【完結】リリー・ポッターの存在否定   作:夜風ミシェル

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英雄編
25.けちらせ!死喰い人の森


 

 クリスマス休暇に入ると、不死鳥の騎士団は皆ホグワーツで寝泊まりすることになった。

 ヴォルデモートの襲撃がいつになるかは分からない。そのため、常に万全の状態で待機しておこうというわけだ。

 大広間で暇を持て余した私は、テーブルの上に積み重ねられた新聞を手に取った。どれも、私とロックハートによる宣戦布告についての記事が一面を飾っている。

 

「日刊予言者新聞は、相変わらずダンブルドアのアンチやってるみたいね⋯⋯。でも、他社のは少し応援するような文章が書かれてる」

 

 隣にいたファントムも記事を覗き込んだ。

 

「新聞はやはり控えめだな。雑誌なんかは完全にエバンズを支持する立場を取っている」

「ほんとだ。見る目あるわね」

 

 私は雑誌を流し読みした。

 

『エバンズには数多の殺人容疑がかかっているが、冤罪の可能性が高い。死喰い人と戦う意志は、誰よりも強く見えた。魔法省の杜撰な捜査で憂き目を見た彼女を応援する声も上がっている』

 

 ほほーん、悪くない。

 私は雑誌から顔を上げた。

 

「こういう記事のおかげで、協力者も増えたってわけね」

 

 大広間には、大勢の人が集っていた。全員が不死鳥の騎士団に所属しているわけではない。彼らはわざわざホグワーツに来て、共に戦う意志を見せたのだ。中には未成年もいたが、少年少女には帰ってもらった。戦争に参加するのは大人だけでいい。

 ざっと数えたところ、味方は百五十人越え。騎士団は人数的に心許なかったし、仲間が増えるのはありがたかった。

 世間的には死喰い人だと思われていた人が、ホグワーツで開戦すると声高に述べる⋯⋯。宣伝効果は高かったようだ。

 

「ホグワーツで戦うということは、すなわちエバンズはダンブルドア側の人間だということ。ダンブルドアは精力的に闇陣営と戦ってきたし、考えを改める人も多かったのだろう」

「それを見越して私に頼んできたダンブルドア先生は流石」

 

 ファントムと真面目な話をしていたら、ベラトリックスに肩をつつかれた。

 

「ちょっと隠れさせて!」

「え?」

「はやく!」

 

 反射的に頷くと、ベラトリックスは私の膝下に座り込んだ。ちらちらと辺りを窺う彼女に釣られて大広間を見渡すと、同じく目線をキョロキョロさせるピーターと目が合った。⋯⋯なるほど、かくれんぼか。

 それを横目に、ファントムが声を顰める。

 

「どうして彼女をここに連れてきたんだ」

「いやまぁ、強いじゃん?ちゃんと指示を出せば死喰い人と戦ってくれそうだし。それに⋯⋯」

 

 私はピーターに手を振った。

 体力のないピーターは、やや疲労を見せながら尋ねる。

 

「リリー、ベラを見なかった?唐突にかくれんぼを始められたんだけど⋯⋯」

 

 私は無言で膝の下を指差した。そこには、一生懸命に体を丸めるベラトリックスがいる。

 空気の読めるピーターは、わざとらしく目を背けた。

 

「全然見つからないな⋯⋯。あっちの方に行ってくるよ」

「頑張れー」

 

 ピーターを見送ってから、私はファントムに向き直った。

 

「⋯⋯と、まぁ。このように、ベラさんはピーターに懐いております。舵取りはバッチリ」

「不安しかない⋯⋯」

 

 げんなりしているファントムに親指を突き出すと、さらにため息をつかれた。

 そこに、陽気な感じで乱入するシリウス。

 

「ため息ついてどしたん?話聞こか?」

「あに⋯⋯あなたは浮かれすぎだ。これから戦えるのが、そんなに楽しみなのか?」

「おうよ!ジェームズを襲って、リリーを傷モノにした奴の仲間を叩きのめす!」

「言い方ぁ⋯⋯」

 

 私は、左腕に入れられた闇の印を撫でた。タトゥーって消せるのかな⋯⋯。一生半袖を着れない生活とか嫌なんだが。

 シリウスは咳払いをして、「こっからはマジの話なんだけど」と声のトーンを下げた。

 

「冬休み入って、かれこれ五日目⋯⋯。これ、本当に敵は来るのか?」

「来るわよ。充分に煽ったし」

「⋯⋯煽るだけで来ると思ってる?」

 

 「こいつの思考は大丈夫か?」と非難するような視線を受け、私は少々真面目くさって答えることにした。

 

「私は記者会見で、分霊箱を四つ見せたでしょ?でも、実はもう一つあるの」

 

