【完結】リリー・ポッターの存在否定   作:夜風ミシェル

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日曜日投稿、間に合わなかった。


26.かつての縁を結び直して

 

 一階のディメンター処理をジェームズに任せて、私、ロックハート、エマ、そしてリーマスは階段を駆け上がっていた。

 

「ディメンターの侵入経路は四階。つまり、ギボンはそこからディメンターに指示を出してる」

 

 その考察は当たっていたようで、階段を登り切った先にギボンがいた。彼は下層階を覗きながら、笛のようなものを吹いてディメンターを操作していた。

 ギボンと目が合う。

 

「エバンズ⋯⋯。来ると思っていた」

 

 数ヶ月ぶりに見るギボンは、深い影に覆われているようだった。ほかの死喰い人と同じようにローブを纏う姿は、彼が敵であると主張している。以前は刑務官として、共に働いていたのにね。

 

「⋯⋯っ!リリー!」

 

 突然、リーマスに突き飛ばされた。「な、何事!?」と訊こうとした私は、先程まで自分が立っていた場所に、鋭い爪が振り翳されているのを見て慄いた。

 リーマスが憎しみを露わにする。

 

「フェンリール・グレイバック⋯⋯!」

「やぁやぁお仲間さん」

 

 グレイバックは気さくに片手を上げた。それから、リーマスの顔を覗き込む。

 

「よくもまぁ、俺の気配に勘付いたなぁ。野生の勘ってやつか?」

「エクスペリアームス!」

 

 返答の代わりに放たれた魔法をひらりと躱し、グレイバックは愉快そうに笑った。

 リーマスが私に向けて言う。

 

「リリー、ここは僕がやる。君はギボンを」

「分かった」

 

 私は頷いて、さりげなく逃げようとしているギボンを追いかけた。ついてこようとするロックハートとエマには、周囲にいる死喰い人の対応を任せた。

 ギボンは、私がやらなくちゃいけない。

 

「エクスペリアームス!」

 

 武装解除呪文を詠唱し、すかさず無言で全身金縛り術を放つ。同様にギボンも無言呪文を行使する。

 放たれたのは、緑色の光線だ。

 

「レダクトっ!」

 

 咄嗟に近くの扉を破壊し、それを盾にする。しかし、背後から飛んできた魔法に気付かず、皮膚がさっくりと切られた。

 追加で参戦してきた死喰い人は嬉々として、私に杖を向ける。

 

「アバダ──」

「オブリビエイト!」

「──ココハドコ。私ハ誰」

「咄嗟にそんなセリフが言えるなら大丈夫そうですね」

 

 ロックハートによるナイスカバーに感謝だ。

 私は傷を治すと、再びギボンだけに集中することにする。

 

「元同僚のよしみとして、アバダを使わない優しさとかはないんですか?ギボン先輩?」

「そんなのがあれば俺はここにいないよ。クルーシオ!」

「プロテゴ!」

 

 私は盾を展開し、呪文を跳ね返した。ちょっと驚いた顔をしたギボンは、転がるようにそれを避ける。

 ふん、ベラトリックスという最強魔女の元で鍛えられた私の戦闘力に恐れ慄け!

 それから私たちは、攻撃魔法を撃ち合った。当然の如く無言詠唱だけど、何も喋らないわけじゃない。

 

「ちょっと!さっきからやべー魔法ばっかり使うのやめてください!」

「人のこと言えないだろ!見てたぞ、仲間に服従の呪文をぶち当てたところ」

「あれは⋯⋯仕方がなかったんですぅー!」

「これで君も立派な犯罪者か。ようこそ、こちら側へ」

「う、う、うるさいわ!」

 

 これ、勝っても負けても犯罪者ルート確定なのでは?

 嫌な想像をしてしまい、慌てて脳内からかき消した。大丈夫だ、こんな乱戦が終わってから密告するようなやつはいないだろう。⋯⋯いないですよね?

 

「つーか、あれはあなたがディメンターを放したからですし!私のせいじゃない!」

「⋯⋯まぁ、そうとも言える」

「そうだとしか言えんわ!エクスペクト・パトローナム!」

 

 いつの間にか近付いていたディメンターを、守護霊で蹴散らす。しかし、ギボンが笛を鳴らすと、ディメンターが舞い戻ってきた。

 

「ああもう、邪魔!」

「アバダ──」

 

 ディメンターに気を取られた瞬間、ギボンがアバダを放とうと杖を振りかざした。

 私の左側には、ディメンター。

 反射的に右側へ飛ぶと、待ち構えていたかのように飛んできた魔法に被弾した。

 

「うわっ!?」

 

