「セブリリなんてねぇーよ!!」
私はジョッキを机に叩きつけた。ソファに座っていたペチュニアが、「何事!?」と勢いよく振り向くのを横目にゴクゴク飲み干す。あ、ちなみにこれはノンアルコールですよ?
今、私がいるのはリリーの御実家。夏休みだから帰省したのだ。初めて来たのに初めてじゃないとかいう状態で、体が馴染む。リリーさんはさぞや良い家庭で育ったのでしょうね。
話を戻そう。
セブリリは存在しません。私が否定します。
見ちゃったんですよねー。
セブルス含むスリザリン集団が、ハッフルパフの下級生に難癖をつけているところを。
「穢れた血め、ホグワーツにいることが恥ずかしくないのか」うんぬんかんぬん。
子世代より親世代の方が色々厳しいことは知っている。が、目の前で見ると結構きつかった。
日本でぬくぬく育ってきた私は単純で、スネイプ先生の株がみるみる下がった。
くそ⋯⋯!映画では主人公並みの活躍をして、『愛に生きた男』として名高いのに⋯⋯!私は小説より映画の方の印象が強いから、なんかこう⋯⋯解釈不一致!!!
「ペチュニア!!」
「!?な、何よ」
大声で呼びつけたら、ペチュニアの肩がビクッとした。言わずもがな、ハリーに虐待まがいのことをしていたリリーの姉である。複雑な思いがあるのは分かるけど、あの態度は流石にどうかと思いますよ、姉君?
⋯⋯というのを今のペチュニアに言っても仕方がないが。
リリーとペチュニアの関係は、原作通り。同じ家にいるのにめっちゃ気まずい。が、そんなことを気にする私ではなかった。
「ペチュニア、私ようやく気づいたの。⋯⋯セブルスの思想は終わってる!あんなの、セブカス・スネイプよ!もう関わるのやめる!」
愚痴を吐いたら、ペチュニアも乗っかってくれた。
「ほんと気づくのおっそ!元から性格悪そうな顔してたじゃない。あれはもう、ゴミカス・スネイプよ!」
「ペチュニアさん???」
なんかとんでもない罵倒が飛び出した。あと、容姿について触れるのはやめた方が⋯⋯。
以降、ピー音必須の暴言が続いたので、ここで語るのはやめておく。
確かなのは、リリーとペチュニアの仲が改善したことだけである。
素敵な夏休みを終えたら、新学期だ。
新入生の組分けを涙を流しながら見ていたらジェームズに心配されたが、私は元気です。
組分けっていいな!私も組分け帽子被りたいんですけど!!ダンブルドアに頼んだらもう一回やらせてくれたりしないかな?
未練がましく帽子を見ていたら、チラチラと私の様子を伺うセブルスに気付いた。
セブルスには、汽車で会ったときにこう言ってある。
「少し距離を置きたい。私が何でこんなことを言ったのか、よく考えてね?」
前までのリリーと同じように、ただガミガミ言っても効果はない。だったら自分で考えてもらいましょ、というわけだ。リリーに惚れているなら、リリーが嫌う闇の魔法から足を洗ってくれ!
まぁ、リリーではない私が言って何か変わるのかという疑問はあるが。
うむむと考え込んでいたら、控えめに袖を引っ張られた。見れば、エマだ。
「今日、夜更かししない?」
「え?是非」
そんなの断るわけないじゃない。頷くと、エマは安心したように表情を綻ばせた。
夜の談話室は、物音一つしない。
暖炉近くのソファに腰掛けた私たちは、暫くの間持ち寄ったクッキーを咀嚼していた。
「それで、何か言いたいことがあるの?」
私はエマに話を振った。すると、エマは酷く真剣な顔つきになる。
そして、口を開いた。
「リリーが重度のカプ厨と見込んで、話したいことがある」
「⋯⋯はい?」
「リーマス×ジェームズ、リーマス×シリウス、リーマス×ピーター」
「???」
とんでもなく早口で、聞き取り不可能だった。それなのにエマは何故か満足げに、「どれがいいと思う?」と聞いてきた。
「えーと⋯⋯まずさ、どうして私に聞くの?しかも腐カプ」
あと何故かリーマス攻めなのがジワる。エマ、こだわりがあるんだ。
「えー、だってリリーが呟いてたから。『これじゃただのカプ厨だ』って。自覚あるタイプのカプ厨だし、これは信頼できるなと」
「あー⋯⋯」
確かに言ったな。「セブリリが有るのか!?」と一人盛り上がっていた時に。
「今更だけど、リリーとはちゃんと話したくなったんだよね〜。友達だし」
その言葉は嬉しいけど、話す内容がBLカプって⋯⋯まぁいいですけどね??
