決闘クラブの試合は、学年ごとに分かれて行う。
たまたま出会ったドモブに誘われて、私たちはロックハートの試合を観戦することになった。
ロックハートは防御もなしに呪文を連続して放つ。
圧勝だった。
「魔法
思わず呟くと、隣のジェームズが、「僕だって速いよ!」と対抗意識を見せてきた。確かにジェームズの魔法のセンスには光るものがあるけど、自分で言うと台無しだなぁ⋯⋯。
ロックハートはお辞儀をしてから、投げキッスのファンサをした。女子の黄色い歓声が響き渡る。何これ、ライブ会場?
「いやぁ、疲れましたね」
決闘場を出て、ドモブが確保しておいた観客席にロックハートが座る。それからこちらを見て、「あ、先輩方も来ていたんですね!」と顔を明るくした。
「お疲れ、ロックハート。すごい人気ね」
「そうでしょう、何せこの私ですから。ホグワーツ中を魅了してしまいました」
「⋯⋯」
反応に困っていると、シリウスがチッチッチと指をふった。
「いいや無駄だぜ?後日俺が魅了し返しちまうからな」
「自信満々ですね⋯⋯大丈夫ですか?」
「おい舐めんな」
シリウスとロックハートの間に、火花が散る。
ロックハートが髪をかき上げた。
「付き合った女の子のことも満足させられないのに?聞いてますよ、あなたの元カノ、リサから」
「んなっ!?あいつ、お前のとこに行ったのかよ⋯⋯」
「リサだけじゃありませんよ。ラベンダーやシャーロットも」
衝撃の事実。シリウスの元カノはロックハートに流れ着いていた。面食いすぎるだろ。
ここでシリウスが攻撃に回る。
「お前の短いホグワーツ生活の中で、すでに三人とも付き合ってんのか?それって一人当たりの時間は短い⋯⋯つまり、すぐに別れてる。だったら、俺にとやかく言う権利はないだろ!」
「ぐはっ!」
ロックハートは吐血した。事実らしい。が、すぐに立ち直る。
「逆に考えてください。三人⋯⋯いえ、リサとはまだ付き合っているので、元カノは二人だけです。あなたは何人ですか?」
「今までに付き合った彼女の数を覚えてるわけないだろ。お前は今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?」
誰かコイツを刺してくれ!!
流石のリーマスも、これには憤慨。
「シリウス最低。もっと彼女を大事にしないと」
「違うぞリーマス。付き合ってる時はちゃんとしてた。そう、俺だけの姫のように。夢も見せてあげたし」
ホストか?
シリウスがにやっと笑った。
「よし決めた。ロックハート、お前からリサを奪ってやんよ。そしてお前の元カノカウントを増やしてやる」
「倫理観ゼロの遊びやめて」
私の言葉には、聞く耳を持たなかった。
後日、シリウスとリサは熱いキスを交わした。ロックハートはショックを受け、それから彼女を作ることは無くなった。
「まぁ、なんというか⋯⋯元気出して?」
気遣いの塊・リーマスに背中を撫でられるも、ロックハートはめちゃくちゃ沈んでいる。
「なんでですか⋯⋯。顔の良さなら負けてないのに⋯⋯。むしろ美しすぎるまであるのに⋯⋯」
「コイツうぜぇ」
「リリー、シレンシオだよ」
ぽろっと本音が漏れて、リーマスに咎められた。すんません。
しょうがないので、先輩であるこの私が人肌脱ごうじゃないの。
「ちょっとナイフを持ってシリウスのところに行ってくる」
「え」
「そんで『私とは遊びだったのね!』とか叫ぶわ」
「本当にやめて」
まともな倫理観を持ったリーマスは顔を顰めた。だが私は止まらない!あいつは女の敵!成敗してくれよう!
羽ペンをナイフに変える。
「やめるんだリリー!犯罪に手を染めちゃダメだ!」
「止めないで。これは正義のため(?)なのよ!」
リーマスと揉み合っていたら、通り過ぎる人々が「痴情のもつれ?」とかなんとか呟いてた。私がナイフを握っているからだろう。
リーマスがナイフを奪おうともがく。それに抵抗した私の手から、ナイフがすっぽ抜けた。
「え」
「あ」
綺麗に直進するナイフ。
それは、吸い込まれるように騎士の絵画に突き刺さった。
「ああああぁぁぁぁ⋯⋯」
断末魔を上げ、絵の中の騎士は死んだ。
あいつは⋯⋯いい奴だったよ⋯⋯(遠い目)。
尚この後、普通に罰則を食らったし絵画は元に戻りました。
*****
六年生の試合も、もうじき始まる。
私たちは必要の部屋で、呪文の練習をしていた(尚、シリウスはデート中)。
色々試してみた結果、私の得意呪文は全身金縛り術と粉砕ということが分かった。
ジェームズが首を傾げる。
「おかしいな⋯⋯前までは『エイビス』が得意だったのに。鳥と戯れる君も最高にキュートだった」
「きも⋯⋯」
何でリリーの得意な魔法まで把握しているんだ。
エマが、私とジェームズを交互に見て言う。
「リリーの攻撃的な面が強くなったからじゃない?」
「つまりリリーはドSになった⋯⋯ってコト!?」
もうやだこの変態。アズカバンにぶち込も。
私はそそくさと、ピーターの後ろに隠れた。貴重な癒やし枠ですからね。
「え⋯⋯あ⋯⋯」
おろおろと私を見るピーター。こんな小動物みたいな子が、将来あんな薄汚れたおっさんになるなんて信じられなかった。
うん、守ろ。
