手当たり次第に建物を破壊しているベラトリックスの前に、私は立ち塞がる。
「ようやくお出ましかい?おやおや、後輩くんは帰らせたのか。お優しいことだ」
「そういうあなたも、闇祓いの人いなくなってますやん」
「アイツは気付いたら消えてた」
「え?」
いや、闇祓いどうした?ベラトリックスに嫌気が差したのか?
こうやって油断させて、背後からグサっと殺るつもりなのか、なんてことも考えたが、ベラトリックスは非常に不満げな顔だ。とても演技とは思えない。
一応背後に気を付けよう、と気を引き締めつつ、私は武装解除呪文を飛ばした。続けて、ベラトリックスが破壊した建物の破片をナイフに変え、浮遊呪文で操る。
そして、ベラトリックスが放った死の呪いにぶつけて相殺していく。
「いつかは押し負けるだけなのにねぇ、小娘。健気なことだ!」
話す余裕は、私にはない。
私はベラトリックスの後ろを見た。まだロックハートはいない。気配を悟られないよう、慎重に移動しているのだろう。
『私が引きつけて、背後からロックハートが忘却術を掛ける』────私はこれに賭けている。
ただ⋯⋯それまで自分が耐えられるのか。
体は思うように動かないし、ベラトリックスも本気を出してきたようで、杖捌きがさっきまでの比じゃない。
ベラトリックスの魔法が、私の右肩に吸い込まれた。
「いっ⋯⋯!」
思わず悲鳴が漏れる。
皮膚が裂け、血がダラダラ溢れてくる。
「インカーセラス!」
「うぐっ⋯⋯」
今度は縄で首元を絞められた。
ベラトリックスが杖を動かし、私の体を引き摺り回す。地面に顔を殴打し、鼻から血が垂れるのが分かった。
視界がちかちかする。
「小娘如きが私を殺せるわけないだろ?ヒーロー気取りか?寒いねぇ!」
ベラトリックスは私の右肩に蹴りを入れた。
鮮血が飛び散る。
「才ある私と違ってお前は凡人、魔法のセンスもない!惨めに這いつくばりな!」
「⋯⋯っあ⋯⋯」
分かっている、それくらい。
数多ある転生モノのようなチート才能を、私は持たない。ベラトリックスのようにアバダ連発なんてできないし、プロテゴも負ける。
天才なんて、大っ嫌いだ。
それでも私は、足掻くことをやめない。
「ルーマス・ソレム!」
強烈な光で目を奪うと、私はベラトリックスから距離を取った。
目を押さえながら、ベラトリックスが叫ぶ。
「小娘ぇぇ!クルーシ、⋯⋯プロテゴ!」
突然ベラトリックスは魔法を変更した。
見えない盾に弾かれて、何かが宙を舞う。
それは、闇祓いの生首だった。
「え⋯⋯?」
「誰だ!?」
ベラトリックスが闇魔法を乱射する。
その全てを躱して、救世主は現れた。
ひらひらとマントを纏わせ、白い仮面を身に付けた、長身の男だ。
ぱっと見、タ○シード仮面。
「ゆっくりヒーローなんだぜ。助けに来たのぜ!」
──そしてなぜか、音声がゆっくりボイスだった。
痛みも忘れ、私はあんぐりと口を開けた。
「え、えぇ⋯⋯?え、え?」
「なんだコイツ」
私たちは揃って困惑していた!当たり前である。
が、ベラトリックスはすぐに死の呪いを放った。
自称・ゆっくりヒーローは素早く杖を抜く。
「アバダケダブラ!」
二つの光線はぶつかり、そして消えた。
アバダをぶつけて相殺したのだ。このゆっくりヒーロー、中々の手練のようだ。まぁ、あの闇祓いも殺したようだし、それは察するところではある。
仮面の男とベラトリックスは、無詠唱で魔法を撃ち続ける。最早私のことなんて視界に入っていないようだ。
このチャンスを見逃してはならない!私はこそこそ動いた。
「ウィンガーディアム・レヴィオーサ」
私は地面に転がる闇祓いの生首を浮遊させた。
そのままベラトリックスの顔にダイレクトアタック!
「いやああああああぁぁぁぁぁ!?」
生首の唇を頬に押し当てられたベラトリックスは、その見た目に似合わない乙女のような悲鳴を上げた。
「嘘だ嘘だ嘘だ。ファーストキスはあの方に捧げていたのに⋯⋯!貴様、死ね!」
激おこぷんぷん丸なベラさんは、容赦なくアバダを行使。
生首を盾にしたら、余程魔力が篭もっていたらしく生首は爆散した。わ〜すご〜い。
「アバダケダブラ!アバダケダブラ・スーパー・マキシマ!」
聞いたことない呪文出てきて草。
冷静さを失ったベラトリックスの魔法は、すごく避けやすかった。
私は仮面の男とコミュニケーションを図った。
「仮面の人!ベラトリックスを殺せますか!?」
「キレてるとはいえ、殺すことは難しいんだぜ」
「だったら!拘束するのを手伝ってください!」
変人仮面を信用していいものか、という疑問はある。「そもそもなんでゆっくりの存在を知っているのか?」とか考え出したらキリがないんだけど、ここは協力してもらおう。
一瞬でいい。一瞬、ベラトリックスの動きが止まれば、ロックハートが忘却術を掛けられる!