 私はファントムから、検知不可能拡大呪文がかかった肩掛け鞄を奪い取った。中身を探り、レイブンクローの髪飾りを取り出す。

 

「これも分霊箱。あ、もちろんすでに壊してるけどね」

「ほえー。⋯⋯で、なんでこれだけ隠したんだ?」

「『存在に気付かれていない分霊箱がある』────例のあの人をそうやって油断させるためよ」

 

 今頃ヴォルデモートは、「ダンブルドアたち、分霊箱を破壊して得意げでウケる。実はもう一個あるのになー!わはは」と私たちを嘲笑っていることだろう。

 そこには必ず、隙が生まれる。

 これが、ダンブルドアが仕込んだ毒だ。

 

「あと、この髪飾りはホグワーツに隠されていたの。ほかの分霊箱が壊されたのなら、残っているものを回収したくなるでしょ?人間の心理的に、もっと安全な場所に隠したくなるはず」

「どっちにしろ、奴は必ずホグワーツに来るってわけか⋯⋯」

 

 シリウスは髪飾りをつまみ上げた。「細工が丁寧。壊されたとはいえ、骨董品としての価値は高いな⋯⋯」と、鑑定家みたいなことを言うので、ついでにほかの分霊箱も査定してもらうことにした。

 鞄をまさぐり、全ての分霊箱をテーブルの上にばら撒いた。そして、なんとなくテキトーに掴んだものを取り出す。

 

「はい、ゴーントの指輪。蘇りの石付きよ」

「おっふ⋯⋯。さらっと死の秘宝を出してくんな」

 

 指輪を目線の高さまで持ち上げると、リング越しにシリウスと目が合った。

 シリウスは一瞬だけ目を伏せて、躊躇いがちに口を開いた。

 

「あの、さ。それ⋯⋯使ってみた?」

「え?」

「だってお前⋯⋯その⋯⋯モリソンさん?とかいう人が殺されたんだろ?」

 

 シリウスの言いたいことが分かって、私は瞠目した。

 蘇りの石を使えば、モリソンと話せる。

 逡巡しながら、指輪を手のひらに載せた。

 そのまま三回転させようとして、私は──。

 

「⋯⋯いや、やめておこうかな」

 

 私は指輪をテーブルの上に置いた。

 今は戦争前という落ち着かない時期だ。それに、モリソンに話したいことも、気持ちも、まとまっていない。うまく話せる自信がなかった。

 

「そうね⋯⋯この戦争が終わったら、モリソンさんと話すわ」

「フラグ建築乙」

 

 シリウスがビシッとツッコミを入れた。すると、背後から芝居がかったセリフが飛んできた。

 

「僕も決めてるんだ。この戦争が終わったら、リリーと結婚するんだ⋯⋯ってね!」

「確定事項にするのやめろ」

「照れないで?だって僕らはカップルでしょ」

「存在しない記憶定期」

 

 キス顔で迫ってくるジェームズとつかみ合っていたら、シリウスが「逃亡の傍ら、分霊箱を集めていたなんて⋯⋯リリーって最高にクールだなっ!!」と拍手を始めた。褒めてくれるのはいいけど、今はそれどころじゃないんだ。しかも私が集めた分霊箱は髪飾りとカップだけだし。ほかのはファントム一人が頑張ってくれたんだよ。

 というような説明を、ジェームズをしばきながら述べる。

 

「ファントムすげー!⋯⋯ってあれ?いなくなってんじゃん」

 

 せっかくシリウスが褒めていたのに、ファントムはいつの間にか姿を消していた。どこ行ったんだあの人⋯⋯。

 シリウスは、ネックレスの鎖を掴んでぶらぶらと揺らした。

 

「これとかもすごい物なんだろ?ファントムはどこで見つけたんだよ⋯⋯」

「ああ⋯⋯。それはスリザリンのロケットね。亡霊が蔓延る洞窟に隠され⋯⋯て⋯⋯た⋯⋯」

 

 ちょっと待て。

 何かが引っかかって私は口を閉ざした。

 脳内を駆け巡るのは、原作でダンブルドアが毒を飲んでで苦しむ姿だ。しかも、何とかゲットしたロケットは偽物で、本物を持ち出したのは────。

 

「R•A•B⋯⋯」

 

 そして今、私の手元にあるスリザリンのロケットを回収したのはファントム。

 顔も名前も、何も教えてくれない仮面の男。

 正体不明で、闇魔法に精通していて、エイブリー邸にも詳しくて。

 

「あ、え?」

 

 私は勢いよく教員席を見た。そこには、いつもの席にダンブルドアが座っている。

 ダンブルドアは、私の視線に気付くと深く頷きを返した。まるで、『おぬしの考えは正解じゃぞ』とでも言うように。

 