「で、リリーはどのカップリングが好き?」
残念ながら、どれも考えたことはない。リーマス攻めっていうのも想像できなかった。原作では、トンクスが積極的だから夫婦になれたからなぁ。
私は腕を組んだ。
「何でリーマス攻めなの?」
「そっちの方が唆るじゃん。いつもは大人しそうだけど、夜になると狼⋯⋯最高でしょ?」
「へぇ、いつもそんなこと考えてたんだぁ⋯⋯」
「ちなみに私の推しカプはリーマス×シリウス。陽キャが受けっていうのが良いよね〜」
「えー、でも⋯⋯リーマスは受け身体質じゃない?」
控えめに意見を述べると、エマは「分かってないなぁ」と口を尖らせた。
「カップリングは無限大!リーマスには攻めてほしい」
「お、おう⋯⋯」
「チャラ男シリウスも、リーマスと二人きりの時は大人しくなるってもんよ!!分かるでしょ!?」
「エマ落ち着いて。人が起きる」
「絶対リーマス攻め!夜は狼!!」
「エマさん、話聞いてます?」
「夜は狼!」
「エマさん???」
「とにかく!!」
エマは台パンした。
「リーマスは狼なんだよ!!」
「⋯⋯え?」
談話室で、私たち以外の声が響いた。
私とエマは、バッと寮の入り口を見た。
そこには、リーマスとピーターがいた。妙に震えている。それがうつったのか、エマの体も震え始めた。
「え⋯⋯リーマスさん⋯⋯?い、いつからいらっしゃったんですかね⋯⋯?」
「いや⋯⋯え⋯⋯な、なんで⋯⋯知ってるの⋯⋯」
リーマスの顔は、僅かな蝋燭の灯りだけでも分かるくらいに真っ青だった。立っているのもやっとな状態で、隣のピーターが酷く心配そうな顔をしていた。
私は全てを理解した。
『自分の性癖暴露を聞かれた』と思っているエマ。
『自分が人狼であることがバレた』と思っているリーマス。
両者は全く違う意味で、動揺しているのだった。
次の日。
授業が終わってから私たちは空き教室に入った。
ここに来るよう、リーマスからお願いされたからだ。
扉を開けると、そこにはシリウス、リーマス、ピーターがいた。ジェームズは先生に呼ばれたらしく、不在だった。
完全に死んだ魚の目をしたエマは、恐る恐る椅子に座る。
すると、シリウスが口火を切った。
「⋯⋯リーマスが狼だってこと、いつから知ってた?」
エマは、驚いたような顔をした。
「『知ってた』?え、じゃあ本当だったんだ⋯⋯」
「⋯⋯ああ、まだ確信してたわけじゃねぇのか」
「う、うん⋯⋯ただの妄想だったの」
「っぎ」
笑いを堪えようとしたら、変な音が出た。何で妙に噛み合った会話が成立してるんだよ!!不味い、大笑いしてもいい?
この場において全てを理解しているのは私だけだ。
私は、「少し窓を開けるわね」と言ってさりげなく席を立った。シリアスな表情を保つのが難しすぎる。顔を隠そう。
皆んなに背を向けながら、この茶番に耳を傾けるとしましょうか。
以下、実況はこの私、リリー・エバンズが担当いたします。
「何で気付いた?」
おおっと、シリウスさん。これは直球の質問ですね。回答次第で会話は即終了ですが、果たしてエマはなんと返すでしょうか!?
