痛みに呻くロックハートをガン無視し、ファントムはさっと鞄を持った。
「では、私はこれからエイブリー邸に行ってくる。二人はここで待機していろ」
「「え?」」
「エイブリー邸の内部構造には詳しいからな。あなたたちがいると足手纏いだ」
ファントムはさくっと姿くらましした。
置いていかれた私とロックハートは、無言で顔を見合わせる。
「内部構造に詳しいって⋯⋯あの人何者ですか?」
「さ、さぁ⋯⋯?」
私は、その辺に転がしたエイブリーの肩をつついた。
「ひょっとしてファントムと知り合いだったりする?」
「知らねぇよ。ま、あれの正体も分かんねーけど」
エイブリーはそっぽを向いたが、ふとその顔に喜色が浮かんだ。
「そもそもお前ら、あいつを信じていいのか?味方のフリをした敵って可能性もあんだろ」
「そう言って内部分裂を目論むのはやめましょうね」
私は真面目に取り合わなかったが、ロックハートには少々響いたようだ。「確かにそうかもしれませんよ。エイブリー宅に詳しいのも、死喰い人だからかも」と囁かれ、私は鼻で笑った。
「ありえないでしょ。だって私の⋯⋯あー、重要な話を把握してるんだし。死喰い人なわけ────」
いや待てよ。
原作では、死喰い人だったセブルスもリリーのために寝返ってたな。
私の灰色の脳細胞が活発化する。
仮面を装着しているのも、声を変えているのも、全て正体を悟られないようにするためのもの⋯⋯?
もしファントムの中身が初対面なら、わざわざ隠す必要はない。
ファントムは私たちに正体を隠す必要のある人物────すなわち──。
「⋯⋯⋯⋯ひょっとして、セブルス⋯⋯?」
「え?」
戸惑うロックハートに構わず、私は続ける。
「いや、え、そうじゃない?だって声も顔も隠してるし。私と喧嘩して以来話す機会もなかったし、易々と正体を明かせない⋯⋯だからバレないように妙な装いをしてるんじゃ!?」
その考察は、懐にすとんっと収まった。私ってば名探偵かもしれない。神推理だ!!
私はバシバシとエイブリーの背中を叩いた。
「いやぁ、あなたのおかげで気付くことができたわ!さんきゅ!」
「⋯⋯俺は敵に塩を送ってしまった、のか?」
「これからはあなたのことを名誉騎士団員として迎え入れようじゃないの」
「入れるな感謝するな握手すんなああああぁぁぁ!!」
「ベラもおててつなぐー!!」
最早癒し枠と化したベラさんは、エイブリーのもう一方の手に指を絡めた。
至近距離でベラさんの無邪気な笑みを直視したエイブリーは無事浄化(?)された。
「おうふ⋯⋯」
「お、死んだわねこいつ」
「えー、まだアバダしてないのにぃー?」
「「え」」
四歳児ベラトリックス、すでにアバダケダブラの存在を知っていた模様。人をお星さまにする方法を教えてるなんて、ブラック家の教育はどうなってんだ。怖っピ、怖すぎるっピ。
ロックハートはベラトリックスから距離を取った。それから言いにくそうに眉を顰める。
「あの、ファントムがスネイプって話はおかしいと思います」
「そう?」
「だってファントム、たまにアホを見るような目でリリーを見てますし」
「⋯⋯⋯⋯」
確かにと思いましたー。
セブルスさんならそんな目をしませんよねー。はい、正論。
どうやら私は迷探偵のようだった。
「じゃああいつは誰なのよ!このままだとあの人、理由もなく仮面つけて声変えてタ○シード仮面みたいな格好してるただのコスプレ野郎になるけどぉ!?」
「そうなんじゃないですか?多分、目立ちたいのかも」
ロックハートの同類か⋯⋯。
私は失神しているエイブリーの体を起こした。
「じゃ、こいつはもう用済みだし魔法省に届けましょっか」
「そうですね。あ、私たちに関する記憶は消した方がいいですよね?」
「ええ、お願いします」
ロックハートはエイブリーの眉間に杖を突きつけた。
「オブリビエイト」
光は頭部に吸い込まれた。
うんうん唸りながら、ロックハートは杖を細かく動かしている。
「何やってるの?」
「ええと、違和感がないように記憶を継ぎ接ぎしたり、偽の記憶を植え付けてます」
めっちゃ高度なことしてた。流石はロックハート、忘却術に関しては天才だ。
ふぅ、と額の汗を拭ったロックハート。
「これでいいでしょう。まぁ、しばらくは頭がふわふわするかもですが⋯⋯」
「ふわふわ⋯⋯」
そういえば私も、たまに頭がぼんやりするな。そう、例えば前世の記憶を思い出そうとしたときとか────。
ふと思った。
あれ、これ私もオブリビエイトされてね?