 体に鎖が巻き付く。それは金属の擦れる音を響かせながら、全身の関節をギチギチに締め上げる。

 まずいまずいまずいちょっと待て、これアカンやつ。

 骨が、折れ、

 

「⋯⋯っああああああああ!!」

 

 肩が外れる音がした。

 あまりの痛みに嫌な汗が滲む。

 ギボンは私に浮遊呪文をかけると、そのまま床に叩きつけた。

 無様に転がる私の眉間に杖を突きつけて、ギボンは。

 

「あばよ、犯罪者」

 

 

 

 

「⋯⋯それはてめぇも同じでしょーがぁぁぁ!!コンフリンゴ・マキシマ!」

 

 

 

 私は何とか杖を振って、床を爆発させた。

 エグいレベルで広がった爆発は、床に大穴を開けた。怒りやら恐怖やらのおかげか、爆発の影響はかなり深部まで届いたようだった。踏みとどまる力の出ない私は、当然落ちるしかない。

 だがしかし!

 

「道連れじゃ!」

 

 私はギボンのローブの裾を掴んだ。肩が痛い?それが何だ!むしろ肩が外れたおかげで腕が長くなって良かったわ!

 そして私たちは下の階に落下。

 地面に着地した瞬間、私はギボンの頭を蹴り飛ばした。

 

「いだっ!インカーセラ──ぐあっ!?」

 

 今度は顎に向かって膝蹴りをかますことで、魔法を使えなくさせた。

 軽い脳震盪を起こしたようで、フラフラするギボン。

 

「おい⋯⋯君、魔法は⋯⋯?」

「これは顎集中魔法です」

「ただの脳筋⋯⋯」

 

 倒れ込んだギボンの胸元を踏みつけながら、私は肩の関節を嵌めた。

 

「い゛い゛い゛い゛たい⋯⋯!」

 

 痛い。けど、私は生きている。

 最後に「エピスキー」と唱えることで、これまでの負傷はほぼなかったことになる。肩が外れたり落ちたりしたけど、杖を手放さなかった自分を褒めたい。

 それから私はギボンの杖を折った。悪あがきでディメンターを呼ぼうとするギボンから、すかさず笛を奪う。

 

「これを使えばディメンターに指示を出せるんですよね。これ、何ですか?」

「俺が発明した⋯⋯。ディメンターを操れ、と命令されて⋯⋯」

「はへー。あなた、発明家になった方が良かったんじゃないですか」

 

「そうかもな」とギボンは僅かに笑った。

 

「あーあ⋯⋯」

 

 大穴の空いた天井を見つめながら、ギボンは深くため息をついた。

 

「⋯⋯君が羨ましい」

「え?」

「眩しいよ、本当に」

 

 ギボンの声は震えていた。泣いているわけではないけれど、泣く一歩手前のような顔をしている。

 

「真っ向から闇の帝王と戦うなんて、普通の人にはできない」

「真っ向⋯⋯いや、うん⋯⋯」

 

 原作知識をダンブルドアに伝えるとかいう荒技を使ったのが、真っ向勝負なのかと聞かれると、うむ⋯⋯。

 微妙な反応の私に気付かず、ギボンは私に問いかけた。

 

「ある日、死喰い人の幹部直々に勧誘を受けた。協力しなければ殺すという。⋯⋯君ならどうした?」

「そんなの、決まってるでしょう」

 

 私は自信満々に答えた。

 

「その場では『うわーお誘いいただけるなんて超嬉しい是非に!』だのなんだの適当に言っておいて、死喰い人が帰った瞬間国外に逃げる」

「⋯⋯は、え?」

「屋敷しもべ妖精を使って、家族の身の安全を守ってもらうのもいいですね。ギボン家は名家ですし、しもべの一匹や二匹はいるでしょ」

「いるけど⋯⋯」

「ちなみにですけど、逃亡先は日本がおすすめですよ。ご飯おいしい」

「ちょっと待て、君、戦わないのかよ」

「当たり前じゃないですかー。誰が好き好んで、死喰い人とバチバチにやりたいなんて思うんです?」

 

 私がリリー・エバンズではなく、別のモブキャラだったなら。

 絶対私は戦わなかった。

 原作を邪魔せず、来たる平和まで静かに暮らしていたに違いない。

 

「⋯⋯エバンズって、本当にグリフィンドール出身か?小賢しすぎる」

「失礼な」

「でも、君らしい解答な気もする」

 

 ギボンは、何か憑き物が落ちたような、すっきりした表情をしていた。それを見て、言い返そうとしていた私は口を閉じる。

 

「アズカバンで好き放題してた君の方がよっぽど、真っ当に生きていたんだなって思うよ」

「⋯⋯」

 