「おーい、リリー?何で固まってんだ?」

「⋯⋯」

 

 私は無言でシリウスに目をやった。

 ⋯⋯言った方が、いいのだろうか。いやでも、これが間違っていたら。

 こんな大事なときに、無駄な希望を持たせるべきじゃない。

 瞬きを繰り返しながら悩んでいると、大広間いっぱいにムーディの大声が響き渡った。

 

「ホグワーツ城正面より、こちらに向かう集団の気配あり!総員、持ち場につけ!」

 

 私たちは顔を見合わせた。

 ついに来たのだ。

 ヴォルデモート率いる闇の魔法使いが。

 

 

 

*****

 

 死喰い人との戦闘にあたって、基本は二人組で行動することになっている。

 私はロックハートと。

 ジェームズはシリウスと。

 エマはリーマス。

 ピーターはベラトリックスだ。

 

「いい?ピーター」

 

 私はピーターの肩を掴んだ。

 

「人手が足りないと思って強引にあなたを戦争に巻き込んでしまったけど、絶対に無理はしなくていいから」

 

 ピーターには、救護テントの防衛をお願いした。前線に立たせるつもりはない。つよつよなベラトリックスを相方として配置したので、いざというときにも安全ではある。

 ピーターは震えながら頷いた。そして、ジェームズたちに言う。

 

「みんな⋯⋯気を付けて」

「おう、ピーターもな」

 

 マローダーズは熱いハグを交わすと、それぞれの持ち場に向かって足を運んだ。

 救護テントはホグワーツの最奥に設けた。あそこまで死喰い人が入ってこないように、私たちが守らねば。

 

「ロックハートはこの戦争唯一の未成年だけど。緊張してる?」

 

 私はロックハートの顔を覗き込んだ。

 ロックハートは怯えの一つも見せないで微笑む。

 

「まさか。今日この日は、私のためのステージでしょう」

「いーや、俺の日だから!」

 

 張り合ってくるシリウスをぺちっと叩くロックハート。うん、いつも通りで何より。

 正面玄関に向かうようダンブルドアが指示を出したので、私たちはムーディに続いて後ろに立った。

 ダンブルドアの右斜め後ろに佇むマクゴナガルに気付き、私はこそこそとそちらに移動した。

 マクゴナガルは徐に、杖を翳す。

 

「ピエルトータム・ロコモーター」

 

 すると、ホグワーツ中の石像が動き出した。

 マクゴナガルは私の存在に気がつくと、少し照れながらこう囁いた。

 

「この呪文、一度使ってみたかったんですよ」

 

 ぐうかわ〜〜!!これはまごうことなき天使ッ!生で見れて大満足!

 胸を押さえて悶えていると、ダンブルドアが杖を振ってホグワーツの玄関を開けた。

 こちらに向かって歩みを進めるローブ集団が月明かりに照らされる。

 あれが、死喰い人。

 そして、最前線をただ一人歩いているのが──ヴォルデモートだ。

 ダンブルドアとヴォルデモートは、橋の中央で向かい合った。

 

「久しぶりじゃの、トム」

「ああ⋯⋯。ようやく貴様を殺せる」

「儂は死なんよ」

 

 ダンブルドアは酷く穏やかに、ヴォルデモートに右手を差し出した。

 

「トムよ。中庭で儂と決闘をせぬか?無論、二人きりで」

 

 ヴォルデモートは少しだけ思案したが、やがて頷いた。どうやらダンブルドアの誘いに乗ることにしたらしい。

 これで、ヴォルデモートはダンブルドアに拘束されることとなる。だから、私たちが相手するのは死喰い人だ。

 それぞれの陣営のトップが姿を消す。

 それが、戦争開始の合図だった。

 

「うおおおおお!!!」

 

 死喰い人が雄叫びを上げながら、橋を渡る。

 私たちは後退しながらそれぞれの配置についた。

 ムーディが左手を掲げる。

 

「放てぇぇぇぇ!」

 

 すると、廊下の壁から大砲が現れ、そこからクソ爆弾(改良済み)が放たれた。ホグワーツに侵入した死喰い人は、クソ爆弾の集中砲火を食らって悶絶する。

 大抵の死喰い人は貴族出身だ。彼らには耐え難い臭気を放つことで、戦意喪失を狙っているのである。

 こんな感じのギミックが、ホグワーツの至る所に設置されている。魔改造されていくホグワーツを見た灰色のレディは大泣きしていたが、そんなこと知らんこっちゃない。勝てば良かろうなのだ。

 『ほとんど首なしニック』が壁を貫通して登場。

 

「上層階の窓を破壊して入ってくる敵がいます!それも、ディメンターを五十体連れて!」

「了解!」

 