仮面の男とベラトリックスのアバダが交差する。最初は互角に見えていたものの、やはりベラトリックスは強い。徐々に仮面の男が押されているのが分かった。
痛みを堪えて、私も武装解除呪文で参戦する。
「エクスペリアームス!」
「アバダケダブラ!」
「アバダケダブラ!」
「「アバダケダブラァァァ!!!」」
最早こいつらアバダしか使ってない。私の場違い感がすごくて笑った。
仮面の男の腹部が、見えない刃で切り裂かれる。すかさずエピスキーを掛けてカバーすると、男はそのまま戦闘を続行した。
「インカーセラス!」
アバダの嵐を縫って、私は杖を振る。
アバダの処理に手一杯なベラトリックスはなんとか躱したものの、アバダを連発する手が止まった。
出血に構わず、私は右腕を動かした。
私の得意魔法。
ペトリフィカス・トタルス。
それは、かつてないほどの速度で杖先から放たれた。
「なっ⋯⋯!」
ベラトリックスの動きが停止する。
私は叫んだ。
「ロックハート!」
地面に、影が落ちた。
ひらりと建物から飛び降りたロックハートは、冷淡な表情で杖を構えた。
感情をなくした声が降ってくる。
「オブリビエイト」
目が焼けそうなほどの、鮮烈な光。
ロックハートの杖先に灯ったそれは、ベラトリックスの心臓を正確に貫いた。
表情をなくしたベラトリックスが、膝から崩れ落ちる。
あたりには静寂が訪れた。
「⋯⋯ふぅ⋯⋯」
興奮が治まると、思い出したかのように体のあちこちが疲労を訴えてきた。
私は壁に背中を預けて息を吐いた。
終わった。
無事にベラトリックスを倒した。
ロックハートも忘却術を使うのは初めてだっただろうに、よくやってくれたなと思う。
私は、こちらに向かってくるロックハートの姿を目に捉えた。
「⋯⋯ああ⋯⋯そうか⋯⋯」
当たり前、なのか。
原作では忘却術だけを極め、歴史上で最も多くの英雄の記憶を葬り去った魔法使い。
ギルデロイ・ロックハートは、元から忘却術のポテンシャルが高かったのだ。──私とは違って。
そしてこれから、彼は多くの死喰い人の記憶を葬り去る魔法使いとなるのだろう。
葬送のロックハート。
私の嫌いな天才だ。
*****
私とロックハートは、ひとまずその場から退散することにした。──仮面の男と、気絶しているベラトリックスを連れて。
宿泊しているホテルに戻ると、私はようやく質問することができた。
「⋯⋯それで、あなた誰ですか?」
「ゆっくりヒーローなんだぜ」
「あ、そう⋯⋯」
答えるつもりはなさそうだ。
それにしても、こいつ本当に誰なの?
顔と声を隠しているってことは、多分私に正体がバレると良くない人、ってことなんだろうけど⋯⋯。いや、あるいはめちゃくちゃブサイクで顔を見せたくないとか⋯⋯?(失礼)
とにかくこんな変人、信用できるかって話。
「⋯⋯ちょっと、部屋から出ていってもらえます?」
「待ってほしいんだぜ。私は、ダンブルドアの指示でここに来たんだぜ」
「は?ダンブルドア?」
仮面の男は頷くと、私の耳元で囁いた。
「あなたの前世のことも知っている」
「⋯⋯なるほど、信用しましょう」
以降、簡潔に記す。
ダンブルドアは魔法省の監視で思うように動けない。だが、やらねばならないことがあった。
例のあの人を倒すアイテムを探すことだ。
とはいえ、それを探していることが闇の陣営にバレてしまえば意味がない。魔法省にもスパイがいるため、大っぴらに探すことはできない。故に、監視がない仮面の男を派遣したというのだ。
そして、アイテム探しのついでに私たちを助けろ、と。
「ふーん、ダンブルドアが、ね。⋯⋯そういえば、ダンブルドアにゆっくり実況の話したことあったな。だからあなた、そんな話し方なのね」
「そうなんだぜ。エバンズが教えたキャラクターのように話せば、すぐに味方だって分かってくれるはずだ、と言っていたんだぜ」
「いや変人だと思いましたけど」
「⋯⋯」
「あと、『だぜ』を付けたら魔理沙っていう考えは浅いから!ゆっくりたちを舐めんなよ」
「⋯⋯」
ロックハートが恐る恐る尋ねた。
「あのー、これ、何の話です?」
完全に置いてけぼりである。
私は重要そうな言葉について問いただした。
「それで、そのアイテムとやらは何なの?」
「それは教えられないんだぜ」
「ここまで来て??」
「閉心術も使えない人に教えるのは危険なんだぜ」
「あっ⋯⋯」
そういや、ベラトリックスに開心術掛けられたしな⋯⋯。情報を持ちすぎるのは良くないか。
でも気になる。原作で、そんな魔法道具出てきたっけ⋯⋯?
