【完結】リリー・ポッターの存在否定   作:夜風ミシェル

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28.リアルとメタ、あるいはフィクション

 

 黒兄弟生存IFとかいうオタクの妄想が現実になった今、私は燃えていた。非常に、燃えていた。

 なので、調子に乗って一人でずんどこ進んでいた。

 それが良くなかったのだろう。

 

「アバダケダブラ!」

 

 死角から飛んできた死の呪いを、仰け反りながら躱わす。しかし、足元にあった死体に躓いて転びそうになった。

 敵はその隙を見逃さない。

 

「「「エクスペリアームス!」」」

 

 三方向からの魔法を捌ききれず、私の体は宙を舞った。

 ちなみに──というか、かなり重要な要素なのだが、今私がいる場所は動く階段付近である。下を覗けば、一階で戦っているムーディが見えたりするような位置である。

 Q.そんなところで吹っ飛ばされたらどうなる?

 A.こうなる。

 

「あばばばばば」

 

 私の体は、重力に抗うことなく落下し始めた。このままいけば、ぺしゃんこになること間違いなしだ。

 私は空中で身を捻って、落下予測地点に向かって衰え呪文を放つ。

 

「スポンジファイ!⋯⋯って、うわああああああぁぁぁぁ!?」

 

 突如、引っ張られるような感覚と共に体が勝手に動いた。気分は、クレーンゲームで運搬されるぬいぐるみ。ふよふよと浮遊し、そのまま、二階の地面に優しく降ろされる。

 誰かが魔法を使って、助けてくれた。

 私は瞬時に辺りを見回した。

 二階のこの場所は、既に戦闘が終わったようだった。転がる骸と、へろへろになっている味方軍がいるのみ。

 ──いや、違う。

 視界の端で、こそこそ逃げようとする人影を捕捉した。

 後ろ姿しか見えないけれど、間違いない。私に分からないわけがない。

 私は叫んだ。

 

 

「セブルスーーーッ!!」

 

 

 私を助けてくれたのは、幼馴染だった。

 

 

 セブルスはちっとも振り向いてくれない。

 私は床に「グリセオ」と魔法をかけた。摩擦力のない床を滑ると、セブルスとの距離がみるみる小さくなっていく。

 前もこうやって、逃げるセブルスを追ったな。あの時はエイブリーの邪魔が入ったけど、あいつは今ムショにいる。私を阻むものは、何もない。

 そして、私の指先はセブルスの袖を掴んだ。

 確かな感触。

 どうしようもないほどに離れていた私たちは、ようやくその距離を埋めたのだ。

 

 とはいえ、人間の体はいきなり急停止できるように設計されていない。

 つんのめった私。

 当然、セブルスもバランスを崩す。

 私たちは仲良く床を転がり、どこかの教室に飛び込んだ。

 

「いってぇ⋯⋯」

 

 痛む肩を押さえつつ、セブルスを見る。あっちは尻を打ったようで悶絶していた。お尻って地味に痛いよね。分かる。

 私はがっちりとセブルスの腕を掴んだ。

 

「逃げるなんて酷いわ、リリー泣いちゃう」

「⋯⋯」

 

 無言のセブルス。逃げられないことを悟っても、目を逸らして私から距離を取ろうとしている。

 私はセブルスに顔を近づけた。

 

「なんか色々話すより、見てもらった方が早いと思うの。だから──レジリメンス」

 

 開心術。

 うまくれば幻覚を見せることもできるという魔法を用いて、セブルスに全ての景色を見せる。

 ジェームズにインペリオを使った記憶──レギュラスと銀行強盗した記憶──ベラトリックスにアバダを使おうとした記憶──。まるでリモコンで巻き戻しているかのように、映像が切り替わる。

 そして、私が前世の記憶を思い出した場面に差し掛かった。

 

「⋯⋯はっ、はぁ、うあ⋯⋯」

 

 セブルスは頭を抱えてうずくまる。背中を撫でようとしたが、すんでのところで躱されてしまった。

 顔を上げたセブルスの瞳は、驚愕に満ちていた。

 彼は全てを見た。

 児童文芸としての『ハリー・ポッター』。映像化された世界。

 私たちは、虚構に生きる者。

 

「君は⋯⋯リリーじゃ⋯⋯ない⋯⋯?」

 

 か細い問いに、私は悪戯っぽく笑ってみせた。

 

「いいえ、私はリリーよ」

 

