数日後、ファントムは無事任務を終えて帰ってきた。
「戻りました⋯⋯って、ダンブルドア⋯⋯?」
「よく頑張った、ファントム」
ダンブルドアはファントムの肩をポンポンと叩いた。その手の上に、ファントムは黒いノートを被せる。
これが、件の日記帳だ。
「これで分霊箱は揃った。皆、よくやってくれた」
「この後はどうするんですか?」
「ポッター家に行く。騎士団員に集まるよう言ってあるからのぅ」
「⋯⋯えぇと、この人はどうします?」
私はベラトリックスを見た。ニコニコと人畜無害そうに笑っているけど、その正体はあのベラトリックスさんですからね⋯⋯。
ダンブルドアはぱちぱちと瞬きを繰り返した。
「正直、ベラトリックスのことは予想外じゃった⋯⋯。服従の呪文で金庫の鍵を奪って、あとはアズカバンのつもりじゃったのだが⋯⋯」
「あずかばん?」
ベラトリックスは小首を傾げた。可愛い。⋯⋯いやまずい、絆されてる。
ダンブルドアは深くため息をついた。
「流石に四歳児をそこに閉じ込めるのは忍びない。連れていこう」
「ねぇリリー。ベラ、どこに行くの?」
ベラトリックスは私を見た。私はにこやかに笑って、「私の友人の家よ。まぁ、悪い人ではないわ」と答える。
「よし、行きましょう!世界が私を必要としている!」
勢いよく立ち上がるロックハートを引き止めるように、ファントムが尋ねた。
「そういえば、エイブリーはどこに行ったんだ?」
「彼は拘束したままダイアゴン横丁に置いてきました。今頃はアズカバンに連行されているんじゃないですか?」
尚、ダイアゴン横丁で魔法省役員と出くわしたりしていろいろ大変だったが、ここでは割愛する。
私はロックハートの腕を掴むと、そのまま姿くらましした。
もうこの瞬間移動も慣れたもので、私たちは無事にゴドリックの谷に降り立つことができた。
少し遅れてダンブルドアとベラトリックス、ファントムが飛んでくる。ベラトリックスにはダンブルドアが付き添っている形だ。
少し歩いて、ジェームズの家の前に着く。
そして私は、その異様さに息を呑んだ。
「え、廃墟⋯⋯?」
窓は割れて、破れたカーテンがそよぐ。
暖炉には火の気が全くなく、埃が積もっている。
散乱した食器類。
クリスマス会をやったときとは打って変わり、家は荒れていた。
ジェームズは、死喰い人の襲撃を受けたのだ。
「⋯⋯ジェームズは無事ですよね?」
「ああ、生きておる」
安心したが、だったらなぜこんな状態で放置しているのだろう、と疑問に思った。
その疑問に答えるかのように、ダンブルドアは裏手に回って、塗装の剥げた壁に手を当てた。
「この見た目はカモフラージュじゃ。よもや死喰い人も、ここに人が来るなんて思わないじゃろ?」
そして、ダンブルドアは壁をなぞる。
瞬間、私たちが立っている地面に穴が空いた。
内臓がひゅっと冷えるような、独特の浮遊感。
私の体は真っ直ぐに落ちていった。
「3点着地!」
──そんな掛け声とともに、私の体は無様にも転がっていった。くそ、失敗した。頭をさすりつつ、体を起こす。
温かな光に迎えられ、私はしばらく呆然と立ち尽くしていた。
そして──。
「っ、リリー!!!」
私は誰かに抱きしめられていた。
少し鼻声の、エマだ。
「もう、ほんっとに⋯⋯無事でよかったぁぁぁぁ!」
なんだか懐かしくて、自然と笑みが零れた。
「ありがとう。エマがくれた物資、すごく役に立った」
「よ゛か゛った゛あ゛あ゛あ゛%×□○×△%!」
後半聞き取り不可能だったが、あんまりツッコむのも無粋というものだ。
エマの頭を撫でつつ、私はジェームズを見た。
「ジェームズ⋯⋯その怪我⋯⋯」
「あー、ちょっと死喰い人の自宅訪問を受けてね」
ジェームズは包帯を巻いた左腕を掲げた。何らかの呪いを受けたのだろう。一応治る傷ではあるらしい。それを聞いて少し安心した。
怪我をしているのはジェームズだけではない。皆多かれ少なかれ、傷を負っている。何とも言えない感情で、私はモゴモゴと労いの言葉をかけた。
ジェームズは隣に座るピーターの首に腕を回した。
