不死身のヴォルデモート(こう書くとヤンキーみたいだな⋯⋯)の秘密は、分霊箱。つまり、ヴォルデモート殺害RTAを走るとしたら、最速は『ダンブルドアに自分の知識を与える』ことである。
と、いうことで今から校長室に向かいます。
レイブンクローの髪飾りを添えて。
私の話を聞いたダンブルドアは、そりゃもうびっくらぽんだった。
「なんと。そのようなことがあるとは⋯⋯」
「ええ、私としても驚きで」
「じゃが、話してくれたことに感謝する」
ダンブルドアは目を細めた。その仕草に前世の祖父を思い出す。なんか落ち着くわぁ。
私は勧められたコーヒーを口に含んだ。
「それで分霊箱は、現段階で5個⋯⋯あやつがしたことは、到底人のそれではない」
「やばいですよね。この後ナギニも分霊箱にしますし」
「君の息子も、じゃろ?」
「いや産みませんから!」
思わずツッコむと、ダンブルドアはほっほっほっ⋯⋯と笑った。ジェリリは私が阻止しますよ?
「いやぁ、ダンブルドア校長が全てを知っていると思うと安心ですね!例のあの人を宜しくお願いします。勿論私も協力できることはします」
「ありがたい限りじゃのぉ」
私たちは、明るい未来に乾杯した。これで大体の原作キャラの死を防げる。やっぱりこれが一番手っ取り早いのよね〜。
ダンブルドアは笑顔のまま、カップをソーサーに戻した。
「じゃがのぅ、君のような学生が知っていても良いことではない」
私は首を傾げた。
「どういうことですか?」
「今の君は、特段戦闘力が優れているわけでもなかろう?」
「ええ、そうですが⋯⋯」
「今も、開心術に全く気付いておらん」
「⋯⋯」
顔を背けたが、もう手遅れである。乙女の心を勝手に覗くのはやめてくれ!
ダンブルドアは茶目っ気たっぷりにウインクした。
「すまぬ。⋯⋯が、おぬしの持つ知識は筒抜け、どこからヴォルデモート陣営に漏れるかも分からん」
「た、確かに⋯⋯ここには未来の死喰い人がいっぱいいますからね」
「それに、あやつらには悟られてはならんのじゃ。『分霊箱の存在を、こちらも知っている』ということを」
分霊箱の隠し場所を、ヴォルデモートが変える可能性があるからか。もしそうなれば、原作以上に面倒くさい。
「じゃあ⋯⋯あ、閉心術を学びます」
「それもアリじゃが⋯⋯確実ではないし、すぐに身につくものでもなかろう」
それはそう。
うーん⋯⋯私、弱くね?
転生にありがちなチートスキルはないのか!
私はため息をついた。
「どうしたらいいですかね⋯⋯」
「一つ、手がある」
ダンブルドアは立ち上がる。
そして、ローブから杖を引き抜いた。
「オブリビエイト」
カップが割れる音で、はっとした。
「あ、あれ?私は何を⋯⋯」
「大丈夫かね、リリー」
「え、ダンブルドア?」
何故か目の前にはダンブルドアがいた。しかもここ、校長室じゃね?何で私がここに⋯⋯。
動揺する私の気持ちを読んだように、ダンブルドアが答えた。
「何、ちょっと老人とのティータイムに付き合ってもらっただけじゃ。不思議な話も聞けて楽しかったのぅ」
「そ、それは良かったです⋯⋯?」
「ああ、それとこれ」
ダンブルドアは一枚の紙を手渡した。
「これを掲示板に貼っておいてくれんかのぉ。お礼は、このコーヒー豆ということで」
「ええ?わ、分かりました」
私は反射的に麻袋を受け取った。中から香ばしい匂いがする。
「じゃ、よろしく」
半ば追い出すようにして手を振るダンブルドアに会釈して、私は校長室を出た。ふらふらと、まるで夢遊病者のように歩く。
「⋯⋯何で私、校長室に行ったんだっけ。えーっと、確か話したいことがあって⋯⋯」
私は頭を押さえた。
「そう、前世の話を教えたくて⋯⋯。あれ、そもそもどうして話そうと思ったのだっけ⋯⋯?」
駄目だ、何故か思い出せない。しかも、具体的には何を教えたのかも分からなくなっていた。
私は、ダンブルドアから貰った紙を開いた。ここに何かヒントがあるのではないかと思ったからだ。
紙には、とあるイベントが開催されると書いてあった。
聞いたことのある名前に、目が丸くなる。
「⋯⋯決闘クラブ!?」
*****
『ハリー・ポッターと秘密の部屋』で開かれた決闘クラブ。
どうやら親世代でもやっていたらしい。
エマは興奮した様子で「何これ、楽しそう!」と言っていた。
「リリーも参加するよね?」
「ええ、是非したいわ」
なんせバチバチの戦闘ができるからね!スリルが味わえる。
この決闘クラブでは、初回に決闘のマナーを学んで、次回からトーナメント制で戦っていくのだという。オラ、ワクワクすっぞ!