「ねぇ、ロックハート?実はさ、私も思い出せないことがあるんだけど⋯⋯」
「お姉さん、きおくりょくわるいの?ニワトリなの?」
「ベラちゃん⋯⋯?それは些か失礼では?」
四歳児のストレートな言葉は、時に大人の胸を抉る。
って、そんなことは今はどうでも⋯⋯いや、どうでも良くはないけど放っておく。
「なんかね、思い出そうとすると頭がぼんやりするのよねぇ」
「え⋯⋯?それって⋯⋯⋯⋯っ!」
ロックハートの瞳は、驚愕に満ちた。それからヒョイヒョイ杖を揺らす。
そして、脳内を掻き回されているような感覚に襲われた。
気持ち悪い。
吐きそう。
「ちょっと⋯⋯無理かも⋯⋯ストップして」
「は、はい!」
ロックハートが杖を下ろすと、不快感はさっと消失した。
私はベッドにダイブする。
「だ、大丈夫ですか?」
「うへぇ⋯⋯気持ち悪い゛い゛い゛」
私は深呼吸を繰り返し、「どう?何か分かった?」と問いかけた。
真っ直ぐに頷くロックハート。
「何か⋯⋯記憶を弄られた痕跡があります。それも、かなり高度な⋯⋯」
「ほほーん⋯⋯⋯⋯そんなのやるのダンブルドアしかいねぇよな!」
私は窓を開けた。そして、ここにいないダンブルドアに向かって叫ぶ。
「勝手に人の記憶消すな校長ぉぉぉぉ!!」
「ほほほ、呼んだかのぉ?」
にゅんっ、と白髭のジジイの顔がドアップで迫ってきた。
「⋯⋯ぎゃあああああああああ!?」
私は反射的に腕を突き出した。
押されたダンブルドアの体は、重力に従って落下する──。
「あ?」
「え?」
「むぅん?」
私、ロックハート、ベラトリックスは、それぞれ別の反応をした。
やばい。
「校長が⋯⋯死んでしまった⋯⋯」
火サスよろしく今から崖に行くか⋯⋯とか考えていたら、
「勝手に殺さないで?」
ダンブルドアはフォークスに掴まってふよふよと浮遊していた。
い、い、生きてるーー!!
