくれた。

 礼を述べてから、本題に取り掛かる。

 

「実はね、闇の陣営に対抗するべく、ダンブルドアがチームを作ったの。まぁ、光の陣営ってとこね」

「ああ、そうなんだ⋯⋯」

「そう。それでピーターにも話を持ちかけにきたってわけ」

 

 お茶を飲むピーターの手が止まった。

 

「⋯⋯ぼ、僕にも入れってこと?」

「入れ、とかじゃないわよ。そんな命令しないわ」

 

 私はピーターを安心させるべく、あらかじめ考えておいたセリフを伝えた。

 

「今のところ、人数はそう少なくないわ。だから無理にでも入ってほしいとは思ってないけど」

「もちろんリリーはメンバーなんだよね?」

「ええ」

「⋯⋯ジェームズたちは?」

 

 私はにっこり笑うと、「ケーキおいしいんだから、早く食べてみて」と話を逸らした。

 少しづつ食べ進めるピーターを眺めながら、やっぱりか⋯⋯と思った。

 どうにもピーターは、ジェームズたちの様子を伺う癖がある。ホグワーツでできた唯一の友達だから気にしちゃうのだろうけど、悪癖なんだよなぁ⋯⋯。

 ケーキを平らげると、ピーターは再び問うてきた。

 

「ジェームズやシリウス、リーマスは所属してるの?」

「それを聞いてどうするの?」

 

 質問に質問を返され、ピーターは少しだけ怯えを見せる。

 私はフォークを置いた。

 

「前から思っていたんだけど⋯⋯ピーターは自分に自信が持てないの?」

「⋯⋯⋯⋯」

 

 たっぷりの沈黙ののち、ピーターは小さく頷いた。

 

「僕は⋯⋯底辺にいる人間だ。ジェームズは勇敢で⋯⋯シリウスは家に反抗できるほど強くて。リーマスはそんな二人に認められるくらいに才能があって、とても優しい。僕を⋯⋯ジェームズたちの輪に入れてくれたのもリーマスなんだ」

 

 マローダーズの過去はもちろん知っているが、私は口を挟まなかった。ただ頷くだけにとどめる。

 

「みんな、グリフィンドールにふさわしい人で⋯⋯僕だけが、違くて」

 

 ピーターは胸のあたりを押さえた。

 

「ずうっと苦しかった。筆記も実技もみんな優れていたのに、僕は赤点ギリギリ。ちゃんと勉強してたのに、どうしようもない差があった」

「友達だから、つい比べてしまう。⋯⋯でも、ピーターは彼らと離れようとは思わなかったんでしょ?」

 

 普通、劣等感を抱かせるような人と一緒にいたいとは思わない。だが、ピーターは七年間彼らの友人であり続けた。そこには、複雑な思いがあったのだと思う。

 

「劣等感を持ちつつ、羨望の念も抱いていた」

「⋯⋯うん、そうだよ」

 

 ピーターは泣きそうだった。

 自分には眩しすぎると思いながら、それでも光に焦がれてしまうピーターは、多分一番人間くさい。

 「今も、分からないんだ」とピーターは言った。

 

「どうして組分け帽子は、僕をグリフィンドールに入れたのかなぁ⋯⋯。こんな愚図、ハッフルパフにしか入れないと思ってたのに」

「愚図ではないでしょ。少なくとも、動物もどきになれるだけの才能はあった」

「でも⋯⋯鼠だよ?暗くて汚いところの地面を這う⋯⋯ネガティブなイメージしかない」

「某夢の国のマスコットキャラクターは鼠だけどね」

 

 鼠をディスると、あの「ハハッ!」という特有の笑い声とともに襲われるぞ!

 だが、当然ピーターはネズミィーランドを知らないのであんまりぱっとしなかった。

 私は机に肘を乗せると、にこっと笑いかけた。

 

「いいじゃない、鼠も。かわいいし」

「⋯⋯それが何の役に立つって言うの?」

「癒し枠⋯⋯かなぁ」

 

 そんなふうに茶化してから、真面目な顔を作った。

 

「グリフィンドールの勇敢さって、いろいろあると思うの。悪に立ち向かうのもそうだけど、周りに流されずに自分の答えを見つけるっていうのも勇気がいるじゃない?」

 

 私は、すっかり冷えた紅茶を飲んだ。

 そして、微笑む。

 

「光の陣営の任務は、ほぼ闇祓いと同じよ。とても危険で、死喰い人から恨みを買う可能性も高い」

「うん⋯⋯」

「ジェームズたちは勧誘を受けて、それを承諾したわ」

「だろうね」

 

 ピーターは驚かなかった。まぁ、彼らの性格を知っていれば予想は容易い。

 

「もしピーターが協力したいと言うのなら、それは恐怖を乗り越えた勇気に違いない。でも、ここで誘いを断っても⋯⋯それは友人とは違う道を選べたわけだから、別ベクトルの勇敢さだと思うわ」

 

 自分の意見が言えなくて、人に流されてしまうピーター。

 彼の勇敢さへの第一歩はここから始まる。

 

「⋯⋯それが、死喰い人と戦うのが怖いっていう理由でも?」

 

 ピーターは遠慮がちに私を見つめていた。

 安心させるように、大きく頷く。

 