「ピーター、私があなたを守るわ」
「え⋯⋯ありがと⋯⋯?」
「は??ピーターずるい」
「黙れ変態。ピーターは可愛いけど、あなたは違うでしょ」
「かわいくないとだめですか?」
歌のタイトルみたいなことを言ったジェームズは、はっとしたように手を叩いた。
「そうだ、僕だって可愛くなれるよ♡」
「え?」
瞬間、ジェームズの体が歪んだ。
「え、何してるのこれは」
「あー⋯⋯」
何かを知ってそうなリーマスが、ため息をついた。
瞬きした瞬間、ジェームズは
あ間違えた。
鹿になっていた。
「ええええええ〜〜〜!?」
いきなり現れた鹿に困惑するエマ。対照的に、私は合点がいった。そういえば、動物もどきだったわね。
ジェームズ鹿は、「どう、可愛いでしょ?」とでも言うように鼻を鳴らした。それから、私にすりすりと身を寄せてくる。
ぞわぞわする。
私は無詠唱で、全身金縛り術を放った。
「あ成功したわ」
「え、無言呪文!?」
ピーターが大声を上げた。どうやら命の危機(笑)を感じると、私でも無言呪文ができるらしい。
修学旅行で行った奈良で、ガイドに注意されたことを思い出した。
「鹿に不用意に触っては危険よ。ノミやダニがいるから。⋯⋯フィニート」
「え!」
不安そうに自分の体を確認するリーマス。そんな彼に、「いやそこまで再現しないよ!?」と、魔法が解けたジェームズが叫んだ。多分、狼状態のリーマスと鹿のジェームズは触れ合うこともあったのだろう。「触れ合う⋯⋯なんだか意味深だね。捗る」と真顔でほざくカプ厨エマは無視した。
「全く失礼しちゃう」
ジェームズはプリプリ怒った。微塵も可愛くなかった。
「動物もどきでノミまで付いてくるわけないでしょ」
「マ?それが魔法の限界か⋯⋯」
「変なこと言わないでよ⋯⋯あー、何だか体が痒くなってきた。リリー、背中掻いて♡」
「あなたの頭にエピスキーしたら治るかしら」
「これが平常ジェームズさ、キラーン」
ジェームズのキモさが満ちている。何だろう、今なら最高速度で魔法を放てそう。
「よしジェームズ。私と模擬戦やりましょ」
「り、リリーに向かって魔法を⋯⋯?それは僕のポリシーに反する!」
「だったら練習にならないでしょーが!!」
何だこいつ。何の為にここに来たんだ。
仕方がないので、リーマスにお願いする。すぐに了承してくれた。やっぱり、ナイフを振り翳して争ったお陰かな。
まずは一礼。それから三つ数えて。
「エクスペリアームス!」
「プロテゴ」
リーマスは冷静に盾を展開した。が、すでに私は次の魔法を撃っている。
──ペトリフィカス・トタルス。
相手をジェームズだと思えば、良い感じに魔力が乗って無言呪文が成功しやすい気がする。
「っ!」
何とか避けるリーマス。それから、ステップを踏みながら「ステューピファイ!」と唱えた。リーマスのこの動き⋯⋯『レレレ撃ち』のステップだ。FPSでもやっていらっしゃる?
「レダクト!」
リーマスの足元が、不安定になる。すかさず「エクスペリアームス」でトドメを刺した。
リーマスの杖が、宙を舞った。
「いやぁ、強いね」
「練習の成果が出たわ」
私はリーマスに杖を返した。それから、大きく伸びをした。
いいですね、こういうのが魔法って感じですよ!!ここから、私が無双しまくる展開が始まるんですね⋯⋯!
「流石リリーだね!」
「ああ、ジェームズ⋯⋯そりゃどうも」
適当に頭を下げると、ジェームズははぁ、と艶めいた吐息を漏らした。
「不思議だな。ずっと前と同じ君を見てるのに、少し前からまるで遠くに見える」
「オクジー?」
「誰よその男!」
やかましいわ。
だが、流石ジェームズ。リリーへの一途さは確かなものらしい。
今の『私』は、純然たるリリーではない。あくまで転生者で、少し前に前世の記憶を取り戻した、不可思議な存在。
人格にも少しばかり変化が訪れていること。彼はそれに気付いているのだ。これが『
ジェームズは徐に杖を握りしめた。
「ちょっとピーター。一回さ、僕とエクスペリアームスを撃ち合って勝負しよ」
「え⋯⋯い、いいよ⋯⋯」
二人は突如として模擬戦を始めた。結果は予想通り、ジェームズの勝ち。
「ね、リリー。今の僕の魔法、どうだった?」
「えぇ⋯⋯どうだったって⋯⋯曖昧な質問ね」
「じゃあ、速さで言ってくれる?」
「まぁ、速かったわね」
対戦相手がピーターということもあって、相対的に速く見えた。ま、まさかその効果を狙ってピーターを踏み台にしたんじゃ⋯⋯。ジェームズ、サイテー。
というのは置いておいて。
光線の届く速さは、ロックハートよりも優れていたように思う。これは素直に凄い。
しかし、ジェームズは一体何の目的でこんなことをし始めたのか。私は黙って彼を見た。
ジェームズは真剣な顔付きだった。
「──今から、リリーの心を動かす」
⋯⋯ん?
理解が追いつかない私に問いかけるジェームズ。
「リリーは、魔法の速度が速いと格好いいって思うよね?」
「ええ⋯⋯」
「そして僕の魔法は、速い方だよね?」
「そうね⋯⋯」
何を言いたいのか、ようやく理解した。
「つまり僕は格好いいよね!!」
「ゴミみたいな三段論法やめろ」
私はジェームズのつま先を思い切り踏み付けた。