「三年生の頃かな?リーマスの腕に細かな傷が付いてるのを見て⋯⋯引っかき傷みたいだったし、それで」
「ああ、そんなに前から気付いていたんだ」
苦しそうなリーマス。エマの着眼点は合っているのがジワリティーを高めていますねぇ。
エマがもぞもぞと動く気配がした。
「あの⋯⋯ごめんね。そういうプライベートな話を、リリーに話しちゃって。リリーも私と同じ側の人かもって思ったら、つい⋯⋯」
この台詞を少々補うと、「プライベートなプレイの話をリリーに話してごめん。リリーもカプ厨だと思ったから、つい」ですかね。
しかし、これをリーマスたちが聞くとどうなるでしょうか?
「リーマスが人狼っていう秘密を、リリーに話してごめん。リリーもそれに気付いていたっぽいから、つい」となりますね。うーん、この噛み合わせはポイントが高いですね。
「リリーもだったのか!?」
ここで実況者に飛び火!可及的速やかに答えなくてはなりません。が、ここでの応答はかなり重要。私のせいでこの勘違い劇場を終わらせてはいけませんからね!
「えぇ⋯⋯そうねぇ⋯⋯私としても、ほんの少し思うところはあったわね。エマから話を聞いて、あり得なくはないかもってなったわ」
曖昧な言葉で誤魔化していくぅー。
リーマスは、ひゅっ、と息を呑んだ。バレていないと思ったら、二人にもバレていたのだ。驚きだろう。
エマは酸欠だった。同級生を勝手にBLカップリングしたことがバレた上に、その妄想を複数人の前で語っているも同然だからだ。これは黒歴史ですねー。
「本当にごめんなさい!リーマスが狼って。あれこれ考えて⋯⋯いや、これは自分の中だけにしておくべきだったよね、申し訳ないです!」
「いや、いいんだ⋯⋯むしろ隠しててごめん⋯⋯。怖いよね⋯⋯」
「いやいや、人に言うようなものじゃないから!あと全然怖くないから!むしろご褒⋯⋯」
勢いのままに「ご褒美だよ!」と言いかけたエマさん。大丈夫ですか?幸いにも聞こえなかったらしく、シリウスたちがそこにツッコむことはなかった。
「あの、安心して!もう絶対人には言わないから!って、リリーに言っちゃった人の言葉なんか信じられないよね⋯⋯」
「っ、そんなことないよ!」
「えっ⋯⋯」
私はちらっ、とエマたちを盗み見た。
エマとリーマスは見つめ合っていた。
「今まで気付かないフリをしながら仲良くしてくれてありがとう。僕はそれだけで充分なんだ」
「リーマス⋯⋯」
謎にキラキラしたエフェクトが見える。友情を深めたシーンで感動的なのに、話題が腐と人狼で食い違っているのがシュールだなぁ⋯⋯。
「これからも話してくれる?」
「うん、勿論!二人のこと、応援もするよ!」
「え?」
ああっと、ここでエマさんの台詞チョイス失敗!これはバレるか⋯⋯?
「二人って、誰のこと?」
「え?」
「ん?」
「あ、あのー⋯⋯」
とここで、ずっと黙っていたピーターが参戦!
「多分だけど⋯⋯エマとリーマスの話、違うんじゃないかな?さっきエマ、『ご褒美』とか言いかけてたし」
バレてて草。
リーマスが身じろいだ。
「え、でもエマ、僕のこと狼って言って⋯⋯」
「うん、夜は狼なんでしょ?」
「⋯⋯?」
エマが声を張り上げた。
「だーかーらー、リーマスとシリウスはそういう関係なんでしょ!?ボーイズラブ!」
教室内に、沈黙が舞い降りた。
はーい、茶番劇は終了しました。
私は実況を降ります。ちゃんちゃん。
「いやちげぇーよ!、お前、なっ、何言ってんだ!?」
シリウスの、至極真っ当な絶叫が響き渡りましたとさ。
セブリリも、ルシリも存在しません。
めでたしめでたし。
尚この後、エマは恥ずか死んだ。
オリキャラ解説
⚪︎エマ•アリエット
リリーの友達。カプ厨。
マグル生まれ。
この後、リーマスが人狼ということを知るが、「そんなの大したことない」と気にしない。むしろ腐女子とバレたことの方が気になる。