「勿論、僕も出るよ」
横からジェームズが顔を見せた。あなたには聞いてない。不機嫌な私を気にせず、ジェームズは「リリーのために頑張るよ」と歯をキラーンとさせた。いちいち仕草がやかましいな、この人。
「えーと、名前を書いて提出すればいいのね。で、その紙がこれで⋯⋯。っあ」
「リ、リリー⋯⋯」
紙に手を伸ばした私は、セブルスにぶつかってしまった。挙動不審なセブルスは、何度も唾を飲み込んでから口を開いた。
「僕も参加する」
「そう。お互い頑張りましょう」
私は微笑んだ。話すのはかなり久しぶりな気がした。
私がああ言ったおかげか、セブルスがマグル生まれの生徒を馬鹿にする場面を見るのはかなり減った。しかし、未だにスリザリン生⋯⋯未来の死喰い人とつるんでいる。まぁ、同じ寮だしそれは仕方ないかもねぇ。
セブルスは拳を握りしめた。
「リリー、僕は⋯⋯この決闘クラブで、君に知ってほしい。僕の魔法が、強いってことを」
「え、それって闇の魔術?流石にやめなさいよ」
同じホグワーツ生に、何をしようって言うんだ!止めるのは当たり前である。
セブルスは「そんな危険な魔法は使わないよ」と言ったが、そういう問題ではないだろ!
「絶対ポッターにも勝つ。だから、見てくれ」
お、おう⋯⋯。
あまりにも真っ直ぐな目に、私は怯んだ。その隙にセブルスは人混みを抜けて、スリザリン集団の中に戻っていった。
あー、どうせならあの名言──『僕を見てくれ』って言ってくれたら良かったのに⋯⋯!!
楽観主義者で欲丸出しの私は、そんなことを思った。
決闘クラブを取り仕切るのは、『闇の魔術に対する防衛術』教授、ベーカー先生だ。彼女は腕の立つ魔法使いで、癖の強いホグワーツの教師の中ではマトモである。
と、思っていた時期が私にもありました。
「決闘は、マナーさえ守ればいいです。血で血を洗う戦いを楽しみにしています」
敬語口調でも隠せない、戦闘狂のにおいがした。
おい、教師としてどうなんだ。
「最後に模擬戦をやってもらいます。そうですねぇ、二対二で対決しましょうか。呪文は、エクスペリアームスのみで」
実際には一対一だが、ルールとマナーを確認し合えるように人数は多めだ。
エマが辺りを見回す。
「どうする?ジェームズたちはあの4人で組むだろうし⋯⋯」
「そうねぇ⋯⋯あ、この二人でいいんじゃない」
私は近くにいた下級生に声をかけた。二人の男子生徒だ。レイブンクロー所属で、真面目そうだった。
「見知らぬグリフィンドール生だけどごめんね。組んでくれる?」
「ありがとうございます!レイブンクローの人が少なくて困っていたので」
片方が頭を下げる。とんでもないイケメンだ。べ、別に顔が良いから話しかけたわけじゃないわよ!