「ピーターがいなきゃどうなってたか。ネズミになって死喰い人の首に噛み付いたんだ」
「えへへ⋯⋯」
面映い様子のピーターに、私も嬉しくなった。なんだかんだ自信がついてきたようだ。
友人との交流に興がのってきたあたりで、ダンブルドアがそれを諫めた。
「すまぬが、話があるのじゃ。一旦席に着いてもらえんかな?」
「分かりました」
シリウスが頷いて、どかっと椅子に座る。私はその隣の席に着いたが、くいっとベラトリックスに袖をひかれた。
「りりー⋯⋯」
緊張した様子だ。どうやら見知らぬ人が多くて怯えているらしい。私はベラの手を取って隣に座らせた。
「はい、ベラはここね」
「⋯⋯いやいや待て、え?これ俺の目がおかしいのか⋯⋯?」
シリウスは何度も目をこすった。しかし、変わることのない視界にシャウトした。
「なんで当たり前のようにこいつがいるんだよぉぉぉぉぉ!?」
こいつ、のあたりで指を指され、ベラトリックスはびびった。その目にじんわりと涙が浮かぶ。
これはまずい。
私は簡潔に言った。
「ベラトリックスは忘却術を受けて、記憶を失くしたの。今の彼女は四歳までの記憶しかない。つまり子どもなのよ」
「ほえー、なるほど⋯⋯ってなるわけねーだろーがぁ!!!」
「同意だな。リリー、どうして死喰い人を連れてきたんだ?」
ジェームズにまで問われ、私はうーんと唸る。説明⋯⋯長くなるな。後でしよう。
だが、説明を後回しにしたことで、ベラトリックスを延々と睨みつけるシリウスが誕生した。その間に挟まる私、気まずすぎて泣く。
助けを求めるように視線を周囲に向ける。すると、騎士団員に混じって、謎に鏡が直立していることに気付いた。
「なんか、鏡多くない?どうしたのよこれ」
「両面鏡だよ。ここに来れない人のために、ダンブルドア先生が用意したんだ。監視の目もあるしね」
「なるほどね。⋯⋯あ、マクゴナガル先生だ」
鏡に、厳格そうな顔の先生が映り込んだ。挨拶をすると、マグゴナガル先生は目を見開いた。
「エバンズ⋯⋯よくぞ無事で」
「ご心配をおかけしました」
「ふん、油断したからだぞ」
別の鏡からも声が聞こえた。これはムーディだ。
ムーディは、鏡越しにジェームズとシリウスに話しかけた。
「貴様ら、闇祓いをやめて一週間か。腕は鈍ってないだろうな、ええ?」
「え、二人って闇祓いやめたの!?」
問い詰めると、二人はカラカラと笑った。
「まあね。リリーを捕まえようと躍起になってる闇祓いに見切りをつけたのさ」
「そうそう。あとは、魔法省の監視がウザくて」
世間的には、私は死喰い人。そんな私と親しいジェームズたちも、いろいろ大変だったようだ。
ダンブルドアが立ち上がる。
「本日は皆、集まってくれてありがとう。早速計画を伝える⋯⋯その前に、まずは皆も気になっているであろう二人の紹介をさせてもらおう」
ダンブルドアはベラトリックスに視線を向けた。
「彼女は⋯⋯まぁ、その、悪名高いベラトリックス・レストレンジじゃ。じゃが、先ほどリリーが説明した通り、今のベラトリックスに死喰い人としての記憶はない。無邪気な幼子なのじゃ」
戸惑いを含んだ視線を受け、ベラトリックスは小首を傾げる。「しくいびと?なにそれおいしいの?」とでも言いたげだ。
あんまりにも澄んだ瞳をしているものだから、騎士団員の何名かが親心をくすぐられ呻いていた。
続いて、ファントムの紹介である。
「彼は、やむを得ない事情で仮面をつけておる。あまり気にせぬように」
「せんせー、何で偽名使ってるんですかー?」
遠慮を知らないシリウスが問うと、ファントムはそっちに目をやった。口は閉ざしたままだ。話す気はないらしい。
「いろいろあるのじゃよ、事情が」
ダンブルドアはその言葉で押し切ることにしたようだ。「紹介はこのくらいにしておいて。今回集まってもらったのはほかでもない」と言って、壁に貼られた闇の印の写真にピンを刺した。
「闇陣営に全面戦争を仕掛ける時だと思ったからじゃ」
その言葉を聞き、一同は息を呑んだ。
冷静にムーディが尋ねる。
「ふん。勝算はあるのか、ええ?」