 ずっと考えていた。

 セブルスとの間にできた溝を、どうすれば埋められるか。

 私たちの距離は、思想の違いだけじゃない。二次元と三次元という、世界線の違いもあるのだ。

 だったらいっそ、その全てをセブルスに見せればいい。

 リアルとメタとフィクションがぐちゃぐちゃに混ざって、ようやく私たちは向き合える。

 

「セブルスとのあれこれ。私はそれを知識として知っているけど、同時に経験もしている。美しい思い出は確かに、私の中に脈打ってるのよ。⋯⋯なんて言いながら、前の私はそんなこと意識していなかったけど」

 

 以前までの私は、セブルスを『ただのキャラクター』としか見ていなかった。だから呑気に、「味方につけよー。そのために喧嘩とかはしないでおこう」だとか思っていた。笑えるね。この世界で、私たちはちゃんと生きているのに。

 だから本当に。

 

「ごめんね、セブルス。私はあなたを利用しようとしていた」

 

 私は卑怯だ。

 セブルスと真っ当に向き合っていなかった。

 目を伏せるセブルス。

 

「⋯⋯狡いのは僕だ。闇の魔術をやめられないのを、君のせいにして」

 

 セブルスは辛そうに胸の辺りを押さえた。

 

「リリーといるのは楽しかった。手放したくなかった。でも、友人と闇の魔術を使ってるときも笑えたんだ。結局僕は、リリーと闇の魔術、どちらかを選ぶことなんてできなかっただけ」

 

 教室は沈黙に満ちていた。木製の机と椅子、それから黒板が、私たちの告解に耳を傾けている。

 

「リリー⋯⋯すまない」

 

 セブルスはつっかえながら、謝罪の言葉を述べる。それに対して私は、ただゆるゆると首を振るだけだ。

 愚かで卑怯な私たちは、互いを許し合うことしかできない。

 でも、それで充分だと思う。

 

「リリー」

「なあに?」

「君が好きだ」

 

 告白だった。

 私は微笑む。

 

「うん、知ってた」

 

 そして。

 

 

 

 

「ごめんね」

 

 

 

 

 

*****

 

 「さて」と言いながら私は立ち上がる。

 

「私はそろそろ行くわ。セブルスはどうする?」

「『どうする?』って⋯⋯え?」

「つまり、死喰い人として動くのか訊いてるの」

 

 もちろん、その場合ここでセブルスをしばくことになるだろうが。

 仲直りしたとはいえ、敵なら容赦しないのがこの私である。

 びびったセブルスは、ぶんぶん首を横に振った。

 

「いいや。死喰い人はもう終わりだ。それに⋯⋯」

 

 セブルスは照れくさそうに頬を掻いた。

 

「君の好きな『スネイプ先生』に、負けたくないから」

「⋯⋯⋯⋯あはははははっ!!」

 

 予想外の言葉だった。大笑いする私に、セブルスは少々不満げな顔だ。

 

「てことは何、私を守ってくれるのかな?」

「⋯⋯うん、そういうこと」

 

 私はにんまりした。頼もしい護衛がついたな。

 

「でもごめんね。護衛してくれたからってセブルスのこと好きになるようなちょろい女じゃないから」

「分かってるけど!?」

「落ち着いて?⋯⋯まぁ、セブルスにとっては、私が前世の記憶を思い出してくれて良かったわよねぇ」

 

 私は腕を組んで、頷きを繰り返した。「どういう意味?」と質問を返すセブルスに、パチッとウインクを飛ばす。

 

「だってさ、順当にいけば私ってジェームズと結婚してたわけでしょ?それってセブルスからしたらもう最悪よ。好きな人が、自分を虐めてきた男と結ばれるとか、凄まじい脳破壊じゃない」

「の、脳破壊⋯⋯?」

「そ。最早木っ端微塵レベルの──」

 

 ふと、窓ガラス越しに何かの影が見えた。段々と大きくなって見えるのは気のせいだろうか?

 

「何あれ、飛んでる⋯⋯?」

「リリー、さっきから君は何を言ってるんだ?」

「⋯⋯あれは、鳥だ!!」

 

 その影の正体が分かると同時に、バードが窓にストライクしてきた。

 

「ぎゃああああぁぁぁぁ!?」

「えええぇぇぇぇぇぇ⋯⋯?」

 

 降り注ぐガラスの破片!

