囚人が、死喰い人の隠れ家の情報をポロッと漏らした。
たまたまその会話を盗み聞きできた私は、意気揚々と魔法省に乗り込むことにした。得た情報を闇祓いと共有するためである。こういった重要な情報は、ふくろうに任せるのではなく直接伝えることになっている。
そう、私がふくろうになるんだよ!!
「エッホ、エッホ、エッホ、エッホ⋯⋯死喰い人はどこどこにいるって伝えなきゃ。エッホ、みんなに伝えなきゃ」
エッホエッホして無事に報告し終えた私は、ついでに魔法省見学をすることにした。
真面目そうな役人がひっきりなしに通り過ぎていく。そんな中、不真面目な私は「どうやったら神秘部に侵入でっきるかな〜♪」とか考えてた。
すると、お手洗いから出てきたシリウスとばったり出くわした。
「んお!?リリーじゃん、どうした?」
「死喰い人の隠れ場所らしき住所を伝えに来ただけ」
「なるほどな。もう誰か行ってるよな?」
「ええ。近くにいた闇祓いが派遣されたって」
それならいっか、とシリウスが呟いたあたりで、どこかのフロアで歓声が湧いた。
「え、何の声?」
「えーっと、あれだ。今日はダンブルドアが魔法省に来てんだよ。んで、報道陣も来てる」
なんでも、ヴォルデモート陣営の勢力が増す中、「魔法省とダンブルドアのつながりは強固だから安心してねー」的なパフォーマンスを行うらしい。まぁ、それがどこまで通じるかは分からないけど。
せっかくだし見に行こう。
私とシリウスは下の階に降りた。
「──必ずや──我々は負けません──ダンブルドア──」
ダンブルドアの横で、副大臣が何か演説している。それを取り囲む報道陣のさらに後ろで、私たちは適当に拍手をした。
まばらな拍手の音に気付いたのだろう、ダンブルドアの視線がこちらを向いた。
「⋯⋯リリー、シリウス!こちらに来るのじゃ」
「「!?」」
突然名前を呼ばれ、私とシリウスは同時に飛び上がった。カメラが一斉にこちらを向いて、さらにビビる。
何これ、行かなきゃだめかしら──だめな雰囲気だな──。
無言で会話した私たちは、恐る恐るダンブルドアの左側に立った。
「この二人は儂の優秀な教え子じゃ。彼は闇祓い、彼女は刑務官。共に、魔法界の平和を守っておる」
私は曖昧な笑顔を作った。
「儂一人の力では、全ての闇を光に塗り替えることは叶わん。じゃが、彼らがいれば可能なのじゃ!みなには是非、この若人を応援してほしい」
激しいフラッシュが焚かれた。なんか気まずい。
ちらりとシリウスを覗き見ると、彼は完璧な笑顔を浮かべていた。忘れがちだが、彼はブラック家長男。こういう場面でどう振る舞うべきか熟知している。
記者の一人がマイクを差し出した。
「ダンブルドアはあなた方に期待してらっしゃるようです。それに対して、何かコメントは?」
「えっと⋯⋯これからも適切なアズカバン管理を心掛けていこうと思います」
「闇祓いとして、一人でも多くの市民の方が救えるように尽力します」
それぞれコメントすると、ダンブルドアが大きく拍手を送ってくれた。つられて報道陣も手を叩く。
カメラが再び副大臣に向いたあとに、シリウスが耳打ちしてきた。
「これってさ、俺たち新聞に載るんだよな?」
「多分ね⋯⋯。いやでもどうかしら、つまらない発言だったらカットされるかも」
「マジか。それはやだ」
目立ちたがりのシリウスは本気で嫌そうだった。その顔を見てると緊張がほぐれて、私はふざけて言ってみた。
「くっくっく、じゃあいい言葉を教えてあげるわ」
「──時間です。ご退出をお願いします」
秘書らしき人がそう言って、報道陣を追い立てていく。
「ちょっと待ってください」
それをシリウスは追いかけて、半ば強引にマイクを奪った。
「すみません、少し話させてください」
「え、はい⋯⋯」
記者はシリウスの圧に頷いた。
真面目な顔で語り始めるシリウス。
「俺はブラック家の人間です。両親も、唯一の弟も過激な純血主義です」
シリウスは目を伏せた。イケメンの仕草っていちいち絵になる。
報道陣は、彼の放つ空気に呑まれていた。
「幼い頃から、純血は尊いだとか、マグルを蔑む言葉を聞かされて育ってきて⋯⋯少しでも反抗的な態度を取れば、懲罰として部屋に閉じ込められました」
「怖かったですか?」
一人の記者が問いかけて、シリウスは小さく頷いた。
「その頃はまだ、碌に魔法も使えなかったので。『ごめんなさい』をずっと繰り返していました」
質問者は同情するように深く頷く。
お調子者で女たらしのシリウスにも、こんな過去があったのかと思うと私も胸が痛かった。
子どもは、どんな自分でも親に認めてほしい、愛してほしいと望むものだ。今でこそ「家族?あいつらはクソだ」なんて暴言を吐けるけど、かつては淡い期待を捨てられなかったのだろう。
「今は、家族とは絶縁状態です。⋯⋯でも、この場をお借りして伝えたいことがある」
シリウスは頭を下げた。
「聞いてください。──シリウス・ブラックの叫び」
歌うんか?って雰囲気の前口上を述べて、彼は腰に手をやり、背中を反った。
私は杖を取り出す。
「ソノーラス」
彼の言葉が、届いてほしい。
そう願う。
シリウスは大きく息を吸った。
「空前絶後のぉぉぉ、超絶孤高の魔法使い!」
⋯⋯なんか、雰囲気変わったな??