「当然じゃよ。あやつを不死に至らしめるアイテムはすでに押さえた。──リリー、ロックハート、そしてファントムのお陰でな」
「ええ、ええ!皆さん、この私を褒め称えてもいいんですよ?⋯⋯って痛っ、あ、ちょ、ファントム?後頭部の髪の毛を引っ張るのやめて?ハゲるんですけど」
こんなときでもロックハートはロックハートだった。ベラトリックスを無力化というすんばらしい功績があるんだから、もっと慎ましくすればいいのに⋯⋯。
私は話を促した。
「全面戦争と仰ってますが⋯⋯わざわざ敵がそれに乗ってくれる保証はありませんよね。どうするんですか?」
「そこに関しては考えがある。後でおぬしとロックハートに頼み事をさせてほしい」
「⋯⋯?分かりました」
よく分からなかったが、とりあえず頷くに留めた。
今度はジェームズが質問する。
「日時と場所は?」
「一ヶ月とちょっとが過ぎた頃、ちょうどクリスマス休暇が始まる日じゃ」
「それならリーマスも大丈夫だね」
ジェームズに笑顔を向けられ、リーマスは微笑む。しかし、聡い彼はわざわざ「クリスマス休暇」と言われたことで何か察した様子だった。
リーマスは恐る恐る尋ねる。
「校長先生、もしかしてあなたが選んだ舞台は⋯⋯ホグワーツ、ですか?」
ダンブルドアは、重々しく頷いた。
「ああ。儂らの戦いの場はホグワーツ魔法魔術学校じゃ」
*****
「ホグワーツかぁ⋯⋯。卒業以来行くのは初めてかも」
エマが薬草を刻みながら、感慨深そうに呟く。鍋のセッティングを終えた私は、原作を思い出しながらダンブルドアの考えを述べた。
「ホグワーツにはいろいろな防衛魔法がかかってるし、こちらに有利な戦場よね。実は石像とか動くのよ」
「ほんと!?⋯⋯って、なんでそれ知ってるの?」
「ふふふふふ⋯⋯」
無事に記憶を返してもらった私は、意味深に笑った。映画のマクゴナガル先生がウキウキで動かしてて可愛かったなぁ。今回もぜひ、彼女に任せたいところだ。
切った材料を鍋に入れ、良い感じに煮込む。
ジェームズたちの方を見ると、私たちよりも進んでいた。優秀だな、流石。
「あ、シリウスー。これ、どうかな?」
「おお、待ってろ」
エマに呼ばれ、シリウスは大鍋を覗きこむ。
「もう少し混ぜた方がいいんじゃないか?」
「え、ちゃんと回数通りやったけどな⋯⋯」
「貸してくれ」
シリウスはヘラを受け取ると、鍋の様子を見つつ手を加える。
今作っているのはポリジュース薬である。といっても、ポリジュース薬を作るのには約一ヶ月かかるので、完成には程遠いけど。
とりあえず今日進められるところまで終わったので、私たちはソファに座り込んだ。
「お疲れ様。はい、スイーツだよ」
「ごめん、どれか失敗したのが混ざってるから⋯⋯気を付けてね」
リーマス&ピーターによる労いの差し入れに、私たちは盛り上がった。
われ先と言わんばかりにカップケーキにがっついたシリウスは、次の瞬間ぶっ倒れた。「ああ、羽を背負った女の子が見える⋯⋯。その後ろ⋯⋯あれは、神⋯⋯?」などとちょっとアレなことを喋っており、ジェームズがその肩を揺らした。
「戻ってくるんだ、我が友よ!」
「うわぁ、これがエデンか⋯⋯」
「おぉぉぉい!ピーター、何を入れたんだ!?」
ピーターは顔を背けた。背けすぎて、もはや背中を向けている状態である。
「いや⋯⋯元気が出る魔法薬を適量入れたんだけど⋯⋯。その、手が滑って、一個だけドバドバかけちゃったんだよね⋯⋯」
「初っ端からその一個に当たるとか、シリウスやばすぎ」
「ある意味豪運じゃん。良かったね」
かつてシリウスに腹下しの毒入りチョコを食わせたエマさんはのほほんとしていた。つーかシリウス、変なものばっかり食べてて草。
いやまぁ、一ヶ月後には私も仲間入りなんだけど。
私はカップケーキを食べ終えてから、未完成の状態で保存したポリジュース薬を前に腕を組んだ。
これを飲むのは私とロックハートである。ダンブルドアからとあるミッションが下されてね。
私たちはこれを飲んで、魔法省に乗り込む。
そして記者会見を乗っ取り、ヴォルデモートに宣戦布告をするのだ。
誤字報告感謝感激。