「ええ。むしろ、自分の心に正直になれたんだから誇るべきよ。世の中には、人目を気にしてやりたくもないことをさせられる人が大勢いるの」

「⋯⋯ジェームズたちは、なんて言うかな」

「そんなの気にしちゃだめよ。自分の思いを貫くことが強さでしょう」

 

 はっきり言って、今までの私の説得には大きな穴がある。

 もしピーターが原作通り死喰い人になっても、その行動はある意味勇敢だと言えなくもないからだ。

 私はピーターが気付かないのを良いことに、名言風な言葉を吐いて丸め込んでいる。

 己の狡さを自覚している。

 

「ちなみに、私も自分の心に正直に生きようって思ってね!アズカバンでバトロワを開催したの」

「⋯⋯⋯⋯え?」

「死喰い人ってこの世のカスだし、殴り合ってるのを見るのが本当にスッキリするわよ」

「ちょっと待って??今すんごくいい雰囲気だったのに、その言葉で台無しな気が⋯⋯」

「結論。私を見習いなさいってことよ」

「無理だよ?」

「あ、ていうか!あなたさっきハッフルパフをディスったでしょ?『愚図な自分はハッフルパフ』とか。君は全世界のハッフルパフファンを敵に回した。謝罪を要求します」

「ごごごごごめんなさいぃぃぃ⋯⋯!」

 

 

 

*****

 

「ふ〜⋯⋯。今日も仕事乗り切った」

 

 男は自宅のリビングで、だらしなくソファに座り込んだ。今日は母親も父親もいない。常に上品であることを要求する彼らが、少し面倒くさいと思うこともある。

 ワインでもこっそり開けようかなと思い、屋敷しもべ妖精を呼び付ける。

 すると、やって来たのは知らない屋敷しもべ妖精だった。

 

「⋯⋯君は誰だ?」

 

 男は杖を構えた。

 屋敷しもべ妖精は、キーキーと叫んだ。

 

「私めはドビーでございます。ご主人様に、あなたさまをお呼びするよう命じられました」

「待て、ドビー?⋯⋯ルシウス・マルフォイか!?」

 

 ドビーの主人が誰なのか理解した男は驚愕した。

 ルシウス・マルフォイ。

 死喰い人の一員ではないかと囁かれる、やんごとなき家柄の人間だ。

 ──おいおい、マジかよ。勘弁してくれ。

 嫌々ながら、男は身だしなみを整えた。

 それを見届けて、ドビーはぱちん、と指を鳴らした。

 ──姿くらまし。

 

 

 

 

 

 飛んだ先は、マルフォイ邸だった。

 

「やぁ、久しぶりだね。君と会うのはいつぶりだったかな」

「お久しぶりです⋯⋯。一年前のパーティー以来でしょうか」

 

 礼儀正しくお辞儀をした男に、ルシウスは柔らかく微笑む。だが、穏やかな態度とは裏腹に、腹の中は真っ黒だということは知っている。男は警戒を強めた。

 

「⋯⋯それで、どういったご用件でしょうか」

「まぁなんだ、君の優秀さを見込んで頼みたいことがあるんだ」

 

 嫌な予感しかしなかった。

 頼むから合法であってくれ──という祈りも虚しく、ルシウスは普通に犯罪を持ちかけてきた。

 

「×××××を掌握する──!?」

 

 ああ、とルシウスは冷静に相槌を打った。

 

「それには、君の協力が不可欠だ」

「つまり、スパイ(ネズミ)になれと?」

「その通り。君は闇祓いにマークもされていない。絶好のポジションにいるのだよ」

「だからって⋯⋯!」

「求める返事はYES、だけだ。──これはね、あの方のためなんだ」

 

 ルシウスは、最早隠そうともしなかった。

 左腕に刻まれた死喰い人の証を見せつけられ、男は息を呑んだ。

 

「どうして⋯⋯わざわざ死喰い人の証拠を見せたのですか⋯⋯?」

「君を信頼しているからだ」

 

 ──勝手に信じて見せてくんなよおおぉぉ!!

 男は泣きたかった。

 ルシウスは笑顔だった。

 

「あのお方が目指す世界は、君にとっても悪い話ではない。そうだろう?」

「それは、そうですが」

「この件がうまくいけば、我々の勢いはさらに増す」

「は、はぁ⋯⋯?」

 

 うるせぇよ

 勝手にしてろ

 死喰い人

 

 男は辞世の句を詠んだ。まだ犯罪者にはなりたくなかった。

 

「君だって、穢れた血に思うことがないとは言わせないよ」

 

 そう言われて、男は言葉につまった。

 純血主義の過激派ではないが、男もそれなりに、血筋にはプライドを持っている。マルフォイ家やブラック家の人間には頭が上がらないし、純血は尊ぶべきものだと思っている。

 男は、とある光景を思い出した。

 ──少なくとも、ああいう行為は受け入れがたいよなぁ。

 少し揺れ動いた男の心に、目ざといルシウスは畳みかける。

 

「何も、死喰い人になってくれとまでは言っていないんだ。ただ情報を流したり、外部との手引きに力を貸してくれるだけで良いのだよ」

 

 尚、それを人は犯罪と言う。

 クソだるい。

 だが、男に断る権利などなかった。

 どうせ拒否しても殺されるだけだ。だったら従順でいるに限る。

 

「⋯⋯それで、目標は何年後ですか?」

 

 ルシウスは満足げに笑った。

 

「一年後だ。──それまでに、邪魔な人間は排除しよう」

 

 




ネズミ(ダブルミーニング)
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