 隣のエマが呟く。

 

「あちゃー、ディメンター培養されたのか⋯⋯」

「え?」

 

 どういうことだと思って訊くと、なんとエマさん、私に代わってアズカバンの刑務官の職についていたらしい。

 ペチュニアを介して渡したメモ。それを読んで、闇陣営がアズカバンを掌握しようとしてることを把握したエマは、善良な刑務官として働くことにした。スパイのギボンを追い込んで、何とかアズカバンを死守することができたが、すんでのところでギボンに逃げられたという。

 

「逃げるとき、ギボンはディメンターを一体盗んでいってね⋯⋯。多分、そこから増やしたんだろうね」

「あー⋯⋯まあ、ギボン先輩は優秀だものね⋯⋯」

 

 私たちは、上の階から降りてくるディメンターと死喰い人の姿を捉えた。

 杖を上げる。

 

「「エクスペクト・パトローナム!」」

 

 フクロウとユニコーンの守護霊が天井を駆ける。しかし、ディメンターは謎に統制のとれた動きをして、守護霊の攻撃を掻い潜って光陣営に襲いかかっていく。

 守護霊の呪文を完璧に使える人は少ない。そのため、こちらの被害は激しかった。

 

「エクスペクト・パトローナム!」

 

 負けじとジェームズも杖を振るが、ぼんやりと形をなした靄しか出なかった。ガンガン詰めてくるディメンターからジェームズを守るために、守護霊を向かわせる。

 

「まずいわね⋯⋯」

 

 対処しきれないディメンターの軍勢を見て、私は唇を撫でた。圧倒的に守護霊が足りない。それに、ディメンターの動きも厄介だ。軍隊のように緻密な動きをしている。高度な知能を持たないディメンターには不可能だ。恐らく、誰かから指示を受けているのだろう。

 

 その『誰か』とは。

 

「ギボン先輩しかありえない」

 

 何とかしてギボンの元に行かねばならない。けれど今、この場を離れる余裕はない⋯⋯。

 私はペアのロックハートに声をかけた。

 

「ロックハート、三分だけ私の安全を任せるわ」

「⋯⋯わ、分かりました」

 

 ロックハートが頷いたのを確認すると、私はジェームズに杖を向けた。

 

「インペリオ!」

 

 私が使用した魔法に、シリウスがギョッとした。

 

「え、は?おま何してんだ!?」

「許してシリウス!」

「許すとかじゃなくて禁じられてんだよそれ!!戻ってこいじぇーむずうううううう!」

 

 シリウスの視線の先には、恍惚とした表情のジェームズがいた。

 「はぁぁぁぁん♡」だとか、「いい⋯⋯!」とか言いながらビクンビクンしている。魔法を使っておいて言うのも何だが、かなりキモい。センシティブな喘ぎ声を出すんじゃない。BANしちゃうぞ?

 

「リリー、それ犯罪だから!!!」

 

 当然知ってはいるが、いかんせんこの呪文は使い勝手が良い。

 

 なんせインペリオは、守護霊の呪文に必須の、『とてつもない快楽と多幸感』を与えてくれるからだ。

 

 闇魔法のスペシャリスト・ベラトリックス先生に裏でこっそり教えてもらった私にとって、その多幸感を増し増しにするのは造作もなかった。

 私は服従の呪文を終了した。

 

「よっしゃ、やっちゃいなさいジェームズ!」

「エクスペクト・パトローナム!!」

 

 眩い光が杖先から放たれる。それは牡鹿の形を成して、ディメンターどもを蹴散らした。

 服従の呪文とかいう最強おクスリをキメたジェームズは、最早狂気すら感じさせる眼差しでディメンターを見つめた。

 

「滲み出す混濁の紋章

 

 不遜なる狂気の器

 

 湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き・眠りを妨げる

 

 爬行する鉄の、」

 

 

「長文高速詠唱キターーーー!!」

「長ぇわ黙れ!」

 

 

 黒棺を詠唱し、幸福感に溢れるジェームズ!

 

 彼に惹きつけられ、蛍光灯に集う蛾のように羽ばたくディメンター!

 

 ディメンターはジェームズから幸福感や楽しい気分を啜るが、頭のネジがぶっ飛んだジェームズはそんなの気にしなかった!

 

 吸っても吸っても溢れるエネルギーを放ちながら、ジェームズは二体目の守護霊を作った。

 そしてシャウトする。

 

「お前たち最高だぜぇぇぇぇ!!」

 

 変わり果てた親友の姿を見て、シリウスの瞳に涙が浮かんだ。

 

「おい⋯⋯お前ら最悪だぜ⋯⋯」

「ローテンションター○ルトーク?」

 

 

 

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