 私は、近くを浮遊するディメンターをちらと見た。

 エマの話によると、ギボンが持ち去ったディメンターは一体。それが、ここまで増えたということは⋯⋯犠牲になった魔法使いが大勢いるということだろう。

 その過程で、ギボンが何を思ったのか。心境の変化は。

 ギボンは語らない。私の想像に委ねているのだろう。

 

「はいはい、じゃあ少し放置プレイしますけどギボン先輩なら大丈夫ですね」

「は?何しようとして⋯⋯」

「ステューピファイ!」

 

 超至近距離から失神呪文を喰らったギボンの体が吹っ飛んだ。そのまま近くの教室にぶち込んでおく。途中、壁やら床やらに顔をぶつけたけど、まぁそれくらい許されるだろう。なんせこっちは脱臼したので。

 笛を使ってディメンターを呼び寄せる。彼らは、ギボンの隣の教室に閉じ込めておこう。

 厳重に鍵をかけたところで、どっと疲れが押し寄せてきた。一度冷静になると、色々と痛みに気付くんだよなー。私はもう一度肩に治癒魔法をかけた。

 私も結構ふらふらだ。誰かと合流したいところだけど⋯⋯などと考えていたら、曲がり角から数十人の死喰い人が走り寄ってきた。

 

「エバンズだ!殺せ!」

「アバダケダブラ!」

「私も有名人になったなぁ」

 

 重い体に鞭を打って、私は杖腕を上げた。いやぁ、でもきついな⋯⋯。

 

「──俺だって、有名になってやる!」

 

 私の背後から、武装解除呪文の光線が二本飛来した。

 

「え、シリウス⋯⋯って、あ」

 

 思わずふらついた体を支えてくれたのはファントムだった。相変わらず仮面をつけていて、一瞬敵かと思って心拍数が上がったのは内緒だ。

 シリウスとファントムは私の前に立つと、死喰い人を薙ぎ倒していく。その間に深呼吸をして、意識を整えた。

 よし、いける。まだ戦えそうだ。

 あらかた片付け終わったシリウスに声をかけた。

 

「シリウス、あなたのペアはジェームズだったはずじゃ⋯⋯」

「どっかの誰かさんがあいつの頭を捻じ曲げたせいで、一人勝手に死喰い人に突っ込んでいったぞ。それで見失った」

「なるほどねー、誰だろー、そんな酷いことする人は」

「お前だよ」

 

 どうやらジェームズは未だハイになっているようだった。うん、すまんね。

 一通り死喰い人を倒し切ると、シリウスは私に治癒魔法を重ねがけした。

 とはいえ、こんな廊下でのんびりできるわけもなく。

 

「シリウス、エバンズ!死喰い人追加だ」

「おかわり早ぇーよ。あいつらゴキブリか?」

「人語を解するゴキブリ、か⋯⋯。キモ」

 

 私は立ち上がった。多少の怠さはあるけど、かなり動けそうだ。

 シリウスが率先して敵に向かっていく。私もカバーに入る形で参戦した。

 

「シリウス・ブラックは裏切り者だ!絶対に殺せ!」

 

 複数人がシリウスを取り囲む。流石のシリウスも、捌ききれない。

 何かの呪文で腕から血を噴き出したシリウスを見て、ファントムが声を荒げた。

 

「やめろ!アバダケダブラ!」

 

 こんなにも余裕のないファントムを見るのは初めてだった。少し意外。

 ファントムの放った死の呪いで、バッタバッタと死んでいく死喰い人たち。そこで、シリウスよりも優先して排除すべきだと考えたのだろう、一人の死喰い人がファントムに杖先を向けた。

 シリウスを守るのに必死なファントムは、それに気付いていない。

 まずい!

 

「アクシオ・ファントム!」

「アバダケダブラ!」

 

 呼び寄せ呪文によって私の元に飛んでくるファントム。

 ギリギリで直撃を免れた緑の光線は、ファントムの耳元を掠めた。

 

 

 カタン。

 

 

「あっ⋯⋯」

 

 ファントムの仮面が落ちた。仮面を固定していた紐が切れたらしい。

 仮面の下の素顔が露わになる。

 唇を震わせながら、ファントムは顔を上げた。

 色白で、端正な顔立ち。

 それは、シリウスによく似ていた(、、、、、、、、、、、)

 

「え⋯⋯」

 

 勿論驚いたが、それと同時に、『やっぱりな⋯⋯』という気もした。

 スリザリンのロケットを回収できるのは、()しかいないから。

 

 

 

 

 

 

 

「レギュラス⋯⋯?」

 

 

 

 

 

 

 騒々しい空間で、シリウスの声だけが、やけに大きく聞こえた。

 

 

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