報道陣は一様に悟った。
だが、これでいい。こういうのでいいんだよ──と私は頷いた。
「ホグワーツを愛し、ダンブルドアに愛された男!!」
「はて、そこまで言った覚えはないがのぅ」
「その名も、サンシャインシ・リ・ウ・ス!いえぇぇぇぇぇぇ──ンごほ、ゴホゴホゴホッ!」
痛恨のミス!
肝心なところでシリウスは咳き込んでしまった!!
某芸人がどれほど強靭な喉と肺活量を保持していたのかがよく分かりますね。
私は手を鳴らした。
「はいしゅーりょー!咳き込んだ時点であなたの負けです」
「待ってくれリリー、まだ俺は⋯⋯!」
私は魔法でずるずるとシリウスを引っ張っていく。
「シリウス・ブラックの叫びはこれにて終了!おwwわwwりwwでぇ〜す笑」
「うわあああああああああ!!」
「ジャスティスっ!」
*****
あんな痴態を晒したおかげか、無事にシリウスの名前は新聞に掲載された。ついでに私も。
中々目立つように書かれていて、写真まで付いていた。
シリウスが叫んでいる写真を見ると、無条件に笑えてくる。写真に写り込んでいる私も、清々しいほどの笑顔であった。
「『ダンブルドアが推す二人の教え子──。彼らはこの世界を照らすヒーローになるかもしれない』⋯⋯文章は真面目だ」
「それが普通だけれどね」
モリソンが新聞を覗き込んで言った。その顔に少し翳りが見えて、私は問う。
「どうしたんですか?」
「ん?いや⋯⋯君のことが少し心配でね」
モリソンは声を潜めて囁いた。
「実は、ダンブルドアと魔法省が近づくことを良しとしない連中がいてね⋯⋯。ほら、彼は強すぎるし、ファンも多いだろう?魔法省という国家権力の存在を怪しくするから、警戒する役人もいるのだとか」
それは、魔法省で雑用係をやっている友人から聞いた話らしい。こんなときにも権力にしがみつくなよと思うけど、原作でもファッジとかがビビってたしな⋯⋯。ヴォルデモートの恐怖と権力はまた別問題ってことか。
「こうやって大々的に報道されると、ダンブルドアと近しい人間って思われて変に恨みを買ったりするかもしれない。エバンズ、気をつけるんだよ?」
「考えすぎじゃないですか?⋯⋯でも、忠告ありがとうございます」
「うん。あ、そういえばスイーツ買ったから君にもあげよう」
私に甘いモリソンは、冷蔵庫からいそいそとプリンを取り出した。今朝買って、冷やしていたのだろう。私はありがたくもらうことにした。
*****
今日はクリスマス。
リア充を守るために騎士団員は駆り出されていた。
というのは嘘である。
リア充どころか、独身もいなかった。このご時世、みんなステイホームなのだろう。もっとも、家にいても危険なのであまり意味はないかもしれないが。
接敵することなく巡回を終えた私とエマは、そのままの足でジェームズ宅に寄った。クリスマス飲み会に誘われているのだ。
呼び鈴を鳴らすと、扉の向こうから声が聞こえてきた。
「シリウスとリーマスの秘密の名前を言って」
「パッドフットとムーニー」
「正解。⋯⋯さ、上がってくれリリー!!」
テンション高くジェームズは私たちを出迎えてくれた。
ジェームズ宅⋯⋯というかポッター邸は、流石の広さだった。
大理石の柱や、よく分からん絵画があって、私はついつい感嘆してしまう。
「やっぱりジェームズって金持ちね」
「んふふ。君もポッターにならないか?」
「huh?」
「毎日がハッピーハッピーハッピーだよ?」
「huh?」
「それは合意かな!うん、きっとそうだよねっ!!」
「黙って聞いてりゃチピチピチャパチャパ⋯⋯」
私は某猫よろしく、お花畑な頭に拳を向けようとした。が、ジェームズの頬にうっすらと傷らしきものが見えたので途中で止める。
「⋯⋯もうみんな来てる?」
「うん。あ、席に案内するよ」
そう言ってジェームズが後ろを向いたタイミングで、エマは含み笑いを浮かべた。
「いつもは蛮族だけどちゃんとラインは守るリリーが、私は好きだよ」
「あはは⋯⋯ってえ?蛮族?」