原作を思い返そうとすると、なぜか頭がぼんやりした。
「〜〜〜っヒント、ヒントください!なんか思い出せそうなので」
仮面の男は面倒くさそうに私を見た。
「⋯⋯『腐ったハーポ』を知ってるんだぜ?」
「腐ったエマなら知ってますけど」
「は?」
「え?」
「⋯⋯もう話さないんだぜ」
仮面の男の表情は見えないが、なんか呆れられた気がする。
というか、いちいち仮面の男呼ばわりするのだるいな。
「名前、なんて呼べばいいんですか」
「名前は⋯⋯何でもいいんだぜ」
「え、じゃあタキシード仮面」
「⋯⋯」
すっごい嫌そうな空気出してきて草。
仕方ない、もっとまともで⋯⋯でも普通じゃない名前にしてやろう。
「あ、スケキヨとか?それかファントム⋯⋯」
「ファントムでお願いします」
即答だった。
なんでや!スケキヨもいいでしょーが!水辺にVの字で突き刺すぞ!?
とはいえファントムも中々癖のある名前だと思うけどね。厨二病かな?
仮面の男改めファントムと命名したあたりで、ベラトリックスが目を覚ました。
「⋯⋯こ、ここは⋯⋯?」
私たちは恐る恐る近付いた。忘却術がしっかり掛かっているかを確かめねば。
杖を後ろ手に隠し、話しかける。
「こ、こんにちは。私のこと分かります?」
ベラトリックスはこてん、と首を傾げた。
「お姉さん、だぁれ?」
純粋な目をしていた。
きょろきょろと辺りを見渡し、その目が潤み出す。
「ママ⋯⋯?どこ?パパは?」
「あ、え、えー、迷子かな?自分の名前と年齢、言える?」
ベラトリックスは、邪気のない表情とともに言った。
「ベラはねー、ベラって言うの!四歳!」
もういろいろと限界だった。
私とロックハートはシャウトした。
「「うわああああああああああああ!」」
肉体年齢××歳(検閲済)、精神年齢四歳のベラさんを見るのは中々キツかった!これが、先ほどまで悪魔のような魔女だったなんて信じられない!イタすぎて精神的クルーシオ。
胸を押さえたロックハートが目を逸らす。
「もう見てられないですよ、この人魔法省に届けましょ?そもそもどうして連れてきたんですかファントム」
「レストレンジ家の金庫に用事があるんだぜ。この人は、金庫に入るために必要なんだぜ」
「あ、合法的に銀行強盗しようとしてるんですね」
「合法的に銀行強盗とは??」
意味が分からなくて笑える。
ファントムは唐突に杖を取り出した。
「インペリオ!」
服従の呪文は、ベラトリックス(四歳)に直撃!
恐ろしさのあまり私は震えた。
「ちょ、え?記憶をなくした女の子に向かってインペリオって⋯⋯ナニしようとしてます?」
「犯罪のにおいがしますねこれは。事案ですか?」
「しかも、一応それ、許されざる呪文ですよね?もはや許されざる呪文(笑)なんですけど」
「流石アバダ連射の男!そこに痺れる憧れるゥゥ!」
「(コイツら怪我してるのにうるせーな⋯⋯)」
ファントムは本気でこの二人にもインペリオしようかどうか悩んだ。
そんなことはさておき。
ベラトリックスの目から意思が消えた。それから、ファントムの指示通りにその唇が動く。
「セシリア」
ぱちん、と音がして屋敷しもべ妖精が現れた。
恭しく頭を下げる妖精。
「奥様、いかがなさいましたか」
「レストレンジ家の金庫の鍵を、ここに」
「かしこまりました」
「このことは誰にも言わないように」
「かしこまりました」
レストレンジ家の屋敷しもべ妖精はすぐに鍵を持ってきてくれた。そして、跡形もなく消える。
「これで、いつでも銀行に行けるんだぜ。明日はグリンゴッツに行くんだぜ」
「明日かー、疲れ残ってそうだけど」
わざと聞こえるくらいの大きさで呟いたが、ファントムはガン無視した。くそ、強いな。
ため息をつくと、ベラトリックス(四歳)が気遣わしげに私の袖を引っ張った。
胸がギュンッとなる。これは可愛くてときめいてる⋯⋯のではなく共感性羞恥だ。
「お姉さん、怪我してるの?ベラが治してあげる!」
「え、あー、ありがとうございますぅ⋯⋯」
あなたにやられた傷ですけどね、とは言わなかった。流石の私も、幼子に恨みつらみを吐けるような人間ではない。
なんか調子狂うな。
ベラさんはキャッキャしてた。
「ベラがお医者さん役ね!」
「わ、わーたのしみー(棒)」
な⋯⋯なにこれぇ⋯⋯(困惑)。
キツぅ⋯⋯。
これから癒やし枠になるベラさんと、新キャラファントム。
無意味にキャラを増やしたわけじゃないのでご安心を。
ちなみにですが、こいつの命名がスケキヨになる未来もありました。