私はその場に崩れ落ちた。
「良かった⋯⋯もし死んでたら、『ダンブルドアの存在否定』とかいう別の物語が始まるところだった⋯⋯」
「何それおもしろそう」
「ほっほっほ、ギルデロイや。そんなに儂に死んでほしいのか?」
ダンブルドアは少々悲しそうだった。だが、仕切り直すように数回咳払いをして声のトーンを上げた。
「久しぶりじゃの、リリー。元気にしておったか?」
「まずまずですよ。校長はどうしてここに?」
「うむ、実はもう儂、校長ではないのじゃ」
「え?」
「クビじゃ、クビ!追放されたのじゃ。ここからは、『え、世界最強の魔法使いを追放するんですか?──戻ってこいと言われてももう遅い』とかいう量産型の展開が待っておろう」
「なろ○系で草」
聞けば、ついに理事会で追放が決定したらしかった。もっとも、死喰い人に脅された役員が多いのだろうが。
「理由は、『リリー・エバンズの犯罪履歴』じゃ。実はおぬしには、闇祓い殺害容疑もかかっておるのじゃ」
「え、冤罪⋯⋯」
私は思わず声を上げたが、ふと生首と化した闇祓いのことを思い返した。絶対あれのことじゃん。
世間一般からすれば、あの闇祓いが実はヴォルデモート陣営だったなんて分かりっこない。多分腕に闇の印もなかっただろうし。
「さらにあやつら、ミネルバに服従の呪文を使って儂に毒を飲ませおった」
「え!?大丈夫だったんですか?」
「なんとか気付いて、の。仕方なく逃亡することにしたのじゃ。幸い、校長の座はミネルバに託すことができた」
「大変だったんですねぇ」
「まぁ、向こうが追放するというのなら儂も好き勝手にやらせてもらおうと思うてな。監視の目を振り切ってここに来たのじゃ」
ダンブルドアはふと、机の上に放置されたままの麻袋を手に取った。中身は、レストレンジの金庫にあったカップである。
「ふむふむ、無事に盗めたみたいじゃの。これで残るは日記帳だけか」
「あ、それは今ファントムが取りに行ってます」
「ファントム⋯⋯?ああ、儂が派遣した協力者のことか」
私は恐る恐る尋ねた。
「あの人、誰なんですか?」
「む?うむ、まぁ⋯⋯言っても良いのじゃが、彼は嫌がるじゃろうな⋯⋯」
「セブルスだったりします?」
「断じて違うが」
即答だった。やはりセブルスではなかったようだ。となると、マジでただのコスプレイヤーの可能性が高まるフォイなわけで。
「ちなみにヒント。おぬしは彼を知っておる」
「え、誰だ⋯⋯?」
考えてみたけどまじで分からん。というか、これ⋯⋯。
「それってダンブルドア先生が私の記憶消したからじゃないですか?」
「あー⋯⋯そうとも言える」
おい先生ェェェ⋯⋯。
非難する私の視線に気付き、ダンブルドアはちまちまと自身の人差し指を弄ぶ。
「しょうがないやん⋯⋯本当は閉心術を習得したらすぐに戻すつもりじゃったのに、おぬし全然できぬし⋯⋯」
「うぐぐぐっ!」
返す言葉がない。なんだかんだ言って、私の記憶を消したのは良い策だったんだよなぁ⋯⋯。じゃなかったらベラトリックスに原作のこと知られてたかもだし。
尚、今やベラトリックスは四歳児なのだが。
私はちら、とカップを見た。
「これで分霊箱は全部ですか?」
「恐らく。トムが新しく作っていなければ大丈夫じゃろう。ハリー・ポッターもおらぬし」
「え、ハリーって分霊箱だったんですかぁ!?」
「ああ、そういえばおぬしは知らないのか⋯⋯」
すごいネタバレが来た。J・K・ローリング先生、素晴らしい設定をどうもありがとうございます。
「えぇと⋯⋯」
私とダンブルドアの会話についていけず、疑問符を浮かべるロックハート。
「ハリー・ポッターって誰ですか?分霊箱⋯⋯?」
「ハリーはジェームズとリリーの子どもじゃよ」
「!?」
「悪意ある伝え方やめてクレメンス」
事実だけど⋯⋯事実だけども⋯⋯!
しっかし、ダンブルドアがこういうことを平気で話すってことは⋯⋯。
「最終決戦を始めるつもりですね?」
私の問いに、ダンブルドアは深く頷いた。
「ああ。──不死鳥の騎士団、集合じゃ」
サブタイトルが長すぎる件。