私とエマは名を名乗った。
「あなたたちは?」
「あ、僕はジョン・ドモブです。こいつは⋯⋯」
物凄くモブキャラみたいな男の子は、横のイケメンを見た。
目と目が合う。
「──ギルデロイ・ロックハートです。宜しくお願いします、先輩!」
未来の詐欺師だった。
「何でここにいるの!?」
「え?それは⋯⋯ホグワーツの生徒だから⋯⋯?」
何を聞いてんだ?とでも言いたそうなロックハート。
エマが私の肩を掴んだ。
「当たり前でしょ、リリー?」
それはそうだ。私は慌てて「ああ、ごめん。気にしないで」と取り繕った。
しかし、ロックハートか⋯⋯。年齢的に親世代に入るのか、知らなかった。
ロックハートと言えば、忘却魔法。それを極めすぎて、ほかの魔法が下手くそなんだっけ?あれ、じゃあ今はどうなんだ?
悶々としながら、私たちは向かい合った。
ぎこちない下級生に、エマが優しく言う。
「よし、まずは一礼だね。それから杖を構える」
それから、カウントする。
「一、ニ、三──」
「「「「エクスペリアームス!」」」」
四人の声が重なった。
エマはドモブ、私はロックハートを狙った。
私の魔法がロックハートに刺さる前に、私の杖が吹っ飛んだ。
「え⋯⋯」
私は呆然と、空っぽの杖腕を見た。
私に武装解除魔法を使ったのは、ロックハートである。
信じがたい光景だった。
──あのロックハートに、負けただと?
「あちゃー、流石先輩ですね。先に取られてしまいました」
「えへへ、嬉しいな」
エマとドモブの会話が、遠い。
ロックハートが私の杖を拾ってくれた。
「どうぞ、先輩」
「あ、ありがとう。⋯⋯ロックハート、凄いわね」
「ありがとうございます」
感嘆を漏らすと、ロックハートは前髪を払ってカッコつけた。ナルシストを感じる。ここは原作と同じなんだ⋯⋯。
私はスゥー⋯⋯と空気を吸った。
いや、強くね?
ぶっちゃけ舐めてたわ。こいつ、こんなにもできる奴だったんかい!じゃあどうして未来ではあんなに無能になってしまったんだ!
ドモブがロックハートの背中を叩く。
「こいつは同学年の中でも優秀で。スリザリン生に襲われても返り討ちにできるくらいなんですよ」
「まぁ、私なら目を瞑っていても倒せますがね!」
「──性格はともかく、強いんですよ」
強すぎるンゴ。
私の中に、競争心が芽生えた。
「エマ⋯⋯私、これから頑張るわ」
「え、そ、そう⋯⋯」
こんな詐欺師に負けてられない!
決闘クラブ初回が終わると、すぐさまジェームズが私の肩を抱いた。
「おお、僕の天使リリー!見ていたよ、年下イケメンに声をかけていたところを。妬けるね」
「あ、そういうの結構です」
「うーん、塩!」
腕を捻り上げると、嬉しそうに悶えるジェームズ。絵面はともかく、この人実践がかなり得意なのよねぇ⋯⋯。ま、それは他の悪戯仕掛人にも言えるけど。
「強くなりたいんだって、リリー。リーマス、一緒に練習しない?」
エマが練習会に誘うと、リーマスは「勿論」と頷いた。人狼という秘密を明かしたことで、親密度が上がった気がするわね。
私は腕を組んだ。
「でもリーマスがいるってことは、もれなくジェームズもでしょ?それはちょっと⋯⋯」
「言うねぇ、リリー」
シリウスが肩で笑った。
手を握ろうとしてくるジェームズを押しのけながら、私はため息をついた。
仕方ないか、私は強くならないといけないしね。
ロックハートに負けるなんて屈辱だし、あとはダンブルドアに認めてもらわないと⋯⋯。
⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯って、私は何を言っているんだ?今ダンブルドアのことは関係ないのに⋯⋯。あれ⋯⋯?
妙に頭がぼんやりする。そのままの状態で、私は「宜しく、リーマス」と挨拶をした。
リリーの中にある、『分霊箱に関する』記憶が失われました。
どの程度知識が抜けたのかは、おいおい書いていきます。