 その間を縫うように飛び込んできた鳥は──あろうことか、私にダイレクトアタックをぶちかましてきた。

 

「ぐはぁっ!!」

「り、リリィィィィー!」

 

 壁まで吹っ飛ばされる私。頭を強かにぶつけ、自然と涙が零れる。

 

「このっ⋯⋯アホ鳥!危うく私の脳が(物理的に)破壊されるところだったわ!許せん、チキンにしてやるぅぅぅ!!」

 

 着火してやろうと思って、私は杖を振り翳した。しかし、それより早く、鳥が勝手に燃え始めた。『誰かに殺されるくらいなら自決してやる!』という、誇り高い鳥だったようだ。天晴れ。

 

「いや、これって不死鳥だろう?」

 

 セブルスの冷静なツッコミが入った。

 知り合い(?)の不死鳥といえば、一羽しかいない。ダンブルドアのペット、フォークスだろう。

 私は頭を押さえつつ、灰になったフォークスに近付いた。その隣には、フォークスが咥えていた組分け帽子が転がっている。

 

「なんでこれが⋯⋯?」

 

 私は帽子を拾い上げた。

 わざわざこれを運んできたということは、ダンブルドアからのメッセージなのだろう。今、ダンブルドアはヴォルデモートと絶賛交戦中。故に、フォークスを使って私に指示を出したものだと思われるが⋯⋯。

 

「組分け帽子といえば、グリフィンドールの剣。グリフィンドールの剣といえば、分霊箱⋯⋯?」

「え⋯⋯?でも、分霊箱は君たちが破壊したって⋯⋯」

「⋯⋯まさか、そういうこと!?」

 

 私の脳細胞が、久しぶりに活性化した。

 私は組分け帽子を被った。

 

「帽子さん?あのぉ、ダンブルドアがあなたを連れて蛇退治したことってあります?」

「蛇?⋯⋯ああ、バジリスクのことかな。それなら確かに、アルバスが倒したよ。あと、グリフィンドールの剣を抜いて毒を付与していた」

 

 やはりか。

 予想が的中して嬉しい反面、面倒なことになったな⋯⋯とため息をついた。

 

 ヴォルデモートの分霊箱は、もう一つある。

 

 恐らく、ダンブルドアはヴォルデモートを一度殺した。にも関わらず、ヴォルデモートは死ななかった。だからダンブルドアは、組分け帽子を私の元に届けることでそれを伝えようとしたのだ。ダンブルドアはヴォルデモートから離れられないし、前世の知識がある私なら察してくれるだろうと信じて。

 ナイスパスだ。

 受け取りましたよ、ダンブルドア!

 

「セブルス!最近ご主人様♡が分霊箱作ったりしなかった?」

「ハートつけるのやめてくれ。それに⋯⋯そんな重要な話、僕に知らされるわけないだろう?」

 

 そうなのか?原作じゃ、結構信頼されてた気がするけど⋯⋯。現段階では、そこまでじゃないのかな。

 いやまぁ、ぶっちゃけ?信頼云々はどうでも良かったりする。

 

「あなたのご主人様、分霊箱の扱い雑だし。多分屋敷の目立つ所に置いてたりするわよ」

「えぇ⋯⋯?」

 

 セブルスは首を傾げ、なんとか思い出そうとしている。それからしばらくして、ふとこう言った。

 

「君、さっき蛇がどうこう言ってたが⋯⋯そういえばあの人も、最近蛇を飼い始めたんだ」

「え、それってナギニって名前だったりする?」

「どうして知ってるんだ?」

 

 当たりだった。

 どうやらヴォルデモートは、原作より大分早い時期にナギニを分霊箱にしたらしい。まぁ、魔法大戦が始まった以上、ヴォルデモートの行動もいろいろ変わって当然か。

 分霊箱の目星はついた。そして、破壊する手段も得た。

 私は唾を飲み込むと、恐る恐る組分け帽子に手を伸ばした。

 

「じゃあ⋯⋯グリフィンドールの剣、取るわよ」

 

 このとき、私の心は穏やかだった。自分で言うのもなんだけど、私って結構頑張ってきたから、剣を抜く素質はあるはすだ。それに、ここまでお膳立てされて、まさか剣が抜けない──なんてこと、あるわけがない。それにほら、二次創作じゃ割と皆ポンポン抜いてる気がするし。

 だから私だって、取れるはずだった。

 

 即落ち二コマ。

 私の手は、何も掴めなかった。

 

「えっ?」

 

 私は手の平を握ったり開いたりを繰り返す。ちょっと⋯⋯調子が悪いのかな?私はもう一度、組分け帽子に手を伸ばした。

 頼む、剣よ、出てこい。てか出てくださいお願いします。私、主人公だぞ?(圧)このままじゃただの恥ずかしい奴になっちゃうんで、ちょ、マジでお願い⋯⋯。

 しかし、現実は無情であった。

 グリフィンドールの剣は現れない。

 

「おい⋯⋯ちょっと⋯⋯マ?」

 

 私の頬を、冷や汗が伝った。

 

 

 悲報:リリー・エバンズ、グリフィンドールの剣を取ることができなかった!!