なんか今、聞き捨てならない言葉が聞こえたような気ががががが。
「さ、進もっか」とエマさんは有無を言わせず私の背中を押した。
すでに一杯呑んでいたのだろう、リーマスとシリウスはいつもより陽気な感じで私に挨拶した。
「あ、そうそう。彼も連れてきたわよ」
そう言って私は、空いている椅子の上に一匹のネズミを置いた。それはたちまち人の姿を取る。
「お、ピーターじゃん!」
「や、やぁ⋯⋯シリウス」
ピーターは手を振り返した。それからちらと私を見てくる。私は頷いた。
「あ、あの⋯⋯不死鳥の騎士団のこと、なんだんけど⋯⋯」
「ああ、ダンブルドアから打診あった?」
「いや、代わりにリリーが来て⋯⋯。それで、いろいろ考えたんだけど、ぼ、僕は⋯⋯」
そこでピーターは、一度口を閉じた。彼にとっては、勇気がいることなのだろう。ぎゅっと目も瞑ってから、再び話し始めた。
「僕は、入らないことにしたよ」
今までにないくらいにはっきりした物言いに、私は知らず知らずのうちに微笑んでいた。
それでいいのよ、ピーター。
しかし、ジェームズは納得できないようだった。
「何でさ!?ピーターならネズミの姿を活かして情報を探ったりできるのに!」
「まぁまぁ、いいじゃない。ピーターはよく考えてこの結論を出したの。それに他者が介入しないでよ。ね、ピーター?」
ウインクすると、ピーターは控えめながらも笑顔を見せた。
憤慨するジェームズ。
「ちょっとぉ!?二人だけが分かってますぅ〜的な雰囲気出すのやめて?リリーは僕のだから!!」
「うるっさいなぁ。クリスマスだし、ジビエにするわよ。鹿」
「リリーに食べられる⋯⋯それも悪くないや。だって君の体内に入って──」
「シレンシオ!」
とてつもなく気持ち悪いことを言いかけたジェームズに、リーマスが魔法をかけた。それから申し訳なさそうに私に言う。
「ごめん、多分ジェームズはアルコールが回ってるんだ。だからこんなにキモ⋯⋯詩的な言い回しで喋るんだよ」
「ねぇ今『キモい』って言いかけたでしょ?キモい、キモいって」
「ポエムめいてるよね!」
リーマスは圧強めに声を発した。現代語に毒されつつあって草。
何はともあれ、話はピーターから逸れた。
豪華な夕食に舌鼓を打ちながら、私たちはわいわい話していた。
「え、ちょっと待って。これひょっとして鹿肉⋯⋯」
「え、あほんとじゃん」
エマは肉を口に入れて頷いた。それから、はっとしたようにジェームズを見る。
「共食いかぁ⋯⋯」
「鹿って美味しいよね」
「サイコパス味を感じる返答来た」
「さ、エマ。遠慮せずにどんどん食べてね。『eat me!』つって笑」
「うーん、食欲が失せた」
エマはフォークを置いた。至極真っ当な反応である。
「そういえば」とリーマスが私とシリウスを見た。
「二人、新聞に載ってたよね」
「おう、まあ美男美女だし写真は絶対に使うだろうなとは思ってた」
「いや、シリウスが載ったのは顔じゃなくて奇抜な芸をかましたからだと思うけどね」
訂正を入れたが、誰も聞いてなかった。
ジェームズは悔しそうに足をバタバタさせる。
「くそ⋯⋯!なぁんでリリーとシリウスのツーショットが拡散されちゃうんだよ!!」
新聞で拡散とは、あんまり聞かない表現だ。
「ダンブルドアも、どうせなら僕を呼んでくれたら良かったのに」
「ダンブルドアの顔の好み⋯⋯ですかね⋯⋯」
ダンブルドアへのあつい風評被害が!!
シリウス、適当なことを抜かすんじゃない。そしてジェームズよ、『目から鱗』みたいな顔で納得すな。ダンブルドアには、すでに心に決めた人がいるのに⋯⋯。
シリウスは、自分が最もイケメンに見える角度で流し目をした。
「世の中には2種類の男しかいない。──俺か、俺以外か、だ」
「魔法使いやめて、超絶孤高のホストにでもなれば?」
なんだか腹が立ったので、私はシリウスの口にパンを突っ込んだ。
こうして、平和な夜は更けていく。
猫ミームももはや昔の話になってしまった⋯⋯。