 

 

「ふざけんなよ帽子ぃぃぃっ!なんで!?私ってば、かなり勇気ある行動してきたでしょ?列車で死喰い人と戦ったり、ベラさんと戦ったり、銀行強盗したりさぁ!」

「最後のは犯罪だが⋯⋯。私にキレても無駄だ。剣を出すのは、私の意思ではないからね」

「ゴドリックさーん!『真のグリフィンドール生』ってなんなんだよぉぉぉ!!」

 

 この流れで抜けないのおかしいだろ!こんな⋯⋯こんなことが、許されていいのか!?

 大泣きする私。床に染み込む涙が、赤い。

 見かねた帽子が口を開いた。

 

「あー⋯⋯君の場合、勇気と野蛮を履き違えているような気がしなくもない」

「失礼ね。どっかの海に沈めるわよ!」

「そういうところだぞ?」

 

 いや、諦めるにはまだ早い!私はセブルスに詰め寄った。

 

「セブルス!あなたなら取れるはず!」

 

 無理やりセブルスにもやらせたが、結果は芳しくない。終わった、剣がないと分霊箱壊せないのに⋯⋯。よもやダンブルドアも、私が剣を抜けないとは思わなかっただろう。

 

「セブルスって、悪霊の火使える?」

「流石に無理だな⋯⋯」

「⋯⋯これ、どうすればいいの?」

「剣に触れる人、あるいは悪霊の火を扱える人を見つけるしか⋯⋯」

 

 セブルスの提案に、私はゆっくりと首を縦に動かした。それしかない。

 私は組分け帽子を被った。

 

「じゃ、私は人を探してくる。セブルスは、例の蛇を頼むわね」

「分かった。⋯⋯リリー、気を付けて」

 

 心配そうなセブルスに、笑い返す。

 

「あなたもね。死喰い人から離反したこと、ほかの人にバレないように」

「ああ」

 

 一度目を合わせて、私たちは別れた。

 頭上の帽子が問いかけてくる。

 

「『真のグリフィンドール生』に心当たりはあるのか?」

「一応、友人に片っ端から当たってみるつもり。あ、でもファント──レギュラスもいけるのか⋯⋯?」

 

 彼はスリザリン生だが、試す価値はある。それに、レギュラスなら悪霊の火を使えるかもしれない。淡い期待を胸に、私は三階に上がった。

 シリウスとレギュラスが戦っていた場所まで戻ってきたが、二人は既にいなくなっていた。どうしたものか、と思案しつつ、とりあえず友人を探すことにした。

 あまり目立たないように、戦場の隅っこをこそこそ移動する。⋯⋯すると、非常に聞き馴染みのある声が聞こえてきた。

 

「お前ら雑魚!アバダケダブラァァァ!」

 

 ベラトリックスである。杖を片手に、死喰い人をばっさばっさ薙ぎ倒していく。その影に隠れつつ、地道にフォローするのはピーターだ。

 攻撃が止むのを待って、私は二人に話しかけた。

 ピーターとベラトリックスは、救護テントを守っていたはずだ。それがどうして、こんなところにいるのだろう。そう尋ねると、どうやら大変なことがあったらしい。

 

「医療班のところにまで死喰い人が迫ってきて⋯⋯。時間稼ぎのために、僕らが敵を引きつけたんだ」

「ベラ、いっぱい敵をたおしたよー。ほめてリリー!」

「⋯⋯さ、流石」

 

 あなたも元々は敵だったんですけどね。改めて、この人にオブリビエイトしておいて良かったなと思う。

 無邪気なベラトリックスの頭を撫でてやる。ベラは嬉しそうに目を細めた。

 

「あのね、ピーターもがんばってたよ!皆をまもるために、率先してテント出たの!だからピーターもほめてあげて」

「え、いや、僕は別に⋯⋯」

 

 目を逸らすピーター。だが、不死鳥の騎士団に所属しているわけでもない彼が、ここまでついてきてくれたこと自体、凄いことなのだ。とても勇敢だと言えよう。

 そう、勇敢⋯⋯。

 

「⋯⋯ピーターなら、できるかも」

 

 「え?」と首を傾げるピーターに、組分け帽子を押し付けた。簡潔に説明してから、私は頭を下げる。

 

「お願い、ピーター。剣を抜いて、分霊箱を破壊して」

 

 

 

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